著者
廣松 勲
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

本年度は、マルティニック島の作家ラファエル・コンフィアンとハイチ系ケベック移民作家ダニー・ラフェリエールの小説作品を中心にして、研究活動を続けた。同時に、分析上の方法論の精緻化を目的として、トランスカルチャーという鍵概念および社会批評分析(Sociocritique)関連の書籍を収集・分析してきた。まず、昨年度の研究対象であったパトリック・シャモワゾーとエミール・オリヴィエに関する研究は、論文や研究発表として公表した。「社会批評分析」という方法論については、受け入れ研究者である堀茂樹先生のゼミが制作した論文集に、研究論文として投稿した。本論文「文学研究における社会」では、文学研究において「社会的なるもの」がいかに読まれてきたのかを検討することで、「社会批評分析」の系譜を辿った。この方法論の再検討は、トランスカルチャーが文体・テーマ・思想を介していかにテクストに書き込まれているのをより説得的に分析するために、非常に重要なものであった。次に、本年度の研究対象であるコンフィアンとラフェリエールに関しては、新刊が5冊程度刊行されたこともあり、それらを収集した上で、研究対象となる作品の選定を改めて行うことになった。いずれも多作の作家であり、新作刊行も予想してはいたものの、この再選定の作業には、予定以上の時間を要してしまった。とはいえ、本年度の研究結果は、今後、以下の2つの学会において公表する予定である。まず、ラフェリエールに関しては、彼を含めたケベック移民作家に関する口頭発表を、2014年5月25日にお茶の水女子大学にて開催予定の「日本フランス語フランス文学会全国大会」において行う予定である。今回の発表は、「カナダ文学の現在 : ケベックを中心に」と題されたワークショップの一環である。次に、コンフィアンに関しては、2014年11月1日に韓国の高麗大学において開催予定の「Association d'études de la culture et des arts en France (CFAF)」において発表を行う予定である。
著者
茅根 由佳
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

本年度の前半期には、まず、インドネシア政治に関する既存研究によって得られた知見と比較検討した。既存研究のまとめ作業を行うに際して、関連のインドネシアの政党政治研究であるマルクス・ミーツナー(Marcus Mietzner)の近著Money Power and Ideology: Political Parties in Indonesia.の書評を執筆した。また、本年度の後半期からは、1年次から2年次にかけてインドネシアのジャカルタで収集した資料をとりまとめる作業に集中した。本研究で得られた考察を発展させ、来年度中に博士論文を書き上げることを前提として、現時点での研究成果を発表するために関連の学術誌(『アジア研究』等)に論文「民主化期のインドネシアにおける石油天然ガス政策と政治過程の変化 -チェプ鉱区権益問題を事例として- 」を投稿している。本論文においては、インドネシアの資源政策においては、大統領及び執政府が石油ガスなどの資源産業の生産性を維持するため、積極的に外国投資を誘致してきたのに対し、野党政治家を始めとする議会が国有企業を支援してこれに対決姿勢を強めた過程を検討した。本論文が分析対象とした、2004年から2009年までの第1期ユドヨノ政権においては、資源政策における執政府の主導権が確立されていたが、2009年から2014年までの第2期ユドヨノ政権では経済ナショナリズムの圧力が強まり、政府外アクターや憲法裁の影響力が政策方針を変化させようとしていくこととなった。こうした第2期ユドヨノ政権における資源政策をめぐる政治過程の変化については論文を執筆中であり、東南アジア研究に投稿したいと考えている。
著者
本多 良太郎
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

25年度は試作Cylindrical Fiber Tracker (CFT)の製作とそのビーム試験を予定通り行った。試作CFTは本実験で使用する実機と同サイズであり、構造的に複雑なCFTの開発の実証とその性能の確認を主な目的として開発された。試作CFTはビーム方向にファイバーを張る、通称φ面と、らせん状にファイバーをまきつける、通称UV面から構成され、全読み出しチャンネル数は1200ch程度となった。特にUV面はらせん状にファイバーをまきつけるという工作上の困難があるが、これを達成することが出来た。ビーム試験は東北大学サイクロトロンRIセンターにおいて、陽子ビームを用いた性能評価を行った。その結果から、CFTは十分な性能を有しており散乱断面積を測定することが出来ることがわかった。次に、読み出し回路に関して述べる。本実験でCFTを読み出すための高集積MPPPC読み出し回路の開発を行った。本回路はVME 6U規格の基板に2個のEASIROCチップを搭載することで、64chのMPPCを一台で読み出すことの出来る回路である。この回路により、MPPCの読み出し単価を1500円まで下げることが出来た。我々の最終目的はバリオン間相互作用の一般的理解であり、その中でもとりわけ重要なΣp間の研究をJ-PARCで行う予定であった。ところが、25年度6月にJ-PARCで放射能漏洩事故があり予定されていたビーム計画が白紙、および遅延となってしまった。そこで、私は博士論文のためにテーマを関連研究であるJ-PARC E10実験に移し、核中でのΣN相互作用の研究を行うことにした。その結果、核中でのΣN相互作用の性質が、原子核の構造に依存することがわかった。また、その結果を日本物理学会で報告した。
著者
阿部 善也
出版者
東京理科大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

