著者
澤野 弘明
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

カーナビゲーションシステムやPDAなどを用いた経路案内システムの需要が年々高まっている。これらのシステムにはあらかじめ用意された地図情報に基づいて、現在位置および案内経路を計算している。しかし日々変化する道路に対応した柔軟な経路案内をすることは極めて難しい。そこでシステムから得られるマルチモーダル情報を集約し、道路環境情報をリアルタイムに収集することで、ユーザ周辺の道路環境を考慮した経路案内を提示する戦を提案した。ここでマルチモーダル情報として、カメラ、GPSやジャイロセンサなどの検出装置や二次記憶媒体から得られる実写動画像、位置、姿勢、地図情報を想定している。また道路環境情報とは道路、道路標識、歩行者などの障害物、といった交通に関する情報である。本手法では道路環境情報の収集・解析による、詳細な地図情報の収集作業の削減や障害物回避などの注意喚起が可能な点であるため、社会的異議がある。そして現実のシステムとして実装するための課題を列挙した。さて、これまでに提案した道路環境認識のひとつである道路エッジ追跡法では、実写動画像中に障害物が存在する場合、追跡精度が低下する。そのため動画像中に存在する静的・動的物体を抽出し、抽出形状に基づいて隠蔽された領域を補正する手法の検討を行った。実験の結果、提案手法の有効性が示された。経路案内に対して、ユーザ固有の視認性が存在する。そこでユーザの好みを考慮した経路案内について考察した。視認性に関する要素をパラメータ化することにより、できるだけ多くのユーザに対応できる経路案内の可能性が見いだされた。
著者
湯之上 英雄
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

本年度に行った研究として,まず公共選択学会第10回全国大会の報告論文である"Aging Population and Regional Economic Growth with Political Business Cycle"があげられる.ここでは,growth regressionのフレームワークを用いて,人口高齢化が地域の経済成長に与える影響を考察した.『県民経済計算年報』の長期データを用いて,都道府県別の経済成長率についてパネル分析を行ったところ,人口高齢化率が高い地域において,経済成長率が低くなっていることが示された.また固定効果を比較したところ,東京都をはじめとする大都市部や地方部においてもIT産業の集積が進んでいる地域において高い経済成長率が観察された.さらに,国政選挙や都道府県知事選挙の時期に配慮して分析を行ったところ,国政選挙や地方選挙の時期に地域の経済成長率が高くなっていることも確認された.次に,"Cost Frontier Analysis for Elderly Welfare Expenses"では,人口高齢化が進むわが国において,財政再建をどのように達成していうかという関心のもとに,全国都市データを用いて,老人福祉費に関する費用フロンティア関数を推定した.推定の結果,より手厚い高齢者福祉サービスを行っている都市において,より多くの老人福祉費が支出されていることを確認した.さらに,依存財源である地方交付税額が増加すれば非効率性が増すのに対し,自主財源である地方税収の比率が高まれば効率性が高まっていることを示し,国から地方への税源移譲は,費用効率性の側面から見て,望ましいことを明らかにした.
著者
冨田 直人
出版者
東京女子大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

調和解析的な手法を用いて,時間周波数解析の中で基本的な役割を果たすモジュレーション空間を研究してきた.モジュレーション空間は,J.Sjostrandが擬微分作用素のシンボルクラスとして用いた後に注目が集まっている.また最近,モジュレーション空間上でのシュレディンガー作用素の有界性が示され,モジュレーション空間の偏微分方程式への応用に関心が集まっている.平成20年度は,私は東京女子大学の宮地晶彦教授と共に,シュレディンガー作用素を一般化した作用素のモジュレーション空間上での有界性を研究した.αが2以下の場合に作用素e^{i|D|^{α}}がモジュレーション空間上で有界になることが知られていた.これに対し我々は,αが2を超えてしまうと通常のモジュレーション空間上では有界性が成り立たないことを示し,有界性を保証するには適切な重みが必要であることを示した.αが2を超えた場合は未解決の問題であったため,我々の研究は有意義であると思われる.また名古屋大学の杉本充教授と共に,平成18年度より続いているモジュレーション空間の擬微分作用素への応用を平成20年度も引き続き研究した.平成20年度にJournal d'Analyse Mathematiqueにacceptされた論文では,これまではモジュレーション空間とベゾフ空間にシンボルを持つ擬微分作用素のトレース性の結果が独立に扱われていたが,α-モジュレーション空間を用いることにより統一的に扱うことができることを示した.平成20年度は,α-モジュレーション空間にシンボルを持つ擬微分作用素のL^p-有界性も研究し,SjostrandのL^2-有界性の結果を一般化したL^p-有界性の結果が得られた.
