著者
藤本 和貴夫
出版者
大阪大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1997

本研究はチェチェンを除けば最も中央と対立しているとされる沿海地方の政治と中央権力との関係、および地方の動向が中央政治におよぼす影響を解明することにある。ロシア沿海地方におけるナズドラチェンコ知事の立場は強力である。94年10月に始まる第1期沿海地方議会選挙では25%以上に達した選挙区が少なく、1年たっても全議員の選出が終わらなかったが、当選者の圧倒的多数は企業・組織の長と行政長官=知事の任命した行政の長であった。その結果、沿海地方には行政府が圧倒的優位性をもつ政治体制が創りだされた。さらにナズドラチェンコは95年12月に、初めて知事選を実施し圧勝した。議会は行政のチェック機関の役割を果たさなくなった。他方、ナズドラチェンコは中口東部国境線確定交渉でロシア領が中国に引き渡されるとして反対し中央と激しく対立した。97年3月の内閣改造でチュバイスとネムツォフが第1副首相に任命されると、中央は沿海地方の燃料エネルギー危機と予算の目的外支出疑惑のキャンペーンを大々的に行った。そして沿海地方の社会的経済的混乱の責任をとって知事の退陣を迫ったが、選挙で選出された知事=連邦会議(上院)議員を解任することは不可能であった。このような混乱状態は12月7日に第2期沿海地方議会の選挙が実施され正常化に向かった。この選挙から公的な職務についた人間の議員との兼職が禁止され、その結果行政関係者の候補者が激滅した。前議員のうち再選されたのは4人にすぎず、議長をはじめ大物議員の多くが落選した。そして当選者の多くを経済界代表が占めた。株式会社(公開型・非公開型)と有限会社の関係者のみで16人を数える。議会は官僚主導型から経済界主導型へ移行し、市場経済の進行の政治への影響が見られる。また97年11月に北京で中口共同宣言が署名され国境線確定問題が決着したが、地元の反対にもかかわらずロシアが領土の一部を中国に引き渡したことは注目されてよい。
著者
宮崎 譲
出版者
東北大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

Bi_2Te_3系熱電材料の使用可能な温度域を拡張し、高効率な熱電変換素子を実現させるために、キャリア濃度を傾斜させた材料の開発が期待されている。これまで、バルクについて多くの報告があるものの、薄膜の傾斜機能化に関する報告はなされていない。電解析出(電析)法は、室温近傍で金属相を得ることができ、また電析膜の組成や粒径を容易に制御することが可能な合成法である。さらに、装置が簡単で、任意形状試料の作製が可能などの特徴を有していることから、II-VI族化合物半導体膜の合成にも適用されつつある。Bi_2Te_3膜についても最近になって合成に関する報告がなされたが、電析膜の組成に最も大きく影響する析出電位と生成膜の組成や物性値の関係については調べられていない。本研究では、キャリア濃度(組成)が連続的に変化したBi_2Te_3系傾斜機能膜を作製するための基礎データを得ることを目的とし、BiおよびTeイオンを含む硝酸水溶液中で電流-電位曲線を作製して、Bi_2Te_3膜の得られる電位範囲を明らかにすることを試みた。続いて、その析出電位範囲内で、電位と得られた膜の組成、格子定数の関係を調べるとともに、膜のゼ-ベック係数を測定した。ポテンショスタットを用いてTi電極上に3電極方式で電析を行ったところ、-0.25〜+0.08V vs Ag・AgClにおいてBi_2Te_3の単相膜が得られた。析出電位の減少とともにBi_2Te_3のa軸長が増加し、逆にc軸長は減少する傾向が見られたことから、析出電位を変化させるにより膜の組成を制御できることが明らかになった。+0.02Vを境にこれより貴な電位ではn型膜が、卑な電位域ではp型膜が生成した。これまでのところ、物性測定が可能な緻密な膜は+0.02V近傍で合成された低キャリア濃度のものに限られており、ゼ-ベック係数の最高値は+0.04Vで作製された膜の-63.4μVK^<-1>(300K)である。
著者
小林 重雄 肥後 祥治 加藤 哲文
出版者
筑波大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