最終年度である平成23年度には,まず本研究によって初めてその存在が示された新王国時代ラメサイド期(前13~11世紀)特有のコバルト着色剤に着目し,その起源を解明するための研究を行った。これまでの考古学的研究によれば,ラメサイド期はエジプト国内のコバルト着色剤の利用規模が縮小され,特にガラス着色への利用はほとんど行われなくなったものと考えられてきた。しかし化学的な分析が行われていないだけで,ラメサイド期のガラス工房の一つである"グラーブ"からは有意な数のコバルト着色ガラスが出土していた。そこでグラーブの出土資料に類例が見られるガラス製ビーズ資料について,国内美術館の所蔵資料を対象とした分析調査を行い,本研究で発見したラメサイド期のコバルト着色剤と高い組成的類似性を持つことを明らかとした。すなわち本研究で発見された新しいラメサイド期のコバルト着色剤は,当時グラーブの工房で特徴的に利用されていた可能性が高いと考えられる。これは不明な部分の多いラメサイド期エジプトにおけるガラス生産体制の全貌を解明する糸口となる重要な成果である。コバルト着色剤の研究以外にも,本研究で開発した可搬型分析装置を国内外の様々な文化財資料の非破壊分析調査へと適用した。特筆すべき成果として,初年度より研究を行ってきたMOA美術館(熱海)所蔵の国宝「紅白梅図屏風」について,中央に描かれた川の黒色部分から硫化銀を,銀白色部分から銀箔を検出し,銀箔を敷き詰めてから硫化によって流水紋を描いたという当時の製法を解明することに成功した。この屏風のほかにも,東大寺(奈良)の国宝「執金剛神立像」を対象とした分析調査,エジプト・王家の谷(ルクソール)内のアメンホテプIII世王墓の壁画の非破壊分析による顔料同定など,開発した装置を考古学的にきわめて価値の高い資料へと適用し,考古学的に意義のある成果が数多く得られた。
著者
中能 祥太
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

鳥類・爬虫類初期胚の多能性を制御する分子メカニズムの解明を最終目的とした本研究において、DC1二年目である平成25年度は、前年度に得られた実験結果とモデルを元に、多能性の正の制御機構を担う分子を模索し、その結果Jak/Statシグナルを候補として見出した。また、多能性状態のマーカー遺伝子NanogとPouVの発現をタンパク質レベルで解析するためにこれらに対する抗体を作製した。DC1最終年度である平成26年度は、これまでに整備した分子生物学的解析ツールと遺伝学的ツールを組み合わせることで、多能性を正に制御している分子の候補を阻害剤やStat人為活性システムを用いて詳細に検証した。また、自作した抗PouV抗体を用いたウエスタンブロッティング解析に基づき、登録されているPouVのアミノ酸配列が実際に発現しているPouVタンパク質の配列とは異なっていることを発見し、配列を修正する論文を発表するに至った。また、抗体を用いた発現解析と合わせ、Nanogは羊膜類一般に多能性と関与している可能性が高いのに対し、PouVは哺乳類特異的な機能として多能性に関与しているのではないかという仮説も提示した。
著者
石川 真之介
出版者
国立天文台
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

