著者
横山 茂之 河合 剛太 岡田 典弘 武藤 あきら 渡辺 公綱 志村 令郎 大澤 省三
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

本年度は,これまでの4年間の研究成果をとりまとめ,9月24日の第6回公開シンポジウムにおいて広く公表した.また,4年間の班員の成果をまとめた最終報告書を作成した.また,本重点領域研究と関係の深いシンポジウムが8月27日の日本分子生物学会大会中に行われ,これにおいても研究成果が公表された.第6回公開シンポジウムでは,第1項目「RNA機能の発現機構」の研究成果として,オルタナティブ・スプライシングの制御に関与するRNA結合タンパク質,精密なtRNA分子識別を行うクラスIアミノアシルtRNA合成酵素,および特異な二次構造を持つ動物ミトコンドリアtRNAについての立体構造解析の結果が示された.また,グループIイントロンRNAの活性化,リボソームRNAの機能あるいはタンパク質によるtRNAの分子擬態についての研究成果も報告された.第2項目「RNA新機能の検索」については,新規に発見された低分子量RNAによるTrans-translationの機構,リボソームRNAにおける2つのドメイン間のcommunication機構,あるいはミトコンドリアtRNAによるショウジョウバエの生殖細胞形成機構についての研究成果が発表された.また,第3項目「RNAの起源と進化」については,アミノアシルtRNA合成酵素の起源と進化のメカニズム,およびウイルス由来のリボザイムやミトコンドリアtRNA遺伝子変異によるミトコンドリア病についての研究成果が発表された.
著者
中 則夫 宮田 Susanne 寺尾 康
出版者
大阪学院大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1997

(I)日本語における語彙の発達に関する予備調査本年度は、日英語のデータ整備、および少数の被験者を対象にした予備分析を行った。その結果、観察した四児にはいくつかの傾向がみられた。(11)タイプはすべて名詞が一番多い(12)間投詞類が多く形容詞、動詞の活用語が少ない(10%以下)グループがある(13)動詞の活用語が多く(20%程度)、間投詞類が少ない(10%以下)グループがある(14)上位を占める品詞はばらつきがあり、個人差により出現しない品詞もある(15)(12),(13)の結果は大久保のいう名詞型、動詞型にほぼ一致する(16)活用語のタイプが多いときはト-クンも多い(動詞は24%以上(II)幼児のメンタル・レキシコンを探る手がかり本年度行った、筆者が所属する大学の保育科の学生に依頼して行った予備的な実例収集では、(1)のような語彙の代用タイプの誤りは34例(総数750例)観察された。全体的な傾向としては、子どもの誤りであっても意図した語と誤った語の文法範疇は100%一致していること、誤りの要因では(2)に示すような、音韻的な類似性に影響されたと思われるものが多く観察された。(2)a.ハンバーグ(段ボール:1.6)b.オイナリ(かみなり:3.0)c.ガイコツ(がいこく:4.0)また、(1d)のような、文脈的な語彙代用は子どもの誤りには観察できなかった。語彙レベルに限らず、音韻的な誤りにおいても文脈の影響を受けていると思われる誤りはきわめて少なかった。このことは、子どもの記憶容量の限界からくるのか、発話部門内の操作の容量(音韻的な交換タイプは多く観察される。これも一種の文脈的な誤りとみるならば例外となる。)によるのか今後の課題としたい。
著者
長谷川 英機 澤木 宣彦 小間 篤 岩見 基弘 菅野 卓雄 安田 幸夫
出版者
北海道大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

本研究の目的は、ナノ構造の原子スケール制御に対し、十分な研究実績をもつ班員の実績を活かして、「ナノ構造の表面・界面の制御と単電子トンネル障壁の最適化」の研究を担当し、室温動作の単電子デバイスや、新しい機能もつ単電子デバイスを、単体ないし小規模集積レベルで実現する要素デバイス技術およびプロセス技術を確立することにある。主要な成果として、まず、化合物半導体の2次元電子ガスに対する新しいインプレーンゲート、ラップゲート構造による単電子トランジスタについて、従来のスプリットゲート素子に比較して、動作温度の大幅な向上、動作機構の理解、1以上の電圧利得の達成、論理インバータ回路・BDDスイッチ回路などの小規模集積回路の試作と実証など、世界に先駆け大きな進歩がもたらされた。また、シリコン系については、プラズマプロセスで形成したシリコンドットにおける室温のクーロン階段の観測や、単電子トランジスタの動作確認、縦形トランジスタでの量子化コンダクタンスの観測、ホッピング伝導系でのクローンブロケッド現象の発見、非対称トンネル障壁構造を用いてデバイス特性を最適化する研究が推進された。さらに、シリコン系および化合物半導体系量子ドット構造を、表面・界面の原子配列と電子物性を評価・制御しつつ形成する手法について、大きな進展が認められた。また、「トンネル障壁」におけるトンネル時間やドット内の波束の運動の検討など、単電子過程を解明する基礎研究も進展した。
著者
星野 力 丸山 勉 HUGO deGaris 徳永 幸彦 佐倉 統 池上 高志 葛岡 英明
出版者
筑波大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1997

