著者
高田 昌広 (2012) MORE Anupreeta
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

We successfully conducted two lens searches in Space Warps (SW, spacewarps.org) in FY2013. I led the first SW lens search and analysed the results. I made comparisons between the performance of humans vs robots and we find a fairly large number of lens candidates which were missed by previous robotic searches. Our work is summarized and presented in Paper I- http://arxiv.org/abs/1504.06148 and Paper II - http://arxiv.org/abs/1504.05587 (to be submitted to MNRAS).From the second lens search which was conducted live on BBC in FY2013, an intriguing lens candidate was discovered. We used several world class telescopes including Subaru (owned by Japan) to confirm that this truly a lens and studied the properties of the lensed galaxy such as the star-formation rate. I produced the lens mass model which calculates how magnified the lensed galaxy is in order to derive the true luminosity of the lensed galaxy and other such properties (http://arxiv.org/abs/1503.05824, MNRAS submitted).We also enabled mass modelling of the lens candidates for the citizens (Kueng et al. 2015) and found that citizens produce fairly similar results compared to experts in this task. This is encouraging because assistance from citizens on mass modelling will become crucial as we embark upon the discovery of thousands of lens candidates.The resources from SW have legacy value e.g. the simulated lens samples that we generate are useful for testing other lens finding algorithms as we did in Chan et al. (2014, http://arxiv.org/abs/1411.5398)
著者
川野 羊三
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

遠方クェーサーが視線上の銀河によって強い重力レンズ効果を受けているレンズ系が70以上報告されている。これまでの詳細な観測と理論的研究により、レンズ銀河が光で見える様にほぼ楕円形で矛盾がないことが分かっている。しかしながら、いくつかのレンズ系では単純にフィッティングしたのでは像の明るさがうまく再現できない。その原因については未だ決着ついていないが、ダストなどによる影響、銀河のサブストラクチャ、使っていたレンズモデルが単純すぎる等議論されている。そこで、私はより複雑なモデルを使いさらに詳細なフィッティングを4つのレンズ系に対して行った。天文学的な不定性により3つについては結論できないが、B1422+231はサブストラクチャによりレンズ効果がなくても銀河群の摂動をよりとりいれることにより説明できることが分かった。よって、これまでサブストラクチャレンズ効果とされてきたレンズ系もレンズモデルの見直しやさらなる詳細化が必要になる。また、他のレンズ系に対してもこれまで見落とされていたフィッティングの誤りを明らかにした。そして、その陥りやすい誤りについても簡単に起因を説明できることが分かった。また、PLFというモデルを使った線形方法を使うことで簡単にハッブル定数などレンズ系から算出できることも分かった。最近示された同様の方法との比較と改善案についても明らかにした。この結果については、2004年1月アトランタで行われたアメリカ天文学会で発表した。また、日本天文学会誌PASJにも受理され4月に発行される予定である。
著者
亀井 優香
出版者
長浜バイオ大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

出芽酵母は細胞レベルの老化・寿命研究モデル生物として非常に有用である。本研究では、遺伝学、トランスクリプトミクスおよびメタボロミクスの手法を駆使し、分裂寿命(一つの細胞が老化して死ぬまでの出芽回数)の決定機構および老化の進行に伴う細胞の変化を明らかにすることを目指した。本年度は前年度までに得られた老化細胞のトランスクリプトーム解析から新規の寿命制御機構を発見した。老化細胞のトランスクリプトームおよびメタボローム解析による細胞老化機構の解明前年度までに、細胞老化の進行過程での変化を知るために、老化段階の異なる細胞(1、4、7および11世代)を調製し代謝と転写の変化に着目した。ピルビン酸に加えてTCA回路の中間代謝物量が老化の進行に伴い増加し、多くのアミノ酸は次第に減少していた。これらの代謝変化に対応する酵素遺伝子の転写量変化が見られたことから、老化細胞での代謝の変化は転写の変化が原因であると考えた。7世代から11世代にかけて転写量が増加した遺伝子に着目すると、定常期で転写が誘導される遺伝子群が多く含まれていた。以上の成果をJournal of Biological Chemistry誌で発表した。ビタミンB6による分裂寿命制御11世代で特に転写量が増加した遺伝子の中で、ビタミンB6合成に関与するSNZ1 遺伝子に着目した。SNZ1 遺伝子を破壊した株の分裂寿命は野生型株よりも短かった。ビタミンB6トランスポーターをコードするTPN1 遺伝子の破壊株は snz1 株と同様に短寿命であった。分裂寿命測定培地に過剰量のビタミンB6を加えると、snz1 とtpn1 株の寿命が回復した。以上より、出芽酵母の分裂寿命にはビタミンB6が必要であることを明らかにした。
著者
原田 昇 JIAO Pengpeng
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

