著者
岡部 洋一 中山 明芳 北川 学
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1989

酸化物高温超伝導体は、従来の超伝導体と比較し使用温度が高く、また,ギャップエネルギーが10倍程度高いため、それに比例した高速性が期待されている。また、バンドギャップが大きいため、半導体との整合性にも期待がかけられている。本研究はこうした高温超伝導体エレクトロニクス応用の基本技術となるトンネル形ジョセフソン素子を集積回路技術により作成することを目的としている。電子デバイスのような、微細あるいは薄い構造を取り扱うには、薄膜の平坦性、および作成温度の低温化が達成される必要がある。このため、この両方を改善するためにacおよびrfスパッタ法を改良した。具体的には導入酸素の紫外線による活性化、試料とターゲットの位置関係の最適化、および各電極にバイアスをかけることである。この結果、最高プロセス温度500度程度で薄膜を作成できるようになった。また、下部電極となるYBCOのみならず、上部電極のYBCOについても十分な特性の薄膜を作成できるようになった。トンネル型ジョセフソン素子を完成するためには、数nmのごく薄い均質な絶縁膜を作成することが必要である。このため、MgOを中心としていくつかの材料を検討した。まず、我々の従来の研究成果であるYBCO/Au/絶縁体/Nbの構造のものを検討し、下部電極をBSCCOとしても、ジョセフソン特性が観測できることを、直流特性、高周波特性、磁界依存性の三つの方法で確認した。その後、上下とも高温超導体であるジョセフソン素子の検討を開始した。その結果、高温超伝導体上に絶縁体を付けると、多くの場合、島状構造をとり、均質な膜がえにくいことが判明した。この他にも多くの素子構造を検討している。現在のところ、進行状況は、当初予定よりもかなり早いが、一方で研究をもっと原理的な方向に展開する必要があることも感じつつある。
著者
矢原 徹一
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1991

有性生殖は生物界に広くみられる性質だが、その進化的意義はよくわかっていない。さまざまな理論が検討された結果,今日では病原体と対抗進化するうえでの利点が最も有力視されている。本研究はこの仮説を検証することを主要な目的として行なわれた。ヒヨドリバナには有性型と無性型があり,有性型は2倍体,無性型は倍数体である。両者の適応度を比較する場合,倍数性のレベルのちがいについても考慮する必要がある。本研究ではヒヨドリバナ有性型・無性型の適応度成分を野外集団および実験集団を用いて比較した。実験集団を用いた研究から,無性型は巾広い光・栄養条件の下で有性型よりも大きな純生産速度を持つことが示された。この事実は倍数性のレベルの高さが無性型の適応度を高めていることを示唆する。野外集団では無性型は有性型に比べ約8倍の種子を生産していることが明らかになった。この大きな差は純生産速度のちがい、および無性型の開花成熟サイズが有性型よりも大きいというちがいに由来すると考えられる。これらの結果は,有性型・無性型の進化には倍数性であることの利点・欠点が大きな役割を果していることを示唆する。一方、有性型はジェミニウィルスに対する感染率が平均4%であったのに対し、無性型は平均27%の個体が感染・発病していた。感染・発病した個体では種子稔性が有意に低下しており、病原体が無性型の適応度を下げる要因として作用していることが確認された。本研究は無性型が有性型に比べ病原体の攻撃をうけやすいことを野外集団で示した植物でははじめての研究例である。
著者
笹井 芳樹
出版者
京都大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1997

本研究は初期の神経細胞に微細なパターンを与える分子的実体を明らかにし、神経系の発生分化制御の研究に寄与することを意図したものである。(1)脳及び頭部外胚葉の「微細なパターン形成」に関与する新しい因子の同定脳及び頭部外胚葉の形成期の細胞間や組織間の「ローカルなト-ク」を媒介する因子は主として分泌因子や細胞膜蛋白などであるため、最近米国の企業の研究所で開発されたシグナルペプチドを持つcDNAを酵母を用いて迅速に単離する方法でスクリーニングすることができる。中期神経胚の頭部神経板よりこうしたシグナルトラップcDNAライブラリーを作成し小スケール・スクリーニングをおこなった結果、すでに十数個の新しい神経特異的分泌因子(または膜蛋白)を同定した。現在、これらの因子の生物活性を詳しく調べるとともに、さらに大スケール・スクリーニングをおこなっている。(2)「微細なパターン形成」に関与するChordinの下流因子の同定神経誘導因子Chordinを作用させた未分化外胚葉を用いてデファレンシャル・スクリーニングを行い、多数の神経特異的遺伝子を単離した。そのうち3つの転写因子(Zic-related 1,Sox-2,Sox-D)はこれらはごく初期神経板全体に発現しており、それらの因子の活性を検討中である。
著者
細田 耕 鈴木 昭二 浅田 稔
出版者
大阪大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1997