自閉症児は他者との間で社会的相互作用をもつことを困難としている。これは,他者から発せられる刺激が,強化刺激として機能していないことが第一の原因であると考えられる。つまり,自閉症児に社会的行動をとらせるためには,単純に必要とさせる社会的技能を形成するだけでは不十分で,他者とのやりとりが強化的(楽しい)になる必要がある。本研究では,自閉症児2名を対象として,大人との間の社会的相互作用を社会的強化刺激として機能させるために必要な条件の分析を行った。訓練は,要求文脈利用型指導手続きを用いた。具体的には,子どもの要求が生起しやすいような環境設定を準備し,要求が生起した場合にはすぐに訓練者がその要求を充足する手続きを繰り返し実施した。例えば,棚の上に自閉症児の好きなお菓子を並べておいたり,ひとりでは遊ぶことが困難なおもちゃを床の上に並べて置くなどの操作である。その結果,対象となった自閉症児は,単に要求的な反応を生起させるだけでなく,大人との間で社会的相互作用を求める反応が生起するようになった。つまり,大人に対して特定の物品や遊びを要求するのではなく,大人の注目そのものを求めるような反応が生起するようになった。これは,先行研究で示されているように,1次性強化刺激である要求対象物と,大人の発する刺激(中性刺激)とが対提示されることにより,大人の刺激が条件性強化刺激としての機能を獲得したためであると考えられた。
著者
梅村 晃由 松本 昌二
出版者
長岡技術科学大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1987

豪雪都市において, 雪害を経済的に評価する根拠を確立するために, 都市のある地域で, ある時刻に何円の損害が生じているかを雪害度と定義し, これを積算する方法を先に提案した. 今回は, この方法を長岡市の代表的な商業地区, 工業地区および住宅地区に適用し, その有用性を検証した. このとき, 毎日の積雪の変化を推計するための除排雪分析法を導入し, 毎日の雪害度の変化を気象や除排雪作業の条件と関係づけて試算するようにした. 主な結果はつぎのようにまとめられた.(1)観測地点は, 2km×5kmの平坦な市街地の中にあるにもかかわらず, 自然積雪深には, 場所によってかなりの差がみられた. 一般に, 繁華街では積雪が少なく, これは地域暖房および自動車の排熱が融雪を促進しているものと考えられる.(2)商業地域では, 除雪が頻繁に行われ, 堆雪深は他の地域より低い状態に保たれた. このため除雪費用が高くなり, その分, 他の地域と比べて雪害度があがったと考えられる.(3)自動車および歩行者の交通量は, 全ての地域でほとんど積雪の影響を受けておらず, 商業地域では, むしろ自動車交通量が増加する傾向さえみられた. 一方, バイクや自転車は, 積雪深が増えるにつれて交通量が減少することがわかった. これより, 本年度のような小雪のときは, 有雪時と無雪時で道路の利用率の変化はなく, 除排雪に要する費用が雪害度の主要部分をなすことがわかった.(4)上記の結果は, 62年冬および63年冬のデータに基づいているが, この年はそれぞれ数年に1度, 2年に1度の小雪年であり, 雪害度の検証のためには, さらに, 大雪年についての調査が必要である.
著者
花見 仁史
出版者
岩手大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

我々は、γ線バーストのモデルとして磁気波動砲を提出した。シュワルツシルド時空での解析で、中性子星程度の重力崩壊の場合は、この磁気波動砲の電磁波の振動数は【similar or equal】c^3/2GM【similar or equal】10^5s^<-1>程度になることが明らかになっている。周囲にプラズマが少し残っているとプラズマ振動数(4πne^2/m)^<1/2>【similar or equal】9000n^<1/2>s^<-1>より低い振動数の電磁波は反射、吸収されてしまうので、n>10^2cm^<-3>のプラズマがあれば、最終的には、そのプラズマに大部分のエネルギーを渡してしまう。これが磁気波動砲の過程である。しかし、その詳細を理解するには、励起された電磁プラズマ波中での粒子加速過程を数値シミュレーションの手法を用いて調べる必要がある。現在、相対論的粒子プラズマの実空間1次元速度空間3次元コードにより、粒子と波の相互作用と粒子加速過程を調べた。これまでの準備的計算から定常波的なAlfven波が励起される環境では、順伝搬、逆伝搬、右偏光、左偏光の波が混じり合うことで、緩和過程がすみやかにすすみ、高いエネルギーの粒子を生成しやすい事が明らかになりつつある。
著者
花見 仁史
出版者
岩手大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

