著者
井伊 あかり
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

本年度は研究をまり包括的かつ領域横断的なものとするために、問題意識の重なる他分野(歴史学、社会学、美術史、思想など)の文献を収集し、精読する作業を行った。ニューヨーク出張では、ヴィオネ作品に関しては2番目の規模を誇るコレクションを有すメトロポリタン美術館、および諸資料を所蔵するファッション工科大学(FIT)にて資料調査を行い、アメリカにおけるヴィオネ研究の現状を把握、自身の研究の参考とした。国内では関西に出張し、今春ヴィオネに関する展覧会を開催予定の神戸ファッション美術館、およびヴィオネ作品を数多く所有する京都服飾文化研究財団(KCI)にて調査を実施した。これらの資料調査で得たものを土台に論文執筆に取り組んだ(この作業は現在進行中である)。また執筆の作業と平行して、講演をする機会を複数得た。5月17日、IFI財団法人ファッション人材育成機構にて「マドレーヌ・ヴィオネ-身体とモード」という題目の発表を行った。マドレーヌ・ヴィオネの作品を、時代背景を考慮しつつ、おもに身体論の視点から分析するという内容のものである。これは本研究の主眼となるテーマである。さらにロレアル財団主催ロレアル賞連続ワークショップ2005(第1回「東京を色から読む」、11月24日)にて「東京ファッションの色」を発表、東京のストリート・ファッションを社会現象として読み解き、その特質を検証した。これは昨年刊行の著書『ファッション都市論』で展開した論をふまえたものである。またパネラーの森川嘉一郎氏(建築学者)、永山祐子氏(建築家)とともに東京という都市の独自性を色と言う切り口で分析するという内容のディスカッションを行った。
著者
PEZZOTTI Giuseppe (2009) PEZZOTT G (2008) PORPORATI A.Alan PORPORATI A. Alan
出版者
京都工芸繊維大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

半導体材料における応力/歪みに関するサブミクロンスケールの定量的解析を海外の様々な研究グループと協力体制のもと研究を実施した。この研究では、応力/歪み印可に伴い、スペクトルバンドの波数変化が生じる現象に基づく、ピエゾ分光法を利用して応力/歪み解析を高空間分解で行った。異なるドーピングレベルを持つ既知の系列である、一連のIII-V族半導体(GaAs,AlGaAs等)の試料におけるカソードルミネッセンスによるバンドギャップ発光は、厳密に分析される必要に応え、発光バンドの形態論におけるキャリア濃度の寄与を研究した。発光スペクトルの特性(半値幅、ピーク位置、強度等)からキャリア濃度及び歪みのそれぞれの測定を行うことに成功した。AlGaAs及びInGaP結晶における応力とカソードルミネッセンス発光を繋ぐケース(歪みポテンシャル)を正確に測定し、発光における歪みの影響を及ぼす電子ディバイスを分析する道を開いた。一方、GaN物質に同じような測定する目的でまず吸収の影響を解明する必要があり、カソードルミネッセンス分光にGaNの独特な吸収現象を定める式を発表した。
著者
大西 琢朗
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本年度は、主に「証明論的意味論」の概念枠組についての批判的検討を行った。証明論的意味論とは、形式的証明体系を形成するシンタクティカルな推論規則から、論理定項にかんする合成的意味論を抽出することを目指す試みである。その意味論的探求は、フレーゲの「文脈原理」と「合成原理」の現代的実現と見ることができる。このような背景のもと、大西は次のような研究を行った。証明論的意味論は、これまで主に、ダメットやプラウィッツといった、構成主義的傾向をもつ論者によって発展させられてきた。そのため、その概念枠組は、直観主義論理に特有の性質が念頭に置かれるなど、明瞭性と一般性にかける面がある。そこで大西は、シークエント算の体系として定式化される、部分構造論理の研究を参照し、従来の証明論的意味論の概念枠組の明瞭化、一般化を試みた。特に注目したのが、「基本論理」という論理体系である。その構築過程で持ち出される意味論的考察と、証明論的意味論の議論を比較することで、証明論的意味論の枠組は、直観主義論理のみに適用可能なものではなく、適当な修正を加えれば、さまざまな論理に適用可能な一般的な枠組になりうることを明らかにした。ただし、その一般的な枠組の詳細な構築は、今後の課題として残った。
