著者
平松 和政 WU J WU J.
出版者
三重大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

HVPE法により作製した無極性AlN単結晶基板上に高性能な深紫外LED(波長250~300nm)を実現することを目的として、HVPE法による高品質無極性AlNバルク単結晶成長の作製を行った。今年度は特に、(1)傾斜r面サファイア基板上へのa面AlNの成長、(2)a面サファイア上への高品質c面AlN成長を行った。a面AlN成長におけるr面サファイア基板の傾斜角依存性を調べることを目的として、基板の傾斜角を+5°(c軸方向)から-5°(m軸方向)に変化させた基板を用いてa面AlN結晶の成長を行った。基板の傾斜角によって結晶性が大きく変化することがわかった。特にc軸方向に傾けた基板を用いた場合、X線ロッキングカーブの半値幅が大きく減少することから、c軸方向に傾けたr面サファイア基板を用いることが、高品質a面AlNを得るために有効であることが明らかになった。選択横方向成長や中間層などの複雑な技術を用いないで簡便に高品質なAlNエピタキシャル層を得るための方法を検討した。a面及びc面サファイア基板上にc面AlNの結晶成長を行ったところ、a面サファイア基板に成長したc面AlNの方が、X線ロッキングカーブの半値幅が小さく、低転位密度で、クラックが少ない高品質な結晶を得ることができることを明らかにした。以上の結果から、高性能な深紫外LED(波長250~300nm)を実現するために必要となるAlNバルク単結晶基板を作製するための見通しを得ることができた。
著者
村山 美穂 ARNAUD Coline ARNAUD Coline
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、長期にわたる観察により母系の血縁が判明している野生ニホンザル集団を対象として、性格の進化過程の解明を目指した。本年度は、前年度までに蓄積した幸島ニホンザル集団における 1.新奇性探求の行動テスト、2.質問紙による性格評定、3.血縁関係のデータの相互の関連性を解析した。新奇物体テストでは58%、新奇食物テストでは19%の個体が全く接近しなかった。新奇物体テスト項目は1主成分、新奇食物テスト項目は2主成分に分かれた。新奇物体や新奇食物への接近が遅い個体は、接近後に食物を調べたり味をみる時間が短かった。性別、年齢、給餌、指向数、時間、季節、他個体の有無などの影響は見られなかった。メスの順位の高い個体は中・低順位と比較して、新奇物体への興味が弱い傾向にあった。母子を除く近縁個体は、遠縁個体に比べ、新奇食物への興味(調べたり味を見る行動)のスコアが似ていた。このことから新奇食物への興味は、母親から社会的に伝わる影響に加え、遺伝的な影響も大きいことがわかった。性格評定の質問20項目中、評定者間の一致度が高かった12項目を用いて因子分析を行った結果、“Loneliness”,“Subordination”, “Emotionality”の3因子が抽出された。これらの結果をまとめて国際学会で発表し、学術雑誌に投稿した。
著者
高野 量
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

