著者
中野 綾子
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、学徒兵の戦場での読書行為の様相を、実証的かつ総合的に明らかにしていくことで、アジア・太平洋戦争以降、読書の枠組みがどのように組み替えられ、または固定化されてきたのかという、読書行為の認識そのものを問うことを目的としている。本年度は以下のような研究を実施した。昨年度に引き続き、戦時下学生の読書関係資料の収集、調査を継続した。その中で、文部省と日本出版文化協会による良書推薦制度についての分析を行った。その成果は、20世紀メディア研究所発行『Intelligence』に掲載予定である。また、入手困難とされていた雑誌『新若人』(旺文社)の学生向け読書関連記事についての考察を行うことで、戦時下の学生の読書に対する意識変化を明らかにした。その成果は「雑誌「新若人」について 付・「学徒は如何なるものを読む可きか」アンケート結果一覧」として、『リテラシー史研究』(8)に掲載されている。また、昨年度の高知大学に所蔵される木村久夫の蔵書調査から判明した、戦時下の木村久夫の読書状況について、『東京新聞』(夕刊)に寄稿した。当該年度は、戦場における学徒兵(知識階級層)の読書についての考察のため、『兵隊』や『陣中倶楽部』などの戦場に流通していた雑誌について分析を行った。中国大陸における代表的二誌の読者層を明らかにし、その成果については日本出版協会発行『出版研究』に掲載予定である。さらに、当該年度は戦後の「戦場における読書」に関する表現の分析にも着手した。『きけ わだつみのこえ』収録の手記に掲載されている読書状況をはじめ、大西巨人『神聖喜劇』などテクストに記された戦場での読書の分析を進めることが出来た。その成果については、学会誌に投稿予定である。
著者
岩谷 一史
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

本研究は炎症性腸疾患での血中亜鉛濃度低下の原因を明らかにすることによって、食事亜鉛を利用した腸炎緩和および予防へとつなげる研究基盤を確立することを目的とした。腸炎での血中亜鉛濃度の低下は、摂食量の低下に伴う亜鉛摂取量の減少や吸収不良が考えられるが、詳細な機構は不明であり、その他因子の影響も考えられる。亜鉛濃度の変動と大腸炎発症の関連も明らかにされていない。デキストラン硫酸ナトリウムによって実験的に大腸炎を誘導した動物モデルにおいて、体内での亜鉛レベルを制御している亜鉛輸送体(ZntおよびZipファミリー)発現に着目し、十二指腸、空腸、回腸、結腸といった消化管でのmRNA発現解析をした結果、一部の亜鉛輸送体が変動することが明らかになった。また、その他臓器における亜鉛含量が特徴的に変動していることが明らかになった。このことは腸疾患発症に伴い、臓器選択的に亜鉛要求性が変化した可能性を示唆しており、このことが腸疾患における血中亜鉛濃度の低下に寄与すると推察される。さらに、マクロファージ様細胞株を用いた実験において、細胞外部環境の亜鉛濃度がリポポリサッカライドへの刺激応答性および亜鉛輸送体発現に影響を及ぼすことが明らかとなった。この時、細胞内亜鉛レベルの変動も観察された。このことから、免疫細胞を取り巻く微小環境の亜鉛濃度は免疫細胞の機能性に重要な影響を与えていると考えられ、炎症性腸疾患での亜鉛の重要性が推察される。
著者
永岡 崇
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