著者
知念 まどか
出版者
熊本大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

前年度までの研究から、prp13-1を含むいくつかのスプライシング変異株ではセントロメア領域のヘテロクロマチン形成に異常が見られ、スプライシング因子が分裂酵母のセントロメアのヘテロクロマチン形成に関与している可能性が示唆された。分裂酵母のセントロメア領域ではヘテロクロマチン形成にRNAi機構が関与していることが知られている。そのため、RNAi機構に関与する因子の変異株では、核分裂の際に正常に染色体が二分裂できずに取り残されてしまうlagging chromosomeが観察される事が知られている。そこで、prp13-1変異株においてもlagging chromosomeが観察されるか、微小管に対する抗体であるTAT1抗体を用いた免疫染色を行った。その結果、野生株ではlagging chromosomeは観察されないが、prp13-1変異株ではΔdcr1株と同様に分裂期の細胞の約19%でlagging chromosomeが観察された。さらに、ヘテロクロマチン領域に結合するSwi6pのセントロメア領域への結合がprp13-1では減少していることをChIP解析により明らかにした。これまでの2年間の研究成果をまとめ、学術雑誌(The Journal of Biological Chemistry, 285, 5630-5638, 2010)に発表した。また、このモデルを検証するためさらに実験を進めており、現在までに実験に必要な株やplasmidの作成を終了しており、ChIP解析などを用いてモデルの検証を行う予定である。この研究から、スプライシング因子が関与するクロマチン修飾機構という、これまで知られていなかった新しいスプライシング因子の役割が明らかになると期待される。
著者
長沼 正樹
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

本年度の研究は、フィールド調査を継続しつつ昨年の博士論文の内容をもとに、地域間の比較検討に着手しながら、研究成果の一部を国内外の学会に公表した。昨年までのアムール下流域でのフィールド調査の成果の一部を『北海道旧石器文化研究』10号および世界考古学会議(WAC)中間会議で公表した。本年度のフィールド調査は、同じ地域で新石器より下層に包含されると予測した旧石器の検出を目的として、アシノーヴァヤ・レーチカ地区で実施した。しかし調査地点では旧石器遺物を確認できなかった。そこで極東の内陸部や極北地域も含めた後期旧石器に相当する遺跡を、ロシア側で調査された文献資料上で検討して、アムール下流域には、両面調整石器を中心とする旧石器文化が更新世に展開した可能性を見出し、『考古学ジャーナル』誌No.540号に公表した。また博士論文の一部に、新たな情報を加えて書き直し、日本列島の更新世終末期の学説史として『論集忍路子』第1号に公表した。同じく博士論文の一部、両面調整石器のリダクションモデルに関する部分は、国際誌Current Research in the Pleistoceneに投稿した。比較地域の一つとして昨年度着目していた北海道島について、更新世終末期石器群として忍路子石器群と落合モサンル石器群を対象に、先行研究の検討と新資料の実地観察を実施した。忍路子石器群が石刃運搬型リダクション戦略で環境に適応していたことに対し、落合モサンル石器群は、両面調整石器リダクション戦略を中心とした石材利用であり、両者の行動形態は大きく異なるとの見通しを得た。しかし年代学的情報と古環境復元の検討が不十分であることから、まとまった成果として公表してはいない。なお本年度公表した実績の他にも、今後の作業と展開次第で公表可能な状態にもっていける蓄積内容はある。これらについても、国内・外に随時公表する予定である。
著者
覚知 亮平
