著者
若月 剛史
出版者
学習院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

今年度は、大正期から昭和初期にかけての技術官僚の政治的動向について重点的に研究を進めた。その一環として、東京大学工学部や国立国会図書館などで史料調査を行ったほか、2010年8月から2011年3月にかけて、米国のUC・バークレー校日本学研究所に滞在し、戦前日本の技術官僚の政治運動に多大な影響を与えたアメリカの技術者諸団体(ASCEやAICEなど)に関する史料を収集した。その成果の一部として、同研究所のセミナーで"The activities of technocrats under Political Party Rule in Japan"(「政党内閣期(1924年~1932年)における技術官僚」)と題する報告を行った。また、前受入研究者であった村松岐夫氏(京都大学法学部名誉教授、行政学)が残された文書を整理し、目録を作成して公表した。同文書には、戦後の各種審議会や研究会についての貴重な史料が含まれており、本研究を進めるうえでも大きく資するものであった(同文書は今後、しかるべき史料収蔵機閥において公開される予定である)。他に、戦前日本の政党内閣制や官僚制を考えるうえで重要な史料である「牧野伸顕日記」、「入江相政日記」、「浜口雄幸日記」についての小論を執筆した。現在、これらの研究成果を踏まえたうえで、本研究の完成を目指して研究を進めているところである。
著者
ショウ ラジブ (2007 2009-2010) ラジブ・クマール ショウ (2008) PARVIN Gulsan Ara GULSAN ARA Parvin
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究では、バングラデシュの首都ダッカ市と南部に位置するハティア島を対象地域とし、災害リスク軽減策の一つであるマイクロクレジットプログラムの適応性について議論を行った。今年度の主な研究成果は下記の通りである。本研究では、マイクロクレジットの適応性を見極める一つとして、、ダッカ市内を対象として、Climate CHange Resilience Iniciative (CDRI)の手法を用いて気候変動に起因した災害に対する適応力を評価した。ダッカ市内は10の地区から構成されており、各地域の災害対応力を評価した。その結果、第2地区は、対応力が高く、第8地区は中間的数値を示した。また、第9地区並びに第10地区は高所得者を対象とした住宅地であることから、経済的側面に於いて、他の地区より高数値を示した。また、ダッカ市内の商業中心地域である第4地区は地域防災力の総スコアが3を示したが、他の地区では1または2のスコア結果を示し、地域防災力はあまり高く無い傾向が明らかになった。マイクロクレジットプログラムへの適応性を議論するため、気候変動に起因した災害への対応力評価の他に、ダッカ市内の財政、貯蓄、予算、および補助金を調査した。その結果、災害への適応力と災害リスク軽減策は必ずしも一致しておらず、担当行政も異なることから、災害や気候変動の脅威に直面した際の対応力に多くの課題点が存在することが明らかになった。これらの研究成果は、2010年9月にオーストラリア・アデライドで行われた国際会議Coast to Coast 2010及び同年10月神戸市で行われたUSMCA2010国際会議において発表を行い、多くの議論を得ることができた。また、研究成果を広く公表する為、論文を国際誌に投稿中である。
著者
榊原 寛
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

二年目の平成21年度は,前年度の成果に加えて3つの研九行よっこ.一つ目は、PBNゲートウェイ間のネットワークを、首藤らによるOverlayWeaverというDHTベースの実装を採用した.昨年度のプロトタイプ実装では、10台程度までしかスケールしない設計であったのに対し、今年度は数万台単位でのPBNゲートウェイの接続も可能としている.今後は、PBNの想定する環境に最も適したDHTアルゴリズムの選定を行なって行く予定である.二つ目は、異種ネットワークノードにより構成されるオーバレイの管理APIの整備である.前年度は単一のオーバレイの利用のみ可能であったが、今年度のAPI整備により、任意の名前を持つ任意個数のオーバレイの作成が可能となった.異種ネットワークノードは、任意の数のオーバレイに参加可能である.今後は異なるオーバレイを結合させる際、どのようにアドレスやルーティングを変更するべきかについて研究を進めて行く予定である.最後は、仮想アドレスに関してである.昨年度のプロトタイプ実装では、仮想アドレスはスタティックなアドレス空間しか利用できなかったが、本年度の実装では、任意のアドレス空間を指定し、オーバレイネットワークのアドレスとして利用可能にした.また、異なるオーバレイが結合した際に発生しうる、アドレスの衝突の回避アルゴリズムについて考案した.
著者
植村 立
出版者
国立極地研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