研究代表者は、宇宙科学研究所のグループと三菱重工業と共同で、太陽X線集光撮像観測ロケット実験 FOXSI-2 のフライト検出器の開発を行った。この検出器は、65 μm という極めて微細な位置分解能を持つ。また、エネルギー分解能も1 keV 以下を達成し、~4 keV という低いエネルギーからの観測が実現できることとなった。FOXSI-2 ロケットに前述の研究代表者が開発した CdTe 検出器を搭載し、打ち上げを行って太陽を観測した。検出器は正常動作し、集光撮像による硬X線観測で、世界で初めて太陽の活動領域を複数同時検出することに成功した。1000万K を超える高温プラズマは、硬X線以外の波長では観測が難しく、活動領域における高温プラズマの分布はあまり明らかになっていなかった。FOXSI-2 の高感度と、ひので衛星のX線望遠鏡をはじめとする多波長の同時観測により、コロナのプラズマの温度構造、空間構造をこれまでにない精度で明らかにすることができた。太陽フレアのエネルギー源である太陽大気の磁場を観測するため、太陽彩層上部・遷移層の磁場を簡素するロケット実験 CLASP に向け、波長板モーターの開発と評価試験、CLASP ロケットの組み立てと波長板モーターの取り付けを行った。また、ロケットの組み上げ、波長板モーターの取り付けを無事完了し、共同研究期間である NASA が開発した CLASP 搭載 CCD カメラのフライト品とのインターフェース確認を行い、予定通り偏光観測を行うことができることを確認した。
著者
松本 涼子
出版者
独立行政法人国立科学博物館
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

脊椎動物の進化史の中で、水から陸へ(両生類から爬虫類へ)といった生活圏の移行は重要な転換期である。ここで起きた重要な変化の1つが捕食様式である。水中では水流を用いた吸引が可能だが、陸上では顎を用いた咬合になる。吸引と咬合では頭骨にかかる力や作用する筋に大きな違いがあると予想され、それぞれに適した頭骨デザインがあると考えられる。これを解明する事で、捕食様式の変遷を示す鍵となる形態進化を系統に沿って追う事が可能になる。そこで、本研究では脊椎動物が水から陸へと適応進化する過程でどのような力学的制約のもと頭骨のモデルチェンジが起き、脊椎動物の頭骨形態が多様化したのかを明らかにする事を目的とする。平成24年度は、国立科学博物館・真鍋真研究主幹の下で、本研究のモデルケースとして用いるオオサンショウウオを含む多様な両生類の頭部と頸部の3次元骨格データを集積した。本研究に用いられた標本は、受け入れ研究機関の国立科学博物館だけでなく、日本国内(3箇所)の研究機関が所有する両生類の液浸・冷凍標本を用いた。その結果、現生両生類の主要な分類群を網羅し、本研究に必要な90標本の三次元頭骨データが得られた。これらの標本は、受け入れ研究機関が所有するマイクロCTスキャンを用いて撮像し、その後、3次元画像構築ソフト(Avizo使用)を用いて立体構築を行った。今後、補食様式のシミュレーション力学モデル解析を行う予定である。また、平成24年2月、3月に北九州市立いのちのたび博物館を訪れ、生きているオオサンショウウオの他4種の両生類が捕食している様子を、ハイスピードカメラ(HASL1)を用いて撮影した。30回の実験により、様々な角度からオオサンショウウオ等の捕食画像が取得出来た。今後、得られた画像データは、動画解析ソフトを用いて数値化することでシミュレーションモデルの枠組みを形成する予定である。
著者
浦 環 THORNTON Blair
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