ソフトガンマ線リピーターについては、X線観測衛星'あすか'などによる対応天体の同定がなされた。それらの観測から明らかになったガンマ線リピーターの性質は次の4点にまとめられる。1)バースト源は、およそ数年おきに活動的になる。2)バースト源にはコンパクトな定常X線源が付随している。この定常X線源はパルサーに励起されていると思われる。3)この2つのコンパクト天体は、10^4年以下の年齢の超新星残骸中に存在している。4)このコンパクト天体の位置は残骸の中心からずれていることから、1000km/s程度の高速度で移動していると示唆される。我々は、この天体系が中性子星-(C+O)星の連星系のなれの果てであると考えた。我々のモデルでは、2)、3)は、(C+O)星が超新星爆発が起こし、新しい中性子星=パルサーになることにより、4)は、超新星爆発に伴う質量放出が、残骸と星との間に、この前駆連星系の高速度軌道運動に相当する相対運動を引き起こすことにより、1)は、爆発で放出された物体の一部が古い中性子星の周囲に捉えられ、小惑星形成などの過程を経て、突発的に古い中性子星に落下することにより、統一的に説明できた。しかし、ソフトガンマ線リピーターからのガンマ線は、普通の大他数のガンマ線バーストのものよりエネルギーが低いので、両者は起源が異なる可能性があり、上のモデルの適応範囲をガンマ線バースト全般に広げることに疑問が出てくる。さらに、ガンマ線リピーターはその光度がエディントン限界を越える活動を起こし、これは普通の降着過程などでは説明ができない。したがって、ガンマ線バーストの問題にも関わる物理過程として磁気波動砲モデルを提案して調べた。
著者
浅野 晃 篠原 進 村上 征勝 西島 孜哉 谷脇 理史 冨士 昭雄
出版者
共立女子大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

17世紀後半の作家井原西鶴の文学の魅力は、千変万化する語彙を縦横に操った新しい文体にあると言うことができる。処女作『好色一代男』(1682年刊)の冒頭部分「桜も散るに歎き、月は限りありて入佐山、友に但馬の国、かねほる里の辺りに‥‥」は、西鶴の個性的な文体の創造をみごとに示した好例である。ところが、現在、われわれは、西鶴語彙の索引を共有してはいない。本研究は、西鶴研究者が共同して、西鶴作品の語彙について、その統計分析のための基礎作業にとりくもうとしたものである。本年度の研究業績は、以下の2点にまとめることができる。(1)第1は、語彙をコンピュータ化するための実験、つまり、語彙を機械化するに当って、その可能な範囲を探る作業を開始したことである。まず、西鶴の代表作『好色一代男』『好色五人女』『日本永代蔵』をとり上げた。作品をデータ・ベース化し、研究会活動を通して、語彙の統計処理について、基本的な問題点を討議した。異体字や漢字の字体、仮名処理などの基本方針の方向を定め、コンピュータのいわゆる字書作りの作業に入ったのである。こうした作業と平行して、西鶴の全作品のデータ・ベース化の仕事も続行している。(2)第2の研究業績は、正確な西鶴作品を提供するための基礎作業に取りかかったことである。これは、最終的には、新しい『西鶴全集』の刊行に連なるものである。『定本西鶴全集』第1巻が世に出たのは、昭和26年8月のことであるから、それからすでに40数年の歳月が流れたことになる。現在の西鶴研究は、この全集を手懸りにして展開しているが、作品のテキスト研究も進歩を見せているので、現段階において、望みうる最高の西鶴全集と、西鶴語彙の総合索引を共有することになれば、西鶴研究はさらに大きな前進を見せることになろう。本研究は、以上の2つの分野において、基礎的な研究業績を築きはじめたものである。
著者
阿草 清滋 坂部 俊樹 小谷 善行 大岩 元
出版者
名古屋大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1991

より高度なシステムの仕様化を支援するために,継承により階層化された代数的仕様の直接実現による検証,代数的仕様の類似性の定義とそれに基づく仕様ベ-スについて研究を進めた.また,プログラム理解のモデルを定義することによりソフトウェアの開発・保守に有効なソフトウェアデ-タベ-スを開発した.その他,文書執筆協調作業の作業割当問題を定義し,その近似解を高速に求めるアルゴリズムを提案した.ユ-ザ主導の対話システムとして,自由知識獲得システム第2版の作成と評価を行った.これは対話を通しテフレ-ム構造の知識を集積していく創造性開発指向の教育ツ-ルである.また,ソフトウェア(要求)仕様獲得するシステムの概念設計を行った.これはこの自由知識獲得システムにソフトウェアや仕様の枠組みを与えたもので構成され,仕様を獲得するとともに,利用者に仕様を自動的に意識化・具体化させるものである.前年度に作成した仕様形成のためのカ-ド操作ツ-ルKJエディタのワ-クステ-ション版を完成させた.また,いくつかの機能拡張を加えたパソコン版を実際のソフトウェアの仕様作成に適用した.要求分析の途中経過を示すカ-ド配置は,思考過程の記録としてその内容を把握し易く,エディタが仕様作成のツ-ルとして有効であることが知れた.要求仕様の直接実行による検証の理論的モデルとして,動的項書換え計算(Dynamic Term Rewriting Calculus,DTRC)について研究をすすめ,停止性と合流性に関するいくつかの結果を得た.また,値表現の体系として項書換え系を含むCCSを提案し,テスト正確度という新しい概念に基づく意味論について検討した.さらに,ブロ-ドキャスト通信機構を持つ並行プロセスの体系としてCCS+bを提案し,並行演算,選択演算の結合則と可換則,ならびに,展開則が成立することを示した.
著者
田村 忠久
出版者
神奈川大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

