著者
角田 延之
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

今年一年間の研究を通して、明らかになったのは以下のことである。まずフランス革命におけるフェデラリスムのディスクール分析を行う上で当然重要となる「フェデラリスム」という語そのものは、研究対象地域であるマルセイユの各革命勢力によっては、ほぼ使用されていない。「フェデラリスム」はマルセイユにとっては他者の言葉であった。次に、先行研究は、いわゆる「フェデラリストの反乱」を起こした諸セクション集会にとっての重要な理念は「人民主権」であるとしているため、諸セクションのみならず、対抗勢力であるクラブについても「人民主権」および「国民主権」の理念についての調査を行ったが、双方の勢力による語使用に顕著な差異を見出すことはできず、反乱を起こした諸セクションのみに「人民主権」の理念を負わせることは正当ではないことが明らかとなった。そこで、両勢力の地域意識を調査するために、「マルセイユ」、「マルセイユ人」、「パリ」、「パリ人」、「フランス」、「フランス人」の6つの語彙について、詳細に使用状況の調査を行った。その結果、地域主義は存在したが、それは即座に反乱に結びつくものではなかったことがわかった。現地で収集した一次史料の調査は以上であるが、この分析を導くにあたっては、既存の革命史研究が大いに参考になった。例えば、解説付きの国王裁判議論集は、人民への判決の委託、いわゆる「人民上訴」が、敵対勢力に抵抗するための戦術的方便であるという認識を与えてくれた。ゆえにマルセイユのジャコバン・クラブの、「人民上訴派」への態度は硬化したのである。また逆に、リン・ハントの『人権を創造する』からは、革命期には様々な対立がありながらも、各勢力は絶えず融和の道を探っていたことへの着想を得た。地方史を研究する上では、地方ごとの差異、中央との敵対、という側面が強調されがちであるが、共通点も踏まえて考察しなければ一面的なものになるのであり、そのような認識を導くのは常に様々な先人による諸研究の読解であることを改めて認識することができた。
著者
関 朋宏
出版者
千葉大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

申請者は過去3年間を通じて研究課題にあるペリレンビスイミドのJ会合体の構築・内部構造の解明、更にはその機能材料化に取り組んだ。残念ながら、見出したペリレンビスイミド分子の合成が非常に困難であり、内部の構造を詳細に調査できるだけのサンプル量が得られていなかった。しかしながら、これまでに得られた知見を最大限に活かして大量合成が可能な一つの合成経路を確立することに成功し、内部構造の解明および機能材料化を急ピッチで調査中である。一方昨年度までの研究を通じて、ペリレンビスイミド色素においては元来困難とされてきた「塗布法により薄膜形成が可能な二次元層状構造の創製」、および「最低ゲル化濃度が低く透明なゲル材料の構築」に成功した。これらの系の分子レベルでの集合構造を精査し、光学的・電子的特性、および材料特性との相関を明らかにした。前者に関しては、半導体有機エレクトロニクス材料としての応用展開を見出し、溶液塗布法により作成可能な有機薄膜トランジスターデバイスの活性層への適用に成功した。一方後者の系では、ゲルの分子レベルの配列とよりマクロな層構造との明確な相関関係を解明することに成功した。得られた成果は、機能性の色素分子から望みのゲル材料の形態を構築させるための重要な分子設計指針を与えた。本研究を通じて、ペリレンビスイミドの機能化を目指した合成の高収率化、分子レベルの集合構造と光学的・電子的特性との相関の解明、有機エレクトロニクス材料としての有用性の証明に成功した。更なる詳細な調査によって、他の色素材料の構築にも適用可能な分子設計指針の確立が期待される。
著者
畑尾 直孝
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究は,屋内外環境での自由な行動の実現を目指すパーソナルモビリティロボットプラットホームの研究の一環として行われた.本研究は,将来のパーソナルモビリティの普及による高齢者に対する"バリア"のない社会に向けた歩みに貢献するものである.採用第1年度の研究により,パーソナルモビリティによる歩行者の存在する屋内環境における自律移動機能,ならびにレーザーレンジスキャナなどを用いて障害物を識別し,パーソナルモビリティが危険な領域に進入しないように制御する操縦アシスト機能を実現した.今年度は,歩行者,自転車,自動車などが行き来する屋外環境において,より安全な自律移動のために有効な意味情報を付加した「セマンティックマップ1の構築システム並びにそれを用いた屋外自律移動機能を実現した.これにより,搭乗者が前述の操縦アシスト機能を用いて屋外環境を移動すると,そのセンサのログデータからパーソナルモビリティがマップを構築し,その道のりを自律移動で辿ることができるシステムが完成した.本研究では,従来の"空き領域""障害物領域"といった単純な情報だけのマップでは,パーソナルモビリティが辿っている道路の向き,歩道・車道の区別,分岐点の位置といった地理的情報,周囲の移動体の速度や頻度などの交通流情報,道路標識や通行可能方向指示記号などの記号的情報を付加した「セマンティックマップ」をロボットが自動的に取得する.このシステムの実現のための要素技術として,上下にレーザーレンジスキャナをスイングすることで3次元地形情報を取得し,そのデータから大規模な屋外トポロジカルマップを構築する手法や,水平に固定したもう1台のレーザーレンジスキャナを用いた自動車,歩行者,自転車などの移動物体の検出,位置・速度推定,識別を行う手法などを開発した.
著者
森 一代
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

