著者
伊藤 弘子
出版者
愛知学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

四月三日から四月二三日まで前年度に引き続きロンドン大学SOAS(オリエント・アフリカ学院)において南アジア家族法および在イギリス南アジア系住民に関する在外研究を行った。同学院のメンスキー教授指導のもとでインドおよびパキスタン現代家族法につき研究したほか、スリランカおよびネパールの家族法文献収集も行った。平成一九年度後期から二〇年度前期の一年間はインドおよびイギリスにおいて在外研究を行う予定であったが家族の体調悪化に伴い在外研究は短期滞在を複数回行う事とした。南アジア家族法研究の成果として雑誌「戸籍時報」九月号に論文「インドにおける代理出産の現状と出生子の法的取扱い」が掲載された。同論文は、前年度に「戸籍時報」に掲載された「バングラデシュ家族法概説」翻訳(A.イスラーム著)とともに雑誌「法律時報」の平成二〇年度学会回顧の国際私法、民法(家族法)およびアジア法の分野において四ヵ所で引用された。この他に「戸籍時報」では「パキスタン家族法概説」翻訳(F.コーカー著)が平成二〇年十二月号から掲載され現在も連載中である。七月一七日にはSOASにおける研究成果を「国際私法を語る会」で「南アジア家族法比較一人的不統一法国における多元的家族法構造」として研究発表し、論文を執筆中である。十一月二一日から二三日まで台湾の世新大学において開催された「アジア三国会議」に出席した。養子縁組に関する各国家族法に関する紹介がなされ、日本の国際私法上の養子縁組について質疑応答に参加した。アジアの家族法研究会メンバーとして今後シンガポール、インドネシア、ブルネイおよびフィジー法翻訳も担当する予定であるのでこれらの諸国の人際法、国際私法を含めた身分関係法研究準備もはじめた。いずれもイスラーム法、ヒンドゥー教法の影響が強く人際法研究を継続、拡大する上でも重要な位置づけにあると考えられる。
著者
清水 一浩
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究は、ドイツの思想家ヴァルター・ベンヤミンの思想におけるカント哲学の意義を明らかにしようとするものである。本年度は、三年間の採択期間の最終年度にあたる。本年度に行なわれた具体的な研究活動は、以下の二点に要約される。(一)アリストテレスの術語法・問題構制からカントを再読すること、(二)ベンヤミンの術語法・問題構制の系譜を探究すること。(一)の作業は、昨年度から継続して取り組んできたものである。結果、以下のような点が確認された。第一に、『判断力批判』の思惟の場が、アリストテレスの『弁論術』のそれと類比的に画定されていること。アリストテレスにおける弁論術も、カントにおける判断力の批判も、固有の対象領域をもたないということを存立構造としている。重要なのは、この脱領域性が、両者で共通して「感情」という言葉で表示されていることである。第二に、カントの歴史哲学が『判断力批判』と類比的な位置づけにあること。「歴史」は、判断力と同様に、自然と自由との間に位置づけられる。自然にも自由にも還元されない「普遍史」の構想は「小説」と呼ばれる。この呼び名にふさわしく、『普遍史の理念』のテクストは、極めてレトリカルに構築されている。この第二の点の素描を、カント研究会にて口頭発表した(二〇一〇年二月二八日、於・法政大学)。(二)に関しては、ベンヤミンの神学的な言葉遣いやモティーフを辿ることも目的として、ヤーコプ・タウベス『パウロの政治神学』の研究会を行なってきた(その副産物として、拙訳になる『パウロの政治神学』が近刊の予定である)。これによって、旧約聖書からベンヤミンにいたる神学・哲学・政治・文学の伝統について、幾つかの鍵言葉が再確認された(メシア、自然、イメージ、儚さ、など)。言葉遣いのレベルでこの伝統を引き受け、再考し、再構築するところに、ベンヤミンの超越論的文献学と呼ぶべきテクスト実践があったのだと考えられる。
著者
川瀬 慈
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

