著者
小田 賢幸
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

植物プランクトンであるクラミドモナスから鞭毛を回収し、その運動を司るタンパク質である鞭毛ダイニンの構造解析を行っている。鞭毛ダイニンは微小管を構成するタンパク質であるチューブリンと共重合する性質があり、それにより生成されたダイニン-微小管複合体が私の研究の主要な試料である。ダイニンは2MDaある巨大なATPaseであり、我々の研究によりATP依存的な構造変化を起こすことが明らかになっている(Oda et al.2007)。この構造変化をさらに詳細に解析することが本年度の研究テーマである。1.ATPase活性部位のマッピング電子顕微鏡の実験において、ラベルされた部位が本当に想定されているドメインであることを生化学的に検証するため、アジド化されたATPおよびADPを用いてダイニンとヌクレオチドを紫外線により共有結合させた。そのダイニンをトリプシンで分解し、固相化されたストレプトアビジンを用いてビオチン化ペプチドを精製した。TOF-Mass解析により二つのシグナルを得た。このシグナルは再現性があり、ATPおよびADP両方から同様に検出されている。これにより電顕像でラベルされている部位はATPとADPでは同じであると確認できた。現在、ラベル部位の正確な同定をfinger printingによって試みている。2.電子トモグラフィーネガティブステイニング法を用いてストークドメインのATP依存的構造変化を観察している。モリブデンを染色剤に使用し、サンプルをトレハロースアモルファス膜に包埋することにより高いコントラストを得ること成功した。国立神経精神センターの諸根室長との共同研究により、高傾斜かつ多サンプルのトモグラムを撮影した。通常のback-projection法からある程度ストーク像を観察することができた。
著者
樋渡 雅人
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は、ウズベキスタンにおける地縁共同体(マハッラ)を題材に、社会ネットワーク分析(Social Network Analysis)手法を用いて、調査地のコミュニティ内の社会ネットワークの重層構造を、図示的、定量的に析出しつつ、コミュニティの内部構造に即した開発政策を検討することである。本年度は、現地における調査活動を本格化し、本研究の中核となるデータを収集した。本年度前半は、日本においてこれまでの研究成果の発表や既存データの分析を行ったが、10,11月には、ウズベキスタンのホレズム州のマハッラにおいて、昨年度以降、準備を進めてきた家計調査及び世帯間ネットワーク調査を実施した。230世帯の一集落(エラット)全体をカバーする全数調査を、現地の教師や大学生、20人近くの協力を得て行った。今回の調査の特徴は、各世帯個別の家計調査と併せて、世帯間の関係性を分析するためのネットワーク・データを体系的に収集した点にある。ネットワーク・データのクロス・チェックは予想以上に手間のかかる作業であったが、調査地の住民、とくに教師の方々の多大な協力を得て、質の高いデータの収集を完遂することができた。帰国後は、データの入力作業を進めるとともに、以前に収集したアンディジャン州のマハッラのデータとの比較などを進めている。なお、報告者の就職のため、特別研究員としての本研究は、最終年度を残して打ち切られることになったが、今回収集したデータの解析は今後進めてゆく。
著者
太田 宏平
出版者
首都大学東京
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

圏論について現代的意義のある哲学的研究を行うために論理学及び計算論の進展との関わりに注目した。categorical combinator、categorical abstract machine、λσといった、直接的に圏に関わっていた諸体系は計算を自然演繹的およびラムダム計算における正規化ではなくて式計算におけるカット除去によって捉えるという現代の潮流(それは具体的には、proof net, geometry of interaction, game semantics, pointer abstract machineを始めとする諸々のabstract machine, interaction net, 微分ラムダ計算等である。)の源となっている。2006年5月に投稿し、2007年1月に差し戻された論文「空所について」では、フレーゲの空所ないし項場所に基づく関数表現の捉え方が、上記の潮流のひとつのまとまった成果であるP.-L.Curienの抽象ベーム木の体系に近いということを指摘した。このことは、変項という一種の表現ではなくて、表現をそこにおくことのできる場所という考えに基づいて関数表現を捉えることや、フレーゲが不飽和性を本来見出すべき領域として意義Sinnの領域を挙げていることの重要性にもつながっていくことが投稿後明らかになったので、今後行う再投稿においてはこのあたりの事情も論じていく予定である。7月と11月に行った研究発表では抽象ベーム木と同様の体系であるludicsにおける証明および命題の取り扱いを、ダメットおよびマルティン=レーフのそれと比較して論じた。上記フレーゲ研究の進展に伴い、これは証明を関数のような不飽和なものとしてとらえるか、それともマルティン=レーフのように飽和した数学的対象としてとらえるかという問題であることが明らかになった。
著者
井黒 忍
出版者
大谷大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