本研究課題でなされた研究をいくつかのカテゴリーに分け、概要を記す。(1)自己複製・自己組織化○マシンによって書き換えられるテープと、テープによって書き換えられるマシンの共進化を研究した。(池上)○自己複製のモデルを観察し、その条件とクラス分けを行なった。(田中、津本)○生物(大腸菌、酵素)による無細胞自己増殖系を実験した。(2)群と生態、進化○魚相互間の運動が創発的に出現する観察を行ない魚群行動を調べた。(三宮、飯間、中峰)○自然界の進化の特徴である進化と共に丸くなる適応度地形を考察した。(徳永)○個体の繁殖と分散のみを仮定した人工生命的シミュレーションを行った(河田)○多重遺伝子族におけるコピー数の増加シミュレーションを行ない、種々の遺伝的冗長性を調べた。(館田)(3)中立進化と頑健性○8つの赤外近接センサーと2つの車輪からなるロボットの行動モデルにおける中立変異の爆発的発現を解析した。(星野)○ロボットの行動進化において、フラクタル性と頑健性との関係を明らかにした。未解決の難問(3階層以上の多段創発の困難)を指摘した。(佐倉)(4)その他○ニューライトネットの進化を10万ニューロンの回路を進化させることで研究した。(deGaris)○細菌の走行性を支える分子機構をシミュレーションによって再現した。(大竹、辻、加藤)○脊椎植物の力学対応進化学を確立した。(西原、松田、森沢)○所要時間最短という利己的な行動を行なうカ-ナビの設計を研究した。(星野、葛岡)○FPGA(適応的に構造を再構成するゲートアレイ)を多数並列に結合しテープとマシンの共進化モデルを長時間計算しようとしている。(丸山)
著者
北原 淳 田坂 敏雄 滝沢 秀樹
出版者
神戸大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1988

1.韓国経済について次の分析がなされた。(1)外から、上からの工業化が本来的都市化を伴わず両者が相克している。都市化は都市非公式部門を肥大化させている。(2)農業部門は70年代末不作と保護政策後退によって緑の革命も後退し全般的落層化が生じている。(3)農村から都市への人口移動は工業化のテンポを上まわった。(4)民主化を担う主体は労働者、雑業層等の民衆である。2.韓国資本主義論争を検討した。かつての民族経済論は現在国独資論にひきつがれて従属理論と相対立する形となっている。国独資論反対論者の一部はその前身である民族経済論をも批判しているが、本来内包的自立的工業化をめざす民族経済論は従属理論の立場からみても正しく評価されるべきである。3.タイ農村の地域労働市場の展開と就業構造について検討した。(1)大都市周辺農村は通勤形態による兼業が一般化し、農村内部では兼業化と緑の革命により急速な階層分化が進んでいる。(2)その中で上層界の脱農化は顕著ではないので中農標準化傾向はあらわれていない。(3)辺境農村では全階層的な遠隔地出稼労働が盛んである。4.NICS的発展の特徴を論じるシンポジウムを、山口博一,劉進慶、駒井洋、加納弘勝、大倉秀介、スリチャイ・ワンケオ各氏の参加のもとに開催し、次のような諸点を議論した。(1)NICS一般を論じるだけでなく国別にきめ細く見てゆくべきである。韓国はナショナリズムが強いのに台湾は弱く外国投資にも積極的である等のちがいがある。(2)NICS的発展は第三世界の不均等発展や日米関係にもとづいた特殊な発展形態であり、必ずしも一般化できない。(3)都市化、工業化は新中間層、労働者、都市雑業層を増加させており、民主化は上下どの階層の利害を代表するかで性格が異なりうる。
著者
菅井 俊樹 篠原 久典
出版者
名古屋大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1997

