著者
羽野 暁 樋口 明彦 榎本 碧 原田 大史 佐々木 裕大
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.32-42, 2021-04-25 (Released:2021-04-25)
参考文献数
21

屋外空間における視覚障害者の歩行支援として、筆者らは白杖の打音を用いた音による誘導に着眼し、一般的な舗装材と音響特性が異なる木材を舗装に用いた「木製バリアフリー歩道」を考案した。本研究は、この開発研究における最終フェーズとして、実用化標準断面に基づき屋外に実装した試験歩道において42名の視覚障害者を対象に歩行実験を実施し、行動観察により歩行支援機能を検証したものである。アスファルト舗装部とスギ板舗装部の二種類の舗装区間にて実験した結果、アスファルト舗装部を開始点とした歩行実験において27名の被験者が歩車道境界に近づき7名の被験者が車道に飛び出した。一方、スギ板舗装部を開始点とした歩行実験においては26名が歩車道境界に近づいたが、車道への飛び出しを全員が回避した。さらに、歩車道境界を白杖のみで認識し足踏を必要としない被験者が、アスファルト舗装部と比較してスギ板舗装部においてより多く確認できた。これらより、スギ板舗装がアスファルト舗装と比較して視覚障害者の車道飛び出し防止に有効であることが分かった。
著者
松村 優 真鍋 陸太郎 村山 顕人
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.24-31, 2021-04-25 (Released:2021-04-25)
参考文献数
9

外出は高齢者が自立して生活していく上で重要な要素である。本研究では徒歩による外出に関わる街路や施設配置などの市街地環境に着目し、外出の阻害要因および促進要因を明らかにすることを目的とした。高齢化が進む郊外計画住宅地である小金原地域において市街地環境の客観的調査・アンケート調査・ヒアリング調査を行ったところ、主に「坂道・公共交通不便という阻害要因があること」、「いつでも立ち寄れる行き先という促進要因が無いこと」が外出を妨げていることが明らかになった。よって、外出しやすい環境の実現には、坂道でも歩けるような休憩場所の整備・コミュニティバスの導入・行き先となる集い場の整備の優先度が高い。また、身体状況に不安がある高齢者は阻害要因を、健常高齢者は促進要因を重視するという傾向が見られた。身体状況により意向が異なることを考慮し、阻害要因の解消・促進要因の創出の両面からアプローチすることが望ましい。
著者
萩行 さとみ 大澤 義明
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.1-13, 2021-04-25 (Released:2021-04-25)
参考文献数
23

地方創生の主たる施策の一つである「地方創生関係交付金」は、今から30年程前に各自治体に1億円ずつ配分された「ふるさと創生事業」以来の大胆な自治体向けの交付金事業であるが、この30年でどのように変わったのだろうか。本研究では、両交付金を対象に歴史的背景の考察、人口規模や面積等によるジニ係数の比較、テキストマイニングによる事業名の比較によりそれぞれ比較考証した。結論として、次の3つが得られた。第1に両交付金は配分方法が異なるにも関わらず、住民1人あたりの交付金額の偏在度の差異は僅差である。第2に地方創生関係交付金の獲得の有無には、「財政力指数」、「周辺自治体の平均獲得件数」が統計的に有意であること示めした。第3に両交付金の事業タイトルをテキストマイニングを用いて分析したところ、事業テーマはハード事業からソフト事業へ移行していることが分かった。さらに対応分析から、ふるさと創生のような国主導の方が、より自由度の増した地方創生より地域性をより反映していることを可視化した。
著者
秋本 福雄
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:1348284X)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.48, 2005