代表者らは平成18年度に続き三次元姿勢制御が可能なZero-G型水中ロボット「IKURA」が自律型(Autonomous Underwater Vehicle, AUV)として水中画像観測を行うためのハードウエアと物理電池システムの開発を進めた。水中画像観測に関してはロボット単独でターゲットを見分けターゲットから相対的な位置及び姿勢の変化をリアルタイムに推定する必要がある。さらに、自律型ロボットとして水中観測を行うには、障害物を認識して回避しなければならない。このため、レーザとカメラを使った水中画像観測システムを開発し、シミュレーションを終え、現在水槽実験を行っている。物理電池システムに関しては、IKURAの姿勢制御システムとして搭載されたジャイロで発電する姿勢制御装置とエネルギー源を一体化させるシステムを開発した。陸上試験を行い、水中での実験で発電と三次元姿勢制御を同時に行うことに成功した。このシステムの実現は世界初であり、本成果について論文投稿準備中である。今後は、レーザとカメラをべースとしたビジュアル観測システムをIKURAに設置し、水槽でのビジュアル観測の実験を行って本システムの有効性を実証する予定である。IKURAはユニークな自由姿勢制御性を持つため、本研究により、今までのAUVには不可能だったビジュアル観測が可能となり、海洋調査技術と水中ロボットの技術が向上することが期待される。
著者
瀧本 彩加
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の目的は、モラルの基盤となる高次感情の制御の柔軟性と、協力行動の発達レベルや家畜化との関連に着目し、モラルの系統発生的起源を解明することである。前年度までに実施した研究では、ウマが他個体よりも不利に扱われる状況に対して不公平感を示すことが明らかになった。具体的には、ウマはそのような状況では課題に取り組むモチベーションを低下させ、課題達成までに有意に長く時間をかけるようになった。しかし、そうした不公平感が他個体との何の違いによって生じているのかを究明するには至らなかった。そこで、本年度では、新たに実験条件を1つ追加し、その不公平感が他個体との何の違いに起因して生じているのかを区別することを目的とした検討をおこなった。参加個体は、ヒト実験者が手にもつ標的物体を鼻でつつき餌を得るという課題を訓練された。本実験では、並んだウマ2個体のうち、実験個体は課題をおこなって常に価値の低い餌を得た。他方、相手個体は条件によって、課題をおこなって価値の低い報酬を得たり(公平条件)、課題をおこなって価値の高い報酬を得たり(報酬不公平条件)、課題を行わずに価値の低い報酬を得たり(労力不公平条件)、課題を行わずにただで価値の高い報酬を得たりした(両方不公平条件)。また統制条件(相手なし条件)では、相手個体がその場におらず、価値の高い報酬を実験個体に見せるだけ見せ、実験個体に課題を課し、価値の低い報酬を与えた。10頭(5ペア)のデータ収集・分析したところ、実験個体の課題遂行にかかる反応時間は両方不公平条件と労力不公平条件において最も長くなり、それらの反応時間は公平条件や相手なし条件よりも有意に長い傾向を示した。この結果は、ウマは他個体との報酬の質よりも労力の量における不公平に敏感であることを示唆している。しかし、まだサンプルサイズが小さいので、今後、参加個体数を増やしていく必要がある。
著者
上野 将敬
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

葛藤解決行動は、動物が社会的文脈において発揮する認知能力(社会的知性)を明らかにする上で、非常に興味深い研究対象である。対立する2者間で、目的を調和させ、争いをうまく調整する行動は、ヒトを含む社会的動物において、普遍的に存在し、多くの類似性を持つ。そこで本研究では、ニホンザルを対象として、協力的関係を築くための、葛藤解決メカニズムを明らかにすることを目指す。ニホンザルは、気温が低くなると2個体以上の個体がお互いの胴体を接触させてハドルを形成して暖を取る(Hanya et al. 2007)。一方の個体がハドル形成を望んでいるときに、もう一方の個体も同じくハドル形成を望んでいるとは限らない。そこで本研究では、昨年度勝山ニホンザル集団(岡山県真庭市)を観察して得られたデータを分析して、ニホンザルが、成体メスに毛づくろいを行うことによって、個体間の葛藤を少なくしてハドル形成という利益を得ているのかどうかを検討した。成体メス同士でハドルを形成するときには、毛づくろい交渉後にハドルを形成することが多かった。そして、成体メス同士でハドルを形成するときには、毛づくろいを行い、そして相手からお返しの毛づくろいを受けていない時に、ハドルを形成することが多くなっていた。以上の結果から、ニホンザルがけつくろいによって葛藤を解決し、ハドル形成という利益を得ていたことが示された。この研究成果は、ハドル形成に伴う葛藤をどのように解決しているのかを示した初めての研究である。
著者
久山 雄甫
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

今年度は、研究対象であるゲーテ思想に含まれる重要概念のうち、特に「ガイストGeist」概念に注目して研究をすすめた。その成果は、以下の三点にまとめられる。まず一点目に、ゲーテのモナドロジーとガイスト概念の関連性について調査した。晩年のゲーテは様々な文脈でしばしば「モナド」あるいは「モナス」という言葉を使っていた。本年度の研究では「モナド」という語がガイスト概念と密接に結びつけられつつ、「有限」と「無限」の中間を指し示すものとして使われていたことを明らかにした。二点目に、ゲーテの『ファウスト』第一部における地霊(Erdgeist)をガイスト概念の歴史中に位置づけつつ考察を行った。この「大地のガイスト」(Geist der Erde)を描写する際に使われている光、炎、霧、靄、風、音などの比喩的表現は、ガイストが人間界から断絶した超越的な彼岸に存在するのではなく、感知可能な世界に現象しながらも不定形で非物体的な存在様態をとっていることを示している。第三に、ゲーテ形態学において「非ガイスト」(Ungeist)と呼ばれるナマケモノに注目して、ゲーテのガイスト観を探った。「非ガイスト」という表現の背景にあるのは、地上における生命現象は「創造的ガイスト」と「創造された世界」との交点に生じるという哲学者トロクスラーの生命論である。「創造的ガイスト」とは、具体的で物質的な形象をもって現れ出てきた生物個体の内部において不断にはらたく「形成衝動」のようなものと考えられる。以上に加え、本年度は、ゲルノート・べーメ氏が2011年11月に京都で行った講演「ゲーテと近代文明」の企画運営と翻訳を行った。一昨年度に執筆した論文"Goethes Gewalt-Begriff"は、『ゲーテ年鑑』(Goethe-Jahrbuch)に受理された。また、特別研究員としての研究期間に先立って行っていた「気のドイツ語訳」研究に関して、2012年8月に北京市で開かれたアジアゲルマニスト会議において研究成果を概観的に紹介する口頭発表を行うとともに、2013年1月には博士論文をドイツ・ダルムシュタット工科大学に提出し、2013年2月14日に受理された。
著者
青木 一勝
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