本研究ではオーストラリアで稼働中の3.8m鏡のカメラに取り付ける集光器を開発した。まず集光器の形状をシミュレーションによって決めた。今回は反射面を曲面状にすることは考えずに、全面が平らなものを設計した。反射面の反射率を90%と仮定して、いろいろな形状についてシミュレーションを行った結果、1.8倍の光量を得られることが判った。はじめ、金属を打ち出して成形し反射面にアルミ蒸着を施すことを考えたが、打ち出し用の型代が予算に収まらないため、ABS樹脂を成形して表面に金属メッキを施すことにした。クロムをメッキしたABS樹脂の平板の反射率を測定したところ86%であり、シミュレーションの仮定をほぼ満たしていた。メッキ金属はクロム、ニッケル、スズ・コバルト合金が考えられたが、集光率はどれもほぼ同じであったので、生産の歩留まりや耐久性からスズ・コバルト合金を採用した。3/8インチ光電子増倍管に集光器を取り付けて光量を測定したところ単体での集光率は1.5倍であった。この集光器を16×16のマトリックス状に組み上げてオーストラリアの3.8mCANGAROO望遠鏡に取り付け、95年11月、12月にCrabの観測を行なった。Crabについては93、94年の観測で、エネルギー閾値7TeVでガンマ線を検出している。今回取り付けた集光器で光量が増加していれば、エネルギー閾値が下がってガンマ線の計数率が増えているはずである。95年の観測は天候状態が不安定であったため、Crab方向に雲がかかっている時間帯を除いた解析によって集光器の総合的な性能評価を行なわねばならず、現在その解析を行なっているところである。
著者
鏡味 洋史 鈴木 有 宮野 道雄 岡田 成幸 熊谷 良雄 中林 一樹 大西 一嘉 多賀 直恒
出版者
北海道大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

本研究では地震災害事象について発災を出発点とし、緊急対応、復旧対応、復興、そして次の災害に対する準備に至る時系列の中で、対象としては個人・世帯を出発点とし、地域社会、地域行政体、国、国際に至る空間軸でできる限り広く問題設定を行った。個別の災害情報管理の問題を情報の受信者である被災者・被災地の側からのアプローチと情報発信側となる行政体など各組織・セクターからのアプローチで展開し、情報管理のあるべき姿、ガイドライン構築を目指した。各分担課題は、全体の枠組みを整理するもの、情報システムの視点を被災者側におく課題、視点を対応組織の側におく課題の3種類に区分してすすめ、最終年度には研究の総括を行った。被災者側の視点からは、被災者の住環境からの情報ニーズの把握、災害弱者を対象とした情報伝達・収集システムの提案、郵便配達システムを活用した情報システムの提案、地域の震災抑制情報の有効性、住民主体の復興まちづくりにおける情報ニーズの把握がなされた。対応組織の側からは、地方行政体による被災情報の収集状況に関する時系列モデル化、地震火災については消防活動訓練システムの構築、災害医療情報については阪神・淡路大震災の事例を分析したシステム化の方向、ライフライン停止に伴う生活支障を計量化の提案、都市復興期における情報の役割、が明らかにされている。各課題では、既往の地震災害に基づく情報ニーズの整理、それに基づく情報管理のあるべき姿の提示、プロトタイプシステムの提案へ統一した形で進めた。課題によっては、問題の大きさ、複雑さなどにより到達度の差は大きいが、大きな方向を示すことができたと考えている。本計画研究は単年度の申請であるが継続して4年間研究を行い、最終年度には報告書の刊行を行った。
著者
三浦 房紀
出版者
山口大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1991

