著者
太田 清久 AMIN Nurul Md AMIN Nurul Md.
出版者
三重大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

現在、バングラディッシュなどの一部の地域で問題となっている砒素中毒症は、主に地下水の砒素汚染に原因がある。したがって、バングラディッシュで主に燃料として利用されており、廃棄物である稲、籾殻、使用済みの茶葉、ココナッツの殻などを細かく粉砕してカラムに充填し、3価と5価のヒ素の吸着除去を試みた。ヒ素汚染水の浄化は、これまで様々な手法が試みられてきたが、簡便で実際にバングラディッシュの実用にあった手法はほとんどなく、現在も汚染した地下水を飲料用として飲み続けている状況である。本手法は、バングラディッシュで手に入れることができる廃棄物を利用して吸着除去を試みた。その結果、稲がヒ素除去を行うために有効なろ過材であることを見出した。現在、3価のヒ素の除去は比較的難しいため、5価に酸化してから除去処理を行っているが、本吸着除去では、3価のヒ素も5価と同様に吸着除去できることが分かった。さらに、それらに熱的処理を施すことにより、活性炭のような炭化処理を行い、除去効率の向上を図った。最終的には、吸着力の非常に高い浄化材として熱処理した籾殻が、バングラディッシュなどで問題となっているヒ素汚染された地下水の浄化に有効であることが分かった。酸化剤などを用いた処理を行うことなく、直接浄化処理を行って、ヒ素を取り除く手法を開発することができたため、砒素中毒症の改善が期待される。
著者
北里 宏平
出版者
神戸大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本年度は当初の計画通りの成果をだすことができたが,最終的な成果を投稿論文にまとめるところまでは至らなかった.残った課題については今後取り組む予定である.本研究では,「はやぶさ」探査機に搭載した近赤外線分光器の観測データを用いて小惑星イトカワの宇宙風化作用を明らかにし,小惑星の形成進化についての知見を深めることが目的である.宇宙風化作用は,月や小惑星のように大気の存在しない天体表面下において微小阻石の衝突や太陽風照射の影響から光学的性質が変化する現象であり,その度合いは物質が表面に露出していた時間を示す指標となる.この効果は近赤外線波長域の反射スペクトルで顕著に変化が見られ,定量的に測ることができる.前年度では,スペクトルデータのマッピング処理に必要となる小惑星表面の光散乱特性を表す測光関数を導出し,それらの結果を投稿論文にして出版した.本年度では,得られた測光関数を用いてスペクトルデータを一定の観測幾何条件に補正し,天体表面のグローバルなスペクトルマップのデータベースを作成した.その結果,鉱物組成の不均質性はみられなかったが,宇宙風化作用の度合いや表面物質の粒子サイズに起因すると考えられるアルベドおよびスペクトルスロープの地域差が検出された.この結果は,小惑星の形成進化過程を考える上で非常に重要な情報を秘めた可能性があり,今後様々な理論的・実験的研究によってより詳細な議論が進められると考えられる.
著者
荒井 朋子
出版者
国立極地研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

2007年から砂漠産月隕石Dhofar489とそのペア隕石の岩石鉱物研究により、月裏側地殻の鉱物分布の特定を進めてきた。その結果、アポロ試料からわかっている月表側地殻とは異なる鉱物分布及び組成を持つことを明らかにした。このデータをもとに、月表側裏側地殻組成の二分性モデルを発表し、月マグマオーシャンの結晶化二分性の結果地殻組成の二分性が生じたという仮説を提唱した。また、国立極地研の三澤啓司博士、海田博博士及び吉竹美和研究員との共同研究により、NWA4485の岩石鉱物特性の分析及びSHRIMPを用いたジルコン・バデリアイトのウラン鉛年代決定を行い、その結果を2009年3月の第40回月惑星科学会議で発表した。分析の結果、この隕石中に含まれるジルコン・バデリアイトの結晶化年代は43.5億年前から39.4億年前まで幅広い年代分布を示した。この年代は、マグマからの結晶化のみならず、その後の隕石衝突により同位体系列のリセットの双方の事象を記録したものだと考えられる。かぐや探査機に搭載された紫外・可視・近赤外波長域の反射スペクトルデータを用いて、月の全球地殻の鉱物分布を解析した結果、斜長石100%の純粋な斜長岩が深さ10-20kmにわたり存在することを突き止めた。この結果、月上部地殻組成はこれまで以上にアルミに富むこと、また全球マグマオーシャンから極めて純度の高い斜長岩が均質に結晶化したことを明らかした。
著者
平丸 大介
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