著者
高崎 史彦 STAMEN Rainer
出版者
高エネルギー加速器研究機構
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

現在、高エネルギー加速器研究機構においてはB-ファクトリー加速器、KEKB、とBelle実験装置が順調に稼動し、このタイプの電子・陽電子ビーム衝突型加速器としては世界最高の性能を実現している。これに伴い、Belle実験はこれまでに最大のB中間子崩壊のデータを収集した。現在、このデータの解析を精力的に行い、多くの学術論文として発表してきた。Belle実験においては、高い頻度でビーム衝突が繰り返され、膨大な粒子反応が観測される。このうちから、興味ある事象のみを効率よく選び出し記録することが実験の成功の鍵を握る。現在、KEKB加速器の性能は当初の計画値を超えて優れた性能を発揮して折り、これに対応してBelle実験のデータ収集効率を改善する必要に迫られている。Stamen氏はグループの他のメンバーと共同してBelle実験のイベントトリガーシステムの改善を試み、データ収集能力を飛躍的に向上させた。一方、物理解析においては、B中間子崩壊のうち、K中間子とパイ中間子のみを終状態に含む崩壊反応を詳細に分析し、これらの反応におけるCP対称性の破れと、他の反応で観測されているB中間子崩壊におけるCP対称性の破れとの比較検討を行い、標準理論を越えるような現象の存在の有無を研究している。
著者
高嶋 礼詩
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

今年度はヒマラヤ山脈と同様の衝突帯である,ヨーロッパアルプス西縁部のフランスプロバンス地域と日高山脈西縁部の北海道中軸帯において,白亜系の構造地質学的・層序学的検討を昨年度に引き続き行った.1)フランス南東部の研究結果フランス南東部のDigne周辺地域は,第三紀のアルプス造山活動によって,白亜系が東傾斜の軸を持つ南北性の褶曲と東傾斜の南北性の衝上断層群による変形を被っている.同地域の白亜系について,微化石を用いて詳細な年代を解明することにより,衝上断層による地層の欠損量を定量的に計測した.また,白亜系を不整合に覆う前縁山地堆積物の時空分布から,同地域における衝突に伴う構造運動の時空変遷を考察した.2)北海道中軸部の研究結果衝突帯の前縁部である夕張山地から石狩低地帯に至る地域と,幌加内・朱鞠内から羽幌・小平にいたる地域の2箇所で,広域で詳細な地質図を完成させた.特に前者の地域では塊状泥岩が卓越し,岩相的に単調であるために,同地域の構造を把握することはこれまで全くなされてこなかった.しかしながら,微化石による精密な化石基準面を同定し,それらを広域にマッピングすることにより,岩相上識別不能な同一時間面をトレースすることが出来た.また,夕張山地の白亜系の泥岩中には,数10層の凝灰岩層も挟まれているが,各凝灰岩を識別することが困難なために,鍵層として用いられることもなかった.しかし,各化石基準面と組み合わせることにより,他の地域(羽幌・小平)にまで対比できることが明らかになった.これらの鍵層・化石基準面に基づく地質構造の解析の結果,双珠別衝上断層,芦別岳衝上断層,桂沢衝上断層という,3つの大規模な衝上断層を発見した.さらにこれらの断層によって,それぞれ10km以上の短縮が起こっていたことを解明した.以上の結果により,日高山脈西縁部の複雑な褶曲・衝上断層構造が復元され,島弧衝突帯前縁部における構造を解明することが出来た.この結果の一部をCretaceous Researchに投稿し,受理されている.これまで行ってきた,ヒマラヤ山脈,アルプス山脈,日高山脈の研究結果から,大陸間,島弧間の衝突過程における山脈の形成と,衝上断層の発達過程を比較検討した.その結果,島弧間の衝突では,前縁山地の地質体における衝上断層系の発達のみであるが,大陸衝突では,地殻深部の変成岩ナップの大規模な前進が起こり,前縁山地堆積物に変成を起こしながらのし上がっていくことが明らかになった.
