著者
黒木 忍
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究は,触覚ディスプレイを用いて自然な手触り感の伝達・共有を行うための基盤を確立することを目的としている.リアリティのある自然な触刺激を複数種類提示できるような触覚ディスプレイの設計は,提示情報の量が爆発的に増えてしまうという問題を抱えており,未だ実現されていない.触覚ディスプレイの設計においては,まず「ヒトが触覚的に外界をどのように認識しているのか」を部分的に解明し,情報量を絞って効率的な提示を行う必要性がある.我々の皮下に存在する複数種の受容器は,各々が異なる時空間精度で皮膚変形の符号化を行っているため,末梢における符号化の違いが中枢における情報処理の違いにも結びつくと考えられる.そこで本研究では,ヒト指先において高い空間分解能を持つMeissner小体(RA系)と高い時間分解能を持つPacini小体(PC系)の2つの系に着目し,低周波振動するピンでRA系を,高周波振動する円柱でPC系を選択的に活動させることで情報処理過程の分離を行い,入力信号の時空間的な解釈について心理物理実験を用いて調べた.片手の人差し指と中指に対し2つ振動を加えて実験を行った結果,低周波振動を用いた場合と高周波振動を用いた場合ではその他の条件を揃えても2振動の関連付けられ方が異なること,特に高周波振動では振動の加えられた時間や位置の知覚が不明瞭になることが明らかになった.この結果は,末梢における受容器密度の違いだけからは説明することができない.高周波振動は,小型の振動子で提示が可能であること,また小さな振幅で知覚を引き起こすことが可能であることから,携帯電話やゲーム機など,従来の触情報提示デバイスでは広く用いられてきている.しかし今回の結果は,高周波振動では空間的な2点が1点に縮退するのみならず,時間的な2点も1点に縮退することを示唆しており,歩行支援や方向指示などへの高周波振動の利用には一定の注意が必要となることを示している.
著者
BAKHRONOVA Munisa (2010) バフロノヴァ M (2009) BAKHRONOVA MUNISA (2007-2008)
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本年度は、11月17日~12月16日まで28日間ウズベキスタン、サマルカンド市内の旧市街に位置する伝統的な4つのマハッラ(Xuja・Zudmurod(タジク人が主に居住)、Qoraboy Oqsoqolマハッラ(タジク人とユダヤ人が居住)、Ozodマハッラ(ジプシー、タジク人が居住)、Obodマハッラ(トゥルクメン人、タジク人が居住))において最終的なフィールドワークを実施した。さらに、それぞれの4つのマハッラ内で行われる女性のみの集まり、Bibi SeshanbeやBibi Mushkulkushodに参加し、行事を仕切る女性のリーダーにも聞き取り調査を行いました,今までの質問票調査、インタービューの最終結果をまとめ、それぞれのマハッラのリーダー(Oqsoqol,Noib)、サマルカンドのコミュニティ社会、マハッラの歴史などに詳しいサマルカンド国立外国語大学、Samiboey Xurshed教授、文献調査の検索などに協力をえたウズベキスタンの首都タシュケントのIjtimoiy Fikr(Public Opinion Study Center)の方々にお会いし、最終的な調査結果の報告をした。本研究のウズベキスタンのコミュニティ社会の研究にどのような貢献をもたらすことができるのか、成功と欠点について皆さんの意見、指摘などを聞いた。最後に、サマルカンド国立外国語大学の英語学部3、4年生向けのSamiboev教授のセミナーにも参加し、最後に30分の研究発表をする機会あった。また、2011年1月12日~22日まで11日間欧州の首都ブリュッセルのシンクタンクCentre for European Policy Studies(CEPS,世界でのトップ10位に入る非常に優れたシンクタンクの一つである)。最近では、中央アジア出身の博上課程の優れた若手研究者がCEPSに数人集まっており、1月に行われた集まり会に参加することができ、自分の研究を紹介する機会を与えられた。
著者
杉山 康憲
出版者