本研究は、アイスコアの水同位体比を水蒸気から雪に至るまでの循環の視点で捉え、特にアイスコアの雪の起源(初期値)としての海洋上での水蒸気に注目して同位体比分析を行う。さらに、その結果を世界的にも数少ない極域深層アイスコアである南極ドームふじアイスコアのd-excess記録の解析に利用し、気候変動メカニズムに関する新たな知見を得ることを目的としている。本年度は、以下の研究を実施した。1)本計画で実施した水蒸気の水安定同位体比試料の解析南極海航海で採取した水蒸気試料について、得られたデータの解析を実施した。(本研究のために開発した少量試料の質量分析の改良については、昨年度に国際誌に論文として発表済み)。観測結果はd-excessが相対湿度、海面水温と有意な相関があることを示している。また、近年開発された同位体大気大循環モデルの結果との比較を行った結果、絶対値としてはモデルがやや過小評価であることがわかった。この結果は、国際誌に投稿済みである(査読中)。2)南極アイスコアの解析南極ドームふじ氷床コアについて、d-excessから復元した水蒸気起源変動を考慮した正確な気温復元を行った。大気のN2/02変動から決められた年代軸を用いて南極の気温と北半球日射量変動のタイミングと整合的であることを見出した(論文公表済み)。また、第二期ドームふじ氷床コアの水同位体比の測定を実施した。
著者
川村 太一
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

当年度は研究期間の最終年度であり、これまでの研究成果の発表や得られた成果を統合した議論を行った。研究課題であった重力計データを用いた月震波解析では新たな観測点を加えた拡大された観測ネットワークを用いて過去の観測の観測バイアスを詳細に調べ、観測バイアスを考慮した深発月震の震源分布に議論した。その結果現在観測されている深発月震の震源の帯状の分布が観測バイアスによるものではなく、実際の震源分布を反映したものである事をあきらかにした。この結果は過去の深発月震の研究で想定されていた均質な月のモデルや1次元の層構造を持った月モデルでは説明できない現象であり、月の内部が水平方向にも不均質な構造を持つ事を示唆する重要な結果である。また、月内部構造に迫る手段として周波数解析とそれを用いた月震の震源仮定の推定も行った。周波数解析ではこれまで独立に用いられてきたアポロの短周期月震計と長周期月震計のデータを数値的に合成し、より広帯域のデータを用いた解析を行った。これにより深発月震の際に月内部で0.1MPa程度の応力降下が起きている事を示した。このような研究は過去にも行われてきたが本研究では複数の震源の多数のイベントについて行っており、より一般的な深発月震の発震機構の議論が可能になった。この応力降下量の値は深発月震の震源域の圧力と比較してきわめて小さい。この事は深発月震の震源域では効率よく応力を解放する構造や摩擦係数を小さくするメルトが存在するなどの可能性を示唆するものである。最後に月震観測で観測された隕石衝突についても解析を行った。本研究では隕石衝突の衝突サイトの空間分布を調べ、理論的に予測されているクレーター生成率不均質が月震データでも観測されている事を示した。月震観測で観測された隕石衝突は他の研究で観測されているものよりも小さなものが多く、そのような小さな隕石衝突でも不均質な分布が検出できたことは重要な示唆を持つ。このように今年度の研究では月震データを軸に多角的な研究を行った。その中でも震源分布や月震の発震機構の研究から月の内部構造、内部の状態について示唆する結果が得られた事は非常に大きな意義を持つ。
著者
長谷部 信行 BEREZHNOI Alexey A.
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