著者
藤田 悠
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

1.存在を主題とする西洋形而上学の歴史に絶えずついてまわる「無」の問題を検討する上で、まずカントの「無」の概念に関する叙述を解明する予定だったが、さらにそれに先立ってベルクソンの哲学を参照する必要性が出てきた。というのも彼は、西洋形而上学の根本的な誤りを「無」の概念のうちに読み取り、それを繰り返し批判しているからだ。しかも興味深いのは、ジル・ドゥルーズが慧眼をもって洞察しているように、この概念が一種の仮像性を帯びており、その限りにおいて人間知性にとって不可避だということをベルクソンが認めていたということ、そしてカントと同様の手法を用いてこれに対処しているということである。ベルクソンが「かくてわれわれは絶対無の観念を獲得するが、こうした無の観念を分析するならば、それが実際には全体の観念である…ということを知る」と語っていることからも、彼がカントと同一の問題圏のうちに立ちながら、これを批判していたのではないかという見通しを得ることができた。2.次いで、ジョルダーノ・ブルーノの思想を検討した。彼の無限宇宙論の主張の背後には絶えず、空虚ないし無に対する拒絶があるからである。ここでもまたベルクソンの場合と同じように、カント的な問題意識が根底に存することが認められた。「ありうるもののすべてであるものは、自らの存在のうちにあらゆる存在を含む唯一のものです。他のものはみなそうでなく、可能態は現実態に等しくありません。なぜなら、現実態は絶対的なものではなく、制約されたものだからです」と彼が語るとき、念頭に置かれているのはスコラ的な空虚の概念である。3.またスアレスの原因論においては、「自然物の生成」という非本来的な原因性が論じられる際、「欠如」の概念が、形相と質料と並列されたかたちで、「生成の出発点」としての意味を持たされていることを確認した。
著者
山本 芳久
出版者
上智大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は、一言で言うと、近世のスコラ学という世界的に未開拓の分野における「人間の尊厳」という概念の構造を詳細に探求することによって、従来の思想史の空白部分を埋めるとともに、人間の尊厳という問題に関する哲学的な議論の土俵を広げていくような新たな視点を提示していくことである。「人間の尊厳」や「人格」といった概念に関する中世と近代の連続性・非連続性の具体的な詳細を明らかにするための最大の手がかりは、中世末期から近世初頭にかけてのスコラ学における人間論の探求にある。だが、本邦においては、近世のスコラ学に関しては、社会思想史に関する若干の研究を除けば、哲学的に見るべきところのある研究は未だ殆ど為されていない。また、世界的なレベルで見ても、この分野は未開拓の分野であり、そこには哲学的探求のための非常に豊かな鉱脈が埋もれていると言える。それゆえ、本研究は、そのような鉱脈の中においても、とりわけ、近世スコラ学における「人格(persona)」概念と法哲学(自然法と万民法)に着目し、人間の尊厳の存在論的な基礎づけに関する哲学的探求を、近世スコラ学のテキストとの対話の中で遂行することを目的としている。本年は、とりわけ、トマス・アクィナス(1225-1274)とスアレス(1548-1617)における自然法と万民法概念の構造を哲学的に分析しつつ、更に、現代の社会哲学のなかでスコラ的な法理論の持ちうる積極的な役割を明らかにした。
著者
嶺崎 寛子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究の目的は「ムスリマ(イスラーム教徒の女性)によるイスラーム言説の創出および利用の実態を、彼女たちの日常実践と法識字レベルとに注目して明らかにすること」である。本年度の研究では、1)イスラーム言説にかかるムスリマの主体的活動について研究するとともに、2)2011年に起きた革命といわゆる「アラブの春」についての情報収集と分析を行った。本年度は具体的には、1)イスラーム言説の利用について、女性説教師の活動を事例として、権威というキーワードを用いて論じた英語論文を完成させた。この論文はオランダ・ライデンの著名な出版社、ブリル社から刊行された論文集に査読を経て掲載された。