著者
桜井 弘 今倉 康宏 田和 理市
出版者
京都薬科大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

前年の成果を踏まえて、本年度は、ポドフィロトキシン関連化合物として、シリンガ酸(SA)およびデメチルエピポドフィロトキシン(DEPD)の選び、これらの銅(II)錯体によるDNA切断反応を検討した。まず、アガロースゲル電気泳動法によりM13mp18ssDNAを用いて、銅錯体によるDNA切断反応が生ずること、及び銅(II)単独又は薬物単独ではDNA切断は生じないことを確認した。次に、同じ系によりポリアクリルアミドゲル電気泳動を用いてシークエンス反応をおこなった。その結果、SAーおよびDEPDー銅錯体によりDNA切断反応は塩基特異的に生じていること見い出した。すなわち、同系によるDNA切断反応は、シトシン(C)部位で切断が優先的に生じていることが明かとなった。また、チミン(T)やグアニン(G)部位においても切断が見られたが、C部位と比較するとその程度は低かった。アデニン(A)部位ではDNA切断はほとんど生じていないことが判った。次に、ポドフィロトキシンに鉄(III)を共存させ、紫外線照射を行うとDNA切断反応が増大し、かつ反応中に・OHの生成が認められるため、本反応における酸化生成物の同定を試みた。反応を行った後、薄層クロマトグラフィー及び液体クロマトグラフィーにより化合物を分離精製し、NMRを用いて構造解析を試みたところ、現在、4種の化合物を同定することができた。しかし、まだ十分量を得ることが困難であるため、詳細な物性やDNA切断反応を行っていない。この検討を続け、十分量得ること、さらに未同定の化合物の構造決定を行いたいと考えている。これらの知見により、詳細な紫外線照射下における活性酸素生成に関する考察を行うことを計画している。
著者
永井 美之 速水 正憲 内山 卓 足立 昭夫 山本 直樹 塩田 達雄 長澤 丘司 松下 修三 生田 和良
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

本研究は延べ約80名の研究者を、1。HIVの複製機構、2。病態のウイルス学的基盤、3。病態の免疫学的基盤、4。エイズの動物モデル、5。感染と病態の制御の5つの柱のもとに組織し、細胞、モデル動物、そして自然宿主であるヒトのレベルでのHIV感染機構の解明、感染に対する宿主応答の実体の解明をとおして、エイズ発症の仕組みを理解するとともに感染発症の阻止と治療のための新しい方法を開発することを目指した。3年間の取り組みの結果、HIVの複製過程におけるウイルスの各蛋白と細胞分子との新しい特異的相互作用の発見とその実体解明、病態進行速度と密接に関連するウイルスゲノムの特異的変異と宿主側蛋白および遺伝子多型の同定、ウイルス排除のための細胞傷害性T細胞エピトープの同定、HIV複製に必須のヒト因子を導入したマウスの開発、ヒト細胞移入SCIDマウスによるHIV感染評価系の確立、ウイルス病原性研究のためのサルモデルの開発、ウイルス特異的反応およびウイルスと細胞の特異的相互作用を標的とする新しい抗ウイルス候補剤の発見および開発、などの多くの成果をあげた。その結果、細胞レベルから個体レベルにわたって、感染と病態を制御する新たな局面の数々が分子レベルで解明されるとともに、それに基づくエイズ制御の新しい戦略を示唆することができた。今後の重要課題の一つとして、高リスク非感染者、長期未発症者などの解析により、HIV感受性と病態進行を決定する宿主の遺伝的基盤と免疫学的基盤の解明がある。また、多剤併用療法奏効例の解析による免疫能再構築の実体解明も重要である。さらに、エイズのすざましい世界的拡大に対処するために、ワクチン開発の取り組みの強化は必須である。
著者
宮崎 正康
出版者
東洋英和女学院大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1993