PB1-F2タンパク質発現ミュータントであるウイルスをリバースジェネティクス法により作出した.作出したウイルスのウイルス学的特徴を調べるべく,これらのウイルスをヒト腎臓由来細胞株であるHEK293細胞に感染させ,遺伝子発現量の違いをqRT-PCR法により解析した.その結果,野生型PB1-F2タンパク質を有するウイルス株は,それが短い・あるいは完全に欠損している変異株と比べて,有意にインターフェロンベータ(IFN-β)の発現を強く誘導することが判明した.一方で,感染細胞内において,PB1-F2と相互作用する宿主因子を探索すべく,PB1-F2タンパク質を強制発現した細胞において免疫沈降を行った後,LC-MS質量分析器を用いて解析を行ったところ,90個の新規宿主タンパク質が同定された.感染細胞内においてPB1-F2タンパク質と相互作用し,かつIFN-βの発現に関与するタンパク質を同定するために,PB1-F2タンパク質発現ミュータントと,野生株のインフルエンザウイルスを用いて,LC-MSで同定された宿主因子をsiRNAを用いてノックダウンさせた細胞において,それぞれのウイルスを感染させ,IFN-βの遺伝子発現量をqRT-PCR法により測定した.いずれの宿主因子をノックダウンした細胞においても,IFN-βの遺伝子発現量に大きく影響する因子は同定されなかった.これらの知見から,PB1-F2タンパク質は感染細胞内において,IFN-β誘導能を示すものの,同定されたPB1-F2と相互作用する宿主因子によって介されるIFN-βの発現誘導形態を取らないことが示唆された.先行研究から,新型インフルエンザウイルスにおいて,PB1-F2を保持する変異体が,野生株と大きな哺乳類への病原性の変化を示さないことが判明しており,PB1-F2タンパク質の宿主への病原性への寄与は大きくないことが示唆された.これらの結果から,新型豚由来HINIウイルスにおいて,PB1-F2タンパク質が,宿主応答へ大きな影響を持たないことが示され,新型ウイルスの強毒化にPB1-F2タンパク質が寄与するかという本研究の目的は達成された.
著者
ハイエン E.M. (2007 2009) ハイエン E M (2008)
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は、PCクラスタやグリッドやボランティアコンピューティング環境で稼働する生体シミュレーションを作成することである.この生体シミュレーションは、大阪大学基礎工学研究科の野村研究室と大阪大学臨床医工学融合研究教育センターと共同でinsilicoIDEモデル開発プラットフォームとinsilicoSimの生体シミュレーションプログラムを開発した.今年度はinsilicoIDEの外部のinsilicoSim生体シミュレーションのためのプログラムに開発を集中に行った.insilicoSimとは、様々な記述言語で記載されているモデルを読み込んで、モデルの動きとシミュレーションの流れを表示するデータ構造に変換し、数理的なシミュレーションの計算を行うプログラムである.プログラム開発のため複数の技術を利用した.モデル記述言語で共通点があるので、共通のパーザーを開発した.これで様々な言語を読み込む場合でも、パーサーが早くモデルを分析できる.モデル計算のためデータ構造を利用するけど、メモリとキャッシュの影響で比較的に遅いである.従って、シミュレーション速度を改善するためにモデルのデータ構造は簡単なバイトコードに変換する.ボランティアコンピューティング環境でのシミュレーションの開発も困難である.複数の大規模環境でプログラムを開発するため、Python言語でPyMWのライブラリを開発した.不信頼計算資源を利用するため、スケジューリング方法と理論も開発した.不信頼資源のスケジューリング理論とPyMWライブラリでボランティアコンピューティングやグリッドの環境で生体シミュレーションを開発できるようになった.
著者
池田 真利子
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

平成26年度は①H25年度までに調査したシュプレー沿岸域における開発計画のその後の展開に関する調査,②新選定調査地である旧西ベルリン市ノイケルン地区における調査を行った.まず,ベルリン市はEU域におけるドイツの経済・政治的中枢化に伴い,リスクの低い投資先として注目され,特に住宅を含む土地価格が地域的に偏在性を示しつつも上昇傾向にある.メディアシュプレ-計画はこうした開発動向に先駆けて,河岸域の開発特性をメディア関連産業の集積誘致と特色付けることにより,地域の全体的な開発を期待したものであった.しかし実態としては,旧市有地等の売却促進であり,必ずしも市民が望む開発ではなかったことが大きな市民運動の発生と区投票の開催をもたらした.また,旧東西境界域に属する同地域では,統一前後より以下2点の要因からアーティスト・市民主導による文化・創造的利用が積極的になされていった.1点目は旧東西境界域であるために,歴史的建造物や産業・工業遺産群が未修復の状態で残存していた点,2点目は第二次大戦後すぐに旧東独領に位置したため地権の所在が不明確であった点である.こうした状況下において,1990年後半以降には一時的な土地利用形態としてテンポラリーユースが利用されていったが,こうした文化創造的な場所性は観光産業振興においても積極的役割が期待され,2014年には一部地域において同計画が見直されることとなった.一方,ベルリン市インナーシティ地区の構造再編は,旧西独地域へと及びつつあり,当該年度は中でもノイケルン地区北東部ロイター街区におけるアーティスト,小売店事業主(商業,サービス業)を対象に経営形態や開設年,立地選択理由等に関する聞取り調査を行った.その結果,ロイター街区の改善過程においてアーティストは,カフェ・バーなどの集積を誘発している点において地域改善を促しているということが明らかとなった.
著者
斎藤 進 AGRAWAL Santosh AGRAWAL Santosh
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