生体内では、現在の技術では作製することが不可能である複雑な機能を有した微小構造体である生体組織が多数存在しており、それらの工学的応用が期待されている。本研究ではそのような生体組織の代表的なものの一つである毛細血管に着目し、人工的に作製した微小流路構造と自己組織化により作製された血管構造を機能的に結合するμ-TASデバイスを提案した。このデバイス上の微小構造は、平面上に配置されたオリフィスを複数有する埋込流路であり、厚膜ネガレジストであるSU-8内部に形成されている。このような微小構造は通常の露光方法では作製することが困難であり、我々が提案した傾斜露光法を用いることで簡便に作製することが可能となった。そして、埋込流路に接続したオリフィスが配置されたデバイス平面上でヒト由来の内皮細胞の一種であるHUVECを特定条件下で培養することで自己組織化により毛細血管構造を形成し、平面上のオリフィスへと誘導することで毛細血管と埋込流路を、オリフィスを介して機能的に結合する。ランダムに配置される脈管構造の誘導において、昨年度は内皮細胞の誘引因子であるVEGFを含有したゲルビーズをオリフィスに配置することで脈管構造をオリフィスへ誘導を行ったが、ゲルビーズの除去が問題となっており、オリフィスからVEGFを拡散させる手法を検討している。また、毛細血管の形成期間を短縮するために特異な環境下での培養を行っていたため、本年度では一般的な医学分野で用いられる条件下での実験を行うための培養システムの構築を行い、一週間以上の長期培養下での毛細血管構造の誘導と埋込流路との結合を試みた。
著者
裴 寛紋
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

前年度から取り組んでいた、宣長の朝鮮への視座という問題にかんしては、上代文学会の学術誌『上代文学』102号(2009年4月)に、「『古事記伝』が作った「皇大宮の始り」の物語-「韓国」は「空国」なり-」として掲載されたことに続いて、次に、韓国学会に向けての発信を試みた。2009年4月18日、韓国外国語大学(韓国ソウル市所在)で開かれた韓国日語日文学会春季学術大会における口頭発表は、そうした目論見の切り口であった。報告の題目は「「韓」の痕跡と否定-宣長を読む立場から-」とし、上記の投稿論文の前提になる問題意識、すなわち、「韓」をめぐる論争に焦点を絞ったものである。要は、宣長の時代の知識人にとって、「韓」そのものは主題や関心事ではなかったこと、彼らが意識していたカラとはあくまで「漢」であったことを、当代の一般認識(彼らの「常識」)の検討から明らかにした。そのカラに対する強い反発ないし克服が、宣長の「皇国(ミクニ)」という問題につながっていることは、いうまでもない。『古事記伝』が、「原典」としての『古事記』に求めた「皇国」の「古代」の意味を、そこに見出すことができる。以上の内容は、「本居宣長の「韓」-近世日本の古代論-」として、韓国日語日文学会の学術誌『日語日文学研究』第70輯2巻(2009年8月)に投稿し、掲載された次第である。
著者
鰐淵 秀一
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

