著者
立花 優
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

当執筆者の研究目的は、旧ソ連地域において現出した政治体制の事例研究としてアゼルバイジャンを取り上げ、政治体制の類型化をめぐる議論の流れをくみつつ、政治・経済の側面から多角的・実証的に検証することで、その安定性の要因を解明することである。本年度においては、これまでの研究成果を踏まえ、より広く比較の視座を取り入れること、データと現地情報の分析について再考すること、これまでの研究成果を集大成することを目標とした。本年度に得られた研究成果は次のとおりである。1)6月に開催された日本比較政治学会分科会E「非民主主義国における議会の機能」において、「旧ソ連諸国における支配政党を通じた議会統制」と題して報告を行った。この分科会は、権威主義体制が安定的に持続する要因を議会に注目して分析する企画であった。中国・中東の事例との比較を通じ、議会の政治的機能が制約される権威主義体制下であっても、議会が地域や社会層の個別利害を表出しうること、利害調整をめぐって議会と政府の間に利用や対立の関係が生まれうることを事例の分析から明らかにした。2)7月に開催された北海道中央ユーラシア研究会において、中央ユーラシア政治研究におけるコーカサスの状況について、自身の研究を概括しながら報告を行った。この報告で執筆者のこれまでの研究の全体像を説明するとともに、今後克服すべき課題について討論が行われた。3)3月に行われた東洋文庫現代イスラーム研究合同研究会において、大統領任期というトピックを取り上げ、中央アジア・アゼルバイジャンにおける大統領制の問題を報告した。執筆者が研究協力者として参加している中央アジア班からは他にカザフスタンの事例報告が行われ、報告の結果、大統領制と大統領権力の比較検討が同班における今後有望な研究課題として浮かび上がった。4)上記項目を踏まえ、博士学位論文の執筆作業を進めた。
著者
櫻井 悟史
出版者
立命館大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

研究実施計画[A]にある、単著『死刑執行人の日本史-歴史社会学からの接近』についてのアウトリーチ活動の成果として、青弓社HPの『原稿の余白に』コーナーに、「殺人と<殺人>-『死刑執行人の日本史-歴史社会学からの接近』を書いて」と題したエッセイを書いたこと、立命館大学グローバルCOEプログラム「生存学」創成拠点HPの『研究の現場』コーナーに「死刑執行を思考する」と題したエッセイを日本語と英語で書いたことが挙げられる。研究実施計画[B]に挙げた、立命館大学大学院先端総合学術研究科公募研究会「歴史社会学研究会」の成果として、『歴史から現在への学際的アプローチ』を刊行し、その中で、「死刑執行方法の変遷と物理的/感情的距離の関係」と題する論文を書いた。ここでは、受刑者の物理的苦痛を減らすことで、執行する側の精神的苦痛をも軽減しようとしてきたアメリカ合衆国や中国にみられるような「文明化」とは違い、日本ではもっぱら執行する側の精神的苦痛の軽減だけを模索することで死刑執行方法が変遷してきたため、その変遷を「文明化」という枠組みだけでとらえることはできないことを、実際の日本の死刑執行方法の細かな変遷を歴史的に追うことで明らかにした。また、そこから現在の日本では、殺人から物理的にも感情的にも距離をとることで、殺人に対する抵抗感が極端に低いなか死刑執行がなされている可能性があり、このことを批判的にとらえるためにも、森巣博の死刑廃止論を再評価する必要があることも示した。研究実施計画[C]にある聴覚障害者支援についての研究成果としては、『聴覚障害者情報保障論-コミュニケーションを巡る技術・制度・思想の課題』を刊行したことが挙げられる。以上の計画とは別に、生活書院が発行する雑誌『生存学』にカフカの『流刑地にて』の読解を通じて、現行の死刑廃止論を批判する論考「殺人機械の誘惑」を執筆した。
著者
笠井 俊和
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究は、数量的な貿易研究と船乗りの社会史研究を融合することで、近世の大西洋上に展開したヒトとモノのネットワークの実像を明らかにすることを目的としている。年度の前半には、若尾祐司・和田光弘編『歴史の場-史跡・記念碑・記憶-』(ミネルヴァ書房)が刊行され、ジャマイカの港町ポートロイヤルを俎上に乗せた拙稿「海賊の息づく港町ポートロイヤル」が所収されている。同稿では、海賊を議論の軸に据えながら、本研究のテーマである貿易と密貿易、町を訪れる船乗りについて、一時史料をもとに詳述している。また、研究の基盤となる作業は、前年度に引き続き、イギリス領アメリカ植民地の主要港を出入りした船舶のリスト(海事局船舶簿)のデータベース化であり、ボストンとジャマイカのデータを18世紀半ばまで拡大した。そのうえで、航海日誌や書簡、海事裁判記録など、米国で入手した史料をデータベースとのクロスチェックで補完することにより、ジャマイカからスペイン領へと向かう密貿易の具体的な方法、関与した船舶の移動経路や船員数などを考察した。この研究の成果は、22年7月に近代社会史研究会(於京都大学)で報告し、12月にはEarly American Studies at Komaba in Winter, 2010(於東京大学)にて、英語による報告の機会を得た。なお、研究遂行のために、同年10月から11月にかけて、米国とカナダを訪れて史料収集をおこなった。その際、ピッツバーグ大学では、船乗りの社会史研究の泰斗として知られるマーカス・レディカー特別教授と面会し、研究へのアドヴァイスを受けた。