この本にはインデックスの語句の選定・語句説明の執筆、アラビア語の英語表記の方法等の決定、分担執筆など、論文だけではなく包括的な形で関わった。MLを立ち上げ、世界各国をフィールドにする多国籍の他の執筆者とEメールで意見交換しつつ、決定し、分担して執筆する過程で、学術的な国際的ネットワークを築くことが出来たことも今年度の成果である。2)アラブの春で宗教界が果たした役割について、現地紙等を資料にキリスト教、イスラームについて整理・分析を行った。日本語で読める、宗教界にフォーカスしてアラブの春を分析した研究はなかったため、本論文はアラブの春を多角的に理解するため、一定の貢献をしたといえよう。(嶺崎寛子「エジプト、1月25日革命を読む-宗教の視点から」『国際宗教研究所ニュースレター』70.東京:国際宗教研究所、pp.11-16)。
著者
岡 まゆ子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

1.卵胎生ウミタナゴを用いた母仔間移行研究大槌湾にて採集したウミタナゴの親魚(n=25)と胎仔(n=10)中の有機塩素系化合物(OCs)濃度を調査した。胎仔は出生直前に指数関数的に汚染物質を体内に蓄積していることが明らかとなった。これは、親魚の血液に含まれるリポ蛋白のうち有機塩素系化合物と親和性の高い種類が妊娠後期に分泌されるためであることが推測された。最終的に胎仔中の濃度と親魚中の濃度は平衡に近い値を示した。これは妊娠期間の長い卵胎生魚に特徴的であることが考えられ、胎仔への危険が高いことが明らかとなった。2.サケ科魚類におけるOCsの蓄積特性サクラマスは降海する降海型と一生を河川で過ごす残留型が存在する。降海型サクラマスは約1年半の河川生活ののち、降海する。約1年後に母川回帰し、遡上後約4ヶ月河川で成熟を待ってから産卵する。各成長段階におけるOCs蓄積を調べるために、幼魚から回帰親魚まで幅広い生殖腺指数(GSI)を持つサクラマス中のOCs濃度を調べた。海洋生活期を経たサクラマスは降海直後と比較して筋肉中で最大58倍、肝臓中で最大11倍にOCs濃度が増加した。卵形成の時期が近くなるにつれ、肝臓へと脂肪は集中する。この時、OCsの肝臓中濃度が筋肉中濃度の約7倍となり、降海直後の約4倍と比較すると高い値を示した。このことから、OCsも脂肪とどもに肝臓へと移行することが示唆された。卵形成がさらに進むと肝臓中で合成された脂肪や蛋白が卵へと移行し、肝臓中OCs濃度は徐々に減少した。肝臓中OCs濃度はGSIが5%付近で筋肉中濃度と並び、最後には筋肉中濃度より下回ることが明らかとなった
著者
清水 健
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

今年度は主に(100)面と(110)面極薄SOI MOFETにおける移動度をより詳細に調べるための試作活動、および方向依存性を理論的に検討するための数値計算の両面における活動を開始したところであった。より具体的には、極薄SOIにおける移動度の方向依存性を調べるために共通チャネルを有する(110)面極薄SOI MOSFETを実際に試作し、評価を開始したところである。実験結果について今のところ大きな進展はないが、少なくとも当初の机上予測どおり、厚膜を有するSOI MOSFETにおいては定量的に移動度の方向依存性を比較することが可能であることを確認した。今後の課題については、SOIが10nmを切るような極薄膜において移動度を比較することが可能であるかを、実験および測定の両面から検討する必要がある。他方、数値計算においては若干の進展があり、SOI膜厚に依存して伝導方向の有効質量に変化が生じることを理論的に確認することができた。以上の結果については、実験結果とあわせて何らかの形で学会や論文誌へ投稿する予定である。これまで移動度、ひいては電流の方向依存性について十二分な議論がなされている状態からは程遠く、以上の結果を広く公開することは、学術活動としての評価のみならず、産業界へもメッセージを発信することが可能であると考えている。また、前年度に学会へ投稿していた論文が無事に採択されたので、6月にハワイで開催されたIEEE Silicon Nanoelectronics Workshopにおいて口頭発表を行った。本結果については今年度に明らかになったものではないので詳細は省くが、特別研究員の科研費で出張を行ったので報告しておく。自身の発表に際しては質疑も行い、また発表後の休憩時間にも複数の異なる研究グループから詳細について質問を受けたので、一定の評価はなされたものと考えている。