平成21年度は、エチオピア無形文化遺産を対象にした多数の民族誌映画制作で知られるエチオピア・ゴンダール出身のサムソン・ギオルギス氏(パリ在住)や、ユネスコ無形文化局局長のデュベル氏をはじめとするスタッフ等へ、保護・振興すべき「無形文化遺産」の認識、映像作品の管理・活用に関する聞き取り調査を行った。同時に、以上の点について、自らの経験を踏まえて、積極的な提言を行った。さらに、エチオピア音楽・芸能に関する民族誌映画を国際学会や各種のセミナー、大学講義の場で公表し、音楽・芸能を支える技や知識の、将来にむけた望ましい伝承法、そしてその記録方法論をテーマにした討論を積み重ね、映像記録した。以上で得られた見解や問題点を、論文にまとめ公表した(研究発表を参照)。また、第11回英国王立人類学協会国際民族誌映画祭(英国リーズメトロポリタン大学)において開催された無形文化映像コンペティションにおいて審査委員を務め、世界各地の無形文化を対象にした民族誌映画を批評し、制作者、参加者と広く意見交換を行った。国際映像人類学理事会(IUAES, Commission on Visual Anthropology)理事として、理事会ウェブサイト構築に着手した(http://www.cva-iuaes.com。本ウェブサイトは今後、無形文化遺産を対象にした民族誌映画投稿の場となるのみならす、記録、表象の方法論をめぐるインタラクティブな議論のプラットフォームとして発展していく予定である。無形文化を対象にした映像記録を一方向的に実践するのではなく、映像の送り手、受け手、管理者等との重層的かつ、インタラクティブな意見交換を行うことは、国際的な動向の中で、映像実践をとらえ、映像人類学研究をひろく社会に開かれた応用的学問として昇華させうる可能性を持つ。
著者
辻 明日香
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、マイノリティーの視点から、中世イスラム社会を捉え直すことにある。14世紀半ばエジプトでは、コプトに対する大規模な弾圧により、コプト人口は激減した。また、コプト教会の文芸活動が途絶えた。その中で黙示録は14世紀以降も著されている。申請者は、この黙示録に、コプトが改宗を選択しなかった者の覚悟が現れているのではないかと考えた。2008年5月18日に早稲田大学にて開催された、2008年度歴史学研究会大会の合同部会では、本研究の予備的発表を行った。タイトルは「黙示録から見たイスラム支配下のコプト」で、黙示録に見られる記述から、エジプト社会のアラブ化がコプト教会に与えた影響について考えた。夏休み中は、黙示録資料、の情報整理をした。また、International Coptic Congressの第9回大会(エジプト・カイロ、9月14-20日)に参加し、海外のコプト史研究の専門家らと本研究に関する情報収集・情報交換を行った。10月には歴史学研究会大会の報告文が『歴史学研究増刊号』第846号に掲載された。1月末から2月にかけてロンドン・オックスフォードにて写本調査を行った。新しい黙示録を発見するには至らなかったが、マムルーク朝期の教会史や聖人伝の写本を見ることにより、黙示録を補完するような情報を得ることができた。2009年2月21日にはイスラーム地域研究の研究会にて、「コプト黙示録におけるイスラーム政権像の変遷」と題し、イスラム征服期からマムルーク朝に至るまでの様々な時代に著された黙示録に、その時代の為政者がどのように描写されているかということを発表した。これにより、マムルーク朝期の黙示録記述の意図をより明らかにすることができた。この報告に関しては、2009年度中に研究ノートとしてまとめる予定である。
著者
出馬 圭世
出版者
玉川大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

申請者は平成20年度から行っていた実際の社会的意思決定時(e.g.,人前での寄付をするかどうかの判断)における線条体の役割を検討した研究、他者が自分に対してどのような印象を抱いているかという評判の処理における脳活動を検討した研究をそれぞれ海外学術雑誌に発表した(Izuma,Saito,&Sadato,2010;in press)。単純なギャンブル課題を用いた意思決定中の脳活動を報告した研究は過去にいくつもあるが、申請者の研究は我々が日常的に体験するような実際の社会的意思決定場面中の脳活動を検討し、その際の特に線条体といわれる脳部位の役割を明らかにした世界初の研究と考えられる。また平成21年度より玉川大学脳科学研究所に異動したのち、社会的報酬の処理に関するfMRI実験を新たに立ち上げた。我々ヒトの日常における行動も多くの場合報酬に基づいて行動の選択が行われていると考えられるが、ヒトの場合は食べ物やお金などの物質的報酬だけでなく、他者からの賞賛や良い評判といった抽象的・社会的な報酬も重要な役割を果たしていると考えられる。申請者はfMRIというヒトの脳活動を非侵襲的に計測できる装置を用い、ヒト特有の社会的報酬に対する脳活動をより詳細に検討し、さらにそれが社会的態度の形成にどのような役割を果たしているかを検討した。我々がある特定の他者に対してどのように振舞うかを決定する場合には、その他者に対してどのような印象・態度をもっているかは重要な要因のひとつであり、ヒトの社会性の神経基盤の解明に向けて重要なステップであると考えられる。既に25名ほどの被験者からデータを取得した。現在それぞれデータ解析を終え、論文を執筆中である。
著者
林 思敏
出版者
東京外国語大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