札幌市、仙台市、新潟市、福井市、千葉市、長野市、静岡市、高知市の道立、県立図書館を訪れ、戦後起った地震(1968年十勝沖地震、1982年浦河地震、1978年宮城県沖地震、1964年新潟地震、1948年福井地震、1987年千葉県東方沖地震、1984年長野県西部地震、1978年伊豆大島近海地震、1946年南海地震)の地震体験記を収集した。地震体験記には子供の作本、教師の報告、行政の対応記録、被害報告などがあるが、これらを地震時の心理・行動パタ-ン、情報の流れ、被害のパタ-ン、必要とされた情報・物質、教訓と対策等に分類し、それぞれキ-ワ-ドを作成してデ-タベ-スを作成した。今年度は時間の関係で市販のソフトを用いたが、将来的には独自の検索ソフトを開発する方向で検討を進めている。デ-タベ-スの作成と平行して、学校の立地条件、規模、校舎の形態、地震活動度などを考慮して、地震発生という緊急時に最も適切と考えられる対応を指示するためのソフトウェアの開発を行った。このソフトは日常の対策と心構えも含め、地震発生から無事生徒・児童を保護者へ手渡すまでの過程を時系列にフォロ-するものであり、それぞれの局面で対応できるものとなっている。地震発生後は停電になる可能性が高いので、バッテリ-で作動するラップトップ型のパ-ソナルコンピュ-タを使うことを前提として開発を行った。本研究で開発したデ-タベ-スはさらに深く地震防災について学習したいと思う者への便宜を図るものであり、また対応指針ソフトは緊急時に実際の活用を目的としたものである。両者を有効に活用することにより、格段の防災力の向上が期待できるものと思われる。
著者
武部 啓 巽 純子 宮越 順二 八木 孝司
出版者
京都大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

目的:DNA修復系には紫外線損傷などに働く修復系に加えて、大腸菌のmut遺伝子と相同のミスマッチ修復遺伝子による修復系のヒトにおける存在が確認されている。ヒトで、それが大腸菌同様に自然突然変異に限って働くのか、誘発突然変異にも関与しているのかを調べる、これらの結果を腫瘍の発達(大きさ、悪性度、時間経過など)およびこれまでにわかっているp53遺伝子の突然変異と対比させて、発がんにおけるDNA修復の役割と、それが多段階発がんのどの段階に主に働くかを明らかにしたい。研究成果:1.p53遺伝子の突然変異が皮膚における多段階発がんにおいて、他のがん関連遺伝子に比べより高頻度に関与していることが示された。それらはDNA修復が正常であるか、低下しているか(色素性乾皮症患者)、太陽光にさらされている部位か、そうではないか、などによる違いはみられず、DNA修復の影響を受けない本質的な変異と考えられる。DNA修復のうち、ミスマッチ修復は一般に自然突然変異に関与していると考えられる。ヒトのがんの中で、もっとも自然発がんの可能性の高い非露光部の悪性黒色腫について、ミスマッチ修復の欠損を反映するとみられるDNAエラー(RER)を調べた。原発がん部位では18.2%のRERがみつかったのに対し、転移部位では検出できなかった。これまでの報告にくらべ特に高くはないので、非露光部の悪性黒色腫が自然突然変異によることを確認することはできなかった。
著者
土屋 昌弘
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

将来の高速・高密度光記録用の光源として500nm以下の波長領域で十分な強度を発することのできる素子の模索が行われている。この方法には主として二つの流れがある。一方は禁制帯幅の大きな半導体材料を半導体レーザ構造に用いる方法で、他方は比較的短波長・高出力の半導体レーザと非線形光学結晶とを組み合わせた2次高調波発生(SHG)による方法である。前者はコンパクトで実装等には従来技術との整合性が良いが、半導体材料そのものによって到達可能な波長領域が制限される。後者は系がやや複雑になるものの、半導体よりは困難さの少ない非線形結晶さえあれば、前者の方法で到達した波長の少なくとも2分の1の波長領域まで到達できる。このような観点から、半導体レーザと非線形光学結晶の組み合わせは究極の短波長光源と成り得る。この考え方に対して、従来は非線形結晶の高性能化に重きが置かれた研究が主流であったが、筆者等は半導体レーザの駆動方法に改善の余地があることを見い出しその改善により「半導体レーザ+非線形結晶」からなる複合系の最適化を検討した。本年度は、SHG効率が基本波のパワーに比例することに着目し、励起光源である半導体レーザをパルス駆動させ、光パワーの2乗の平均値が最大となる動作モードを模索した。実験的には、(1)市販の690nmInAlGaP系半導体レーザを利得スイッチ法により駆動し約50psのパルス発生が500MHz繰り返し周波数で可能であることを見い出し、(2)それによって生ずるスペクトル広がりがSHG効率の劣化を招くことを指摘し、(3)その問題点に対して、レーザからの出力光の一部を回折格子により波長を選択しそれをレーザ自体に戻すことにより次のパルスの種としてスペクトルの狭窄化を図るセルフシ-ディング法を適用することによって、スペクトル半値幅を0.12nm以下とすることに成功した。このスペクトル幅は高効率のSHG素子または材料の波長幅と比較しても十分に狭く、簡単な理論的な予測によれば従来のCW光源に対して20培の効率向上が期待できる。
著者
多賀谷 光男 福井 俊郎
出版者
大阪大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

