著者
長 哲郎 松岡 英明 内本 喜一朗 鳥居 滋 野中 勉 鈴木 周一
出版者
東北大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1993

本研究は重点領域研究「有機電気化学の新展開」の総括班としての機能を有し、実施グループ5名と評価グループ6名から構成され、評価グループの助言を得ながら、4つの班相互の連絡を緊密にして研究計画全体の効果的推進を計った。1.研究項目と成果電子移動反応場の設計と制御(A01)、超活性反応種の創成(A02)、メディエーター反応の展開(A03)と錯体電子移動系の展開(A04)の4研究項目を設け、計画班員29名(3年間同数)、公募班員平成7年度91名(平成5年度55名、6年度87名)により研究の推進を計った。平成8年10月の総括班による評価では、各研究項目は何れも顕著な成果を挙げ、有機電気化学の格段の発展に繋がるとともに、他の方法では実現できない有機反応系を発展させ、さらに錯体化学、生物電気化学と有機電気化学との境界領域を築く成果も得られ、当初の目的を充分達成した。2.全体会議、公開シンポジウム等の開催6回の全体会議、5回の公開シンポジウム(第2回全体会議から全体会議に続けて実施)、11回の総括班会議、17回の実施グループ会議、10回以上の班会議、4回の班組織を越えた横断的研究会議を開き、班員相互の情報交換、班員同士の協力研究や横断的研究の実施、研究計画全体の効果的推進、報告書の作成打ち合わせ等を進めた。3.印刷物の発行各年度未に研究成果報告書(各班員和文2ページ、英文2ページ)および3年間の研究成果報告書(各班員英文4ページ)を刊行した。また、全体会議、公開シンポジウムの際には要旨集を、さらに12回のニュースレターを班員等に配布し、研究の目的、研究の進行状態等の周知徹底を計った。平成10年2月には英文図書“New Challenges in Organic Electrochemistry"を出版するべく一般学術図書の補助金申請を行い準備を進めている。
著者
加藤 茂明
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1997

現在のところmRNA分解制御の分子メカニズム自体が不明な点が多く、その制御メカニズムを明らかにすることはステロイドホルモン依存的mRNA安定化(不安定化)制御機構解明に向けて必須の課題である。そこで本年度は特に以下の3点に焦点を当て検討した。1)AUUUA配列結合タンパクの機能解析:新規AUUUA配列結合因子(AUF2)のmRNA分解における役割をin vitro mRNA分解活性測定系に導入し検討した。本システムの概要は血清刺激プロモーターに繋いだレポーター遺伝子(β-globin遺伝子)をNIH3T3細胞に導入し、血清刺激により遺伝子産物を一過的に誘導した後、そのmRNAの残存量をノザンブロットにて測定することにより半減期を算出した。2)AUUUA配列結合タンパク共役因子群の検索:AUUUA 配列上に形成される複合体の構成因子を明らかにする目的で酵母を用いたTwo-hybridシステムを導入し、AUF2をbaitにしてヒト脳由来cDNAライブラリーからTwo-hybridスクリーニングによりAUF2とタンパク-タンパク相互作用する共役因子を検索した。3)AUUUA配列結合タンパク共約因子の機能解析:(2)のTwo-hybridスクリーニングによって得られたAUF2結合因子をコードするcDNA断片を用い、ヒト脳由来 cDNAライブラリーから全長cDNAを取得した。得られた全長cDNAを(1)のin vitro mRNA分解活性測定系に導入し、因子の存在下あるいは非存在下においてレポーターmRNAの半減期を測定することによりmRNA分解制御に対するその因子の関与を検討した。更に因子の存在下においてステロイドホルモン存在下および非存在下でも同様にレポーターmRNAの半減期を測定し、ステロイドホルモンの影響も併せて検討した。
著者
加藤 茂明
出版者
東京農業大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

