著者
河西 瑛里子
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究では、1)スピリチュアリティという宗教的実践の身体経験によって生じた人生に対する価値観の変容に着目し、スピリチュアリティのもつ癒しの機能について明らかにし、2)癒しの視点から、スピリチュアリティという実践を宗教と医療の両領域から総合的に考察することを目的としている。最終的には、心療内科系疾患の患者に対して、スピリチュアルな身体経験を通じた癒しの可能性を提唱することを目指している。本年度は以下のような活動を行った。1、研究成果の発表2008年度に実施した宗教的実践としてのスピリチュアリティに関する現地調査の結果を2本の論文にまとめ、出版された。さらに、現代英国におけるスピリチュアリティの実践について、日本文化人類学会で報告した。2、英国グラストンベリーでのフィールドワーク・2009年4月~5月:公的な医療制度の中でのスピリチュアリティの実践の調査のため、公的な医療従事者へのインタビューと、チャプレンなど病院における宗教的活動の実践に関して、観察を行った。・2009年6月:英国人のスピリチュアリティについてよりよく理解するため、英国の一般的な日常生活に関する調査を行った。具体的には、銀行・郵便局・定期市のしくみやサービスの種類、庭づくりに関する考え方などを調査した。・2009年7月~8月(科学研究費補助金使用):当地でおこなわれたヒーリング・ワークショップにおいて、参加者に対してスピリチュアリティ体験のインタビューと参与観察を行った。ヒーリング関係の雑誌の調査をおこなった。・2009年8月~:コミュニティと癒しについて探るため、二つの宗教的なグループ及び夏に参加したヒーリング・ワークショップの定期的な集まりに継続的に参加し、そこで交わされる会話について参与観察をおこなっている。また、文化人類学等の基本文献の精読、図書館において当地の歴史的資料の収集も実施している。また、調査を行いながら、データの整理と分析も同時に進めている。
著者
伊東 剛史
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

文化の制度化を論じるにあたり重要な課題は、多種多様な人々が文化的な体験や科学知識をいかに解釈し、それが彼らの社会生活のなかでどんな意味を持ったのかを理解することである。具体的に、今年度は、人工的に構築された動物園の「自然」が、どのように文化的な資源として整備され、利用されたのかを分析し、その成果を積極的に国内外で発表してきた。まず、動物の収集活動がイギリス帝国のネットワークに依存していたことを明らかにする一方、動物園を帝国的な制度として一面的に分析する研究を批判した。近年、帝国史研究に関連して、動物園は植民地を「他者」として差異化したり、植民地支配を正当化したりする帝国的制度であると論じる研究がある。しかし、申請者は、見物客の日記などの一次史料を体系的に分析し、このような解釈は還元論的であり、動物園のもつ多面性を捉えることはできないと主張した。さらに帝国のイデオロギーよりも、自然神学的な世界観の方が影響力を持っていたことを明らかにした。「自然」の状態に置かれた動物を観察することで、それぞれの種固有の特徴が理解され、創造主に対する畏敬の念とともに、理性の力が高まると考えられたのである。こうした教育理念は、動物学者、教育家、教師らが作成した教科書や参考書によって具体化し、広められた。しかし、当時の子供の日記や手紙からは、彼らが与えられた知識を自由に活用しながら、子供独自の様々な楽しみを生み出し、自然を理解していたことがわかった。これは、動物園の教育理念が失敗に終わったということではなく、むしろ、動物園が文化的制度として整備され、様々な目的のために利用されるようになったことを示している。また、動物園を介して科学知識が日常生活に組み込まれていく過程には、科学者だけでなく、様々な人々の主体的な関わりがあったことも明らかにした。
著者
野町 素己
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本年度は、昨年まで行ってきた研究理論および研究材料の収集から、具体的な言語材料や言語研究を基にした記述・分析を行い、まとめる段階に入った。具体的には、主に(1)カシュブ語研究、(2)スロヴェニア語研究、(3)ブルゲンラシド・クロアチア語研究を行ったが、中でも広い意味での「所有文」からの派生構文としての「間接受動文」の類型的研究において成果を挙げた。当該構文の研究は、上記3言語において、これまで記述・分析が全く行われていなかった部分なので、個々の言語研究への貢献と同時に、スラヴ語類型論への貢献になったといえる。この成果は、3月末に行われるロシアおよびイギリスの国際学会で発表される。また、これまでの研究成果を踏まえて、新刊のロシア語文法書への書評論文(Russkijjazyk za rubezhom 210,No.5,pp.98-101)、アレクサンデル・ラブダによる未刊のカシュブ語文法の紹介と批評も行った(2009年1月10日の地域研究コンソーシアム次世代ワークショップにて)。その他、本研究の国際的な意義についても述べる必要がある。本年度の成果を出すにあたり交流を続けできた海外の研究者(アメリカ、デンマーク、ポーランド、オーストリア、セルビア、クロアチア、マケドニアなど)とともに、ICCEES(International Council for Central and East European Studies)の全国大会に向けて、パネル組織を視野に入れた共同研究を進めており、個人研究から国際共同研究という新たな段階に進んでいる。
著者
鈴木 恵美
出版者
一橋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