具体的内容:本年度においては、明清時代の碑刻資料を用いて、山西省汾河流域の水利用方式と関連規程を考察した。その結果、流域中における水利用規程の多くが12世紀に作成され、20世紀初頭に至るまで継承されたものであること、下流域においては、16世紀以降、水の売買・貸借が盛んに行われ水利用の不均等性を補填する互助システムとして機能したことを明らかにした。研究成果として、環境を共通テーマとする2008年史学研究会例会において研究報告を行い、「清濁灌漑方式が持つ水環境問題への対応力-中国山西呂梁山脈南麓の歴史的事例を基に-」を『史林』(第92巻第1号)に掲載した。さらに、現地碑刻調査にて得られた諸データを用いて「汾河下流域の水資源利用と開発に関する碑刻データベース」を構築した。意義と重要性:呂梁山脈南麓地域における山間部からの流出水を用いた灌漑方式が、地域社会の自律的管理のもとで700年間以上にわたる長期持続性を有したことは、この水利用方式が恒常的に発生する旱魃や水害を克服しうるシステム的耐性を持つものであることを意味する。これは、乾燥・半乾燥地域における水利慣行や規程の中に人々の環境適応のあり方を見いだすことができるとする研究の仮定を証明するものである。さらには、システムの耐久性を支えるものとして、水の売買や貸借が日常的になされたことを明らかにしたことの持つ意味は大きい。現在、各地で水不足が深刻化する中、国家および地方政府の施策として水利用権の売買が行われつつある。汾河流域の地域社会が持つ歴史的経験から、こうした現状に対しても有効な提言を与えることが可能となる。
著者
中嶋 美和 (林 美和)
出版者
神戸大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

平成20年度は1935年7月の人事で浮上した真崎教育総監更迭問題を中心に、二・二六事件が発生するまでの陸軍内部の動向についての分析を行った。この問題は、陸軍中央の中でも中堅幕僚たちの水面下による活動の影響が非常に強い。荒木陸相辞任後はその影響力をかき消すべく、反荒木の中堅幕僚たちが陸軍中枢部に属する上官に対して書面で「真崎罷免」を懇願するなどの行動を起こしている。そこで、本研究では中堅幕僚たちによる諸活動の実態を解明していくことにした。分析史料としては、国会図書館憲政資料室所蔵「片倉衷関係文書」を使用した。「片倉衷関係文書」は近年になり新しい原史料が追加され、軍人宛ての書簡が多く収められている。平成20年度の科学研究費補助金は、この史料の収集作業に利用した。片倉は満州事変の際にも暗躍し、荒木を支持する青年将校から忌嫌われる存在であった(実際、二・二六事件の時に磯部浅一からの銃弾を浴びている)。板垣征四郎や石原莞爾などと親しい片倉は、彼らに頻繁に書簡を送り、真崎を罷免するよう促している。以上のような問題関心をふまえ、陸軍中堅幕僚の内部活動の実態を解明していくことにする。取り上げる事例としては真崎教育総監更迭問題における中堅幕僚たち(片倉を中心とした)の活動実態を研究分析していった。そして、かつては陸軍の中心であった荒木や真崎が、陸軍内のいわば悪役として位置づけられていく過程を明らかにした。なお、上記研究実績を踏まえ、現在、私は博士論文及び学術雑誌に投稿予定の論文の執筆作業を行っている。
著者
栗木 清典
出版者
愛知県がんセンター(研究所)
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