古生代日本の形成・発達プロセスを明らかにするため、西南日本外帯に分布する黒瀬川帯中にレンズ状に産するシルル紀花崗岩類(三滝花崗岩類)からジルコンを分離し、LA-ICPMSを用いてU-Pb年代測定を行った。研究試料には、愛媛県西部の三滝花崗岩類模式地の三滝山地域の花崗閃緑岩、九州中央部祇園山地域の花崗閃緑岩、および紀伊半島西部名南風鼻地域の石英閃緑岩とトーナル岩を用いた。1. 三滝花崗岩類は成因の異なる少なくとも2種類の花崗岩類から成る。2. 三滝花崗岩類のうち、閃緑岩類はどの地域においても約445-435Maの明瞭なピークを持ち、古い粒子は含まないことから、オルドビス紀最末期-シルル紀に形成した新規弧地殻であったと考えられる。本研究で得られた結果とこれまで報告されている研究結果を踏まえると以下のことが考察される。3. トーナル岩に含まれる500Ma以前のジルコンは、約445-435Ma花崗閃緑岩類の元となった弧マグマが貫入・定置することにより融解した既存の大陸/弧地殻岩もしくはその砕屑物に由来すると考えられる。4. トーナル岩中に含まれる900-700Maを示すジルコンは、東アジアで唯一同時期の基盤を持つ南中国地塊の基盤岩から由来したと判断されるので、古生代日本は南中国地塊東縁の弧-海溝系であったと考えられる。5. 本研究により、オルドビス紀-シルル紀の南中国地塊東縁の弧-海溝系では当時の弧地殻や堆積体が広く分布していたことが示された。現在の日本列島においてそれら地質体の分布は非常に限られている。恐らくそれらの大部分はシルル紀後の構造浸食によって日本列島の基盤から消滅したと考えられる。
著者
桑島 秀樹
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

平成13年度以来、上記の研究課題のもと、特別研究員奨励費の補助によって遂行した研究は、次の2点に集約される。1.初期バークにみられる美学思想形成の経緯、2.日本におけるバーク思想(とりわけ美学思想)の受容。以下、これらの課題に関して、今年度(最終年度)分の研究実績を中心に、本研究課題の最終報告をおこないたい。《1.バークにみられる美学思想形成の経緯》補助金支給の最終年度たる今年度は、2001年のアイルランド(バークの小学校・中学校・高校・大学時代)調査結果、および2002年5月の政界登場前後までのバーク青年期に関するイングランド調査結果(バークのマニュスクリプトの原典資料調査も含む)の精査に基づいて、その研究成果を公表することに尽力した。この成果は、以下2回の国内外での学会および研究会での口頭研究発表、(1)「若きバーク像の再検証-誕生から幼少年期までのアイルランド時代をめぐる伝記的考察から-」、日本イギリス哲学会関西部会第28回例会、平成15年7月5日(於 京大会館)。(2)「画家W・ホガース『美の分析』にみる感覚主義あるいは<悪>の美学-ヴィーナス・蛇・イギリス風景式庭園-」、大阪工業大学第35回研究談話会(大阪工業大学工学部一般教育科主催)、平成15年10月6日(於 大阪工業大学)に顕著に反映されていると思われる。わけても、2003年12月に大阪大学大学院文学研究科に提出した博士学位請求論文「初期バークにおける美学思想の全貌-18世紀ロンドンに渡ったアイリッシュの詩魂-」(単著:400字詰原稿用紙換算で約750枚)は、本補助金による研究成果の総決算たるものであった。なお、この論文はすでに2004年1月下旬に公開審査を通過しており、研究代表者への3月下旬における博士号授与が決まっている。さらにこの博士論文を補完する業績として、学位申請論文提出後すぐにも、論文「W・ホガース優美論にみる感覚主義あるいは<悪>の美学-ヴィーナス・蛇・風景式庭園-」(単著)、甲南大学人間科学研究所編『心の危機と臨床の知』第5号,pp.67-93、平成16年2月20日。ならびに、学会報告「若きバーク像の再検証-誕生から幼少年期までのアイルランド時代をめぐる伝記的考察から-」、日本イギリス哲学会関西部会第28回例会、平成15年7月5日(於 京大会館)、日本イギリス哲学会編『イギリス哲学研究
著者
ゴルゴル リカルド ミゾグチ (2014) ミゾグチ ゴルゴル リカルド (2013) ゴルゴル リカルドミゾグチ (2012)
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