平成17年度の研究は、先に提出した研究計画に従って政権政党と経済界の関係解明に関する調査研究を行った。研究の経過としては、8,9月にエジプトにおいて資料収集と政府関係者へのインタビュー調査を行った。当該国では、諸制度が未整備であるため、通常、図書館の利用や資料収集等には予定外に時間がかかること、加えて夏季は文書館や調査機関の開館時間が短いため、現地の滞在期間中は調査と資料の収集が中心になった。それらを精査し、一般化する作業は帰国後にゆだねることになった。論文としての成果は、2005年9月に行われたエジプト史上初の大統領選挙の分析を行った。これまでの大統領の選出は議員による信任投票という形で行われていたが、同年5月に選挙法が改正され、9月に初めての直接投票による大統領選挙が行われた。論文ではこの選挙の意義を解説し、最終的に10名に絞られた立候補者の選挙公約から、現代エジプトの社会、政治、経済問題の所在を論じた。まず第一に、実際の選挙戦の候補者となる明日党のアイマン・ヌール候補と現職のムバーラク大統領を除いた8名の候補者の公約の共通点と独自な公約を明らかにした。この8名の公約を二分すると、アラブ民族主義、社会主義の再興を目指す者、市場経済化の促進を掲げる者に分けることができた。また、各候補が掲げる独自の公約には、首都移転、郡県制の見直しなど実現不可能と思われるものが多くみられた。一方、ヌール候補とムバーラク大統領の公約については、社会経済政策に関しては共通するものが大半であったが、政治政策については権威主義政権の長期維持を目指す現職と、全ての政治犯の即時釈放を最重要公約の一つに掲げるヌールの主張は正反対のものであった。論文の最終部では、近年の選挙結果を大きく左右するムスリム同胞団の重要性について言及し結語とした。
著者
今田 絵里香
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

(1)戦前日本の「少年」「少女」というジェンダーの解明 近代日本の都市新中間層の子どもイメージを「少年」「少女」という表象を手掛かりに解明するため、昨年度まで「少女」、今年度は「少年」という表象の解明に取り組んだ。方法として少年雑誌『日本少年』を分析した。その結果、1920年代は勉強・文芸というホワイトカラー的なイメージを都市新中間層の「少年」にふさわしいものとして示し、他の階層の男子と差異化していた。より文芸に力を入れる都市新中間層の「少女」とも差異化していた。しかし、1930年代、下層や地方在住の子どもを読者として取り込み、軍事・スポーツを示して成功を収めた『少年倶楽部』の勃興により、『日本少年』はホワイトカラー的なイメージを捨て去ろうとし、「センチメンタリズム」として「少女」に押しつけていく。このようなことがわかった。(2)少年少女雑誌の読者への聞き取り調査 かつての読者たちは高齢であるため、難航した。しかし、数人の読者に手紙のやりとり・電話でのインタビューなどの方法によって、当時のことを尋ねることができた。(3)戦後の「少年」「少女」というジェンダーの解明 戦後日本の「少女」という表象を解明するため、戦後の少女文化をリードした『ひまわり』『ジュニアそれいゆ』を分析した。その結果、男女共学化の影響によって、男子禁制であった少女雑誌に男子が出てくることがわかった。「少女」にとっては「少年」とどう関係を築くかということが重要なものとなり、そのような男女交際のできる青春時代を「ジュニアの時代」と表象され、輝かしいものとして称揚されるようになったことがわかった。(4)西欧の「少年」「少女」文化との比較 PISAで高得点を取ったフィンランドは少年少女文化を支援するためのセンターが充実している。このようなフィンランドの取り組みについて調査をおこなった。
著者
倉橋 正恵
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