「経済復興政策と経済団体」に関して、以下の研究を行った。1.戦後復興政策に関連して、企業再建整備の過程で累積した重点産業の新勘定赤字を処理する政策について分析を深めた(発表論文を参照)。2.戦後の株式市場の復興と育成において、財界、政界、官界が果たした役割について検討した。(1)戦後、GHQにより証券取引所が閉鎖され、株式市場はほとんど何もないところから再建されることとなった。株式を介した直接金融の発展が、企業復興・経済発展に不可欠であることを認識し、株式市場の復興に最も積極的に活動した政治家は池田勇人であり、金融人では一万田尚澄等であった。(2)日本証券取引所の平和不動産への改組、証券取引所の再開、東京証券株式会社の日本証券金融会社への改組、投資信託の営業許可等、株式市場の復興・育成に関する占領期の大きな問題の解決には、それぞれ池田勇人や一万田尚澄等のバックアップやGHQへの働きかけがあった。(3)株式関係者、あるいはより広く経済関係者は、これらの有力者を公的・私的にもりたてる行動をとった。例えば池田については、池田の出席る二黒会や火曜会といった会が定期的にもたれていた。二黒会には、小林中、堀田庄三、水野成夫、東畑精一とともに、山一証券の小池厚之助が参加していたし、火曜会には、桜田武、水野成夫、小林中、永野重雄とともに野村証券の奥野綱雄が参加していた。
著者
松原 望 土井 陸雄 斉藤 寛 北畠 能房 池田 三郎 阿部 泰隆
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1990

人為起源物質のリスクの動的管理システムを開発するための第2のステップを踏み出した。第1のステップは動的管理のコンセプトをi)観測可能性,ii)費用計算可能性,iii)制御可能性の三つを中心として抽出する段階で、これはあくまで抽象的コンセプトであった。これに具体性を与えるための枠組を探り、2,3年目の最終具体化段階へ移行させる最初の踏み出しが、第2のステップである。次の事項を抽出した。I.制御可能性 「個体差」「安全係数」を重視し、初期対応の機会を逃さず、全体のモニタリングを欠かさない。制御の法的可能性も重要である。II.観測可能性 「統計死」がリスク管理の対象であり、リスク管理の理論が必要となる。III.基用計算可能性 リスク管理は、「個人の選択」を基本としつつ、その情報サポ-ト、効果の社会経済計算で支えられる。
著者
茂原 信生 松村 博文
出版者
獨協医科大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1989

本研究は、当面は基礎データの収集と文献的データの収集が主な仕事である。基礎データの収集は、計測による研究を主にし、歯冠近遠心径頬舌径の計測をおこなった。非計測的データ(22項目)もあわせて収集した。対象とした材料は、日本およびアメリカの各研究施設に所蔵されているアジア系モンゴロイド人骨合計2249の上・下顎歯である。分析は統計的な解析方法(多変量解析)を用いた。それにもとづいて、まず日本国内の各時代・各地域の集団を調査し、それぞれの変異を明かにした。計測的なデータから得られた分析結果と非計測的なデータから得られた分析結果とは、現在収集している日本人のデータに関するかぎり、かなり高い関係が見られた。どちらの方法によっても「縄文・アイヌ」の集団と「弥生・中世・現代人」の集団とに分離された。この他、古墳人は弥生時代人に最も近く、現代人の含まれる集団の方に属している。ただし、種子島の弥生人は「縄文・アイヌ」の集団に近く位置し、やや特殊な位置にある。このような地方差や時代差を検討するためには、日本人の祖先となるモンゴロイドの大陸からの流入に関しても、琉球列島経由にようものと朝鮮半島経由によるものとの相互関係を詳しく調べる必要がある。縄文人では、東日本縄文人と西日本縄文人との間の歯の大きさに差があり、東日本縄文人の方がやや小さかった。このように、縄文時代人の中での歯の大きさの変異は地理的な分散と対応している。今後の分析には、日本人の直接的な祖先となったと考えられる系統をひいている中国人のデータが必要になり、次年度の調査目標である。これらの歯の調査の他に、アジア・オセアニアおよび北米のモンゴロイドの歯に関する文献データベースを集積中である。
著者
中谷 英明 徳永 宗雄
出版者
神戸学院大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1997