金属錯体触媒を用いるカルボン酸の触媒的水素化法の例はこれまでほぼ皆無問いってよい. 不均一系金属触媒を用いる方法が一般的だが, 高温・高H_2圧を必要とし副反応を伴う. Re^0/Mo^0などの異核金属クラスター触媒を用いる方法では, 芳香環も水素化されてしまうため官能基選択性に乏しい. カルボン酸の水素化が難しいのは, カルボン酸自身が酸であることが一因としてあげられる。一般的にアミドやエステルなど, 不活性カルボニル化合物の水素化は「塩基性」条件下で行われた場合に効果的である場合が多い. カルボン酸自体が提供する「酸性」条件下での水素化の一般的な指導原理が実質的にはないためであると考えられる. 今回新しい考え方として塩基性条件での反応にならないよう, ルイス酸性をもつ「高原子価」遷移金属錯体の利用を考えた。そこで様々な高原子価Re(レニウム)錯体(IReO_2(PPh_3)_2, Cl_3Re(MeCN)(PPh_3)_2など)を触媒前駆体として検討した. これらRe錯体とアルカリ金属塩基以外の添加物(塩基性が非常に低い, イオン性の高いアルカリ金属塩)と様々な多座リン系, 多座アミン系配位子を組み合わせて反応を行った. 高原子価の遷移金属を, よりカチオン性にすれば, より酸性の反応条件を提供できる, と予測した. その結果, ある種の多座リン系配位子とその配位子の誘導体群が、多価Re錯体を用いるカルボン酸の水素化に有効であることを発見した. ある反応条件下(水素圧p^<H2>=1-8MPa, 反応温度T=120~180℃程度)で, Re錯体前駆体(1-2mol%程度)とアルカリ金属塩添加物(~10mol%程度)を用いることにより, より活性の高い分子触媒の形成に基づくカルボン酸の触媒的水素化に成功した。本成果も含めて最終的にはH24年度1件, H25年度2件, 計3件の特許出願にっながった.
著者
西岡 龍彦 ATRANASTADIS Basil Vasileios ATHANASIADIS BasilVasileios
出版者
東京芸術大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

・5曲の新作を作曲。いずれも日本の笙または20弦箏を中心に据えて作曲。・東京芸術大学千住校地スタジオAにおいて新作を全て録音。録音は亀川徹教授の監督のもと、9人の日本人音楽家の演奏にて実施。・日本をテーマにした4つのコンサートをカンタベリーフェスティバル、ナカス音楽院、Vafoupouleioコンサートホールなど英国とギリシャで開催。・英国で活動する中国人作曲家May Kay Yauに日本の笙を取り上げた新曲を委嘱。作品は英国とギリシャにて演奏。・スタジオでの録音とライブ演奏の様子を高品質のビデオで撮影し記録映像をウェブ上で無料アクセス可能にして公開。・2013年11月にアテネで開催したコンサートに列席していた日本大使と参事官と会い、アテネの日本大使館は、来年開催予定のギリシャでのコンサートの資金援助を約束してくれた。・今回芸大で録音した作品を、英国のレコード会社が1枚もしくは2枚のCDにし来年のリリースすることを約束している。・わびさびと音楽に関するドキュメンタリー映画製作を目指し、英国で活動する映画監督Karolina Malinowskaと共同で資金援助の申請を予定している。
著者
浅野 豊美 WU Karl WU Karl
出版者
中京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

In March and June of 2014, respectively we presented each paper at the annual conference of Association for Asian Studies in Philadelphia and the North American Taiwan Studies Association conference in the university of Wisconsin-Madison.Particularly in the later one we joined in the same panel on the basis of the findings of our research projects.Through participating in academic occasions like these Dr. Wu had a chance to share his work with other specialists and discuss with them on the findings. Also for me, a continued interchange and international network of research activities with those scholars in Canada and the United States has been established through D. Wu's cordination and Taiwan Studies' network in English. Further academic cooperation on migration issues is highly expected.
著者
洲崎 雄
出版者
岡山大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