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本年は昨年の研究成果を存分に活用し、引き続きDNAセンサーの開発を行った。昨年の経過より、DNAやRNAがポリアニオンであることに着目した分子設計を試みた。具体的には、ポリフェニルアセチレンの側鎖にアニオンレセプターとして働くスルホンアミド基の導入を行った。その結果、得られたポリアセチレン類にアニオンセンシング能を付与できることが分かった(PPA-Sulfonamide)。また、側鎖官能団に電気吸引性基を導入することで、ポリマーのアニオンセンシング能を自在に調節可能であった。重要なことに、強力な電気吸引性基であるp-ニトロフェニル基を用いることで、DNAの構成要素であるリン酸アニオンを目視により判別可能であった。さらに、得られたポリマーの水/ジメチルホルムアミド(DMF)混合溶液に、ゲストアニオンを添加することで、ポリマー溶液の明らかな色調変化が観測された。この結果は、現在でも困難を極める、水中におけるアニオンセンシングを達成した点で意義深い。従って、以上の結果より、ポリフェニルアセチレンを応答部位として用いるDNAセンサーの実現に向けた礎を築けたと考えている。
著者
安藤 洋介
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

1.新規リチウムイオン応答性変色蛍光色素の設計および合成とセンサーデバイス化昨年度合成を完了した新規リチウムイオン応答性変色蛍光色素を、シランカップリング剤を介してガラス基板に固定化することで、リチウムイオンセンシングデバイスを作製し、評価を行った。このデバイスは、水溶液中において、リチウムイオン濃度変化に応じて2つの蛍光極大波長における強度レシオ応答を示し、レシオメトリック測定によって10^<-4>~10^<-1>mol/Lの濃度範囲で再現性の高いリチウムイオン濃度の定量を達成した。さらに、水溶液のpHや妨害イオン種の影響を受けないこと、連続測定可能な高い耐久性も確認された。また、ヒト血清中の既知リチウムイオン濃度の定量測定結果より、タンパクやその他の血清成分の影響を受けないことが確認され、実用応用可能な性能を有することが示された。これらの成果は、公刊学術論文(Analyst,次頁参照)に発表された。本研究により、医療計測ニーズに合う、実用応用可能な高耐久性・高感度・簡便なリチウムイオンセンサーのモデルが確立された。2.新規pH応答性蛍光量子ドットの創製高輝度・高安定イオン応答性変色蛍光ナノ粒子モデルとして、pH応答性量子ドット(無機ナノ粒子蛍光体)の創製に取り組んだ。このモデルは、直径数nmの量子ドット表面にpH応答性を有する有機蛍光色素を修飾する。実験結果より、シリカ薄層でコーティングされた量子ドット表面に色素が修飾されたことを蛍光スペクトル測定によって確認した。この修飾方法の検討結果と、昨年度行った量子ドットの基板への固定化の成果から、pH応答性量子ドットの作製および基板への固定化による、高耐久性・高感度pHセンシングデバイスの作製に向けた基礎的知見が得られた。
著者
吉井 和佳
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

採用第3年度ではまず、開発した音楽推薦システムを実用化する上での重大な問題点を克服することに取り組んだ。また、音楽の内容として音色だけでなくリズムを考慮できるようにシステムを拡張した。さらに、ドラム音認識技術を音楽ロボット開発に応用することを試みた。これはホンダ・リサーチ・インスティテュート・ジャパンとの共同研究である。(1)ハイブリッド型楽曲推薦システム我々はこれまで、確率モデルを用いて楽曲評価と音響的特徴とを統合し、ユーザの嗜好にあった楽曲を精度良く選択できるシステムを開発した。しかし、データ変化に対する適応性やデータサイズに対するスケーラビリティが欠如していた。そこで、確率モデルをデータ変化に合わせて逐次的に更新可能にするインクリメンタル学習法を提案し、適応性の問題を解決した。さらに、インクリメンタル学習法をクラスタリング手法と統合することで、巨大なデータに対しても確率モデルを効率的に学習できる手法を提案した。この成果は音楽情報処理分野で最難関の会議であるISMIR2007にて発表し、好評を得た。(2)音楽ロボット開発本研究では、音楽を自らの耳で聴きながらリズムに合わせて自律的に足踏みできる二足歩行ロボット(ASIMO)の開発を行った。近年、テレビや博覧会で目にする音楽ロボットは一見音楽に合わせて動作しているように見えるが、実際はロボット自身が音楽を聞いているわけではなく、人間が事前にすべての動作および動作タイミングをプログラミングしている。我々は、頭部ヘッドフォンにより録音された音響信号中のビート時刻を検出・予測し、フィードバック制御に基づいて足踏みをコントロールするロボットを開発した。ビート検出・予測部は我々のドラム音検出術を応用して実装した。この成果はロボティクス分野で最難関の会議であるIROS2007にて発表した。ロボティクス分野ではこれまでハードウェア面での改良が主な興味であったが、ロボットの知的能力開発の重要性を指摘した我々の研究発表は多くの聴衆を集めた。