台湾総督府の官房外事課・調査課の設置、再編、調査活動、そして対岸領事打合会議の実態を考察するとともに、総督府の外郭団体としての南洋協会、南洋協会台湾支部と台湾南方協会を取り上げて検討した。まず、外交関係の事項と南支・南洋の調査に取り組む官房外事課の復活(1935年9月)およびその後の拡大は、台湾総督府による南方調査の拡充・深化を示している。官房外事課は1938年に官房外務部へ、さらに1940年には外事部へと昇格するが、それによる組織の拡大や、分掌事項の細分化、また外務省出身の外事課長の起用などからは、台湾総督府の南支・南洋の経営への自信と自負心が見られる。しかし同時に、外務省・軍部との間の摩擦を最小限にとどめることに努力している側面も読み取れる。また、領事を総督府の嘱託にしたり、あるいは兼任させたことや、対岸領事打合会議を開催したことは台湾総督府の内外の情報ネットワークの構築において非常に重要な役割を果たした。ただし、それに対する外務省の評価は必ずしも高くなかった。南洋協会においては田健治郎総督と内田嘉吉民政長官が、総督府の首脳部として、その創立発起人、会頭、副会頭などの重役を務めた。また、台湾総督府から持続的かつ多額な補助金の給付を受け、かつ民政長官または総務長官が台湾支部長を兼任し、南方関係の講演会、語学の講習会や図書刊行などを行なった。そこからは、台湾総督府の南進政策における南洋協会の占める位置の重要性が確認できる。また、台湾南方協会は、南方関係の資料・情報の収集、南方講習会・展覧会・講演会の開催、南方進出者の助成、就職斡旋、南洋人の招致指導などにも積極的に取り組んだ。そのほか、同協会によって設置されたものとしては財団法人南方資料館がある。ここには南方関係の図書が多く集められたが、台湾総督府の官営色も濃かった。要するに、台湾総督府は外務省との関係をうまく維持しようとしつつも、自らの意志に基づき、南進の準備を経営していたのである。しかしながら、昭和期の「国策ノ基準」の決定、日中戦争の勃発、「東亜新秩序」の発表、そして「大東亜共栄圏」構想などが、日本の南進政策を大きく転換させることになった。そして、日本政府の南進政策が、基本的には台湾総督府の南方研究を基盤の上で行なわれていくことになる。同時に、戦争遂行のため、台湾総督府の南進政策が次第に「国策」に組み込まれたことによって、外務省・軍部の関与が次第に強力になり、南進における台湾総督府の自主性と独自性が喪失していくことになったのである。以上の研究は台湾総督府の南進関係の部局と外郭団体についてまとめたものである。
著者
中村 誠宏
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

苫小牧研究林のクレーンサイトにおいて地上15-20mにある枝(地上部)の温暖化処理を2008年5月から本格的に開始した。その結果、温暖化処理は、地区部処理区、地下部+地上部処理区、対象区の3つのタイプが揃った。それぞれの温暖化処理区において、このまま温暖化が続いた場合の100年後の気温を想定して5度の温度上昇を維持するための装置も設置してある。この電熱ケーブルを枝に張り巡らす地上部の温暖化処理は世界でも例を見ない手法である。以上の実験環境の整備により、北海道の代表的なミズナラ自然林を舞台に、人工的な温暖化現象を作り出し、樹木にどのような変化が現れるのかを長期的に調べることが可能な状態になった。本年度の温暖化処理区での調査は、昨年に引き続き林冠部の葉形質と食害度の調査を行った。さらに、葉の光合成と呼吸量の測定も行った。温暖化の処理効果を近接リモートセンシングで把握できるようにクレーンの上部に分光カメラと熱カメラを設置して林冠部の撮影によるモニタリングを開始した。一方、林床植物の群集構造そして繁殖戦略についての調査を開始した。土壌の温暖化を直接大きな影響を受けているのは林床植物群集であると考えている。今年度の主な結果は、ドングリ生産量が枝の地上部(枝)の温暖化処理によって2-5倍に増加したことである。また、秋の落葉も10日ほど遅くなり、地上部の温暖化は樹木の様々な生態的な特徴に影響を与えていることがわかってきた。また、樹木の生理機能に関しては、土壌の温暖化処理によって春先の葉の呼吸量が増加することがわかった。しかし、地上部の温暖化処理はこれら機能への影響は見られなかった。
著者
矢野 初美
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