愛媛大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本年度の研究計画に基づいて「糖尿病モデルラットを用いた糖尿病発症および合併症に関するプロテインキナーゼの探索」を行った。本実験で使用した糖尿病モデルラットであるOLETFおよびコントロールラットであるLETOは大塚製薬徳島研究所より分与して頂いた。OLETFラットおよびLETOラットの雄を糖尿病発症前の12週齢、糖尿病発症後の25週齢および40週齢的合併症が発症すると考えられる老齢の60週齢に解剖し、脳、肺、心臓、肝臓、腎臓、脾臓、すい臓、精巣を摘出した。各臓器抽出液を調製し、抽出液中に存在するプロテインキナーゼをマルチPK抗体を用いて検出した。その結果、各臓器抽出液から多数のプロテインキナーゼのバンドが検出された。このうちM1C抗体を用いて25週齢のOLETFラットを解析すると、すい臓において約110kDaおよび約200kDaのバンドが検出され、これらのバンドはLETOラットでは検出されなかった。これらの結果から、この約110kDaおよび約200kDaのバンドは糖尿病の発症に関わるセリン/スレオニンキナーゼであると考えられた。また、40週齢のLETOラットをYK34抗体を用いて解析すると、精巣において約150kDaのバンドが見られたが、OLETFラットでは検出されなかった。これらの結果は、約150kDaのチロシンキナーゼがLETOラットと比較してOLETFラットで発現量が顕著に減少することから、糖尿病発症後において精巣で見られる男性生殖器の機能不全に関わるプロテインキナーゼである可能性が考えられる。現段階では、これらのプロテインキナーゼの同定はできていないが、今後これらを同定することで糖尿病の発症や合併症の解明に繋がると予想される。
著者
津田 敏隆 MADINNENI Venkata Ratnam MADINENI VENKAT RATNAM RATNAM MADINENI VENKAT
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

データ空白域とされてきた赤道域の成層圏の大気特性を解明することを目指し、インドネシア西スマトラの赤道大気レーダー観測所を中心に行われた気球(ラジオゾンデ)集中観測結果、ならびにCHAMP衛星によるGPS掩蔽データを用いた研究を行った。とりわけ、対流圏・成層圏の物質循環や大気波動エネルギーの上方輸送に重要な役割を果たす熱帯域対流圏界面の微細構造の特性解明、ならびに赤道域で活発な積雲対流により励起される多くの大気波動のうち特にエネルギー・運動量の上方輸送を担い大気大循環の駆動力となっている大気重力波および赤道ケルビン波の特性を研究した。インドネシア域の5ヶ所で2004年4-5月に行われたラジオゾンデ集中観測の結果を用いて、慣性重力波の鉛直構造および時間変動を事例解析した。対流圏上部・成層圏下部において卓越した重力波(周期2-3日、鉛直波長は3-5km)が認められた。波動エネルギーは高度約20kmで最大となるが、必ずしも時間連続ではなく間欠的であった。重力波の水平伝播特性を5観測点間で相互相関解析し、水平波長約1,700kmで東南東の方向に伝播していたことが分かった。長波放射(OLR)の衛星データを用いて雲分布の時間・空間変動を調べ、インド洋からインドネシア海洋大陸に向けて東方伝播する積雲対流群が重力波励起に関与していることを示した。また、ラジオゾンデとGPS掩蔽データを併用して、対流圏上部・成層圏下部におけるケルビン波の特性を解析し、東西波数1,2で東進する成分が特に卓越していることを示し、その気候学的特性を明らかにした。ケルビン波は対流圏界面の温度構造に大きな変動を与えており、対流圏界面高度および極小温度が周期的に変動することが分かった。なお、東西波数が1ないし2の全球規模のケルビン波に加えて、局所的な波動擾乱も起こっており、積雲対流がその励起源となることを示した。これらの研究成果を国際学術誌に論文公表した。
著者
佐藤 潤一
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

2009年度の研究は、昨年度の研究において構成した離散不動点定理の経済モデルへの応用と、進化ゲーム理論と古典ゲーム理論との関係に関するものであった。2企業が同質な財を市場に供給している状況下で、お互いの企業が自社の利潤の最大化を目的とし、それぞれ独立に供給量を決定するというCournotモデルにおいての均衡の存在について考察した。このモデルでは、2企業の供給量および、それに準じて決定される価格が整数値、つまり離散的であるのが現実的なモデルである。しかし、現在までに離散的なモデルでの均衡の存在については報告されてない。そこで、2企業の供給量で決定される価格の挙動と離散的な均衡の存在についてとの関係を明らかにした。