1)居住地選択モデル世帯の嗜好の変動を表現するために、ミックスドロジットモデルを用いることとし、加えて、目的地間の空間的相関を表現するために、誤差項の定式化に工夫した。また、世帯の異質性を考慮するため、クラスター分析を用いた。次に、複雑な構造を持つモデルのパラメータを推定するため、MSLEアルゴリズムを用いることし、Gauss codeを用いてプログラムを実装した。具体的に、中国・大連のパーソントリップ調査データより抽出した11675世帯を対象にモデルを推定した。特定した五クラスター別にミックスドロジットモデルを推定し、統計的に有意な結果を得ることが出来た。この成果は、東アジア交通学会のジャーナルに掲載された。2)士地利用パターンと交通需要の関連分析交通需要の発生・集中と土地利用の関連性を明らかにするために、大連ならびに藩陽の二都市の土地利用データと交通需要データを整理し、比較分析を行った。統計的に有意な関係式を構築することが出来た。これらは、土地利用・交通統合モデルの基本的要素として重要である。3)居住地と就業地の同時選択モデル居住地と就業地の同時選択は、居住地を先に決定する世帯と就業地を先に決定する世帯が混雑していると考えられる。この問題をここでは、条件付選択モデルと順序選択モデルを組み合わせた潜在クラスモデルとして定式化することを提案し、具体的に推定することによって、その有用性を示した。条件付選択モデルはミックスドロジットモデルによって表現し、順序選択モデルは二者択-のロジットモデルにより表現した。モデル推定プログラムは、居住地選択モデルと同様に、MSLEアルゴリズムを用いて開発した。具体的に、中国・大連の11675世帯より、就業者が-名の3775世帯を選出し、モデルを構築した。ここで開発した手法は、居住地と買物先の同時選択モデル、就業地と買物先の同時選択モデルにも適用可能である。
著者
小島 渉
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

カブトムシの体サイズは一つの個体群において大きくばらつく。これまで幼虫の発育条件が成虫の体サイズを決める主要な要因であると考えられてきた。私は実際に幼虫の餌条件や飼育密度を操作し、高密度条件下や発酵のあまり進んでいない腐葉土を食べたときに、幼虫の成長速度が低下すること、体の小さな成虫が羽化することを確かめた。さらに、母親の産む卵サイズも幼虫の発育に影響を与えることが分かった。体の大きい母親は大きな卵を産む傾向があり、これが卵を通した母系効果として子に伝わっている可能性がある。カブトムシは個体群内だけでなく個体群間においても体サイズが大きくばらつく。それらの変異を定量的に調べるために、国内の5箇所において成虫を採集し、体サイズやオスの角の長さを比べた。その結果、只見(福島県)や屋久島で採集された個体の体サイズは、関東地方などに比べ、ずっと小さいことが分かった。一方、体の大きさに対するオスの角の長さは、只見の個体群は関東のものに比べ変わらないが、屋久島の個体群は短いことが分かった。それぞれの個体群のメス成虫から採卵し、それを同一の条件で育てたところ、只見と屋久島の個体群はやはり関東の個体群に比べ、やはり体サイズが小さかった。つまり、只見と屋久島では、幼虫の生育条件が悪いという理由のみで、野外で小さい成虫が現れるわけではないと考えられる。遺伝的な要因や卵サイズを通した母系効果が影響を与えている可能性が高い。現在、体サイズに対する角の長さの解析を行っている。
著者
小澤 永治
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