ステロイド・甲状腺ホルモン核内レセプター群はリガンド依存性転写制御因子であり、リガンドである脂容性ホルモン及び脂容性ビタミンの信号を遺伝情報に伝達する。このような核内レセプターを介する情報伝達系は組織の分化・増殖に代表される高次生命現象の制御に中心的な役割を果たしている。従ってこれら核内レセプター群の共通する情報伝達経路や各レセプター固有の情報伝達経路間でのクロストークを明らかにすることは核内レセプターを介する情報伝達機構を知る上で必須の課題である。核内レセプター研究に標的遺伝子組換え技術が導入された結果、当初予想もされなかったレセプターの機能が浮き彫りにされるようになってきた。そこで当研究室ではVDR遺伝子欠失マウスを作製した。1)VDR遺伝子欠失マウスの作製 VDR遺伝子欠失ホモ接合個体を作製した。続いて常法に従い標的遺伝子のゲノム解析や発現量を解析している。またVDR欠失に伴い現われる骨組織や、腎臓での機能障害を調べる。また発生初期や胎児での骨形成について詳細な解析を加える。2)RXR-VDR2重欠失マウスの作製 RXR、VDRホモあるいはヘテロ結合個体を交配させることでRXR-VDR2重欠失マウスを作製する予定である。RXRβ,γ欠失マウスは既にフランス・ルイパスツール大・医・P. Chambon教授より供与された。
著者
加藤 茂明
出版者
東京農業大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1994

核内受容体による転写制御を分子レベルで明らかにすることを目的に複数の視点から解析を進めた。1)核内受容体の組織特異的転写調節機構の解析核内受容体のAF1の活性は一般に組織特異的かつ構成的であるが、この機構を明かにする目的でこの領域をリン酸化するキナーゼに着目した。今回は、AF1のリン酸化が転写活性を調節することが明らかにされERAF1のリン酸化について詳細に解析した。まずリン酸化部位がMAP kinaseのコンセンサス配列であることから、大腸菌で大量合成したERのAB領域タンパクを用いアフリカツメガエル胚より精製した活性型MAP kinaseによるリン酸化を検討したところ、セリン118が特異的にリン酸化されることを見いだした。次にリン酸化の転写活性への効果を検討する目的で、MAP kinaseの上流に存在するRas cDNAを導入したところ、AF1の転写促進能が増強されることがわかった。2)核内受容体の標的配列認識の特異性AGGTCAモチーフはレチノイン酸(RAX,RXR)、ビタミンD(VDR)、甲状腺ホルモン(TR)受容体の標的エンハンサー配列の基本モチーフであり、2個のDirect Repeat型(DR)のAGGTCAモチーフ間の距離を変えることで、標的特異性が生じる。今回はこのモチーフを3個並べた時のDRの標的特異性をCAT assayと精製受容体を用いたin vitro DNA結合実験により調べた。その結果モチーフを3個並べた時には従来報告に有るような標的特異性は消失することがわかった。この他にもいくつかの標的遺伝子のリガンド応答配列の同定、性状を明らかにした。
著者
加藤 茂明
出版者
東京農業大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

ステロイド、甲状腺ホルモン核内レセプター群はリガンド依存性転写制御因子であり、リガンドである脂溶性ホルモンおよび脂溶性ビタミンの信号を遺伝情報に伝達する。このような核内レセプターを介する情報伝達系は組織の分化、増殖に代表される高次生命現象の制御に中心的な役割を果たしている。本研究では核内レセプターによる転写制御を分子レベルで明らかにすることを目的に複数の視点から解析を進めた。1)核内レセプター転写促進に関わる共役転写因子の検索および同定核内レセプターには転写を促進する領域が2箇所存在(AB,E領域)し、各々組織特異的な機能を有することが知られている。そこでビタミンD(VDR)、エストロゲン(ER)、アンドロゲンレセプター(AR)のAB,E領域を酵母転写制御因子GAL4のDNA結合領域に連結し、このキメラタンパクを用い、各領域特異的に作用する共役転写因子をYeastを使ったtwo hybrid systemにより哺乳類cDNAライブラリーから検索した。その結果各々有望な10数個のクローンを得ることに成功した。現在これらクローンについて解析を加えている。2)核内レセプターと基本転写因子との相互作用の検討上記のGAL4とのキメラタンパクあるいはfull length VDR, ER, ARやその欠失タンパクを大腸菌発現ベクターに組み込み、各種タンパクの発現に成功した。また既に得られているTFIIBタンパクとの相互作用を検討する系の確立を行なった。
著者
加藤 茂明
出版者
東京農業大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1993