大腸がんの罹患リスクに対する獣肉摂取と、インスリン抵抗性に関連するPPARγ遺伝子Ala12Pro多型、C161T多型およびCD36遺伝子A52C多型の相互作用を明らかにする症例・対照研究を実施した。Pro12Ala多型とC161T多型を組み合わせた解析において、全体の70.0%を占めるPro/Pro + C/Cでは、牛乳、卵の低摂取頻度に対する高摂取頻度のオッズ比(OR)は0.82、0.78と低かったが、Pro/Pro + (C/T+T/T)(25.3%)の飽和脂肪酸、加工肉摂取では1.42、1.63と高かった。CD36遺伝子において、A/A型の牛・豚肉の低頻度摂取、獣肉の低摂取量と比較して、C/C型の高摂取によるORは4.39、3.16と高かった。現在、わが国の40歳以上の10人に1人が糖尿病を患っており、糖尿病は一部のがんのリスク要因と報告されているが、日本人におけるリスク評価は十分ではない。そこで、糖尿病と臓器別がんリスクを大規模症例・対照研究で検討した。糖尿病の現病・既往のある男は7.5%、女は2.6%であった。糖尿病のORは、男/女の全部位(1.4/1.4)、肺(1.5/1.6)と肝臓(2.2/2.3)、男の咽頭(1.8)、喉頭(2.3)、食道(1.7)、膵臓(2.3)と大腸(1.3)、胃(1.7)と子宮頚部(1.9)で有意に高かったことから、糖尿病を引き起こすインスリン抵抗性はがんのリスク要因でもあるという仮説を支持した。近年の生活習慣の急速な欧米化に伴い増加している疾病のリスクを評価し、個人を対象にした一次予防方法を確立するには、食生活習慣調査とともに、脂質・脂肪酸摂取のバイオマーカーを確立することが必要である。そこで、多数の血液検体から、微量で、迅速、簡便、安価、高精度に脂肪酸レベルを分析する独自の方法を開発し、特許出願した。
著者
窪田 杏子
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

(1)論文として、以下の題目でこれまでの成果をまとめ、雑誌にて発表した。『Tumor necrosis factor receptor-associated protein 1 regulates cell adhesion and synaptic morphology via modulation of N-cadherin expression』Kubota K.et al.Journal of neurochemistry(2009)110,496-508(2)上記の論文ではカドヘリンによる細胞間接着がうつ病発症に関与する可能性が示唆されたが、分子レベルでの詳細な解明には至っていない。近年、微小管上を移動するモータータンパク質による輸送の破綻が精神疾患の発症に寄与する可能性が報告されている。さらに、当研究室において新たに微小管上を移動するモータータンパク質とカドヘリン複合体との関わりが見出されたことから、本年度はそのカドヘリンと微小管上を細胞接着部位へと移動することが考えられるKIFC3について詳細な検討を行った。結果、・KIFC3結合タンパク質Xを同定した。・KIFC3またはタンパク質Xの発現を抑制すると細胞間接着に異常が認められた。よってカドヘリンによる細胞間接着の制御に微小管上を運行するモータータンパク質が関わっていることが新たにわかった。この知見は精神疾患発症機序のみならず、細胞間接着の異常によって引き起こされる他の疾患の治療法開発においても大変重要なものである。
著者
畠山 勝義 VALERA Vladimir Alexander
出版者
新潟大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

大腸癌培養細胞を用いて癌に発現する蛋白群のパターンを同定する目的で、ヒト大腸癌由来の細胞株、LovoとSW480、の全細胞溶解液を調製、2次元電気泳動を行った。最適調製条件ならびにゲル濃度を確認し、改めて至適条件で電気泳動を行い、そのゲルを固定化し画像を検出、発現量に差のあったスポットをピッキング。トリプシン消化を行い、MLDI-MSを行った。しかし、勤務地異動に伴い、各蛋白の同定を行うまでには至らなかった。
著者
橋川 裕之
出版者
大阪市立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