本研究は、主に3つに分類される。1)月表面から放出されるガンマ線の評価2)月表面における揮発性元素の存在可能性3)流星群衝突と月震による月からの電波放出1)月表面におけるガンマ線及び中性子の発生と輸送機構を実験的及び数値計算的にシミュレートし、元素濃度の評価方法の基礎過程を構築した。それに基づけば、ガンマ線分光計のエネルギー分解能が5keV以下の場合、水素、及び硫黄(1wt%以上存在した場合)の検出が可能であるという結論を得た。また、Lunar Prospectorによる観測結果を再検証しApolloやLunaミッションと比較した結果、月西部の海において、深刻なSi存在量の過小評価とAl, Mgの過大評価を発見した。2)月面揮発性元素の彗星起源説について評価を行った。その結果、炭素に富む彗星では現在までに推測されている揮発性元素の存在量を説明することはできず、酸素に富む彗星であれば、十分に存在量を説明することができるとの結論に至った。また二酸化酸素及び二酸化硫黄が安定に存在できる極域内の面積を算出し、それら元素の注入率に制約を与えた。3)1999年から2001年までのしし座流星群到来時の電波観測データの解析を複数の波長を用いて行った。1999年のデータからは月からの信号を見出すことはできなかったが、2000年、2001年においては流星群によると思われる信号を発見した。また、数分にもおよぶ振動の存在を確認した。
著者
舘野 佑介
出版者
東京工業大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究では、オリゴシアル酸、ヘパラン硫酸の機能解明、標的蛋白質の探索を目指し、糖鎖の効率的な合成法の開発、生体適合性有機ナノスフィアの開発を行い、探索研究の新たな方法論の開拓を目的としている。本年度は特にヘパラン硫酸に着目し、その効率的な合成法の開発を行った。無保護糖鎖の供給しナノスフィアに固定化することで、探索研究を行う。しかし、ヘパラン硫酸の脱保護を行う十分な手法は確立されていない。これは、脱保護体が多数の高極性官能基を有するため非常に高極性となり、通常の分液操作やカラム精製が困難だからである。そこでフルオラスタグを導入し、対応する精製操作を行うことで効率的に無保護糖鎖を合成する手法を開発することとした。また糖鎖同士を連結する手法に関してもより効率的な手法を開発することとした。1)まず、糖鎖伸長法の開発を行った。通常用いられるグルコサミンの2位がアジド基のアクセプターを、グルコサミンの2位がトロック基のアクセプターを変更することで、糖鎖同士の連結反応の反応性が大きく向上することを見出し、4糖同士の連結を行うことで12糖保護体の合成に成功した。2)次に糖鎖の脱保護を行った。得られた保護糖鎖に対し、フルオラスタグを導入することで各種反応後の精製操作が容易になり、4糖体3種、8糖体1種、12糖体2種の計6種のヘパラン硫酸の合成に成功した(年次計画3)。今後、生体適合性有機ナノスフィアの開発を行い、合成した糖鎖を固定化し、探索研究を行っていこうと考えている。(年次計画4)。
著者
山原 裕之
出版者
立命館大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

これまでの研究成果をベースに、より精度の高い行動検知と適切なタイミングでのサービス提供の実現のために以下の項目に取り組んだ。(1)多様なユーザの習慣の違いの影響を受けないように、行動検知アルゴリズム中の閾値にユーザごとに適切な値を自動的に設定する手法。(2)falseサンプルを用いた行動パターン洗練手法。(3)サービス提供の適切なタイミングの決定手法の検討。当初、項目(3)ではなく(4)無線通信機器を活用した家の中での位置情報推定手法とユーザの物体への接触情報を組み合わせた新しい位置情報推定手法に取り組む予定であったが、科研費が申請額より減額されたことで通信機器およびセンサ類の購入が難しくなったため、項目(4)に代わり次年度の研究計画に盛り込んでいた項目(3)を実施することとした。この計画変更に関しては、科研費申請時の研究計画にて報告済みである。全体として、項目(1)および(3)の研究の進展によって研究成果を発表する機会を多く得たため、項目(2)に関する発表が本年度中に間に合わなかった。これに関しては、現在、投稿準備中である。また項目(4)に関して、本年度の研究計画としては扱わなかったものの、特別研究員および科研費の予算外での活動として、パッシブ型RFIDタグを用いた位置・歩行情報取得システムの開発および実験を行った。上記の内容に関して、計5件の論文が採択され、さらに3件の論文を論文誌に投稿中である。当初の計画どおり、CEATEC JAPANおよびTRONSHOWの2つの展示会で研究を展示発表し、研究者のみならず一般の様々な方から多くの有益な意見を得た。また、本研究に関してTV取材を受け、2009年3月25日にNHK総合「おはよう日本」で放送された。研究計画はおおむね予定通り進行した。項目(4)に関しても、研究計画外の活動で進展した。これらの進捗状況から、全体として当初の予定以上の成果が得られたと考えられる。
著者
河島 思朗
出版者
首都大学東京
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