著者
三宅 弘恵
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

動力学的な震源モデル(応力ベース)の特徴を生かした運動学的な震源モデル(すべり量ベース)の記述方法として「擬似動的震源モデル」が提案されている.擬似動的震源モデリングとは,震源における動的破壊計算で確認された理論式と経験式をもとに,最終すべり量・静的応力降下量・破壊エネルギー・破壊開始時刻・最大すべり速度・ライズタイム・強震動パルス幅といった断層破壊にかかわる一連のパラメータを,摩擦構成則にしたがう断層破壊の計算を行うことなく導出する方法である.平成16年度はM6.5,M7.0,M7.2の3つの地震規模に対して10ケースづつのシナリオ地震を想定し,擬似動的震源モデルの構築と広帯域強震動予測を行った.動的および擬似動的震源モデリングでは,破壊エネルギーの不均質性に基づいて断層パラメータが構築されるため,破壊開始点がアスペリティ内に位置する場合,大きなすべり速度と短いすべり継続時間を有する領域がアスペリティ端部に見られ,時に大振幅をもった鋭いパルス波が震源ごく近傍で生成される.このような地震波は,従来の運動学的震源モデルから想定される経験式を上回る偏差を示し,動的破壊過程に起因する極大地震動と考えることができる.本年度は,2004年新潟県中越地震や2003年イラン・バム地震などで得られた近年の大地震動成因の解明を目的として,極大地震動に関する研究に着手した.また,地震学的に興味深い現象として,Mw6.5-7.0クラスの断層から生成される地震動レベルは,Mw7.0-7.5クラスの断層から生成される地震動レベルよりも大きい(Somerville,2003)という,地震動パラドックスが挙げられる.本研究では,破壊エネルギーの地震モーメントのスケーリングにみられる地表断層地震と地中断層地震の違いに着目して,動力学的震源モデルに基づくすべり速度時間関数を構築し,地震動パラドックスを解明するための強震動予測手法のプロトタイプを提案した.
著者
井手 誠之輔 KIM Jongmin
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

アメリカの美術館・図書館において、高麗時代及びそれに関係する中国の写経の調査を行った(Kim、7/13-7/24)。1)『紺紙金字大方廣佛華嚴經』第45巻、高麗、スペンサー図書館、カンサスシティ2)『紺紙金字大方廣佛華嚴經』第78巻、高麗、クリーブランド美術館、クリーブランド3)『紺紙金字大方廣佛華嚴經』断簡、高麗、ハーバード大学燕京図書館、ケンブリッジ4)『紺紙金字妙法蓮華經』、朝鮮王朝、ハーバード大学燕京図書館、ケンブリッジ5)『紺紙金字維摩詰経』、大理、メトロポリタン美術館、ニューヨークこれらの調査によって、14世紀の高麗写経が高麗大蔵経ではなく、さまざまな中国の大蔵経のテクストを参照していることを改めて確認した。13世紀の末に高麗写経の形式や様式に大きな変化が起こったことが指摘しうるが、その理由は、元時代の支配が強まる過程で、高麗王朝は、元に写経生を派遣して、都の大都で中国の規範にしたがった写経を制作したことに求められる。これまでに井手は、13世紀から14世紀の高麗仏画は、同時代の元時代の仏画とさほど強い関係性をもっていないことを明らかにしてきたが、この共同研究では、仏画と写経において中国の受容に大きな違いがあることが確認されることになった。なお、高麗版大蔵経にのみ典拠をもつ40巻華厳経の場合は、法華経とは逆に忠実に高麗のテクストにもどいていることも確認し、これらについては、Kimが韓国の仏教美術史学会の紀要に論文を発表した。
著者
岡崎 寛徳
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