今年度はビザンツ帝国末期における写本生産の問題を検討した。いわゆるビザンツ写本の研究は従来、美術史家と文献学者の独壇場であったが、近年、写本の作成経緯や利用のされ方が歴史学者の注目を集めている。言うまでもなく写本は書かれ、読まれ、さらには売買や貸借の対象となる中世の書物メディアであり、写本とそのコンテクストの関係を精査することで、研究者は同時代の社会や文化の知られざる諸側面に迫ることができる。本研究で具体的に取り上げたのは、現在、パリ国立文書館に所蔵されている一写本、パリ・ギリシア語写本857番(Codex Parisinus Graecus857)である。この写本は13世紀ビザンツのとある修道院で作成(コピー)されたものであり、11世紀の修道士パウロス・エウエルゲティノスの箸作『シュナゴゲ』(古代の修道文献のアンソロジー的作品)の第四部を内容とする。一部の学者は、この写本の作者(写字生)が写本末尾に書き込んだ韻文に現れるいくつかの固有名詞に注目し、13世紀から14世紀にかけて二度コンスタンティノープル総主教を務め、特異な教会改革を試みたアタナシオス(在位1289-93年、1303-9年)がその作者であると推測した。この特定の写本は二つの問題を提起する。一つは、一部の学者が推測するとおり、パリ写本の作者が総主教アタナシオスその人であるのかという問題、もう一つは、『シュナゴゲ』というテクストの普及度とその影響の大きさである。今年度の研究では、二つ目の問題を視野に入れたうえで、一つ目の問題に照準を合わせた。すなわち、従来の研究者が提示した状況証拠に加え、写本のテクスト『シュナゴゲ』の読書の痕跡が総主教アタナシオスの思想と行動に確認できる点から、ガレシオン(エフェソス近郊の山岳修道院共同体)のアタナシオスと名乗る写字生と後の総主教アタナシオスが同一人物である可能性が高いと結論づけた(拙稿「ガレシオンの修道士アタナシオスとは何者か」『史林』90巻4号)。一方、『シュナゴゲ』の写本は13世紀以降、大量に生産されており、ビザンツ末期の修道世界におけるその人気と、それが修道士らに与えた影響は甚大であったと考えられる。この問題については現在検討を進めている。
著者
中山 晴代 (山口 晴代)
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

いくつかの原生生物において、捕食した藻類を短期間細胞内に保持し、一時的な葉緑体として使うことが知られている。この一時的な葉緑体のことを盗葉緑体と呼ぶ。この盗葉緑体を持つ状態は葉緑体獲得へ至る中間段階であると考えられており、盗葉緑体を持つ生物を研究することは細胞内共生による葉緑体獲得過程を理解する上で重要である。私は盗葉緑体を持つ無殻渦鞭毛藻Amphidinium sp.を研究対象にその共生体の起源を解明するとともに、分類がきちんとされていないAmphdinium sp.共生体であるクリプト藻Chroomonas属/Hemiselmis属の分類学的研究を行うことにした。本年度は、1.クリプト藻Chroomonas属藻類の系統分類学的研究を行い、Chroomonas属/Hemiselmis属の分子系統解析をし、その分類体系を検討した結果、Chroomonas属/Hemiselmis属藻類すべてをChroomonas属に所属させ、属内でさらに7つの亜属にわけるのが妥当であるとの結論を得た。また、2.渦鞭毛藻Amphidinim sp.の新種記載の論文執筆をした。分子系統解析や外部形態の情報を元に、本種はAmphdinium属ではなく、Gymnodinium属の新種とすることが妥当だと考えられ、G.myriopyrenoidesと命名した。論文の中で、本種と同様に盗葉緑体を持つ種の宿主と共生体の共生段階を比較し、その共生段階に更なるバラエティーがあることを示した。さらに3.クリブト藻Chroomonas属/Hemiselmis属藻類の系統分類に関する論文執筆に取りかかったが、これに関しては追加でHemiselmis属藻類の微細構造データを取りつつ進める必要がある。
著者
池田 喬
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究「オントロジカルな環境内行為論-ハイデガーの<行為>概念に基づく展開と構築」の最終年度にあたる平成二一年度には、本研究の三つの主要課題である(1)初期ハイデガー研究、(2)フッサールをはじめとする現象学研究、(3)認知科学の動向調査のそれぞれについて以下のような成果を挙げた。(1)初期ハイデガー研究についてはまず、本研究計画の柱であった本国での新資料整備という目的達成に向けて、初期講義録の一冊を翻訳・出版することができた(ハイデッガー全集58巻『現象学の根本問題』虫明茂との共訳)。また、初期ハイデガー研究の成果を活かした二本の論文が公刊された。まず、『存在と時間』の発話作用や言語行為の分析がもつ哲学的含蓄をアリストテレスの「声(フォネー)」の概念との比較検討の上で明らかにした論文が「現象学年報」に掲載された。この論文は本研究の目指す環境内行為論を特に言語行為論の面から展開したものである。さらに、行為者にとっての環境世界の実在性をめぐって、『存在と時間』第一篇の道具的存在性の議論を「存在者的実在論」として提示、その妥当性をハイデガーによるアリストテレス『自然学』の解釈から跡づける論文が「哲学・科学史論叢」に掲載された。この論文は、ハイデガーの環境内行為論がもつ存在論的主張を、ドレイファスやカーマンらの先行するハイデガー実在論研究への批判的取組みの中から最大限に引き出したものである。(2)フッサールをはじめとする現象学研究については、まず、日本現象学会第三一回大会にて英語で行われたシンポジウム「今日の世界の哲学状況におけるフッサール現象学の射程(邦題)」において、Sodertorns大学(スウェーデン)教授ハンス・ルイン氏と東洋大学講師武内大氏の発表に対するコメンテーターという立場で、フッサール現象学の今日的意義について発表・討議した。この発表では、ハイデガーの環境世界との関連の深い後期フッサールの生活世界論がもちうる反自然主義としての哲学的射程を主に論じた(その内容は次号「現象学年報」に掲載される)。また、フッサールに関する国内唯一の専門的研究機関である「フッサール研究会」の年報に、初期ハイデガーが環境世界体験や事実的生経験と呼んだものと『イデーンII』におけるフッサールの環境世界論の関係を明らかにする論文が掲載される。(3)最後に、認知科学の動向調査については、S.ギャラガーとD.ザハヴィという現在最も注目されている、現象学派の「心の哲学」論者による共著(The Phenomenological Mind : an Introduction to Philosophy of Mind and Cognitive Science)の翻訳に従事した(石原孝二監訳で勁草書房から出版予定)。
著者
和田 琢磨
出版者
立教大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は、西源院本・神田本『太平記』を中心に南北朝時代から室町時代にかけての軍記の成立、本文異同の問題などについて考察することにある。本年度の目標は、公的機関でもマイクロフィルムを披見できない『太平記』や『難太平記』をはじめとする関係作品の基礎調査と、古態本『太平記』の本文の問題について考察することにあった。その成果は以下の三点に大略まとめられる。(1)『太平記』伝本の調査古態本の前田尊経閣蔵相承院本『太平記』を調査し紙焼き写真をとった。この伝本調査も踏まえ、古態本『太平記』の研究、本文の校合・調査を進めている。また、古態本ではないが、永青文庫蔵の絵入り『太平記』を一部調査した。この伝本の調査は今後も続けていく予定である。(2)『難太平記』ほか他作品の調査『太平記』の成立過程について具体的に語っている、室町時代初期の唯一の資料である『難太平記』の調査を行った。その過程で、新出伝本を発見した。この伝本についての報告は、次年度にする予定である。本年度は、香川県の多和文庫や長崎県の島原松平文庫にも調査に行き、軍記や中世の作品の原本を調査し、写真に撮った。中には、軍記の享受の問題を考える上で興味深い資料もあり、この資料についても報告する予定である。(3)阪本龍門文庫蔵豪精本『太平記』の調査興味深い伝本であるといわれながら、その内容が知られていない豪精本『太平記』の調査を行った。この調査は今年で6年目になるが、今後も継続していく予定である。
著者
川口 春馬 倪 恨美
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