本研究の目的は、『マハーバーラタ』と『ラ-マ-ヤナ』という古代インドの2大叙事詩の韻律の解明である。両名は2年来、2大叙事詩の韻律解明を行ってきたが、この過程において、インド古典期のもっとも普通の韻律形式であり、2大叙事詩においては9割以上を占めるアヌシュトゥブ(シュローカ)律の変遷を探るうち、アヌシュトゥブが、インド最古の文献『リグ・ヴェーダ』において、ガーヤトリー律から派生したことを示す新事実を発見した。『リグ・ヴェーダ』における生成から、2大叙事詩に至るまでのアヌシュトゥブの展開が、ここに初めて連続的に明らかになったと言え、インド韻律史上の重要事実であるから、本年度はこの発見を学界に報告することとした。その事実は、「韻律パターンの使用頻度」に関わる。パターンを一々数えなから作詩することは不可能であり、作者にとってほぼ無意識の領域に属すると推定される。しかし3行ないし4行から成る1詩の各行によって異なるパターン頻度が認められること、しかもそれが2種の異なる韻律(ガーヤトリーとアヌシュトゥブ)の間でまったく平行することは、熟練した詩作者の心の内にある微妙な韻律観念を映し取るものと言えよう。詩人のこの繊細な感覚には驚きを禁じ得ない。統計的研究は、今後この種の人間精神の精妙な働きを、さらに明らかにしてゆくであろう。またこの例は、古典期の複雑に規程された韻律形式が、本源において、ここに認められるような詩人の半ば無意識的な、柔軟なリズム的感性から発生し、次第に固定化したものであることを明瞭に示しており、インド韻律史的観点からも極めて興味深い。
著者
野本 明男 岡田 吉美 豊島 久真男 吉倉 廣 永井 美之 石浜 明 豊田 春香 永田 恭介 水本 清久
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

本年度は、重点領域研究「RNAレプリコン」のとりまとめを行った。平成7年6月12日に北里大学において、第1回総括班会議を開催し、とりまとめに関する話し合いが行われた。この会議では、これまでのとりまとめ方法のみならず、今後のRNAレプリコン研究発展を目指した本年度の活動が話し合われた。その結果、「RNA情報のフロンティア」と題する一般公開シンポジウムを11月28、29日の両日、日経ホールにて開催することが決定した。このシンポジウムは重点研究「エイズの病態と制御に関する基礎研究」(代表・永井美之)との合同シンポジウムとし、RNA情報の多元的制御メカニズムを紹介、さらにRNA研究の重要性と面白さを一般にアピールすることであった。例年のように、各種RNAレプリコン単位のミニシンポジウムも開催することが決定され、植物のRNAレプリコン会議(世話人・渡辺雄一郎)およびレトロウイルス複製会議(世話人・岩本愛吉)が、それぞれ岡山大学資源生物研究所(平成7年10月30日)および東京大学医科学研究所(平成8年1月20日)において開催された。さらに、この領域の若手を世話人(永田恭介、小林信之、中西義信)とした公開シンポジウム「ウイルスを利用する人類の知恵-アポトーシス制御、ウイルスベクター、遺伝子治療」を平成8年2月6日に東京大学山上会館で開催した。いずれのシンポジウムでも多くの参加者が集まり、熱のこもった討論が行われた。本年度の最後には、ニュースレター最終版を発行し、来年度の前半に領域代表者による研究報告書の作成が行われることが決定されている。
著者
北原 鉄也
出版者
愛媛大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1994

本研究は、政治経済的な視角から戦後日本の分析を試みた。まず、愛媛県における経済は戦後しばらくは繊維工業など中心に発展したが、高度経済成長が始まる時点から相対的な停滞に陥った。そこで政治・行政による経済開発が推進されたが、ある程度の成果は見られたものの、キャッチアップには成功しなかった。1970年代には格差は拡大しなかったものの、1980年代には再び経済的な停滞に陥り、テクノポリスなど政治・行政主導の地域開発が試みられたが、それも大きな成果を生んではいない。大分県は愛媛県以上に新産都、テクノポリスなど政治・行政主導の地域開発が成功した地域である。両県を比較して、経済との関係で政治の展開を見ると、愛媛県の場合には、政治が一貫して経済に優位して、経済の合理的な発展が抑制される傾向があり、政治の支配のために経済開発などが使われたと言えた。それに対して、大分県の場合には、経済開発や地域活性化の正否が優越して、それを達成する装置として政治・行政があったと考えられる。どちらも政治・行政の優位の体制と言えるが、政治権力志向型と経済成果志向型という違いがあった。本研究のキ-概念である経済の「自由化」の契機は十分に活かせなかったが、後進地域では政治の「民主化」を契機にして一貫して「政治の優位」という枠組みが存在するという仮説は、ケーススタディを行った愛媛県や大分県では妥当した。課題として残された問題は、ばらまき的な中小企業対策の政治とその効果、農協などを中心にした産地やネ-ットワークづくりの成果などの分析である。後進地域の政治経済の研究にとって、今後の課題である。
著者
北原 鉄也
出版者
愛媛大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1993