本研究では、視覚情報に基づいて生成される脚式移動ロボットの行動に基づく環境表現手法を提案し,実機によってそれを検証することを目的とする.具体的には視覚誘導により基本的な行動を生成する段階と,それを用いて環境表現を構築する段階に分かれる.使用する脚式移動ロボットに,まず「転ばない」,「脚が接地したまま揺れ動く」,「遊脚を利用して移動する」などの基本サーボ系を埋め込む.これを利用して,断続的に提示される視覚目標に対し,これに追従するよう行動し,この間に,環境中の適当な視覚情報を獲得,これとロボットの行動の相関をとることにより,環境表現を獲得する.さらにこの環境表現に基づき行動し,環境表現の更新及び修正を繰り返す.以下のような項目について,理論の整備,及び実験による検証を行った.(a)脚式ロボットにカメラを装着し,視覚・運動系を構築した.(b)環境に対する先験的な知識がない場合にも,「脚が接地したまま揺れ動く」ために,視覚目標に追従するための制御系と,脚間距離を保つための制御系を組み合わせたサーボ系を開発した.(c)ZMPを観測し,バランスを崩しそうになると,それを回復するための方策を検討し,遊脚を決定するアルゴリズムを開発した.(d)「遊脚を利用して移動する」ためのサーボ系を開発した.(e)以上の方法を実機を用いて,その有効性を検証した.
著者
若宮 建昭
出版者
近畿大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

血液脳関門(Blood blain barrier;BBB)透過性を有するダイノルフィン様ペプチド(DLAP)および副腎皮質刺激ホルモン類縁体のエビラタイドの構造をもとに約20種のペプチドを合成したところ、両者の下線部分の構造を合わせ持つペプチドH-MeTyr-Arg-MeArg-D-Leu-NH(CH_2)_8NH_2(001-C8)が極めて高い透過性を示した。この001-C8を蛍光標識したペプチド001-C8-NBDの調製を行ない、まだ推測の域をでないAMT機構解明研究に用いた。その結果、従来の放射性標識では不可能であったペプチドの経時的な透過過程の追跡が可能となり、正電荷を持つペプチドが脳毛細血管細胞脂質膜上の負電荷部分に吸着したあと、徐々に膜を通過して脳実質へ移行する。AMT機構を視覚的に確認することができた。しかしながら、脂質膜上の負電荷部分の詳細に関してはまだ全く未知であり、今後明らかにされねばならない重要な課題である。001-C8を用いた種々の実験から、これを薬物の運搬役として利用するにはまだ血液中のペプチド分解酵素に対する安定性および脂溶性が、必ずしも十分高くはないことが明らかとなった。そこで、H-D-Tyr-D-Arg-D-Arg-D-Leu-NH(CH_2)_8NH_2,H-MeTyr-Arg-MeArg-D-Leu-NH(CH_2)_8NHCH(CH_3)_2,H-MeTyr-Arg-MeArg-D-Leu-NH(CH_2)_8NHCH_2CH(CH_3)_2などのペプチドを新たに合成し、それらの酵素安定性と透過性の試験を行っているが、その結果をもとに運搬役として理想的なペプチドの創製を目指す予定である。以上のように、本研究課題はまだ緒についたばかりであるが、これまでの研究により基礎的な問題は解決したので、今後の飛躍的な展開を期待して研究を続けて行きたい。
著者
江藤 一洋
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1988