大きく分けて2つの研究を行った。まず、野外実験として、東京都西東京市にある東京大学附属田無試験地に自然生育している個体から、異なるハプロタイプ(B1、Ja)を持つアオキ個体を選択し、相互授粉実験を行い、交雑可能性を検証した。その結果、B1、Ja両ハプロタイプともに相互に授粉実験は成功し、異なるハプロタイプ間での結実が確認された。このことから、造園用材料として、他の地域由来の個体を導入し、それが野外へと逸出・定着し、繁殖する際に、元から地域に自生するアオキ個体と交雑している可能性が高いと考えられ、この研究成果を学術論文として発表した。2つ目として、昨年度までに収集していた関東地方対象区域の衛星画像データ、採取したアオキ個体のハプロタイプデータを用い、都市地域・農村地域における自生型(Ja)・非自生型(B1)ハプロタイプ個体の生育割合と自然環境要因、人為的要因との関連性を解明した。具体的には、目的変数を各樹林パッチにおけるB1タイプの出現割合、説明変数をランドスケープレベル、樹林パッチレベルにおいて抽出しか項目(例えば、地形、樹林パッチの面積・形状等)として、一般化線形混合モデルを構築し、stepAIC関数によるモデル選択を行った。その結果、周辺森林面積率、地形、過去に当該樹林パッチの林相に変化があったか、という項目について非自生型B1タイプ個体の出現割合が顕著に影響を受けていることが明らかになった。このことにより、植栽からある程度年月が経過した導入樹木の逸出・定着状況が野外の広範囲地域で提示された。
著者
塩崎 麻里子
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

本研究では、乳がん患者が配偶者との日常生活において、配偶者が良かれと思って行っているであろうサポート態度が、患者にとってサポートとならない場合について着目している。先に行った乳がん患者に対する半構造化面接で得られた、患者にとって「ありがた迷惑」、「大きなお世話」といった配偶者からのネガティブサポート態度に関する15項目を用いて、手術前と手術後においてどのような変化が見られるかを縦断的に明らかにした。手術前と術後1ヶ月に質問紙調査を行ったところ、ネガティブサポート態度に関して欠損値がなかった乳がん患者63名(平均年齢:49.3±8.9歳)を分析対象とした。半構造化面接で得られた15項目は、比較的頻度の高いもの(早く元通りになるようにとあなたを励ます・あなたの病気や治療のことは、全て医師にまかせるものとして関与しない・自分のことよりも、常にあなたのことを優先する)、比較的頻度の低いもの(あなたと病気についての話をすることを避ける・あなたを病人として、はれものに触るように大事にする)が含まれていた。また、これら15項目は探索的因子分析と検証的因子分析を経て、3下位因子によって説明された。その3つの下位因子は、「過剰関与」、「問題回避」、「過小評価」と命名されている。術前と術後に変化が見られるかどうかを繰り返しのある分散分析で検討したところ、「過剰関与(F(1,62)=6.19,p<0.05)」と「問題回避(F(1,62)=10.35,p<0.01)」において有意な差がみられた。このことから、配偶者からのネガティブサポート態度は、術前・術後といった治療経過の中で出現頻度の認知に変化がみられるものであることが示唆された。今後、この変化が、実際に変化しているものなのか、患者のサポートニードが変化したものなのか、患者の個人的特性や状況などの変数を加えて詳細に検討していく必要がある。
著者
真貝 恒平
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