著者
江浦 由佳
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

我々はこれまでにほ乳類では報告のなかったFZOのホモログをラットにおいて2種類同定し(Mitofusin1,Mitofusin2)、その後の解析から2つのMfnが共にmit融合に必須であり、協調的にmit形態の調節に機能することを明らかにしてきた。さらに複合体に含まれるmitofusinと協調的に機能する新規因子の探索を行った結果、ひとつの新規因子を同定した。これをmitofusin binding protein(MIB)と呼ぶ。今年は昨年に引き続きこの因子の解析を行った。(1)ラット肝臓を用いて内在性のMIB存在様式を解析した。細胞分画を用いて解析した結果、内在性MIBにおいても過剰発現細胞のMIBと同様にmt、ms,及びサイトソルに局在していることがわかった。ミトコンドリアに局在するMIBの膜結合性はショ糖密度勾配遠心をおこなってもミトコンドリア画分に一部回収されることから一部は膜に強く結合していることが示唆された。(2)MIBは酸化還元酵素に保存されたドメインを有しているのでその活性がmt形態への効果に必要かどうか調べるために補酵素結合ドメインにアミノ酸置換の変異を導入した変異体を作成し検討した。その結果、その変異体においてmt形態への効果が消失したことから酵素活性がmt形態への機能に必要であることが示唆された。(3)また同じ酵素ファミリーに含まれるzeta-crystallinがMIBと同様のmt形態への効果を有するかどうかzeta-crystallinのcDNAをサブクローンして解析した。その結果、zeta-crystallinを過剰発現させてもmt形態には全く影響が無かったことから、酵素ファミリーの中でもMIBに特異的な機能であることが示された。(4)Mfn1との相互作用について解析するため、Mfn1リコビンナントカラムを用いて、MIB野生型、酵素ドメイン変異体、zeta-crystallinとの結合実験を行なった。その結果、MIBの野生型のみがMfn1カラムに結合できたことから、MIBの機能はMfn1との結合能力に依存していることが示唆された。(5)MIBのmt形態への効果についてさらに解析するため、RNAiを用いてHeLa細胞の内在性MIBを発現抑制を解析した。その結果、RNAi細胞においてMfn1のRNAi細胞の結果とは逆のmtのネットワークの顕著な活性化が観察された。このことから、MIBはMfn1を介してmt融合を抑制する機能があることが示唆された。
著者
目黒 紀夫
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本年度はケニアにおいて約3ヶ月の現地調査を行い、それと前後して3件の学会発表と2本の研究成果を発表した。現地調査では、利害関係者間の合意形成のあり方を集中的に調査した。第一に、新たに野生動物保護区を建設しようとする国際NGOと地域住民が結成する土地所有者グループのあいだの集会の様子を参与観察した。国際NGOは保護区がもたらす便益について曖昧さを残した説明を続けながら住民とのあいだに建設の契約を取り交わすことに成功したが、その後に契約内容を正確に理解していない住民とのあいだに軋轢を持つようになった。住民は土地所有権が契約によってどのように制限されるかを理解しておらず、相互に不信感を持つ住民と外部者のあいだでいかに協働体制を構築するかは大きな課題であることが判明した。また、共有地上に建設された野生動物サンクチュアリを経営する観光会社の契約更改が近づき、新しく契約する会社をどこにするかをめぐり地域コミュニティのリーダー間で対立が生じた。結果として、好条件を提示していた会社との契約が不可能となっていた。これまでリーダー表立って相互に敵対することはなく、土地の私有化にともないコミュニティ内の紐帯に変化が生じており、それがコミュニティ全体の利益を阻害する可能性があることが確認できた。地域コミュニティを主体とした野生生物保全の可能性を、これまで外部者が持ち込むプロジェクトの成果から検討してきたが、本年度の調査からはプロジェクトが一定の成果を上げたとしてもコミュニティ内および地域内外の人間関係が良好でない時には、保全に向けたイニシアチブが地域において生まれにくいことが明らかとなった。