著者
川市 智史
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

海洋性の好熱菌はその生体構成分子が耐熱性・耐塩性に優れている。本研究では、海洋熱水環境由来の新規バイオマテリアルとして、鉄還元好熱菌が産生する導電性線毛(ナノワイヤー)の探索おとび応用展開を目的としている。本年度は、その昨年度獲得した候補微生物株の詳細な性状解析を行った。その結果、いずれの候補株においても導電性線毛の発見には至らなかったが、複数の候補株において、これまでに報告のない性状の解明に至った。候補株の1つであったChloroflexi門細菌110S株は、Chloroflexi門で初の鉄還元能・硝酸還元能を有する株であった。本門細菌は、これまで世界中のあらゆる環境(温泉・土壌・バイオフィルム等)から検出されており、その遍在、そして優占が示唆されている。その一方で、分離報告は非常に少なく、エネルギー獲得系のバリエーションも発酵・好気呼吸・嫌気的光合成・脱塩素呼吸に限られている。本研究において、本門細菌の鉄還元能・硝酸還元能を示したことにより、本門細菌の新たな分離培養法を提示するのみならず、本門細菌の環境中における微生物学的役割を新たにする知見を得たと考えている。また、超好熱性古細菌Aeropyrum属においても鉄還元能を確認した。Aeropyrum属古細菌は、これまで「絶対好気性」とされていたが、一方で、その生息環境は深海熱水孔などの微好気~嫌気的環境であり、分離株の増殖生理と生息環境の間の"ギャップ"は未解明であった。本研究において、同属古細菌の鉄還元能を示したことにより、この"ギャップ"を説明しうる可能性の一つが示唆された。
著者
桑木野 幸司
出版者
千葉大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本年度は、三年間の研究作業のまとめとして、資料の最終分析作業を徹底するとともに、過去の分析過程を整理し、論文ないしは著作として発表する作業を中心に行った。まず、16世紀末のフィレンツェで活躍した修道士Agostino Del Riccio(1541-98)が執筆した農業百科全書『Agricoltura sperimentale』(経験農業論)および『Agricoltura teorica』(理論農業論)の手稿を、テキストデータに起こし、校訂版出版に必要な作業および注記を施した。その分析結果をもとに、この農業論中で語られる理想庭園構想の空間を再構築し、そこに見られる百科全書的知識の表象方法が同時代の記憶術やエンブレム文学と強い関連を持つことを指摘し、当時の建築空間の持っていた知的密度の剔抉に成功した。その成果は、『地中海学研究』誌上にて2009年に掲載されることが決定している。また西欧初のミュージアム理論書として知られるSamuel Quiccheberg『Inscriptione vel tituli theatri amplissimi』(1565)の分析をさらに深め、著者が本書で展開する理想ミュージアム空間の構成を再構築したうえで、その中で展覧される百科全書的知識と建築空間との密接な影響関係を明るみに出した。その成果をまとめた英語の論文を、科学史雑誌『NUNCIUS』(Olschki)に投稿中である。さらにやはり16世紀末に執筆された記憶術著作Cosma Rosselli『Thesaurus memoriae artificiosae』(1579)を詳細に分析し、同著で提示される、記憶の基盤として機能するさまざまな仮想空間の特性を分析した。とくに、修辞学の理論と建築空間の構成の通底を明らかにした。その成果は、2009年出版予定の論文集『鈴木博之先生退官記念論文集』に掲載されることが決定している。
著者
谷口 建速
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、三国呉代の簡牘群である長沙走馬楼呉簡を基本資料とし、当時の地方財政システムを解明・復元すること、またその成果を、秦漢代の簡牘の研究から得られる当該時代の地方財政の諸相と比較検討し、地方財政史中に位置付けること、である。本年度は特に、銭や布帛等を集積する「庫」の財政について研究を進めた。まず、前年度より引き続き走馬楼呉簡の竹簡群の整理・分類およびデータベース化の作業を行なった。その成果に基づく検討により、以下の成果を得た。1「走馬楼呉簡所見庫関係簿与財政系統」では、庫に関連する各種の簿の構成を復元し、その中にみえる納入・搬出・移送等の財政システムを復元した。特に、吏民の賦税を受領する「庫」の他に、郡に関わる「西庫」が設置され、うち郡庫の物流には穀倉と同様「邸閣」が関与したことが明らかとなった。2「長沙走馬楼呉簡所見孫呉政権的地方財政機構」では、上記の庫に関わる財政システムと前年度に検討した穀倉の財政システムとを併せて検討し、資料中の財政システムの全体像を復元した。各々の物流について、郡県のみならずより上級の機構(「邸閣」・中央)の関与が明らかとなった。また穀倉の財政について、3「長沙走馬楼呉簡にみえる「貸米」と「種〓」」では、当時の地方穀倉による穀物貸与について検討した。食料目的の貸与と種籾目的の貸与の両種の存在が明らかとなったことは、唐代や古代日本、朝鮮半島における「出挙」制度の淵源の実例といえる。以上はいずれも学会発表を基に論文化したものであり、うち2の掲載雑誌は2010年中に発行予定である。