今年度の研究は、前年度までの研であった「ドイツ文筆家保護連盟」(Schutzverband Deutscher Schriftsteller:以下SDS)の設立から解体までの組織変遷を、近代以降のドイツの文筆業をめぐる諸問題と、世紀転換期からワイマール共和国期における全般的な社会運動との関連を再度ふまえながら概観し、組織解体直前の動向と、1933年以降、フランスへの亡命を果たしたSDSの活動について重点的に調査した。SDSは、ナチス権力掌握前夜、つまり、1920年代後半から30年代にかけて度重なる内部崩壊の危機にさらされ、それまで超党派的組織としてドイツ文筆業界に君臨してきた組織力に翳りが見え始め、組織の斜陽化の一途をたどることとなる。SDSは、組織内に生まれた政治イデオロギーにより、文筆業の代表機関としての本来の機能を失ってしまう。1933年6月9日に設立されたナチス国家直属の文筆業による情報プロパガンダ機関である「ドイツ文筆家帝国連盟」(Reichsverband Deutscher Schriftsteller:以下RDS)は、それまでドイツで活動展開していた文筆家団体を次々とその傘下に入れ、SDSもついに同年7月31日、RDSへ吸収合併され、SDSは、1909年から続いたドイツでの活動に幕を下ろしたのであった。SDSが組織の終焉を迎えた後、フランスへ亡命を果たした一部のSDS会員により、組織解体から僅か三カ月後の1933年10月31日、パリで「亡命におけるSDS」(SDS im Exil)が結成される。この組織は、1935年6月21日〜25日までの五日間、パリで開催された反戦・反ファシズムと新しい文化創造を目指し、世界38カ国から約250名の作家、知識人が参加した「第一回パリ国際作家大会」に参加し、大会四日目にドイツ亡命作家団体代表として共同声明を発表している。このように、SDS亡き後、その理念を継承した「亡命におけるSDS」は、ドイツの反ファシズム亡命文学者、知識人の一大拠点として、戦後まで持続的な活動をパリで展開したのであった。今後の研究の展望として、パリ亡命期のSDSの活動を追っていくとともに、SDSが組織解体へと至るプロセスをより詳細に追っていき、ナチス政権による文筆業の統合と、亡命作家の活動を比較しながら1933年以降の国内外の文筆業を包括的に考察していきたい。
著者
赤江 雄一
出版者
中央大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は、活版印刷術に先立つ大量言説普及装置であった托鉢修道会の説教の諸側面を研究することのうち、本年度は、その中心課題であった、托鉢修道会の説教の「心的暦」(mental calendar)について、成果をまとめることに多くの力を注いだ。具体的には、説教集執筆の段階で「心的暦」が説教執筆者に及ぼした規範的な影響と、そのなかで執筆者がどのような創意工夫を発揮しようとしたかを、ひとつの説教集全体を取りあげ分析する「垂直的アプローチ」の成果を、これまでの主な研究が用いた、多数の説教集の一部のみを扱う「横断的アプローチ」の成果と組み合わせることによって、なぜ同じジャンルの範例説教集が新たに数多く執筆されねばならなかったのかという問いに一定の結論を出した。この内容については論文を2008年1月に学会誌へ投稿した(現在、査読・審査の結果をまっている)一方、「心的暦」を復元する過程において検討することが必要となった説教形式について、ベルギーの国際的学術出版社Brepolsから共著書を出すことができた。この説教形式の探求の結果は、聴衆がどのように説教を理解(情報処理)することを説教者が期待していたか、という説教の受容に関する問題系に示唆するところが大きく、古代の記憶術とアウグスティヌスの「記号論」の関連を論じるにあたって、説教形式の問題を含みこむかたちで成果を論文にまとめているところである。
著者
小宮 一夫
出版者
中央大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2000

1.今年度も、直接の研究対象時期である日清戦後(1895〜1903)に期間を限定せず、第二次大戦後の五五年体制形成期までの政党政治の足跡を視野に入れ、幅広い観点から文献や史料の調査を行った。具体的には、国立国会図書館憲政資料室や徳富蘇峰記念館(神奈川県二宮町)、福岡市立博物館で、政治家の書翰を中心とする原史料の調査を行った。昨年度と同様、本年度も研究に利用できる史料を数多く見つけることができた。とりわけ、福岡市立博物館で調査した鍋島直彬宛書翰(「鹿島鍋島家文書」所収)によって、日清戦後から明治末年にかけての貴族院議員の政治ネットワークを解明する一端が得られた。2.日清戦争前と戦争下に行われた二度の総選挙を、自由党と敵対した対外硬派の視点から分析し、その成果を今年度の日本選挙学会の研究大会で報告した。本報告では、現職代議士の不出馬による不戦敗などの事例を踏まえ、対外硬派が党勢拡大に失敗した理由のひとつとして、組織力の弱さという論点を打ち出した。この報告原稿を土台に、データの補充を行い、活字化する準備を行っている。3.今年度は、日清戦争前後に対外硬派の一角を占めた立憲革新党の動向を、ジャーナリスト徳富蘇峰の政治戦略と絡めて分析した。そして、責任内閣と自主的外交という政治理念を共有する徳富と立憲革新党は、同党の長谷場純孝を介して密接な関係にあったことを明らかにした。その成果は、鳥海靖教授の古希記念論文集(吉川弘文館より刊行)に掲載される予定である。4.西欧列強による半植民地が進む中国情勢に即応するためにも、衆議院の過半を占める強固な一大政党の結成が必要だという論理も、明治33(1900)年に立憲政友会が結成されていく過程で無視し得ない論理であることが明らかになった。このように、外交問題は、政界再編の流れを加速させる上で重要な役割を果たすのである。
著者
佐藤 健次
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

昨年度に引き続き、出芽酵母Atg7単体およびAtg7CTD-Atg8複合体の立体構造の精密化を行なった。また、結晶構造からはAtg8とAtg7のadenylation domain間の相互作用の情報を得ることができたが、変異体解析によってAtg7はadenylation domainによる認識に先立って、C末端領域によってAtg8を捕まえていることが示唆された。しかし、この相互作用に関しては結晶構造からは十分な情報が得られなかったため、Atg7のC末端ペプチドを作成しAtg8との複合体構造をNMRを用いて明らかにした。これらの構造情報と各種変異体を用いたin vitroでの解析によって、Atg7はこれまで研究されてきたcanonical E1とはユビキチン様タンパク質の活性化の機構が大きく異なることを明らかにした。まず、Atg7はそのC末端領域によってAtg8を捕らえ、その後活性化の活性中心である自身のadenylation domainへと移行させるという二段階の認識機構を持つことを示した。また、活性化されたAtg8はE2分子であるAtg3へとtransの機構によって受け渡されていることを示した。これらのcanonical E1とは大きく異なったAtg7の特徴は今後オートファジーにおけるAtg8系とAtg12系の役割を明らかにするうえで重要であると考えられる。また、他のE1と大きく異なる立体構造および活性化の分子機構はAtg7特異的阻害剤を作成するうえで重要な情報といえる。本年度は上記の研究の結果をまとめ、学術誌Molecular Cellにて発表を行なった。
著者
大橋 万紀
出版者
大阪府立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