マウス胎仔は胎齢9.5日までは栄養も酸素も胎仔膜を通して拡散によって胎仔に供給されているが、9.5日になると卵黄嚢膜に血液循環が出現し、ガス(O_2、CO_2)交換の重要な場となる。一方、尿膜胎盤(いわゆる胎盤)は胎齢10日以降に血液循環が始まって機能を開始し、ガス交換の第2の場となり、器官形成期が終了する頃から卵黄嚢にとって代わる。これは、器官形成期において卵黄嚢が胎仔の発生にきわめて重要な役割をすることを示している。卵黄嚢膜開放(OYS)は、全胚培養下での胎仔発育に必要な操作であるが、これをC57BL/6マウスの場合、尾体節数8以下で行うと、胎仔全体の発育遅延がみられないにもかかわらず、口唇裂のみ100%誘導されることが当教室の朝田によりみつけられている。OYSを早期に行って数時間経過した培養胎仔の癒合予定部位を走査電子顕微鏡で観察すると、正常発生の上皮同士の接着時にみられる上皮表面の微繊毛の消失が起きず、上皮細胞の表面は球形となり、また、球状物質も多く認められた。現在、羊水(卵黄嚢内)とラッと血清(培養液)の違いが、どうしてこのような細胞レベルの異常を起こしたのかさらに検索を続けている。
著者
藤井 豊
出版者
福井医科大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

I.カエル水晶体の含水率とクリスタリン組成 水晶体周辺部の含水率は70%前後でありゾル状態であった。中心部に移行するに従って含水率の低下が進み、ゾルからゲル状態への層の移行がみられた。最終的に核では20%前後と著しい含水率の低下がみられ、核は事実上鋼球体であった。水晶体構造蛋白質(α、β、ρ、γ-クリスタリン)の組成は含水率の低下即ち中心部に移行するに従って、α、β、ρ、-クリスタリンの減少とγ-クリスタリンの増加が認められた。さらに、中心部ほど不溶性クリスタリンの増加がみられた。II.水晶体の顕微鏡観察 水晶体の物性は周辺部と核では著しい相異があり、凍結切片を作製するさい核は粉状に粉砕されてしまう。他の方法による切片の作製も同様容易ではなく、顕微鏡観察による力学的ストレスの解析にはなお検討する必要が残った。III.熱力学的ストレスによる影響 加熱によ変性を調べると50℃より表面の白濁が進行し、その後完全に白濁変性する。しかし、この白濁は中心部では認められず透明な状態を維持している。一方、-80℃で凍結後、室温に戻すと、水晶体周辺部は依然透明であるが核は白濁変性を起こした。この傾向はトノサマガエルより食用ガエルでみられ、また大きい水晶体ほど白濁の程度が著しかった。変性の起こらない温度領域で低温高温の反復処理(0と40℃、それぞれ5分を一日反復負荷)を行ったが顕著な変化は観察されなかった。IV.超音波による影響 超音波(1MHz、8w/cm^2)処理を20℃で5分行うと周辺部と核の中間層に気泡形成が認められ、この中間層に最も強い振動の力学的ストレスの影響が現われた。以上、水晶体を核、中間層および周辺部の3層に分けて考察することができた。含水率の高い水晶体周辺部はゾル状態であり振動などの力学的ストレスに対して柔軟に対応できる反面熱に弱い構造となっている。中心部の核は含水率を極端に下げて蛋白質の高密度化を達成して熱や力学的ストレスに対処できる丈夫な構造になっている。ところが中間層は周辺部と核の両者の特徴を兼ね備えてはいるが、相反する性質が混在するが故にかえって力学的ストレスに対応しきれていない可能性がある。カエルの白内障はまさしくこの領域に集中していることから、力学的ストレスとの因果関係が示唆された。
著者
松田 彰 綿矢 有佑 宮坂 貞 牧 敬文
出版者
北海道大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1991