著者
吉見 俊哉 ディマ クリスティアン ディマー クリスチャン DIMMER Christian
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、高まる世界経済競争と世界の都市部での社会格差の中、いかに政治家、プランナー、デベロッパー、市民に共通する「都市の公共空間」を明らかにすることである。しかし公共空間における過去のネオリベラルな規制緩和や民営化政策の結果、相互依存における発展の影響について適切な理解が深められることなく政府、地方自治体などの行政側から民間セクターへと移行することとなった。本研究では、公共性の高い都市空間の協力的(官民)計画方法、実際の建設、管理という全プロセスの流れを系統的に調査、分析する。研究の中では、現制度や社会的状況における「公開空地(privately owned public space、POPS)」(※「公開空地」は公共性の高い民間所有地)のあり方を特に詳しく精査する。それに加え、より新しい実例として着目しているのは特定地域における公共空間の民間による創出や管理が争いに繋がるケースである。下北沢の道路開発プロジェクトや銀座松坂屋の再開発プロジェクト、渋谷宮下公園の民間化と京都梅小路公園の中の民間デベロッパーで水族館工事といったものが挙げられる。都市化や都市構造の再編が進む中、民間化の拡大は日本に限った問題ではない。都市空間の問題はアメリカ・ニューヨーク、チリ・サンティアゴ、オーストラリア・メルボルン、ドイツ各都市でも見られるため、それらの都市と日本の都市との関連性も共同研究中である。共同研究結果の議論のため、2010年5月27日、28日、29日にはオーストラリア・メルボルンでアーヘン工科大学のペゲレース博士とメルボルン工科大学のヨナス教授主催のワークショップに参加して次の共同のワークショップは12月にドイツのアーヘン市で予定されている。また2010年7月10日上智大学の比較文化研究所主催の『Alternative Politics : Youth, Media, Performance and Activism in Urban Japan日本人若者政治参加と都市空間』と言うコンファレンスで東京における「奪い合われる空間」に関して発表し、複合的観点から見る現代都市日本の公共空間の社会文化特有性について議論した。また同じテーマに関して11月にドイツ、フランクフルト市でのVSJF学会と2011年の3月にホノルル市でのAASの学会発表する予定である。
著者
三浦 翔
出版者
総合研究大学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

2007年3月から邦銀に対してバーゼルII(新BIS規制)の適用が始まった.これに伴い,信用リスク管理において,各行独自のリスク評価手法の開発が認められるようになり,基礎的内部格付手法(FIRB, Foundation Internal Ratings-Based approach)から先進的内部格付手法(AIRB, Advanced Internal Ratings-Based approach)への移行に際して推計値が必要とされる債権回収率(RR, Recovery Rate),またはデフォルト時損失率(LGD, Loss Given Default)の推計精度の向上が求められている.しかし,債権回収のデータベースの構築が充実していないことや,債権回収途中のデータの取り扱いなどに対する一般的な手法が確立されておらず,いまだ回収率推計モデルの研究は進んでいなかった.そこで,内部格付の低下(要注意から要管理への変更)によりデフォルトを定義した場合の,担保や保証協会による保証などを勘案した回収率推計モデルの構築を行った.モデルのパラメータ推計には銀行の格付および回収実績データを用いている.また,実際の回収が長期間にわたることや,正常格付への復帰の影響を考慮することによって,より実際の回収を反映したモデリングを提案した.その結果,担保カバー率,保証カバー率が回収率の有力な要因であることがわかり,それらの関数としてEL(Expected Loss)が推計可能であることを示すことにより,実データによる内部格付手法に応じた信用リスクの計量化を実現した.これによって、邦銀固有の特徴である、担保と保証と回収率の関係を表現し、バーゼルIIに対応した信用リスク評価方法を提案したといえる.