平成22年度は、タイ在住のラオス人労働者と村落社会を結ぶ多様な互助実践について参与観察をおこなった。2002年以降、タイと国境を接するラオスの調査村では、タイの携帯電波を受信できるようになり、出稼ぎ労働者と家族らの国内通話が可能になった。これによって、送金といった経済活動に留まらない、電化製品や衣料品などの取り置き、仕事の紹介、タイを訪問時の宿泊提供に関する事前の打ち合わせなどが可能になった。またパクター郡の調査村では、内戦期を北タイのフエイルックで過ごした住民が多く、現在も緊密な交流が見られる。とくにフエイルック寺では調査村から見習僧を継続的に受け入れており、調査村での祭祀には必ず僧侶を派遣していることが、聞き取り調査から明らかになった。このように、タイに居住する村出身者が、自らの生活圏にあるものを活かすことで、送金に見られるような直接的な経済活動とは異なった範疇で、村落社会をタイに取り込ませていく外延化の様態が見られた。しかしながら、互助関係はさらに外延に拡大する渦中にあることが明らかになった。フエサイ郡での二度目の生業調査では、養豚の出荷先がラオス人から、県北の中国人コミュニティに代替され、豚の種類も、タイから入荷していたランドレース種から、安価かつ飼育が容易な在来種の黒豚に変更されていた。この変化に対し、住民らは現金一括払いによる大量の子豚を購入を、互助実践のひとつとして肯定的に捉えていた。中国経済の浸透による村落社会の変容は、ラオスの農村研究において、土地利用や経済的側面からの分析が中心である。規範の面から中国人の経済活動を評価する本事例は、新たな示唆に富み、今後の検討の余地を大いに残すものである。
著者
内藤 まりこ
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

平成24年度は、アメリカ合衆国ハーバード・イエンチン研究所において一年間在外研究を行った。当該研究所に併設されるハーバード・イエンチン図書館は、所蔵する東アジア地域に関する資料の量と種類の豊富さにおいてアメリカ有数の図書館である。こうした図書館の特性を享受するべく、報告者は滞在中に以下の3つの作業に取り組み、次のような成果を得た。(1)日本の大学及び図書館では入手することの難しい中国、韓国及びベトナム地域の資料調査:イエンチン図書館及びハーバード大学に付属するその他の図書館、ニューヨークのコロンビア大学付属図書館が所蔵する中国、韓国及びベトナム地域で記された資料及びそれらの地域に関する研究書・論文を調査し、〈七夕伝説〉に言及した資料を採集した。こうした調査の結果、当初予想していたよりも遥かに膨大な数の〈七夕伝説〉に言及する資料を見つけ出すことができた。とりわけ、中国大陸の口頭伝承を集めた資料群の調査からは、〈七夕伝説〉が非常に広大な地域において浸透し、現在も人々の生活規範の一つを形成していることが明らかになった。(2)日本の〈七夕伝説〉に関する資料の調査:イエンチン図書館及びハーバード大学付属サックラー美術館が所蔵する江戸期の刊本及び浮世絵の調査から、〈七夕伝説〉を主題とする活字資料及び絵画を見つけることができた。(3)〈七夕伝説〉に関する英語資料の調査:〈七夕伝説〉に関する英語による研究書・論文を収集した。その数はそれほど多くはないが、日本では見つけることのできなかった研究論文を集めることができた。また、1920年代にアメリカで記されたく七夕伝説〉を題材とする戯曲を発見し、アメリカにおける東アジア文化の受容という研究テーマを得ることができた。
著者
長嶋 淳
出版者
北陸先端科学技術大学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