本研究班では、従来の医薬品開発を目標に直結したランダムスクリ-ニング的発想に基づく研究ではなく、核酸の構造や代謝の分子論的な解析を基に新しい機能性ヌクレオシドの創出を図ることを目的にしている。松田は、ヌクレオシドレベルでは化学的に安定であるがDNAに組み込まれると鎖切断などの反応性を示すヌクレオシドの設計を行っており、今年度は、2'ーdeoxycytidineの2'ーβ位にシアノ基、イリシアノ基、エチニル基を含む誘導体の合成を行った。この中で、シアノ基を含むCNDACは強い細胞毒性を示し、その5'ートリリン酸体は牛由来のDNAポリメラ-ゼαの強力な阻害剤となった。この時の阻害様式は、chainーterminator型であったが鎖切断の結果そうなったのかどうかについて更に検討を行っている。牧は、アデノシン誘導体が電子移動により酸化される新しい反応を見い出し、その反応を利用し、DNAやRNAの鎖切断へ応用しようと試みている。宮坂は、AIDSの原因ウイルスであるHIVーIを新しい様式で阻害するアシクロウリジン誘導体を合成した。その中でこれらの化合物は、従来のAZTやddIが感染細胞中の酵素によりトリリン酸体に変換されて、逆転写酵素を阻害するのとは異なり、リン酸化を受けずに阻害すること、また天然の基質であるTTPと非競合型の阻害を示すことから、逆転写酵素のTTP結合部位でアロステリックな阻害を示すことを明らかにした。綿矢は、ヌクレオシドやヌクレオチドの生物種間での差異を明らかにするために、寄生原虫をヒト由来細胞を用いて、糖部や塩基部が天然型とは異なる誘導体を用いて代謝系を調べた。リュ-シュマニアが特にプリン生合成がヒトとは異なることを利用して強い抗原虫作用を示すヌクレオシドを数種見い出した。
著者
松田 彰 綿矢 有佑 宮坂 貞 牧 敬文
出版者
北海道大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1993

本研究班では、核酸の構造や代謝の分子論的な解析を基にした機能性ヌクレオシド誘導体の創生を計ることを目指している.松田は、新しいアミノリンカーを持つDNAオリゴマーの設計と合成を行なった.これらは標的とするRNAと安定な二本鎖を形成し,さらに、リンカーにインターカレーターなどの機能性分子を導入することが可能である.これらのオリゴマーは天然型のリン酸ジエステル結合を持つにもかかわらずヌクレアーゼに抵抗性を示すこと,および,RNase Hの基質になることを明らかにした.DNA鎖切断型の自殺基質として分子設計したCNDACがモデルテンプレート・プライマー系でDNApolymeraseを作用させたとき予想通りの鎖切断を引き起こすことを確認した.牧は、光励起下で活性酸素の模倣物として機能する特異な複素環N-オキシド(POP)を用いてヌクレオシド類の光酸化反応を詳細に検討した.さらに、POPが水中で水酸ラジカルを発生しDNA鎖を効率的に切断することを明かにした.宮坂は、HIV-1の逆転写酵素(RT)に特異的に結合する化合物(BEMI)を用いてこの化合物に対する耐性株の遺伝子分析を行なった.本化合物によるRT耐性は103番目のリシンがグルタミン酸に,181番目のチロシンがシステインに変化していることによることを明らかにした.綿矢は、ヒトに感染しマラリアを引き起こす4種類のマラリア原虫を識別できるDNA診断法を開発した.さらに,5-fluoroorotateとスルファモノメトキシンを併用することによりクロロキン耐性マラリア(ネズミマラリア感染マウス)を治癒出きることを明らかにした.
著者
上野 昭彦 池田 博
出版者
東京工業大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1997

シクロデキストリン(CD)は環状オリゴ糖であり水溶液中でさまざまな分子を包接することができる。本研究では、蛍光性単位(ダンシル)とタンパク質結合性単位(ビオチン)を有する修飾CDを合成し、タンパク質アビジンが結合すると修飾CDの分子認識センサーとしての能力がいかに変化するか検討した。これまでのダンシル修飾CDでは、タンシル単位がCD空孔内に自己包接され強い蛍光を発するが、ゲスト包接に伴いダンシル単位は空孔外の水環境に追い出され蛍光強度が減少する。この減少がゲストの検出に利用されてきた。本研究では、CDとしてはグルコース単位を7個有するβ-CD、ダンシルを含む単位としてはダンシルそのもの及びダンシルグリシン残基を用いた(各修飾CDを1、2とする)。ダンシル単位は1よりも2の方が、グリシン部分を介するだけ自由に動きやすくなっている。両者とも励起波長360nmで測定すると550nmに蛍光のピーク示した。そして、ゲストである1-アダマンタノール添加による最大の蛍光強度減少は1ではアビジン不在下で19.2%,アミジン存在下では10.9%であった。他方、2では、それぞれ39.2%,4.2%であった。このように両センサー系とも、タンパク質の存在によってゲスト添加による蛍光強度の減少の程度が抑制された。この事実は、タンパク質が結合することによってダンシル単位がCD空孔外に出ることが制限せれていることを示唆している。なお、結合定数は2-1-アダマンタノールの系でアビジン存在、不在下で9730M^<-1>、63700M^<-1>となり、アビジンの存在によって著しく増大した。タンパク質がCD空孔近傍の疎水的環境を増大てさせいるのもと推測される。
著者
永井 美之 実吉 峯郎 吉田 松年 斉藤 英彦
出版者
名古屋大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1989