土地利用計画は都市計画の延長上にではなく、主として農業、林業における建設的な政策の探求から生まれた。1930年代初頭、農務省農業経済局のルイス・グレイは、大量の限界農地を転用するために、全国的な土地利用計画事業を開始し、農業経済学者らは土地を調査し、目録を作成し、分類し、最適の用途を判定した。その間、都市計画家は都市計画から地域計画、州計画へと領域を拡大したが、土地利用計画という概念は導入しなかった。この論文は、カリフォルニアの郡計画の計画家ヒュー・ポメロイが、1930年代、郡地域制を合理的に制定するために、土地利用計画の概念を導入したことを明らかにしている。その後、1940年代、都市計画では、地域制の改定、都市再開発事業のために土地利用計画を作成するようになった。
著者
大山 雄己 羽藤 英二
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.643-648, 2012-10-25 (Released:2012-10-25)
参考文献数
8
被引用文献数
3 1

近年、都市縮退や健康、環境保護の流れの中で歩行者を中心とした街路空間の再配分の動きが見られるように、歩行者にとって快適な街路空間を整備する必要性が高まっている。本研究ではこのような背景のもと、渋谷を対象として、街路空間が歩行者の経路選択行動に及ぼす影響を分析した。プローブパーソンデータを用いることでミクロな歩行者行動を分析し、街路レベルでの歩行者の行動様式を把握した。また、街路景観や微視的な構成要素を考慮した経路選択モデルの構築によって街路の空間特性と歩行者の経路選択行動との関係性の把握を試みた。その際、従来の研究では考慮されていなかった説明変数同士の多重共線性を考慮し、街路空間指標を集約化し、類型化した街路景観パタンをダミー変数として用いてモデルの推定を行った。その結果、相関のある構成要素同士を除いたモデルと同程度の精度が得られた。また、推定結果からは街路景観や微視的な要素、そして類似景観の連続性が歩行者の経路選択行動に影響を与えていることを確認した。特に歩行者が類似した景観の街路を選択する傾向からは、街路をネットワーク全体から見て戦略的に整備する重要性と、整備への知見を得た。
著者
初田 香成
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.42.3, pp.415-420, 2007-10-25 (Released:2017-02-01)
参考文献数
41

本研究は戦後期における都市不燃化同盟を中心とした都市不燃化運動の理念の変容を探り、その歴史的意義を探るものである。まず運動の主体であった都市不燃化同盟の誕生の過程と背景を明らかにし、その誕生の意義を考察する。続いて特に1950年の前後で、都市不燃化に関する構想が大幅に縮小されたことを明らかにし、その背景としてGHQによるドッジラインの影響を指摘する。そしてそれがもたらしたその後の不燃化運動、再開発への影響を学識者、建設省の官僚、商工会議所、ディベロッパー、損害保険会社と言ったそそれぞれの運動主体の観点から考察する。
著者
中島 直人
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:1348284X)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.29, 2008

高山英華は「都市計画学のパイオニア」の一人である。しかし、高山の学術的な業績はこれまでに明確な評価を受けてこなかった。そこで、本稿では、高山の主要な学術的貢献とされ、高山自身が「私が戦前から考えておりましたものを体系したもの」と位置づけていた「都市計画の方法について」に着目し、その形成過程、すなわち高山の戦前からの都市計画の学術的探究の軌跡を明らかにすることを目的とした。その結果、高山は当初は住宅地計画の研究、特に標準住宅から近隣住区までの幅の広さで研究を展開し、その後、戦時中の東京改造計画の立案において、人口密度計画、土地利用計画という手法を発展させ、戦後は大都市構成の研究を続行し、「密度」、「配置」、「動き」の3つの構成、分析手段などを提示するに到った。そうした探究の集成が「都市計画の方法について」であり、ここに都市計画学の一つの原点を見出した。
著者
石川 幹子
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.331-336, 1994
被引用文献数
5 1