本研究は、オウィディウス『変身物語』における詩的技法を詳細に研究することを主眼とする。とりわけ、物語相互の連関に着目して、作品の解釈を試みる。『変身物語』に含まれる多彩な物語群は、個々に独立する物語でありながらも、互いに連関を有している。この理解については先行研究も広く認めるものであるが、個々の物語の理解に影響を与えるような物語同士の内的な連関については、具体的に議論され得る余地はなお多く残されている。今年度は、第一に物語相互の連関について、第4巻55-388行、第10巻86-219行、第15巻60-487行を考察し、新たな理解を見出した。さらに『変身物語』に影響を与えた他のラテン文学作品との関連から考察した。とりわけ、ウェルギリウスの『牧歌』、『農耕詩』、『アエネーイス』の分析を行ない、『変身物語』の文学史的位置づけを考察するとともに、作品の詩的技法上の特質を研究した。また、『変身物語』の古代ローマにおける社会的・文化的意義、また作品の神話学的な意味についての研究を推し進めることによって、その詩的技法の効果を分析した。以上の研究成果は、2009年の都立大学哲学会において、「アリスタエウスの物語の意義-ウェルギリウス『農耕詩』第四巻」として口頭発表する予定であり、また「ミニュアースの娘たちが語る物語群-オウィディウス『変身物語』4.55-388に描かれる変身の意味-」を2008年中に『ペディラヴィウム』に、"Personal Pronouns in Ovidius Metamorphoses10.86-219"を2009年にSeiyo-kotengakuに、それぞれ論文として投稿する予定である。またこれらの研究成果によって、課程博士論文提出予備資格を取得済みであり、さらにこの成果を平成20年度首都大学東京オープンユニバーシティーにおいて一般向け講義として発表することが決定している。
著者
大澤 吉博 STEBLYK C.P.
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

京都の六十年代のアヴァンギャード芸術、展覧会、などの研究。・京都国立近代美術館。近代の美術(日本の六十年代の芸術者)。草間彌生展。1月6日(木)〜2月13日(日)60年代アメリカ前衛芸術の最前線で活躍し、現在も日本を拠点に国際的な美術家として旺盛な制作活動を続ける草間彌生(1929年、長野県生)の新作を中心にした大規模な展覧会です。(インスタレーション、作品)・何必館(かいはつかん)・京都現代美術館 概要・京都芸術センター。京都市東山区祇園町北側271 芸術振興の拠点施設、Exhibition "CRIA"。Date:8th(sat.)-30th(sun.), January, 2005 センターでは、さまざまな自主事業を展開。信夫北脇:京都のアヴァンギャアド芸術者。Japan Avant-Garde Artists Association、1947.・映画監督者:大島渚(1960‘s)京都のしょちく映画館・近代のアビャンギャアド。Tranqroom.(トランクルーム)京都市左京区浄土寺真如町162-2。展覧会、エヴェント。Art Complex 1928:ギャラリー。アートショプ。発表会>The Japanese Avant-Garde and Ono's Instructional Paintings. San Francisco State University. February 17,2005.発表会>Murakami Haruki and 1960s Japan.(ノルウェイの森)Japan Society, New York. February 22,2005.発表会>What is it Love? Iimura Takehiko. Ponja Genkon conference on post-War Japanese Art. Yale University, New Haven, April 22,2005.
著者
木島 由晶
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

ニューヨークでのフィールドワークをもとに、販売員の国際比較をおこなった。1.組織構造の逆転日米ともに、通説とは逆の組織構造を発見することができた。日本ではMLMは俗にネットワーク・ビジネスとも呼ばれ、知人を勧誘することでグループを成長・拡大させてゆく。したがってその組織構造は官僚制的なヒエラルヒーではなく、ゆるやかな横のつながりを基調としたものであるとされる。けれども実態は大きく異なり、微視的にみれば販売員は「友だちの輪」によって結びついているが、巨視的にみればピラミッド型の階層構造のなかでインフォーマルに職務の分担がおこなわれている。米国ではMLMはダイレクト・セリングと呼ばれ、直接、企業と消費者を取り結ぶ販売組織であると認知されている。代理店を通さない代わりに、販売組織の中では武道の段位制にも似た階級が設定されており、それに応じてバックマージンの給付率も変わる。だが、明確な階級が設定されていても、販売員の職務には反映されていない。上級クラスに権限は乏しく、販売員は各自の裁量に基づいた販売計画を実行している。2.文化的要因の格差米国の販売スタイルを踏襲した日本のMLMが異なる販売組織の形態をとるようになった背景には、地理的要因、歴史的要因などのさまざまな要因が絡みあっているが、最も重要なのは文化的要因と考えられる。元来MLMは、合理性を追求する米国の気風のなかで生まれた商法だったが、通常のビジネスとは異なる副業としての価値が認知されるにつれ、他に仕事をもつ人が自由におこなう余暇的側面を強めることになった。一方で、日本を中心とした諸外国では、高度経済成長期に流入することにより、旧来の職業的観念とは異なる外資系ビジネスとしての価値を獲得する。そのため筆者の類型でいえば、米国にはMLMに商売以上のものを求める<ディストリビューター>型が多く、日本には現世利益を追求する<ネットワーカー>型が多いということになる。
著者
高橋 儀宏
出版者
長岡技術科学大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