著者
山口 幸
出版者
独立行政法人海洋研究開発機構
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

1)フジツボ類の体サイズ連続化を組み込んだ資源配分と多様な性表現を説明するモデルフジツボ類の性の多様性を少ない環境要因で説明する数理モデルを作成した。このモデルでは、従来の生活史戦略理論と性配分理論を統合している。つまり、体サイズの連続化および成長、雄機能そして雌機能の3つの資源配分をおこなっている。本モデルでは、資源獲得指数と死亡率の2つの環境要因が進化的に安定な資源配分戦略に与える影響を調べた。その結果、同時雌雄同体のみ、同時雌雄同体と矮雄、雌と矮雄というフジツボ類で見られる3つの性表現すべてが、環境条件に依存して現れることがわかった。また、本モデルでは、純粋な同時雌雄同体ではなく、雄性先熟的同時雌雄同体が現れることが予測された。2)有柄フジツボ類ヒメエボシの生活史解明への基礎的データ収集ヒメエボシは、深海性の甲殻類に付着する有柄フジツボである。沖縄美ら海水族館の協力のもと、ヒメエボシがハコエビのどの位置についているかを調べた。ヒメエボシは水流を受けやすい、ハコエビの頭胸部と第一腹節の境目や歩脚の第三関節部分に集合していた。水流を受けやすいところに付着することでえさが取りやすいと考えられる。また、ヒメエボシが集合しているところでは、繁殖相手を得やすいと考えられる。ヒメエボシは雌雄同体であることが知られているが、小さな雄(矮雄)の報告はまだない。今年の調査で矮雄と見られる個体(同種個体に付着する小さな個体)が数多く見られた。一般的に矮雄が出現する条件は、雌雄同体の場合、繁殖集団が大変小さいときと言われている。しかし、同種個体に付着したヒメエボシが大きく成長した標本も観察された。このことは、ヒメエボシは小さいうちは雄機能だけを持ち、後に雌雄同体として繁殖するという生活史を持っているのではないかと示唆される。今後、生殖切片を作成して、この仮説を検証する必要がある。
著者
泉 吉紀
出版者
富山大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本年度は,多数の遺跡探査(古墳や城郭を対象とした)に取り組み,文化財科学における電磁気調査の発展に力を入れた.まず,富山県砺波市に位置する安川城跡において,城郭の遺構や縄張りの様相を非破壊で探ることを目的に地中レーダ探査を実施した.その結果,主郭の旧地形は高台であり,それらを削平して,現在の平坦面を造成したと考えられる.また,石と見られる反射が得られており,礎石を捉えた可能性がある.三ノ曲輪では,曲輪の形状沿って,土塁状の高まりがあることがわかった.土塁の周囲は,空隙の多い土壌で構成されている可能性が高いことから,盛土を施して平坦面を造成したと考えられる.堀切では,現地形での横断方向,縦断方向それぞれの探査結果に堀と見られる反応が得られ,現地表面から約0.8mに築城時の堀の底があると考えられる.また,古池を対象とした探査では,水による多重反射が得られ,古池を捉えた可能性が高い.今後,分解能の高い500MHzアンテナを用いたレーダ探査や遺物の検知を目的とした磁気探査等の併用による詳細な探査が望まれる.また,雪氷学分野の研究では,融雪型火山泥流の発生機構について実験を行った.積雪地域にある火山が積雪期に噴火した場合,高温の火山噴出物によって融雪型火山泥流が発生する可能性がある.火山噴出物による融雪やその融雪水の積雪への浸透・流下過程は融雪型火山泥流のハザードマップ等を想定する上でも必要であるが,詳細には把握されていない.今回,地中レーダ探査を用いて,その基礎データを取得するため,熱源を積雪表面に置き,融雪過程を把握する実験を行った.実験結果では積雪内部での,融雪水の浸透域が,高精度で検出できた.今後,土壌への水分の移動について研究を進める予定である,
著者
広川 暁生 (2007) 廣川 暁生 (2005-2006)
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

本年は、16世紀における風景と地図の密接な相関関係の一端を詳らかにすることを目的に研究を進めた。とりわけピーテル・ブリューゲル(父)の下絵(1558年)による銅版画《アントワープのシント・ヨーリス門前の氷滑り》は冬の情景とアントワープの都市像を結び付けた最も初期の図像と考えられる。8月と2月に行ったベルギー王立図書館、アントワープ市立図書館、ベルリン国立素描館における調査では、要塞の完成した1557年以降、以前の都市図を特徴付けていた河向こうの都市景観ではなく、新しく完成した都市の要塞の側からの都市景観図が著しく増加したことが明らかになった。ブリューゲルの図像はこれらの都市景観図と同様の地誌的な関心をわけあうことから、本版画を地誌的風景画の展開の中に位置づけることが可能となった。