アジア・太平洋戦争において、天理教の信徒たちが行ったひのきしんがもつ意義を、帝国日本というより大きな文脈に位置づけなおすため、1940年代前半の代表的ひのきしん論である諸井慶徳『ひのきしん叙説』と、帝国日本による「聖戦」の教義を端的に示すと思われ、天理教のひのきしん隊も多数参加した橿原神宮神域拡張事業において語られた言説との比較を試みた。天理教信徒にとって、「聖戦」の教義はひのきしんの教義と深いところで響きあっており、前者を後者に手繰り寄せる形で総力戦の遂行を主体的に担っていったと思われる。また、「聖戦」の教義がひのきしんのような宗教思想・信仰と親縁性を有し、それへの読み替えを通じて実践されたことを明らかにし、アジア・太平洋戦争の宗教戦争としての性格を改めて見直し、その宗教性の受け皿となった宗教教団や社会集団の思想・実践との比較を行うとともに、それらとの接触の様相を分析していく必要性を提起した。これまで遂行してきた作業によって、戦後の宗教教団にとって非本来的で否定的なものとしてのみとらえられがちであったアジア・太平洋戦争期の経験を、現代の教団、またその教義や信仰のあり方を構成する重要な要素として位置づけ、負の側面へと深化していく宗教性のありようを積極的にとらえる歴史-宗教学的考察の領域を切り開くことができた。
著者
木口 学 (2012) 榎 敏明 (2010-2011) RAJEEV KUMAR Vattakattu Ramacrishnan RAJEEVKUMAR VattakattuRamacrishnan ラジーブ・クマール バッタカツ・ラマクリシュナン
出版者
東京工業大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

酸化活性炭素繊維(ACFs)の磁化率、磁化を測定し、磁性の評価、NEXAFSの実験から磁性の起源となるFermi準位付近に存在する非結合電子状態の解析を行った。NEXAFSのスペクトルでは、ACFsを酸化して行くと次第にがバンドとエッジ状態の寄与は減少し、代わって、新たな非結合電子状態が発生し、この酸素誘起の状態は酸化の進行により強度を増して行く。π*バンドの酸化による減少は、酸化によりπ共役系がナノグラフェン内部まで破壊されて行くことを示唆しており、エッジ状態の減少もこのことによってもたらされている。代わって形成される酸素誘起の非結合電子状態は、グラフェン面の共役系が破壊され、酸素誘起の欠陥がグラフェン面に形成された結果、酸素誘起の欠陥領域に生じる非結合状態と理解される。未酸化ACFsでは、測定された磁化過程はS=1/2の挙動で基本的には記述され、スピン間相互作用は小さく、エッジ状態スピンは互いに独立に振舞う挙動を示している。酸化が進行すると磁化過程はS=1/2の挙動からずれだし、次第にS=3/2の挙動の近くなって行く。酸化ACFsにおいては前述のように磁性を担うスピンは酸素誘起の非結合状態に存在するスピンであり、S=3/2に近い磁化過程の挙動は酸素誘起の局在スピンが互いに強磁性相互作用により結合をしていること理解される。内部磁場がACFs試料中でGauss分布をするものと仮定してフィッティングを行った結果、最も酸化の進んだACFs(0/C=0.6)では、内部磁場は反強磁性(負領域)から強磁性(正領域)に渡って分布していることが見出された。また、内部磁場の平均値は強磁性α=2830 Oe.emu^<-1>.g.と見積もられた。
著者
張 子見
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