多くの生物の繁殖行動は、時計遺伝子によって生じた概日リズムによる時間制御を受けている。交尾を行うタイミングが慨日リズムに支配されていることが、いくつかの研究で示されているが、交尾に付随して起こるその他の繁殖行動と概日リズムの関係を調べた研究例はない。そこで、本研究では、繁殖行動の慨日変化が報告されているホソヘリカメムシRiptortus pedestrisを用いて、慨日リズムがオス間闘争に与える影響を調査する。24年度では、概日リズムの周期が短い個体と長い個体を選抜した系統を作出し、概日リズムに対する選抜が繁殖行動にどのような影響を与えるかを調べる予定であったが、選抜を行う際に、幼虫の死亡率が高かったため、系統の確立および実験を行うことができなかった。そこで、24年度から25年度にかけて、概日リズム選抜をかけていない個体を用いて、闘争行動の日周変化を調べた。その結果、本種のオス間闘争は明期後半に最もよく観察された。したがって、本種のオスの攻撃行動は、概日リズムの影響を受けていることが示唆された。本研究の結果は、国際誌『Entomological Science』に受理された。また、本種の性選択について、闘争行動以外にほとんど知見がないため、本種の配偶者選択についても実験を実施した。メスの配偶者選択で支持される形質と、配偶者選択によってメスがどのような利益やコストを受けているかを調査した。半きょうだい解析の結果、オスの魅力度は求愛率、武器形質サイズと正の遺伝相関を持っていた。また、オスの魅力度と求愛率、武器形質サイズは有意な遺伝分散を持っていた。したがって、魅力度の高いオスとの交尾は、メスにとって、繁殖成功度の高い息子を得るという間接的利益があることが判明した。本研究の結果は、国際誌『PLo SONE』に掲載された。さらに、本種の求愛率と体サイズ、武器サイズの関係を調べたところ、求愛率は体サイズ、武器サイズと負の相関を示していた。これは、闘争能力の低いオスはより求愛行動に投資するという代替繁殖性術を採っている可能性を示唆している。この結果は、国際誌『Entomological Science』に投稿され、改訂後受理という回答を得ている。
著者
中島 秀太
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の目的は、量子縮退が実現されている原子種の中で最も軽いアルカリ原子であるリチウム(Li)と、最も重い原子であるイッテルビウム(Yb)を、個別にあるいは同時に多様な光トラップに導入し、より広範な強相関系の「量子シミュレーション」を実現することである。本年度はまず、前年度に構築した1次元光超格子系の2波長光格子の相対位相と振幅を動的に制御することで、"電荷ポンプ"と呼ばれる(量子化された)原子の移動現象(ポンピング)を研究した。実験には相互作用が無視できる2成分フェルミオン171Yb原子を用い、ポンピングによる光格子中での原子の移動をCCDカメラ上の吸収像から直接観測した。この"量子化"は、量子ホール効果と同様に「チャーン数」と呼ばれるトポロジカル不変量と直接関係しており、移動量の測定からこのポンピングにおけるチャーン数を評価した。またポンピングの有無が、超格子パラメーターの時間変化の軌跡が特異点を囲むか否かという"トポロジー"の違いで決定されるというRice-Mele模型にもとづく予言を確認するため、実際にトポロジカルに異なる2通りのポンピングサイクルを構築し、この両者のポンプ量に明確な違いがあることを実験で明らかにした。また後半では、ETH Zurichの量子光学研究室に滞在し、冷却Li原子集団をこの系のフェルミ波長の精度で操作・観測出来る高分解能光学系の技術を習得するとともに、この実験系を利用した冷却Li原子を用いたメゾスコピック系の量子シミュレーションの研究を行なった。特に、デジタルミラーデバイス(DMD)を利用した冷却原子系に対する走査型ゲート顕微法を開発し、光トラップによる"量子ポイントコンタクト"ポテンシャル構造の実空間観測、およびトラップ中の冷却原子の量子コヒーレンスの直接観測に成功した。このDMD技術は今後の冷却原子系への応用が期待できるものである。
著者
木村 文信
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