核内受容体による転写制御を分子レベルで明らかにする目的で以下の2点に絞り研究を進めた。1.核内受容体標的エンハンサー配列認識の特異性と非特異性我々はすでに従来より知られてきたコンセンサスエストロゲン応答配列(ERE)とは全く異なるタイプのERE(OV-ERE)が、主要卵白タンパクであるオバルブミン遺伝子プロモーターに存在することを証明した。OV-EREでは多くの核内受容体の標的結合部位であるAGGTCAモチーフが計4個互いに100bp以上も離れて存在していた。そこで、ERのOV-ERE認識の特異性を検討する目的で、2個のAGGTCAモチーフ間のスペースが離れた配列への各核内受容体(VDR,TR,RAR,RXR)の標的特異性を調べた。その結果、2つのモチーフ間のスペースが狭い場合には標的特異性が現れるのに対し、スペースが広い(10bp)場合には、特異性が消失することを見出した。また、この際、DNAに高次構造の変化が生じることも見出している。2.核内受容体群の発現調節レチノイド受容体(RAR,RXR)遺伝子群の発現に及ぼすビタミンA、ビタミンD、甲状腺ホルモンの効果を調べた結果、RXRbetaは正、RXRgammaは負に甲状腺ホルモンによって制御されることを見出した。このことは、核内受容体遺伝子自身の発現が関連するリガンドによって制御される複雑なネットワークが存在することを示したものである。
著者
加藤 茂明 今井 剛
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

ステロイド・甲状腺ホルモン、ビタミンA・D核内レセプタースーパーファミリーは、リガンド誘導性転写制御因子であり、リガンド結合依存的にリガンドのもつ信号を遺伝情報に伝達する。核内レセプターが基本転写因子群とともに転写を促進する際には、これら2者間を機能的に介在し、両者に直接結合されている転写共役因子群の存在が知られている。更に現在までに同定されている転写共役因子と核内レセプターの相互作用は、リガンド活性とほぼ相関することもわかっている。そこで本研究では、核内レセプターによる転写促進能の分子メカニズム解明を目的に、核内レセプターと相互作用する新規共役因子を検索した。またリガンド結合によるレセプターの立体構造変化の可能性についても探った。その結果、ビタミンDレセプター(VDR)に特異的に相互作用する転写共役因子の同定に成功した。これらの因子は核内カルシウム結合タンパクであり、またVDRとの相互作用はカルシウム存在量によって左右されることがわかった。現在これら新規因子と、既に同定されている共役因子群との相互作用についても現在解析しているところである。また同様にエストロゲンレセプター、ミネラルコルチコイドレセプターとの共役転写因子群の同定を急いでいる。またエストロゲンレセプターのリンガド結合による構造変化を調べたところ、レセプターN末端とC末端が、リガンド依存的に相互作用し、かつこの相互作用には共役因子が関与することが明らかになった。
著者
加藤 茂明
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

脳神経の可塑性は数多くの要因によって引き起こされている。その1つに脳の男性化と女性化を引き起こす性ホルモンが挙げられる。性ホルモンであるアンドロゲン(男性ホルモン)やエストロゲン(女性ホルモン)はこのような脳の性分化のみならず、性行動など脳の高次機能にも重要な働きをすることがわかっている。これら性ステロイドホルモンの分子作用メカニズムは、これらのホルモン特異的な核内レセプターを介した標的遺伝子群の発現制御であることがわかっている。そこで本研究では神経可塑性をステロイドホルモンによる脳の性分化という側面から捉え、まず脳で特異的に発現し、性分化を規定すると想定される性ステロイドホルモン1次応答標的遺伝子群の検索・同定を試みた。具体的には周生期もしくは性ステロイドホルモン処理したラットを用い、脳からホルモンに応答する遺伝子cDNAを、PCRを利用したDifferential Display法にて検索し、有望な数クローンを得た。現在これらcDNAクローンの全長cDNAの単離、及びこのcDNAクローニンがコードするタンパクの性状を解析しているところである。またこれらのクローンした因子の中で、特に脳の高次機能に関与していると想定されるものについては、ノックアウトマウスの作出を行い、in vivoでの機能を同定する予定である。一方昨年度、従来のエストロゲンレセプター(ERα)に加え、第2のER(ERβ)が発見されたため、脳内での各部位でのERα、ERβの発現を調べた。その結果、ERβは大脳皮質など、"新しい脳"に、ERαは下垂体など"古い脳"に発現していることがわかった。
著者
加藤 茂明
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1997

