著者
太田 裕通 神吉 紀世子
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.1218-1225, 2015
被引用文献数
1

本研究は個人が都市への関心を通じて抱くその時空間的な拡がりを伴う自地域への価値付けに注目し、それを地域毎の将来シナリオの創造へと展開する情報として扱うために仮称的な概念『都市認識』を定義し、『ダイアログ』という深いコミュニケーションを通してその共有を目的とした手法の漸次的構造化による開発を行った。『ダイアログ』の中でスケッチや多様な地図を駆使して居住者の『都市認識』を引き出すよう働きかけるApproacherという役割を手法開発過程で提案し、その積極的な姿勢から改めて話者の覚醒が導かれ、共に自地域への価値付けを行うプロセスを状況的、内容的に記述化し、それらから地域ベースの日常的な議論に繋げる提案を行うところまで展開した。対象地の西陣は織物で有名な都市内産業地域であり、その一般的イメージの強さから地域に潜む多様な価値が引き出し難く、また都市空間の物理的な側面においても実は『都市認識』の中にある西陣らしさが共有化され辛いことから、都市空間の将来を考える上で困難さが多い地域である。こうした地域において居住者の『都市認識』へのアプローチによる都市・建築デザインの実装が必要である。
著者
鈴木 聡士
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.163-168, 2000
被引用文献数
1

The large-scale redevelopment project has been planned in the Sapporo City. However, the evaluation from viewpoint of the inhabitant for such plan has not sufficiently been done. It is necessary that we evaluate the project from viewpoint of the user in order to activate the central urban district, and analyze usefulness then, this study analyzes the evaluation of the inhabitant for the plan using AHP. In addition, the effect of redevelopment project is analyzed according to new potential model using the result.
著者
古山 周太郎 川澄 厚志 清野 隆 青柳 聡
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.901-906, 2011-10-25 (Released:2011-11-01)
参考文献数
5
被引用文献数
1 1

本研究では、人的支援の先進的な事例である中越地域の地域復興支援員制度を対象に、活動日誌をもとに支援員の活動内容を整理することを第一の目的とした。さらに、活動量といった量的な視点から、その活動の傾向と推移を把握すると共に、住民、集落、地域といった支援対象と各種活動の関係をみて、今後の中山間地域の人的支援の取り組みのありかたについても検討を加えた。本研究で明らかになったのは以下の通りである。(1)支援員の活動内容は、観光交流活動、住民支援活動、集落再生支援から、情報発信や外部対応まで多岐にわたっており、活動量をみても特化したものはなかった。(2)各活動の量や内容は年次により変化しており、特に住民や集落との関わりが増加していた。人的な支援が時間の経過により推移している点が明らかになった。(3)観光交流活動や集落再生支援においては、支援員は主体的な役割と補完的な役割の双方を担っている。支援対象も住民個人から地域全体まで広がっており、活動の全般性と支援対象の重層性がその特徴であるといえる。
著者
高橋 諒 奥村 蒼 谷口 守 藤井 さやか
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.1113-1120, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
34

日本における国内の総人口は減少を辿る一方,外国人人口は増加を続けており,その影響力は無視できない局面に至っている.近年,外国人人口による人口の維持や減少の緩和について関心が高まっているが,それに影響を与える外国人支援策について定量的に分析した研究はない.そこで本研究では外国人人口による人口の維持や減少の緩和を考える際に有効な施策を検討するために,外国人人口に影響を与える要因や外国人支援策を定量的に分析した.その結果,市区町村の所得水準や雇用環境に関する変数の影響が大きいこと.外国人の医療福祉や外国人労働者に関する支援策を実施した自治体の外国人人口割合が実施前よりも大きくなる傾向があることが明らかになった.
著者
三輪 律江 藤岡 泰寛 田村 明弘
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.38.3, pp.127-132, 2003-10-25 (Released:2017-10-01)
参考文献数
11