今年度の研究成果としては、まず植民地時代フィラデルフィアにおける自発的結社の生成の中心的人物であるベンジャミン・フランクリンの『自伝』を史料として、都市社会における公共性について自発的結社と個人の関係という視点から論じた論文である「商業社会の倫理と社会関係資本主義の精神:『フランクリン自伝』における礼節と社交」と題して、『アメリカ研究』第45号(2011年3月発行)に発表した。ここでは、フランクリン個人の活動の分析を通じて、図書の貸借のような私的な個人の社交が公共性、すなわち都市における公共図書館の設立に至る過程が見出され、自発的結社とそれが体現する公共性が礼節と社交という商業的イデオロギーに基づくものであったことを明らかにすることが出来た。また、1750年の自発的結社の一つである教育機関フィラデルフィア・アカデミーの創設を当時の都市社会的コンテクストのなかで検討した研究報告を、2010年8月6日に北九州アメリカ史研究会(於福岡大学)で発表し、研究者たちとの活発な意見交換を行うことが出来た。この研究は論文の形式にまとめられ、現在『史学雑誌』に投稿中である。また、昨年度予定していたアメリカ合衆国への調査旅行を今年度三月に実現し、フィラデルフィアでの史料調査と共に初期アメリカ史の指導的歴史家との研究に関する情報交換を行い、研究課題の総括と共に今後の研究の方向性を得ることが出来た。フィラデルフィアではペンシルヴァニア歴史協会およびアメリカ学術協会での史料調査を遂行した。ここでは、研究課題の一つである植民地都市における自発的結社と植民地政府との関係を明らかにするための基本的な史料として、フィラデルフィア市会の議事録等の複写を入手した。これにより、これまでに収集したペンシルヴァニア植民地議会議事録や植民地参事会議事録等と共に、植民地都市の公的領域における政府と市民的組織の関係を考察することが出来た。
著者
大薗 博記
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究は、顔情報が信頼関係の構築にどのように寄与するかについて検討することを目的としている。21年度は、主に下記の研究を行った。これまでの研究から、笑顔が真顔に比べて信頼を得ることが指摘されてきた(Scarleman et al., 2001)。本研究では、この笑顔の効果の文化差に着目した。実際に、Yuki et al.(2007)は、幸福の情動判断において、日本人は目が笑っているかどうかに注目しやすい一方、アメリカ人は、口が笑っているか否かに注目が行きやすいことを示している。同様の効果は、信頼性判断においても見られるかもしれないと、考えた。そこで、本実験では、顔の上半分(目周り)の笑顔強度、下半分(口周り)の笑顔強度、及び笑顔の左右対称性という、笑顔の3つの要素が信頼性判断に及ぼす影響の目米差を検討した。実験では、アメリカ人と日本人の参加者が、複数の日米の顔写真(これらの顔写真については、事前に上下の笑顔強度及び左右対称性が評定されていた)について、信頼性の判断を行った。重回帰分析の結果、顕著な文化差が認められた。日本人参加者は、左右対称的であるほどより信頼する一方、上下の笑顔強度は信頼性判断に影響しなかった。対照的に、アメリカ人参加者は、上下の笑顔強度が強いほどより信頼するが、左右対称性は影響しないという結果が得られた。この違いについては、日米の表示規則の違いや認知様式の文化差の観点から考察された。なお、この研究については、Letters on Evolutionary Behavioral Scienceにて、査読後受理され、現在印刷中である。
著者
杉山 あかし KOGA Browes.S.P KOGA-BROWES Scott KOGA-BROWES S
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