本研究では以下の4点に焦点を当て、核内レセプターの高次機能を明らかにする目的で標的組換えマウスを用い解析を行った。また核内レセプターの細胞核内での機能を明確にする目的で、核内レセプターのリガンド結合による構造変化の解析、及びこの変化を認識する共役因子の同定を行なった。1)脂溶性ビタミンレセプターの高次機能の解析:脂溶性ビタミンDレセプター(VDR)は1種、ビタミンAには6種のレセプター(RARa,b,g及びRXRa,b,g)が存在する。VDRはホモ2量体もしくはRXRa,b,gのいずれかとヘテロ2量体を形成し、ビタミンD標的遺伝子の転写を制御する。このVDR KOマウスは授乳期以降にのみ障害を示すことが明らかになった他、性生殖系に障害がみられ、全く予期されなかった表現型がみられ更に解析を進めた。2)核内レセプターのリガンド結合による構造変化:核内レセプターはリガンド結合により転写促進能を得るが、この際レセプターの立体構造変化を伴うと考えられている。特にレセプターN末端とC末端に存在する2箇所の転写促進領域はリガンド結合依存的な機能上の相互作用が予想されている。そこでERのAF-1、AF-2の相互作用をyeast、mammalian two-hybrid法にて検討し、さらに相互作用する領域を同定した。3)核内レセプターの共役転写因子の検索:ER、VDR、アンドロゲンレセプター(AR)、ミネラルコルチコイド(MR)のAF-1、AF-2をプローブに、yeast two-hybrid法にて各種cDNAライブラリーから共役因子を検索した。特にER、ARのAF-1蛋白を細胞内で大量発現させ、結合する核内因子を生化学的に精製した。4)細胞周期と核内レセプター機能との相関:ER及びARの、AF-1とAF-2への細胞周期特異的なキナーゼ(サイクリン/CDK等)によるリン酸化の可能性を探った。
著者
加藤 茂明
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1997

本研究では神経可塑性を性ステロイドホルモンによる脳の性分化という側面から捉え、以下の3点に焦点を当て、特に脳で特異的に発現する性ステロイドホルモンの1次標的遺伝子群の検索を試みた。1)脳内で特異的に発現する性ステロイドホルモン標的遺伝子群の検索:出生直後の実験動物に大量の性ステロイドホルモンを投与すると、その後の性行動に性転換が見られる。そこでこのような性ステロイドホルモンの効果が見られる胎児あるいは出生直後のラットを用い、大量の性ステロイドホルモン投与直後の脳より、急速に誘導される標的遺伝子群をDifferential Display法(D.D.法)にて検索した。同時にこの時期での野生型ラットを用い、雌雄いずれか特異的に発現する遺伝子を同様の手法で検索した。得られたcDNAクローンは定法に従い、コードするタンパクの機能や脳内での局在をin situ法などにより調べた。2)新たなエストロゲンレセプター(ERβ)の脳での発現部位の同定:既知のエストロゲンレセプター(ERα)の発現部位は、視床下部、下垂体等に限定されており、内分泌系でのエストロゲン作用を裏付けるものであった。そこで既にPCR法によって取得したラットERβcDNAを用い、脳の各部位での発現を検討した。3)脳特異的な核内レセプター共役転写因子の検索:核内レセプターは転写制御因子として作用する時には、いわゆる共役転写因子とともに転写制御を行うと考えられる様になってきている。そこで脳特異的な核内レセプター共役因子を、ER及びアンドロゲンレセプター(AR)をプローブに酵母two-hybridシステムにより脳由来cDNAライブラリーより検索した。
著者
加藤 茂明
出版者
東京農業大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