本研究は横浜市保土ヶ谷区内の既成市街地における子ども活動環境調査により、活動相手別、平日・土曜日の子どもの活動環境の実態把握および子どもの活動環境の受け皿になるべき都市計画的な在り方について考察を行った。子どもの活動環境は平日は友達と「公園」を中心に分散的に、土曜日は友達と「公園」「学校」、大人(親)と「商店街やお店」「その他」での買い物などに集中していることが明らかになった。いわゆる「あそび場」とはほど遠いとされる「商店街やお店」のような空間での子どもの活動環境が浮き彫りにされたことは、地域での子どもの活動を大人全体で見守りそれを許容するまちづくりや地域施設整備を目指す上で、重要な知見が得られたものといえる。
著者
五島 寧
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.1318-1325, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
70

本研究は,満州国都市計画制度における,土地経営,集団住区,容積率規制に着目し,制度の起源,特徴,新規市街地への特化との関係,戦戦後日本制度との比較等の視点から検討した。土地経営は,ドイツの土地公有化政策を直接の起源とはしていなかった。集団住区は外国の理論の輸入であったが,人間的スケールの都市空間の創造よりも,人口配分の管理統制手段として利用された。容積率規制は,内地で見送られた制度であったが,高さ制限への翻訳を要するなど規制手段として発展途上であった。都邑計画法(1942)は,その時代の日本の都市計画技術を以て,既成市街地の存在を度外視して理想型を追求するとどうなるか,という実験と見ることもできるが,本格適用に至っていないことから,実験計画と呼ぶのが妥当であろう。
著者
久保 勝裕 安達 友広 木曾 悠峻
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.1288-1295, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
33

明治期に建設された北海道の市街地の多くは、市街地区画図に基づいて極めて計画的に建設された。しかし、その後の市街地拡大の状況はそれぞれ固有性を持ち、それに対する市街地再編の中で寺院敷地の再配置が象徴的に行われた。つまり北海道では、市街地拡大の過程で「2度目のデザイン」が施されたのではないか。本研究では、市街地拡大に応じた寺院の再配置の方法を解明し、市街地固有の景観を創出してきた実態を明らかにした。例えば、余市では、近世市街地に接して市街地を増設した際に、従前からの寺院群を開拓使の意向で新市街地外側の道路端部に移転させた。寿都では、大火を契機に近世市街地を再編した際に、新規の道路開削と一体的に寺町を建設した。これらでは、①市街地区画地外に配置する、②市街地端部の道路の軸線上に配置する、③寺院敷地を連続させる等の手法が用いられた。以上、北海道の市街地では、設計手法を徐々に蓄積し、時代に応じた宗教統制が行われ、やがて両者が接点を見つけていった。その過程では、各々の時代背景や制度的背景、市街地拡大の状況に応じて、それぞれ特徴的な寺院の再配置が行われ、固有の景観を今日に継承してきた。
著者
木曾 悠峻 久保 勝裕 安達 友広
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.1280-1287, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
22

北海道の市街地は、多くが農業地帯に対して都市的サービスを提供するために、計画的に建設された。地方都市の建設は明治20年代から本格化したが、特に内陸都市では、原野区画が先行し、一定程度の入植が進展した後に市街地が区画されるのが一般的であった。従って、市街地の区画は、原野区画に埋め込むように建設され、その方向は強く規定された。本研究では、北海道殖民都市のグリッド市街地を分析対象として、①市街地範囲の設定方法と、②街区・宅地計画の方法(市街地区画道路の割り付け方法)の詳細を明らかにする。分析の結果、①原野区画の中に市街地区画を計画する場合、小規模市街地の範囲は、市街地用地の買収時の農地単位で規定された。300間四方の原野区画(中画)の内側に収め、100間×150間の「小画」の境界線を市街地の外枠とした。②具体の街区・宅地計画は、原野区画道路を基準線として設計された。一部の例外を除き、原野区画道路は付け替えや線形の変更をされることなく、原野の基本寸法の枠内で、市街地区画道路と街区の寸法が割りつけられた。この原野区画道路によって、市街地と周囲の農村部が空間的に連続化された。
著者
山田 歩美 加藤 雅大 有賀 隆
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.1159-1164, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
13