本年はまず、大名の遊びを中心とした分析を進めた。特に鷹狩や花見・湯治、また武芸などについて、弘前藩津軽家や彦根藩井伊家を事例として取り上げた。また、論文3本と書評1本を発表する機会を得た。論文の1本目は、那須資徳に関するもので、旗本那須家の再興と交代寄合への昇格について分析を行った。そこでは実父津軽信政や幕府実力者柳沢吉保に対する運動が功を奏して叶ったことを明らかにした。相応の運動を展開すれば、限度はあるが、いつかは必ず再興や格が叶うという意識が当時の武家社会の底流にあったと考えられるのである。また、信政が江戸滞在中に運動が展開されていたことも注目に値する点であろう。論拠史料は主に津軽家文書と那須家文書を扱ったが、那須家文書は分析が進められていないばかりではなく、所在自体もあまり知られていない。2本目は旗本遠山金四郎家に関する論文である。前年度に名町奉行として有名な遠山左衛門尉景元に関する論文を発表しているが、これはその続編に相当する。景元の息子景纂と、孫の景彰について、安政二・三年の二年間を対象とした。安政二年は遠山家にとって激動の一年で、景元の死去に続き、景纂も江戸城内で倒れたままその日の内に死去してしまった。その跡目は景彰が相続したが、この年は江戸で安政大地震が起こり、遠山家も被害を受けている。論拠史料は大倉精神文化研究所所蔵の遠山家用人の日記が中心で、知行地のある上総国夷隅郡(現千葉県岬町)や下総国豊田郡(現茨城県下妻市)を訪れ、旧名主家の史料を調査・分析した。3本目は幕末の青年大名井伊直憲の食生活に着目したものである。彦根城博物館に現存する献立日記や周辺史料から、食生活と行動について分析を進めた。
著者
吉田 謙一
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は,静的な3次元シーンにおいて,全体として不自然にならないような非透視投影図を半自動的に生成するシステムを作成することである.この非透視投影図の歪みの知覚は,人間の投影図中の奥行き手がかりの知覚と関連性が深い.なぜならば,人間は奥行き手がかりを元に3次元シーンを復元し情報を読み取っているからである.そこで,本研究では,3次元シーン中の奥行き手がかりの配置と非透視投影図の歪みの知覚との関係性を,視覚心理学実験を通して調べて行き,その結果から得られた知見を利用した非透視投影図設計システムを作成した.昨年度は,相対的大きさ手がかりが線遠近法手がかりの配置に与える制限を調べる実験を行ってきた.本年度では,その実験の測定精度を上げるため,実験方法,解析方法の改良を行ってきた.さらに,線遠近法手がかりの配置から投影図の歪みを生成するアルゴリズムの改良を行い,より複雑なシーンについても適切な歪みが生成されるようになった.また,本システムによって生成された画像の注視点分布を計測することにより,その有効性を検証した.本システムを用いて生成した歪みを全体として不自然にならないように補正した画像の注視点分布は,補正を行わない画像と比べて,透視投影図に近い注視点分布が得られていることが確認できた.また,この評価実験を通して,逆に注視点分布からその注視点分布に見合った非透視投影図の歪みを推定するという新たな方向性を見出している.
著者
大嶺 聖 EDWARDRAJA Chellaiah EDWARD Raja
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究では,有用微生物による地盤環境改善技術の適用性を検討した。様々な地盤環境問題が生じているが,できるだけ自然の材料を活用し,低コストでかつ環境負荷の低減を図ることにより,アジア地域へ広く適用することのできる持続可能な技術の開発を目指している。その中で,バイオレメディエーションによる汚染土および石炭灰の環境負荷低減技術の適用性を検討した。得られた結論は以下のとおりである。1) ホウ素,フッ素,ヒ素,セレンなどに耐性のある微生物を同定することができた。これらの微生物によって重金属類の濃度を低減させることができる。2) 石炭灰については,乳酸菌・酵母・納豆菌などの身近な微生物を加えることにより,六価クロムの溶出量を低減させることができる。3) 石炭灰の埋立地から採取したサンプルからホウ素に耐性のある微生物を分離・同定し,溶液中のホウ素の濃度を低下させることができた。4) 堆肥に含まれる耐塩性試験により,16~18%程度の塩分濃度でも増殖できる数種類の好塩菌が存在することが確認できた。また,好塩菌堆肥を塩害土壌に混合することにより塩類濃度を約1ヶ月で4割程度低減できることを示した。
著者
籔内 智浩