目標とする名人を超えるコンピュータ将棋ソフトの作成のため,前年度より引き続き,コンピュータ将棋の弱点である序盤を主な対象として改良を行った.前年度にこれまでの研究成果をまとめた論文を雑誌投稿し,7月にNew Mathematics and Natural Computation Journalに掲載された.今年度はこれまでの序盤の研究に加え,序盤を抜けた辺りに見られる仕掛けの問題にも取り組んだ.1つのアプローチとして,局面情報から仕掛けのタイミングを認識し,必要な時にのみ探索コストを集中させて問題への対処とする研究を行った.また,同時に別アプローチとして,人間の対局記録である棋譜から仕掛けなどの数手一組の手順を抽出し,探索に利用する研究のサポートにあたった.本年度も多くのコンピュータ将棋の大会があり,開発を行っているコンピュータ将棋TACOSが多くの成果を残した.1.第16回世界コンピュータ将棋選手権 4位2.11th Computer Olympiad将棋部門 3位3.第2回コンピュータ将棋世界最強決定戦2007 2位1では決勝シードと予選を勝ち抜いた8チームによる総当たり戦において4勝3敗となり,初めて勝ち越しに成功し,過去最高の順位となった.2では1で優勝及び準優勝のプログラムと戦い,3プログラムが全て1勝1敗で並ぶ結果となった.3においても,優勝した激指以外は全て1勝2敗で並ぶ結果であった.これらの結果から,Tacosとトップのコンピュータプログラムと差がほとんど無くなってきた事が確認できた.また,インターネット上の対局サーバでも実力の向上が見られ,強さはアマチュア6段相当に向上したことが確認できた.
著者
室崎 美紀 (石田 美紀)
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

前年度に引き続き、ファシスト政権下にアフリカ各地の植民地(リビア,エチオピア,ソマリア)において製作された映画を重点的に調査した。とりわけ、砂漠が占領地の大部分を占めるリビアにおいて製作された作品の分析に傾注した。その理由は以下の二点にある。まず、当該作品群がファシスト・イタリアの推進する、植民地支配の安定と国民的メディウムとしての映画産業の整備という「近代化」の達成を計るうえで、重要なテクストであること。次に、圧倒的な光量が所与の条件としてある砂漠にてロケーション撮影されたフィルム群の視覚的肌理が、視聴覚表現媒体である映画が当時達成し、洗練された、スタジオにおける三点証明が生み出す「白く輝く」視覚的肌理が担った文化的意義を考察するための理想的な参照項となること。以上の二点をテクスト分析の主軸とし、リビア砂漠で撮影された劇映画をニュース映画における砂漠表象と照合させ以下の結論を導きだした。砂漠のシーンにてはからずも溢れた白い光はファシスト・イタリアが求める植民地他者表象を大きく裏切り、植民地経営という近代化プロジェクトの限界を予言したものであること。さらに砂漠表象分析から導きだされたこの結論を多角的に掘り下げるために、1930年代半ばから建築の分野で盛んに討論れていた「地中海性」の動向とリンクさせ、「遅れていた」はずのリビアが、ファシスト・イタリアにとって未来をも先取っていた空間であったことを論じた。以上の結果は、「ファシスト政権期イタリア映画における「白」の視覚、「白い電話」と白い砂漠」(『美学』第56巻第二号(通号222号)41-54頁)に発表した。
著者
廣瀬 慎美子
出版者
国立遺伝学研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