著者
安楽 泰孝
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

前年度までに静電相互作用力を形成駆動力とする100-300nmのNano-PICsomeを容易に作り分けることに成功した。しかしながらこれらの粒子は生理条件下での安定性が低いため、申請目的にあるような生体内でデリバリーキャリアとして応用する際に問題が生じる。そこで当該年度では、まず水溶性の縮合剤である1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide hydrochloride)を用いてPIC膜中にアミド結合を形成することで、生理条件下でも安定にサイズと構造を維持可能な架橋Nano-PICsomeを調製することに成功した。さらにこの架橋Nano-PICsomeは、従来のNano-PICsomeとは異なり「耐凍結乾燥」「耐遠心濃縮安定性」を有していることをも明らかとした。また、加える架橋剤の量でPIC膜の透過性をコントロールできることも示し、選択透過性を有するNano-PICsomeという新しいベシクルキャリアの提案を行った。さらにサイズの異なる架橋Nano-PICsome(100-200nm)を調製し、担がんマウスの尾静脈より循環血液中に導入することによって、その血中滞留性および臓器分布を評価した。その結果、100-150nmの架橋Nano-PICsomeは、がん組織における血管壁が物質透過性の亢進を示すという性質(EPR効果)に基づいて、がん局所への高い集積性を示すことを明らかとした。一方、サイズを大きくした150-200nmのNano-PICsomeは、約20時間という著しく長い血中半減期を達成出来ることが明らかとなった。この値は、これまで報告されている他の中空粒子型キャリアと比較して、同等かもしくはそれ以上であり、今後、生体内長期循環型デリバリーキャリアとして応用展開される可能性が示唆された。このように本研究は、サイズと構造が厳密に制御された中空粒子を設計する独創的な指針の提案や得られた成果の薬物送達システムとしての高い有用性から考えて、バイオマテリアルの分野において極めて秀逸であると考えられる。
著者
谷口 栄一 QURESHI Ali Gul
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

動的な手法における集配送車両は,スケジューリング期間の最初に平均旅行時間に基づいた事前最適ルートにより運行を開始する.しかしながら,ルートは集配送車両が顧客に到達するたびに,更新された旅行時間に基づいて変更される.すべての顧客は,ルート変更した配送中の車両により初めて配送されるか,すでに配送されているかどちらかであり,初期の顧客集合から除去される.ルート変更時点において集配送車両の現在位置が,車両にとって新たなルートの始点として扱われる.本年度は,上述の動的な枠組みを備えたセミソフトタイムウィンドウを有する配車配送計画問題(D-VRPSSTW)に対する厳密解法のコード化を試みた.これまで行われてきたD-VRPTWに対する解法アプローチの多くは,挿入法や局所探索のような近似解法に基づいているものであったため,本研究で取り組んだ厳密解法を構築するにあたり,数理計画手法の調査を行い,最終的にMATLAB上で実行可能なコードを得た.得られたコードに対し,シミュレーションされたデータセットに加え,東京南部を対象地域の道路ネットワークを再現した実践的かつ大規模なデータセットを用いて検討を行った.得られた結果について,2009年5月にトルコにおいて開催された第4回貨物輸送・ロジスティクスに関する国際ワークショップおよび2009年6月にメキシコにおいて開催された第6回シティロジスティクスに関する国際会議において紹介し,国内外の学術的および実務的な物流従事者と議論した.