本研究は, 柔軟物に触れた際に感じる触感である硬軟感を, 装置使用者に対して再現提示するシステムを構築することを主題とした. このようなシステムを実現するにあたり, 次に示す2点を研究対象とし, 従来研究で想定および対応できていない点に対応させることを目的とした. (1)硬軟感を提示する触感提示装置の開発. (2)硬軟感情報を取得する触覚センサの開発.(1)に関しては, 再現される柔軟物体が弾性物質で構成される均一柔軟物体(単調な硬軟感)に限定されていたという点が従来研究の課題であった. 本研究ではこの課題を克服すべく, より多様な硬軟感の再現に取り組んだ. 柔軟物体例として, 「厚みが有限な柔軟物体」「しこりを含む柔軟物体」を想定し, それぞれの提示手法を実現することで硬軟感提示の多様化を検討した. 前年度で開発した, 張力制御された柔軟シートで指先を包み込む機構によって上記柔軟物の提示を行った. 厚みが有限な柔軟物に指先を押し込んだ際に得られる触感を「底着き感」と命名し, その提示法を提案した. 底に着いたと感じられる点からシートの張力制御によって指先の圧分布を変え, 底着き感を再現した. 提案手法によって表現される柔軟物の厚みが可変であることを確認できた. しこりを含む柔軟物に関しては, 前年度から検討してきた提示手法をさらに発展させ, 対象物をなぞっている際に感じられる触感が生成できることを確認した.(2)に関しては, 前年度で開発した光弾性触覚センサの計測値に対する情報処理手法の検討を行った. 情報処理によって対象物の特徴を抽出する手法を提案した. また, 提示装置と統合して遠隔提示を実現するため, 抽出された情報を提示装置駆動に必要な情報へ変換する手法を考案し, 遠隔提示システムの試作を行った. 以上によって, 硬軟感提示の応用先の一つである遠隔触診システム等の開発に必要になると考えられる知見を得ることができた.
著者
平井 芽阿里
出版者
國學院大學
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の目的は、本土在住の沖縄県出身者の家族とコミュニティに付加された「沖縄人」、「沖縄」という表象を、コミュニティに所属する個々人の日常的実践の分析を通して改めて多元主義的(Pluralism)視点から再検討することである。同時に、本土在住の沖縄県出身者と故郷との宗教的連帯の実態を解明し、最終的に移住者の家族とコミュニティに関する理論構築を目指すものである。平成26年度は、過去2年に行った本土在住の沖縄県出身者の家族とコミュニティに関する基礎的なデータの整理と分析に加え、追加調査として、沖縄での2回の実地調査および愛知県在住の沖縄県出身者個々人へのインタビュー調査を行い、同時に成果取りまとめと理論構築のための文献資料調査も行った。調査については、4月から翌年3月にかけて、毎月開催される愛知県在住の沖縄県出身者が加入する愛知沖縄県人会連合会の「愛知の沖縄調査会」に参加し、愛知県の沖縄系コミュニティに所属する個々人の移住経歴や移住動機についての調査を行った。この調査の成果は、研究成果に基礎的なデータとして反映できただけでなく、愛知県在住の沖縄県出身者の記録として、「愛知の沖縄調査会」へも還元する予定でいる。また4月から12月にかけて、愛知県名古屋市在住の沖縄県出身者個々人へのインタビュー調査を広く行い、貴重なデータ収集が可能となった。11月には、沖縄県宮古島で移住者と故郷との宗教的連帯に関する補足調査を行い、大きな成果を得ることができた。
著者
中村 航
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

最新の観測および理論計算の結果をもとに、新しい軽元素合成シナリオを提案した。Ib/c型超新星になるような星の周りには、その星が進化の過程で放出した物質が密度の高い星周物質を形成しているはずである。爆発で加速された星の外層が、星周物質と相互作用することによって軽元素が合成されるであろう。特に、星の表面にHe/N層が残っていれば、破砕反応による^9Be生成やHe+Heの融合反応による^<6,7>Li合成が効率的に起こることが期待される。Hirschi博士(キール大学)から提供を受けた金属欠乏星のモデルを初期条件として超新星爆発の数値計算を行い、外層の加速を調べた。また、そのモデルに対応する質量放出のデータをもとに星周物質の分布を求め、加速された粒子が星周物質を通過する際のエネルギー損失をモンテ・カルロ法によって算出した。計算の結果、爆発で加速された粒子の大部分は星表面近くの密度の高い星周物質領域でエネルギーを失い、従って軽元素合成反応もその領域でほぼ完結してしまうことがわかった。これより、合成される軽元素の量や比は、星表面と表面近くの星周物質の化学組成に強く依存することが予想される。この結果を受けて、銀河ハロー中の金属欠乏星の表面に存在する軽元素は、その星が形成される引き金となった超新星の特性を反映しているのではないかと推測した。軽元素の相対比から表面組成を、軽元素と酸素などの重元素との比から爆発エネルギーを算出することが可能である。^6Li量が測定されている最も金属量の少ない星LP815-43の観測から、この星は、質量比にして(He,C,N,0)=(0.95,0.01,0.03,0.01)という表面組成を持つ星が1.2×10^<52>ergsの爆発エネルギーでlb型の超新星爆発を起こしたときに、星間空間に放出されたガスから形成されたと結論付けた。
著者
高田 裕光
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