また本版画は16世紀後半、アントワープの画家たちに数多く描かれた「雪のアントワープの景観」のプロト・タイプとなる作品である。油彩による「雪のアントワープの景観」の登場は1575年以降というアントワープが事実上衰退していく時期と重なっている。これらの作品を図像的、背景となる歴史的事実から分析した結果、かつて繁栄していた都市の姿を懐かしむ同時代人のノスタルジックな感情の高まり、そしてブリューゲルが1565年以降、油彩において手がけた「雪景色」の流行を背景に生まれてきたことが推察された。さらにこれらの作例は、必ずしも景観の忠実な再現とはいえないが、「地誌的」な概念やその「地域」の時間的、空間的特性という「近代的」風景画の成立に不可欠な構成要素を含んでいるという点において、「ジャンル」としての風景画の成立過程におけるひとつの大きな転換点を示すことが明らかになった。以上の考察結果は、3月に開催された美術史学会東支部例会において口頭発表し、現在その内容を学会誌への論文(6月宋投稿締め切り)として執筆し、投稿を準備中である。
著者
能上 絢香
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

(1)研究背景・目的強相関電子系における光誘起ダイナミクスの研究では、電荷、スピン、軌道、格子の自由度と光誘起ダイナミクスの相関が注目されている。本研究では、軌道整列系V酸化物AV_<10>O_<1>5(A-Ba,Sr)に着目した。BaV_<10>O_<15>では、T_c=123Kで軌道整列しV三量体を形成する構造相転移が起こるが、SrV_<10>O_<15>は、そのような構造相転移は起こらない。これまでの研究で、BaV_<10>O_<15>では、三量体相から三量体のない相への光誘起相転移が起こったが、SrV_<10>O_<15>では、格子歪みと結合した電子の励起状態が弾性波でサンプルの奥行き方向へ進むことを明らかにした。この結果を踏まえ、本研究では、BaV_<10>O_<15>の壁開面における光誘起ダイナミクスの温度依存性を測定した。(2)研究方法フェムト秒反射型ポンププローブ分光測定を行った。光源はTi:sapphireレーザー(パルス幅:約130fs,エネルギー:1.56eV)で、プローブ光の反射率変化を観測した。プローブ光は循環水に集光して波長変換し、0.9eV-2.5eVで測定できる。(3)研究成果ポンプ光照射後の反射率変化は、T>T_cでは時間に対する振動が現れて、振動の周期はプローブ光の波長に依存するという時間依存性が観測された。これより、BaV_<10>O_<15>でも転移温度より高温では、格子歪みと結合した電子の励起状態がサンプルの奥行き方向へ進んでいると考えられる。また、振動の振幅は、高温から転移温度へ向かって温度を下げていくと、減少していくことが観測された。転移温度より高温においても局所的にV三量体が形成されているため、格子歪みと結合した電子の励起状態が進んでいくことが妨げられていると考えられる。
著者
加藤 淳子 CROYDON Silvia
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

裁判員裁判の事件の大多数において被害者参加人陳述が使われる中で、被害者参加精度のあり方やその有無の実証的評価を行うことにした。検討の対象は、被害者参加人陳述が豊富に採用されたある殺害事件とした。そこで述べられた被害者参加人陳述の効率を、歴史的に考慮された刑罰を与える目的として、もっとも影響力があったとされる3つ基準、「修復的司法」、「応報的正義」「更生司法」の促進効果に照らして評価した。「修復的司法」に関しては、検討対象の事件から言うならば、遺族陳述に遺族の心的回復のような精神治療効果がなかったとは言えない。しかし、「望んだ結果にならなかったことは大変残念で【ある】。裁判官・裁判員の方々には一定の理解をしていただけたと信じて【いる】が、それでも超えることのできない司法の壁を痛感してい【る】」という裁判後に新聞で発表された遺族の言葉からすると、彼らが期待した判決が下されなかったことで消えることの無いところの苦痛に制度への失望が加わったことを認めざるを得ない。遺族に、当事者が求めたのと異なる刑を判断者に要請するような陳述が認められたことで、彼らにその後下される刑への誤った・非現実的な希望を持たせ、修復的司法の可能性をむしろ損失させた。次に、量刑をより当犯行に匹敵するようなものにするというこの遺族陳述の応報的効果については、遺族陳述は確かに多くの情報を裁判官・裁判員に与え、法廷で流された涙からすると、少なくとも何人かの裁判員の心も動かせた。しかし、「感情を抑えて、法にのっとって判断した」、「遺族の悲痛な声に胸が痛くなったが、冷静さを保って判断するよう努めた」と裁判員2人が後に話したように、刑を決める際、遺族陳述から受けた影響を故意に抑えたならば、それらの陳述の量刑判決への貢献が妨害されたことになるであろう。最後に、「更生司法」に関しては、犯人を自分が犯した悪事の破壊的影響に立ち向かわせ、それを把握させることによって、当人の更生を助け、再犯防止をする、とされる遺族陳述の更生効果が存在するかどうかというのは、服役後の態度を長い期間見守らないと評価しかねる。しかし、当事件を一目見た限りで言えるのは、被告人が遺族から厳しい言葉を聞かされ、反省を示したからと言って、再犯に走らない確信は得られない。なぜなら、彼は今回の事件を起こすまで犯罪を2度も犯してきたが、そのたびに謝罪記録を残している。3度目の謝罪こそが誠実であるという保証は全くない。