本年度は,二つの異なるアプローチでフラーレン二重膜ベシクルのようなナノカーボンから形成される階層的複合材料の研究を行いました.①フラーレン二重膜ベシクル上での金ナノ粒子の配列を制御しました.静電相互作用によるベシクルの表面修飾は凝集を起こす原因として広く知られていますが,ここでフラーレンベシクルが水中に形成する界面の自由エネルギーの減少を吸着の駆動力として利用することで,ベシクル上に金ナノ粒子を高密度に集積化させることに成功しました.さらに,ベシクル表面上でナノ粒子をさらに成長させることも可能であり,ナノ粒子同士の表面プラズモン共鳴のカップリングを観測することに成功しています.このハイブリッド構造はフラーレン二重ベシクルを用いた光電変換システムの構築に非常に重要な技術になります.②高分解能電子顕微鏡による単一の有機分子で修飾されたカーボンナノホーンの観察技術を開発しました.有機単分子の電子顕微鏡観察においては測定温度がその立体配座変換の速度に影響を与えないため,電子顕微鏡で有機単分子の動きを観察することが困難であったが,新たな分子デザインと測定条件を用いることで、複雑な有機分子の段階的な立体配座の変化を観察することに成功しました.また,画像解析により分子の動きを定量化する方法を確立し,これを用いて分子動力学の観点から有機単分子の動画を解析することで,観察された分子の動きが高エネルギー配座から低エネルギー配座への変化であることを明らかにしました.このような有機単分子の動的挙動を研究できる実験手法は他に例がなく,有機分子の構造解析と配座変化の研究に大変有用であります.本研究は,交付申請書で提案した研究を大きく超えて,電子顕微鏡を用いた分子運動の観察技術として重要な成果になりました.
著者
越後 拓也
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

生物圏起源の有機物が岩石圏に固定されるプロセスとメカニズムを明らかにすることを目的として、代表的有機鉱物である芳香族炭化水素鉱物の生成原理に焦点を絞って研究を行った。炭化水素鉱物は、そのほとんどを多環芳香族炭化水素(PAH)を主成分とする鉱物が占める。その中でも今回はイドリアライト(米国カリフォルニア州産)の生成機構を考察するため、結晶構造解析と炭素同位体組成分析を行った。結晶構造解析の結果、イドリアライトはピセン分子(C_<24>H_<12>)がファンデルワールス力によって結合した有機分子結晶であることが判明した。ピセンは高い芳香族性をもつ有機分子であり、高い安定性をもつ。イドリアライト結晶がオパールや黒辰砂と共生して産出していることから、シリカ成分を含むような熱水活動によって生成されたことは明らかである。また、δ^<13>C=-24.429±0.090‰という値は海洋生物起源であることを示唆している。すなわち、海洋有機堆積物が熱水変質を受けてピセンとなったものが、その高い安定性のため、ほかの有機分子は分解・揮発し、最終的にカーパタイトとして結晶化したと結論づけた。カリフォルニア州沿岸部にみられるような、堆積物中の有機物が熱水活動によって有機鉱物へと変化するような状況は、日本列島においても見出せる可能性は高い。この観点から、カーパタイトが多産する水銀鉱床区に類似した、北海道イトムカ鉱山の水銀鉱石を詳細に観察、分析した。その結果、石英脈の表面にフィルム上に析出した固体状有機物を発見することができた。有機物の正確な同定および生成機構については目下検討中である。イトムカ鉱山の水銀鉱物は自然水銀の割合が高いことが特徴であるが、有機物による還元作用が寄与していることが示唆された。
著者
山口 祐人
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