うつ病心理教育の為のweb自己カウンセリングシステムは、これまで我々によって試行されている(宗像、高田ら、2009)。本研究は、回復期統合失調症の心理教育の為に家族や回復期にある本人が利用できるWEB心理教育システム作成を目的とし、本年度はまず、そのコンテンツ作成計画を立案した。統合失調症は、難治化させやすい遺伝的気質を持つ症例とそうでないものがある。その疾患の性質と難治化させやすい遺伝的気質との混同が、一般のみならず専門家にもみられる。遺伝的気質の弊害を克服するために特定のセルフケアによる心理教育をする必要がある。なかでも、(1)調節物質セロトニン神経伝達が不足した場合、緊張物質ノルアドレナリン分泌を調節しがたい損害回避遺伝子を持つため、神経質で思い込みや妄想を持ちやすい不安気質者には、クールダウンの為のセルフケア、また報酬物質ドパミン神経伝達が不足した場合は、報酬不全の遺伝子があり、生真面な執着気質者には「まあいいか」と心の声を10回以上行うというセルフケア、また鎮静物質ギャバ神経伝達不足も伴うことから、対人緊張をさける単独性指向がある自閉気質者には心のサポーターをもつセルフケアが必要である。(2)難治化する統合失調症は、これらの気質を持つ症例が一般的であるので、思い込みや妄想、感情的巻き込み、強い・高い・急激な音声などの高感情表出を避ける環境形成を家族や援助者に心理教育する必要がある。(3)緊張物質ノルアドレナリンを減少させるためにメジャーリーガーがガムを噛むように、「関係者以外に愚痴る(咀嚼運動)」セルフケアを自己練習したり、また相手の意見を繰り返し、私表現で自分の意見をつぶやく自己練習が必要であり、これらをweb上で行うプログラムを計画した。
著者
山田 有芸
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

家庭内言語が外国語であるニューカマーの児童(以下、ニューカマーの児童)の支援ニーズを包括的に捉え、支援の実態と有効な支援について検討を行った。本研究の成果は、中学生以上が主に対象とされてきたニューカマーの子どものうち小学生児童の支援ニーズに特化し、事例検討、事例校検討、質問紙調査、インタビュー調査、フィールドワークという様々な調査手法を用いて彼らの支援ニーズを詳細に明らかにした点にある。特に学校における支援ニーズに着目し、学校で提供できる支援と提供者(支援者)について二ューカマーの児童本人への調査を通じて明らかにした点に特徴がある。本人が日常的に発する支援ニーズを明らかにすることで、日常的かつ長期的な学校支援のあり方について重要な示唆を与えることができると考える。交付申請書では研究課題を5つ提示したが、研究を進める過程でニューカマーの児童本人の支援ニーズをより具体的に検討するため研究課題①~④の分析の再検討を行った。まず、ニューカマーの児童に提供される支援についてソーシャルサポートの観点から詳細に整理するため、研究課題①~②(二ューカマーの児童の支援ニーズを回顧法または観察によって明らかにした。)の分析方法を再検討し、最終的な分析結果を出した。次に、研究課題③では学校教育実践に多大な影響力をもつ学校教員の役割に着目してデータの読み込みを行い、学校教員が捉えるニューカマーの児童の支援ニーズと学校実践の実態を明らかにする分析を最終的に行った。研究課題④では、様々な母語背景をもつニューカマーの児童を対象としたインタビュー調査を実施した。母語の違いを越え児童に共通の支援ニーズと個別特徴的な支援ニーズを過去、現在、未来という異なる時間軸をもとに取り上げた。また、担任と日本語指導担当教員に質問紙調査を行い、教員間で支援ニーズの捉え方に違いがあることを指摘した。
著者
田中 友香理
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、明治期における「転向」の学者として知られる加藤弘之の国家主義思想を解明することで「明治国家の思想」の形成―変容過程を明らかにし、新たな明治国家像を提示するものである。加藤弘之は、初代東京大学綜理、教科書調査会会長等を歴任し生涯にわたって文部行政の枢要な地位に在り続け、また元老院議官、貴族院議員として明治国家の形成を担った重要な人物の一人である。それだけでなく、天賦人権論者から「優勝劣敗」の思想家へ転じた「転向」の学者としても知られ、近代日本思想史を解明する上でも重要な人物である。そのような人物の国家主義思想の究明することで、明治国家とは何であったかという問いに一つの答えを提示できるといえよう。本研究の具体的な課題は、第一に、加藤の言動を政治史的文脈に還元して同時代的位置づけを明らかにすること、第二に、加藤の知的基盤である東京大学(書生社会)に着目しその知的環境を分析すること、第三に、加藤の国家主義思想の根幹にあった「進化論」を解明し、初期の立憲政体論から最晩年の「族父統治論」にいたる思想形成の過程を明らかにすることである。昨年度は、雑誌論文および博士論文を執筆することで、上記の課題を解決した。第一の課題に関して、元老院会議における地方自治制関連法案審議、貴族院会議における民法、条約改正論等に関する審議を分析し加藤の政治的立場を剔出した(博論第3、5章)。第二の課題に関して、加藤が主宰した雑誌『天則』の誌面をメディア史的手法によって分析し、書生社会における思想の「横」の広がりを把握し、明治憲法制定から日清戦争までの「進化論」と「日本主義」の関係を考察することができた(雑誌論文、博論第4章)。第三に、従来「転向」とされてきた加藤の思想を進化論思想の展開として捉え直し、それを基底として国家思想がいかに構築されたかを明らかにした(博論第1~5章)。
著者
松本 重貴
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2000