ステロイドホルモン核内受容体群はリガンド誘導性転写制御因子である。ステロイドホルモン作用発現を理解する上で、これら受容体の性状を明らかにすることは必須の課題である。特に核内受容体の主たる機能である転写促進能の機構は、主としてトランスフェクション転写系により詳細な解析が行なわれてきたが、今尚不明な点が多いのが現状である。特に核内受容体の標的エンハンサーは数多くのコンセンサス配列の同定が行なわれてきたが、核内受容体タンパク群の共通機能の理解に比較し、今だに統一的な法則が得られていない。我々はすでにオバルブミン遺伝子5′上流に新しいタイプのエストロゲン応答配列(OV-ERE)を見出した。OV-EREは、従来知られていたエストロゲン応答配列とはDNA構造が大きく異なりむしろレチノイン酸(RAR、RXR)、ビタミンD(VDR)、甲状腺ホルモン(TR)受容体の標的配列に近い構造であった。そこで本来のOV-ERE配列とともに合成DNAを用いた人工的な配列を用い、エストロゲン受容体(ER)、RAR、RXR、TR、VDR、による転写促進能を調べた。その結果従来より知られていたコンセンサス配列の他に、TRを除く他の核内受容体すべての標的エンハンサーになりうる配列を見出した。これらの知見が、トランスフェクション転写系(CAT assay)によるものであったので、次にin vitro DNA結合実験(ゲルシフト法)により受容体とDNAとの結合能を調べた。その結果転写促進能とほぼ比例して各受容体はDNAと結合することがわかった。以上の結果からある種の標的エンハンサーは一種の受容体のみならず複数の受容体によりその機能が調節されることがわかった。このことは、ステロイドホルモンや脂溶性ホルモン間のクロストーク機構の一端を明らかにするものであった。
著者
杉ノ原 伸夫 尹 宗煥
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1987

暖かい海水で満たされている南, 北両半球にまたがる海洋が, 南半球の南端域で冷たい水を形成することによって, どのように冷やされるかを調べることにより, 深層循環の基本的力学の理解を図った. 深層循環を水平対流として考えることにより, 形成される冷たい水がそれ自身の力学によってどのように深層湧昇を形成するかを理解しようとするものである. 海面では全海洋一様に暖めた. 太平洋を対象としたモデルであり, 以下のような知見が得られた.1.海洋の冷却は, 形成域から冷水がポテンシャル渦度を保存しつつケルビン波形の密度流となってもたらされることから, 赤道域及び東岸域の深層部から始まる. この東岸域の冷水は, ロスビー波型の密度流として内部領域に極向き流を形成しながら西に進み, 西岸に達して, 北半球には北向きの西岸境界流を形成する. このようにして赤道を横切る境界流が形成され, 効率よく北半球が冷やされるようになる. 北半球の北半分に反時計回りの循環が, 東岸, 北岸に沿って進ケルビン波の公課によって形成される.2.残りの海洋は内部領域及び沿岸での湧昇によって深層からより浅い層へと冷却されていく.3.上記過程において, 冷たい水がまわりの暖かい水と混合することによって温度躍層が深層域まで広がる傾向がある. これにより, 深層にも顕著な鉛直構造が存在するようになり, 求まった水平循環パターンは最深層部のみがストメルのものとなる.4.赤道域の冷え方はそれ以外の海域と異なり, 赤道に沿った東西流に"ZIGGY"構造が見られるように, 鉛直高次モードの運動が卓越する.5.循環の強さは, 等温面に直交する意味での鉛直拡散の効果に大きく存在しており, この効果が大きい程循環が活発になる.
著者
萬代 忠勝 忍足 鉄太
出版者
倉敷芸術科学大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

タキソ-ルは水への溶解度が極めて低いため、点滴として使うためには可溶化剤の使用が不可欠であること、またその可溶化剤の副作用が問題であることなど、克服すべき課題は多い。タキソ-ルの水溶性を上げる手法として、水酸基に糖を連結する方法が考えられる。しかし、一般的な配糖化法では糖の1位の水酸基を他の官能基に変換して活性化しなければならないうえに、各種のルイス酸を使用する必要がある。ルイス酸を使うことによって、酸に不安定なオキセタン骨格が開裂したり、バッカチン骨格の転位等が起こる恐れがあることから直接的な配糖化法を回避し、タキソ-ルの水酸基をエステル化することによって糖を連結する新規配糖化法を採用することとした。糖を有するグリコール酸(アシル化剤)は短工程で収率良く調製できる。グルコースの他に、ガラクトース、マンノース、キシロースからも同様のアシル化剤を調製した。つぎにエステル化でパクリタクセルの7位に連結することによって7-GLG-PT,7-GAG-PT,7-MAG-PT、7-XYG-PTを合成した。また、側鎖の2′位にグルコース由来のアシル化剤を連結した2′-GLG-PT,2′,7-GLG-PTも合成した。いずれのタキソ-ル誘導体の水溶性は、タキソ-ルを上回る結果を示した。特に、7-MAG-PTはタキソ-ルに比べて260倍の水溶性を示すことが判った。
著者
平田 彰 常田 聡
出版者
早稲田大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1997