ヒドラの神経伝達にかかわるペプチド分子を得るため、ペプチドの組織的単離を行った。同時に、ヒドラの神経伝達はpeptidergicであるという、これまでの定説と合わない意外な発見をしたので、本研究計画に当初はなかったヒドラにおけるコリナージックシステムの可能性についての解析も行った。さらに,これまでヒドラで単離・同定された神経ペプチド3種類について,イソギンチャク(Nematostella vectensis)の成体および胚発生過程における発現を免疫抗体染色法により明らかにし,刺胞動物の神経系の発達について明らかにした.ヒドラペプチドの精製:既に第1段階のHPLCで得ているヒドラペプチド15画分中、第7画分の精製をHPLCを用いて進めた。3-5段の精製を経て、約60のペプチドを単離し、25種についてアミノ酸配列分析、質量分析を行った。これらの生物活性検定は進行中である。ヒドラコリナージックシステムの解析:ヒドラを含む腔腸動物では神経伝達はいわゆる古典的伝達物質ではなくペプチドが担っているというのが定説である。ところが私たちはヒドラにニコチン性アセチルコリン受容体遺伝子(nAChR)およびコリントラスポーター遺伝子(CHT)が存在することを見いだした。1種類のnAChRとCHT遺伝子の発現をホールマウントin situハイブリダイゼーション法で解析した結果,外胚葉上皮組織でシグナルが検出されたが,神経での発現は見られなかった.ヒドラのACh,およびAChの合成酵素の活性を測定した結果,ヒドラはAChを自身で合成し,保持していることが示された.ヒドラのnAChRの機能解析,AChの生体内での機能については現在解析を進めており不明な点があるが,これまでの結果は,ヒドラはAChを利用しているが神経系での利用ではなく,上皮組織において形態の形成・維持などのシグナルとして利用していることを示唆している.AChが神経系を持ち始めた最初の動物である腔腸動物で形態形成にかかわるとすると、神経伝達物質の進化に全く新しいパラダイムを導入することになる。イソギンチャクの神経ペプチド産生細胞の解析:ヒドラのシグナル活性ペプチド分子の網羅的解析により,数種類の神経ペプチドの解析が進んできたが,ヒドラの初期発生過程における神経系の発達については観察が困難なことから、ほとんど解明されていない.そこでイソギンチャクNematostella vectensisを用いて,腔腸動物の胚発生過程における神経ペプチドの発現パターンを抗体染色法により明らかにした.その結果,ヒドラとイソギンチャクではいくつかの共通の神経ペプチドを保持しているが,成体での神経ペプチド産生細胞の分布パターンが大きく異なること,受精3日目頃のプラヌラ幼生で初めて神経ペプチド産生細胞が現れ,発生過程においてそれぞれの産生細胞特異的な発現パターンを示すことが明らかになった.
著者
田中 博美
出版者
独立行政法人物質・材料研究機構
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

良質な界面を有する強磁性体/高温超伝導体の接合作製についての基礎技術開発を行った。具体的にはLa_<0.85>Ba_<0.15>MnO_3/YBa_2Cu_3O_y接合をパルスレーザー堆積法により作製し、得られた接合の界面ナノ領域における化学結合・電子状態を明らかにする為、硬X線励起光電子分光を用いたdepthプロファイルを行った。その結果、YBa_2Cu_3O_yにおいて観測されるCu-2p内殻光電子スペクトルのサテライト強度が接合界面近傍において著しく減少していることが分かった。又、一方でLa_<0.良質な界面を有する強磁性体/高温超伝導体の接合作製についての基礎技術開発を行った。具体的にはLa_<0.85>Ba_<0.15>MnO_3の構成元素であるMn及びBaの内殻光電子スペクトルも接合界面近傍においてケミカルシフトを起こし、それに伴いブロードニングが生じていることが分かった。これは接合界面近傍において異なる価数状態が混在し、キャリア状態が変化していることを示唆する。詳細な解析の結果、La_<0.85>Ba_<0.15>MnO_3/YBa_2Cu_3O_yの接合界面にはCuの価数が大きく低下した非超伝導層、及びスピン偏極率が低下している強磁性体層が存在していることが明らかとなった。この結果から、非超伝導層や低スピン偏極率層が接合界面に存在しない良質な接合を作製する為には、成膜時の作製条件等を工夫する必要があることが分かった。
著者
重田 眞義 ベル アサンテ
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

2009年度は、博士学位論文「地域住民による文化遺産管理の取り組み-エチオピアのハラールとアジスアベバにおける博物館活動の事例-」に関する研究成果の公刊とその準備に精力を集中した。研究分担者(特別研究員)が日本ナイル・エチオピア学会誌(Nilo-Ethiopian Studies)(1報)および、UCLAの発行するAfrican Art誌に論文2報を投稿し掲載された。また、2008年度にエチオピアのハラールで主催した国際ワークショップの成果をまとめて、京都大学アフリカ地域研究資料センターが出版する国際学術雑誌African Study Monographsの特集号を代表者と分担者が共同で編集出版した。分担者の受け入れ先である京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科においては、在来知研究グループを主催する受け入れ研究者(研究代表者)と協力してアフリカにおける文化遺産保全に関する研究会を2回開催した。11月にはアジスアベバ大学にて開催された国際エチオピア研究学会に参加し、地元アジスアベバ大学における同分野の研究者との意見交換をおこなった。あわせて受け入れ先の大学院アジア・アフリカ地域研究研究科が運営するエチオピア・フィールドステーション主催の国際ワークショップをアジスアベバで組織し、ケニア、イギリス、日本から10人の研究者、実践者を招いて研究発表をおこなった(発表題目:Communities and Cultural Heritage Centers in East Africa : A call for collaboration.)。また、これらと並行してこれまでの成果をまとめた単著の出版準備をすすめた。以上の活動を展開して、2010年5月にナイロビにおいて開催される国際学会Shaping the Heritage Landscape : Perspectives from East and southern Africa British Institute in Eastern Africaにも参加発表することが決まっている。国内では京都大学アフリカ地域研究資料センター公開講座「創る」アフリカの人びとが創りだす美と技の世界で講師をつとめたほか、JSPSサイエンスダイアログに協力して奈良と福井の高校において2回講演をおこなった。
著者
春山 成子 WEICHSELGARTNER J. JUERGEN Wisergartner
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