神経伝達物質はV型ATPaseによって形成されたpH差によって分泌顆粒内に蓄積されることはわかっているが、蓄積された化合物の開口分泌の機構はよくわかっていない。NSF(N-ethylmaleimide-sensitire factor)は最初ゴルジ体内小胞輸送に関与するタンパク質として発見され、さらに小胞体からゴルジ体へのタンパク質輸送、エンドリーム融合にも必要なことが明らかにされたタンパク質である。NSFの開口分泌への関与を調べるためにNSFが分泌顆粒の一種であるシナプス小胞に存在するかどうかを調べた。シナプス小胞を精製後、抗NSF抗体を用いてウエスタンブロッティングを行ったところ抗体と反応しNSFと分子量の同じタンパク質の存在を確認した。さらに、ケイ光抗体法と免疫電顕を用いてこのタンパク質が確かにシナプス小胞に結合していることを確かめた。NSFはMg・ATPによってゴルジ膜から遊離するが、このタンパク質は同様な処理でシナプス小胞から遊離せず、なんらかの機構でシナプス小胞膜に強く結合していると考えられた。NSFがシナプス小胞に存在することから、現在ヒト脳のNSFのクローニングを進めている。CHO細胞のNSFのCDNAの断片を用いてヒト脳のCDNAライブラリィをスクリーニングし、いくつかのポジティブクローンを得た。クローンをサブクローニングし、末端の構造解析を行った結果、おそらく全領域をカバーするクローンが得られたものと思われる。現在全塩基配列の決定を行っている。
著者
山邊 時雄 田中 一義
出版者
京都大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

本研究は、特異な磁気物性、特に強磁性あるいは反強磁性を示す有機高分子の分子設計ならびに電子状態の理論的解明などを目的として実施したもので、その研究実績の概要は以下のようである。(1)安定な強磁性有機高分子として期待できるポリ(m-アニリン)の分子設計を行い、併せてその電子状態、特にスピン状態の解析を非制限ハートリー・フォック法に法づく結晶軌道法によって行った。その結果、本ポリマーの適当な酸化により、主として窒素原子上に強磁性的スピン相関を示す電子状態をとりうることが明らかとなった。またポリマー鎖中のフェニル基への適当な置換基導入により、スピン状態の制御を行いうることも明らかとなった。(2)有機強磁性体としての潜在的可能性を有する、何種類かのポリ(フェニルニトレン)の電子状態および磁気的性質についての解析俎、非制限ハートリー・フォック法に基づく結晶軌道法によって行った。その結果、π性スピンはベンゼン環中をスピン分極を伴いながら非局在化しており、長距離磁気的秩序配列が可能であることが明らかとなった。一方、σスピンは1価の窒素上に比較的局在化していることも明らかとなった。以上により、ポリ(フェニルニトレン)はポリ(mーフェニルカルベン)と同様に、強磁性ポリマーの有効な候補でありうることが結論された。(3)3回対称性を有する非ケクレ有機分子に対して、非経験的分子軌道法を用いてその高スピン状態の理論的解析を行った。1,3,5ートリメチレンベンゼン及び1,3,5ートリアミノベンゼンのトリカチオンは、ほぼ縮退した3つの非結合軌道を持ち、4重項状態はヤーン・テラー変形した2重項状態より安定で、基底4重項であることが明らかとなった。これは別途得られている実験結果ともよく一致している。
著者
鈴木 喬 内海 英雄 川端 成彬 大矢 晴彦 大垣 真一郎 佐藤 敦久
出版者
山梨大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1990