写真関連産業での現像液や定着液の使用状況・使用工程を調査し,排出の削減・防止策を提出することを目的として研究を行った。本年度は特に定着廃液を取り上げ,その物質フローの解析と再生技術の評価を行った。また,写真廃液の生物処理を実際に行い,写真廃液中に含まれる成分の生分解性を明らかにした。定着液の再生の際に必要となるのが(A)脱銀,(B)界面活性剤等の除去,(C)ハロゲン除去,(D)成分調整である。このうち,(A)および(C)の工程が必要なのは,銀,ハロゲンの残存によって定着速度が遅くなるからである。また,(B)は(C)のハロゲン除去を妨害するためである。各工程での必要技術は以下の通りであることがわかった。(A)廃液の再生に適している脱銀方法は,添加物や溶出物がない電解法である。電解法により脱銀を行うときは,電位の制御により硫化銀の生成を抑え,陰極室と陽極室をイオン交換膜等で分離して硫黄の生成を抑制する必要がある。(B)界面活性剤,現像主薬酸化物等は活性炭吸着あるいは膜分離法により除去することが望ましい。(C)硬膜剤として含まれるアルミニウムイオン(3価)や,ハロゲン化銀溶解剤として含まれるチオ硫酸イオン(2価)は保持し,ハロゲンイオンのみを除去するために1価選択性イオン交換膜を用いて電気透析を行う。(D)最後に成分の調整をする際,pHや各々の成分には最適な値が存在する。さらに,混合培養系で長期馴養した微生物群を用いて,写真廃液を生物分解した結果,1,000ppm程度のTOC成分が残存した。写真廃液を生物処理のみで完全無害化するためには,難生分解性の有機化合物(EDTAなど)を分解する特殊な細菌が必要であることが示唆された。
著者
林 利彦 大和 雅之 水野 一乗 今村 保忠
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1997

生体の器官・組織のインフラストラクチャーはコラーゲンの傾斜構造で骨格が形成されている。血管壁では血管の内皮からコラーゲンについてはIV型コラーゲン、V型コラーゲン、III型コラーゲン、I型コラーゲンの傾斜になっている。細胞の種類についても、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、線維芽細胞の傾斜がある。コラーゲンの傾斜構造に沿って、異なる細胞が配置されていることが多細胞系の機能発現・恒常性維持に関係する可能性がある。本年度はIV型コラーゲンゲルを培養基質として、ラット肝星細胞(初代細胞)、ヒト大動脈平滑筋細胞、ヒト腎糸球体メサンジウム細胞、継代したラット肝星細胞の挙動を検討した。比較にI型コラーゲンゲル等を用いた。星細胞はI型コラーゲンゲル上では二極性を示し、IV型コラーゲンゲル上では細胞は星形の形態を示した。IV型コラーゲンゲルにおいては細胞は互いに突起の先端同士で、接合しており、生体内での形態と類似していた。細胞はIV型コラーゲンゲル上では増殖しなかった。培養皿上で継代培養したラット肝星細胞は培養の早期から増殖能を発揮する。このように変化し、ミオフィブロブラスト様になった星細胞はIV型コラーゲンゲル上では増殖が抑制された。肝臓星細胞と共通の性質を有するといわれる血管平滑筋細胞、腎糸球体メサンジウム細胞でも同様にIV型コラーゲンゲル上では、細胞の形態、細胞間の接合および増殖の抑制が見られた。血管内皮細胞はIV型コラーゲンゲルに接着はするものの伸展は殆ど見られなかった。IV型コラーゲンゲルは細胞基質として特異の特徴を有し、生体内での細胞分化に重要な役割を果たしている可能性がはじめて示された。
著者
佐藤 文隆 山田 良透
出版者
京都大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1991

我々は、超新星エジェクタの中での物質混合の数値シミュレ-ションを軸対称及び三次元で行ってきた。この現象は細かい構造の形成が現象の定性的性質にも影響し、解像度の高い計算が要求される。従って、メッシュ数の少ない三次元計算よりも軸対称を仮定したメッシュ数の多い計算の方が信頼性の高い結果が得られている。本年度は軸対称計算のより多くの異なった初期揺らぎによる計算を行い、物質混合の程度の初期揺らぎによる依存性をしらべた。その結果からエジェクタ中で起こるの物質混合の程度についての定量的な評価を数値結果から解析的に得ることに成功した。エジェクタ中に大規模な物質混合が起こるかは密度分布に急激なとびがあることが本質的である。しかし、次の点で初期揺らぎの存在する位置が重要である。超新星のprogenitorモデルには二つの密度ギャップがあるが、内側の密度ギャップに初期揺らぎが存在しても外側の密度ギャップにブラストショックが衝突したときに発生するリバ-スショックが内側の揺らぎを抑えてしまう。これはRichtmeyerーMeshkov不安定性として知られている不安定性が逆に働いているとして定量的に説明可能である。従って、外側の密度ギャップに初期揺らぎが存在することが、観測されているエジェクタ中での大規模な物質混合を引き起こすために本質的であることが明らかにされた。
著者
小山 省三 羽二生 久夫 宮原 隆成 芝本 利重 重松 秀一
出版者
信州大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1997