暗黒物質の有力な候補の一つとして、Neutralino LSPがある。このNeutralino暗黒物質を職説、間接的に捕らえようとする観測が現在行われており、また多くの将来観測も計画されている。これらの観測のうち、我々の銀河のハローにおけるNeutralinoの2光子へ対消滅からくるガンマ線の観測は、背景ガンマ線に対して特長的なシグナル(Line signal)を示し、またその観測から暗黒物質の性質も精度よく決まることから注目を集めている。この対消滅過程は輻射過程であり、1-loopの計算はすでに行われている。この計算により、NeutralinoがHiggsino-likeあるいはWino-likeで比較的重い質量であるとき(数百GeV以上)、断面積はWボソンの質量でのみ抑制され、Neutralinoの質量に依存しなくなることが明らかになった。これは、もしNeutralinoが重いとすると、この観測は他の観測に比べ非常に有効になる事を意味する。一方、この素過程は理論のユニタリティーにより上限がつく。実際この制限はNeutralinoの質量の2乗に反比例している。このため質量が充分大きくなると、どこかで1-loopの計算は破綻し高次の影響と取り入れる必要が出てる。今回、Neutralinoの質量から2光子への対消滅断面積に対する高次の影響について調べた。具体的には、非相対論的場の理論の手法を応用し、これら高次の影響を比較的簡単に計算する事の出来る有効ラグランジアンを構成した。またこのラグランジアンを用いて、NeutralinoがHiggsino-like及びwino-likeの時に、どのくらいの質量で1-loopの計算が使えなくなるかを定量的に評価した。結果、wino-likeの時には約10TeV以上、Higgsino-likeの時には約1TeV以上のときに、1-loopの計算が破綻することを明らかにした。
著者
反田 美香
出版者
近畿大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