26年度は(1)ソーシャルメディアにおけるユーザの属性推定、及び(2)ソーシャルメディアにおけるユーザ行動の分析という研究に取り組み、主要査読付き国際会議での発表などの成果を得た。研究(1)では、ネットワーク上のノードの分類という広く研究されている手法の拡張を行った。ネットワーク上でのノードの分類を用いると、ソーシャルメディアユーザの属性推定のみではなく、他の様々なネットワークにおけるノードの属性推定が可能である。既存研究では接続ノード間の属性の相関をあらかじめパラメータとして指定する必要があった。例えば、あるソーシャルメディアでは同性同士が友人になるという相関が強いのに対し、別のソーシャルメディアでは異性同士が友人になる相関が強いことがある。提案手法では属性の相関に対するパラメータを指定することなく、どのような相関にも適用することが可能である。研究(2)では、Twitterにおいて、ユーザが他のユーザをフォローするという行動を分析した。また、Twitterにおいてユーザが他のユーザを”タグ付け”するという行動を、タグ付けを主とする他のソーシャルメディアと比較した。その結果、”フォロー”、”タグ付け”という行動に関する様々なパターンが発見された。例えば、相互にフォローしているユーザ同士は”friends”といったタグ付けをすることが多いのに対し、単方向でのみフォローしているユーザ同士は”sports"などのトピックを表すようなタグ付けをすることが多いことが分かった。これら2つの研究は、異種ソーシャルメディアの統合に繋がると期待される。ユーザの属性をキーとして様々なソーシャルメディアを統合していくことが可能であると考えられるし、またユーザの行動の根底に潜むパターンの解明により、異種ソーシャルメディアに共通するパターンをキーとしての統合が可能であると考えられる。
著者
藤井 慶輔
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本研究の大きな目的「球技の1対1における防御のメカニズムを解明すること」に沿って、当該年度は前年度以前に実験を行った、以下3つの研究成果をまとめた。(1)攻撃者と防御者が実際に、リアルタイムで対峙したバスケットボールの1対1の状況を設定し二者の動作分析を行った。1対1の結果・過程を定義・分類し、防御者が攻撃者を阻止した試行は、「早い動き出し」「速い動作」「攻撃者の停止」という3つに分類できることが明らかになった。このことから、実際の球技の1対1において防御者が攻撃者の動作に与える影響を考慮に入れる必要性が明らかになった。(2)防御者の運動制御過程に着目し、準備状態が防御者の動き出しを早めることを床反力分析によって明らかにした。実験室的課題により動作を制約した準備動作(地面反力を体重よりも軽くする「抜重状態」を引き起こす自発的な垂直連続振動)を用い、大学バスケットボール選手にLED刺激に対するサイドステップ反応課題を行わせた。その結果、LED点灯時刻付近での抜重状態が動き出し時刻を早め、動き出し時刻付近での加重状態がターゲット到達時刻を短縮させたことが明らかになった。(3)実際の1対1の状況において床反力を測定することで、(2)で示された準備状態が防御者の動き出しを早め、攻撃者の防御を可能にするかどうかを検討した。その結果、実際の攻撃者との相互作用が起こる課題においても、防御者の大きくない(体重の1.2倍を超えない)動き出す前の地面反力が、攻撃者に対する防御者の動き出しの時刻を早め、防御が成功する確率を高めることが明らかになった。
著者
張 睿
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

Ge channel is one of the most promising solution for CMOS devices in post-Si age. Mobility enhancement is the most critical issue limiting the application of Ge MOSFETS. Recently, although many progresses have been achieved for high mobility Ge MOSFETs, mobility degradation in high normal field region is still severe which strongly reduces the ON state current in Ge MOSFETs. The mechanism of this phenomenon is not clear yet, in spite of importance. Therefore, in our research the physical origins causing high normal field mobility degradation were systematically investigated. Through the evaluation of Hall mobility in Ge MOSFETs, it is found that large amount of surface states exist inside valence and conduction band of Ge, which results in significant decrease of mobile carrier concentration in the channel and rapid reduction of effective mobility of Ge MOSFETs.Additionally, it is confirmed that the surface states inside conduction band of Ge can be passivated by annealing the Ge nMOSFETs in atomic deuterium ambient. Besides of surface states, it is also confirmed that the surface state roughness scattering dominates the mobility in high normal field for Ge MOSFETs, similar with the situation in Si MOSFETs. With decreasing the post oxidation temperature, the surface roughness at GeOx/Ge interfaces can be sufficiently reduced without losing the superior electrical passivation much. As a result, around 20% and 25% mobility enhancement can be realized for Ge pMOSFETs and nMOSFETs, respectively, in a high normal field region of N_s=10^<13> cm^<-2> by reducing the post oxidation temperature from 300℃ down to room temperature.
著者
松田 達也
出版者
名古屋工業大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