本研究の目的は、後進地域を対象にして戦後日本形成の分析を行うことである。その焦点は地方政治と経済との相互関係にあり,手法はケーススタディ(愛媛県と大分県)である。なお,本年度の研究は予算等の関係から愛媛県を中心に行った。成果は以下の通り。(1)愛媛県では昭和20年代には地方政治と経済との関係はあまりなかった。例外として,戦後改革による「民主化」と経済の「自由化」との矛盾から労使紛争の多発等が見られた。また,ダム建設は国策としての電源開発に留まらず、水不足の四国地域では決定的な課題である利水の手段(生活用水,工業用水等)であった。各県、各地域間の調整,国家事業の導入等には多大の政治的エネルギーが注がれた。その点では政治は経済にとって必要であり,この必要は40年代後半まで続いた。(2)30年代は重化学工業化が全国的に展開されていたが,愛媛県での取り組みは30年代後半に始まる。その遅れの原因としては、保守内対立の激化による県政の混乱があげられるが、繊維などの地場産業、新居浜における住友系企業群等の存在が積極策を取る意欲を弱めたことも重要である。40年代に入っての本格的な経済開発(大規模埋め立て等)は,低成長期にも強力な政治的リーダーシップによって強行された。(3)50年代にはそうした外来型工業化の行き詰まりを補うために地場産業等中小企業の育成への取り組みを始めたものの、他方では先端産業、リゾート等の開発など国策に従った開発も進めていた。試験所設立等地場産業対策に先進性があるが、一般的には行政は地方経済に大きな貢献をしているとは評価できない。ただし,この時期を境に,これまでの経済界の優位ないし独立性が失われ,政治の優位が始まった。住友の新居浜離れ、地場産業の衰退などを条件として政治への依存を強めたことが基本的条件であるが、保守による強力な政治的統一が確立したことが重要であると考えられる。
著者
島崎 邦彦 中田 高 中村 俊夫 岡村 眞 千田 昇 宮武 隆
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

別府湾中央断層および北西部の三名沖断層、沖の瀬沖断層において音波探査およびピストンコアリングによる堆積物採取を行った。別府湾中央断層では過去6300年間に最大20mの上下食い違い量が見いだされている。この最も活動度の高い部分でコアリングを行い、断層の南北両地点で海底下16mを超える深度までの連続不撹乱試料を得ることができた。断層を挟む堆積物の対比結果により、海底面から海底下約2.5mまでは大きな上下食い違いを生じていないことが明かになった。年代測定の結果を考慮すると、過去1000年間この断層からは大きな地震が発生していないと結論される。しかし、断層の北側海底下2.5mから5mまでの間に、断層の南北で約7mの上下食い違いを生じている。この約7mの上下食い違いは年代測定の結果によると、2000年前から1000年前までの間に生じたと推定される。対比面の数が少ないため決定的な議論はできないが、約2000年前に7mの上下食い違いを生ずる大地震が発生した可能性がある。(他の可能性は、2000年前から1000年前までの間に複数回地震が発生した。)過去6300年間に約20mの上下食い違いを生じているので、一回の地震で7m食い違いを生ずるとすれば、過去6300年間に3回地震を発生したはずである。平均繰り返し間隔は約2000年となる。これは、昨年度の研究によって明かとなった中央構造線活断層系西部の松山沖の部分の繰り返し間隔とほぼ等しい。この両者はほぼ同じ時代に地震を発生している可能性があり、80km近く離れているが、力学的になんらかの連動性を持っているのかも知れない。中央構造線活断層系の四国中央部、および四国東部の部分も同様な繰り返し発生間隔であるとの推定があるが、最新の地震活動は、いずれも2000年前より新しい。このため現在の地震発生ポテンシャルは、西部の松山沖が最も高いと考えられる。同様に、別府湾中央断層も地震発生ポテンシャルが相対的に高いと結論される。
著者
小柳 義夫 伊藤 守 若林 とも 寺田 英司 田中 勇悦
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1994