具体的には、2企業の供給量が整数値である状況下でも、それに準じて決定される価格の挙動に適当な仮定を置くことにより均衡が常に存在することを示した。ここで、価格に置いた仮定は、古典的なCournotモデルの状況を含んでいることに注意すれば、昨年度に構成した離散不動点定理は、経済学等の社会的背景に応用した際にも意味をもつものであるといえる。また、進化ゲーム理論の柱であるレプリケータダイナミクスの定常点と、古典ゲーム理論との関係について研究を行った。特に着目したのは、レプリケータダイナミクスを用いることにより、行列で表現される古典ゲームを進化ゲーム理論の範疇で取り扱うことが可能になる点である。さらに、古典ゲームの重要な解概念であるNash均衡が、レプリケータダイナミクスの安定な定常点に対応することも報告されている。しかし、定常点には安定な定常点の他に、不安定な定常点も考えられる。そこで、不安定な定常点に対応する古典ゲーム理論の戦略表現を明らかにした。具体的には、プレイヤーの立場が対等な対称2人ゲームにおいて「定常点の不安定多様体の次元の分だけ、各プレイヤーが譲歩している」という知見を与えた。
著者
岩貝 和幸
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

ナノクリスタル合成〜新たな構造性活性点の創製として水/界面活性剤/有機溶媒溶液を用いた単分散ゼオライトナノクリスタル合成法をMOR型に適用し合成条件を検討した。MOR型ナノクリスタル合成ではナノサイズ化の目標であるシリカライトナノクリスタルと同様の粒子径60nmを達成することができた。構造性活性点触媒反応システムへの展開〜ZSM-5ナノクリスタルでは結晶サイズがナノスケールであるため結晶外表面酸点量が多いよって、外表面酸点を不活性化した場合、大半の酸点が不活性化され反応活性が著しく低下する可能性がある。本年度は酸点量と結晶サイズが異なるZSM-5を合成し、外表面酸点を不活性化してアセトンからのオレフィン合成を行い、酸点量と結晶サイズの影響を明らかにすることができた。外表面酸点を不活性化したZSM-5ナノクリスタルではアセトン転化率がほぼ100%を維持し、芳香族の選択率を減少させ、オレフィン選択率を向上させることに成功した。構造体触媒反応システムへの応用〜粒子径が50nmのZSM-5ゼオライトナノクリスタルを積層した触媒膜を用いてZSM-5ゼオライトナノクリスタルの外表面酸点を不活性化における影響について検討した(MTO反応)。外表面酸点を不活性化することによりZSM-5ナノクリスタルを積層した触媒膜は転化率68%、オレフィン選択率43%を長時間にわたって達成した。積層膜の改良で触媒層機能を強化することにより高選択性をいかしたまま転化率の向上を達成することができた。
著者
今野 祐多
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

昨年度のH_2水素安定同位体組成定量システムに引き続き,同じく還元性気体であり,極限環境において大きなエネルギー源および炭素源となるCH_4の水素安定同位体組成定量システムを構築した.それを応用し,岐阜県瑞浪超深地層実験施設における地下水中のCH_4の定量を行った.炭素同位体組成の情報だけではCH_4の起源を判別することは出来なかったが,水素同位体組成の情報を併せることで,単純な有機物由来のCH_4では無く,CO_2還元由来ではないかと結論した.一方で,H_2の水素同位体組成は-700‰前後であり,地下水と温度平衡になっている可能性が考えられる.微生物によるH_2の生成消費反応はH_2-H_2O平衡を促進させるため,水素に関わる微生物活動の可能性を示唆しているのではないかと考える.また,窒素固定反応に付随してH_2が副次生成されることが知られており,海洋において窒素固定速度とH_2濃度に相関があることが報告されている(Moore et al., 2009など).ところが海洋表層は大気からの混入と現場で生成されるH_2の区別が難しく,H_2濃度のみから窒素固定速度を求めることはやや定量性に欠けると考える.そこでH_2の水素同位体組成を定量することで窒素固定速度の定量を目指した.ところが実際の海水試料中に溶存するH_2濃度はsub-nM~数nM程度であり,現システムで精度良く水素同位体組成を定量するのは難しく,窒素固定速度と整合性の取れたデータを取得することは出来なかった.しかし,得られた水素同位体組成は一般的な大気と生物由来と考えられるH_2との間の値を取っており,将来的に少量で精度良く水素同位体測定が可能になれば,海洋窒素固定速度定量に対して有用なツールとなる可能性があると考える.