HIVに対する抗ウイルス剤開発にあたっての標的のひとつはちウイルスゲノムの逆転写の過程である。これまでに用いられたアジドチミジン(AZT)、ジデオキシシジン(DDC)には、相当な選択性が認められるものの、骨髄抑制などの副作用が重大問題となっている。骨髄抑制は、株化リンパ球とそこでのウイルス増殖の抑制から得られたin vitro治療指数からは予知できなかった。本研究では血液幹細胞のin vitro分化増殖系に対する薬剤の毒性が生体レべルでの骨髄毒性を反映するか否かを調べることを主要目的とした。ボランティアから得た骨髄細胞からエリスロポエチンと顆粒球コロニー刺戟因子により赤芽球系コロニー(CFUーE)及び顆粒球系コロニー(CFUーG)を形成させる過程に各種薬剤を加え、発育抑制の程度を算定すること、血小板系については株化された巨核芽球(MEGー01)の分裂増殖ならびにフォルボールエステルによる巨核球へ分化の際の薬剤の影響を調べた。その結果、AZTは臨床使用時の血中濃度に相当する濃度又はそれ以上で、CFUーEとCFUーGを共に抑制したが血小板系への毒性はみられなかった。一方DDCはCFUーEやCFUーGは抑制せずMEGー01細胞の分裂増殖を抑制した。巨核球への分化はDDCでも抑制されなかった。以上の結果は、AZTが貧血や顆粒球減少を招きやすく、DDCは血小板減少を招きやすいという実際の副作用とよく一致した。したがって、本システムは、抗エイズヌクレオシドアナログの骨髄毒性評価に有用であると考えられた。本システムにより新設計と既知のヌクレオシドアナログの毒性も検討したが、結果として、AZT又はDDCより優れた薬剤は見出せなかった。尚本研究の過程で、ヌードマウス、SCIDマウスを含む調べたすべての系統のマウス血清中に抗HIVー1活性の存在することを見出した。現在阻止物質の単離精製を進めている。
著者
黒木 玄
出版者
東北大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

本年度は共形場理論およびそれに関係した可積分系の以下の研究を行なった:・アフィン・リー環に付随するリーマン面と主束の組の族上の共形場理論(所謂ヴェス・ズミノ・ウィッテン模型)の座標不変な定式化を与えた.・ヴィラソロ代数に付随するリーマン面の族上の共形場理論(ベラヴィン・ポリヤコフ・ザモロドチコフの模型)の座標不変な定式化を与えた.臨界レベルのアフィン・リー環に付随する任意に固定されたリーマン面上の主束の族上の共形場理論の座標不変な定式化を与えた.・臨界レベルにおける共形場理論とリーマン面に関するラングランズ・プログラムの類似の関係を研究した.・ベラヴィン・ドリンフェルトの楕円古典r行列に付随する共形場理論の定式化を与えた.それは基礎体上非分裂な代数群に付随する共形場理論の興味深い例を与える.さらに,その場合における保型形式論におけるリフティングの理論の類似を研究した.
著者
野島 博 田中 誠司
出版者
大阪大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