今年度は、当初から研究計画であった、福島第一原子力事故由来のホットパーティクル(HP)の破壊分析に史上はじめて成功した。帰宅困難区域で採取された環境試料から、オートラジオグラフィーによって強放射能源の位置を特定し、最終的に顕微鏡下でHP粒子を取り出した。単離されたHPを、高純度ゲルマニウム半導体検出器で測定し、HPに含まれる放射性セシウムを定量した。この放射能測定の結果から、Cs-134/Cs-137放射能比が得られる。この放射能比は、福島第一原子力発電所の原子炉ごとに異なる値をとるため、それらの値との比較から、今回採取されたHPがすべて一号機から放出されたことが推測できた。アルカリ溶融法によってHPを溶液化したのち、固相抽出―イオン交換法によってSr-90を分離した。分離されたSr-90を含む溶液をチェレンコフ光測定することで、Sr-90の放射能を定量した。これまで、計6つのHPに対して上記のSr-90分析を行った。HPに含まれるSr-90は最大で1.3 Bqであった。また、Sr-90/Cs-137放射能比は、すべて0.0001のオーダーであった。これらの結果から、今回分析対象としたHPのSr-90の含有量は低く、Sr-90による人体への被ばく影響はCs-137に比べて無視できると言える。この傾向は、事故後に行われた大規模な陸域の調査からも知られている。一般的に、原子炉過酷事故において、Csは、核燃料から放出されやすい揮発元素として知られており、Srは、比較的放出されにくい非揮発性核種として知られている。定性的にいえば、SrはCsに比べて核燃料からの放出率が低いために、最終的に環境中に放出された放射性物質のSr-90/Cs-137放射能比は低い傾向にある。これら成果は、測定試料の公開手続きを経て、随時論文化して発表する予定である。
著者
佐藤 佳亮
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本年度は、オキシトシン受容体(OXTR)の担う機能のうち、母性行動・社会識別行動・体温調節を制御する脳領域を明らかにすることを目的とした。その実現のため、Oxtr-floxedマウスとAAV-Creベクターにより脳領域特異的なOXTR欠損マウスを作成後、各試験に供し、表現型を観察した。この結果、昨年までのOxtr欠損マウスとAAV-Oxtrベクターを用いた研究と合わせ、生理機能や社会行動を制御するOXTRが発現する脳領域を明らかにした。さらに、より限定的な、ニューロン種特異的な可視化・活性化/抑制化のため、Cre組換え酵素依存的に導入遺伝子が発現する実験系を構築した。特に、オプトジェネティクスによるニューロンの活性化を可能とする、Cre依存的チャネルロドプシン発現AAVベクターを作製し、実用化にこぎつけた。現在当研究室で開発中のOxtr-Creマウスと組み合わせて使用することで、OXTR発現ニューロン特異的な刺激が可能となった。以上の結果は、広範囲にわたって発現しているOXTRの脳領域特異的な機能を明らかにしたものであり、OXTRのより詳細な理解につながった。OXT/OXTRについては現在精神疾患の治療ターゲットの1つとして考えられており、脳領域特異的な機能を明らかにすることは、候補医薬品の作用メカニズム解明等にもつながる。また、オプトジェネティクスについては、OXTR発現ニューロンの刺激による行動制御の可能性につながる成果である。
著者
林 博貴
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究の目的は、超弦理論の真空を用いて現象論における問題を解明することである。その中でも特に、F理論のコンパクト化は四次元の超対称性大統一理論に出現する物質場と湯川結合を全て生成することができるため、現象論を議論する超弦理論の真空として非常に魅力的である。本年度はF理論を用いた超対称性大統一理論における陽子崩壊問題について議論した。超対称性を持った大統一理論は、繰りこみ可能な陽子崩壊を引き起こす演算子の存在が一般には許されてしまう。そこで、F理論を用いて大統一理論を構築した際にも、この項をなんらかの方法で禁止する必要がある。我々の研究以前まででよく用いられてきた方法は、あるゲージ群を大統一理論のゲージ群へ破る際に導入する随伴表現スカラー場の期待値を特殊に調節することによって、余分なU(1)対称性を低エネルギー理論に残すというものである。このU(1)対称性によって次元四の陽子崩壊演算子は禁止されると思われてきた。しかし、内部空間の構造をよく調べるとこの期待値が発散し、ゲージ理論の近似が悪くなる場所があり、そこを考えてもU(1)対称性が残るかは自明ではない。そこで、我々は期待値が発散する場所も含めたF理論の内部空間全体を詳細に解析することで、生成されると思われてきたU(1)対称性が実際には破れていることを示した。さらにその元で、次元四の陽子崩壊演算子が生成されることをも明らかにした。我々の研究によって初めて、ゲージ理論の枠内を越えた寄与が物理的帰結を与えることが示され、F理論の内部空間全体の構造も重要であることが認識された。
著者
前田 太郎
出版者
東京海洋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