複合材料は人などの生活空間に用いる際には勿論のこと、腎不全、心不全、肝不全等の生体の機能不全を改善する目的で利用されるさいには、これらの複合材料による生体側の防御反応としての、免疫アレルギィー反応を含めた炎症反応の出現の有無が、それらの素材開発と応用に重要な要因となることは当然のことである。しかしながら、それらの複合材料を受け入れる生体側での反応性に関して古典的であるにもかかわらず炎症防御反応の根源的な検討が、同一施設において、比較検討された報告は少ない。本研究では、各種のピッチ状活性炭(FL-1)をマウスの皮下に埋没し、6ヵ月間にわたって免疫リンパ球の変動並びに病理組織学的な反応形態の変化を検討し、複合素材としての活性炭の生体防御系に対する妥当性についてアスベストと比較検討した。実験には4週齢系統std:ddYマウスを3群に分けた。実験に用いた活性炭はピッチ系活性炭繊維のうち直径が通常のものの約10分の一である極細系のFC-1を用いた。またアスベストを比較材料として用いた。本年度成績ではアウベストの生体適合性は極めて悪く、皮下に埋没後1ヵ月後にはすでにラングハンス細胞の出現や慢性炎症所見を示すとともに、免疫担当血液細胞のバランスもすでに1ヵ月後には変化していた。さらにこの慢性炎症所見は時間の経過とともに進行性であり、生態的合順応とは逸脱した生体反応を時間変遷とともに発現していることが推察される。すなわち、また、新規な炭素素材であるFC-1の生体適合性を検討したが、6ヵ月間の観察経過で組織炎症反応の発現は究めて軽度であり、進行性の慢性炎症所見はいずれの期間においても認め難いことが特徴的な所見であった。今後、予想することができる生産から廃棄までの生産者側の環境要因、また不確定多数の利用者側の状態要因に対応した生体適合性の検討が逐一なされるべきであることを本年度研究のまとめとして指摘しておきたい。
著者
杉野 明雄 川崎 泰生
出版者
大阪大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

本研究では、遺伝学が進んでいるショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)を用い、DNAポリメラーゼε遺伝子が高等動物や酵母と同様に存在することを証明し、このポリメラーゼの細胞内での役割を分子遺伝学的に明らかにする。出芽酵母及び分裂酵母DNAポリメラーゼII(ε)触媒活性蛋白の遺伝子間でアミノ酸配列が一致する部分で、別のDNAポリメラーゼ間(I(α)やIII(δ))では保存されていない部分のアミノ酸配列をもとに混合オリゴヌクレオチドを合成した。これらをプライマーとしてショウジョウバエ、カントンS株初期胚より調製した全RNAを鋳型としてcDNA-PCR法によりDNAポリメラーゼε遺伝子の一部を増幅した。このように増幅したDNA断片がショウジョウバエのDNAポリメラーゼε遺伝子の一部であることを大腸菌プラスミド中にクローン化し塩基配列を決定した。こうして得た塩基配列より予想されるアミノ酸配列は出芽・分裂両酵母DNAポリメラーゼII(ε)蛋白のアミノ酸配列に非常に似ていた(DNAポリメラーゼドメイン内では>60%のアミノ酸は三者間で同一であった)。またそれらの配列間では殆どアミノ酸の挿入、欠失なしにアミノ酸配列のアライメントを行なうことができた。これらのことは増幅したDNA断片がショウジョウバエDNAポリメラーゼε遺伝子の一部であることを強く示すものである。この遺伝子はショウジョウバエ染色体の3R94E〜95Bの領域にマップされ、単一の遺伝子であることが強く示唆された。上記のcDNA-PCR法により、この遺伝子のmRNA量を発生・分化の各段階でどのように変化しているかを調べた。この結果より、この遺伝子は発生段階の初期、特に初期胚及びLeavaで発現しており、Pupaやadultでは全然発現していないことが明らかになった。これらの結果は、ショウジョウバエDNAポリメラーゼεは酵母同様、主にDNA複製に関与していると考えて矛盾がない。
著者
永井 實 天久 和正 儀間 悟 長田 孝志
出版者
琉球大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1997