本研究は「過疎地域神社活性化推進施策」を受け、氏子と神社が地域運営を担う一員同士の繋がりであるという視点の上で祭礼運営を行うことが重要であるという背景を受け、社会的紐帯と祭礼形式の変容の相互関係を解明し、祭礼形式が変容しながらもそれが持続していく上での課題を、氏子側の祭礼に対する意識を踏まえ考察することを目的としている。⑴祭礼内容の歴史的変容、⑵祭礼を実行する組織運営、⑶祭礼に対する住民意識、以上3点について調査の結果、⑴対象神社の祭礼は福井地震を契機として祭礼内容が変容し、現在も人口減少に合わせて一部内容を変化しながら継続している。⑵氏子は町内会を介して祭礼に参加している。⑶氏子の祭礼に対する意識は各町内の人口特性や祭礼への参加形式の多様性によって各町内で差異が生まれている。以上より対象神社における社会的紐帯は町内会を介した間接的且つ段階的な繋がりの上に成り立つ事が明らかになった。また、各町内毎は祭礼形式に利点や課題を持ちつつも、全体としての枠組みは全地区で一貫されている事が地域運営の課題といえ、各町内の組織が有する祭礼形式の変容の方向性や課題を共有する事が重要であると考えられる。
著者
落合 知帆
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.1151-1158, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
17
被引用文献数
1

熊野川沿い集落は古来より洪水常襲地域であったため,伝統的な水防建築の一様である「アガリヤ」を建て,水害時に備えた.本研究では,和歌山県田辺市,新宮市,三重県紀宝町の熊野川沿い集落での調査により,アガリヤの分布を確認し10の集落において現存を確認した.また,田辺市本宮町を対象とした詳細調査において,アガリヤは住居式,倉庫式,住居倉庫式に分類され,地区によって倉庫式または住居倉庫式が多数を占める違いがあった.また,その配置は,住宅の裏に石段を築き整地した上に建てられた敷地内盛土型と,住宅のある敷地から離れた高台に建てられた敷地外高台型に分類した.アガリヤの減少または消失の要因は, 昭和28年以降大規模な水害の減少,公共事業や治水対策の実施,二階建住宅の普及に伴う住民の水害危機感の減少,公的避難所の整備による自己対策から避難所避難への意識変化が挙げられる.現代社会において地域に残る伝統的な水害対策の知恵の継承が重要である.
著者
山口 歓 浅野 純一郎
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.118-124, 2016-04-25 (Released:2016-04-25)
参考文献数
5
被引用文献数
1

本研究は、地方都市における近年(線引き制度や開発許可制度を含む都市計画法改正のあった2000年以降)の逆線引き制度運用の実態を全国レベルの調査から把握し、その課題を考察したものである。逆線引き地区の把握については、道府県の担当部局や当該地区の市町へのアンケート調査で概要をつかんだ後、顕著な課題を示す特定の事例ついては、現地調査や当該市担当部局へのヒアリングを主としたケーススタディで詳細を分析した。その結果、逆線引き後の宅地化率は(1)物理的な開発困難地、(2)農振農用地区域の指定、(3)開発圧力の低さの3つを要因として比較的低いものの、逆線引き後に開発許可条例の適用地にする等、開発管理上問題のある事例が見られた。また複数の逆線引き地区を持つ都市計画区域では、保留人口フレームの減少や枯渇が逆線引きの動因となっている一方、持続的に逆線引き地区を捻出しつづけることの困難さや人口フレーム計算の非公表等、線引き運用の硬直性と密接な関係があることを明らかにした。
著者
清水 陽子 中山 徹
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.777-782, 2014
被引用文献数
1