<p>THE PURPOSE OF THIS STUDY IS TO ANALYSE THE HISTORICAL EVOLUTION OF THE PLANNING THOUGHT ON THE GREEN BELT IN LONDON FROM 1900-1938. AT THE BEGINNING OF THE 20TH CENTURY, THE THOUGHT OF THE GREEN GIRDLE WAS DEVELOPED INFLUENCED BY THE AMERICAN PARK SYSTEM. IN 1920'S, THE REGIONAL PLANNING WAS DEVELOPED AS THE METHOD TO SOLVE THE ENLARGEMENT PROBLEM OF BIG CITIES. THE GREEN GIRDLE PROPOSED BY RAYMOND ANWIN REFRECTED THIS REGIONAL PLANNING THEORY, AND THE CHARACTERISTICS OF THE GREEN GIRDLE CHANGED TO SECURE A BREAK IN THE OUTWARD SPORADIC SPREADING OF LONDON.</p>
著者
リア ロサリア ウィカンタリ 鳴海 邦碩
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.325-330, 1999
被引用文献数
2

この研究は、伝統的な木造家屋に対する重要性および現代的なライフスタイルに対する適応性の居住者自らの評価と将来性の改造に関する意向、さらには木造家屋での生活の不便さや将来の保存に関する意向を分析することを通じて、伝統的木造家屋の持続可能性とその方策を論じたものであり、以下の点が明らかになった。(1)多くの住民(平均的には60%以上)が、伝統的木造家屋を、重要であり、適応性があり、好ましいもので、保存に値すると考えている。(2)しかし、基本的に遺産分割の理由によって丸ごとの売却や移築の傾向が増加するとともに、改造が不可避的・継続的に起こる傾向にある。(3)住民の将来の改造に関する姿勢は、木造家屋に住むことを好んでいるかどうかおよび年齢と関連している。以上の結果を踏まえ、伝統的な木造家屋の持続可能性を推進するための方策を示唆した。
著者
中野 茂夫
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.733-738, 2012-10-25 (Released:2012-10-25)
参考文献数
16

本論文は、島根県の歴代県庁舎周辺の官庁街について歴史的に明らかにしたものである。二代目県庁舎が建てられた明治10年代から、行政機構の確立とともに次第に官庁街が形成されてきたことが明らかとなった。その後、県庁の周辺では、広い運動場を持つ教育施設を郊外に移転するとともに、跡地を利用して官庁街の整備が進められた。一方で、戦前の財政が逼迫していたこととも関係していると考えられるが、官公署の転用を頻繁にくり返しながら、官庁街の再編が行われたのである。戦時中には、建物疎開が行われ、木造の主な官公署は、既存の鉄筋コンクリート造建築に移転させられていた。このことは、戦後の制度変更にともなう官公署の改組とともに、官庁街再編の契機となったことが示唆されよう。しかし、ここまでの松江の官庁街は、近代都市計画の大きな存在意義である全体計画あるいは長期計画に基づいた計画ではなかった。松江では、田部長右衛門という名望家が知事に就任したことで、県庁の周辺全体を視野に入れた計画が具体化され、県庁周辺整備計画が強力に推進された。そして県庁を中心にモダニズム建築の傑作が計画的に配置される官庁街が形成された。
著者
福本 佳世 長瀬 安弘 井爪 康夫 穐山 憲
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.889-894, 2002-10-25 (Released:2017-11-07)
参考文献数
34
被引用文献数
1

本研究は、大正および昭和初期における大阪市の公営住宅(貸付住宅・月賦住宅)に関する供給内容と空間的特質を捉えたものである。分析の結果、以下の事柄が明らかとなった。1)貸付住宅・月賦住宅は共に、その住宅に種別を設け、供給対象に幅を持たせていたこと。2)配置計画については、住宅の型に対応しながら、住環境の質を確保を志向していたこと。3)各住宅地に共同福祉事業を導入することで住宅地環境の維持を図ったこと。
著者
小池 リリ子 瀬田 史彦 小泉 秀樹
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.1161-1168, 2018-10-25 (Released:2018-10-25)
参考文献数
10