ヒト免疫不全症ウイルス(HIV)は、AIDSの原因ウイルスである。しかし、このレトロウイルスがヒトにしか病気を起こさないために、その発病機構の解明ならびに治療薬の開発が大きく遅れている。我々は近年新しい方法として重篤な免疫不全マウスであるSCIDマウスにヒトの造血組織を移植し、ヒトのリンパ球細胞を構築する方法を用いて以下の結果を得た。SCIDマウスに正常人末梢血単核球を腹腔内に導入し、2週間後に100感染価のHIVを接種し、感染後1、2さらに3週間後いずれの時期にもウイルスの増殖をマウスの腹腔内、血漿中さらにリンパ節あるいは胸腺において確認した。確認の方法はPCR法によるウイルスDNAならびにRNA測定法、あるいはHIV-1p24抗原量を測定するELISA法である。その結果NSI型ウイルスすなわちマクロファージ好性ウイルスが増殖性が強く、その範囲は接種した腹腔内に限られるのではなく、リンパ節あるいは胸腺などのリンパ組織に広がっていることが明らかになった。この事実はNSI型ウイルスが初感染時には、まず生体内で増殖するという今までの知見を考えると、NSI型ウイルスに生体内における何んらかの特有な増殖能が備わっている可能性が考えられる。さらに興味あることに我々の使用したNSI型ウイルスは、このSCIDマウス内において優位に増殖しているにもかかわらず、ヒトCD4陽性細胞の特異的な減少は見られなかった。一方、SI型ウイルスによるCD4陽性細胞は減少した。すなわち、我々が開発したSCIDマウスによるHIV感染モデル動物により、明らかにウイルスの増殖性ならびにCD4陽性細胞を減少させる病原性を評価できることが判明した。さらにウイルス感染はリンパ節あるいは胸腺などのリンパ組織に優位に広がることより、この動物モデルは感染個体内におけるリンパ臓器の役割の解析に有用であると判明した。
著者
梅津 和夫 湯浅 勲
出版者
山形大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1990

本年度は,日本人・韓国人・中国人・パプアニュ-ギニア人・南米インディアンを中心として各種血清タンパク型を調査したところ,次のようなことが判明した。1.ORM1座の重複遺伝子であるORM1^※2・1はアジアの北から南にかけての勾配がみられた。またORM1^※5・2はモンゴロイドにのみ広く分布していることがわかった。2.ORM2座はいずれの集団も1型が優勢であるが,ORM2^※6は特に中国人を中心として高い分布を示した。3.南米インディアンは,AHSG^※2を持つ割合がどの集団よりも高率を示した。4.AHSG^※5は調べた多数のモンゴロイド集団の中で,日本人しか検出されず,その中でも奄美大島〜石垣島までの南西諸島でのみ,きわだった高い値を示した。このことは,この遺伝子は琉球で発生し,ここから,九州,四国,本州にもたらされたことが推定される。なお,アイヌには発見できなかった。5.IF型のIF^※Aは広範なモンゴロイドにみられたが,南米インディアンにはなかった。なお南米インディアンの一集団には多型的頻度で新しい変異型のIF^※A3がみつかった。6.ZAG型の各種変異型遺伝子はいずれの集団においても出現頻度は低いが,民族に特微的ないくつかの因子が明らかになった。以上のように,モンゴロイドに特異的な標識遺伝子を調べることにより,モンゴロイド集団の系統解析に役立つことが明らかになった。
著者
長谷川 政美 堀 寛 岡田 典弘 宝来 聰 五條堀 孝 宮田 隆 植田 信太郎
出版者
統計数理研究所
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1994