著者
ROY C. SIDLE (2007) SIDLE Roy C (2006) BRARDINONI F. BRARDINONI Francesco
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本研究における調査計画は、南アルプスの山地流域(長野県と山梨県)で地すべり堆積物の動態を調べることを目的として立てられた。具体的な研究対象流域は、釜無川・尾白川・大武川・小武川と野呂川である。現在までに、以下の研究段階が実行された。1)6つの年代(1954・1968・1975・1983・1997・2005)の空中写真のセットの判読。2)デジタル空中写真画像を利用した地すべり発生と堆積物層の各点のGIS解析によるマッピング。3)航空写真を元にした見積りの補正因子の存在を調べるための、地すべりの大きさ(長さ、幅、深さ)と堆積物の勾配の現地測定。研究サイトへのフィールド調査は、富士川町と甲府市の砂防事務所の協力で行われた。野外作業には、釜無川・尾白川・大武川・小武川における地すべりイベントの試料を測定することを含んでいる。現在は積雪があるのため、さらなる野外作業は5月中・下旬に野呂川で計画している。予備的な結果では、地すべり活動が高く岩質に依存しているということが明らかとなった。地すべりの起こる頻度は、火砕物層で最も高く、花崗岩層で最も低く、石灰岩と砂岩でその間を示した。さらに、1970年代に行われた広範な森林伐採は、20年間にわたって土砂生産の割合を加速させてきたと考えられる。
著者
近藤 哲也 PHARTYAL Singh Shyam PHARTYAL SINGH SHYAM
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

・野外での実験秋における種子の成熟期には,C.giganteumの種子は未発達の胚を有しており,胚は,翌年の高温期の夏を経た秋に生長を開始した。播種してから二回目の冬の終わりから春の初めにかけて発根し,雪が解けた春に出芽した。すなわち,種子が散布されてから出芽までには18-19ヶ月の長い期間を要した。・室内での実験野外での実験では,種子散布後,「(秋→冬→春)→夏→秋→冬→春」の2回目の春に子葉が出芽した。しかし,室内の実験では,野外の夏→秋→冬→春を模した25/15℃(120d)→15/5℃(90d)→0℃(90d)→15/5℃の温度推移を与えることで,胚が生長し,発根して出芽した。すなわち,C.giganteumの種子は秋に結実するにもかかわらず,その後の(秋→冬→春)の温度は,胚成長,発根,出芽に不要であることが示された。夏→秋の温度を与えられて完全に胚が伸長した種子は,その後,90日間の冬の温度を経験させることによって幅広い温度で,高い発根率と出芽率を示した。GA3は,胚の生長に対して効果はなく,したがって,その後の発根と出芽にも効果はなかった。・種子の貯蔵採取直後の種子は,96%の高い発芽率を有していた。-20℃と0℃で密封乾燥貯蔵した種子は,貯蔵後450日を経ても80%以上が生存していたが,15℃,20℃,そして室温で貯蔵した種子は450日の貯蔵後には,生存率が20%にまで低下した。
著者
池田 大樹
出版者
広島大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

【研究目的】睡眠短縮(5時間睡眠)時において、自己覚醒が起床直後の睡眠慣性と日中の眠気に及ぼす影響を検討した。【研究方法】自己覚醒習慣のない労働者15名(平均年齢40.5歳,27-49歳)を対象に実験を実施した。実験は、参加者宅での3目間の生活統制(5時間睡眠)と1日の実験室実験からなっていた。生活統制期間は就床前と起床後に主観的・行動的眠気を測定した。また、実験室実験時は、1時間おきに主観的・行動的・生理的な眠気を測定した。なお、生活統制期間中は、毎朝目覚まし覚醒あるいは自己覚醒した。その後、再びもう一方の覚醒方法で自宅での3日間の生活統制と実験室実験を実施した。【研究結果】睡眠短縮により、起床直後や日中に強い眠気が認められた。一方で、自己覚醒すると、目覚まし覚醒した時と比べて、起床後や日中の覚醒度(ヴィジランスパフォーマンス)が高かった。このことから、自己覚醒は覚醒維持能力を高める可能性が示された。【意義】夜型化が進む現代社会において、人々の睡眠時間は減少している。特に労働者の中には、残業や交代制勤務などにより睡眠時間を十分に確保できない者も少なくない。そのようななか、睡眠不足はQOLの低下だけでなく,労働意欲の減退や就労場面での健康と安全を阻害する問題につながる。これに対して、本研究の結果から、自己覚醒は睡眠時間が短い場合でも睡眠慣性や日中の眠気予防に有効であることが示された。
著者
風間 卓仁