新規ボレート系非線形光学結晶LiBGeO_4が析出した透明結晶化ガラスを用いて、LiBGeO_4の二次非線形光学定数をMakerフリンジ法により評価した。その結果LiBGeO_4はd_<33>〜1.3pm/Vと見積もられ、β-BaB_2O_4単結晶に匹敵することを初めて見出した。Fresnoite型構造を有するBa_2TiGe_2O_8(BTG)結晶化ガラスの非線形性の再評価および他のfresnoite型結晶Ba_2TiSi_2O_8(BTS)およびSr_2TiSi_2O_8(STS)について透明結晶化ガラスを作製し、fresnoite型結晶の非線形性を体系的に評価した。またそれら結晶構造と非線形性の起源について研究を行った。BTG結晶化ガラスの非線形性についてはd_<33>〜22pm/VというLiNbO_3単結晶のそれに匹敵する非線形性を確認した。これはガラス材料で報告されている二次線形性の中では最大である。この試料は、BTGが配向薄膜状に生成しており、平面導波路として機能することも確認し、新たな波長変換素子や光スイッチなどの光デバイス材料として提案した。またBTSおよびSTS結晶化試料のd_<33>はそれぞれ12pm/Vおよび7.2pm/Vと見積もられた。Fresnoite型結晶の格子定数比c/aはd_<33>と同様にBTG, BTS, STSの順に大きく、これはBaやGeなどより大きなイオンが導入されることでc軸が伸張し、自発分極が増長された結果、非線形性も増大したものと結論付けた。目的結晶の量論組成を有するガラスは、結晶化することで不純物相が析出しない、密な配向結晶を得ることが可能である。LiBGeO_4やfresnoite型結晶は単結晶育成が極めて困難な結晶である。しかしながら、結晶化を利用することで非線形性が評価できることを初めて実証した。この手法は非線形光学分野の材料探索において非常に有用である。
著者
土田 健次郎 SEONG Hyun Chang SEONG HyunChang
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

朱子学とは言うまでもなく、南宋の朱熹(朱子)の思想であるが、これは朱熹個人を超えて、朱子学という教学として圧倒的な権威を東アジア近世で持った。また東アジアの近代化がこの朱子学を抜きにして語れないのも周知の通りである。中国に誕生し、広く東アジアに展開した朱子学に関しては、膨大な研究の蓄積がある。それも、朱熹自体、中国朱子学、朝鮮朱子学、日本朱子学、ベトナム朱子学の研究というように、国を超え時代を超えた研究群である。本研究は、この膨大な研究を収集し整理し、さらにその成果を研究者に便宜を提供することを目的としている。朱子学の研究には、中国語、韓国語、日本語、英語、ドイツ語のものなど各国語のものがあるが、今回は、中国語、韓国語、日本語のものを収集し、整理した。その一端は、「韓国と日本における朱子学の研究史的発展のための予備的考察-日本における朱子学研究の動向を手掛りとして」(韓国語)(『東洋哲学研究』45)、「韓国における朝鮮儒学研究の課題-「朱子学的心学」をめぐって-付・朱子学研究文献目録(韓国篇)」(日本語)(『近世儒学研究の方法と課題』)、「韓国における朱子学研究の動向-二〇〇〇年から二〇〇五年六月まで-」(日本語)(『東洋の思想と宗教』23)、という形で公表した。これらは韓国語で書かれた中国朱子学と朝鮮朱子学に関する研究史的整理が中心であるが、将来は中国語と日本語の朱子学研究も整理して公表する予定である。特に今回は、研究文献のデータベース化の作業を遂行した。これは各研究論文、研究書、資料の、著者、表題、掲載誌、巻号頁、発行所、発行年月、キーワードなどを採録し、そのいずれからも引けるものである。現在まだ作業の途中であるが、今までの分だけでもかなりの蓄積になっている。特にキーワードは、一定の基準を定め統一的に採ったものであって、将来完成したあかつきには、朱子学研究の膨大な資産が多方面から検索できることになろう。
著者
林 薫平
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