前年度には、光反応を用いることで温和な条件下で炭素-炭素結合を形成できる、実用的な新しい炭素官能基導入法を開発した。本年度は、この反応の一般性についての指針を得ることを目的として、活性メチレン化合物、および電子受容性芳香族化合物の存在下における電子供与性不飽和化合物の光極性付加反応、およびphoto-NOCAS型三成分カップリング反応について検討し、以下の知見を得た。(1)光極性付加反応を用いることにより、種々の活性メチレン化合物を、電子豊富アルケンを用いて選択的にモノアルキル化することができる。(2)上記(1)で述べた反応を分子内で行うことにより、シクロアルカン誘導体が合成できる。(3)Photo-NOCAS型三成分カップリング反応を用いることにより、種々の活性メチレン化合物に対し、さらに複雑な置換基を一段階で導入できる。この反応では、高価な有機金属触媒や極低温、禁水、脱酸素などの反応条件を用いずに芳香族ニトリルのアリールーシアノ間の結合を活性化し、カップリング反応を進行させることができるため、合成化学的な応用が期待される。(4)上記(3)で述べた反応では、脱離したシアン化物イオンが連鎖的に作用しうる。このため、触媒量のシアン化物イオンを用いると、アリールーシアノ間の結合への共役ジエンの形式的挿入反応が進行する。この他、光誘起電子移動反応におけるマグネシウム塩の添加効果について総合的な検討を行い、同塩は一電子移動、およびそれによって生じたラジカルイオン対の解離を促進しているものと推定した。この成果は、高効率で実用的な光反応の開発へ向け、指針を与えるものと期待される。
著者
村岡 和幸
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

3年計画の最終年である平成19年度は、これまでに実施した野辺山45m鏡、野辺山ミリ波干渉計(NMA)、そしてアタカマサブミリ波望遠鏡(ASTE 10m鏡)の3つの電波望遠鏡を使って得られた輝線データに詳細な解析を加え、棒渦巻銀河M83中の巨大分子雲複合体(GMA)の分子ガス密度と星形成効率の関係を調べた。まず、M83の中心領域についてNMAから得られたHCN(1-0)輝線/CO(1-0)輝線強度比と星形成効率(SFE;単位ガス質量あたりの星形成率)の相関を調べた。このときの空間分解能は160pc(GMAの空間スケール程度)である。両者の相関は、R2〜0.4で明快であった。また、M83の円盤領域(棒状構造や渦巻き腕を含む)については、野辺山45mとASTE10m鏡から得られたCO(3-2)輝線/CO(1-0)輝線強度比とSFEを480pcの空間分解能で比較し、やはり両者の間に相関があることを見出した。HCN/CO比やCO(3-2)/CO(1-0)比は、分子ガス中に高密度ガス成分(n(H2)>104cm-3)が存在する割合、いわゆる「dense gas fraction」を反映している。そのため、分子ガスの単純な総量というよりは、星形成間近の高密度ガスがどれだけ多く存在するか(すなわち、dense coreの数の多寡)が星形成効率をコントロールしていると言うごとができる。1kpc以下の空間分解能でこうした性質を明らかにしたのは初めてのことである。また、我々は、分子雲の大局的な速度勾配を仮定した場合の近似、いわゆるLarge Velocity Gradient(LVG)近似を用いて各輝線強度比から平均分子ガス密度を推定した。M83中心領域については、NMAのHCN/CO比から160pcの空間分解能で、M83円盤領域については、45m+ASTEのCO(3-2)/CO(1-0)比から480pcの空間分解能で、それぞれ平均ガス密度を推定した。こうして得られた平均分子ガス密度をSFEと比較したところ、中心でも円盤領域でも、SFE=10-12.4n(H2)0.96という一つの関係式で密度レンジ103<n(H2)<104cm-3の範囲で記述できることがわかった。このことから、・輝線比から推定した平均分子ガス密度は、Wada&Norman(2007, ApJ, 660, 276)で指摘されたように、dense gas fractionとよく対応する。・dense gas fraction(平均分子ガス密度)がSFEをコントロールする物理は、M83の中心でも円盤領域でも、定量的に同じであるという二つのことを意味する。これによって、我々は数100pcスケールでの平均分子ガス密度の推定から星形成の規模(SFE)に制限をつけられるかもしれない、という新たな可能性を見出した。
著者
浅井 秀太
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