本研究は,質的に安全かつ健康な飲料水を確保するため,近年ますます問題となってきた水道水中の細菌,ウィルス,臭気,硝酸イオン等の有害成分を殺菌あるいは除去するための高度の改善技術を創製しようとするものである。1.ウィルス指標としてのバクテリオファ-ジとオゾンによる不活化 ウィルス制御技術の開発に当たっては,各種病原ウィルスの消毒手法に対する感受性の相違を十分考慮にいれなければならない。このためには,不活化効率を精確に定量できる「基準となるウィルス」が必要であり,また,そのウィルスはその使用が容易で安全なものであることが求められる。「基準となるウィルス」として,RNA大腸菌ファ-ジ(QB)を活用可能であることを見出した。また,オゾンによるQBの不活化では,5sec以内の急激な不活化の後反応がほぼ停止するように見えるが,ある一定のQB濃度で反応が止まるのではなく,一定の不活化率に達して止まることが観察された。2.細菌・ウィルス用非塩素殺菌剤の開発本殺菌法はイオン交換膜電気透折法において限界電流密度(Ieim)以上の高電流密度電気透折時に起こる中性攪乱現象を逆に活用し,生成した酸であるH^+イオンと塩基であるOH^ーイオンの相乗作用により水中の大腸菌を殺菌せんとするものである。0.1MーNaCl水溶液に大腸菌を10^81cm^3の濃度で懸濁させた試料水について殺菌効果と中性攪乱現象の関係を検討した結果,Ieim(0.81Adm^2)の約1.6倍である1.35A/dm^2の条件では透折開始7分前後に採取した処理液から生菌率は0%であり完全に殺菌されていることが判明した。すなわち,この結果は中性攪乱現象が起きる高電流密度領域で透折した場合にのみ強力な殺菌効果が得られることを示している。
著者
鈴木 増雄 野々村 禎彦 羽田野 直道
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

我々は「量子解析」と呼ばれる新しい数学を導入した。これは演算子の演算子による微積分学である。まず、Banach空間で演算子を引数とする関数を演算子で微分することから出発する。量子解析によると、Banach空間の演算子Aについてdf(A)=(df(A))/(dA)・dA (1)としたとき、この演算子微分は(df(A))/(da′)=∫^1_0f^<(1)>(A-tδ_A)dt (2)の形で表わされる。ここで、f^<(n)2>(x)は通常の意味での関数のn階微分、またδ_Aは内部微分で、次式で定義される:δ_AQ=[A,Q]=QA-QA.強調したいのは、式(1)においてdf(A)/dAは単に演算子dAを変形する超演算子ではなく、括りだされた形でコンパクトに式(2)のように表わされている点である。演算子微分を導入する方法は何通りかある。シフト演算子S_A(B):f(A)→f(A+B)を導入すると、代数学的に定式化することができる。この方法により、演算子の関数のLaurent級数を定義することができる。他にも、補助演算子{H_j}を導入する定式化もある。これを用いると、多演算子関数f({A_j})の微分も容易に定義できる。ここで、補助場演算子は以下の3条件を満足するように定める:(i)[H_j,H_k]=0,(ii)j≠kに対して[H_j,A_k]=0,(iii)[H_j,[H_k,A_k]]=0.我々はこの量子解析を、演算子の積公式を導くのに用いた。これにはlog(e^<zA>e^<xB>…)を自由Lie代数の要素(つまり交換関係)で展開するのが必要である。量子解析からこの展開係数があらわに計算できる。また、Dynkin-Specht-Weverの定理の拡張を与えた。この定理は上のような展開係数を求めるのに従来使われてきたが、その方法と我々の新たな方法との関係を明らかにした。このような議論は時間依存するハミルトニアンの時間発展演算子にも適用することができる。更に、量子解析をBanach空間だけでなく上に有界でない演算子についても定式化した。これを用いて、久保の線形応答理論やZubarevの非平衡統計力学の理論を新たな視点から再定式化した。非平衡散逸系のエントロピー演算子を自由Lie代数の要素で表わすことに成功した。
著者
新城 敏男 中村 誠司 上江洲 均
出版者
名桜大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