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

本研究は計算機上に構築された仮想世界でリアルな仮想物体操作の実現を目指すものである.このために操作を行うと変形する布など面状の柔軟物体を対象物体として、これらの物体を現実世界で操作した際の形状変化を仮想世界でリアルに再現することを目標とした.この目標を達成するためには、柔軟物体の形状変化をシミュレートできるモデルを現実物体の観測結果に基づいて獲得するアプローチが必要となる.このアプローチでは柔軟物体の三次元形状復元の問題とそれに基づいたシミュレーションに必要である対象物体の変形特性を記述するモデルパラメータ値推定の二つの問題が生じる.本研究では操作にともなう柔軟物体の三次元形状をカメラで観測し、観測結果にあわせてモデルを変形させることで三次元形状を獲得する一方、それらの三次元形状すべてを再現できるモデルパラメータ値を推定するという処理を繰り返すことで上述の二つの問題を同時に解決できる手法を提案し研究を進めてきた.この手法に関して今年度は次の二つを実行した.1.昨年度までのシミュレーション実験やハイスピードカメラによる実実験環境構築を土台として実環境で評価実験を行った.操作に伴うハンカチの形状変化を観測し、それを仮想世界で再現することで有効性を確認した.2.提案手法によるモデル獲得のアプローチを短時間で実行できるアルゴリズムを提案した.昨年度行ったシミュレーション実験の結果を整理し、研究会への原稿投稿と発表を行った.
著者
玉川 安騎男 CADORET Anna Gwenaelle-Lu CADORET Anna Gwenaelle-Lucile
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

与えられた有限群と素数の組に対し、その普遍フラティニ被覆の標準的な商群の系に付随してフルヴィッツ空間(=射影直線の分岐ガロア被覆のモジュライ空間)の射影系が定まるが、その有理点に関するM. Friedのモジュラータワー予想は基本的である。この予想へのアプローチの一環として掲げた研究目的の内、本年度は、「1、モジュラータワー予想とアーベル多様体のねじれ点の普遍的限界の関係の精密化」に関して、特別研究員と研究代表者の共同研究が大きく進展した。特に、元のモジュラータワー予想で分岐点の数が4以下の場合を肯定的に解決することができた。この証明の鍵となったのは、次の幾何的命題である。Sを標数0の体上の代数曲線、AをS上のアーベルスキームとし、Aの生成ファイバーは0でないアイソトリビアルな部分アーベル多様体を含まないものと仮定する。このとき、与えられた自然数gと素数pに対し、次の条件を満たす自然数N=N(A,g,p)が存在する:Aの位数p^nの点vに対し、n>Nならばvに付随するSの被覆の種数はgより大きい。以上の結果については、特別研究員と研究代表者の共著論文"Uniform boundedness of p-torsion of abelian schemes"の第一稿が既に完成している。なお、研究目的の内「2、フルヴィッツ空間の点の"base invariant"のモジュラータワー予想への応用」については、特別研究員と研究代表者の共著論文"Stratification of Hurwitz spaces by closed modular subvarieties"を平成18年8月に完成し投稿中である。
著者
保城 広至
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本年度は、実証に入る前に、本プロジェクトに必要とされる基本的な知識の底上げ、特に理論と方法論を幅広く吸収することに努めた。理論的には、1950年代から始まり、1970年代に急速に廃れていった地域統合論の研究群を一通りサーベイし、90年代以降における新しい地域主義論との相違が何であるのかを把握することに努めている。ただしこれはまだサーベイ中であり、先行研究が主張していること以上の新規な視点が提出できるとは考えていない。仮に興味深い知見を発見することができたなら、平成22年度中に、紀要か研究ノートとして和文雑誌に投稿する予定である。また、今世紀に入って雪崩のように出版されている、東アジア地域主義に関する書籍や論文のサーベイも同時進行中である。方法論的には、一つは中級統計、もう一つは定性的研究の方法論を集中的に学習している。