感染できない病原菌が感染を試みると、その極初期に一酸化窒素(NO)や活性酸素種(ROS)が生産され、続いて動的な防御応答が誘導される。植物の特徴的な抵抗反応である過敏感細胞死誘導には、NOとROSの協調的なバランスが必要であると考えられている。NOとROS生成の制御機構を明らかにする目的で、ベンサミアナタバコにおいてウイルス誘導型ジーンサイレンシング法を用いた約5,000遺伝子のスクリーニングによりエリシターであるINFIによって誘導される過敏感細胞死に関与すると思われる候補遺伝子を10個得た。NbRibAは、フラビン(リボフラビン、FMN、FAD)生合成経路に含まれる2つの酵素(GTPCHII、DBPS)活性ドメインを持つタンパク質をコードしており、大腸菌組換えタンパク質はGTPCHII活性およびDBPS活性を示した。また、NbRibAをサイレンシングしたベンサミアナタバコ葉においてリボフラビン、FMN、FAD含量が顕著に低下していたことから、NbRibAがベンサミアナタバコにおいてフラビン合成に関与していることが明らかとなった。そして、NbRibAサイレンシング葉では、INF1によって誘導される過敏感細胞死に加えて、NOやROSの生成も顕著に抑制され、ジャガイモ疫病菌およびウリ類炭疽病菌に対する抵抗性が低下した。さらに、この抑制された過敏感細胞死とNOおよびROS生成は、リボフラビンやFMN、FAD処理によって相補された。FMNやFADは、NO生産に関与するNO合成酵素、硝酸還元酵素やROSを生産するNADPHオキシダーゼの補酵素として知られている。以上のことから、NbRibAのサイレンシングによるNO生成およびROS生成への影響は、FMNとFADの減少に起因するものと考えられた。これまでラジカル分子(ROS,NO)生成酵素の活性制御に関わる具体的な因子についての報告はなく、世界で初めての発見である。
著者
近藤 康久
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

研究課題である縄文時代網漁の再評価に向け、第2年度は地理情報システム(GIS)によるデータ解析を中心に、以下の通り研究を実施した。1縄文遺跡・漁網錘データベースの拡充を図った。これは今後の考古学の研究基盤を整備したという点において重要な意義を有する。この中から、これまでに少なくとも354遺跡から11,657点の漁網錘が出土している東京湾西岸帯を重点分析対象地域に選定した。2上記の数量は、(1)遺跡ごとの発掘面積のちがいと(2)自治体間の調査頻度のちがいに起因するバイアスを被っている。そこでまず(1)を補正するために、遺物検出率と遺跡の未掘面積・発掘面積比から遺跡あたりの遺物存在期待値を求める方法を考案した。次に(2)の問題を空間的自己相関分析の手法を用いて検証した結果、存在期待値は報告実数にみられた自治体間のバイアスを低減する方向に作用することが明らかになった。3対象地域内の自然遊歩道でGPS歩行実験を行い、その結果に基づいて分析地域に適用する移動コスト推定式を設定した。この式を用いて錘具出土地点から谷筋沿いに最寄りの大規模集落を特定するアロケーション分析を行い、大規模集落の漁撈活動領域を推定した。その上で、集落領域ごとの錘具の特徴を調べたところ、海岸に近づくほど土器片錘の比率が増し、上流にさかのぼるほど石錘の比率が増すというパターンを明確にとらえることができた。4解析結果を総合的に検討した結果、時間的には土器型式の細別段階レベル、空間的には1kmメッシュレベルの精度で、縄文時代網漁業の時空間動態を復元することに成功した。特に西南関東では、縄文前期の黒浜式期以降段階的に発展した網漁業が、中期中葉の勝坂I式期から中期後葉の加曽利EII式期にかけて極相に達し、後期初頭の称名寺式期の一時的な落ち込みと後期前半堀之内I式期の回復を経て、低調に転じることが明らかになった。
著者
山下 恭広
出版者
金沢大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