窒素枯渇条件により減数分裂を誘導する転写カスケードに載っている制御因子遺伝子を重差分化法を適用することで多数クローニングし、meu(meiosis-dependetupregulatedgene)と命名した。それらは以下の3種類に分類されることが分かった。【encircled1】TypeI: Ohr(mitosis logphaseに相当する)ではホモ株もヘテロ株でも全く発現されていないもので真に減数分裂特異的発現がなされるもの。【encircled2】TypeII: Ohrでも少しではあるが発現がみられるもの。減数分裂以外でも何らかの役割を果たしている可能性がある。【encircled3】TypeIII: ノーザンブロットにおいて二本以上のバンドが見られ、そのうち一つのみがmeu遺伝子としての挙動を示すもの。類似の二種類のmRNAが別々に存在する場合、あるいは選択的スプライシングにより生成されるもののうち一つのみが減数分裂に特異的である場合などが考えられる。我々はこれら遺伝子群をque(quasi meu)と呼ぶことにした。クローン化したmeu遺伝子のうち興味深いものとしてDNA複製開始因子のひとつであるRF-C3(replication factor C subunit3)に類似したクローン(meul)がある。meulはRF-C3の持つ特徴的なモチーフを全て持つ新規の遺伝子である。我々はmeulがmitosisのS期とmeiosisのS期を峻別する機能を持つ、減数分裂前DNA合成を特徴づける複製因子ではないかと期待している。今後はこれらmeuゲノム遺伝子をさらに多くクローン化し、全塩基配列を決定するとともに遺伝子破壊を行って、四分子解析によって必須遺伝子であるかどうか、減数分裂前DNA合成期に影響するかどうか調べる。また実際にDNA複製に絡んでいるかどうか生化学的諸実験も行う積もりである。
著者
綱川 秀夫
出版者
東海大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1990

本研究では,隣接した複数のセクションにおけるDRM方位デ-タから,地磁気方位・相対強度を推定する新たな方法を用いて,房総半島における海成層(BMC,BMH,BMYセクション)に記録されたブリュンヌ・松山逆転を解析した.その結果と,これまでに得られている地磁気反転のデ-タとを比較した.さらに,地磁気永年変化との共通性を考察し,非双極子磁場の成因について物理的モデルの可能性を考察した.例えばBMC・BMY両セクションでは方位変化にパタ-ンの類似性はあるものの大きな時間のずれがある.BMCの方がBMYより伏角では約100年,偏角では約200年早く変化している.このようなずれは,両セクションの時間分解能の差異や堆積速度の見積り誤差などでは説明できない.しかし,堆積物の残留磁化はある時間幅の地磁気を重畳したものであるという見地から検討すると,もしBMCの方がより長い時間幅の応答関数をもっていれば,BMYよりも早い時期に磁化の変化が現われてくることになる.そこで,本研究代表者による新しい解析方法を,3つのセクション(BMC・BMH・BMY)に記録されたブリュンヌ・松山逆転時のDRM方位デ-タに適用した.結果的に収束解が存在し,房総地域のブリュンヌ・松山逆転時約900年間にわたる地磁気3成分変化が推定できた.この推定結果とブリュンヌ期地磁気永年変化とを比較してみると,双極子磁場g_1^0と2種類の非双極子磁場主役を占めていたことを示唆する.
著者
宮越 順二 塚田 俊彦
出版者
京都大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1993

本研究では、人体に曝される可能性の最も高い極低周波変動磁場(ELFMFと略す)の細胞に与える影響として、遺伝子発現の誘導に関して研究を発展させ、その作用機構を明らかにすることを目的とした。三相交流トランスを一部改造し、周波数50Hz、最大出力500mTの実験用ELFMF曝露装置を使用した。磁石の磁場空間には細胞培養可能なアクリル製CO_2培養器を内蔵した。培養器内環境は5%CO_2と95%空気で、さらに、温度を37±0.5℃に保つためサーモコントローラーからの温水を還流している。これらの条件で、最大400mTの磁場曝露が一定温度のもとで可能なことを確認した。遺伝子発現については、まず、ベータガラクトシダーゼ遺伝子の発現プラスミド(pVIPGAL1)をラット褐色細胞腫由来のPC12細胞に導入して、ネオマイシン(G418)で選択した後、ベータガラクトシダーゼの発現系を持つ形質転換細胞(PCVG細胞)を得た。PCVG細胞を非刺激またはforskolin(2μM)で刺激し、4時間磁場曝露またはインキュベータにて培養した。PCVG細胞は非刺激状態ではほとんどベータガラクトシダーゼの活性を示さない。forskolinで4時間刺激した場合、ベータカラクトシダーゼの活性は著しく上昇した。この刺激をELFMF(200mTおよび400mT)曝露下で行うとベータガラクトシダーゼ活性は磁場密度依存的にさらに上昇した。forskolinにTPA(25ng/ml)を加えて磁場曝露の影響を検討した。forskolinにTPAを加えた場合、ベータガラクトシダーゼ活性は非曝磁下でforskolin単独に比べ約2.5倍の上昇が見られた。この刺激を400mT ELFMF曝露下で行った場合、ベータガラクトシダーゼ活性はさらに上昇した。以上の結果、高磁場密度の極低周波変動磁場はサイクリックAMPやプロテインカイネースC(PKC)を介した細胞のシグナル伝達系に影響を及ぼし、ベータガラクトシダーゼの遺伝子発現を誘導している可能性が示唆された。
著者
深澤 義正
出版者
広島大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1993