入社プロセスならびに入社後の社内教育過程において、ニュース取材者の専門性や倫理観は形成されると考えられ、それはメディアの内容に直接反映されると考えられるが、ニュース制作者のあり方はこれまで明確ではなかった。テレビが現実についてのイメージを作り出すにあたって、テレビの内容を創り出す制作者の現実観は大きな影響を持っていると考えられるので、その人々のあり方を明らかにするのが本研究の目的である。具体的には、以下の項目に関する詳細な理解を可能とする情報収集を行なった;(1)テレビニュース制作者が職業上のこの立場を獲得する過程、(2)テレビニュース制作者の典型的な職業履歴パターン、(3)経営者・同僚から評価される個人的・専門的資質。本年度は、1、中堅現役報道カメラマンに同行取材し、長時間録画カメラにて本人のバックグラウンド及び学歴、今までの研究研鑽経歴を調べた。映像を作る際の基準や価値観、倫理観まで切り込んだ。/2、入社から退職までをカメラマンとして過ごした既退職カメラマンにインタビュー取材し、現在のカメラマンの在り方及び価値観と比較した。/3、人事採用担当者に採用基準をインタビューした。/4、入社内定者に入社前インタビューを行ない、テレビ局で働くイメージとキャリアへの展望を聞いた。/5、NVivoソフトを使って、インタビュー取材した映像をデータベース化した。/6、NHK資料館、TBS資料館、慶応大学メディア・コミュニケーション研究所、東京大学図書館(情報学際情報学環)を尋ね必要な資料を収集した。ただし、東日本大震災のため、テレビ局が多忙となり、当初予定したものよりも調査は小規模なものにならざるをえなかった。
著者
浅間 哲平
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

マルセル・プルーストが1890年代から1900年頃までにどのような蒐集と関わりを持っていたのかを調査するにあたり、以下の二通りのアプローチを試みた。まずはロベール・ド・フザンサック=モンテスキウ(1855-1921)との交際について研究した。1895年には、ある批評家が「愛好家たち」という評論でモンテスキウを批判したことから論争が起き、詩人は「職業芸術家」という論考で反駁を試みた。1896年にはプルーストの処女作『楽しみと日々』が出版され、べつの批評家ジャン、ロランがこの作品はモンテスキウの影響下にある愛好家の作品であるという論評を発表している。このような事実に着目し、1893年から1896年におけるプルーストとモンテスキウの関係を二人の書簡、当時の新聞・雑誌などから詳細に追っていき、二人の作品がどのような関係を持っているのかを検証していった。プルーストと蒐集家モンテスキウの関係を具体的に調べることで、モンテスキウが発表する芸術コレクションに対する論評にプルーストが実際に関心をもって接していたことを示す証拠をいくつか発見することができた。次に、プルーストは1890年1900年頃までの間に残した実在する芸術家についての美術評論のなかで、蒐集(コレクション)がどのように描かれているのかについて総合的な見地から研究した。プルーストは、レンブラント(1606-1669)、シャルダン(1699-1799)、アントワーヌ・ヴァトー(1684-1721)、ギュスターヴ・モロー(1826-1898)、クロード・モネ(1840-1926)についての評論を残している。これらの評論でそのコレクションがどのように論じられているのか検討した。
著者
撫原 華子
出版者
東京女子大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本年度は、18世紀初頭のジョン・ウェブスター改作劇を通じて、当時の劇場において女性観客が持っていた影響力の一端を浮かび上がらせることを目指した。中心として取り上げた劇は、ネイハム・テイト(1652-1715)作Injur'd Love ; or, The Cruel Husbandである。この劇は、イギリス演劇史上、女性を主人公に据えたごく初期の作家であるウェブスターの悲劇The White Devilの改作であり、1707年に初版が出版されている。この改作において、改作者テイトは原作には描かれていた暴力的描写を排除するか、緩和された形に書き換えている。本年度の研究では、女性観客の嗜好がその書き換えに影響した可能性を検証した。具体的には、このテイトによるウェブスター改作劇とその原作との異同を分析することから始め、そこに表象されている女性像の変容について、ひいてはその変容の社会的、演劇的背景、および女性をめぐる当時の言説が改作に及ぼした影響について考察した。その考察をする際、特に軸としたのは以下の点についてである。(1)Tateによる改作において暴力描写が排除あるいは緩和されていることが「女性観客の好み」に沿った結果であるとするならば、その裏には男性側の(あるいは当時の文化全体の)意図とはどのようなものだったのだろうか。(2)18世紀初期に、女性作家が暴力を描いた劇が(少ないながらも)存在することは何を意味しているのか。(3)ウェブスター改作受容史全体における暴力表象の変遷。17世紀から21世紀までの各時代性と、暴力表象の削減あるいは強調はいかに関わるか。以上の点を軸としながら、18世紀初めの男と女の間に存在していたせめぎ合いの状態について議論し、当時劇作家が作品を創作する際に女性観客が大きな影響を及ぼしていた可能性について探った。
著者
鳥山 祐介
出版者
千葉大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