シェアビレッジプロジェクトは個人では維持が困難になった地域で思い入れがある古民家を、会員制民宿ネットワークとして活用し、多くの人々によって維持していこうという取組で現在秋田県五城目町と香川県三豊市仁尾町に開設されている。本プロジェクトによって古民家が開かれた地域や首都圏に在住する会員の関わり方にどのような変化があったのかを知るため、各地域で合計66名に対しインタビュー調査を行い、その回答からコミュニティの構成員を属性別に分け、グループ対グループのグラフ解析を行った結果、プロジェクト開始前後の人々の関わり方について、地域と首都圏の会員の繋がり以外にも、コミュニティの各グループが関わる新たな結びつきが見られた。このプロジェクトの展開により、首都圏コミュニティが地域コミュニティと繋がりやすくなっただけでなく、地域コミュニティ間でも繋がりの変化を生んだ。
著者
加藤 由理 大西 隆
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.39.3, pp.757-762, 2004-10-25 (Released:2017-08-02)
参考文献数
8
被引用文献数
1

秋葉原地域における集積持続のメカニズムは、周辺業種を多様化させることにある。これは、地域産業における「古い仕事」に「新しい仕事」を追加することで実現する。秋葉原地域では、時代にあわせた産業構造、集積エリアが形成され、地域全体の特徴が明確になることで、他地域に対する競争力を確保することができた。多様性を支えた地域の物理的環境は次の4点である。今後の発展のためにはこれらがより進化していくことが望まれる。1)限定された地域・機能・用途ではあるが「混用」が実現している。2)規模の小さな街区の存在。3)「古い建物」の存在と、建てられた年代の異なる建物の混在。4)一定の人口密度。
著者
寺島 駿 松川 寿也 丸岡 陽 中出 文平 樋口 秀
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.76-84, 2018-04-25 (Released:2018-04-25)
参考文献数
10
被引用文献数
6 3

本研究では、線引き地方都市を対象に居住誘導区域を設定する手法の提案し、先行自治体の事例と比較検討することで、今後の自治体による計画策定に示唆を与えることを目的としている。都市構造の分析から、市街化区域に対する面積が異なる3つの居住誘導区域を作成し、先行自治体の計画と比較した。公共交通の利便性が高い都市では、市街化区域に対して狭い居住誘導区域を設定している一方、公共交通の利便性が低い都市では、市街化区域に対して広い居住誘導区域を設定していることが明らかとなった。本研究で明らかとなった知見から、3指標を基にした居住誘導区域指定の特徴や課題を明確化した。
著者
今村 洋一
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.727-732, 2012-10-25 (Released:2012-10-25)
参考文献数
19

戦前の公園緑地計画における軍用地の位置づけを整理したうえで、戦災復興緑地計画において、旧軍用地にどのような位置づけが与えられたのかについて、戦前の公園緑地計画での位置づけとの関連も含めて考察するとともに、その後の見直し状況にも触れ、戦災復興期における東京の公園緑地計画に対する旧軍用地の影響を明らかにすることを目的とする。戦前は、使用中の軍用地も公園緑地系統の中に組み込もうとしていた点、戦災復興緑地計画では旧軍用地が積極的に緑地として決定されたが、戦前計画の影響が大きい点、1度の見直しを経てもなお、戦前計画を継承したものは大規模な公園としての位置づけが保持された点が指摘できる。
著者
伊東 孝
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.883-888, 1991-10-25 (Released:2020-05-01)
参考文献数
6