今年度は,前年度の研究経過によって得られた結果をもとに,継続して大学附属の相談機関,児童相談所,児童養護施設等と連携し,心理臨床的援助が必要な児童・生徒とした臨床実践・臨床研究を行った。臨床実践研究の一つとして,前年度に開発した"不快情動への態度尺度"を用い,児童・生徒のストレスマネジメント教育の効果との関連について検討した。ストレスマネジメント教育の手法としては,情動への態度と関連の深い身体感覚や情動体験を取り扱う臨床動作法を用いた。対象者を不快情動への態度尺度の2因子得点の結果によって4群に分類し,2因子とも得点が低く不快情動への態度が乏しい群では,動作法体験中に"弛緩感・爽快感","動作への気づき"などの自体感が低く,集団で実施する中ではリラクセイション体験を得ることが乏しかったと考えられた。また不快情動への"切りかえ可能性"が高く,"拒否感"が低い群では,動作法中の肯定的な体験や自体への気づきが多く記述され,特に有効であった可能性が示された。このように,"不快情動への態度"のあり方によって臨床動作法の導入にあたっての配慮を変えてゆく必要性が考えられた。また,児童養護施設に入所している小学校5年~中学校1年生の生徒5名を対象に,1年間週1回~月1回の頻度で個別的に臨床動作法と遊戯療法を併用した心理療法の実践を行った。個別での継続的な心理療法によって,行動や情動制御の改善を図ったものであるが,各対象者によって臨床動作法の受け入れや治療過程の差異が見られており,これらについて"不快情動への態度"という観点から考察を行った。以上の調査研究・実践研究より,思春期のストレスに関して情動発達の視点から新たな検討が行われ,今後の心理臨床実践に有意義な知見が得られたと考えられる。
著者
松田 一成
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本研究はマウス胚エピブラストより単離したepiblast stem cells (EpiSCs)を利用して、神経板の発生における転写制御ネットワークを明らかにすることを目的とする。マウス胚の神経板はE7.5以降、転写制御の異なるいくつかの領域に分かれて発生する。神経板の最前部(anterior forebrainの前駆体)は、Hesx1遺伝子の活性化で特徴付けられる。EpiSCの内在のWntシグナルをDkk1によって抑制すると、最前部神経板細胞を効率よく発生させることを明らかにした。また、Wntシグナルの抑制の効果がHesxlの5'エンハンサーを介してHesx1の発現を制御していることも示した。Dkk1はマウス胚においてE6.5-7.5ではallterior visceral endoderm (AVE)で発現しているが、E7.5-8.5はanterior mesendoderm (AME)で発現している。どちらのDkk1の効果が最前部神経板の発生に重要かを調べた。Episcの神経板細胞の発生がマウス胚の発生ステージに対応していることを利用した。神経板細胞分化条件で、時間限定的にWntシグナルを抑制した。その結果AVEでのDkk1の発現が最前部神経板領域の発生に重要であることがわかった。現在、開発したEpiscの神経板発生モデルを利用して、神経板を発生させる転写制御ネットワークを解析している。具体的にはOct3、Sox2、Otx2、Oct6、Zic2といった転写因子のEpiSCと神経板細胞における結合領域を、ビオチン化転写因子を用いた新しいChIP-seq法を用いて、網羅的に解析している。これまでに発表されたデータ、例えばLodato et al., 2013などのES細胞や神経系前駆細胞でのChIP-seqのデータと比較することで、ES細胞、EpiSCs、神経板細胞での転写因子の結合領域の違いを明らかにしつつある。
著者
本郷 一美 GUNDEM CanYumni GUNDEM Can Yumni
出版者
総合研究大学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究は、日本国内におけるプロジェクトとトルコにおけるプロジェクトの2つの部分からなる。日本国内のプロジェクトでは、日本の古代-中世の遺跡から出土したウマのサイズと形態に関するデータを収集し、日本への家畜馬の導入経緯や日本固有の品種の成立過程について明らかにすることを目的とした。関東地方と長野県の古代~近世の遺跡および関西地方(奈良、大阪)の古代~中世の遺跡出土のウマの歯および四肢骨の計測データを収集した。日本の家畜馬の体格の時代的な変遷を考察するための資料が蓄積されるとともに、ウマの生産地である長野県佐久地方出土のウマの形態やサイズと、古代、鎌倉時代、江戸時代にそれぞれ政治や経済の中心でウマが供給され仕様された地域との比較が可能になりつつある。また、多数のウマが出土している長野県、神奈川県、茨城県の4遺跡から出土したウマ遺体の歯にみられる異常な摩耗や、後頭部、脊椎骨、中手骨、中足骨にみられる骨増殖などの病変の有無を観察し記録し、ウマの用途について考察した。トルコの遺跡出土動物骨の資料収集プロジェクトに関しては、総研大に保管されているトルコ南東部の新石器時代遺跡から出土した動物骨の分析を行うとともに、トルコの中央部、南東部の遺跡出土動物骨の資料を収集する目的で海外調査をおこなった。特にトルコ中央部のテペジク遺跡では、野生のウマが出土しており、ユーラシア大陸に生息した野生馬の重要な資料を得ることができた。
著者
左近 幸村
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