18世紀ロシアの頌詩とギリシア・ローマ前年度に執筆した2本の論文を学術誌『スラヴ研究』『ロシア語ロシア文学研究』にそれぞれ発表した。また、ここで論じきれなかった問題を、ペテルブルクの国民図書館やヘルシンキのフィンランド国立図書館で収集した文献をも用いて新たに考察した論文を、北大スラヴ研究センターの雑誌に発表した。また、同様の趣旨で、日本18世紀学会において発表した。19世紀初頭のロシア文学と視覚文化ヘルシンキのフィンランド国立図書館、ペテルブルクの国民図書館にて、19世紀初頭のロシア社会における光学スペクタクルに関連する文献を収集し、それに基づいてプーシキンの小説『スペードの女王』における視覚的要素を論じた報告を研究会にて行った。目下論文化に取り組んでいる。また、18世紀の詩人デルジャーヴィンにおける絵画的要素に関する報告をロシア科学アカデミー・ロシア文学研究所(サンクトペテルブルク)において行った。
著者
村上 正秀 ZHANG P
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

実験は、ステンレス薄膜(10ミクロン厚)に細いスリットを入れてジグザグに整形して作った。これは、事実上平面ヒータと見なすことが出来ることが確かめられた。沸騰中のヒーターの平均表面温度はその電気抵抗変化から求めることが出来、これより、周囲のHe IIの温度や圧力等のいろいろな熱力学条件下において、沸騰状態における熱伝達係数を求めることが出来る様になった。同時にヒーターのすぐ上方で、沸騰に誘起されて起こる温度と圧力の変動も測定された。測定データから、上記の温度と圧力の変動は高度な相関をもっており、さらにその変動は可視化画像に見られるほぼ周期的な蒸気泡変形、急激な膨張と収縮の繰り返し、等とも同期していることが確かめられた。その内、大振幅変動については、カオス解析の観点からも解析され、各測定値の相互関係が詳しく調べられた。膜沸騰状態下での熱伝達係数は、ヒーター上方で計られた温度と圧力の変動にも強く依存することが分かった。3種類の膜沸騰状態、ノイジー、遷移状態、サイレントの各膜沸騰、における熱伝達係数の測定からは、沸騰状態はヒータ位置の静圧(液面からの深さに比例)に依存してそのモードが明らかに変わるが、熱伝達係数はそのモードに余り依存せずに大体同一であり、殊にλ点に近い温度では修正されたBreen-Westwater相関式で統一的に良く記述されることが確認された。さらに、これら沸騰モード間の分布マップも、温度-静圧-熱流束からなる、3次元表現として求められた。これら沸騰モードの差異は、その状態、特に蒸気-液界面の安定/不安定性に起因することも分かった。
著者
伊藤 淳史
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