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究の最大の目的は、火山での重力観測を通して、火山内部におけるマグマ質量の移動プロセスを把握することである。また、マグマ移動起源の重力変化を検出するため、陸水起源の重力擾乱を適切に補正することも、本研究の大きな目的の1つである。本研究の最終年度に当たる平成24年度には、約2カ月に1度の頻度で桜島を訪問し、設置済みの相対重力計・気象観測装置・水分計のデータ回収およびメンテナンス作業を行った。この3年間、桜島では絶対重力計や相対重力計の連続データを大量に取得することができた。しかしながら、陸水擾乱によるノイズが大きかったために、現時点では火山起源の重力変化を十分には検出できていない。そこで本研究では、新たに八重山諸島とアラスカにて重力等の観測を実施し、陸水擾乱に関連して以下のような結果を得た。まず、八重山諸島では石垣島や西表島などで土壌採取を実施し、採取した土壌に対して透水試験を適用した。その結果、透水係数は空間的に均質ではなく、約4桁の範囲で変化していることが分かった。今回得られた土壌空間不均質を陸水シミュレーションに適用すれば、陸水擾乱を高精度に再現できるものと期待される。また、アラスカでは絶対重力計FG5による重力測定を実施した。その結果、絶対重力値は予想していた値よりも約10マイクロガル程度大きい'ことが分かった。これは2011~2012年冬季の異常降雪の影響と考えられ、今後積雪分布のデータなどを利用して重力変化を再現する予定である。今後は、陸水分布シミュレーションのプログラムを改編し、陸水擾乱の再現精度向上を目指す。そして、八重山諸島・アラスカ・南極地域(前年度に重力観測を実施)で取得した重力データに陸水擾乱補正を適用し、陸水分布シミュレーションの再現精度を評価する。その上で、桜島の重力観測データに対して高精度な陸水擾乱補正を適用し、火山起源の重力変化の抽出を目指す。
著者
東郷 敬一郎 JIANG Y.P. JIANG Y. P.
出版者
静岡大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

平成21年度は,以下の2項目について研究を進めた.1.ナノ粒子分散複合材料の増分形損傷力学モデルの開発申請者らが開発している粒子分散複合材料の損傷理論を基に,粒子近傍のひずみ勾配効果による変形特性の粒子寸法効果と損傷過程の粒子寸法効果を考慮した力学モデルを開発した.また,新たなモデルとして,粒子-マトリックス界面層を考慮した微視力学モデルを開発し,界面層による粒子寸法効果を明らかにした.これらの開発したモデルを有限要素法に組込み,ナノ粒子分散複合材料中の切欠き・き裂など構造部材の解析を可能とした.2.ナノ粒子分散複合材料の作成粒子寸法の異なるシリカ粒子とエポキシからなる数種類の粒子分散複合材料を遠心遊星混練機,超音波分散器あるいは射出成形機を用いて作製した.強化材の樹脂マトリックス内への分散度について走査型電子顕微鏡について観察した結果、一様に分散している部分と凝集している部分が観察された。作製した複合材料について,強度特性を調べた結果、粒子体積率の影響は認められたが、粒子寸法の影響は顕著ではなかった。ナノ粒子分散複合材料の特性発現機構を明らかにするためには、さらに細かなナノオーダーの粒子を分散させた複合材料を作製し、検討することが必要である。
著者
南 裕樹
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は,離散値信号を含む2次元システム(2Dシステム)における動的量子化器の最適設計論を構築することである.これを達成するために,つぎの二つのテーマに取り組んだ.1.分散型動的量子化器の解析と最適設計:申請者がこれまでに行ってきた研究(1次元システムのための最適動的量子化器の設計)の発展として,分散構造を有する動的量子化器の最適設計に取り組んだ(理論研究と応用研究).まず,理論研究の成果は,複数個の量子化器が組み込まれる離散値制御系において,最適な分散型動的量子化器を解析的に導出したことである.ここでの最適性は,離散値制御系の入出力特性が,通常の連続値制御系の入出力特性に最も近くなるという意味でのものである.一方,応用研究では,不安定なメカトロニクス系を対象とし,分散型最適動的量子化器を用いた離散値制御の有効陛を検討した.この実験検証により,最適量子化器の実用性が示された.2.n次元システムに対する最適動的量子化器:これまでの動的量子化の設計問題は,機械システムのような時間的なダイナミクスをもつく1次元システムを対象にしていた.ここでは,これまでの理論を一般化するために,空間的なダイナミクスをもつn次元システム(たとえば,分布定数系)を対象として,研究を行った.まず,離散値信号を含むn次元システムに対して,最適な動的量子化器を解析的に導出した.つぎに,その最適動的量子化器をハーフトーン画像処理に応用した.本研究では,動的量子化器を用いて多値画像の画質をできる限り維持する2値画像が生成できることを確認した.