嚢舌目ウミウシは、餌海藻の葉緑体を細胞内に取り込み光合成を行わせる(機能的盗葉緑体現象)。今までは嚢舌目Volvatellidae科が、盗葉緑体現象が獲得される前の祖先的な形質状態を残すグループと考えられてきたが、今回、嚢舌目内の分子系統解析により、嚢舌目の分化と同時に盗葉緑体現象が獲得され、その後Volvatellidae科内で失われたことを示した。これにより、盗葉緑体を獲得する以前の祖先種の生活史や形態の見直しを行い、盗葉緑体というユニークな現象の進化を、信頼できる系統関係から考察することができるようになった。さらに、嚢舌目ウミウシの内、盗葉緑体の光合成能保持期間が最も長い(約10ヶ月)チドリミドリガイ(Plakobranchus ocellatus)について、葉緑体DNA上にコードされるrbcL遺伝子を標的としたクローンシーケンシング解析とt-RFLP解析により、1,単一のチドリミドリガイ個体が、8種の藻類(嚢舌目ウミウシの中では最も多い)に由来する葉緑体を保持すること、2,8ヶ月間に渡り、経時的に、野外個体内の葉緑体組成を計測したところ、組成が月ごとに大きく変化することが示された、今まで、チドリミドリガイは機能的盗葉緑体に強く依存し、幼体期に摂食をして葉緑体を得た後は、摂食を行わないと考えられてきたが、もし野外で摂食が希ならば、葉緑体組成は変化せず、月間で同じような組成を示すはずなので、この結果は、野外でチドリミドリガイが頻繁に摂食を行い、葉緑体を補充していることを示している。このことから、野外の個体は、光合成のみに依存せず、海藻の摂食からも栄養を得ていることが示唆された。これは、機能的盗葉緑体を行う種の、野外での栄養取得状況を初めて確度高く推定したものである。
著者
中瀬 悠太
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

ネジレバネの中で最も多様化しており宿主の情報も揃っているグループであるハナバチネジレバネについて、日本産種を中心に、ヒメハナバチに寄生するStylops属のネジレバネとコハナバチに寄生するHalictoxenos属とEustylops属のネジレバネについて分子系統解析を行った。その結果、liハナバチネジレバネ属とヒメハナバチネジレバネ属それぞれの単系統性が強く支持され、それぞれの系統上で多様化が独立に進行したことが明らかになった。また、分子と形態双方の情報よりネジレバネの新しい種の概念を提示し、コハナバチネジレパネ属は単独性コハナバチよりも真社会性コハナバチをより高い確率で宿主としており、しかも宿主特異性がきわめて高いことを示した。また、ネジレバネによる宿主の訪花行動の操作を検出するために、本研究では寄生されたハナバチの変化と訪花植物の送粉者への報酬に注目し、調査を行った。ネジレバネに寄生されたハナバチは生殖能力を失い営巣しなくなるため、幼虫の餌として花粉を集める必要がなくなり花粉に対する需要が変化する。またエゾアジサイはハナバチを中心に様々な昆虫が訪花するが、花粉のみを送粉者への報酬として提供しており、蜜を出さない。花蜜と花粉を出すトリアシショウマと、花粉のみを出すエゾアジサイが同時期に同所的に開花している場所で、どちらの花にも頻繁に訪花し、かつネジレバネの寄生がみられたニジイロコハナバチに特に注目し、7月に長野県小谷村周辺で調査を行った。ネジレバネに寄生されたハナバチは通常のハナバチと同様にエゾアジサイの花に訪花するが、花の上での行動は変化しており、寄生されたハチは花の上で採餌も集粉も行なわずネジレバネの1齢幼虫を放出するような行動を行なっていることを明らかにした。これらの研究成果は宿主とネジレバネの寄生系の実体の解明につながる重要なものである
著者
手嶋 泰伸
出版者
東北学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本研究の目的は、現在まで本格的な分析の行われてこなかった戦間期における日本海軍の政治史的動向と役割を、特に陸海軍関係に着目することで解明し、戦間期の政治史研究の深化に実証的な貢献をなすことである。平成24年度においては、ワシントン海軍軍縮期・ジュネーブ海軍軍縮期の分析を行い、防衛省防衛研究所図書館・国立国会図書館憲政資料室を中心に、戦前期陸海軍の関係文書を調査した結果、以下の点が明らかになった。また、平成25年に行う予定であった海軍の南進論を中心とした戦略思考の再検討も行うことが出来たため、それについても以下で記述する。(1)ワシントン海軍軍縮会議と海軍軍部大臣武官専任制が改定されなかった最大の原因は、海軍にあったと結論することが出来た。(2)ジュネーブ海軍軍縮会議と海軍財部彪がジュネーブ会議時に全権就任をかたくなに拒否しつつも、ロンドン会議時に全権就任を承認するようになるには、時々の利害観測により、海軍へ有利な状況を作り出そうとする政治的意図があったことが判明した。(3)南進論を中心とした海軍の戦略思考の再検討南洋群島開発政策の政治過程の中で、海軍の政治的影響力は強かったものの、その関与は限定的な時期もあったことが確認され、とかく中堅層の急進的な南進論を重視してきた先行研究の見解には再考の余地があることが認められた。
著者
SIVILKA Juliann KHOMENKO Olga KHOMENKO OLGA
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