本研究は、人口減少都市において地域改善の支援組織として活動する非営利組織、特にCommunity Development Corporationsという組織に着目した。その事例としてSalem Housingの活動実態を把握し、活動内容の変化、役割を明らかにすることを目的とした。(1)アメリカでは人口が減少している都市はまだ少なく、Salem Housingは人口減少都市で活動する数少ないCDCである。(2)その背景にはフリント市の人口減少がある。人口減少により、CDCの主な事業であった住宅の供給のニーズは低くなっており、替わって地域の質の向上への支援が求められている。(3)Salem Housingでは人材と財源の確保が大きな課題となっている。財源は企業や連邦政府などの補助金などを活用しているが、安定した財源が少ない。また、市の人口が減少している状態はCDCへの協力者も減少させている。人口減少は地域を支えるCDCにも影響を及ぼしている。
著者
柿本 竜治 溝上 章志
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.373-378, 2005
被引用文献数
1

平成14年の道路運送法の改正により、バス路線の需給調整規制の廃止とともに地方バス補助制度も改定された。これにより、これまでの内部補助を前提とした事業者への補助措置ではなく、生活交通確保のために地域にとって必要な路線に対する路線毎の補助制度に改められた。補助金投入に際し、従来、路線を評価する指標として営業係数や輸送密度が用いられてきたが、これらの指標による評価には営業費用を最小にする投入や産出がなされているかという企業努力は不問としている。そこで本研究では、生産性と集客性で構成される「企業努力面」と、公共性と収支性で構成される「経営・環境面」とにより路線を分類し、さらに運行サービス水準等の路線の特性による主成分分析を行い、路線改善策の抽出する方法の提案を行った。この方法により、公的補助投入対象路線を効率的に絞り込むことが出来るとともに、補助対象外の路線を維持するための具体的な改善策を示すことが出来た。
著者
小浦 久子
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.43.3, pp.211-216, 2008-10-25 (Released:2017-01-01)
参考文献数
2
被引用文献数
2

2004年に制定された景観法にもとづく景観計画が各地で策定されてきている。半年以上運用実績のある景観計画を対象にその構成と運用実態について調査分析した。その結果、景観計画の構成は地域の景観課題に応じて多様な使い方が見られた。定性的となりやすい形態意匠に関する景観形成基準については数値基準との組み合わせなどが試みられているが、基準表現の解釈の幅に応じて適合性判断が難しいと考えているところが半数近い。景観法だけでは地域の景観課題に十分対応できず、より良い景観形成にむけて事前協議と自主条例の必要性が多くの自治体で認識されていた。
著者
野中 健志郎 猪八重 拓郎
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.457-463, 2019-10-25 (Released:2019-11-06)
参考文献数
15
被引用文献数
1

本研究の目的は,住環境評価の視点から判別分析を用いて居住誘導区域が設定された場所の要件を明らかにすることにある.はじめに,線引き都市を対象に居住誘導区域の設定状況を市街化区域の人口密度と居住誘導区域に対する市街化区域の縮小率を用いて分析し,クラスター分析により6つのtypeに分類した.その上で,そのtypeを基に代表都市として土浦市,鶴岡市,箕面市,熊本市を選出した.さらに,住環境評価の視点から居住誘導区域の設定の有無を識別するための判別モデルを構築した.最後に,構築した判別モデルを縮小率の異なる他都市に適用した.結果として,判別モデルにより縮小率の高低を住環境指標の観点から一定程度説明することができた.
著者
朝倉 真一 永橋 為介 野嶋 政和
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.103-108, 2001-10-25 (Released:2017-12-01)
参考文献数
65