著者
山尾 大
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は、現代イラクにおけるイスラームと政治の動態を、シーア派宗教界とシーア派イスラーム主義政党の関係性とその変化に着目して分析することにある。21年度は、昨年度に分析したイスラーム主義政党の歴史的なイデオロギーの変容を元に、なぜそのような変容が生じたのかを分析し、それが2003年のイラク戦争後にいかなる影響を与えているかという問題を解明することに力点を置いた。また、これまでの研究成果を、博士論文にまとめる作業を行った。具体的には次のことを行った。(1)1990年代のイラク国内のイスラーム主義運動を、社会運動の観点から分析する作業を進めてきたが、それを論文にまとめ、海外ジャーナルに英文で投稿する。(2)1990年代の亡命組イスラーム主義政党、具体的にはダアワ党とイラク・イスラーム革命最高評議会の歴史的展開とイラク政治との関係を、彼らが発行していた地下機関紙を解析することで明らかにする。(3)1980~90年代の亡命組イスラーム主義政党と、国内のシーア派宗教界、および国外の宗教界との関係を分析し、とりわけ金銭的な支援のネットワークを解明する。この作業は、党の内部文書の解析とともに、聞き取り調査を実施することで、明らかにする。(4)以上で分析した関係性が、2003年のイラク戦争後の政治運営において、いかに影響しているかという問題を、イスラーム主義政党の離合集散、合従連合に着目して明らかにする。その結果、とりわけ1980年代から1990年代後半のイラク国内外のイスラーム主義政党のイデオロギーと活動実践が明らかになり、同時にそれらが2003年の戦後イラクにおいて、政治対立のいかなる側面で問題となっているのか、この構造とメカニズムを明らかにした。これらの成果を、国外の学術雑誌と国内のジャーナルに投稿し、さらに共著の論文集として発表した。この分野は、実態の解明が喫緊の課題であるにもかかわらず、我が国のみならず、世界的にも研究が未着手である。これを解明したことで、イラク政治の重要な一側面の解明に貢献した。
著者
河原 大輔
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究は、アメリカ映画におけるポスト古典映画の諸相を明らかにするべく、近年積極的に行われてきたポスト古典論争の再検討を、とりわけインディペンデント映画研究、ニューメディア論との比較検討から重点的に行った。インディペンデント映画研究においては、とりわけ、ポスト古典初期ともいえる60年代後半からそのキャリアをスタートさせたデイヴィッド・リンチを主たる研究対象とし、彼の作品の製作・配給・上映形態がいかなる変化を遂げてきたのかを検証した。そこで明らかになったのは、深夜上映からブロックバスター、テレビドラマ、ウェブサイトへと、変則的ながらもゆるやか移行を見せるリンチの製作態度が、ポスト古典論を展開する理論家が提示してきた現代アメリカ映画の諸特徴と連動するのみならず、90年代以降のニューメディア論とも共振しているということである。また、テレビドラマのパイロット版を映画として公開したり、ウェブサイトでの公開用に撮影したデジタル映像を映画館でフィルム上映したりする近年のリンチの変則的な製作態度を、オールド・メディアとしての映画からインターネットをはじめとするニューメディアへの移行という直線的なメディア史の記述方法に疑問を投げかける重要な事例として検討した。これらの結果判明したことは、現代はむしろ、ヘンリー・ジェンキンスが説くように、新旧のメディア双方が乗り入れ、奇妙な同居を見せる時代として理解されるべきであり、このように理解したとき、リンチの映画および60年代以降のポスト古典映画は旧来の古典映画とニューメディアを段階的に繋ぐ領域として、より広義にはポストモダンへの移行を記述するメディアとして、意義深い視点を提供するであろうということである。研究成果は日本映画学会および日本アメリカ学会において順次発表される予定である。
著者
牛越 惠理佳
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

これまでに,体積一定の摂動条件のもと,Stokes方程式の速度場に対するHadamard変分公式の導出に成功した.また,体積一定であることに加えて,摂動条件に若干の仮定を加えることによって,速度場だけでなく,圧力に対する変分公式を導出することができた。しかしながら,未だこの証明方法は煩雑で,Hadamard変分公式の応用を考察するためには,証明方法の更なる簡略化および摂動条件に新たに加えられた仮定を取り除く必要性を感じ,研究を行った.そして実際,体積一定の摂動に対して,Stokes方程式の速度場および圧力に対する変分公式の証明の簡略化に成功した.しかしながら,シンプルな証明を確立したことによって,これまでに得ることの出来なかった,速度場および圧力の第二次変分までをも導出することに成功した.この手法に,所謂bootstrap argumentを用いることによって,任意の高階に対する変分公式の導出が可能になると予想される.これらの結果をまとめ,論文として投稿した,以上の研究成果をもって,国内研究集会へ積極的に参加し,研究分野の近しい数学者と議論を行い,変分公式の次なる発展を模索することを心がけた.変分公式は,領域摂動問題において,基本的でありかつ不可欠である.実際に,変分公式を応用して,固有値の領域依存性を解析した多くの結果が存在する.様々な数学者との議論を通して,今後の研究へ大きな影響を与えるような知見を得ることが出来た.