今年度は、アジア太平洋地域で発生している自然災害の研究事例を統合化することを中心に研究を行った。また、2004年度では日本で異常な洪水・台風災害が発生していることもあり、自然災害のなかでも洪水事例を多く取り上げることにした。さらに、アジア太平洋地域で発生した自然災害についても、統計資料、及び、データなどを収集して、統計的な処理を行い、分析を行った。この際、ことに社会的な見地、人文科学的な研究視点に立脚して、自然災害の研究を行っている研究者に面会することにした。自然災害の研究概況を掌握するために、岐阜大学工学部の高木先生に面会して、工学部における日本人研究者の災害研究の蓄積と現在の研究動向を探るとともに、岐阜大学においてジョイント講義を行い、岐阜大学の研究者との研究連絡の輪を作り、今後の研究の展望を話しあうとともに、ヨーロッパにおける自然災害研究者との知識を共有するために数回の討議を行った。また、アジア各国からの研究者との面会を行い、欧米とアジアの自然環境認識の違いについて話し合った。さらに、つくばの防災科学研究所佐藤研究室を訪問し、日本で試みている「統合的な自然災害研究の将来的な方針」を聴取するとともに、ドイツの防災システムについてのユルゲンが報告し、意見交換を行った。さらに、神戸市で開催された「地震災害10年」の企画による国際会議(自然災害会議)に参加して、各国からの来日している研究者および行政、研究機関の事務官、国連の各機関の実務担当官との個別の会合を持ち、2004年度及び2005年度始めの災害研究のあり方、及び、実務としての自然災害・防災・警報システムに関わる手法、技術などの討議を行った。学内においては、水曜日午後にサイエンスコミュニケーショの講義を行い、日本人学生に向けた災害研究の知識の共有に関する自主ゼミの中で、科学知識の統合化に関わるゲーミング理論を構築するとともに実践した。また、これらの研究を通して、4月2日には弥生講堂において研究成果の一部を発表した。
著者
丸山 真一朗
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究では、植物の誕生、即ちシアノバクテリア様生物の細胞内共生によって葉緑体(色素体)が獲得されて以来、共生体から宿主の真核生物のゲノム中へと移行してきた「植物型遺伝子」というものに注目し、藻類・非光合成原生生物においてそれらの遺伝子の進化的・機能的保存性を解明することを目的に解析を進めた。昨年度の成果を基にして解析対象と規模を拡充させると共に、光合成を行う藻類にも解析の重点を移し、「光合成をする/しない」、「葉緑体を持つ/持たない」の境界にあるような真核生物群を対象としてゲノム規模での進化生物学的解析を行った。その結果、現在葉緑体を持つ生物でも太古の地球では別の系統の藻類と遺伝子の伝達交換をしていた可能性が示唆され、地球環境において最も重要な生物的エネルギー転換である光合成の進化という点でも、ゲノムのモザイク的な進化が大きな役割を果たしていることが示された(Yang et al. submitted、 Maruyama et al. editorially accepted)。また、二次共生による色素体の獲得過程において痕跡化した、ヌクレオモルフという共生体核において、これまで核ゲノム中には存在しないと考えられていた、遺伝子が、遺伝子構造の前半と後半が逆順にコードされた「逆順tRNA遺伝子」としてゲノム中に存在し、実際に転写され、タンパク質翻訳に寄与していることを示唆した(Maruyama et al. 2010 Mol Biol Evol)。さらに、共生体と宿主という枠を超え、寄生植物(ストライガ)と宿主植物という共生関係にある真核生物間においても、進化的時間軸で見た場合に比較的「最近」起こった遺伝子の水平伝達により寄生生物のゲノム進化が進んで来たことを示した(Yoshida et al. 2010 Science)。こうした解析により、真核生物ゲノムの複雑性が生物間の遺伝子交流・水平伝達・細胞内共生的伝達によってもたらされるというゲノム進化の基本原理とも言うべき進化過程を明らかにすることができた。
著者
安部 英理子
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