本研究の目的は、琉球・沖縄の歴史、とりわけ王府支配下の村々、さらには家の問題、人々の生活実態の理解を深め、沖縄の地域の歴史像を豊かにすることにある。その基礎作業として、平成8〜9年度において、沖縄の市町村・字・家レベルで地方(じかた)史料の残存状況を調査し、沖縄における地方史料の所在目録データベースの基盤をつくることを課題とした。まず、市町村史や各種史料調査報告書などの刊行資料から情報を収集整理し、また各市町村史編集室や博物館等で収集されている未刊情報についても調査を行なった。第2は、可能な限り新しい地方史料を発掘し情報化した。第3に、史料の保存と公開利用に向けて、主な地方史料のマイクロ撮影を行なった。なお、既刊資料を中心にした地方史料のテキストファイル作成は今後の課題とした。「沖縄県地方史料目録データベース」作成は、「史料カード」(24項目)をもとに可能な限り原史料に当たって情報を整理した。入力作業は、本プロジェクトのシステムに合わせて「桐」ソフトで行なった。整理・入力した各地域の主な史料群は次のとおりである。八重山の石垣市については計1809点を整理した。内訳は、石垣市立八重山博物館史料124点、石垣市管内明治35年調整図面及び石垣町・大浜村時代調整図面史料438点、石垣豊川家文書642点、石垣喜舎場英勝家文書242点、石垣石垣家文書363点である。竹富町は、竹富島喜宝院蒐集館文書391点を入力した。宮古の平良市については、宮古本永家文書35点のほか、平良市史編集室収集史料約50点を入力した。多良間村は村史に収録された537点を入力した。久米島については、新たに久米島与世永家文書396点を整理・入力した。沖縄本島北部は、名護市について583点、本部町444点、今帰仁村250点、国頭村奥区350点のほか、大宜味村・東村・伊是名村について既刊情報を整理した。沖縄本島中部は、宜野湾市17点、北谷町15点、西原町9点を入力した。以上、「沖縄県地方史料目録データベース」として約5000点を整理・入力した。
著者
前野 紀一 川田 邦夫 木村 龍治 荒川 政彦 西村 浩一 成田 英器
出版者
北海道大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1991

一般に湿雪雪崩の形は単純でその動的特徴の多くは斜面を流下する濡れた雪塊として理解できる。しかし、乾雪雪崩、特に煙り型乾雪表層雪崩は、昭和61年13人の死者を出した新潟県能生町の柵口雪崩にように、極めて高速かつ大規模になり、大きな被害を起こしやすいにもかかわらず、その内部構造と動的特性について詳しい情報が得られておらず、その予測や防御が難しい。本研究では実際の乾雪表層雪崩の内部構造を調べるために、黒部峡谷志合谷において観測を実施した。これは雪崩走路上に設置されている2基のマウンドに雪崩観測用のカメラ、衝撃圧センサ-、超音波風速計等を取り付け、雪崩の自然発生を待つ方法である。黒部峡谷志合谷で観測された数個の雪崩では、雪崩風が観測された。雪崩風は雪崩の実体の前面あるいは側方に発生する局部的な強風であり、その存在やそれによる災害がしばしば報告されいるが、これまで定量的に観測はなかった。今回観測された雪崩風は、雪崩自身の規模があまり大きくなかったが、雪崩の実質部よりもはっきりと先行しており、その速度は雪崩前面の速度にほぼ等しかった。本研究では、また雪崩の内部構造と運動メカニズムを調べるために、大型低温実験室における氷球を用いたシュ-ト実験が実施された。多数の氷球(平均粒径2.9mm)がシュ-ト(長さ5.4m、幅8cm)を流下する様子が高速ビデオで撮影され、速度と密度が求められた。シュ-トの角度は30度から40度、実験温度は0℃からー30℃の範囲で変えられた。得られた氷粒子速度と密度の鉛直分布からは、流れの最下部に低密度層が見出され、この層が生成する理由は粒子間衝突の結果と結論された。
著者
芦田 和男 湯城 豊勝 岡部 健士 藤田 裕一郎 澤井 健二 江頭 進治
出版者
京都大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1990

本研究は河床が低下する傾向にある河川の堤防・護岸の安全性を水理学的観点から明らかにすることを目的として行ったものである。以下、本研究によって得られた知見を要約する。1.河床低下の傾向にある交互砂州河道には、一般に抵水路が形成され、低水路の屈曲部には深掘れが生じる。これは流れの集中によるものであるが、低水路を満杯で流れる条件において、洗掘深は最大になる。2.護岸の被災過程には法勾配及び水潤している法長に応じて明確な差異がある。同一護岸高であれば、1割以上の急な護岸は主に土質力学的過程によって前方に押し出されるように起立して被災し、2割の護岸は目地等の間隙に働く流体力によって浮き上がるようにして被災する。3.低水路の屈曲部の深掘れを軽減するための方法の一つに不透過水制を設置する事が考えられる。この種の水制によって深掘れは著しく緩和されることが判明した。4.低水路を有する河川の弱点を捜し、その安定性を高めるための工法をより一般的に評価することを目的として、工作物の影響や2次流の影響を取り入れた平面2次元流れと河床変動に関するシミュレ-ション法を開発した。