農村共同体における土地利用・土地配分の構造およびその人口圧力下における変容過程を明らかにするために,以下の通りに研究を実施した。まず準備として,資源一般の配分・利用を規制する共同体的メカニズムに関する事例研究を,主に文化人類学の領域を対象として広く渉猟した。成果として,灌概コモンズと漁場コモンズにおけるローテーションや細分化といった様々な共同体的アレンジメントを包括し比較分析することのできる理論フレームを構築した。第二に,上の理論フレームを共同体的土地制度の事例研究に応用した。具体的には,鹿児島県下甑村において極めて人口圧力が高かった昭和20年代の共有田制度を取り上げた。その結果,共有田利用権の配分のさいに細分化とローテーションの組み合わせ方が決定される集合的選択のメカニズムを解明することができた。第三に,以上の知見を東西の土地制度史と照らし合わせ,共同体的土地保有の理論モデルを構築した。具体的には,土地の配分・利用における共同体の規制と各メンバーの個人性の対立関係を描いた。土地資源の利用をめぐる共同体的なメカニズムについては従来の経済学は正面から分析して来なかった。むしろ共同体の影響が除去され土地が私有化されたあかつきの効率性分析に主眼がおかれて来た。本研究の意義は,共同体メンバーの集合的選択によって,個々人への土地配分と各々の土地利用に対して強力な共同体的規制が課される仕組みを,理論的かつ実証的に明らかにした点にある。特に,人口圧力のもとでは,メンバーを養うために規制が強化されることがあるが,従来の理論では説明されなかったこの実態に合理的説明を与えることに成功した。この成果は,政策への含意として,現在発展途上農村地域において広範に行われている土地私有化改革について,推進派と反対派の対立点をクリアにする意義を持つ。
著者
眞嶋 亜有
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