研究は、弱酸型モノマーと弱塩基型モノマー、骨格モノマー、架橋用モノマーの沈殿共重合により、pH応答性ヒドロゲル微粒子を作製し、粒子の物性のpH応答性を確認し、この粒子に担持された低分子物質をpHによって放出制御することを目的とするものである。pH応答性ヒドロゲル粒子は、受け入れ研究者(川口)が以前研究したもの(Kamijo, Y., et al., Angew.Macromol.Chem.,240,187(1996))であるが、Ni博士は川口らが提唱している重合機構に異議を唱え、同君独自のメカニズムを考案した。それによれば、系は重合が始まる以前から不均一系であり、存在する超微小液滴が重合粒子の核となるであろうということである。Ni博士はこれらの成果を二報の論文^*にまとめた。得られた両性ハイドロゲル粒子を低分子化合物の担体として用いその放出をpHで制御することの可能性を探るのが後半のテーマであった。まず、ハイドロゲル粒子の体積のpH応答性を調べるため、HClとKOHとでpHを調整した系で動的光散乱法により水中での粒径を求めた。弱酸性モノマーとしてメタクリル酸(MAc)、弱塩基性モノマーとしてジメチルアミノエチルメタクリレー(DMAMA)を等モル用いて得られた粒子はpH6付近で粒径が最小となり、そのときの粒径は、低pHあるいは高pHにおける粒径の約1/3であった。粒径が最小となるpHはDMAEMA/MAcによって変化させることができた。ただし、粒径はpH以外にイオン種、イオン強度にも依存した。こうして、希望するpH応答性を持ったハイドロゲル粒子を設計するための指針をまとめることができた。^*2報ともNi, H.-M., Kawaguchi, H., J.Polymer Sci., A.Polym.Chem.,
著者
三好 信哉
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