著者
和田 快
出版者
高知大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

第三年度は、第二年度に阪神淡路大震災未成年期被災者を対象に行った生活改善を目的としたリーフレットを用いた介入フィールド実験や、フィリピンのビコール地方において行ったインタビューによる質問紙調査の成果をまとめ、各種学会等で発表後、関連雑誌に投稿した。第一年度の調査結果から、食事や光環境など、生活リズムと環境を整える取組が未成年期被災者の心的外傷度の軽減に効果的である可能性が高いことが考えられた。そこで、第二年度に、生活改善を目的としたリーフレット『「早ね、早起き、朝ごはん」3つのお得―被災者の皆さんへのメッセージ―』を作成し、睡眠日誌と共に阪神淡路大震災未成年期被災者である研究協力者(96名)に配布し、生活改善介入フィールド実験を実施した。その結果、今なおPTSD症状が残る未成年期被災者に対して、リーフレットを用いた介入がPTSD症状の緩和に効果的である可能性が示唆された。(①)また、心的外傷後ストレス障害と睡眠健康、食習慣の関係をより幅広く探る目的で、フィリピンのビコール地方において行ったインタビューによる質問紙調査(2006年11月発生の地滑り災害被災者88名を対象)の結果、被災者のPTSD症状は, 朝食時にタンパク質を多く摂取している程軽度であり, 朝食内容充実によるPTSD症状緩和の可能性を示した。(②)①の成果はNatural Science (Vol. 6, p. 338-p. 350, 2014)に掲載され、②の成果はヨーロッパ時間生物学会議(European Biological Rhythm Society, XIII Congress, 18-22 Aug 2013, Munich, Germany)で発表した。また、本プロジェクトの基礎研究にあたる成果もJournal of Circadian Rhythms (2013,11:4)に掲載された。
著者
武内 和彦 LASAS Ainius
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

6月までに主な研究プロジェクトを計画したとおり終了させ、Foreign Policy Analysis誌に査読のため論文を提出した。JSPSフェローとしてのこれまでの研究をもとに、近い将来本の執筆を予定しているため、今後も論文の改定を続ける計画である。この本はPalgrave Macmillan出版社より今後3年以内に出版される見込みである。2011年4月から9月の間、自身の理論的興味の補足プロジェクトとして、アメリカ・ルワンダに関する事例研究の最新の学術文献と人々の経歴談の包括的な見直しを完了し、これにより研究論文を仕上げることができた。2011年3月にスイス・ローザンヌ大学で開催された"Emotions in a Globalized World"(「グローバル化した社会における感情」)をテーマとした会議において、論文の初期ドラフトを発表した。この論文は私のアドバイザーであったベセリン・ポポフスキー氏による編集予定著書「国際関係における感情」(仮題)(シカゴ大学出版社刊)の1章として掲載される予定である。自身の研究に関連する2008年のグルジア戦争とオランダ・セルビア関係における2つの論文もEurope-Asia Studies誌とPolitical Psychology誌に査読依頼のため提出し、どちらも改訂依頼を受け、現在必用な訂正と補足的な研究を行っている。これらの改訂は10月末には完了する予定である。7月前半はイスタンブールにて開催されたInternational Society of Political Psychology(国際政治心理学会)の年次会議に出席した。その後行われた政治心理学の基礎と最先端の研究に関する3日間のワークショップ形式の夏季アカデミーにも参加した。この研修では自身の研究技術の強化、そして新しい研究手法を得る機会を与えてくれた。また同様に、将来の学術キャリアに有用な面識を得ることもできた。最後に、2011年9月には国連大学サステイナビリティと平和研究所において、最終発表を行った。発表に引き続いて行われたフォーマルな討論では、討論参加者から主な研究プロジェクトに対して今後の改善となる有益なコメントや提案があった。