(I)嫌気無酸素好気生物ろ過装置による有機物・栄養塩除玄法の開発炭素繊維を充填した嫌気無酸素好気生物ろ過装置を提案し,下水処理場最初沈殿池越流水を用いて有機物及び栄養塩除去を目的とした処理実験を行なった。その結果,嫌気槽においてDOCが最大約80%除去され硫酸塩還元が進行していることが確認された。この嫌気槽内の硫酸塩還元微生物群集を把握するため,異化型亜硫酸塩還元酵素(dsrB)をターゲットとしたNested PCR-DGGE法による解析を試みた。その結果,Desulfovibrio属,Archaeoglobus属及びDesulfacinum属と推定される硫酸塩還元微生物が検出された。これらの硫酸塩還元微生物は不完全酸化型の硫酸塩還元微生物であったことから,嫌気槽内ではメタン細菌と共存していた可能性が示唆された。(II)間伐材と鉄くずを用いた無機排水からの栄養塩除去法の開発鉄くずと間伐材充填無酸素生物ろ過装置を提案し,下水2次処理水からの栄養塩除去を目的とした処理実験を行なった。その結果,杉チップを充填した装置とアスペン材を充填した装置で長期的な窒素リン除去が進行した。この両装置内の木質からDNAを抽出し,16s rRNA遺伝子をターゲットとしたPCR-DGGE法を適用した結果,木質内の微生物は季節によって優占種が変動すること,木質によって優先種が異なることが示唆された。一方,異化型亜硫酸塩還元酵素(dsrB)をターゲットとしたNested PCR-DGGE法を適用した結果,両木質で明らかに異なるバンドが検出された。シークエンスを行った結果,杉チップ内にはDesulfacinum属もしくはDesulfovibrio属と推定される硫酸塩還元微生物が,アスペン材内にはSyntrophobacter属と推定される硫酸塩還元微生物が検出された。
著者
糟谷 圭吾
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本研究では、走査型電子顕微鏡を用いたカーボンナノチューブ(CNT)の成長過程のその場観察、および、レーザを用いたCNTの位置を制御したヒンポイント合成を行い、成果をあげることができた。CNTのその場では、走査型電子顕微鏡内で局所的にCVD合成を行い、その成長過程を従来の走査型電子顕微鏡で直接観察することを可能にするための局所Cの装置を開発した。本装置の加熱可能な温度の範囲と実現可能な圧力の範囲を計測し、定量化することで装置の設計を一般化した知識にした。開発した局所CVD装置を用いて単層CNTの成長過程を断続的に観察した結果、散発的に成長を行い、一度成長したCNTは合成を続けても成長を続けないことが明らかになった、この結果から単層CNTの成長過程として、花火のように散発的に一瞬で成長を行うメカニズムが考えられる。レーザを用いた位置制御成長では、任意の位置に直径約1μmの円状で単層CNTをピンポイントで合成することに成功した。本研究では、効率的にCNTを合成するためにEnergy Confining Layerと呼ぶ多層基板を開発した。この基板を用いることで、基板上に照射されたレーザは効率的に熱エネルギに変換され、基板表層にあるCNTの触媒に伝えられる。この基板を用いることで初めてシリコンの平面基板上に局所的にピンポイント合成することができた。また、本手法を用いることで従来の合成方法では出来なかった1秒という短時間でのCVD合成に成功した。この短時間での合成を応用することで、レーザを描画することで任意の形でCNTを基板上にパターニングすることが可能となった。本手法を用いることで、CNTを用いたさまざまなナノデバイスの開発を容易に行うことが可能である。本結果はJapanese Journal Applied Physics誌に掲載された。
著者
木村 智樹
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

木星極域の周期的な高エネルギー粒子加速・オーロラ発光等との関連が示唆されている準周期的低周波電波バースト現象Quasi-Periodic burst(以下、QPバースト)は、木星極域磁気圏における周期的で強力な粒子加速過程の情報を反映する重要な現象だと考えられている。しかし、その周期性(数分、15分、40分変動)の決定要因・発生領域・発生機構等の詳細は長年不明であった。本研究では、それらの根源的物理過程を考え、極域における粒子加速過程解明を目標に研究を行った。まず研究代表者は、カッシーニ探査機の波動データに基づき、励起機構に密接に関連のある、電波の偏波特性や到来方向を解析した。その結果、QPバーストの励起機構や伝搬過程に、新しい観測的制約を与える事ができた。また、電波伝搬モデリングと木星の低・高緯度領域で得られた偏波観測結果を組み合わせ、QPバーストの放射源位置や伝搬モードについて議論した。その結果、同現象はある特定の放射源位置とモードをもって励起している事が示唆された。さらに、示唆された放射源位置において、観測や伝搬モデリングと整合する波動が励起される可能性を、波動励起の理論計算に基づいて検証を行った。その結果、極域における高エネルギー粒子によって、観測・モデリングと整合する電波が励起される事が実証された。上記研究結果に関して、国内外の複数の学会において発表を行った。また、上記研究に関連する研究結果が、学術誌(Journal of Geophysical Research誌)に採択された。