本研究は小型火力発電システムに,海水淡水化装置及び製塩プラントを組み合わせた「一石三鳥」システムの考案に基づき,そのフィージビリティースタディを行おうとするものである.従来は互いに独立であった発電,海水淡水化及び製塩システムを一体化することにより,トータルの熱効率が飛躍的に改善され,ほぼゼロエミッションを達成することは自明のように思われるが,ボイラタービンの材料選択など技術的に克服すべき課題が山積している.本年度は海水用蒸発ボイラの設計仕様の完成と製作に取り組んだ.そのためにまずボイラに見たてた容量3リットルの広口瓶と500W電熱ヒ-タを用いた海水蒸発予備実験を行った.その結果蒸留効率90%で塩濃度1ppm以下の蒸留水を得ることができ,広口瓶下部では飽和塩水(28.2%)から連続的に塩が析出、堆積することを確認できた.予備実験の結果と熱収支計算に基づき,研究室レベルで実験可能な小規模の海水濃縮用ボイラを設計・製作した.蒸気条件は10bar,240℃,流量21.7kg/hであり約1.5kWの蒸気タービンを駆動することができる.ボイラ形式は炉筒煙管型で,生成飽和蒸気を後部煙室で過熱する過熱器一体型である.同ボイラの特徴は,ボイラ胴の下部に塩を析出促進させる温度成層二重管を備えている事である.外観状部に新鮮海水をいったん貯溜し,内部管の濃縮海水を冷却する.使用燃料は灯油で,過熱器をふくめた設計ボイラ効率は80%とした.ボイラは外注により年度内に完成させ,実験室への搬入,設置を行った.なお上記海水濃縮用温度成層ボイラは新型ボイラとして大学へ発明届けと任意譲渡の申し出を行い,現在手続き中である.
著者
海老瀬 潜一 井上 隆信
出版者
摂南大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

水田群から排出された農薬・栄養塩・耕土は,下流域生態系や水環境への微量化学汚染・富栄養化をもたらし,資源の無駄使いともなっている。茨城県内の霞ヶ浦流入河川の恋瀬川流域における水田群を対象とした流出特性の詳密調査から,これらが用排水管理の不十分さや農薬・肥料等の肥培管理や移植作業の省力化等に起因することを裏付けた。特に,この流域内では兼業農家のウエイトが大きいために,代掻き・水稲移植作業がゴールデンウイ-ク中に,除草剤の農薬散布がその1週間後の休日に集中した。その結果,空中散布の場合と同様に,農薬・栄養塩の高濃度・高負荷量現象が出現した。それも,集中した除草剤散布後の数日間内に豪雨があれば,その高濃度・高負荷量の傾向がさらに顕著となった。効果的な農薬・栄養塩・耕土の流出や制御や抑制管理のために,個別水田で異なる用排水管理手法二よって,農薬・栄養塩の流出特性の詳細な実態調査を実施した。水田群内における無農薬栽培水田では,他の水田から排出された農薬で高濃度になった河川水を用水とし,ほとんど検出限界以下の濃度まででの浄化して排出することを確認した。当該水田では散布されなくて他の水田で散布された農薬が用水として流入する場合も,同様にほぼ検出限界以下にまで浄化して排出されていた。流域内で同時期に多く施用される農薬は,下流側水田で浄化されると期待することは難しく,上・中・下流ともほぼ同じ濃度,かつ,同じ流出率で流下していた。したがって,農薬散布作業の時期的集中をやめて分散化(したがって,水稲移植作業も分散化)するほか,同一種の農薬の施用を避ける,降雨が予想される数日前には農薬散布をしない,等がまず必須である。その上で,灌漑用水の多重使用で排水の浄化を行うとともに,無農薬・減農薬栽培水田や休耕田の下流側立地という樓み分けによって,水田群システムとして浄化を全うする等の立地規制が根本的には必要と考えられる。