本年度は、日本国内において早稲田大学演劇博物館、立命館大学アート・リサーチセンター、国外においてはボストン美術館(アメリカ合衆国)、ヴィクトリ&アルバートミュージアム(イギリス)に所蔵されている演劇関係資料の調査に行った。調査対象とした資料は、下記のようである。(1)歌舞伎役者関係資料(2)初代歌川国貞を中心とした、江戸後期浮世絵作品(3)歌舞伎上演年表類(4)幕末期の歌舞伎劇場内部資料これらの資料についてはそれぞれに詳細な所蔵・書誌調査を行い、とりわけ(4)幕末期の歌舞伎劇場内部資料については、「幕末江戸歌舞伎の興行形態と劇場運営」(早稲田大学21世紀COE<演劇の総合的研究と演劇学の確立>国際シンポジウム、於早稲田大学、2005年12月)として研究成果を発表した。また、(1)(2)(3)の資料については、2004年度から継続して研究と展示準備に携わっていた「Kabuki Heroes on the Osaka stage 1780-1830」展(「日英交流 大坂歌舞伎展」、大英博物館・大阪歴史博物館・早稲田大学演劇博物館を巡回)において、その研究成果を示すことができた。
著者
柿沼 陽平
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本年度は、2006年4月以来の日本学術振興会特別研究員(DC1)として報告者が研究してきた内容を一挙に発表した。まず戦国秦漢時代における貨幣経済の展開過程とその構造的特質について、「秦漢帝国による「半兩」銭の管理」・「前漢初期における盗鋳銭と盗鋳組織」・「戦国秦漢時代における布帛の流通と生産」の三本の論文にまとめた。それによると、戦国秦漢時代には銭・黄金・布帛を中心とする多元的貨幣経済が営まれており、その中で複数の貨幣がそれぞれの社会的文脈に沿ってさまざまな社会的機能を果たしていた。機能面のみを挙げれば、銭も布帛も黄金も経済的流通手段としての役割を果たしていたといえるけれども、それらにはそれぞれ異なる社会的機能・社会的制約があり、全く異なる存在意義を有していたわけである。そしてその中で、人々はそれらの貨幣を求め、それらを用いて生活し、それらに振り回されながら人生を送っていた。またその一方で、それゆえに国家はその利益を独占する政策を次々に打ち出していった。上記の諸論考においては、そのような戦国秦漢時代における国家と民のおりなす多元的な貨幣経済の実態を究明することを試みた次第である。また2009年1月には、上記の成果の一部を韓国の成均館大学において報告した。「戦国秦漢貨幣経済の特質とその時代的変化」がそれである。つづいて報告者は、中国古代貨幣経済そのものの起源にも言及した。その結果、殷周時代においては宝貝が殷系人を中心に営まれた贈与交換の媒体物であったが、その文化が殷系人の各地への分散化とともに各地に広がり、その後、戦国秦漢貨幣経済の成長とともに、そのような貨幣経済の中で生活する人びとに「貨幣の始原」をしめずものと誤解され、そのような「記憶」が形成されたと論じた。これは論文「殷周時代における宝貝文化とその「記憶」」として発表した。
著者
藤田 雄介 (2023) 藤田 雄介 (2021-2022)
出版者
広島大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2023-03-08

自然界にはながれと関係しているにもかかわらず流線型ではない凹凸形状が観察される.トンボ翼と砂丘はその代表例といえる.それぞれは,流れとの関係において翼性能の向上や,形成維持のメカニズムとの関係が示唆されているが,詳細な研究は不十分である.本研究では流れと凹凸形状の関係に的を絞って理解することを考える.数値計算や実験により,トンボ翼や砂丘の凹凸形状をモデル化した模型周りの流れを解析し,流体力学的に考察する.最終的に,両者の研究を統合し,自然界に見られる流線型でない凹凸形状の普遍的機能やその設計原理を明らかする.
著者
門田 美貴
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2021-04-28