犬山P/T境界試料中にわれわれは、フラーレンC_<60>を発見し、試料中の濃度は10pptであることをつきとめた。さらに、金華山P/T境界試料や犬山P/T境界近傍試料など複数箇所の試料から、1ppt程度のフラーレンを検出した。C_<60>はサッカーボール型分子でフラーレンの代表的物質であり、これまで主に実験室で合成されてきた。ところが近年、恐竜が絶滅した6500万年前のK/T境界の試料中にC_<60>が発見されるなど、天然試料中にも存在することが明らかになってきた。この地球環境におけるC_<60>をはじめとする炭素フラーレンは木材などの有機物の燃焼や、雷などにより炭素を含む物質が蒸発・反応したことにより生成すると考えられている。フラーレンは生成条件が上述したように特殊であり、また生成後は非常に安定で水にも不溶である。これらの性質から生成時の地球環境を推測する新しい指標として有望である。われわれがC_<60>を発見した2.5億年前のP/T境界では、全地球史史上最大規模の生物の大量絶滅が起こり、海洋生物種の95%が絶滅した。この原因として、超大陸パンゲアの生成による地殻・気候変化と海洋における酸素欠乏などがあげられているが、物証が少なくよく分かっていない。C_<60>は酸素や水素の少ない条件下で効率よく生成するので、P/T境界時のC_<60>の地殻存在濃度を時代を追って調べることにより、各時代にどのような自然環境であったかが明らかになり、生物の大絶滅を解明できる可能性がある。具体的には以下のような方法でC_<60>を発見した。まず愛知県犬山の2.5億年前の黒色泥岩層から約2kgの試料をとり粒径1mm以下に粉砕した。つぎに、珪素や鉄などのC_<60>以外の部分を取り除くため弗化水素酸で一月間溶解させた。C_<60>が含まれている不溶部分をろ過して取り出し、トルエンで超音波洗浄を用いてC_<60>を抽出した。抽出溶液を高速液体クロマトグラフィーとアレイ型検出器を用いて検出・同定した。複数箇所のP/T境界試料からC_<60>が発見されたことで、この時代に地球規模のフラーレン生成を引き起こす現象が起こっていたことが明らかになった。現在のところ生成原因はパンゲアの地殻活動に伴う山火事などで生成したものと考えている。P/T境界時の自然環境との関係とC_<60>濃度の時間・地域依存性を実験に基づいて考慮している。
著者
安井 至 中杉 修身 高月 絋 松尾 友矩 小島 紀徳 川島 博之 山地 憲治 定方 正毅
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1993

各研究分担者の研究課題については、各人の記述を参照されたい。ここでは、E40班全体としての研究活動について記述する。1.最終報告書の検討最終的な報告書の形態の検討を始めているが、現時点では、次のような形態を考えている。まず、当プロジェクト全体の結論を非常に分かりやすい形にまとめた一般図書を2冊発行する。1冊目は、新書として発行し、両方の図書ができるだけ多くの発行部数が期待できる形にしたい。この図書を目次として、さらに詳しく学術的にも厳密に記述された図書を何冊か発行するために、その企画を計画班の班長と共に検討した。2.共通データベースの構築E40全体としては、一般向けの報告書だけではなく、共通して利用できるデータベースの構築とその一般への公開を目指している。取り敢えず、なるべく多くのデータをコンピュータ可読の形にしておき、CD-ROMなどによるデータ提供を行う予定。3.電子的な手段による情報交換手法の活用E40内部の連絡は、できるだけe-mailなどの電子的な手法によって情報の交換を行い、その際に残った記録を上記データベースに活用できるような可能性を高めた。4.ビジュアルな方法論による結果の表示一般社会に結果をアピールするためには、最終的な結果が比較的短時間にしかもビジュアルなイメージとして受け入れられることが必要である。そのためには、WWW上で用いられる各種手法を検討しながら、最適な方法論を検討した。5.合宿形式による意思の統一本研究班は、以上のような日常的な情報交換によって結論への道のりを探るが、平成10年1月6日から7日に、豊橋ホリディインクラウンプラザにて合宿を行い、最終結論に向けての意見交換会をおこなった。
著者
荒木 肇 中野 和弘 福山 利範
出版者
新潟大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1994