戦時の植民地開拓と戦後の国内開拓の「断絶」面・「連続」面に関して福島県西郷村の白河報徳開拓農業協同組合を事例とした考察を行い、その成果は下記の論文に掲載された。伊藤淳史「加藤完治の戦後開拓-福島県白河開拓における共同経営理念をめぐって-」『農林業問題研究』第154号、2004年6月、76-80頁(地域農林経済学会大会個別報告論文)本論文では、開拓指導者加藤完治の指導理念における戦時と戦後の「連続」、一方でその理念を形骸化させる形での農業経営の安定化(=「断絶」)という、戦後状況における理念と現実との乖離を指摘した。また、植民地と農業教育の接点たる高等農業学校留学生について論じた著書に関して下記のブックガイドが掲載された。伊藤淳史「ブックガイド 河路由佳・淵野雄二郎・野本京子著『戦時体制下の農業教育と中国人留学生』」『農業と経済』第70巻第9号、2004年7月、111頁なお、8月には茨城県内原町・福島県西郷村において現地調査を行い、内原では戦時期より現在に至るまでの現存する機関紙誌の収集および関係者からの聞き取り、西郷では開拓第一世代および第二世代からの聞き取り調査を行った。
著者
細谷 幸子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的は、西洋近代医療の一端を担う看護職をめぐる諸状況の分析から、イスラーム社会における西洋近代医療と宗教の関係性の理解を促すことにある。西洋近代医療においては、治療・看護を目的として、患者身体への直接的介入がおこなわれる。しかし、イスラームが異性身体への関わりを禁止行為とし、人間の排泄物等に触れることを不浄をしているがゆえに、イスラーム社会に住む人々は、西洋近代医療を受容しながらも、身体をめぐるさまざまな倫理的問題に直面せざるを得ない状況に置かれている。本研究では、イラン・イスラーム共和国をフィールドとし、患者身体への直接的な接触(ボディ・ケア)を主業務とする看護職に注目する。民族誌的手法による総合的アプローチをとることで、イスラーム社会における西洋近代医療と宗教の動態的関係性を捉えようとする。平成15年度の研究実績は、以下の通りである。平成15年4月から6月までは、日本国内で、これまでの現地調査で得た資料の整理・分析と、文献研究をおこなった。その後、平成15年7月には、ロンドンにおいて、イギリス在住イラン人慈善家たちの活動と、イラン国内の病院や介護施設における看護・介護実践との関連性について調査をおこなった。平成15年10月から12月には、イラン・イスラーム共和国、テヘランを拠点として、これまでの調査・研究で不足していた情報の収集と、インタビューのテープ起こしをおこなった。平成16年1月から3月には、日本国内で文献研究をおこなうと同時に、イランの看護、介護と医療をテーマとして、看護専門雑誌で連載を受け持ち、小論を発表した。(研究発表の欄を参照)
著者
丹羽 美苗
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

覚せい剤や麻薬による薬物依存は大きな社会問題であるが,治療法がほとんど確立されていないのが現状である.治療薬の開発が遅れている理由として,依存形成の鍵となるタンパクが明らかになっていないことが挙げられる.そこで,PCR-select cDNAサブストラクション法を用いて,薬物依存形成の鍵となる新規機能分子の探索を試みた.その結果,覚せい剤メタンフェタミンを連続投与されたマウス脳側坐核から新規機能分子`shati'を同定した.昨年度までに、shatiが,メタンフェタミン誘発自発運動量亢進および場所嗜好性の形成に対して抑制的に働くことを明らかにした.さらに,shatiがメタンフェタミンによって引き起こされる細胞外ドパミン量の増加およびドパミン再取り込み能低下を抑制することを示した.本年度は,メタンフェタミン依存形成段階においてshatiが関与していることを検討するに留まらず,薬物依存抑制因子として報告されているTNF-αとの関連についても明らかにした.PC12細胞へshati発現ベクターをトランスフェクションすると,コントロール細胞と比較して,shatiおよびTNF-αmRNAの発現量の増加,ドパミン再取り込み能の促進,メタンフェタミン誘発ドパミン再取り込み能低下の抑制が観察された.これらshatiの作用は,可溶性TNF受容体およびTNF-α抗体を前処置しTNF-αを中和することよって抑制されたことから,shatiはTNF-αを介してドパミン再取り込みを促進していると考えられる.今後,shatiの依存形成メカニズムへの関与をさらに詳細に解明することが,薬物依存形成機構の解明と治療薬の開発に繋がると考えられる.
著者
早川 美也子
出版者
上智大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本研究の目的は、BSEやGMO(遺伝子組み換え食品)をはじめとする「食の安全」に関する規制政策に各国(地域)はどのように取り組み、またそれらの政策がどのような論理で形成されたのか政治学の立場から明らかにすることである。本年度は、消費者運動がいかに食の安全政策に影響力を与えているかについて、EUとの比較を視野に入れつつ、主として日本の国内レベルの分析を行った。日本では、国政レベルと地方レベルの規制政策に相違がみられる。地方レベルでは、独自の条例やガイドラインが作られ、消費者寄りの厳格な規制が実現したとされる一方、国政レベルでの規制は生産者寄りの緩やかなものである。なぜそのような結果が生じているのかについて、GMO(遺伝子組換え食品)をめぐる消費者運動に焦点をあてて考察した。GMOに関して厳格な規制を創設した北海道、岩手県、千葉県、新潟県、滋賀県、徳島県等の地方自治体の規制内容について調査するとともに、それらの自治体の政策と消費者運動との関わりについて調査した。当初は国政レベルでは生産者(流通業者含む)重視、地方レベルでは消費者重視の政策が採用されていると予測していたが、現実には双方のレベルにおいて生産者や業界に有利な政策となっていることが判明した。一見「消費者寄り」に見える政策が地方レベルで存在しえているのは、それが農産物の風評被害を恐れる生産者の利益と一致しているからである。食の安全を求める消費者運動は、実際には地元の農家や生協、食品流通団体などの「生産者」と強く結びついて展開され、そのアウトプットである政策は生産者の利益を代弁するものであった。これまで日本の市民運動は国政レベルにおいて弱く、地方レベルでは一定の影響力が認められると指摘されてきたが、この成果は先行研究の結論に一石を投じるものと言える。
著者
埴淵 知哉
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