水分子と固体表面の相互作用は,電気化学,不均一触媒,更には腐食問題など様々な現象と密接に関連していることから,これまでに精力的に研究が行われてきた.また近年は,表面の影響が顕著に表れるナノ空間材料を用いた水分子輸送の制御などに関しても盛んに研究が行われている.例えば次世代のエネルギー生成デバイスとして期待される固体高分子型燃料電池では,マイクロボーラス層と呼ばれる細孔径10~100nmの炭素系ナノ細孔を用いることで,電極で生成される水蒸気の輸送特性が向上することが報告されている.代表長さが数十nm程度のナノ空間においては,気体分子の衝突相手の大部分は固体表面となることから,気体-固体表面間相互作用,特に散乱挙動の理解は輸送特性の定量的な予測を行うためには必要不可欠である.そこで本研究では入射エネルギー35~130meVの水分子線を使用し,入射分子線のベクトルと表面法線ベクトルを含むin-plane面内に加え,in-plane面外,即ちout-of-planeでも散乱計測を行っている.また,吸着,表面滞在,脱離という一連のプロセスの解析をMDシミュレーションによって行っている.分子線散乱実験では散乱分子の質量流束と並進エネルギーの角度依存性を計測した結果,入射エネルギーが64,130meVの場合はin-plane面内は10bular散乱となり,out-of-planeへの散乱の広がりは小さいことが示された.一方、吸着エネルギーと比較して低い入射エネルギー(35meV)の場合,表面法線方向,及びout-of-planeへの散乱分子が増加し,拡散的な散乱挙動になることが明らかになった.MDシミュレーションによる解析では,入射エネルギー35~130meVの範囲で,大部分の分子は表面に長時間(16~18ps)滞在した後に散乱すること,表面滞在中の適応過程や散乱分子の特性が,法線,接線方向,更にはそれら二つの方向に垂直な方向ごとに異なることが示された.
著者
千田 智子
出版者
東京芸術大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

今年度は、研究期間の最終年度にあたるため、まず研究成果の出版に力を注いだ。その結果として、『南方熊楠の森』(共著、2005年、方丈堂出版)、『技術と身体-日本近代化の深層』(共著、2006年、ミネルヴァ書房)が出版されるにいたった。前者は、南方熊楠研究会との共同作業によるものであり、和歌山・田辺での実地調査と聞き取りを伴い、その成果を論理化したものである。後者は、国際日本文化研究センターでの共同研究の成果物であり、幾度にもわたる発表と意見交換の結果である。さらに、二本の研究論文を執筆した。また、新たな段階に踏み出すべく、環境に配慮した空間創造という側面から意義深い都市として、オーストリア・グラーツを訪問した。芸術性の追求と都市の持続可能な創造という観点から、その成果は、来年度に研究発表としてまとめる予定である。さらに、論文(「岡本太郎と南方熊楠-「比較」を超えて」)で明らかにした南方熊楠と岡本太郎の対比を発展させるとともに、芸術と人間の根源的な生命力との連関を論じた『生命の芸術(仮)』(講談社)を来年度に出版予定である。なお、この著作は、人間による環境へのはたらきかけの芸術性と、環境それ自体がもつ芸術性との関係を問題にしたものであり、この研究の集大成ともいえるものである。以上のように、研究は研究期間中に成果となったものと、これから成果物としてまとめる予定のものがあるが、最終年度としての研究段階としては、一応の結実をみた。
著者
小林 芳恵
出版者
広島大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

平成17年度は、本研究の目的達成の為に、バルトリハリ著『ヴァーキヤパディーヤ』第三巻及びそれに対するヘーラーラージャの注釈「プラカーシャ」について、次の研究を実施した。まず、前年度のインド渡航時に収集した写本写真を含む現在使用可能な『ヴァーキャパディーヤ』及び「プラカーシャ」の写本資料を整理し、同時にコンピューター上で画像ファイル化した。これによって写本使用の便が図られ、かつ永続的な保存が可能となった。次に、それら収集・整理された写本資料を利用して、『ヴァーキャパディーヤ』及び「プラカーシャ」のこれまでの読了部分、すなわち第一章「種詳解」章前半分(第一詩頌から第四十詩頌まで)、第二章「実体詳解」章、第四章「再実体詳解」章、第五章「属性詳解」章について、テキスト・内容・翻訳を再検討した。その成果は広島大学に提出予定の学位請求論文「ヴァーキャパディーヤ研究」に附論として収録の予定である。同論文は、既発表の論文を含むこれまでの研究成果と本科学研究費による成果等を集大成するものであり、それによって、抽出された語意の観点からバルトリハリの言語理論が明快に示されることとなろう。なお、研究計画において同論文は本年度中に広島大学に提出される予定であったが、『ヴァーキャパディーヤ』及び「プラカーシャ」の写本の整理編集作業と写本研究の成果反映に予定外の時間と労力を要したため、今年度中の提出は見合わせざるを得なくなった。しかし研究の内容そのものに変更がないことはいうまでもない。そのほか前年度に開催された国際バルトリハリ学会での口頭発表の内容を論文としてまとめた。近刊の同学会報告書に掲載予定である。
著者
岩坂 泰信 金 潤ソク
出版者
金沢大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