平成18年度の研究実施状況としては、次の通りである。前年度において論文発表し高い評価を得た、近代日本における身体の「西洋化」研究の一つである"水虫"を巡る近現代日本社会・文化史的研究に、英米との比較史を加えたものを精力的に調査研究発表した。その成果を所属機関である国際日本文化研究センター主催の国際シンポジウム(香港)に参加発表した際の論文として提出した「20世紀初頭における米国有閑階級とathlete's footの成立」が、同センター論文集に受理され現在編集作業中である。同時に、本研究課題の主軸でもある、其の人種的自己認識を巡る社会・文化史研究についても発表を続けており、近代日本エリート層における身体の「西洋化」の象徴であった洋装と髭に関する調査研究を、同センター主催国際シンポジウム(於・エジプト)にて口頭発表し、その論文として「明治期洋行エリートの身体文化と人種的自己認識の形成-洋装と髭を中心に-」を提出、上記論文集に受理され現在編集作業中である。同テーマに含まれる身体文化として、日本のテレビCM史における「髪の色」を巡る自己認識の現代史的側面を「"黒髪の金髪好き"のゆくえ」と題し発表した。加えて、本テーマの基盤となっている身体の「西洋化」と食事、殊に肉食との歴史的関連に関して、「牛肉心酔という身体文化」を発表し、近々に「"牛肉=精力"幻想の成立-近代日本における肉食志向・菜食志向をめぐって-」も関連学会誌に投稿予定である。上記からも明らかなように、本研究課題に関しては肉食、人種、水虫という斬新な切り口からこれまでの「西洋化」研究に見逃されていた盲点並びに新境地を着実に開拓している。そして平成18年度の海外調査としてハーバード大学にて調査研究が出来たお陰で、本年は単著出版として本研究を世に問う時期が漸く訪れた。このような機会と環境を与えられた幸運に心から感謝すると共に精力的な成果発表に精進する次第である。
著者
浜下 昌宏 STURTZSREETHARAN Cindi L.
出版者
神戸女学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本研究の目的は、関西弁を話す女性の話し方の特徴を調査・分析することにある。一般に関西女性の話者は関西弁を話すことで個々の場合において個性と主体性を維持している。より限定して本研究が追究するのは、関西女性の個々の言語活動が関西女性としてのジェンダー(女性的役割の表現)の創出に寄与し、日本語の中の女性語という、より一般的な領域へも関与していることである。その女性語とは、社会言語学的事実というより、社会的意識(イデオロギー)を構成しているものである。そうした研究目的のために、言語表現の特殊な側面に焦点が当てられる。すなわち、文末の口調(「ね」「てよ」「のよ」「わね」、等々)や、話しかけや指示の人称語(「わたし」「あなた」「あんた」、等々)に注目する。その調査を通して明らかにしたいことは、(1)女性同士の日常会話でそうした語法をしているかどうか、(2)もししているのであれば、どの程度しているのか、ということである。作業として、データを収集するために、60人以上の話者によって話された20の会話を収集した。(各会話はほぼ80分である。)録音したその会話を書き取るという作業が現在、進行中である。そのデータには、30代前半の若い女性から75歳の老女までの会話が含まれている。また話者は大阪から兵庫在住の女性にまでわたっている。予備的分析の結果、関西女性は日本女性の標準的な言語使用をしてことが明らかになった。たとえば、日本語の中の女性言葉という、きわめて社会的意識の強い言葉を使っていることが理解できた。しかしながら、彼女たちはそうした言語活動を通して、たんに女性としての主体性を創りだしているのみならず、そうした態度をみずから楽しんでいるようでもあり、さらにまた、そのような楽しんでいる言語活動により、日本女性として振舞いかつ話すべしという社会的心理的なプレッシャーを拒んでいるようである。さらなる分析によって、さまざまな年齢と地域的主体性をもった女性の話者の会話例をつうじて、そのような解釈がどの程度まで妥当かどうか、を解明したい。研究の進行状況としては、上記の録音テープの書き起こし作業は本年5月中に完成済みであり、現在、データ分析を遂行中である。さらに研究成果論文を近日中に完成し、学会誌掲載の審査を受けるべく、本年12月ころに審査員に提出の予定である。
著者
鎌倉 真音
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究は、有形文化資源の3次元デジタルアーカイブデータの利活用について、データの計測作業と取得データを用いた解析と考察を通して、その有効な方法や今後の展開、可能性について3ヶ年で考察、検討するものである。最終年度である本年度も昨年度に引き続き、特に有形文化資源のデジタルデータの利活用に関して、考古学、美術史学、建築史学、など多分野にわたって具体的な解析や活動を通して研究を遂行した。主に、以下の2点に着目して研究を行った。(1)カンボジア、アンコール遺跡バイヨン寺院の大きな特徴である尊顔に関して、3次元デジタルアーカイブデータを用いた解析による考古学的考察を行った。12世紀に寺院を建立したとされる王(ジャヤヴァルマンVII)の坐像顔面デジタルデータと寺院尊顔の類似度等を検証する解析、アンコール遺跡群の中でもバイヨン期の寺院にだけ存在する尊顔の制作背景について考察を行った。解析、考察の結果は、バイヨン期の寺院建立の歴史等を明らかにし、多分野横断型研究の結果としても極めて重要なものとなる。(2)3次元デジタルアーカイブデータを用いた具体的事例をもとに、従来では文化資源そのものに対して行ってきた利活用活動を、デジタルデータの特長に着目し、広く文化資源全般にわたってデータとして利活用していく、プロセスデザインを行っている。サーバなどに蓄積されるばかりの文化資源デジタルアーカイブデータを有効に利活用するために、(1)のように具体的な対象を用いた解析、考察を行い、同様に様々な対象に対しても適用していくことは有意義である。本研究の成果は、国内外を問わず文化資源における保存・デジタルデータ化・利活用に関する俯瞰的な考察を可能にし、文化資源を基軸とする多分野にわたる研究領域での具体的研究プロセスモデルの提案につながる。とりわけ国土も狭く、資源にも乏しい日本国において、あらゆる文化資源を有効な手段で保護、保全、保存、そして活用していくことは極めて重要である。
著者
北村 光司
出版者
東京理科大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