著者
栃原 裕 KIM TAE GYOU
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

実際の冷凍倉庫内の環境を想定して、冷凍倉庫内の荷役作業が人体の体温調節反応やその他の生理反応にどのような影響を及ぼすかについて実験を行った。8名の被験者とし、気温20℃、相対湿度50%環境下において20分間の椅座位安静の後、マイナス25℃環境へ移動し、10分間の椅座位安静後、10分間の作業を行い(作業なし、9kg荷役作業、18kg荷役作業)、再び10分間の椅座位安静で、計30分間の寒冷暴露とし、これを3回繰り返すものであった。その結果、寒冷作業における労動量が増加することによって熱産生量が増加することが明らかになったが、四肢末梢の皮膚温においては条件間の温度差が現れた。直腸温低下は労動量の増加によって抑制されたが、直腸温変動に対するCounting比の相関では労動作業による急激なCounting比の低下が見えた。直腸温37.2℃においてCounting比は条件18kg荷役作業で一番高く、作業なし、9kg荷役作業の順に低くなったが、36.7℃では条件作業なしが一番高く、9kg荷役作業、18kg荷役作業と低くなり、逆順序になることがわかった。これは直腸温と足趾温との相関でも同様であった。血液成分では、寒冷ストレスに対して血漿ノルアドレナルリン濃度が増加した。本実験結果もこれと同様の結果であった。本実験においては、作業による熱産生の増加により寒冷ストレスは軽減されたため、作業量増加に従って血漿ノルアドレナルリン濃度の増加量が低下したと考えられた。しかし、手作業の巧緻性は重量物の荷役などの労動によってむしろ低下した。したがって、同一時間に対する作業でも寒冷環境下の重量物の取り扱いは、作業能率の低下や荷物の落下などの危険性が高まる恐れがあるため、取り扱い時の作業時間の短縮及び安全上の確保をさらに要すると考えられた。
著者
中尾 正義 CHENG. Z. CHENG Z
出版者
総合地球環境学研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

本年度は、主に清代の古文書を中心に研究してきた。満洲語や漢語の古文書により、清代全国に行われた国家規模な雪、雨、穀物の価格などの報告システムが明らかになった。それはこれまでの予想以上に、完全な文書システムによって広大な帝国領域を支配するために不可欠な手段であった。とくにこの研究を通して雨量の測定に関する具体的な文書が発見し、これまで朝鮮で発見された「測雨器」をもって雨を測量したという論説を根底から否定することになった。当時、雨に関する具体的な測量方法は、基本的に測量具を用いず、雨が降ったあと、地方の役人が地面を掘って、そのしみこんだ土を測り、寸、分という単位で記録して、中央政府に報告するという事実が明らかになった。時代が変わってもこのようなシステムが現在にいたるまで受け継がれ、測量器具や観察方法が進歩してきたと思われる現代にとって、清代という一つ前の時代にもこのような制度や見方が存在していたことから、当時の社会や自然に対する人間の営みが見えてきた。現在、これまで見つかった資料を中心に、歴史的な観点から自然環境と人間活動の相互作用に関する論文を鋭意執筆中である。
著者
大野 宗祐
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

本研究の目的は、天体の超高速度衝突時に発生する蒸気雲内における化学反応の速度を実験的に求めることと、その求まった反応速度が地球や惑星の表層環境や生命の進化にどのような影響を与えたかを解明することである。今年度は、衝突蒸気雲内部における硫黄酸化物の酸化還元反応の反応速度を実験的に推定するとともに、求まった反応速度を用い、今から6500万年前のK/T事件において硫黄酸化物がどのような環境変動を引き起こしたのかについて、理論計算を行った。本研究の手法で推定された硫黄酸化物の反応速度は、既存の気相反応の文献値よりも大きく、衝突蒸気雲の最終生成物は低温で安定な三酸化硫黄が支配的であったであろうことを意味する。この場合、K/T事件の際放出された硫黄酸化物が速やかに硫酸エアロゾルを形成したと推測される。この硫酸エアロゾルの大気中での滞留時間が、環境変動を議論するうえで非常に重要である。