本研究は、従来の公共空間の私化(民営化)に伴い、憲法上の権利を行使できる場が減少していることから、私有地における集会を例にとって、集会の「場」に対する保障を行う理論を探究する。一方で、本来、国家に対して主張する権利である集会の自由を、私人間でも保護を受けるために、国家のインフラ保障義務などを検討する。他方で、財産権の議論を参照することで、私有地の管理者が有する、管理権ないし自らの望まないデモ参加者を排除する権利を制約し、集会を受忍する義務を導くための理論を構築するものである。
著者
深田 愛乃
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2021-04-28

近年、教育思想史研究の一部において、子どもの個性を重視する大正新教育、大正生命主義、宗教の三者の関係性が着目されつつある。こうした動向の中で、本研究は宮沢賢治(1896-1933)に着眼し、新教育的発想と仏教思想、農学的自然科学観が「生命」及び「個性」概念を介して結びつくことで、賢治特有の教育思想が生まれるという仮説を立て、それを検証することを目的とする。具体的には、賢治における「教育・仏教・農業」に関する実践やテクストを横断的・史学的に調査することで賢治の教育思想を浮かび上がらせ、大正・昭和初期における新教育や近代仏教、農村改良をめぐる思想史的文脈に位置付けることを試みる。
著者
長谷川 功
出版者
独立行政法人水産総合研究センター
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究の目的は、生息環境や各魚種の成長段階に応じて、在来種ヤマメと外来種ブラウントラウトの種間関係(種間競争・捕食)の様相(捕食の頻度・競争における優劣関係等々)がどのように異なるかを明らかにすることである。種間関係の様相は、生息環境や成長段階の影響を大きく受けるにも関わらず、これまで、外来種の在来種に対する影響評価を行う際、これらのことは考慮されてこなかった。本研究のように「生息環境・成長段階の影響」に注目することで、在来種-外来種の種間関係をより正確に評価できる。一連の研究成果は、世界的に問題となっている外来サケ科魚類の影響から在来サケ科魚類の保全を達成するための、基礎的かつ重要な知見となる。21年度の調査から、両種の成魚の間には餌を巡る競争が起きていること、ただし、餌環境としてヨコエビが含まれる場合は、競争が生じにくいことが示された。22年度については、生態的特性が成魚とは大きく異なる稚魚期の関係について野外調査によって検証した。その結果、両種の稚魚はともに浮上直後は河川内の流速が遅く、浅い場所を利用し、成長に伴って流速が速く、深い場所(すなわち成魚のハビタット)を利用するというパターンがみられた。ただし、両種の稚魚は時期的にずれてこのパターンをみせるために、稚魚のハビタットは重複することはなく、種間関係もあまり生じていないと考えられた。このように、生息環境にくわえて、両種間の種間関係の様相は成長段階によっても大きく異なると考えられた。
著者
茶園 梨加
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

最終年となる本年度は、今まで行ってきた北部九州のサークル誌に関する調査を続けながら、「サークル村」の一要素である水俣の問題について調査、考察、研究報告を行った。報告者(茶園梨加)は、本年度始めより「サークル村」同人であった石牟礼道子の『苦海浄土-わが水俣病』に関する調査を精力的に行ってきた。日本近代文学会秋季大会の研究発表が決定して以降は、熊本県立図書館(熊本市)や熊本学園大学水俣学研究センター(水俣市)、水俣病歴史考証館(水俣市)を中心に調査を行った。『苦海浄土』については、これまでさまざまな先行研究があるが、「サークル村」に初出「奇病」が掲載されたことを踏まえた研究は少ない。よって、報告では「サークル村」の存在がいかに石牟礼道子の創作過程に影響を及ぼしたのか、その過程を明らかにした。また、同内容をさらに発展したものを、「サークル村」終刊50周年記念集会(中間市)にて報告した。会では、森崎和江をはじめとした「サークル村」同人であった当事者たち、諸研究者たちと意見交換を行い、充実した報告となった。また、これまで資料調査を行った日炭高松の文化運動についても調査を進めた結果、資料発掘がまたれていた「月刊たかまつ」の総目次を「九大日文」16号に発表することができた。これは、研究代表者が一、二年目に行った法政大学大原社会問題研究所での調査に加え、遺族への聞き取りを実施した結果である。以上が本年度の主な研究成果である。より幅広く研究成果を報告することができ、有意義な年度であった。
著者
福島 由依
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2019-04-25