著者
西 菜穂子
出版者
一橋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

政治学における既存の視点変換としてのルーマン政治システム論の意義は、ルーマン自身の権力理論の慎重な解釈のみならず、従来の権力理論の構造に対するルーマンの批判の要点を明確にすることによってはじめて明らかなものとなる。かかる認識に基づき、これまでの研究のまとめとして「コミュニケーション・メディアとしての権力に向けて-初期ルーマンの古典的権力理論批判-」をテーマに学会発表を行い、論文を執筆した。本論文では初期著作『権力』の準備的作業として執筆された論文「古典的権力理論批判」(1969)において展開された諸論点を敷桁し、中・後期以降の社会システム論の概念装置を適宜参照することによって、従来の権力理論との構造・概念的相違からコミュニケーション・メディアとしての権力という視座の性質を浮かび上がらせることを試みた。この試みはルーマン社会システム論の社会理論史におけるゼマンティーク的転換を明らかなものとするためのひとつの導入点ともなったと考えられる。上述の論文を布石に、後期の政治システムに関する記述も参照し連関させうつ『権力』の再解釈を試みることによりて、コミュニケーション・メディアとしての権力のオートポイエーシス的政治システムにおけるはたらきについて考察を深めた。この作業を土台に現在『権力』の解釈をテーマとした論文を執筆中である。さらに秩序形成という観点から政治学において重要な問題となる倫理・規範について「道徳の反省理論としての倫理学」というルーマンの視点に関する記述を精読・解釈し、現代社会における秩序形成にたいして倫理学の持つ意義を考察した。以上、ルーマンの政治システムの核となる議論である上述の作業を段階的に進めた。
著者
村上 晋
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

抗ウイルス薬であるリバビリンに耐性化するために必要な変異を持ったポリオウイルスは複製忠実度が高く、抗原変異しにくく、そして病原性が低くなることがわかっている。同じくRNAウイルスであるインフルエンザウイルスにおいても、リバビリン耐性ウイルスを獲得できれば、安全な生ワクチンが作製できる可能性がある。そこで本研究においては、インフルエンザウイルスでリバビリン耐性に必要な変異を同定し、その変異を導入した新規弱毒生ワクチンの作製を目的とした。インフルエンザウイルスの増殖に対するリバビリンの効果を調べた。ポリオウイルスでは、リバビリン存在下で培養すると、ウイルスゲノムRNA上のCがUにあるいはGがAとなる変異がランダムに挿入され、その結果ウイルス増殖抑制される。インフルエンザウイルスの場合でも同様の作用機序で増殖が抑制されるか調べた。MDCK細胞にウイルスを感染後、リバビリン存在下で培養し、上清を回収した。ウイルスRNAを抽出し、RT-PCRにてウイルス遺伝子を増幅後、クローニングし、ウイルスゲノムのシークエンスを調べた。その結果、28クローン中13クローンで変異が導入されており、そのすべてがCからUあるいはGからAの変異であった。これらの結果からインフルエンザウイルスでもポリオウイルスと同様の機序でウイルス増殖が抑制されており、複製忠実度の高いウイルスを獲得できる可能性があることが示唆された。リバビリンの有効濃度を調べたところ、20μMでウイルス増殖を50%抑制することがわかった。そこで、20μMおよび40μMのリバビリン存在下でインフルエンザウイルスを継代した。11代まで継代したが、耐性ウイルスは獲得されなかった。ポリオウイルスでは6代目で耐性ウイルスが出現したと報告されている。したがってインフルエンザウイルスではポリオウイルスよりもリバビリン耐性化がおきにくい構造のポリメラーゼを有しているものと考えられる。
著者
矢野 亮
出版者
立命館大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