4月10~13日にアメリカのコロラド州デンバーで開催されたWestern Social Science Association 55^<th> Annual Conferenceに出席して、"Russian Transatlantic Liners after the Russo-Japanese War : Pssport Issues of Jewish Immigrants"と題する報告を行った。また6月1日に東京大学本郷キャンパスで開催された社会経済史学会第82回全国大会において、「ロシア東亜汽船社と義勇艦隊―20世紀初頭のユダヤ人移民問題との関連から」と題する報告を行った。これら国内外での報告を通じて、ユダヤ人移民問題との関連からロシア海運史研究の意義を広くアピールするとともに、多様な専門分野の研究者から今後の研究方針についての具体的なアドバイスを得ることができた。平成25年度は、9月15日と16日に早稲田大学で行われた社会経済史学会の次世代研究者育成ワークショップの開催に、受入教官である矢後和彦教授とともに尽力し、その中で自身も「帝政期ロシア極東における移民と民族問題」と題する報告を行った。本ワークショップを通じて、自身の研究課題の改善点を見出すとともに、組織者としての能力に磨きをかけ、さまざまな先生方や同世代の研究者たちと交流を深めることができた。出版物としては、拙稿「帝政期のロシア極東における『自由港』の意味」が掲載された『東アジア近代史』16号が刊行された。その末尾で示した20世紀初頭の東アジアとバルカンの東西比較の問題は、今後取り組むべき大きな課題である。現地調査は、8月20日~30日にウラジオストクの国立極東歴史文書館で行い、ロシア極東の海運に関する公文書を閲覧した。閲覧した史料は、上記9月のワークショップの報告で用いたほか、今後の研究発表に活かしていく。
著者
易 平
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

20年度において、申請時の研究計画通りに、東アジアにおける国際法受容過程をめぐり研究を進めていた。昨年度の研究実績を踏まえた上で、そのうち最も基礎に当たる部分--戦争観の受容過程に重点を据えて考察を展開していた。本研究は、幕末から明治末期にかけて日本に舶来した欧米国際法書物に示された戦争観を整理した上で、日本国際法学における戦争観の形成過程を辿り、十九世紀末頃から二十世紀初頭にかけての戦時国際法研究の概況を解明した。取り上げる人物は、東京大学、京都大学、早稲田大学、一橋大学などで国際法講座を担当する専門国際法学者-有賀長雄、高橋作衛、中村進午、寺尾亨、千賀鶴太郎の五人-を中心に据えた一方、大学や専門学校で国際法を教える専任教師ではないが、国際法を専攻したことがあり、かつ国際法的戦争観に関する研究書や学術論文を公刊した広義の国際法学者も視野に入れた。研究素材としては、当時の国際法教科書・専門研究書・講義録、そして国際法関連の学会誌や専門誌に掲載された学術論文・時論・講演などを網羅的に取り上げた。暫定的結論として、欧米からの戦時国際法知識の受容は、国家政策に奉仕し、緊迫した国際情勢に活用しなければならないという形而下なる目的に動機付けられることが多く、実用主義的な態度が顕著に現れた。他方、1890年代を境として、輸入された欧米国際法学的戦争観に大きな転換が見られる。それ以前に翻訳された国際法体系書は、戦争原因追究論に立脚する形で説いているものが多かったが、それ以降は、原因不問論や戦争法外視の主張が主流となった。しかし、欧米から受容した国際法知識は、日本の国際法学者の学説形成において重大な意義を有するにもかかわらず、彼等の法観念を完全に規定したものではなかった。専門国際法学者と広義の国際法学者は、自国の状況に応じて欧米学説を解釈し修正を施しながら自らの学説を練り上げていくことが多かったのである。
著者
辻 麻衣子
出版者
上智大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