(1)粒子法による津波-構造物-支持地盤連成解析手法の開発および拡張 : 粒子法のひとつであるSPH法を用いて、津波・海岸構造物・海底地盤の力学的相互作用に着目した、大変形問題に適用可能な解析手法の開発および拡張を行った。津波浸透による支持地盤の強度低下に加え、越流水塊により支持地盤の状態変化を考慮して安定性を検討した結果、越流および浸透により地盤内に過剰間隙水圧が発生し、支持地盤表層付近で液状化に似た状態となることがわかった。この現象により、支持地盤の強度低下に伴って支持力の不安定化が3割増加することを明らかとした。また、地盤の大変形と破壊後の剥離・接触問題へと適応可能な解析手法の開発を試み、防波堤構造が津波外力を受けて、防波堤が大きく滑動する様子や防波堤がマウンドにめり込む様子が再現可能となった。(2)海岸構造物における耐震・耐津波化に向けた抜本的対策工法の考察 : 本研究により明らかとなった混成堤の被害メカニズムより、抜本的な耐震・耐津波化対策として既存の液状化対策を施すことが有用であると考えた。そこで、液状化対策工法と期待できる効果に分類した。特に、構造条件は新設および既設に分け、地盤改良については改良効果ごとに分類した。また、ケーソンの滑動および転倒に対して対策効果が想定される抑え盛土およびアンカー、洗掘防止策として被覆工にっいても対策工法として示した。各工法にっいて破壊制御設計の概念を踏まえた上で、より有用な対策手法について検討した。(3)性能設計に向けた現行の設計を援用した設計チャート : 地震動レベル1や発生頻度の高い津波に対しては、これまでの設計手法により構造物の安定性を検討することが十分可能である。地震+津波については従来と同様に動的判定を行い、地震動・液状化による構造変形を考慮した形状に津波外力を作用させて安定性を検証するという従来の設計法を援用する方法と地震動・液状化によって損傷した地盤に津波の波力・越流・浸透の作用を連続的に検討する方法の二通りの検討チャートを設けた。
著者
堀之内 妙子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

【発芽停止因子(Germination Arrest Factor : GAF)であるFVGの全合成研究】現在広く用いられている除草剤は作物と雑草間の選択性が低く、また除草剤の利用という行為自体が耐性株の出現リスクを負うことが問題となっている。そのため、今後は新たなメカニズムによる優れた選択性を有する除草剤の開発が望まれる。4-Formylaminooxyvinylglycine(以下FVG)は、根圏バクテリアの一種Pseudomonas fluorescence WH6から単離された二次代謝産物である。FVGは、雑草として広く知られるスズメノカタビラなどの単子葉類の種子の発芽を停止する一方で、ニンジンやタバコなど双子葉類の生長にはほとんど影響を与えない。そのため選択的除草剤としての可能性を有している。そこで筆者は、FVGが有する特異なホルムアミドオキシビニル構造の構築法の確立、作用メカニズムの解明に貢献しうる環境に依存しない恒常的な試料供給、類縁体展開による優れた除草剤候補化合物の創製につながると考え、FVGの合成研究に着手することとした。L-メチオニンからチオアセタールを調製し、SMe基を脱離させることでFVGの骨格構築を試みた。しかしながら塩基存在下で銀塩や水銀塩を作用させたところ、アルデヒドが少量得られるのみであった。そこでチオアセタールを酸化して得たスルホキシドの熱分解によるFVGの骨格構築を試みたが、この際は系中で生じたFVGの保護体がN-O結合の開裂を伴い分解したことを示すような副生物が得られた。この知見をもとに、よりマイルドな反応によるFVGの骨格構築法を考案し、L-メチオニンから調製したデヒドロ体に対し、ヒドロキサム酸を用いてオキシマーキュレーションと続く逆チオマーキュレーションを行うことでFVGの保護体をE体選択的に得、保護基の除去によりFVGを重水溶液として得た。水銀を用いた本反応は新規性を有し、ビニルグリシン類縁体など他の天然物を始めとする生理活性有機化合物の合成研究に応用可能であると考えられる。本研究成果はFVGの類縁体展開も可能とするものであり、新規除草剤開発に向けてその礎を築くことができたと考えている。