オリガ・ホメンコ(研究分担者)は6月12日から20日まで共同研究成果を米国のボストンで開催されたジェンダーと消費者行動学会で、日本におけるバレンタインの歴史・プレゼント交換の文化史について発表を行った。その際に米国の研究者と意見交換を行い、また、発表を雑誌論文にする計画を立てた。6月3日から9日までモスクワにあるロシア国立図書館で、ソ連崩壊後の消費文化構造の変化、商品広告の誕生についての広告資料の収集を行い,それらを分析して戦後日本の事情と比較した結果を10月に名古屋で行われたロシア・東欧学会で、「ソ連崩壊後のロシア消費構造と消費文化の変化と転回・戦後日本との共通点と違い」として発表した。その時に多くの日本のロシア研究者と意見交換でき、次の共同研究につながることを期待している。6月27日から29日に仙台で行われたカルチャラルタイフィン学会では「戦後日本人女性の自己実現・広告と現実の間」について発表した。その時に日本におけるカルチャラルスタディーズの重要な人物と面会でき、自らの研究について報告もできた。以上の研究活動の結果として、今年度四つの雑誌論文を投稿することができた。日経広告研究所が発行している「日経広告研究所報」の4月と5月号に「戦後の商品広告と女性アイデンティティー形成(上)-「もの」と「幸せ」の関係」(上・下)を投稿した。そしてウクライナ科学アカデミーが発行している「東洋の世界」に"Women's, western cosmetics, advertising and shaping of women's identity in Japan during 1950s"と東京大学出版会発行の『思想史』(2008年9月号)に「婦人雑誌の家電広告における女性像の変化について(50年代後から)-母親像から多様な女性像への変化-」を投稿した。
著者
横山 明彦 ATTAVIRIYANUPAP Pathom
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

欧米を中心とする世界各国において、電力自由化が進められており、その一環として競争的電力市場が創設されている。代表的な例としては、米国のPJM ISOやNY ISOのエネルギー市場。日本では2005年4月より電力自由化の一層の進展が始まり、日本卸電力取引所等が開設された。電力自由化においては、全国各地で新規参入が増えて地域間の電力取引が活発になると、これまでの電気の流れ(電力潮流)が大きく変化し、予測が難しくなる。地域によっては送電能力が不足して送電系統が混雑し、意図した電力取引ができなくなってしまう。電気料金が高くなる原因の一つと考えられる。現在NY ISO等がこのような問題で苦しんでいる。また、電力系統における設備に事故が起こった場合も停電が起こり易くなる。電力供給信頼性に影響を与えるものと懸念されている。「価格高騰」及び「供給信頼度」問題を解法するために、送電系統を拡充することが方法の一つと考えられる。しかしながら、送電線新設には多額のコストと時間がかかるため、投資者にはリスクがある。また場所がかかるため、重要な環境問題でもある。本研究では、「価格引き下げ」と「安定供給」を目指して、電力自由化における様々な送電系統拡充方法を分析し、最適な送電系統拡充方法を選択する。送電系統拡充方法としては、「送電線の新設」、「FACTS機器の投入」、「現在系統のまま」3つの方法がある。各方法においては様々な不確実性(需給計画、発電計画・運用、設備の事故等)の影響も考慮する。以上を検証するために、計算機シミュレーションのための数式モデルを作成し、シミュレーションを行い、結果分析を行った。
著者
川村 信三 DA SILVA EHALT ROMULO
出版者
上智大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2019-04-25