[2,3]-Wittig転位反応は、代表的なC-C結合生成反応の一つであり、協奏的シグマトロピー転位で進行すると考えられている。多置換二重結合をもつ誘導体の[2,3]-Wittig転位反応では、生成する炭素-炭素結合上に新たな不斉中心が生成し、合成的に極めて有用な手法と考えられている。この反応の遷移状態については現在までに三つのモデルが提案されていた。我々は、これらのすべての遷移状態の詳細な構造を非経験的分子軌道法を用いて求めることに成功した。固有反応座標の解析により、その内の一つは段階的機構に対応することがわかった。しかし、段階的機構は活性化エネルギー(MP2/6-31+G^*〓3-21Gレベル)の点からは他の二つの協奏機構よりも有利であることがわかった。段階的機構においては、Liと同じ側に広がったアニオン軌道を使って二重結合に攻撃しており、アニオン中心の立体化学が保持されるように反応が進行することがわかった。これに対してて二つの協奏機構のうちの一つはアニオン中心の立体化学が反転する機構で反応が進行していることが明かとなった。我々は更に、これらの遷移状態の構造を用いて、大環状アリルエーテルにおける転移反応の立体選択性についてab initio-MM2遷移状態モデリング法を用いて解析を行った。この方法では反応に直接関与する反応中心部位の構造に上で求めた遷移状態の構造を用い、反応に直接関与しない部位をMM2で計算し、分子全体の遷移状態の構造とエネルギーを求めるものである。計算の結果は大環状アリルエーテル中のジエンの幾何異性の違いによる不斉転写反応による選択的なアルコール体への変換をよく説明できる事が明かとなった。
著者
戸田 幹人
出版者
京都大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1993

振動励起状態の分子におけるエネルギー再配分は、化学反応における基本的な過程の一つである。本年度は、振動エネルギーの再配分を研究するのに最も適しているファンデルワールス系のうち、特に希ガス・ハロゲン分子の三体系を対象に、振動エネルギーの再配分過程のシミュレーションおよび解析を行なった。この系は3自由度系であり、そのポアンカレ断面は4次元である。4次元の断面は直接に視覚化できない。そのため、この系の時間発展に関する研究は、これまでほとんど成されてこなかった。本研究では、ポアンカレ断面の3次元空間への射影・切断を通じて解析を行なった。当初の計画では、量子論・古典論の両方についてシミュレーションを行なう予定であったが、ポアンカレ断面の視覚化に時間がかかったため、古典論についてのみシミュレーションを行なった。解析の結果次のことがわかった。希ガス・ハロゲン分子の三体系において、遠方から希ガス原子をハロゲン分子に衝突させる。この時、希ガス原子の入射角度が直角または直線の場合、直接的な散乱過程が存在する。これに対して、斜め方向から衝突する場合、希ガス原子は一旦ハロゲン分子とゆるい結合状態を作る。この際、衝突方向のエネルギーの一部は回転運動を励起する。このあと、回転運動と振動運動の共鳴によって、希ガス原子の再解離がおこる。以上の結果が、どこまで量子論で対応しているか興味がある。特に、希ガス原子を軽い原子から重いものまで変えることによって、カオスにおける量子古典対応を調べることができる。これは今後の課題である。
著者
坂井 典佑
出版者
東京工業大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1994