当該年度に実施した研究の主な成果は、以下の2点である。1. 『純粋理性批判』(以下、『批判』)超越論的演繹論(以下、演繹論)において統覚概念と並んで重要である構想力概念を、以下の2つの側面から詳細に考察した。(1)『批判』刊行の直前期の形而上学講義や草稿を用いて、構想力概念についての分析および『批判』第1版との比較を行った。当時のカントにとって構想力概念は、経験心理学の中で語られる能力であったが、超越論哲学という新たな軸を打ち出した『批判』に至って、この概念の性格もまた変更されざるをえなかった。このような移行の中で、構想力概念もまた両者の狭間で揺れ動いていることを、上記テキストおよび『批判』の精査を通じて明らかにした。(2)能力論における「カントの先駆者」と呼ばれるヨハン・ニコラウス・テーテンスによるテキストを精査し、カントの構想力概念に与えた影響に関する発表を行った。両者が考えた構想力概念の体系には確かに相違点も多くあるが、同時代の他の哲学者には見られないような、特異な共通点もまた存在する。この共通点を両者のテキストから析出し、これまで省みられることの少なかった構想力概念におけるテーテンスとカントとの関係に焦点を当てた。2. 『批判』演繹論における、統覚を中心とした自己意識論から強い示唆を受けて成立したフィヒテの知識学講義を精読し、そこでの自己意識論をカントによるものと比較した。1790年代末に行われた講義をまとめたものである『新たな方法による知識学』を基本テキストとし、そこで「五重の総合」という名称で展開されるフィヒテの自己意識論に着目した。フィヒテがカントの統覚概念をさらに発展させ、理論的認識という側面においてのみならず、実践的側面においても自己意識の統一を第一原理としたことを明らかにした。
著者
永井 良三 MOHAMMED RAMADAN MOHAMMED Ramadan
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究では、酸化修飾・変性の評価法を開発し、病態解明ならびに新算法の開発を行う計画である。生活習慣病に代表される経年的な変性病態において、蛋白質の酸化修飾・変性は中心的な役割を果たす。蛋白質は酸化修飾を受けると16Daの質量増加を示すが、微細な変化のため従来検出不可能であった。しかし、最近の質量分析技術により、酸化修飾をはじめとする翻訳後修飾による蛋白質の微量な質量変化の検出、測定が可能となった。本研究では、質量分析計を使用した蛋白質の酸化修飾・変性の測定法を開発する。さらに、その臨床的意義を検討し、さらに臨床応用が可能な診断法を確立することを目的とする。具体的なワークフローは、(1)患者から血液を採取し、(2)蛋白質の酸化修飾を質量分析計で検出し、(3)酸化蛋白質を包括的に解析するとともに、特定の疾患蛋白質(リボ蛋白質LDL,HDL等)の酸化修飾を.検討する。次に、(4)疾患病態発症のメカニズムを解析し、酸化修飾の臨床的意義を動脈硬化性心血管疾患患者(虚血性心疾患、心不全)で検討し、(5)病態における役割の解明ならびに診断測定系としての臨床応用を図る。平成21年度は、ELISA法を用いて血液中の酸化LDLの代表的な構造の一つであるMDA-LDL(マロンジアルデヒド修飾LDL)濃度の測定法を確立した。ELISA法によるLDLのMDA化の定量は、後にプロテオミクスによる酸化修飾・変性を解析する際の指標となる。ELISA法確立の後、実際の患者および健常人血清を用いた検討を行った。基本的には患者(心血管疾患)対健常人の差を疾患別に解析した。冠動脈形成術後の再狭窄、虚血性心疾患、心不全等の動脈硬化性心血管疾患患者とMDA-LDL値との相関解析を中心している。まだ、解析開始後数ヶ月程度であることから十分なサンプル数が得られていないが、次年度に継続することにより、疾患との相関関係が明らかになる。
著者
井ノ上 寛人
出版者
東京電機大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