イエズス会の「良心例学」の過程における「奴隷問題」の位置とその解決につき、諸文書館の第一次史料における言及を確認することによって、当問題の取り組みの一つの歴史像をあらたに構築する。そのために原文書にアクセスすることを第一の課題として考えている。
著者
小澤 英実
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

アメリカ文化における「恐怖の表象」をフェミニズム理論から検証するという研究テーマに即し、本年度はバーミンガム大学で開催されたアメリカン・スタディーズ国際カンファレンスにて、ハリウッドのホラー映画に関する口頭発表を行い、同内容を論文として同学会ジャーナルに掲載した。本内容は、日本の恐怖映画のリメイク作品群を事例に、日米の文化的・地政学的な差異が諸作品と日米の観客に与えている影響を検証し、ホラー映画に登場する幽霊・モンスターの身体と、演劇・舞踊の身体との接合点を指摘したもので、身体を軸にジャンルを横断した表象研究の必然性を主張した。また本年度はとりわけ、身体がもっとも先鋭的に焦点化される舞台芸術の研究に力点を置き、サム・シェパードのゴシック演劇『埋められた子供』論を雑誌『アメリカ演劇』に、演劇における身体と映画や漫画における身体との比較・考察を雑誌『舞台芸術』に発表し、恐怖の表象研究の汎用可能性および文化研究の横断可能性を示したほか、東京国際演劇祭「アメリカ現代戯曲シリーズ」にて上演された女性の死とセクシュアリティをテーマとしたトリスタ・ボールドウィンの戯曲『DOE-雌鹿-』を翻訳し、現代アメリカ演劇ないしアメリカ社会の最新動向を紹介した。その他の口頭発表として、秋にバイセクシュアリティ研究の重要文献マジョリー・ガーバー『Vice Versa』の討論会に報告者のひとりとして出席し、フェミニズム/セクシュアリティ研究を巡る課題について討議を行った。
著者
蔦尾 和宏
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

本年度も『今鏡』『古事談』を中心に研究を行った。『今鏡』について述べれば、『今鏡』は一般的に「面白くない」作品として認知されている現状があり、各研究はこれを打破すべく論を積み上げてきたが、近代以降の享受者が「つまらない」と感じる側面もまた『今鏡』の個性に他ならないため、研究論文の命題設定としては異端であると理解しつつも、その「つまらなさ」の要因を「歌徳説話」という視座を中心に考察、それが史実の忠実な継承を望み、想像による創造に消極的な作品の性格に起因することを明らかにし、そのような性格が仏教の妄語戒への意識に由来することを指摘した。「「打聞」論」の内容は昨年の報告書に言及したのでこれを省く。『古事談』研究では、武士説話を集成した「勇士」について一文をものした。「勇士」の説話採録を支える視点が「殺生」に存したことを確認、さらに『古事談』が成立した時期には鎌倉幕府の成立がほぼ重なるが、「勇士」の説話構成には鎌倉幕府の開祖・頼朝の世系を辿ることが軸に据えられたことから、結果として「勇士」は、鎌倉将軍家が血にまみれた「武士」の系譜で結ばれていることを明らかにし、公卿にまで至った頼朝、頼家もその死に際から見れば、先祖たちと何ら変わらないことを『古事談』が暗に示そうとしたとの見通しを述べた。また、「「臣節」巻末話考」は、発表論文の標題からは「臣節」の巻に限って考察を施したように見えるが、内容は作品全体の世界認識を問うものである。『古事談』各巻の巻末話全てを取り上げ、それらが共通して、大団円を迎える結末に水をさす、なにがしかの要素を持ち合わせていることを指摘、そのような説話が巻頭話と対になって巻の顔となる巻末話に据えられたのは、人の世の事象は一面的なものでは決してなく、正の面があれば必ず負の面をも伴うのだとする『古事談』の世界観に立脚することを論じた。
著者
小島 渉
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