我々は可積分系の典型的な例として行列模型を取り上げ、繰り込み群を用いて研究した。行列模型で表されている二次元重力の可積分系としての数学的構造を場の変数についての変数変換の自由度として理解し、ビラソロ代数の表現として恒等式を導いた。我々は、この恒等式を用いて繰り込み群を厳密に解くことに成功した。中心電荷が1を越えるような物質場と相互作用するような解けない場合にも臨界指数などの有用な情報を得るために、繰り込み群理論が役立つと思われる。我々はまず、1行列模型については、中心電荷が1以下の場合について、繰り込み群方程式を導くことに成功した。この繰り込み群方程式は予想に反して、非線形となる。我々はさらに、2行列模型についても、変数変換の恒等式を具体的に求め、厳密な繰り込み群方程式を導くことに成功した。この繰り込み群方程式を解いて厳密解が得られることを示した。一方、量子重力のもう一つの定式化として2+ε次元での量子重力理論がある。この考え方は、二次元では重力が繰り込み可能になるはずだという点に着目して、高次元での量子重力を解析接続によって得ようとするものである。我々はこの理論に、ディラトンを取り入れることによって、従来の困難を解決した。すなわち、重力理論は二次元で位相的理論となり、不連続となる。我々は、ディラトンを導入することによっては解析接続可能な量子重力理論が構成できることを示した。
著者
大隅 良典 大隅 萬里子
出版者
岡崎国立共同研究機構
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

自食作用は、真核細胞に普遍的で重要な生理機能である。我々が見いだした酵母の自食作用をモデル系として、分子遺伝子学的手法により自食作用に関わる分子の同定と機能の解析を進めている。本年度に得られた主な成果は以下の通りである。これまで得られている14個の自食作用不能変異(apg)を相補することを指標にAPG遺伝子群のクローニングと構造解析を進め、本年度までに13個の遺伝子の同定に成功した。これらは全て新規の遺伝子であった。我々が開発したアルカリ性ホスファターゼを用いた自食作用の検出系を用いて、APG遺伝子間の相互作用を解析した結果、Apglタンパクキナーゼの過剰発現によってspg13が抑圧されること、APG7の過剰発現によってapg4が抑圧されることが見いだされた。APG13は、親水性のタンパク質をコードしており、興味深いことにApg13pは増殖期にはリン酸化されており、栄養飢餓下には脱リン酸化される。栄養条件で存在様式が速やかに変動するタンパク質としてはじめて同定されたタンパク質である。APG9は、構造から膜タンパク質であることが推定され、細胞分画法などによりこのことが確認された。自食作用におけるダイナミックな膜動態を解析する上で重要な指標タンパク質となることが期待される。APG7は飢餓条件に応答してその発現が著しく上昇する。現在までにApg1,4,6,7,8,9,13に対する特異抗体を作製し、遺伝子産物の同定と細胞内局在性の解析を進めている。栄養培地中でも、自食作用が誘導されるcsc1,csc2の解析を進め、2つの遺伝子を同定した。
著者
立川 真樹 松島 房和 久世 宏明
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

原子分子の共鳴線を用いたレーザーの長期周波数安定化は、モードジャンプを抑制して干渉計を安定に連続運転するために必要不可欠であるとともに、将来宇宙空間において観測可能になるであろう超低周波重力波にも対応しうる干渉計を開発するうえでも重要な要素技術である。我々は、極低温イオンの超高分解能スペクトルを利用した干渉計用レーザーの長期周波数安定化を目的として、原子イオンのトラッピングとレーザー冷却を行った。RF(Paul)トラップに蓄積したMg^+に288nmの紫外光を照射したところ、レーザー冷却効果を反映してドップラー幅が著しく狭窄化された蛍光スペクトルが観測された。このスペクトルは、イオンの共鳴周波数よりも低周波側でピークを持ち、高周波側では急激に減衰する非対称形になるものが特徴である。我々は、レーザー光の輻射圧による冷却効果とRF電場下でのイオン同士の衝突による加熱効果を考慮したモデルを導入し、イオン運動の解析を行うとともに、観測されたスペクトル形を精密に再現した。その結果、イオン運動はスペクトルがピークを持つときに最も冷却されており、温度に換算して1K程度になっていることが明らかになった。更に、イオン数が減少し衝突による加熱が弱くなると、蛍光スペクトルには不連続な変化が現れる。これはイオン運動が、比較的大きな軌道を衝突を繰り返しながらカオス運動している状態から、トラップポテンシャルとイオン間のクーロン力で決まる平衡点に結晶化した極低温状態へ一次相転移を起こしたことを示していることが明らかになった。このように、レーザー冷却によって比較的多数のイオンが1K以下にまで冷却できることが示され、ドップラーフリーの高分解能分光の基礎技術が確立した。