韓国で、2005年3月に、韓国気象研究院の協力を得て、エアロゾルゾンデを使い大気中のエアロゾル数密度と粒径の計測を行った。地上付近から、成層圏まで順調に観測され、その初期的な結果は、国際的なプロジェクトであるABC(Atomospheric Blown Cloud)プロジェクトのもとで運営されているホームページ上で公開した。韓国において、開催されたABC国際シンポジュームでもその成果は発表されている。インドで2005年12月に開催されたアジアエアロゾル会議および金沢大学21COEが主催した2006年3月の国際シンポジューム、においても、観測結果の解析・吟味の進捗に合わせて上述の結果を発表した。観測された高度分布は、エアロゾル濃度の高い層が何層か重なっており、これまでにACE-Asiaプロジェクトなどで観測された結果と極めてよく似た様相を呈している。上空の水蒸気分布(客観解析データより推定されたもの)などと比べてみると、性質が大きく異なった空気が何層にも重なっていることが示唆される。現在、詳細な解析結果を雑誌投稿準備中である。2005年8月には、中国科学院の大気研究グループと長白山系の予備調査を実施した。予備調査の結果、中国科学院が生態研究や二酸化炭素の濃度モニタリングを行っている長白山のふもとの施設に大気観測用の諸施設を設置し、長期大気モニタリング基地を建設するのが至当と判断された。同地域は、韓国の関係研究者も予備調査を実施しほぼ同様の結論を得ている。また、これを機会に中国の延辺大学およびその他の機関との共同研究体制が出来つつあり、今後の研究の発展の準備が出来上がった。この観測施設は、広い分野の研究者にも利用可能にするべく準備中である。引く気球実験は、2006年4月に放球の予定で、それに向けて種々の準備を行ってきた。中国のチンタオよりエアロゾルゾンデを放球し東シナ海あるいは日本海上空をゆっくりとした速度で上昇させながら横断するコースを取ることによって、大陸の空気がどのようにして海洋の空気を混合し性質を変えてゆくのかを明らかにする計画である。
著者
石橋 明浩
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2000