農業では土地を利用して動植物の生産がなされるため、地球へのインパクトをゼロにするのではなく、いかに低減するかが課題となる。本研究では除草作業を取り上げ、インパクト低減のための生動的除草(雑草抑制)方法のひとつとして、「生産対象作物の畦間に秋まき性のムギ類をグランドカバー植物として栽培し、地表面を遮光して雑草生長を抑制する」方式を課題として設定し、ムギ類を秋まきと春まきした場合の雑草抑制について検討した。1.秋まき間作ムギの敷ワラマルチによる雑草抑制1993年10月にオオムギ(品種ミノリムギ)と緑肥用コムギをスイカの畦間に播種し、1994年6月8日に出穂した麦稈を刈り倒して敷ワラマルチとして、地表面での遮光程度を麦稈下の光量子密度を測定して評価した。麦稈による地表面の遮光はコムギの方が持続し、穂発芽した新葉による遮光程度はオオムギで大きかった。雑草量は無被覆に比べ、オオムギ麦稈マルチで約1/4に減少し、緑肥用コムギ麦稈マルチで1/10以下に減少した。麦稈の量やその分解の早晩、発生した新葉の大きさ等がムギ種により異なることが明らかとなった。2.ムギ類の春播きによる雑草抑制1994年4月7日に緑肥用コムギを春まきしたところ、播種量8kg/10a以上で雑草量は低下したが、前述の麦稈マルチ程の効果は認められず、雑草抑制率は無被覆の約60%であった。緑肥用コムギの茎葉による土壌被覆能力を光透過や画像を利用して測定すると、地表面への光透過が25%に減衰するのに播種後2か月を要し、雑草抑制能力が小さいのは初期生長が遅いためであった。20系統のオオムギを春まきすると、緑肥用コムギより栄養生長が旺盛な系統も存在し、生物マルチとしての可能性、すなわち、土壌攪拌や防除の削減の可能性が示された。
著者
阿草 清滋 落水 浩一郎 片山 卓也 中田 育男 佐伯 元司 鯵坂 恒夫
出版者
名古屋大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1997

阿草は、既存ソースプログラムを解析しその結果を蓄積するために、細粒度のリポジトリを開発した。CASEツール作成者は、このリポジトリを使うことにより、構文解析や依存解析などのモジュールを作成する手間を省くことができる。ソースプログラムの解析によりライブラリの典型的な利用パターンを発見した。片山は、要求仕様変更とプログラム変更の関係を代数束により形式化し、ソフトウェア発展関係の理論的基礎を与えた。ソフトウェアの段階的詳細化において各段階でプログラムテストを可能とする方式として、抽象実行に基づくソフトウェア構成法を開発した。また、オブジェクト指向開発法の形式化を試み、分析モデルの統合と分析モデルの検証法を与えた。落水は、近年のソフトウェア開発は、分散環境における共同作業であることに注目し、このような環境下でのソフトウェア開発支援のために、開発状況を保持する情報リポジトリを用いて漸進的に情報の矛盾や不確実さの解消を行うモデルを提案し、それに基づく支援環境を構築した。中田は、スライディングウィンドウを持つ計算機の命令レベルの並列化のために、ループのソフトウェアパイプライニングのレジスタ割付方式としてスパイラルグラフを提案した。また、コメントの処理などに必要とされる字句解析器の最短一致法を開発した。佐伯は、再利用プロセスの形式化をユースケースのパターン化とその構造変換規則として行った。分析パターンや設計パターンの構造をパターン化し、必要に応じてホットスポットを埋める手法を提案した。また、ソフトウェアアーキテクチャをカラーペトリネットで形式化し、非機能要求の検証を可能とした。
著者
小柳 武和 笹谷 康之 山形 耕一 三村 信男
出版者
茨城大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1993

本研究では、地域社会の海岸に関わる開発計画、特に観光レクリェーション計画、景観計画の見地から、茨城県北部の海岸を対象に、海岸部の都市化による影響と海岸域の有する環境的資質を把握することを試みた。その結果、以下の成果を得ることができた。(1)茨城県の海岸保全施設の設置状況を調査し、自然海岸の景観タイプ、人工海岸の形態の類型化を行い、海岸景観の状況を把握することができた。(2)海水浴場、港湾等における現地調査とアンケート調査により、海岸部のレクリェーション利用特性を把握するとともに、釣り、磯遊び、バードウオッチング等の観点から、レクリェーション資源としての生物の分布と地形特性等との関連性を把握することができた。(3)民俗学的調査やアンケート等の調査から住民やレジャー活動をする人々の海岸環境の認識とイメージ把握、更に、海岸環境の保全・活用への意識を探ることができた。(4)日立市域の海岸を含めた地形、土地利用等に関する細密データシステムを構築し、海岸環境の表現および評価支援システムを開発した。以上の成果に基づき、海岸環境計画に資する知見をまとめると以下のようになる。(1)海岸のレクリェーション活動の多くは、海岸の自然環境をベースとしており、その開発計画において自然環境を重視した海岸域の保全・活用計画が不可欠である。(2)住民の日常生活や漁業の場あるいは港湾施設等がレクリェーション活動の場となっており、今後、複合的利用のためのルールづくりやゾーニング等の方策づくりが重要である。(3)沿岸域には、神磯など民俗学的に重要な磯や魚介類の生息する漁場として重要な磯場が多数存在する。沿岸域の環境計画策定のためには、現在情報の不足している海中(干潟も含めて)の詳細調査が必要である。
著者
西 荒介 吉原 照彦 南川 隆雄 橋本 隆 茅野 充男 大山 莞爾
出版者
富山医科薬科大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1990