近年の高画質ディスプレイの普及に伴い, 映像コンテンツの需要は今後も拡大する傾向にある. このような市場の動向から, 生産者側には映像コンテンツの効率的な制作が求められており, その対策の一つとして, 3DCG(三次元コンピュータグラフィックス)の分野では, カメラの自動制御技術に関する研究開発が進んでいる. しかし, 従来までに提案されているシステムは, (A)小画面で観賞した際に迫力感を与える動的カメラワークを構成したが, その動きを大画面で観賞すると酔いや疲労感を生じさせる可能性がある, (B)反対に, 大画面で観賞した際に迫力感を与える動的カメラワークを構成したが, その動きを小画面で観賞するとつまらなくなる可能性がある, といった課題を抱えており, 安全面と品質面において更なる検討を必要としているのが現状といえる, 本研究は, 観賞時の視距離や画面サイズ(画角)をCGカメラの制御パラメータとして取込み, 「観賞条件」と「映像表現上の意図/目的」に応じて, CGカメラを最適に自動制御できるアルゴリズムの開発を目的とする.本年度は, 当初の計画通り, 「演出効果」を高める制御方法を開発するため, 運動知覚に関する評価実験を行った. その結果, (1)映像コンテンツの「演出効果」を高めると考えられるベクション(視覚誘導性自己運動感覚)は, 思考を伴う注意によって阻害されること, (2)中心視付近では, 周辺視付近に比べ, 実際の微小な運動及びフレーザー・ウィルコックス錯視群の錯覚運動のどちらも知覚され難いこと, を明らかにした. また, 当初の研究計画に加えて, (3)映像コンテンツの字幕の適切な表示方法は, 画面サイズに応じて異なることを見出した.
著者
中尾 麻伊香
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本年度は研究目的のなかでも原爆投下以前から以後にかけて言説がどのように引き継がれ変容していったかという点を考察し、原爆投下以降を扱った先行研究との議論の接続を試みた。具体的には以下のように検討をすすめた。(1)原爆投下以降の原爆/原子力に関する言説を検討した。新聞や雑誌から、原爆/原子力に関する記述を調査し、その変遷を捉えた。この内容を2011年12月に東工大の火曜ゼミで「核をめぐる言説と日本の科学者:戦時中から戦後にかけて」というタイトルで報告した。(2)原爆調査に関する先行研究を整理し、原爆調査の歴史研究における課題を検討した。この内容を2011年9月に生物学史研究会夏の学校で「放射線をめぐる言説:原爆調査からビキニ事件まで」というタイトルで報告し、『生物学史研究』に投稿した。また、長崎原爆資料館、永井隆記念館、長崎大学医学部などで資料調査を行った。(3)1940年代後半の全国紙と地方紙にあらわれた原爆症に関する言説を検討した。原爆被害をめぐる言説が全国紙と地方紙で異なることを確認し、その背景にある力学を分析した。この内容を2012年3月にAssociation for Asian Studiesの年会で"Radiation Sickness, Popular Medical Discourse, and Social Discrimination in Early Postwar Japan"というタイトルで報告した。(4)研究目的の一つに挙げていたアーカイブへの貢献については、故・西脇安(放射線防護)の資料整理を行い、資料のアーカイブ化に尽力した。国際シンポジウム「核時代の記憶と記録-原爆アーカイブズの保存と活用-」に参加し、日米のアーキビストとの交流をはじめた。以上の研究と平行して、これまでに得られた成果をまとめ博士論文の執筆を開始した。
著者
中島 正愛 BECKER Tracy BECKER Tracy
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

今世紀中盤までにはその襲来が確実視される南海トラフの巨大地震や首都直下地震に対する備えとして、地震動のスペクトル特性に寄らずに地震動入力を低減する効果が期待される、3次元凹型曲面摩擦機構を有する多段階剛性免震装置の免震建物への適用が提案されている。多段階剛性免震装置による共振応答低減効果を評価すること、通常の免震建物と新型免震装置を有する免震建物それぞれに対して極限挙動を定量的に評価した設計方法を提案すること、を本研究の目的とする。研究2年目である本年度は、多段階剛性免震装置の設計法、具体的にはそれぞれの剛性領域での最適挙動を確保するために付与すべき各段階(中小地震時、大地震時、極大地震時)の剛性の決定方法を、関連する実験や数値解析による知見を参照して考案した。とりわけこの免震装置を特に高層建物に適用する場合を考え、高層免震における懸念材料である、転倒モーメントによって生じる免震装置への高圧縮軸力に対する性能、同じく免震装置への引張力に対する性能、極大地震下における免震層変形に対する性能、同じく上部構造の損傷に対する性能を検討した。この結果、多段階剛性免震装置の特徴である引張・圧縮力に対する安定した挙動を踏まえれば、極大地震時に対応する剛性はできるだけ大きいほど全体としての性能(安全性)が向上することを突き止めた。また、高層建物に免震を適用することをためらう米国にその得失を提示するために、典型的な高層免震建物に対する詳細設計・解析を実行した。その結果、変位応答としてみれば免震化による効果は極めて限られているが(せいぜい20%)、加速度応答としてみたときには50%~70%の応答低減が可能になることを明かにし、とりわけ安全性ではなく機能性の向上という視点に立てば、高層構造物であっても免震効果は決して低くない、という所見を得た。
著者
安達 香織
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