時空特異点の波動によるプローブによって、特異点は波動に対して正則、非正則の二つに分類される。もしダイナミカルなブロセスで非正則な裸の特異点が現れる様な状況は、宇宙検閲官仮説に法って、排除されることが望ましい。このような非正則な裸の特異点発生の排除が、量子効果を考えることで達成され得ることを簡単なモデルにおいて、具体的に量子粒子の計算をして、示した。(A.Ishibashi and A.Hosoya)我々の4次元宇宙が、高次元の反-de Sitter時空の中にあるブレーンとして記述される、いわゆるブレイン宇宙シナリオが近年、盛んに議論されている。このシナリオでは、5次元方向に運動しているダイナミカルな4次元ブレーンの振舞いを議論することが本質的に重要である。このシナリオは、これまでのところ通常の4次元一般相対論に基づく重力理諭と整合している。我々は、この5次元方向の存在が顕著な役割を果たすブレイン宇宙の新しいモデルを提案した。その特徴は、まずRandall-Sundrum modelと違って、はじめに5次元バルク時空は反-de Sitter時空である必要はない。bulk時空で真空泡発生、その膨張とブレーンと衝突する事によって、ブレイン宇宙の有効宇宙項が消え、ブレーン上のンフレーションが終り、ビッグバン宇宙に転じることができる。同時にバルクが反-de Sitter時空になるため、通常の4次元一般相対論的重力が再現されることになる。特に、通常の4次元での真空泡に因るインフレーションの終了と違い、ホライズンスケールを越えて、同時に4次元宇宙が再加熱される。この様に、ブレーン宇宙とバルク内部の真空泡や、別のブレーンとの衝突を用いて我々の4次元ビッグバン宇宙モデルを再現しようとする幾つかのモデルが最近提案されてきた。上述した我々のモデルの紹介とともにその他のブレーンの衝突を用いた理論についてレポートした。(U.Gen, A.Ishibashi, T.Tanaka)また、ブレーンの様な物体が重力とどの様な相互作用をするのかについて、4次元の場合には、線形摂動の範疇でブレーンの揺らぎの自由度が、その自己重力を考慮すると、周りの重力波摂動の自由度で記述されるという、ブレーンのダイナミクスについての、これまでの素朴な予想とは非常に異なる結論がえられていた。我々は、この現象は、一般の次元で起こることを示すとともに、この一見この矛盾する様な現象は、ある状況下では解消することを示した。即ち、我々の提案した、弱い自己重力近似の状況かでは、自己重力を考慮したダイナミクスは、考慮しないテストブレーン近似による運動の解析によって得ることができることを示した。(A. Ishibashi, T. Tanaka)また、ブレーンの様に拡がりをもつ物体と、同じく拡がりをもつ相対論的物体であるブラックホールとの相互作用は非常に興味深い。我々は数値計算の方法を用いて、この二つの物体の共存する静的な時空解が存在することを示し、相互作用について議論した。(R.Morisawa et al.)
著者
高橋 望
出版者
名城大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は、ニュージーランドで展開される業務・業績管理システム(Performance Management Systems : PMS)、及び学校管理職の養成・研修制度に着目し、両者がいかに学校組織マネジメントに貢献しているのか明らかにすることであった。本研究の最終年度である本年度は、PMSに着目した1年目、学校管理職に着目した2年目を踏まえ、これまでの2年間の成果の整理・検討を包括的に行うこと、また不足点を補うことを第一の課題として設定した。そして、両者の関連性を検討し、本研究の主題である学校組織マネジメントの実態に迫ることを第二の課題とした。具体的には、現地訪問調査において、再度学校訪問を行い、学校が独自に作成しているPMS関連文書の収集や校長・教職員へのインタビュー調査を実施し、実態の更なる追究を行った。ニュージーランドは自律的な学校経営を推進しているため、PMSの取り組みは学校ごとに特色を有しているからである。一方、学校管理職に関しては、教育省の担当者、及び学校管理職研修を中心的に担っているオークランド大学担当者にインタビュー調査を実施した。加えて、不足資料を補うために、オークランド大学やヴィクトリア大学の図書館、及び国立図書館での資料収集を行った。その結果、学校管理職は養成・研修制度において組織マネジメントの素養を身につけ、PMSを活用することによって「人」の管理を行っている実態が見出された。学校組織マネジメントの全体像については、更なる研究の必要性が指摘される。
著者
眞壁 明子
出版者
東京工業大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

富栄養化に対する窒素除去能として脱窒過程が重要であり、硝酸の窒素安定同位体比を用いた解析手法が発展してきたが、複雑な窒素循環解析には適応限界があり、また、浄化能としてだけではなく温暖化ガスである一酸化二窒素の挙動も同時に評価する必要がある。本研究では、窒素酸化物(硝酸、亜硝酸、一酸化二窒素)の酸素安定同位体比に着目し、微生物培養実験及び湖沼における観測から、新たな窒素循環解析手法を確立することを目的とした。本年度は、微生物培養実験については、アンモニア酸化細菌及び脱窒菌の培養実験を行った。両実験ともに、多種窒素化合物の同位体比を測定するための、培養条件及び測定前処理法を確立するのに試行錯誤を要し、酸素安定同位体比についての明確な情報を得るという観点からは、予備的な実験に留まった。しかし、本年度の実験により実験条件を確立することができたので、今後、目的の実験を速やかに行い成果としてまとめる予定である。また、湖沼における調査については、昨年度までに長野県にある木崎湖及び深見池において窒素酸化物及び水・溶存酸素のサンプリングを行い、試料の一部については安定同位体比の測定を終えていた。本年度は、未測定試料の測定を行い、硝化・脱窒及び一酸化二窒素生成メカニズムについて酸素安定同位体比を中心に解析を行った。同位体比を含んだ窒素循環の鉛直一次元モデルの応用にも取り組み、現在投稿論文を執筆している段階である。