本研究は2つのグル-プの協力によって進められた。第1のグル-プは植物のシンク機能に関係する遺伝子の構造と発現調節を調べ、第2のグル-プは同機能の発現に影響する生理活性物質の解明を目的としている。第1グル-プの大山は光合成細菌の形質転換系を用い、ゼニゴケ葉緑体の未知遺伝子と相同性を示す遺伝子のクロ-ニングを行った。たん白や酵素遺伝子の発現調節機構を検討するため、南川はマメの種子の数種のたん白や酵素について、新名は西洋ワサビのペルオキシダ-ゼについて、それぞれの遺伝子の構造を解析すると共に、そのプロモ-タ-領域をレポ-タ-遺伝子につないで異種植物に導入し発現の様子を調べた。小林はシロイヌナズナの組織やカルスを用い、光合成遺伝子の転写活性とDNAのメチル化の関係を調べた。。庄野は細菌型インド-ル酢酸合成経路の少くとも後半の部分は植物にも存在することを確め、その生理機能の検討を進めている。第2のグル-プで吉原はキクイモからツベロン酸外数種の塊茎形成物質を単離、またタマネギの鱗茎形成物質を追求している。一方、山根は鱗茎形成抑制物質と考えられるジベレリンの作用を検討するため、その分布と変動を調べた。橋本はヒヨシアミン水酸化酵素の抗体を用い、細胞免疫化学的に同酵素の分布を調べ、根の内鞘での特異的発現を認めた。茅野はダイズ貯臓たん白の遺伝子を得て、それを異種植物に導入し、栄養による発現調節がダイズと同様におこることを確めた。西はニンジンのファイトアレキシンの生合成経路を明らかにし、またエリシタ-の刺激伝達に関係するとみられる各種の要因を調べた。上野もエンバクのファイトアレキシンに関し、その化学合成に成功すると共に組織内分布を調べ、抵抗性との関係を検討している。坂神はエンドウで種子のみに存在するオ-キシン、4ーCLーIAAの量的変化を種子の成熟段階を追って測定し、その集積機能における役割を調べた。
著者
友田 修司 下田 昌克
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1989

今年度はSe-Se結合をもつ3種類のホスト分子の新規合成およびX線構造解析を行った。さらにホスト分子に取り込まれた銅(II)イオンとSe-Se結合との間に容易に電子移動が起こることを示唆する実験結果が得られた。まず、セレンユニットの最も基本的なモデル系として、無置換のo-異性体o-C_6H_4(SeCN)COClにホスト部位を導入した後に-SeCN同士のカップリングを行い、クラウンエ-テル型ホスト分子(1)、クリプタンド型ホスト分子(2)、およびキレ-ト型ホスト分子(3)をそれぞれ合成した。合成したホスト分子(1,2)についてX線構造解析を自分で行い分子構造を明かにした。1は長方形の空洞をもち2個の金属イオンを同時に取り込む可能性がある。セレン原子の超原子価性に起因すると考えられる分子内相互作用が明かとなった。同様に2においても、SeとOの原子間距離が異常に短くなっており、これらの原子間に引力的相互作用が存在することが判明した。セレン原子の超原子価性は大環状分子の安定化に大きく寄与する一方で、ホスト部位の配座を固定化し、ポリエ-テル鎖の立体配座を歪ませている。3の構造を決定するため、塩化銅(II)とメタノ-ル中で攪はんして生じる緑色沈澱を集め、クロロホルムより結晶化したところ少量の濃青色結晶が得られた。これをX線構造解析したところ、銅は6配位でSe-Se結合が酸化的に返断されセレネニルクロリドとなっていることがわかった。これは銅とSe-Se結合との間に何等かの電子的相互作用があったことを強く示唆している。この錯体はメタノ-ル中でアルケンと反応させると、ほぼ定量的にメトキシセレン化反応を生起した。今後、この錯体の反応性解明も含めて、ホスト分子1-3の錯体合成とその構造・性質に関する検討を行って行きたい。
著者
高橋 潤二郎 渡辺 貴介 盛岡 通 鈴木 邦雄 久保 幸夫 淡路 剛久
出版者
慶応義塾大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1990