The purpose of this paper is to figure out historically and theoretically the character of public retail and wholesale center in around the 1920s in Kyoto by focusing on the context of modern commercial and distributive policy change and the context of modern city management and planning. It could be concluded as follows; (1)Public retail was set first as the one of social work programs for the poor in down town, but the character was getting pilot of a good modern retail, and was set strategically around developing suburb in Kyoto. (2)Particularly, after wholesale center was set in 1927, not only public retail but also private retail and wholesale places were all organized and governed in modern hierarchical system of both modern commercial and distributive policy and city management. (3)This change of commercial and distributive policy was related to and supported by the modern city management policy and new city planning in Kyoto.
著者
四衢 深 小林 隆史 石井 儀光 大澤 義明
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.1483-1489, 2019-10-25 (Released:2019-11-06)
参考文献数
19

日本国内の仏教寺院数は7万を超え,極めてありふれた施設である.しかし,地方を中心に寺院を支えてきた檀家数が減少し,かつ葬儀形態の変容によって,寺院経営は困難な状況となっており,ストックの未利用化すら進行している.本研究の目的は,僧侶による檀家の見守り機能と,寺院を地域の拠点として利用することによって,寺院維持とストック活用を検討することである.先ず,僧侶による檀家の見守りサービスについて,岐阜県の不遠寺を事例に分析した.寺院と檀家の距離は年々増加しているものの,寺院と同一市内の檀家については概ね2km以下の距離となっていること.また,1日あたり3,4軒程度の檀家を巡回して読経を行っており,移動時間を含めて概ね午前中には巡回が終了することより,僧侶にとって過大な負担とはならずに,僧侶による見守り機能が実現可能であることを示した.次に,寺院の地域拠点化について,埼玉県において,面積と施設のジニ係数,及び施設と人口との距離分布の分析を行った.面積あたりで寺院が小学校やコンビニエンスストアよりも均一に分布していること,宗派による協力で小さくなる距離分布を数量的に表し,地域拠点としての活用可能性を示した.
著者
保立 透 エルファディング スザンネ 阿部 成治 前川 和彦 橋本 政史
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.40.3, pp.547-552, 2005-10-25 (Released:2017-07-01)
参考文献数
16

本研究は、道路と建物とを立体的に整備した多くの事例を持つドイツを対象に、実例を検討した上で制度面を明らかにすることにより、今後の我が国で「立体道路制度」を発展させる方向を考えることを目的としている。ドイツでは、幹線道路による市街地の分断や交通騒音を解消するなどの目的で、道路と建物の立体化が行われている。我が国の「立体道路制度」に比べ、市町村が街づくりの観点から個別事情に応じた柔軟な対応をしていることが特徴的である。そのための法制度としては、道路の計画確定、特別利用許可(又は契約)などとともに、特に Bプランで各種利害を衡量した上で立体的な用途指定を行えることが重要な役割を果たしている。
著者
青木 留美子 多治見 左近
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.40.3, pp.553-558, 2005-10-25 (Released:2017-07-01)
参考文献数
7
被引用文献数
3

高度経済成長期を中心に大量に開発された郊外住宅地の中には、居住者の高齢化問題あるいは空地・空家化等空洞化問題に直面している地域も多い。これらの問題はコミュニティ形成や治安維持に困難を来す可能性がある。非婚・晩婚化によるファミリー世帯の減少や都心回帰現象など郊外型住宅の需要減少が予想される中で郊外住宅地の現状を把握し、今後の動向を探ることは重要である。郊外住宅地の問題構造を解明するためには、各地域特性を把握し全体的系統的な認識をすることが必要である。本稿では大阪府の郊外一戸建て住宅地を対象に、都市の中での各住宅地の位置づけを明確にし、居住者高齢化や空洞化に対する今後の方策を検討するための基礎的資料を得ることを目的として、町丁字別分析を行った。住宅地の性格を特徴づけると考えられた開発時期、立地条件によるグループ化を行い、グループの空地状況と高齢化状況による特性を調べた。結果、開発時期が初期であるほど高齢化率が高くなる傾向があること、高齢化率は居住者の加齢による高齢化と若年層の離脱により急速化すること、初期開発の住宅地のなかでも条件によっては高齢化が抑制されていることが明らかになった