縄紋土器型式の設定と編年には、土器の形態や装飾だけでなく、技法の分析も有効である。本研究では、東北地方北部中期後半の土器型式編年の再構築を目的に、基礎資料の技法に着目した分析を行ない、以下の成果を得た。最花貝塚遺跡A地点出土土器のうち主体を占める、胴部に屈曲のない深鉢形土器(I類土器)は、形態・装飾だけでなく、技法に明確な特徴がある。I類土器には、平縁深鉢形の器体を成形後、「胴部(器面)縄紋」、「口縁部段」、「胴部沈線文」の全てあるいは一部が加えられている。各装飾の組み合わせ及び加飾の順序により、I類土器は、1「胴部縄紋」、2「口縁部段」、3「胴部沈線文」の工程となるI A類、1「胴部縄紋」、2「口縁部段」の工程となるIB類、1「器面縄紋」の工程となるI C類にわけられる。器体のサイズや縄紋原体の種類は、I A、I B、I C類の順でまとまりがある。つまり、最花貝塚遺跡A地点出土土器は、胴部に屈曲のある深鉢形土器(II類土器)とあわせて四とおりの土器を作りわける特徴的な製作システムで作られたと考えられる。一方、従来「最花式」と同一の型式とされることの多かった東津軽郡外ヶ浜町中の平遺跡出土第III群土器についても形態・装飾、技法の分析を行なった。その結果、最花貝塚遺跡A地点出土土器とは区別できる形態・装飾、技法の特徴をもっていることが明らかになった。この一群は、最花貝塚遺跡A地点出土土器とは異なる製作システムで作られている。前者を基準とする型式を最花A式、後者を基準とする型式を中の平III式と仮に呼ぶことにした。製作工程を含めた技法、形態・装飾の特徴が異なるだけでなく、文様の系譜も異なり、分布にも違いが認められることから、最花A式と中の平III式とは、従来のように同一系統に連続するものとしてではなく、概ね並行期の、それぞれ下北半島と津軽半島とを中心に分布する二つの型式として理解するほうが妥当である。
著者
天野 皓己
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

昨年度までの研究結果をふまえ、本年度は茨城県の富栄養淡水湖(北浦)において高アナモックス活性地点が形成される要因を底層水中の硝酸イオン濃度に注目して検討した。2005年8月から2007年10月まで行った長期観測のデータ解析およびアナモックス細菌の16S rRNA遺伝子を標的とした定量PCR法によるアナモックス細菌数の定量を行い、環境因子との関係を解析した。上記の期間中、おおむね2ヶ月に1回程度北浦のKU3, KU4およびKU6の3定点において堆積物を採取し、(1)アナモックスおよび脱窒の潜在活性測定、(2)水質測定、(3)定量PCR法によるアナモックス細菌数の定量を行った。結果、アナモックス潜在活性は季節によらずKU3地点で最も高く、ついでKU4地点でKU3地点の1/2から1/3、そしてKU6地点では0に近い値であった。底層水中のNO_3^-濃度を測定した結果、KU3地点では通常250μM以上であったがKU4地点では半減し、KU6地点ではさらに低い濃度であった。堆積物間隙水中のNO_3^-濃度も同様にKU3>KU4>KU6の順に減少した。アナモックス細菌数は16S rRNA遺伝子コピー数としてKU3地点では堆積物1cm^3あたり3.8-6.0×10^7コピーとKU4地点の2倍、KU6地点の25倍のコピー数が検出された。ここで、KU3地点における季節変動を調査した結果、底層水中のNO_3^-『濃度は夏季、特に6月に減少し、2006年、2007年ともに60μM以下であった。堆積物間隙水中のNO_3^-濃度も同様に夏季に減少した。一方、アナモックス潜在活性は他の季節と比べてやや低いものの、両年6月にも検出された。また、アナモックス細菌の全細菌に対する存在比も両年6月に減少する傾向は認められず、アナモックス細菌は常に存在していた。以上の結果から、KU3地点ではアナモックス細菌群集が安定に維持されていることが明らかとなり、高いNO_3^-濃度条件を経験することがアナモックス細菌群集形成要因の一つである可能性が示唆された。
著者
川崎 晴久 川﨑 晴久 (2013) ABADZHIEVA Emiliya EMILIYA Abadzhieva EMILIYA Abadzhieva
出版者
岐阜大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