この研究の目的は、広域都市圏の湾岸域を対象に望ましい親水環境を明らかにし、その実現のための体系を構築することである。本年度は、第一年次であるため、東京湾岸域の土地利用、親水条件、住民の親水イメ-ジ、市民の親水活動・イメ-ジ選好・居住環境に対する意識構造、親水環境としての植生、行政主導型ウォ-タ-・フロント計画などの実態把握と分析を行なった。土地利用・海岸利用施設に関しては、国土庁湾岸域情報を入手して読み込み用・地図作成のソフトを作成し、空中写真・リモ-トセンシング映像・空中写真などと併せて湾岸域の総合的なマルチメディア・デ-タベ-スシステムの作成を目的として、埋立地を対象にディジタル化・デ-タベ-ス化を行なった。親水条件に関しては、市民の湾岸域へのアクセシビリティについて東京都を取り上げ、マストランゼッションと湾岸の土地利用親水性との関連を明らかにした。市民の親水イメ-ジを知るために、横浜〜富津の公立小中学校の校歌(357曲)を取り上げ、これを8イメ-ジ、12モチ-フ、4場面の計24のカテゴリ-に分け、これを数量化3類で分析し、4つに類型化するとともに、それらが時代や地域と深くかかわっていることを明らかにした。東京湾における活動・イメ-ジの居住者による選好特徴は、景観に関する内容が大きな割合を占めていて、活動・イメ-ジでは自然的な内容が望まれていることがわかった。親水環境としての植生に関しては、環境指標となる植生単位の抽出を行なった結果、3つのグル-プに分けられることが明らかになった。行政主導型の計画を取り上げ、国・自治体・企業・住民の役割について、船橋・市川・川崎を例に、その問題点を明らかにした。
著者
斎藤 正徳 井宮 淳 島倉 信 亀井 宏行 田中 秀文 奥野 光
出版者
東京工業大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

地磁気のベクトル計測が行える探査装置として、「3軸グラジオメータ」を世界に先駆け開発した。3軸グラジオメータは、1インチ径のリングコアを用いたフラックスゲート型センサを3組直交配置した磁力計を、垂直方向50cm離して1本の支持棒に取り付けたもので、出力は磁気勾配3成分(上下のセンサの差出力)と、上方のセンサで捕らえた地磁気3成分である。センサ高は、支持棒への取り付け位置を調整することで、任意に変えられる。測定は、指示棒に取り付けられた水準器で垂直度を確認しながら行う。垂直軸周りのセンサの回転は、上方のセンサからの地磁気3成分を用い、補正することもできる。感度は磁気勾配で、1nTである。本体には、4,000点での測定値を記憶できるメモリを備えており、RS-232Cインターフェイスを介して、コンピュータにデータ転送できる。バッテリ-駆動で、約8時間測定可能である。この3軸グラジオメータを用い、夷森古墳(宮城県宮崎町)、根岸遺跡(福島県いわき市)、大戸古窯跡群(福島県会津若松市)、田尻遺跡(群馬県子持村)、猿田窯跡(群馬県藤岡市)、大寺山洞穴(千葉県館山市)、石ノ形古墳(静岡県袋井市)、大知波峠廃寺(静岡県湖西市)、象鼻山1号墳(岐阜県養老町)、稲荷塚古墳(京都府長岡京市)、久米田貝吹山古墳(大阪府岸和田市)、行者塚古墳(兵庫県加古川市)、七日市遺跡(兵庫県春日町)、東山古墳群(兵庫県中町)、岩戸山古墳(福岡県八女市)、西都原古墳群横穴墓(宮崎県西都市)の各種遺跡において探査実験を行い、本装置の有効性を確認するとともに,本装置をもちいた探査アルゴリズムを確立した。
著者
津田 基之 岩佐 達郎
出版者
姫路工業大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

多くの視物質のアミノ酸配列が明らかにされており、視物質は分子進化を研究する上で格好な蛋白質である。しかしその多くは脊椎動物の視物質で、無脊椎動物では昆虫と頭足類に限られている。これらは動物界ではほんのわずかな種類であり、分子系統樹を確立するためには広い動物種の視物質の情報が必要である。我々はすでに頭足類タコ、無顎類やつめうなぎの視物質のクローニングをした、昨年はプラナリアの視物質のクローニングを行いこれが頭足類に似ていることを示した。本年は種々の無脊椎動物の眼のcDNAを得て試してみたところ、ゴカイ、クラゲ、ヒトデ等からロドプシンに相同性を示すDNA断片を得ることができた。さらにクラゲでは全長の遺伝子をクローニングできた。原索動物ホヤの幼生は脊椎動物の始原型であり、特に重要である。我々は、ホヤの初期幼生cDNAライブラリー、初期幼生の種々のステージの全RNAから得たcDNA、ゲノムDNAをテンペレートとしてPCRを試みても、目的とするサイズの特異的バンドは得られなかった。そこでタコロドプシン遺伝子、ウシロドプシン遺伝子をプローブとして種々の条件でサザンハイブリダイゼーションを行ったところ、各々のプローブに相同性を示す、いくつかのバンドを同定することが出来た。現在これらの知見を基にホヤのゲノムライブラリーのスクリーニングを行ている。
著者
黒田 壽郎 前田 成文 竹下 政孝 霜垣 和雄 沢井 義次 大塚 和夫
出版者
国際大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1989