しかしながら、既存のK/T事件の際の硫酸エアロゾルの大気中の滞留時間の推定結果は全て、衝突直後大気中で共存していたはずのケイ酸塩の再凝縮物を無視していたため、滞留時間を何桁も過大に見積もっていた。そこで本研究では、ケイ酸塩と硫酸エアロゾルとの相互作用を考慮に入れて硫酸エアロゾルの大気中における滞留時間を計算した。その結果、硫酸エアロゾルの滞留時間は数日以内と非常に短いという結果が得られた。これは、硫酸エアロゾルによる日射遮蔽はごく短期間で終了するかわり、強い酸性雨が全球的に降ったということを意味する。本研究では計算した硫酸の降下フラックスに基づき、海洋表層の炭酸イオン濃度を推定した。硫酸の降下が大気海洋間のガス交換の特徴時間よりも圧倒的に速いため炭酸の緩衝系が弱められ、従来の推定よりも数十分の一まで炭酸イオン濃度が減少すると言うことがわかった。
著者
目時 弘仁
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

BOSHI研究では1年間を通じて317人の登録を行い、研究開始時より計831名の参加者となった。平成20年3月31日までに出産者した正常血圧妊婦109人を対象で、心拍数とショックインデックスは妊娠経過とともに増加して妊娠33週で最高値となり、以降は減少した。一方、ダブル・プロダクトは妊娠初期から妊娠後期までに単調に増加した。妊娠経過や季節変動が心拍数やダブル・プロダクトに及ぼす影響は、妊娠経過の影響が大きかったが、ショックインデックスは季節変動の影響が大きく、夏期に顕著に上昇した。平成21年3月31日までに出産した正常血圧妊婦258名に対象を広げ、妊娠初期の基礎特性とその後の血圧推移との関連を検討した。妊娠前に肥満であった妊婦は、妊娠時の血圧が正常レベルであっても、正常BMIの妊婦と比較し有意に高値であった。また、妊娠前にBMIが18.5未満であった群では2500g未満の低出生体重児であった割合が高かった。さらに、妊娠初期の血中インスリン濃度やHOMA指数と血圧推移との関連を調べたところ、血中インスリン濃度が高くなるにつれて、妊娠期間中の血圧レベルが高くなるばかりでなく、妊娠中期の収縮期家庭血圧低下は減弱した。大迫研究では、遺伝子多型や親の長寿と高血圧新規発症・高血圧有病との関連を検討した。計53個のSNPsのうち、RGS2、ADD1、CACNA2D2、CATの4つのSNPが高血圧発症と有意に関連し、オッズ比は1.6倍から1.9倍、P値は0.01から0.04であった。両親の長寿は、子の成人時の高血圧と関連し、母親が69歳未満で死亡した場合、子の血圧は127.4±13.2/76.2±9.1mmHg、84歳以上まで生きていた場合には123.4±15.2/74.4±10.3mmHgで、長寿の母親を持っ子の血圧レベルは有意に低かった。父親の場合も同様であった。
著者
飛奈 裕美
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

筆者の研究課題は、イスラエルの非軍事的占領政策が、エルサレムのパレスチナ社会の日常生活にどのような影響を与えているか、およびそのような日常生活のなかでパレスチナ人は占領を生き抜くためにどのような戦術を用いているか(非暴力的抵抗)を明らかにすることである。今年度は、東エルサレムを中心としたパレスチナ/イスラエルでのフィールドワークに重点を置き、以下の項目の調査を行った。(1)東エルサレムでは、パレスチナ人の住居が「違法建設」として破壊されるという問題が起こっている。イスラエルの建設制度や住宅政策を検証することを通して、なぜパレスチナ人が「違法」に住居を建設しなければならない状況に陥るのかを、法的・行政的側面から明らかにした。その上で、パレスチナ人が東エルサレムに住み続けるために、住居建設という分野でどのような戦術を用いているのかを明らかにした。本調査項目の研究成果を、2008年9月にウランバートルで行われた国際学会で口頭発表にて発表を行い、そこでの議論も踏まえて、論文にまとめ、『イスラーム世界研究』第2巻2号で発表した。(2)東エルサレムのパレスチナ人には、ヨルダン川西岸・ガザ地区のパレスチナ人とは異なる法的地位が与えられている。それはイスラエル居住権という地位であり、居住権はイスラエル市民権とは異なり、イスラエル内務省の裁量によって剥奪可能な法的地位である。このような脆弱な法的地位を与えられていることによって引き起こされる東エルサレムのパレスチナ人の日常生活上の諸問題をフィールドワークで明らかにした。本調査項目の研究成果を、(A)(1)の研究成果と合わせて2008年9月にウランバートルで行われた国際学会、(B)2008年11月にクアラルンプールで行われた国際シンポジウム、(C)2008年12月に京都で行われた国際シンポジウムにて発表した。以上のように、本年度は、フィールドワークに重点を置きながら調査を行い、国際学会・国際シンポジウムで積極的に研究成果を海外に発信しながら議論を行い、その成果を日本語および英語でまとめて発表した。