ラビリンチュラにおけるDHA含有リン脂質の合成に関与されると推定される酵素、LPATF26についてラビリンチュラの遺伝子操作株を作成することによってその機能の解析を行った。遺伝子操作株の作成については、ラビリンチュラ由来のプロモーター、ターミネーターとハイグロマイシン耐性遺伝子連結させ、エレクトロポレーション法によってラビリンチュラ内に導入する方法を確立した。このことを利用し、LPATF26のORF内に上記の選択マーカー断片を挿入したものをラビリンチュラに導入し、遺伝子破壊株を作成した。これまでの報告ではLPATF26はPC合成に関与することが示唆されていたが、LPATF26のKO株において解析を行ったところ、実際にはLPCAT活性ではなくlysoPAを合成するGPATとして働いていることが示唆された。さらに脂肪酸組成についてはパルミチン酸を含有するリン脂質や中世脂質の減少傾向が確認された。現在はlysoPAの合成に伴う脂質代謝の変化について特に形態の変化に着目し、より詳細な解析を行っている。さらにLPCATと思われる遺伝子をクローニングし、酵母による発現解析を行ったところ、LPATF26の10倍程度のLPCAT活性を示した。現在はLPCAT候補遺伝子についてもKO株を作成しており、LPATF26とのダブルノックアウトによって、ラビリンチュラのリン脂質代謝経路を明らかにすることができると考えている。
著者
ワルド R
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

去年に引き続き、江戸後期から現代にいたるまでの浄土真宗における教学展開を研究してきました。ことに、近代化の中で変遷する教団体制と教学との関連性に焦点を与えることに努めました。この関連性を考察するに当って、近代以降、真宗教団内で時折勃発した「異安心問題」(異端問題)を考察し、この問題に内在する近代教学と伝統(江戸)教学との衝突を究明しました。その結果、この問題は単なる「教学」の問題(つまり近代教学と伝統教学との齟齬)ではなく、教団内の政治問題および教育問題(例えば、「伝統的」な学寮と「近代的」な宗派大学との衝突)と深い相関関係があることが明らかになりました。昨年度は主に東本願寺で起きた「村上専精の異安心問題」を取り上げたので、本年度は西本願寺の動向に注目しました。具体的な研究対象としては、大正12年、西本願寺・龍谷大学で起きた「野々村直太郎異安心事件」を取り上げ、近代教学者と伝統教学者との解釈学的相違点を解明し、さらに「言論の自由」と「宗教の伝統」という相容れがたい概念が宗派大学の中でいかに融和され(あるいは融和されなかった)、位置づけられたかを考察しました。今後、この事件に関するより詳細な史料調査を行うつもりですので、事件の全貌を明らかにすることができると確信しております。このように、本願寺の東西における教学問題・論争の全体像の解明へ一歩進んだと考えております。また、この現象における政治性という側面も大いに存在すると認識することもできました。なお、「死生学」関連では、真宗における「小児往生問題」(つまり、子供は浄土に生まれることができるかどうかという重要な教学・倫理問題)についての初歩的な研究を始めました。
著者
久保 明教
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究は、情報処理機械(コンピュータ)を基盤とする先端テクノロジー、とりわけ現代日本のロボット・テクノロジー(RT)の発展において文化的知識が果たす役割を解明することを目的とする。本年度は、以下の三つの側面に焦点を絞り、研究の基盤となる成果を得た。第一に、研究の方法論の精緻化のため理論的研究を行った。テクノロジーと社会・文化の相互作用を分析する研究手法である「Actor Network Theory(ANT)」と文化人類学的研究を接合する方法論の確立を主題として研究会発表を行った(発表題目「マテリアリティの記号論」、東京外国語大学アジア・アフリカ研究所「『もの』の人類学的研究」研究会、4月12日)。また、科学技術と文化の相互作用を解明する既存の研究潮流には欠けがちであった時間論的視座の組み込みを目指し、フィールドワークデータをもとに理論的展開を試みる研究発表を行った(発表題目「テクノロジーの時間」、技術社会文化研究会、12月16日)。第二に、ロボットをめぐる文化的言説と科学的知識の生成過程を対象として系譜学的および生権力論的な観点から研究を行い、その成果を学会・研究会にて発表した(発表題目「文化としてのロボット/科学としてのロボット」、日本記号学会、5月11日。発表題目「自己と/のテクノロジー:ロボット、労働、主体」、生権力研究会、大阪大学、9月25日)。第三に、本研究の成果をより包括的な観点から整理し展開するため、インド共和国においIT産業の勃興と文化的社会的要素の相互作用を分析するため、ベンガルール等の都市に短期滞在し、IT産業に従事する人々を対象にインタビュー調査を行った(2月12日~3月27日)。
著者
中道 直子
出版者
東京学芸大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