前年度は、イスラ-ムの都市性、とりわけイスラ-ム的宗教意識と都市形成原理の相関関係を明らかにするため、タウヒ-ド、ウンマ、シャリ-アが構成する三極構造の本性と、それが帰結するイスラ-ム世界固有の社会形成原理について研究を行ってきた。この基礎研究の成果をふまえ、今年度は、共同体形成原理の法的側面から研究を進めた(第6回研究会)。またマスジドがイスラ-ムに固有の聖俗関係を保持しつつ、共同体形成に密接に関わっている点に着目し、キリスト教社会、仏教社会との比較研究も行った(第9回研究会)。以上の基礎的、理論的研究ではそれなりの成果を上げ得たが、イスラ-ム的宗教意識と都市形成原理の相関関係は、現実のイスラ-ム都市に引き当ててその理論的妥当性を検証しなくてはならない。H班ではシリアのアッポを研究対象とし、対象研究の方法について討議、検討を重ね、またイスラ-ム社会と都市における異教徒の調和的共存とイスラ-ム共同体の形成原理に関する討議を行った。(第5、8回研究会)第7回研究会では、上記とは異なる視点からイスラ-ム的ネットワ-クと都市、イスラ-ム経済と都市の問題などについて討議を行った。これらの問題も単独で存在するものではなく、上記三極構造と密接な関係をもつことが確認された。具体的成果としては、第6回研究会報告書を出版、同時に都市性と深く関わるイスラ-ム経済活動の基本構造に触れたシャイバ-ニ-の『利得の書』を訳出、刊行した。他の研究会成果も発表予定である。また以上の研究に伴い、イスラ-ム共同体論、共同体形成論、都市形成論などの基礎的文献を収集するとともに、シリア,アレッポ関係の文献、地図などの収集にも務めた。
著者
浅井 冨雄 松野 太郎 光田 寧 元田 雄四郎 武田 喬男 菊地 勝弘
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1988

(1)1988年度は観測期間を2週間とし、1988年7月6日〜7月19日まで初年度とほぼ同じラジオゾンデ観測網を展開した。本年度は目標(2)にも重点を置いて、レーダー観測網の展開をはかった。即ち、名大・水圏研は福江、北大・理は西彼杵半島北大・低温研は熊本、九大・農は福岡でそれぞれレーダー観測を実施した。2週間の観測期間を通常観測(12時間毎の高層観測と定時レーダー観測)と強化観測(6時間〜3時間毎の高層観測と連続レーダー観測)に分け、研究者代表者の指示によりそれぞれ実施した。観測中前半は梅雨明けの状況となったが、後半には、特に16〜19日にはかなりの豪雨が観測され、目標(2)の研究が可能な観測資料が得られた。現在、各分担者がそれぞれの資料を整理し、解析しつつある。(2)1987年7月の特別強化観測期間中は降水現象は殆ど観測されなかったが、その前後にはかなりの降水が見られるので、7月の1カ月間について総観的解析をその期間の中間規模擾乱に焦点を合わせて行いつつある。7月上旬の降水の特徴と中旬のそれとの間には顕著な差異が見出された。前者は比較的広域に一様な降水、後者は狭い範囲へはの集中豪雨的な特徴を示した。後者については中間規模低気圧とそれに伴うクラウドクラスターと降水系の南側に下層ジェットが見出され、その生成機構が水蒸気凝結潜熱の解放による中間規模低気圧の発達に伴うものであることが示された。(3)数値モデルの研究では(a)特別観測を含む梅雨期間中について微細格子モデルを用いて中間規模低気の予報実験を行い、モデルの改良を試みつつある。(b)現在開発中の積乱雲数値モデルに地形効果を導入して本年度の観測資料等と対比しながら、豪雨生成に関与する対流雲の組織化、移動、停滞などの機構を調べるためにモデルを改良しつつある。
著者
石川 征靖 武田 直也
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1994