集団で生活するカブトムシの幼虫において、自分が作った蛹室が、近くにいる他個体に壊されてしまう可能性がある。前年度の研究から、蛹室に幼虫が近づいた時、蛹は回転運動により振動を発し、幼虫の接近を防ぐことが明らかとなった。今年度は、蛹の振動信号を受容した幼虫が、どのようなプロセスで蛹室から離れるのかを解析した。幼虫の行動を直接観察するのは困難なため、幼虫が地中を動くときに発する微弱なノイズを計測することで、幼虫の行動を評価した。その結果、蛹の振動を受容した幼虫は約10分間のフリーズ反応をおこすことがわかった。また、蛹の発する振動の成分中の低周波の成分が、幼虫にこのフリーズ反応を引き起こすことが明らかとなった。幼虫の天敵であるモグラの発する振動に対しても、幼虫はフリーズ反応を示したことから、振動に対する幼虫の反応は、モグラなどの捕食者に対する戦略が起源となっているのではないかと考え、種間比較を行った。蛹が振動を発しない近縁種のスジコガネ亜科とハナムグリ亜科の幼虫に対し、カブトムシの蛹の発する振動を与えたところ、カブトムシの幼虫と同じように、約10分間のフリーズ反応をおこした。つまり、ある振動に対してフリーズを起こすという幼虫の性質は、コガネムシのグループに古くから存在していた性質だと考えられる。カブトムシの蛹は、もともと幼虫が持っていた性質に便乗することで、振動信号を進化させた可能性が高い。本研究は、感覚便乗モデルの数少ない実証例であり、動物のコミュニケーションの進化を考える上で重要な発見である。
著者
橋本 剛
出版者
静岡大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

コンピュータ将棋の開発では探索と評価関数が大きな2本の柱であるが,評価関数は従来各駒の玉との相対位置を点数化した「相対評価」が主流であった.だが相対評価には悪手であるにもかかわらず玉が自分の駒に接近してしまうなど重大な副作用がある.本稿ではこのような副作用のない「絶対評価」をメインにして相対評価の使用を大幅に制限する評価関数TACOSYSTEMを提案し,その実装方法を具体的な例を用いて示す.TACOSYSTEMを実装した我々の将棋プログラムTACOSは第14回世界コンピュータ将棋選手権で決勝入りを果たすという好成績を収めた.ゲーム木探索にとって水平線効果は最も厄介な問題で,特に水平線効果が出やすいゲームではその対策が不可欠である.将棋など持ち駒を使用するゲームでは明らかに損と断言できる水平線効果の指し手が存在するが,これまでその対策が論じられたことはなく現在も将棋プログラムで頻繁にみられる現象である.これを「強度の水平線効果」の指し手と呼び,ゲーム木探索においてこれを完全に除去する方法「SHEK (Strong Horizon Effect Killer)」を提案した.SHEKでは探索中の局面同士で生じる強度の水平線効果はもちろん,ルート局面以前の過去の局面とで生じる強度の水平線効果も指し手の履歴さえあれば完全に除去することが出来るが,計算コストはほとんどかからない.SHEKの概念と実装方法を紹介したのち,千日手問題等に適用する方法も提案し,将棋プログラムに実装してその効果を実証していく.
著者
越野 剛
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

今年度は三年間の研究の成果をまとめ、社会に還元するようなかたちで総括的な仕事をいくつか行うことができた。北海道大学スラブ研究センターの主催した市民向け公開講座「拡大する東欧」の中で、チェルノブイリ原発事故について講演した。その内容については雑誌「しゃりばり」およびスラブ研究センターのホームページに掲載されている。これまでの研究で得た成果を用いながら、現代ベラルーシの国民形成にとってチェルノブイリ事故が大きな影響を及ぼしていることを説明している。チェルノブイリの医療支援に長年携わっている長崎医大の山下俊一先生のイニシアチブにより、ベラルーシの詩人リホール・バラドゥーリンの作品を翻訳することができた(『バラドゥーリン詩集:風に祈りを』越野剛訳、春風社、2007年)。バラドゥーリンはベラルーシの代表的な詩人の一人で、ノーベル文学賞候補としてベラルーシ作家同盟から推薦されたこともある。今回訳出した詩の多くにはチェルノブイリ原発事故や放射能の恐怖のもとで暮らす人々の生活が描かれている。2月には3週間のモスクワ出張を行い、国立図書館などで資料を収集した。チェルノブイリ原発事故だけではなく、災害の記憶と結びついて連想されるような歴史的事件にも関心を広げるように努めた。とりわけ第二次世界大戦とナポレオン戦争の記憶はロシア・ウクライナ・ベラルーシ地域の人々にとって重要な意味を持っており、今後の研究にもつなげていきたい。
著者
藤原 花 (鷲谷 花)
出版者
明治学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