(1)乳幼児のふりの理解レビュー論文の執筆,投稿乳幼児のふりの理解についてこれまでの先行研究をレビューし,ふりの理解の発達モデルを提案した。本モデルは,1歳半頃にはふりという行為の理解が可能となり,ふりの背景にある主体の心的状態の理解は4歳以降に可能となることを説明した。また,この2段階の理解は,目的論的推論と心理主義的推論(Gergely&Csibra,2003)の2種の異なる推論によってそれぞれ獲得されるものであることを提案した。(2)実験:乳児におけるふりの目的論的理解の検討1歳半児のふりの目的論的推論に基づく理解を予測の違背課題で検討し,彼らがふりを目的論的推論で理解していることを明らかにした。例えば,乳児は飲むふりをするという行為の目的を「のどの渇きを癒す」ことではなく,「遊ぶ」ことであると理解していたなら,その予想に背くジュースを飲むという行為の映像を長く注視した。(3)博士論文の執筆(1)の論文で提案したふりの理解の発達モデルを,7つの実験で検証した。これらの実験の結果は,1歳半頃にはふりという行為の理解が可能となり,ふりの背景にある主体の心的状態の理解は4歳以降に可能となること,乳幼児期を通してのふり遊びの体験がふり行為の心理的背景への理解をもたらすことを明らかにし,モデルの適切性を一部実証した。
著者
尾崎 文昭 LIN Yi-qiang
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

研究実績は主に以下の二編の論文があり、いずれも『東洋文化研究所紀要』に掲載される。その概要は以下の通り:1:「古音、方言、白話に託す言語ユートピア--章炳麟と劉師培の中国語再建論」章柄麟と劉師培は、清末の中国語現状に対する批判的見方に基づき、古音、方言、白話と注音方法という四大課題から構成された中国語重建論を提起した。章と劉の研究によって、古音の正統的地位は固められ、方言も低俗のイメージから解放され、両者はともに純正中国語の「一体両面」となった。方言から古音を遡り、そして、古音で方言を統一することは、彼らの独特の研究方法になったばかりではなく、彼らが目指した中国語改造の道となった。白話文学の伝統と地域差異を超えた言語標準は、その中国語改造論においても重要な資源となる。彼らの白話研究と論述は、その語言の均質性と言文一致の可能性に集中しており、それらは恰も古音と方言の弱点を補う形となった。章炳麟と劉師培の中国語再建論は、古音、方言、白話についての研究を尽くしてからはじめて建て直しを開始できるという長いプロセスであった。それは多大な研究実績を伴った周到な再建論であるにもかかわらず、今日の中国語の現状から見れば、もはや一種のユートピアにすぎない。2:「排満論再考」本稿は清末排満論が民族論から体制論へ転向する過程を研究対象とし、清末国学と辛亥革命の結果についてより合理的な解釈を与えようとする。初期排満論は民族浄化を鼓吹する復讐論であったが、清末の最後数年において、それが転向しなければならないところまで行き詰まっていた。『民報』対『新民叢報』の論争を経て、排満論はその「満漢」、「華夷」の対立論式を修正し、その排除範囲を漢民族官僚も含む特権階層に限定し、その基調は「排満」から「排清」へと転向した。章炳麟の建国理想と劉師培のアナーキズムはその転向を促成した重要な要因と考えられる。章炳麟と厳復、楊度の論争に至ると、問題の核心は満漢問題から、ナショナリズムとアイデンティティに移した現象が見られた。章炳麟はアメリカの現状から示唆を受けて、「中国人」を漢民族に等しい概念から「合漢満蒙回蔵為一体」の上層概念へと上げた。その上で、「文化」、「民族」、「国家」「三位一体」の新しい中国像を提示し、排満論の目的を「民族」から「民国」へと移行させた。そのような転向は清末国学にも影響を与え、その重心がより大きな幅で政論から学術研究へと傾み、民族問題は再び文化問題として帰着した。その結果として、辛亥革命は排満論の勝利ではなく、むしろ排満論の放棄を意味するものと考えられる。
著者
山本 成生
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本研究は、北フランスのカンブレー大聖堂の聖歌隊を素材として、中世・ルネサンス時代における音楽家の社会的身分とその組織構造の解明を目指すものである。今年度は、これまでの研究のまとめとして、上記の教会における音楽制度の総合的な考察を行った。まず予備的な考察として、近年の「音楽拠点」研究の動向を整理し、それらを評価しつつも前近代における音楽家身分のあり方という観点については、やや議論が不足している点を批判した。次に、カンブレー大聖堂の歴史や教会制度全般を概観し、参事会に由来する資料群を「史料論」的な視点を踏まえて整理した。本論においては、まず教会参事会の音楽保護政策を検討した。そこには芸術の庇護者としてパトロンのあり方は存在しなかった。本来、礼拝(=成果の演奏)を司るべき参事会員が、その職務を下級聖職者に代行させていた事実が、教会の音楽保護政策を規定していたのである。次に、音楽家とみなされる各種の職務、すなわち「代理」「少年聖歌隊」そしてこれらを監督する「代理担当参事会員」が、職掌と在職者の伝記的情報から検討された。先行研究において、これらの諸身分は専ら「歌手」ないしは「音楽家」としてのみ扱われてきたが、本研究においては彼らが「聖職者」としての志向と「音楽家」としてのそれの間で揺れ動いていた点が指摘された。結論においては、これらの成果を踏まえ、中世・ルネサンスにおける「聖歌隊」とは、近代的な意味での「職業的芸術家」の集団ではなく、雑多ながらも「共同体」というアイデンティティによってまとまっていた人間の集合であった点が強調された。なお、これらの成果は博士論文のかたちでなされた。
著者
岩坂 泰信 TROCHKINE Dmitri
出版者
金沢大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