前者は昨年度と同様ミシガン大学の統計セミナーに参加して、今回はMLE(最尤法)の基礎を学習した。今後データを集めた後、計量的な分析を加える予定である。また、定性的研究の方法論としては、報告者の従来のディシプリンである外交史アプローチは、どのようにすれば理論化が可能かという問題に一つの解答が出たため、それを国内の学術雑誌に投稿し、「学界展望」として採用された。今秋掲載の予定である。本来の予定であればすでに実証研究を始めているはずであるが、理論的・方法論的知識をより広く、より深く習得た方がおそらく実証も行いやすいという判断により、今年度はそちらの部分に力を注いだ。報告者は4月より就職するため、残念ながら今回のプロジェクトはいったん打ち切りとなるが、民間あるいは他の科学研究費補助金を申請して、本プロジェクトを継続していくつもりである。
著者
高木 竜輔
出版者
中央大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本年度は先行研究に基づき滋賀県と徳島県の事例についてヒアリングとサーベイによる分析を実施した。新幹線新駅建設反対を訴えた嘉田氏が2006年7月に滋賀県知事に当選した。知事選挙の分析では、有権者の投票行動で9割の有権者が新駅建設に反対しており、嘉田氏への投票に影響を及ぼしていた。しかしそれだけでなく、官僚支配への忌避観もまた影響を及ぼしていた。徳島や長野も含めて、官僚支配への嫌悪を規定要因として公共事業などのきっかけ要因が地方政治の転換をもたらしている。徳島も可動堰建設問題を契機として2002年に住民投票派の大田知事が誕生したが、大田県政は11ヶ月しかもたなかった。なぜなのか。その一つは、底辺民主主義を実行する手段が住民投票から知事選挙へ変わったことにより、そのことを徹底して問うことが困難になったことである。すなわち運動と知事が乖離し、知事を通じて運動の要求を議会において実行することの難しさが生じた(多数派の野党、知事と議会の関係に運動が介入しづらい、など)。さらに、可動堰建設反対運動の支持者におけるNPC(ニュー・ポリティカル・カルチャー)的特性、すなわち文化的にはリベラルだが財政的には保守的な性格が(だからこそ無駄な公共事業に反対する)11ヶ月の間に可動堰問題を決着できなかった大田知事への不満として現れ、2003年の出直し選挙において支持者の間に亀裂を生み出し、また政治の停滞を訴え改革派知事として経営感覚を打ち出す官僚出身の対立候補への共感を生み出してしまうという構図も現れた。公共事業をきっかけに市民運動が知事選で勝利する滋賀や2002年の徳島、2003年の徳島のように改革派知事の事例において、そこで問われているのは55年体制における自民党システム(樺島,2004)への反発であり、どちらにおいても何らかの手段で(無駄な事業の中止や効率的実施)行政領域の縮小を訴えることで勝利を収めていることがみてとれるのである。
著者
田中 研之輔
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本年度は、米国現地調査、都市民族誌の最先端の蓄積のレビュー、フィールドワークの方法論の整理、ならびに都市民族誌の翻訳作業を平行して進めてきた。現地調査では、米国不法移民の労働世界と生活世界に迫るために日雇い労働者の一人としてストリートで仕事待ちをしてきた。具体的には、カリフォルニア・サンフランシスコ北部の郊外都市の路上で日々仕事待ちを続ける米国滞在資格をもたない主にメキシコ、グアテマラ、エルサルバトル、ニカラグア出身の男性達と一緒に、平均して、一日3時間、ときには、朝9時から5時まで8時間ストリートで仕事を待ち続け、ときには、賃金交渉人として、また、自身もこれまでに、引越し手伝い、物品搬送・搬入、ペンキ塗り(補佐)、屋根清掃、庭清掃、水道業、などの日雇い労働をしてきた。このようなフィールドワークの手法は、従来の参与観察法[Participant Observation]から観察参与法[Observant Participation]への認識論的・方法論的革新として位置づけることができる。これらの調査結果をもとに、昨年度までの国内での若年滞留層の社会的排除に関する研究との日米比較へと今後展開していく。都市民族誌の現代的到達点については、初期シカゴ学派都市社会学の都市民族誌の系譜から「バークレー学派」への展開について系譜を整理してきた。方法論においても、従来のフィールドワークから「リフレクシブ・フィールドワーク」の構築に向けて認識論に関する文献を読み込んできている。さらに、現代都市民族誌の代表的著作である、ロイック・ヴァカンの『身体と魂』とイライジャ・アンダーソンの『ストリートのコード』の2作の翻訳作業も計画的に進めてきた。これらの成果は、今後国内外の学会で報告される。