今年度は主に関西方面のアーカイヴスでの資料調査を行い、京都文化資料館で、戦時期の南京親日政権の成立を題材とする「大東亜映画」の未映画化シナリオ(東宝、1943年頃)の所蔵を確認したほか、戦時期・占領期日本映画に関するいくつかの未公開資料を発掘した。資料調査の傍ら、青弓社より2012年に刊行予定の単著『戦争と《コスチュームプレイ》-《他者》を扮演する日本人-』(仮)の執筆準備を進めた。2011年2月12日にソウル・漢陽女子大学にて開催された韓国日本学会第82回学術大会にて口頭発表「日本戦争映画における「兵士の歌声」-『五人の斥候兵』から『ビルマの竪琴』まで-」。戦時期から戦後に至る日本の戦争映画における「合唱する日本兵」のイメージの反復について、戦時期から戦後にかけての国民歌運動との関連性を含めて論じた。また、2011年3月に米合衆国・ニューオーリンズで開催されたThe Society for Cinema and Media Studies 2011 Conferenceにて、パネル"Recycling the 'War Propaganda Apparatus' : Rethinking the (Dis-) Continuity of Wartime Film Genres in Japan"に参加、口頭発表"Soldiers in the Performing Arts' in Wartime and Postwar Japanese Cinema"。ここでは大戦期にルース・ベネディクトをはじめ米国戦時情報局調査等によって指摘された戦時期日本映画の「反戦的傾向」と、戦後日本の「反戦映画」との連続性を、日本の戦争映画に登場する兵士の「犠牲者としての英雄」像に注目しつつ論じた
著者
野原 将揮
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

平成24年度は前年度に引き続き戦国出土資料に見える通仮字の分析、〓東語の記述を行った。具体的には、(1)『清華大学蔵戦国竹簡』(以下清華簡と略称する)に見える通仮字の分析、(2)戦国時期の竹簡に見える舌音の再分類、(3)戦国出土資料に見える無声鼻音の再構、(4)〓東語福鼎店下方言の記述、以上の4点を中心に研究を進めた。(1)清華大学に所蔵される戦国期の竹簡は、その資料の特徴から、所謂「戦国楚簡」と称される竹簡とはやや異なる性格を有する(特に用字法の面で)。本研究では、上古中国語音韻体系から清華簡の通仮字(当て字の用法)に分析を加えた。その結果、『清華大学蔵戦国竹簡』の音韻体系はこれまでに再構された音韻体系とそれほど大きな違いが無いことが確認された。用字法の面では他の竹簡と差異がみられるが、音韻面では大きく異なるような通仮は多くない。(2)従来の研究成果(上古舌音のT-typeとL-typeの2類)を基礎に、新出土資料に見える字音について考察を加えた。いくつかの文字の字音はこれまで資料の制約により再構が困難であったが、新出土資料の出現によって明らかとなった(たとえば「潮」等は従来T-typeと再構されたが、L-typeである可能性が高い)。(3)そもそも上古中国語の研究では、研究対象とする時代を定めることが困難であるため、出土資料は音韻史にひとつの定点を与えるものとして重要視される。本研究は戦国時代中期~後期における無声鼻音について考察を加えたものである。結果、戦国期に無声鼻音が存在していたことを確認した。(4)上古中国語音韻体系の再構を進める上で、出土資料は貴重な資料であるが、明らかにできない点も少なくない。したがって古い要素を保存しているとされる〓語の記述も重要となる。本研究は前年度より継続してきた〓東語福鼎店下方言の記述を進めた。本年度は字音と語彙の記述を進めた。