本研究は、大学学部入学段階での競争的筆記試験を重視する「受験主義」という観点から、日本の教育選抜の特徴とその現代的変容を捉えることを目的とする。具体的には、1)「入試ミス」に関する報道記事の分析から、客観的で公平ゆえに「正統」とされる選抜が崩れる場面の言説に着目し、社会がもつ正統な選抜への期待や信頼を検討する。次に、2)「学歴ロンダリング」とよばれる就学行動に着目し、日本では「非正統」と捉えられる就学行動に対する社会的な評価を、日本にくらべ大学間での転学が一般的であるアメリカを参照しながら検討することで、日本の受験主義の特殊性を議論する。
著者
寺田 祐子
出版者
静岡県立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

メントール受容体TRPM8に対する新規のアンタゴニストとして、Voacanga africanaのvoacangineを見い出し、論文として発表した。Voacangineは初めての化学アゴニスト選択的TRPM8アンタゴニストであり、副作用のないTRPM8遮断薬のシード化合物になることが期待される。さらに構造-活性相関研究を行い、化学アゴニスト選択的TRPM8阻害に決定的に重要な構造を明らかにし、論文として発表した。本ワサビ・西洋ワサビ・カラシ類に含まれるisothiocyanete化合物20種を用いた構造-活性相関研究を行い、構造とTRPA1・TRPV1活性の関係について調べた。本研究により、本ワサビの緑の香り・カブ様の香り成分(ω-alkenyl isothiocyanetes・ω-methylthioalkyl isothiocyanetes)は、低辛味でありながら、allyl isothiocyaneteと同等のTRPA1・TRPV1活性を持つことが明らかとなった。TRPA1・TRPV1活性を持つ食品成分は、エネルギー代謝を高めるため、抗肥満効果がある。これまで報告されてきたTRPA1・TRPV1アゴニストは強辛味のものが多いが、低辛味のアゴニストは強辛味のものに比べて摂取し易いと考えられる。本研究結果は、低辛味のTRPA1・TRPV1アゴニストの開発に貢献することが期待される。本結果を論文にまとめて提出し、現在査読を受けている。また研究予定にはなかった、婦人科がん(卵巣・乳・子宮がん)患者の生存期間とTRPチャネルの発現量に関する解析及び、カプサイシン受容体TRPV1の発現量・TRPV1アゴニストが卵巣がんの増殖に与える影響の解析を、米国ミシガン州立大学にて行った。予定にはなかった米国での研究も実施でき、期待以上に研究を進展させることができた。
著者
高浪 景子
出版者
岡山大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2015-04-24

1. 両生類ツメガエル知覚神経系におけるガストリン放出ペプチド(GRP)系の組織化学解析前年度行った遺伝子発現解析およびタンパク質発現解析の結果を受け、今年度は、中枢神経系におけるGRPの局在解析を行うため、成体ネッタイツメガエル(Silurana tropicalis)の脳および脊髄組織を用いて免疫組織化学解析を行った。その結果、脳-脊髄の広域にわたり、GRP免疫陽性を示す神経軸索が密に分布していた。さらに、延髄および脊髄において、GRP免疫陽性線維や細胞体が多数観察された。以上から、両生類ネッタイツメガエル知覚神経系においてもGRP系が発現していることが示唆された。2. 硬骨魚類メダカ知覚神経系におけるGRP遺伝子、アミノ酸配列の同定硬骨魚類メダカ(Oryzias latipes)のゲノム情報に基づいたバイオインフォマティックス解析によりGRP/GRP受容体のオ-ソログ遺伝子を単離した。得られたメダカGRP配列を既に報告されている他の脊椎動物におけるGRPホルモン前駆体の配列と多重配列アライメントを用いて解析した。その結果、今回同定したメダカのGRP配列もGRP受容体配列もこれまで報告された他の脊椎動物との高い相同性が示された。次に、GRPとGRP受容体の各臓器における発現分布をRT-PCRを用いて解析したところ、哺乳類と同様にメダカにおいてもGRPが中枢神経系と消化器系に発現し、GRP受容体は脳と脊髄で高発現することが明らかになった。また、ウエスタンブロット解析により、GRP受容体のタンパク質レベルでの発現を調べた結果、脳と脊髄において、メダカGRP受容体の予測される分子量に特異的なシグナルが確認された。以上から、メダカ脳・脊髄においてもGRP/GRP受容体ともに遺伝子およびタンパク質レベルで発現することを明らかにした。
著者
本岡 毅
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