THE AUTHOR HAD MADE IT CLEAR THAT THE BRIDGE TYPE DISTRIBUTION IN TOKYO AFTER THE GREAT EARTHQUAKE OF 1923 WAS VERY SYSTEMATICALLY ARRANGED FROM TECHNOLOGICAL AND URBAN DESIGN POINTS OF VIEW. BY USING THE SAME METHOD,THE MAIN RESULTS ARE AS FOLLOWS: 1.THE SEINE AND THE ILE DE LA CITE IN PARIS WAS A MODEL. OF NAKANOSHIMA AREA. THE BRIDGE ARRANGEMENT IN OSAKA APPEARS TO HAVE THE DESIGN HIERARCHY CENTERING AT THE OSAKA CASTLE. 2.THE EMPHASIS AREA IN YOKOHAMA IS CLEAR BY THE DESIGN ANALYSIS OF A BRIDGE NEWEL. 3.THE THOUGHT OF DESIGN HIERARCHY SEEMS TO BE BETWEEN TOKYO AND YOKOHAMA BY THE ANALYSIS OF A BRIDGE TYPE.
著者
小林 雄次
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.637-642, 1989-10-25 (Released:2020-08-01)
参考文献数
18

The purpose of this paper is to present the comparative analysis of three contemporary theories--architectural, environmental, and spatial determinism. The measure to improve architectural determinism is also discussed. Three theories have serious defects: however, they should not be discarded as an useless tool in policy-making and conceptual organization of the field of environment-behavior research since they can become one of prominent forces contributing to the advancement of field of urban planning and architecture.
著者
中島 弘貴 森田 紘圭 名畑 恵 真鍋 陸太郎 村山 顕人
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.85-93, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
34
被引用文献数
1

本研究は、地域組織や社会的企業による任意のものも含む構想・計画とその実現手段である規制・誘導・事業という地域の制度的環境が創発する小規模事業を通じて既成市街地の再生の実態把握を行うものである。名古屋市中区錦二丁目を舞台とする”長者町まちづくり”プロジェクトの事例分析を通して、不動産・公共空間の暫定活用、改修・転用といった小規模事業と市街地再開発事業という大規模な面的開発の連携した既成市街地再生の過程を明らかにするとともに、その過程で制度的環境を通じて地域の共通の方向性を有したままテーマの異なる様々な小規模事業が展開されるエリアブランディングの仕組みが構築されたことを示した。そして、小規模事業と行政計画・事業のどちらが先行するかによって、地域の制度的環境の果たす役割が異なるという示唆を得た。
著者
柄澤 薫冬 窪田 亜矢
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.1114-1121, 2015-10-25 (Released:2015-11-05)
参考文献数
12
被引用文献数
3 2

災害により甚大な被害が発生すると元から離れた位置で復興せざるを得ない。津波や土砂災害だけでなく、火災や建物倒壊であっても多くの人が移動を強いられる。しかし、移動は往々にしてコミュニティを寸断し、人間関係の希薄化を招く。本稿では阪神淡路大震災において復興のモデルケースと名高い芦屋市若宮町を取り上げ、復興プロセスの実態と20年経た現在における住民の認識を分析した。若宮町では、良い空間であると内外から評価されているものの、震災前後の物理的空間は全く変質しており、復興事業完了直後は住民は「良い」と感じていなかった。むしろその後の復興プロセスで、新たな人間関係を形成しながら「若宮町」とは何かの概念をお互いに集団の中で醸成していくことが帰属意識につながり、満足感を得る状況が明らかとなった。
著者
宮川 雅至
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:1348284X)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.127, 2006

本研究では高速道路インターチェンジ(IC)の設置間隔を時間圏域を用いて評価する.高速道路が一直線に延び,一般道路上は直線距離で移動できるような単純なモデルを構築し,IC間隔と目的地および最寄りICまでの時間圏域との関係を把握する.そして,時間圏域の性質として,IC間隔の短縮によって目的地までの時間圏域は最寄りICまでの時間圏域に比べてより顕著に拡大することを明らかにする.次に,スマートICの導入によって時間圏域がどのように拡大するのかを観察する.スマートICとはETC専用のインターチェンジであり,導入に向けた社会実験が2004年から実施されている.そして,スマートICの導入効果は,IC間隔が長く一般道路の走行速度が低い地域で大きいことを示す.また,モデルから求めた時間圏域の面積で実際のスマートICの利用台数をある程度説明できることを確認する.