私達は国内の4大学4研究室(電通大、京大、東大教養、明治学院大)から提供された有機化合物試料における強磁性の発現を希釈冷凍機中で交流磁化率やM-H磁化曲線を測定して調べた。その結果、芳香族メチレンアミノ基をもつTEMPOラジカルをはじめとする7個の異なった化合物において0.07〜0.5Kの温度領域で強磁性転移を確認した。それぞれのグループの化合物は構造をはじめ全く異なった性質の物質であることを考えると、本研究で調べたような温度領域では有機強磁性の発現は相互作用は小さいながらもかなり普遍的な現象であることがわかった。どのような条件下で(どのようなラジカルで、どのような構造で)強磁性が発現し、その転移温度が高められるかを系統的に調べることが今後の課題で、TEMPOラジカルに関して結晶構造と強磁性の発現の相関についての研究を開始した。。また一方で、早大理工の研究室と強磁性ポリマーの探索に関する共同研究を開始した。本年度の研究成果は3篇発表済み、2篇投稿中である。
著者
山田 知充 井上 治郎 川田 邦夫 和泉 薫 梶川 正弘 秋田谷 英次
出版者
北海道大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1987

降雪や積雪などの雪氷現象に関わる災害の中で, 新聞に報道されるものは社会的関心が高く, 日常生活に深い関わり持っている. 雪害は自然現象と人間社会との関わりであるから, 地域や季節および時代により雪害の内容や発生機構は変化する. 本研究では新聞記事からの雪害事例収集を統一的に行い, 雪害記載カードを作製し, これを基に雪害のデータベースを作製した. 北海道, 秋田県, 新潟県, 富山県, 石川県, 滋賀県, 京都府, 福井県, 兵庫県について, それぞれの地方新聞を用いて, 豪雪年(昭和55-56年冬期)寡雪年(昭和61-62年)の2冬期分につき約1,800件のデータベースを完成した.一方, 雪害と自然現象を対比するため, 対象地域の2冬期分のアメダスデータを磁器テープから地域別に編集し, フロッピーデスクに収録した. 雪害の発生, 規模, 内容の地域特性と自然現象を比較するため, 本年2月末, 対象地域一体の126地点にわたって積雪調査を実施した.いずれの地域も, 雪害件数の最多は道路や鉄道等の交通等の交通障害, 次いで雪が原因となった交通事故であった. 豪雪年は道路除雪が不備なため, 走行車両の減少と低速走行のため, 事故件数は減る傾向にあるが, 除雪が完備すると事故件数の増加が予想される. 豪雪年には建物の倒壊や雪処理中の人身事故が目だつ. 京都, 滋賀では列車の運行規制, 道路のチェーン規制, 北陸地方では屋根雪処理中の転落事故, 東北地方では他県での降雪による列車の遅れ(もらい雪害), 北海道では空港障害が多く, 雪害の種類や規模の地域的特徴が明らかとなった. 雪に対する防災力が地域と季節によって大きく変化するため, 雪害を発生させる降雪量は地域差が大きい. 小雪地では数mm/dayの降雪で雪害が発生するが多雪地では40mm/day程度である. 社会の進化に応じて雪害の様相も変化するため, 雪害の予測や対策のために継続した調査が必要である.
著者
堀 憲次
出版者
九州大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

本研究では、モデル化合物N-formylaziridine及びそのプロトン付加体に関して極限的反応座標(IRC)を含めた詳細な非経験的分子軌道(MO)計算を行い、1-アシルアジリジンの異性化反応機構を理論的に検討することを目的とした。これに関連して、N-formylaziridineと同じくアミド部分を有するアジリジン誘導体、1-(R)-α-methoxy-α-trifluoromethylphenyl-acetyl-(S)-2-methyl-aziridineにおいて実験を行い、MO計算結果と比較検討を行った。その結果以下のことが判明した。(1)強い求核種が存在しない反応条件では、低い活性化エネルギー(38.9kcal mol^<-1>)の遷移状態(TS)を経て反応は進行する。このTSを経る反応は、反応前後でアジリン環の不斉炭素の立体を保持するS_Ni機構であることが、IRC計算により確認された。(2)スキーム1に示す反応では、メチル基ヲ持つC-N結合が選択的に解裂する。このモデル反応えは、28.2kcal mol^<-1>、置換基の無いC-N結合の解裂には、39.8kcal mol^<-1> の障壁があると計算された。両者の結果は良い一致を示している。(3)強い求核種(本研究ではCl^-をモデルとした)によるアジリジン環の開環と線型中間体の生成反応の活性化エネルギー(14.0kcal mol^<-1>)は、S_Ni機構のそれに比べて小さいと計算された。従って、強い求核種の存在下では、線型中間体の生成がS_Ni機構に優先して進行する。しかしながら、カルボニル酸素による2回目のS_N2反応は、高い活性化エネルギーを有する(45.4kcal mol^<-1>)と計算された。この結果は、実測された最終生成物の遅い反応速度と良い一致を示している。