ミトコンドリアを持たない真核生物について、蛋白質をコードしているいくつかの遺伝子の系統学的な解析を行い、真核生物の初期進化に関して新たな知見を得た(長谷川)。進化の過程で遺伝子の多様化がどのように進んだかという問題を明らかにするために、多数の遺伝子族の分子進化学的解析を行った。その結果、遺伝子重複による遺伝子の多様化は、真核生物の進化の過程で徐々に起きたのではなく、断続的かつ急速に起きたことが明らかになった(宮田)。HIVの遺伝子を分子進化的に解析し、その進化速度が異常に高いことを明らかにし、このウイルスの感染者体内における進化のメカニズムに関してもいくつかの知見を得た(五條堀)。3人の現代人と4種の類人猿で、ミトコンドリアDNAの全塩基配列を調べた結果、現代人の共通祖先の年代は約14万年前と推定され、「アフリカ単一起源説」が強く支持された(宝来)。独自に開発したSINEによる系統樹推定法を用いて、クジラの起源の解明とタンガニイカ湖のカワスズメ科魚類の系統関係の決定を行った。クジラの起源に関しては、クジラ目と反芻亜目とカバが単系統をなすことを明らかにした(岡田)。その他、動物体色の発現機構の進化(堀)、細胞内共生細菌の進化(石川)、脳で特異的に発現している転写因子class III POUの分子進化(植田)、無脊椎動物の生体防御系の進化(石和)、などについても成果を挙げた。
著者
加藤 真
出版者
京都大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

日本に産する潜葉虫のファウナとその寄生植物がおおむね明らかになった。潜葉虫は鞘翅目でタマムシ科44種、ハムシ科52種、ゾウムシ科53種、オトシブミ科1種、双翅目でクロバネキノコバエ科約20種、ハモグリバエ科282種、ショウジョウバエ科2種、ミギワバエ科34種、ミバエ科23種、フンバエ科5種、ハナバエ科16種、膜翅目ではハバチ科16種、鱗翅目で田スイコバネ響4種、モグリチビガ科79種、マガリガ科11種、ツヤコガ科13種、ムモンハモグリガ科6種、ハマキガ科20種、チビガ科10種、ハモグリガ科19種、ホソガ科242種、コハモグリガ科20種、アトヒゲコガ科5種、スガ科2種、ササベリガ科1種、メムシガ科5種、アカバナガ科1種、クサモグリガ科15種、ツツミノガ科34種、カザリバガ科14種、キバガ科20種、メイガ科5種、シジミチョウ科2種、ヤガ科1種、合計1013種とみつもられた。潜葉虫の羽化を待ち、分類の仕事が進めば、この種数はさらに増えるものと思われる。潜葉虫の寄主植物は、147科605属に及んだ。今年度新たに寄主植物として記緑されたのは、ヒルギ科とタコノキ科であった。潜葉虫は利用されていない植物の科は68科(29,7%)あり、そのうちわけは以下のとおりであった。A.葉が極めて小さいか全くない科(12科)、B.水草(6科)、C.国内の分布が極めて限られる科(38科)、D.その他(12科)である。最後の12科は、キジノオシダ科、フサシダ科、サンショウモ科、ソテツ科、イヌガヤ科、ドクダミ科、ドクウツギ科、ケマンソウ科、ケシ科、カツラ科、フウチョウソウ科、ジンチョウゲ科であり、これらは強い化学防衛によって潜葉虫から解放されたらしい。採集された潜孔葉の標本は、すべてさく葉標本として保管されている。潜葉虫の潜孔様式と寄主範囲について、現在記載をしつつある。植物と寄生植物の共進化の歴史をふまえつつ、これらのぼう大なデータも群集生態学的に解析中である。
著者
登坂 宣好 〓田 和彦
出版者
日本大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1993

新しく提案したペトロフ・ガラーキン有限要素法を高レイノルズ数粘性流れの問題に適用し、以下の成果が得られた。1.レイノルズ数(Re)10^4までの正方形キャビティ内流れに対し、本計算結果は他解法の結果と比較して良い一致を示し、本手法は精度及び安定性ともに優れた近似解法であることがわかった。2.Re=10^5の正方形キャビティ内流れでは定常解は得られず、非常に複雑な流れ(乱流)が得られた。この現象は、コンピュータ・アニメーションを通して明確に観察することができた。3.円柱まわりの流れでは、Re=10^4〜10^7の流れを解析し、Re=5×10^5で抗力係数の激減を数値的に捉えることができた。この結果は、定性的には実験値と一致することがわかった。また、流れのアニメーション化を通してその現象のメカニズムを解明した。4.本手法は3次元非圧縮粘性流れの問題へも拡張され、立方体キャビティ内流れの計算を行い、Re=3200でTGL渦という縦渦を数値的に捉えることができた。この現象は、実験においても観察されており、良い一致を示した。また、Re=10^4の流れは非常に複雑な挙動になることがわかった。
著者
加藤 博一 片寄 晴弘 真鍋 佳嗣 山口 証 井口 征士
出版者
大阪大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