著者
久方 瑠美
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本年度は、視野安定および物体の定位に関連する錯視として「運動による位置ずれ」錯視と、輪郭運動および眼球運動との関係を実験的に検討した。「運動による位置ずれ」とは、ぼやけた静止輪郭内に運動するもの(例えば正弦波)が存在する場合、静止輪郭が内部の運動方向へずれて知覚される現象である。従来の研究では、静止している輪郭へ内部正弦波の運動がどう影響するかについて調べられて来た。そこで本研究では、輪郭自体も内部正弦波と独立に運動する場合において「運動による位置ずれ」がどのように発生するのかを調べるために実験を行った。その結果、輪郭自体が運動していてもそれに関係なく、輪郭の位置ずれは内部正弦波の運動方向へ発生することが明らかになった。さらに、網膜上において刺激の輪郭が内部正弦波と逆方向に運動している場合に、位置ずれ量が大きくなる非対称性が明らかになった。この実験結果から、網膜上の運動情報が「運動による位置ずれ」に重要であることを示している。今後、この実験結果をふまえて、どのような種類の運動が運動による位置ずれに重要であるか検討していくことができるだろう。
著者
佐藤 昇
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

本年度はまず、アテーナイ民主政が、紀元前4世紀(とりわけ380年代)の国際環境と国内世論とのせめぎ合いの中で如何にして政策決定に至ったのか、諸要素の相互関係について、外交に関わる二枚の民会決議碑文の検討を行なった。この成果に関しては、論文'ATHENS, PERSIA, CLAZOMENAE, ERYTHRAE : AN ANALYSIS OF INTERNATIONAL RELATIONSHIPS IN ASIA MINOR AT THE BEGINNING OF THE 4TH CENTURY BCE.'として、『Bulletin of the Institute of Classical Studies』誌第49号(2006年)に掲載される予定である。また同時に、紀元前4世紀アテーナイにおける贈収賄言説についての分析を行なった。当該期の弁論史料中に見出される膨大な賄賂言説を整理し、贈収賄に関する非難が発生する文化的、社会的背景に対して検討を加えること通じて、民主政アテーナイには如何なる権力観が共有されていたのかを考察し、更に民主政への市民参加社会層との関わりについて考察を加えた。この件については、その成果の一部を、5月にロンドン大学キングスカレッジ古典学部に於いて、口頭報告の形式で発表した。さらに、この調査全体を、東京大学大学院に提出する学位請求論文としてまとめた。給付された科学研究費補助金は、以上の諸テーマに関する、欧米各国で出版されている研究文献、一時史料の入手、及びデータ整理等に要するパソコン周辺機器の購入に充てられた
著者
中野 美紀
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

現在、有機分子を用いたデバイスの開発が盛んに行われており、分子の電気的特性を調べるために、走査プローブ顕微鏡や微細加工電極が用いられてきた。分子素子の実用化のためには、電流の増幅効果やゲート電圧引加による分子独特の効果が期待できる微細加工電極を用いた三端子素子の作製が望まれる。さらに、電極ギャップ間距離が数nm以下と短い場合には、分子で電極のギャップ間を架橋できるが、大きな電界効果を望めないことが報告されている。この問題を克服するために、絶縁性分子・金属イオンからなる自己組織化多層膜を、数十nmにギャップ間距離を広げたナノギャップ電極に挟み込んだ。本研究では100-400nmのシリコン酸化膜を持つn-Si基板上に斜め蒸着で作製した20-30nmギヤップのナノ電極に多層膜を挟み電気特性を調べた。その結果、ソース・ドレイン間のギャップが狭い場合には、クーロン振動が観察され、単一電子トンネルトランジスター(SET)として働いていることを室温で確認した。しかし、ギャップが広い場合には、クーロン振動は観察されなかった。電極のギャップ距離が均一でないことから、界面の一部、微小ギャップが薄い部分が量子ドットとして働いているために、ギャップ間距離が狭い電極の場合にのみ、SETの現象が観察できたと考えられる。さらに、酸化膜厚を薄くすることで、クーロン振動の周期が短くなり、電界に対する電流の応答性が良くなったものと考えられる。