1.高波長分解能・高時間分解能の地上観測による、各種土地被覆の分光特性の把握昨年度、一昨年度に引き続き、各種土地被覆において分光特性(ハイパースペクトル分光放射計による)や天空・地表面状態(定点自動撮影カメラによる)の観測を、コンピュータ自動制御により毎日継続して実施した。観測は順調に実施され、本研究提案の分光指数GRVI (Green-Red Vegetation Index)を用いた植物季節検出アルゴリズムや土地被覆分類アルゴリズムの開発と検証に必要なデータを取得することができた。また、得られた地上データを用いてサブピクセルサイズの雲によるノイズについて検討した。その結果、従来多く用いられてきた分光指数(NDVI)では大きなノイズ成分が生じる一方で、それ以外の指数(特に近赤外・短波長赤外の波長域を利用したNDWIやLSWIなどの指数)ではほとんどノイズが生じないことがわかった。これは、適した分光指数を選択することで時系列情報を有効活用できることを示しており、本研究を遂行するうえで重要な知見である。2.分光指数の時系列変化情報を用いた土地被覆分類分光指数の時系列変化の特徴から各ピクセルの土地被覆を分類するアルゴリズムを構築し、2001年から2010年までの衛星観測データ(Terra MODIS、8日間コンポジット、大気補正済み)に適用した。対象範囲は日本である。現在、現場の踏査情報を用いた検証とアルゴリズム改良を進めている。
著者
前野 浩太郎
出版者
独立行政法人農業生物資源研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

サバクトビバッタは混み合いに応じて行動や形態、生理的な特徴を連続的に変化させる相変異を示す。相変異形質の一つとして、本種の孤独相(単独飼育)メス成虫は群生相(集団飼育)のものに比べ小さい卵を産むが、成虫期に混み合いを経験すると大きい卵を産み始める。小型卵からは緑色の幼虫が孵化し、一方の大型卵からは黒い幼虫が孵化する。メス成虫がどのように混み合いに反応して卵サイズを決定しているのか調査した。まず、混み合いの感受期を明らかにするために、様々な長さの混み合いを産卵後色んな時期の孤独相メス成虫に処理し、次の産卵時の卵サイズを調査したところ、産卵2-6日前に経験する混み合いが卵サイズの決定に重要で、その感受期の間に経験する混み合う時間が長いほど卵は大型化することが分かった。次に、卵サイズの大型化を誘導する混み合い刺激(視覚、ニオイ、接触)を様々な組み合わせで処理したところ、接触刺激のみが重要であることが分かった。他個体との接触刺激を感受する部位を特定するために、混み合い処理を施す前に予め身体の様々な部位(触角、頭部、前胸、翅、脚)をマニキュアで塗り潰し、反応を調査したところ、触角が感受部位であることが分かった。孵化幼虫の体色が決まる仕組みを明らかにするために行った2種類の体色突然変異体を掛け合わせた実験より、群生相の孵化幼虫の黒い体色は色素沈着の有無を決定する遺伝子と黒化の強さを制御する遺伝子の二つが少なくとも関係していることを突き止めた。また、孵化時の大きさがその後の発育、脱皮回数、生存率に重大な影響を及ぼすことを明らかにした。非常に充実し、実りのある1年になったが、まだ研究は始まったばかりである。今後もサバクトビバッタの相変異の解明に尽力を尽くすと共に、バッタ問題に立ち向かっていきたい。最後に、研究に専念する機会を与えて下さった日本学術振興会にこの場を借りて御礼申し上げる。
著者
天畠 大輔
出版者
立命館大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

科研研究の最終年である今年度は、博士論文のデータ収集だけでなく分析枠組み作り、分析、そして考察執筆に着手した。博士論文では、アウトプットが困難な重度障がい者と介助者との関係性に焦点を当てるため、不足するデータを補う為に追加インタビューも実施した。具体的には、兵庫県に在住したS氏とその介助者への聞き取り調査を4月に実施した。これと並行して、今年度の研究目的の一つであるアウトプットが困難な重度障がい者を支援する支援機器について、国内外の情報を収集・整理した。具体的には、他者と円滑に意思疎通ができる手段として注目される「BMI(Brain-Machine Interface)」の最新技術と臨床現場を知る為にフランスのロックトインシンドローム協会を訪問し、専門家および患者家族へのインタビューを行った。これは、脳と外部機器を直結して意思疎通を可能にする最新技術である。医療技術の進歩によって脳障害をおった患者の生存率は上がった。しかし、回復後のコミュニケーション支援は不十分であることもわかった。本研究の意義は、コミュニケーションが困難な障がい者が生活するために「通訳者」の養成と制度化、および支援機器が行き渡ることが急務である事を明らかにした点である。この点が大きな社会的意義があると言える。
著者
山下 穣
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