1)インタラクティブアート作成支援ツールの整備使用可能なジェスチャ情報が多ければ,それだけ,作品を作っていく際の自由度がますわけであるが,そのハンドリングはア-ティストのみならずシステム制作者にとっても煩雑なものである.シンタクスがあっていたとしても,CPUの能力や通信バスの許容量を考慮したプログラミングを行わないと,思い通りに動かなかったり,時にはシステム全体がクラッシュしてしまうことがある.我々は,各シーンのトランディションが明に記述できるMAX上のフレームワークHIATを作成した.HIATでは,音響エフェクトに関するパッチ,音像移動などディジタルミキサに関するパッチ,その他にパターン認識パッチ,トリガー生成不応期パッチ,映像系制御パッチを利用することが出来る.2)VRシステム使用時の緊張状態の生理指標による計測の検討定量的・客観的に心理状態を得る手段として,生理指標を用いた手法が確立されつつある.特に,皮膚電位活動及び心拍活動といった生理指標を用いることで,緊張状態を定量的に評価できることが知られている.本研究では,これらの生理指標を用いて緊張状態に影響を与える要因と生理指標との関係を用いて解析を行い,その結果に基づいて人間の緊張状態をモデル化するという試みを行ってきた.Virtual Performer演奏時における生理指標の計測を行い,演奏時における緊張状態が計測可能であることを確認するとともに,パフォーマ-と観客の生理指標を同時計測し,緊張状態の関連性についての検討を行った.
著者
岡野 光夫
出版者
東京女子医科大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1989

外部環境に応答して構造変化、物質変化(透過性変化)を引き起す刺激応答型ハイドロゲルは、熱のあるときにのみ解熱剤を放出し、熱が下ると放出が直ちに停止するような新しい薬物送達システムを開拓するものである。ポリイソプロピルアクリルアミド(PIPAAm)は温度変化に対し敏感に応答し、著しい膨潤変化を生じる。本研究ではIPAAmとアルキルメタクリレ-トとの共重合ゲルを合成し、抗炎症剤のインドメタシン透過性および放出性に及ぼす温度変化の影響を調べた。20℃で平衡膨潤に達した共重合ゲルを30℃に変化させると、ゲルは速やかに内部の水を押し出し収縮する。初期の速い変化の後、水の押し出しは遅くなり、1カ月後においても30℃の平衡膨潤値に達しなかった。これは温度変化によってゲル表面が最初に収縮したスキン構造を形成し、この表面全体の密になった層が内部からの水の流出を著しく阻害するためであると考えられた。この収縮過程はアルキル鎖長により異なり、IPAAmとブチルメタクリレ-ト(BMA)共重合ゲルは2〜3時間で8割程度収縮するのに対し、IPAAmとラウリルメタクリレ-ト(LMA)共重合ゲルでは2割程度しか収縮しないことが明らかとなった。このことから、アルキル鎖長が長いほどゲル表面に薄くて密なスキン層ができると考えられた。このようなゲル膜中のインドメタシンの透過を調べると、20℃では大きな透過性を示すのに対し、30℃では完全に透過性が停止することがわかった。とくに30℃〜20℃に温度低下させたとき、薬の透過速度の遅れ時間に及ぼすアルキル鎖長の影響を詳細に調べ、IPAAm-LMA共重合ゲル膜では薄いスキン層の形成のためきわめて速いON-OFF透過制御が可能となった。さらにインドメタシンの放出についても同様の結果が得られ、応答時間の短い完全な薬物のON-OFF制御が実現されることが明らかにした。
著者
谷口 維紹 田中 信之 畠山 昌則
出版者
大阪大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1987