本年度は,世界都市システム研究に関する包括的なレビューをおこなった.これまでは,NPO/NGOといった非営利・非政府組織を取り上げ,その空間組織やネットワーク,また地域との関係性などについて,インタビュー調査を中心とした質的調査を用いた研究を進めてきた.本年度は,これらを都市システム研究の再構築に結びつけるという問題意識から,近年の世界都市システム研究の展開を包括的に整理し,さらにこれまでの事例研究の成果を踏まえ,今後の方向性を議論した.近年のグローバル化の進展に伴い,世界全体を視野に入れた都市システムが注目されるようになり,とりわけ1990年代後半以降は,理論的検討や仮説提示に加えて本格的な実証研究も進められるようになった.この研究領域を切り開いたのは,GaWCという研究グループである.そこでまず,GaWCが想定する基本的な都市システム概念を抽出した.第一に,世界都市が他の世界都市との関係性の中において成立するという世界都市概念の転換を指摘し,第二に,領域的な国民国家のモザイクに対して,世界都市のネットワークというオルタナティブなメタ・ジオグラフィーを提示するというGaWCの根本的な問題意識を示した.続いて,急速に研究が進みつつある実証研究を整理し,連結ネットワークモデルや社会ネットワーク分析などの手法,グローバル・サービス企業などの関係性データを中心としながら,さまざまな手法・指標によって,多元的な世界都市システムが実証的に描き出されてきた点を明らかにした.そして今後の方向性として,NPO/NGOが企業・政府に対するオルタナティブな組織として,グローバル化時代の都市システム再構築に寄与しうる可能性を提示し,このような組織の観点を明示的に都市システム研究に取り入れる道筋を示した.
著者
福武 慎太郎
出版者
上智大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