著者
吉村 正志
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

本年度は3年計画の最終年度であった。3年間で国内所蔵の東南アジア雄アリコレクションの概要がほぼ明らかになったと言えるだろう。だが、同時に、さらなるインベントリー情報の整備が検索システム構築には不可欠な要素であることも明らかになった。東南アジアにおける雄アリ検索システムの完成には到らなかったものの、その基礎となる知見や環境整備は3年間で大きく前進したといえる。今年度はこうした研究成果を英・和文の論文5編、著作1編、雑誌記事1編、国際学会発表1編、国内学会発表3編として公表した。昨年より本格的にカリフォルニア科学アカデミーとの共同研究を行ない、インベントリー情報が整備されたマダガスカル地域の雄アリ検索システムを構築し、このうちハリアリ亜科については発表に至った。さらにカギバラアリ亜科の研究を進めており、亜科内の翅脈の比較形態について国際学会で発表した。また、日本産アリ類の分類学的な研究を進め、アギトアリ属とウロコアリ属について発表した。また、屋久島調査の過程でハリアリ属に新知見が見出されたため、屋久島の調査報告とともに発表した。今年度は分類学的な研究と並行して、これまで蓄積された学術的な情報を分類研究者以外の研究者や一般社会へ還元するための、Web公開型データベースの整備に力を入れた。日本産アリ類画像データベースの改訂については昨年から進めていたもので、これを7月に2007年ベータ版としてWeb上に公開した。また、Web公開情報の安定的な保存と普及をさらに進め、学術的な引用に耐える環境を整備するため、新たなコンテンツを加えたデータベースを2008年CD-ROM版として、3月に出版した。また、データベースの改訂と運営を通して、現在のWeb公開型データベースが抱える問題点と展望を発表した。
著者
國崎 彩
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

「大正期の寶塚少女歌劇團の舞踊活動の考察」(研究ノート);秦豊吉とも関連が深い、昭和期のレヴュー・ブームに先鞭をつけた寶塚少女歌劇團(以下「宝塚」と略称)の大正期に焦点を当て、当時展開していた舞踊思潮を、機関誌『歌劇』の舞踊記事調査・分析をおこなうことにより検証した。結果、宝塚では、独自の形式「歌劇」を模索する中で、小林一三、久松一聲、楳茂都陸平、坪内士行、岸田辰彌、ルイジンスキー等の舞踊作家達が、それぞれ、実際の上演/『歌劇』誌の両面において舞踊について模索していた。宝塚を現在から振り返って捉えなおしてみると、新舞踊、バレエ、モダン・ダンス、同時代の浅草オペラで上演されていたような舞踊など、あらゆる新しい舞踊の流れを柔軟に受容していた、一つの舞踊の拠点であったと再評価できた。また、こうした大正期の宝塚における充実した舞踊の展開は、宝塚において、昭和期以降のレヴュー・ブームを可能にした要因の一つとなったのではないかと推測できる。「秦豊吉の近代化意識と舞踊観について」(第58回舞踊学会大会発表);秦豊吉が企画した日劇ダンシング・チーム(以下、NDTと略称)の戦前・戦中期についての考察をさらに進める目的において、まず、一次資料であるプログラム、チラシの調査・収集、当時の出演者への聴き取り調査を積極的におこない、舞踊上演の実際を検証した。そして、秦豊吉がMITに結実させた「近代化」とはどのようなものだったのか、そこに「舞踊」はどのように関わり、どのように表象されていたのかということを論考した。NDTでは、「近代的」な「大衆娯楽」としての「ショウ」形式のなかで、国内外のあらゆる舞踊が受容され、戦中期には「日本民族舞踊」として、秦の「近代化」が複雑な形で表象されることとなっており、興味深い。今後、楽譜、音源、台本などの一次資料のさらなる調査を経て、さらに深化させた論考を改めておこないたい。