平成22年度は、長期間に渡る資料調査を実施し、機密性の高い文書や資料にアクセスし、希少なリソースに到達した点については何よりの研究成果であった。具体的には、次の各時代区分に応じた詳細な資料収集と整理、分析を行ってきた。(1)1945年~1960年:大阪における融和運動とその事業展開の実際の状況について、とりわけ戦前・戦時に関する第一次資料(約700点)の収集と整理に終始した。その成果の一部として、拙著,「被差別部落における/をめぐる政策的展開と当事者運動に関する生活史研究」,セルフ社,2011年8月[予定]がある。(2)1960年~1970年;当時の資源配分に大きく関連する隣保事業について、全国隣保館協議会の諸資料を調査し当時の実情の把握を行った。これは平成22年度以降の立命館大学G-COEプログラム「生存学」創生拠点HPに掲載してきた。(3)1970年~1980年;特にここでは同和対策の資源配分が問題となる。これら同和対策をめぐる諸資料(約1800点)もすでに収集し分析を行っている。この成果物として、拙稿,「同和政策の歴史社会学--1970年代・1980年代を中心に--(仮題)」,天田・堀田・村上・山本編『差異の繋争点(仮題)』,出版社未定,2012年[予定]がある。(4)1980年~2000年;上記の時期の資料に加え、大阪市内における隣保事業及び同和事業の実施機関の一次資料の解読・分析を行ってきた。そこでは他の運動や他施策との関係性についても具体的に明らかとなってきた。その経過の一部として、「マイノリティ関連文献・資料/関連年表」と「大阪の部落問題関係資料」として上記HP(上掲)に掲載している。収集してきた文献・資料(約1800点)については言説分析を行い、成果物として、拙稿,「住吉部落をめぐる社会調査史(仮題)」,住吉隣保館編『住吉部落の歴史』出版社未定,2012年10月がある。また論文として所属学会誌等に投稿予定である。(5)2000年~現在:以上の研究の蓄積を踏まえた上で、その歴史的帰結について、拙稿,「大阪の同和政策における老いの位置--その政策的帰結(仮題)」,天田城介編『老いの政策と歴史(仮題)』,出版社未定,2012年[予定])にて分析結果を公表予定である。
著者
熊谷 亮平
出版者
首都大学東京
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

次年度以降の「近代建築修復の技術知識基盤の体系化」に向けて、平成20年度の目的は海外先進国における修復の方法論・制度および事例についての概要を把握すること、また国内における近代建築修復の現状を把握することであり、以下の手順により研究を進めた。(1)日本の伝統的建物に関する修復制度の把握、および国内で手に入る文献を用いてフランスやドイツ等欧州の修復制度に関する文献調査を行った。また近代建築修復に関する海外刊行の技術文献の収集整理を行った。(2)国内における近代建築修復事例リストの作成を行った。具体的には、重要文化財指定の建物における修復の有無、また登録文化財や非指定建物を改修専門誌等から抽出し、修復事例のリストを作成した。(3)スペインのバルセロナを対象とし、修復の方法論・保存制度・アーカイブ・教育に関して公的機関に対するインタビュー調査および関連資料収集を行い、その実態を把握した。また、バルセロナにおける修復事例リスト作成及び事例調査(図面採集、現地視察)を実施した。(4)国内における近代建築修復事例調査を行い、その実態と課題を把握した。具体的には、戦前に建設された近代鉄筋コンクリート造建築および近代木造建築再生事例を対象とし、図面採集および設計者に対するインタビュー調査を行った。
著者
城山 智子 PENG Juanjuan PENG JUANJUAN
出版者
一橋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究は、裕大華紡績公司の1880年代から1960年代までの事業展開を事例として、近現代中国に於ける企業の態様を明らかにしようとするものである。本研究は、特に、裕大華が、現代中国で「集団」と呼ばれる、多業種にまたがる複数の会社の集合体のプロトタイプと看做されることに注目している。清朝から中華民国を経て中華人民共和国に至る政治体制の変化の下で、企業への投資と経営とがどのような変容を遂げたか、という時系列の分析を行うと同時に、日本の財閥や韓国のチョボルといったアジアの企業形態との比較から、中国の企業の特質を明らかにし、平成22年度は、平成21年度の資料調査の成果を踏まえて、事例研究をまとめた。6月には台湾中央研究院近代史研究所で、中華民国期の産業振興に関する資料調査、7月には京都大学経済学部図書室で戦前期中国企業に関する調査報告の収集を行い、より網羅的なデータの収集を行った。また現代中国史研究会では研究発表、"Crossing the 1949 divide : changes and continuities in a Chinese Textile Company"(一个中国紡績企業在1949年前后的変化与延續)を行い、武漢、石家荘、西安、重慶、成都で展開した、裕大華紡績公司の事業について、20世紀委はじめから1950年代までを対象として分析した結果を明らかにした。そこでは、1920年代には未整備だった企業をめぐる経営環境が、1930年代の法整備を経て、1940年代の戦時統制下で大きく政府・党の影響を受けるようになり、さらに、そうした傾向が1950年代の中国共産党政権下でも引き継がれたことを論じた。