2005年7月後半より約1ヶ月間にわたって東ティモールにおいて現地調査を実施した。インドネシアと国境を接するコバリマ県スアイ周辺村落において、当該地域の歴史および社会構造を把握するために、リアアダットと呼ばれる長老たちにインタビューを実施した。言語と慣習法を共有するインドネシア側の東ヌサトゥンガラ州ベル県おいてもインタビューを実施し、国境をこえた共同体の歴史と現在の親族ネットワークの拡がりについて考察するためのデータを収集した。当該地域では1999年の東ティモール住民投票後の騒乱の結果、東ティモール側の住民の大半が難民としてインドネシア側へと避難し、難民の大半は親族を頼って村落部に居住した。調査の結果、東ティモール側のスアイの人々が難民としてインドネシア側に移動するのはこれがはじめてではなく、20世紀前半におこった反植民地闘争の時以来、今回で4度目にあたることが判明した。数度にわたる大量移動の結果、東ティモール出身の人々による村々がインドネシア側国境周辺に形成された。結果として当該地域における難民は、難民キャンプに居住せず、血縁関係のある村へ避難した。国連機関UNHCRによる難民支援は、難民キャンプを中心に実施されたため、村へ避難した人々に支援物資や情報は届きにくかった。また支援活動が独立派と反独立派という図式の中で実施されたことも、インドネシア側と血縁関係があることから反独立派とみられた住民に対し、支援が届きにくい要因となっていた。帰国後、これらの調査で得られたデータを整理し、学会誌への投稿論文の草稿を執筆した。
著者
土井 一生
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

地震発生メカニズムを調べるため、本研究では、震源域下における不均質構造がどのように地震発生に影響を与えるのか、についての考察を与えることを目的として、内陸地震の地震発生域下に見られる不均質構造の共通因子を抽出し、それらの不均質構造が地震発生に果たした役割について考察する。まず、中国地方において、山陰地方で発生したマグニチュード6以上の地震が、深さ15-25kmの反射波の強度が高い領域の境界で発生していることが共通する特徴として抽出された。用いる波の周波数を変えた解析でも同じように検出され、不均質構造の特徴的なサイズは一意ではないことが伺えた。解の分解能から断定はできないが、断層が異なる物質の境界に位置し下部地殻までほぼ鉛直な断層の下部延長が存在する可能性を示唆するものと考えられる。続いてこうした特徴が他の似たテクトニックセッティングを持つ1948年にM7.1の福井地震が発生した北陸地方で見られるか検証した。本地域において同様の地殻内近地地震の波形記録を使用し、中国地方と同様の反射法解析を行うことにより、深さ0-100kmの不均質構造の抽出を行った。その結果、フィリピン海プレート、Moho面からの反射を検出することができ、同地域での深さがそれぞれ50-60km、40km程度と推定された。深さ20-25km程度にも明瞭な反射波層が検出された。深さ15-25kmで断層(の深部延長を含む領域)を横切る方向に反射波の強度が断層のはさんで大きく変化していることがわかった。以上により、山陰地方と北陸地方の両方で横ずれ断層を持つ震源が反射波の強度の高低の境界に位置することがわかった。2000年鳥取県西部地震ではこの境界面が断層面とほぼ一致したため、断層の深部延長として機能し、地震発生に結びついたという可能性が示唆される。
著者
中村 宏樹 ZHAO YI
出版者
岡崎国立共同研究機構
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

化学反応動力学を詳細に特徴づける時に、初期及及び終状態(内部状態)を指定した反応過程に対する断面積なる物理量が良く用いられるが,内部状態の詳細には拘らず、全体として反応が起こり易いのかどうかを特徴つける量に熱反応速度定数がある。初期内部状態については熱分布についての平均を取り、終状態については全て和を取る。Zhao氏はアメリカで電子的に断熱な化学反応の熱反応速度定数の理論とその具体的評価を行って来たが、我々の所ではその経験を活かし、しかも我々独自の非断熱遷移理論(Zhu-Nakamura理論)を用いて電子的に非断熱な化学反応の熱反応速度定数を評価する理論を構築し、その具体的応用を行う研究を進めている。始終電子状態を指定した熱反応速度定数を、遷移状態が非断熱結合の為に生じている場合について定式化する理論を構築した。現在、この理論を用いて1次元及び2次元系での計算を行いその有効性を確認している。多次元系の量子力学的厳密計算は不可能であるので、この理論の活用が期待される。1-2次元系で旨く行くことが確認出来れば、今後、多次元系への適用に挑戦する。