本研究では、完全WKB解析の・もとでGauss超幾何微分方程式におけるParametric Stokes phenomenaについて研究を行った。すなわちGauss超幾何微分方程式に大きなパラメータを導入した方程式で考察を行った。Parametric Stokes phenomenaは形式解であるWKB解のパラメータに関するStokes現象の解明を行うものである。大きなパラメータを導入しているためParametric Stokes phenomenaはパラメータを無限に飛ばした時の漸近挙動を解析するために重要な関係式である。また、前年度では非退化のStokes幾何ごとにVoros係数のBorel和を計算したが一部のみだった。そのためすべての場合でVoros係数のBorel和を計算し、関係性を考察した。この結果によりあるinvolutionでパラメータを移したときのParametric Stokes phenomenaを直接計算せず、この関係性を利用して導き出せることができた。さらに超幾何級数のパラメータを無限に飛ばした時の漸近挙動は交通流モデルや力学極限を考察するために必要である。よって完全WKB解析と超幾何微分方程式との関係が明らかになれば、Parametric Stokes phenomenaを利用することにより交通流モデルや力学極限など物理の研究の発展にも繋がると考えている。また、超幾何微分方程式におけるWKB解のalien derivativeについても研究を行った。このことによりWKB解のBorel変換はfixed singularityと呼ばれる特異点を持つことが確かめられた。このfixed singularityを避けながらWKB解のBorel和の解析接続を考察することによりWKB解のalien derivativeを導きだした。また、WKB解のalien derivativeの定義を利用してParametric Stokes phenomenaを導きだせた。Parametric Stokes phenomena、WKB解のalien derivativeいずれも先行結果はWeber方程式、Whittaker方程式についてであるので、不確定特異点を持っ方程式についての結果である。一方、自身の結果はGaussの超幾何微分方程式について考察しているため確定特異点のみもつ方程式について結果を得ている。この結果が自身の結果の重要な部分であると考える。
著者
佃 洸摂
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

本年度は大きく二つの研究課題に取り組んだ。一つ目の研究では、語の上位下位関係を用いて、入力クエリに対する同位語らしい語および上位語らしい語を発見する手法を提案した。提案手法では、語の上位下位関係を基に作られる2部グラフに対してHITSアルゴリズムを拡張した手法を適用することで、同位語らしさ、上位語らしさを求める。例えば、「落合博満」というクエリに対しては、同位語らしい語として「野村克也」や「イチロー」といった語が、上位語らしい語として「野球監督」や「野球選手」といった語が得られることが期待される。 実験では、クラウドソーシングを用いた大規模な実験を行い、提案手法の有用性を明らかにした。二つ目の研究では、社会認知量に基づく典型度と、データ量に基づく典型度に差がある情報は意外であるという仮説の基、意外な情報の発見を目的とした。特に語間の関係の典型度に着目し、上記の仮説を検証するために、クラウドソーシングを用いて社会認知量に基づく関係の典型度および関係の意外度を取得した。さらに、語の認知度および同位語を考慮することで社会認知量に基づく典型度の推定手法を提案した。最後に、社会認知量に基づく典型度、データ量に基づく典型度、オブジェクトの認知度を用いて情報の意外度の推定を行った。本研究の手法を用いることで,既存手法により求められる関連度は高いが関係の認知度が低い語を「非典型的な語」としてユーザに提示することが可能になった。
著者
水野 陽一
出版者
広島大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

わが国において、被害者参加制度の導入以後、犯罪被害者に対して訴訟参加者としての地位が認められることになった。被害者保護の重要性について疑いはないが、一方で無罪推定原則が妥当するはずの刑事訴訟において、なぜ「被害者」という存在が観念されうるのか、といった問題もっとに提起されている。公判における被害者参加が、被告人の防御権に対して大きな影響を与えうるのだということを考慮に入れた上で、我々は刑事訴訟における被害者保護の充実を図ると同時に、それによって被告人の防御権が侵害されないように十分な配慮を図る必要がある。被害者には、本来犯人に対して刑罰の賦課を求めることが許されるものである。しかしながら、現行の刑事訴訟制度において、被害者に対して認められる権利は、公益の範囲内に限定されるものであるといえる。すなわち、被害者には公益を損なわない範囲で適正な刑罰権の執行を求めることが許されるものであるといえるが、当該権利が被害者の恣意的な意思に基づいて行使されることは許されない。また、刑事訴訟の目的は、現行制度において適正な刑罰権の執行であるとされるべきであり、現状において、刑事訴訟における被害者に対して行われるべきは、その損害回復に重点を置いた施策であるように思われる。この点について、ニュージーランドにおける修復的司法制度の議論に関わる研究が有益なものであり、被害者の損害回復にとって社会共同体の果たすべき役割が重要なものであり、被害者保護に関して、刑事訴訟外における制度的充実を図ることが重要であることを明らかにした。以上の成果を基礎として、来年度以降刑事訴訟における被害者の法的地位についての研究を更に深化させていく所存である。