間隔12.5μmの並行平板セルを作成し、その間にある超流動ヘリウム3のNMR信号を観測した。従来、このような間隔のセルの実験においては平行度のよいサンプルを作る事が困難であったが、我々は試料の材質、その加工方法を工夫することで平行度の良い試料容器を作ることに成功した。この結果、超流動ヘリウム3A相においてその秩序変数の方向を均一にそろえることに成功し、その回転変化を精密に測定することに成功した。回転下においてある回転数(〜1rad/s)以上ではNMR信号が変形し、静止下における信号の位置とは異なる周波数位置にNMRの共鳴信号が観測されることが分かった。この信号は並行平板間の秩序変数が回転による常流動速度場と超流動速度場の差により変形したことによるスピン波の信号であると考えられるが、その信号の周波数位置と秩序変数との関係はよくわかっていない。今回の実験では平行度の良いサンプルを用意できたことでこの新しい信号を精密に観測することができたので、数値計算との比較によってその理解が深まると考えている。また、2rad/s以上の回転数においては並行平板間に渦が入り、それが中心で集まっている事がわかった。また、こうしたNMR信号の回転変化は超流動転移温度を通過するときの回転数、磁場の大きさ、およびそれらが平行であるか、反平行であるかによって変化することが分かった。特に、回転(1rad/s以上)と磁場(27mT)の両方をかけた状態で超流動転移温度を通過した後の回転変化においては、常流動速度場による秩序変数の変形が観測できなかった。これは超流動転移温度における条件によって生成される渦が異なりその臨界速度の違いを反映している可能性がある。並行平板という境界条件においては渦量子が通常の1の渦とは別に1/2の渦の存在が予言されており、こうした特異な渦の生成を示唆している可能性がある。
著者
大矢根 綾子 QUAZI TANMINUL HAQUE SHUBHRA
出版者
国立研究開発法人産業技術総合研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2015-04-24

本研究は、細胞への遺伝子導入機能と磁性を併せ示すDNA-磁性酸化鉄-リン酸カルシウム複合粒子を創製することを目的とする。研究代表者らはこれまでに、認可済みの医療用輸液を原料とする、安全性に優れたDNA-リン酸カルシウム複合層の合成技術を開発してきた。本研究では、この合成技術を利用し、磁性酸化鉄とDNAを複合担持させたリン酸カルシウム複合粒子を合成し、in vitroおよびin vivo機能評価を行った。平成28年度は、昨年度の基礎研究において獲得した合成指針を参考に、DNA(ルシフェラーゼのcDNAを含むプラスミド)および種々の濃度の磁性酸化鉄ナノ粒子(フェルカルボトラン)を添加したリン酸カルシウム過飽和溶液を用いて、DNA-磁性酸化鉄-リン酸カルシウム複合粒子を合成した。過飽和溶液への酸化鉄添加濃度が、得られる複合粒子のサイズ、表面ゼータ電位、酸化鉄およびDNA担持量に与える影響を明らかにし、細胞への遺伝子導入機能を最大化するための複合粒子の合成条件を見出した。最適化された複合粒子はサブミクロンサイズの大きさを持ち、合成後30分以内は分散状態を維持した。また、同複合粒子は、アモルファスリン酸カルシウムよりなるマトリックス中に多数の酸化鉄ナノ粒子を内包し、磁石の作用下において細胞への遺伝子導入機能を向上させた。さらに、マウス一過性脳虚血モデルを用いた予備的な動物実験を実施し、生体内における磁気ターゲティング応用の可能性について検討した。統計的処理に十分な数のデータは得られていないものの、複合粒子のin vivo磁気ターゲティング機能を示唆する予備的な結果が認められた。得られた複合粒子は、注射による生体内投与の可能なサイズ・分散性を持ち、遺伝子導入機能だけでなく、磁気ターゲティング機能を併せ示すと考えられることから、局所遺伝子治療用導入剤としての応用が期待される。