ロボットハンドに適用できる高性能減速機の研究開発を狙い,ベベルギヤをヘリコン型と運動学的に同等の双曲面ギヤに変換できる数学モデルを構築した。ヘリコンギアドライブは, 特殊な最適な構造と幾何学的特性を選択することでシンセシスでき, CADでモデル化できた. このとき,重複する係数の増加に関連する問題の解を見つけ,相手歯車間のバックラッシュを制御するための前提条件を明らかにし、その数学モデル化,解析法や設計法の確立等に取り組んだ.開発した設計手法の新規性は,へリコンギア減速機がバックラッシュが殆どなく,小型に構成でき,かつ減速比を60:1と大きく取れることにあり,最適なシンセシスによるロボットハンドへの技術的な実現という挑戦的な課題に取り組んできたが、実証の段階に至っていない.今後,開発した数学モデルをロボットハンドの減速機構に実際に適用してモデルの有効性を示せるように,更なる発展に期待したい. さらには,ロボットの動的運動を確実に伝達する伝達モデルや交合歯の間の反発制御を含んだ実証的なCADモデルの開発の実現に向けた研究により, ロボットハンドの減速機構の開発に役立つことを期待している.
著者
山辺 弦
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

2008年度は予定通り、三次資料の読み込みを基に研究計画を発展させ、その成果の一部を発表することを主眼に置いた。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻の学術雑誌『年報地域文化研究』第12号に掲載を許可された論文はその具体例である。ビルヒリオ・ピニェーラの小説『圧力とダイヤモンド』を「デイストピア性」というキータームを軸に論じた本稿は、文学テクストを具体的歴史状況に照らして分析するという研究意図を実現しつつ、先行研究において欠如していた新鮮な論点が見える点を高く評価されまたレイナルド・アレナスの小説『襲撃』における同様の特徴を論じた私の過去の論文と相神的な形で両者の文学的類縁性を明らかにした点でも、本研究の予想以上の進展を示すきわめて重要な成果であった。「デイストピア性」という概念は研究計画における出発点の一つであった「自己転覆性」という概念と結びつくものであるが、同様にレサマニリマとの比較、あるいは「分裂症的横断」という他の論点についても様々な形で有益な論の発展を見ることができた。2009年3月に実施したスペインの研究旅行では、ピニエーラ研究の第一人者であるMercedes Serna氏と面会しそれまで入手が困難であった希少な資料の提供および有益な助言を得た。同様に現代キューバ研究において最重要な雑誌Encuentro de la Cultura Cubanaの編集長Luis Manuel Garcia氏、ならびにキューバ文学関連書に強い出版社Verbumの主催者であるPio Serrano氏といった重要な人物と面会を許され。多数の資料提供を受けたことも、特別研究員制度が与える経済的支援及び学術的信用の帰結した研究活動の成果として特筆されるべきものである。その他の活動としては、数多くの読書会や研究会に出席してキューバ文学の精読と研究発表を精力的に行った。上記の論文もこのうちの一つでの口頭発表に基づいて執筆されるなど、これらの活動も研究成果に直結する有意義なものであった。
著者
黒田 健太
出版者
広島大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

昨年度、スピン角度分解光電子分光を用いてトポロジカル絶縁体におけるディラック表面電子状態の磁場に依存した(時間反転対称性の破れた)スピン電子構造を解明するために、高効率スピン偏極検出器を用いた放射光スピン角度分解光電子分光装置の開発を広島大学放射光科学研究センターで行った。そこで本年度では、開発したその装置を用いてトポロジカル絶縁体ビスマスセレナイドにおける時間反転対称性の破れたデラック表面電子状態のスピン電子構造の完全決定を行った。まず、円偏光の励起光を試料に照射する事で時間反転対称性の破れたスピン偏極度に注目した。この場合、円偏光のヘリシティを外部磁場とみなす事ができる。また、放射光の最大の利点であるエネルギー可変性を十二分に活用する事により、光電効果における終状態効果まで詳細に測定を行った。直線偏光を用いた測定では、ディラック電子状態から放出された光電子のスピン偏極度は時間反転対称性を持った始状態のスピン電子構造を大きく反映する事がわかった。それに対して、円偏光を用いた場合、観測されるスピン偏極度は明らかに時間反転対称性を破っており、直線偏光の結果と大きく異なる。この偏光依存性は光電子のスピン偏極度が円偏光のヘリシティにより励起された事に起因している。また、この円偏光依存性は励起光のエネルギーに強く依存する事がわかった。これらの結果から、円偏光照射により表面にスピン偏極した光電流を創出できる事、さらに選択的にその電子スピンを励起できる事を示している。これらの点で本研究は、光により、電流、スピンを同時に制御したオプトスピントロニクスの実現に向けて重要な知見を与える。