乳幼児の事故を予防するための1つの方法として、保護者の乳幼児事故に関する認知の教育支援がある。これはリスクコミュニケーションの観点から重要な課題である。しかし、従来の乳幼児事故に関する教育支援や情報提供の方法は、書籍やパンフレットによる注意喚起にとどまっており、効果的な方法ではなかった。それは、(1)事故に関する情報を提供するのみという情報の一方通行で終わってしまっており、その情報による効果の検証が行われていないためと、(2)事故に対する認識や考え方は人それぞれによって異なるにもかかわらず、すべての人に一様に同じ情報を発信していたためである。この問題点を解決するためには、情報を提供しながら、ユーザの認知構造の調査や情報の効果の検証を行い、それらの情報をもとに次に提供する情報を適宜選択するシステム、すなわち、フィードバック系をもった情報制御システムが必要となる。そこで、(1)サービスを提供しながらユーザの認知構造や情報の効果を検証するためのサービス統合型センシング機能と、(2)得られたユーザからの情報に基づいて個人適合する機能を特徴とする情報循環システムを提案した。(1)サービス統合型センシング機能に関しては、2005年より(株)ベネッセコーポレーションと共同でWeb上で事故シーンアニメーション動画を提供するサービスを行っており、そのサービス上で保護者が入力した子どもの年齢や発達段階や、動画を見た後に行うアンケートの回答をログデータとして収集し、分析した。(2)個入適合する機能に関しては、保護者が認知していない事故の動画を適切に選択するための手法として、乳幼児の事故に関連するパラメータ(事故の種類、子どもの発達段階、事故に関連したモノ、事故時の子どもの行動など)を特徴量で表現することによって、類似する特徴を持つ動画を選択する手法提案し、保護者20人を対象に検証実験を行い、ランダムに提供するよりも、効果的に認知を向上させることが可能であることを確認した。
著者
林 竜馬
出版者
京都府立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究課題の目的である、約12万年前の温暖期(最終間氷期)における近畿地方での森林変化を明らかにし、温暖期の気候システムの変化が森林に及ぼす影響について解明するために、本年度は以下の内容の研究を実施し、研究成果の公表を行なった。1.最終間氷期における森林変遷の特徴と気候システム変化の影響の解明:現在の温暖期と比較した、最終間氷期の森林変遷の共通性と特異性とを明らかにするために、琵琶湖高島沖堆積物の最終間氷期の層準と、琵琶湖ピストンコアの現在の温暖期の層準にあたる花粉分析結果について、花粉組成や年間花粉堆積量の対比を行なった。その結果、最終間氷期の前半には現在の温暖期と比べてブナが多く生育していた事、さらに後半ではアカガシ亜属から成る常緑広葉林の拡大が少なかった事が示された。現在よりも海水準が高く、夏の気温も温暖であったとされる最終間氷期において、常緑広葉樹林が制限されていたことの要因として、最終間氷期の前半で冬の日射量が少なかったことに起因して寒冷な冬の気候が成立したこと、さらに後半では急激な夏の日射量の低下による冷涼な夏の気候が成立したことが考えられた。2.成果の公表:最終間氷期を含む過去約14~3万年前における琵琶湖高島沖、神吉盆地堆積物の花粉分析結果について、学会誌に公表した。また、平成21年7月6日から11日にかけてアメリカのオレゴン州立大学で開催されたPAGES(Past Global Changes)国際会議に参加し、本研究の成果を発表した。
著者
澤井 仁美
出版者
大学共同利用機関法人自然科学研究機構(共通施設)
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

気体分子を生理的なエフェクターとする気体分子センサータンパク質は、各種生物の遺伝子発現制御、代謝系制御、運動性制御など様々な生理機能制御に関わっていることが明らかにされつつあり、近年、大きな注目を集める研究対象となっている。ヘムタンパク質が気体分子のセンサーとして機能するためには、生理的エフェクターとして機能する特定の気体分子が選択的にヘム鉄に結合し、それに伴う構造変化がタンパク質全体に伝わることで機能が発現されると考えられる。この機能が正常に発現するためには、ヘムおよびその近傍にあるアミノ酸側鎖が気体分子を選択的に認識し、エフェクターとして機能する特定の気体分子がヘム鉄に結合したときのみ構造変化が生じなければならない。しかし、多くの気体分子センサータンパク質では、このような気体分子の認識・感知やそれに続く構造変化と機能発現に関する分子メカニズムは未解明である。本年度は、緑膿菌Pseudomonas aerginosa中に含まれ、酸素に対する走化性シグナルトランスデューサーとして機能すると推定されていたAer2タンパク質が、ヘム含有PASドメインをセンサードメインとして利用している新規な酸素センサータンパク質であることを明らかにした。ヘム含有PASドメインを有する走化性シグナルトランスデューサーは、Aer2が世界で最初の例であった。本研究において、各種変異体を調製し、それらを対象として共鳴ラマン分光法などの各種分光学的測定により、Aer2タンパク質の構造機能相関解明を目的とした研究を実施した。その結果、Aer2がこれまでに例の無い新規な酸素センサータンパク質であることを見出した。