サイトカイン系におけるシグナル伝達の機構を解析するため、インタ-ロイキンー2(ILー2)系をモデルとして抱え、昨年度にはすでにILー2受容体β鎖の構造解明を行ったが本年度は更にこのβ鎖の下流に位置し、β鎖と共役するシグナル伝達分子の存在について解析を行った。その結果、ILー2受容体β鎖と相互作用を持つ分子としてリンパ球に特異的に発現するsrcファミリ-チロシンキナ-ゼであるp56^<eck>を同定することに成功した。更にβ鎖とp56^<eck>分子の相互作用に必要な領域を両分子において同定することにcDNA発現法を用いることによって成功した。またILー2刺激によってp56^<eck>のチロシンキナ-ゼ活性が上昇することも明らかにした。サイトカインの遺伝子発現機構の解析をインタ-フェロン系において推進した。すでにこの系を制御する転写調節因子IRFー1、IRFー2を同定、構造解明に成功しているが本年度はEC細胞へのcDNA導入実験によってIRFー1がインタ-フェロン遺伝子やインタ-フェロン誘導遺伝子の転写活性化因子としてIRFー2が抑制因子として機能することを明らかにした。
著者
村上 敏夫 鶴 剛 吉田 篤正 柴崎 徳明 池田 博一 牧島 一夫
出版者
宇宙科学研究所
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1993

ガンマ線バーストの起源を解明することを目的にこの研究班は組織された。今年度はその4年間の最後の年になる。その成果について実績を評価したい。研究は1:人工衛星を使った観測、2:理論的な検討、そして3:将来を考えたガンマ線バーストの観測装置の開発に目標を置いた。人工衛星を使った観測では、我々はガンマ線バーストの一種族であるリピーターの起源を超新星の残骸の中にある中性子星からと解明した。これはネ-チャー誌上に発表され、大きな評価を受けた。しかし、もう一つの種族であるclassicalガンマ線バーストでは原因の解明が達成されなかった。ガンマ線バースト源のX線対応天体の観測をASCA衛星で行い、X線源は受かるものの対応の可否は解明されない。最近イタリアのSAX衛星でガンマ線バーストに伴いX線が長い時間(数日)出ているのが観測されたが、これも人工衛星ぎんがで観測した事実の確認と言える。ここでも我々は大きく寄与したが、この輻射の起源の解明が今後の鍵を握るだろう。理論的な検討では、立教大の柴崎を代表にガンマ線バースト研究会を三回開催することが出来た。ガンマ線バーストでは発生源までの距離が分からないことから、理論家も仲々手を出すのが難しいと考えられる。主に我々の得た成果を聞いていただき、理論を検討頂いた。ガンマ線バーストで、日本から理論の論文が2つ出たのは大きな成果と言えるだろう。我々が最も重視したのは、将来の衛星で使えるガンマ線バースト検出器の開発である。科研費の大半はこれに投資されたのは言うまでもない。それは半導体を使用した硬X線検出器である。ノイズの少ない検出器を目指して開発され、ほぼ必要な性能がやっと最終年度に達成された。これは2000年に打ち上がるASTRO-E衛星に搭載されることになる。ASTRO-E衛星の硬X線検出器はガンマ線バーストを検出する能力があり、今後の発展を期待する。
著者
三重野 哲 浅野 勉 櫻井 厚
出版者
静岡大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

1.直流アーク放電電流に垂直に磁場を印加することにより、プラズマを上方にジェット噴出させることができた。その結果、炭素粒子のカソードへの再付着を半分に減らし、C_<60>の生産率を約1.5倍に増やすことができた。その結果は、ビデオカメラでの測定とコンピューターでの画像処理により定量化できた。2.弾倉導入型炭素原料導入機構付きJxBアークジェットフラーレン連続自動合成装置を開発した。この装置では、長さ30cmの炭素棒をあらかじめ50本まで装填することができ、ノンストップで50本の炭素原料を自動的に供給してフラーレンを合成できる。この装置を用いた実験によると、約7w%のC_<60>を含んだ煤を10g/hrで合成でき、C_<60>の生産率は0.7g/hrであった。50本の原料を連続供給した実験において、支障となる問題は発生せず、40時間の放電で、約450gの煤を合成することができた。この装置では、装填炭素棒の太さを太くしたり、原料導入機構をマシンガン型に変えたりして更に大量のフラーレン生産を行うことが問題が無くでき、工場規模での生産装置としても使い得る。また、実験室規模での種々のフラーレンの合成にも非常に有効であることが分かった。3.上記の装置において、カソードに再付着した炭素をリモートハンドルで繰り返しはぎ取ることができ、1実験で大量のナノチューブ入り炭素塊を合成できることが分かった。4.JxBアークジェットフラーレン連続自動合成装置を用いた金属内包フラーレンの合成も試み、効率的なLa内包フラーレンの合成に成功した。