東アジア起源の鉱物粒子、いわゆる黄砂の性状を調べる目的で2004年の3月と10月に直接観測を行った。いずれの観測においても、気球搭載の自動インパクター集塵装置(AIS)を使用したことにより黄砂発生源地域(敦煌市、中国)上空、特に自由対流圏高度に存在する大気中粒子状物質(大気エアロゾル)の採集に成功してる。このAISは大気エアロゾルをサイズ別に採集できる2段式インパクターを3個装備可能で、高度別に試料を得られるのが特徴である。これと並行し、同様の技術で地上における大気エアロゾルの採集も行った。また、AIS放球後短時間のうちに同じく気球搭載の光散乱式粒子個数濃度測定器(OPC)を打ち上げ、どの高度にどの大きさの粒子が卓越しているのか、という粒子の分布状態も調べられた。黄砂が大陸内部で発生した後、長距離輸送される過程でどのような変質をうけるのか、この問題解明には、発生源と風下地域の両地点での比較が必要である。汚染物質と黄砂の関連を調べる目的で、東アジア有数の都市域である北京市内においても係留気球を用いた観測を行っている。各地点で採集された大気エアロゾル試料は後にエネルギー分散型X線分析器(堀場、EMAX-500)搭載の走査型電子顕微鏡(日立、S-3000N)により粒子個々に観察、分析された。その結果、発生源地域上空、自由対流圏で採集された(より長距離輸送に寄与すると思われる)黄砂の粒子表面は季節を問わず「きれい」な状態にあったことがわかった。一方、風下地域で採集された黄砂の粒子表面には硫酸塩等の存在が確認されている。黄砂に含まれる硫黄の含有量が母体となる黄砂の組成、採集時の相対湿度などに依存していたことから、風下における硫酸塩の存在は粒子表面で起きる不均一反応によりSO_2が酸化され、生成した結果であると指摘した。以上の結果は学術雑誌に投稿準備中である。
著者
イコノミデス キャサリン
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

非可換幾何学は1970年代からフランスのConnes氏に開発された分野です。その分野の色々な道具を使って、葉層構造の研究をしています。2010-2011年度の研究は以下の通りです。1-"ホロノミーをほとんど持たない"葉層構造を研究していて(葉層のコンパクトでない葉は、すべてホロノミーを持たないということ)、その葉層構造のC*環のK理論を計算しています。特に幾何学や接触構造の研究でよく出てくる"spinnable foliation"(open book decompositionから生まれる葉層構造のこと)という葉層構造の具体例の場合は、幾何学的な意味を持つ結果を得ました。K群の次元が、コンパクトな葉の数と一致しているという結果です。2-ConnesとMoscoviciの指数定理を研究しています。その指数定理とConnesの巡回コホモロジーを使って、Novikov予想を解ける方法について考えています。その方法は1990年代から研究されているので色々な群が考えられてきています。私の場合は、円の区分線形同相群の部分群であるThompson群の具体例を考えています。Thompson群のコホモロジーは、知られていますので、群のコホモロジー類を巡回コサイクルとして表して、指数定理を書いてみました。それを使って、Thompsonの群はNovikov予想を満たすことを示しました。