著者
清藤 秀理
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

本年度は、以下の2項目について行った.1.スルメイカ漁業の環境影響評価手法の開発スルメイカ漁業は、夜間に集魚灯を使用する漁法である.この集魚灯には、光量規制が行われているが、発電のための使用重油量や排出二酸化炭素量について明らかとなっていない.そこで、スルメイカ漁業が周辺環境に与える影響を評価する第一段階として、夜間可視衛星画像と現場レーダー観測から、北海道南西海域におけるスルメイカ漁業の使用重油量と排出二酸化炭素量の算出を行った.その結果、2003年7月23日の北海道南西海域には、約315隻のスルメイカ漁船が漁業活動を行っており、使用重油量は、約189.000リットル、排出二酸化炭素量は、約509.9トンであった.また、同様の方法を用いて、7月の北海道南西海域における排出二酸化炭素量を算出した結果、約21400トンであった.これは、2001年度二酸化炭素量運輸部門の約0.03%を占めており、スルメイカ漁船が排出する二酸化炭素量は決して少なくない結果を示した.今後、スルメイカ資源の持続的利用と周辺環境への影響を考慮に入れた漁業開発が必要である.2.海色衛星データに基づく日本海におけるクロロフィルa分布の時空間特性日本海におけるスルメイカ漁場の予測を行う第一段階として、生態系の底辺に位置する植物プランクトンに含まれるクロロフィルa分布の時空間特性を海色衛星Orbview2/SeaWiFSデータを用いて調査した.従来、植物プランクトンの動態を明らかにする方法として、生態系モデルと海流モデルとを組み合わせて研究が行われてきた.しかしながら、それらは決定論的な方法であることから、モデル結果の解釈には慎重な議論が必要不可欠である.そこで、本研究では、それらの方法論とは異なる時系列解析を応用した時空間統計モデルを開発し、適用した.時空間統計モデルは、時点t毎に任意の空間上の点の変動が真北より45度毎の異なる4つの方位毎の線形結合によって表現されるものとみなしてモデルを定義した.その結果、春季ブルームのような変化の激しい時期の再現が難しいことが示唆された.逆に、変化の顕著でない時期の再現は概ね成功し、今後、春季ブルーム期の再現を可能にするモデルの開発が課題として残った.
著者
丸山 真央
出版者
一橋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

最終年度にあたる平成19年度は、平成18年度までの成果を踏まえて次の3つの課題に取り組んだ。1)市町村合併(「平成の大合併」)をめぐる地域政治の地域社会学的研究。ポスト「大合併」段階のローカルガバナンズを明らかにするために、静岡県浜松市(旧佐久間町)と新潟県上越市(旧安塚町)で調査を継続した。いずれも、住民全員参加型NPOを設立し、地域協議会制度を活用することで、合併により消滅した自治体の機能を部分的ながら代補させようとする稀少な事例であり、「大合併」後のローカルガバナンスに関する全国的先進事例である。地域協議会委員全員の面接調査を集中的に進めたほか、NPOや行政の聞き取り調査も行った。以上から、ポスト「大合併」段階の地域においてこうした「自治体代替型NPO」と地域協議会制度を活用したガバナンスが構築されようとしていることが明らかになった。成果は、安塚町の事例に関する制度論的考察を『地域社会学会年報』に論文投稿した(査読付き、掲載決定、平20年度刊行予定)。2)大都市部におけるローカルガバナンスの政治社会学的研究。東京圏の都市自治体におけるネオリベラル・ガバナンス改革と市民活動との関連を検討し、日本社会学会で発表したほか、国際社会学会都市・地域部会の国際会議でも発表した。3)地方自治の制度変化と同時に進行する地方政治の再編に関する政治社会学的研究。ポスト55年体制期の地方政治の構造変動を明らかにするため、理論枠組の整理を行ったほか、徳島県などで継続調査を行った。その成果の一端は、ミネルヴァ書房より公刊された。現在、以上3つの課題を統合的に分析する理論枠組を検討しており、平成20年度中にも論文として発表する予定である。