著者
古崎 新太郎 茅原 一之 伊藤 義郎 信川 寿 小夫家 芳明 江川 博明
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1989

総量約42億トンと計算される海水中の溶存ウランを工業的に採取する技術の確立は、エネルギー政策上極めて重要である。採取法として、ウランを選択的に吸着する固体吸着剤を用いる吸着法が実用性が高い。本研究では、経済的な海水ウラン採取プロセスの確立をめざして、1.吸着速度が大きく、また繰り返し使用に対して耐久性のある吸着剤の製造方法の確立、2.大量の海水との接触に適した中空繊維および粒状繊維吸着剤を用いる接触装置の評価、および3.海流、波などの自然力を利用した吸着剤と海水との接触装置の開発を行った。本研究によって得られた新しい知見、成果は次の点である。1.合成条件を工夫して比表面積の大きいアミドキシム樹脂を合成した。この樹脂はアルカリ処理後、1日当たり100ー200mg/kgーRという高いウラン吸着量を示した。2.イミドジオキシム基の大きな平衡定数、アルカリ処理に伴うアミドキシム基の消失という事実から、優れたウラニル吸着剤として、イミドジオキシム構造を主として与える条件で調製した繊維状吸着剤を用い、一日の吸着で650mg/kgーRのきわめて優れた吸着速度を達成した。3.キャピラリー繊維状アミドキシム樹脂を充填した海流利用吸着装置周辺の流れを数値解析して、実験結果と比較した結果、吸着装置を流れ込みのない構造体として扱ってよいことを示した。さらに、びょう風型吸着装置のサイズとウラン採取量との関係を求めた。4.海流と波力を利用する浮体式ウラン採取システムのコストは、現在開発されている吸着剤の性能(20日間で6g/kg)の10%の回収率において、174千円/kg/yearとなった。5.圧力損失の結果に基づいて循環流動層式吸着装置のスケールアップを検討したところ、黒潮海流を直接利用して運転するとき、接触部槽高は約1ー3mになるという結果を得た。6.海流を直接利用して、吸着剤流動層を流動化し、ウランを吸着する四角錐型吸着装置は三角柱型吸着装置に比べ、どのノズル径でも良好な流動状態が得られ、最大充填率も上回った。
著者
河内 啓二
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

トンボのモーターニューロンを染色し、詳細に観察した。その結果、胸部ガングリオンからはばたき飛翔筋までの神経系は極めて複雑で、多くの神経情報を処理統合して、はばたき運動を行っていることが明らかになってきた。今後はセンサー系からの信号ループがどう連なっているかを調べる必要がある。一方、はばたき運動の外見の観察からは多くの事が明らかになってきている。トンボの翅は付け根において、胴体と一枚の翅につき2つの関節で結合されており、1つづつの関節に最低一対のはばたき飛翔筋が備わっている。左右前後の翅を合わせると、1匹のトンボで計8対(16本)以上のはばたき飛翔筋が見い出せ、それに加えて制御用と思われる筋肉が多数存在する。それぞれの筋肉が上記のモーターニューロンで制御されており、飛行に要する情報量は膨大なものとなっており、この情報処理の課程が、昆虫の知能を解くキ-ポイントである。トンボの翅は、はばたき運動で生ずる慣性力や空気力に比べて極めて剛く、殆ど弾性変形を利用しないではばたき運動を行なう。従って、打ちおろしと打ちあげの空気力の差は、殆どが翅の捩り制御によって行われ、この運動の1つ1つの筋肉によって正確かつ意図的にに行われていることが明らかになってきた。これに対して、蝶のような低アスペクト比の翅を使う昆虫は、翅の捩り制御が構造的に大きくできず、低速において捩り制御だけでは、必要なだけの制御を行なうことができない。その結果、胴体も翅と一緒にピッチング運動させ、大きな迎角の変化を実現させている。蝶が外から観察するとヒラヒラと飛んでいるように見えるのは、翼面荷重が極めて小さく加速度運動に優れていることに加えて、上記の制御方法をとっているからである。
著者
杉山 弘 斉藤 烈
出版者
京都大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1994

本研究は、ブレオマイシン金属錯体による酸素活性化機構をモデル化合物や修飾オリゴヌクレオチドを用いて、有機化学的に詳細に検討し、錯体の構造、DNAの切断の分子機構の本質に迫り、その機能制御を行ない、新しいブレオマイシンを創製することを目的としている。今年度の研究によって以下に示す知見及び成果が得られた。1)ブレオマイシン金属錯体によるDNA切断機構の解明ラジカルの寿命を測定する化学プローブであるラジカルクロックを、ブレオマイシン金属錯体の反応サイトに導入し、それぞれの錯体により生成するラジカルの寿命について検討を行なった。その結果、コバルトによる反応においても鉄錯体と同様、4´位水素引きぬきにより4´位のラジカルが生成していることを世界に先がけて確認できた。この知見に基づいて新たな反応機構を提案した。2)ブレオマイシンコバルト錯体の構造解析錯体の構造が確定しにくい鉄錯体のモデルとして、コバルト-ブレオマイシンについてNMR,CDスペクトルなどの分光学的手段を用いて、総合的に配位構造についての検討を行なった。その結果、コバルトの錯形成により生成するグリーン、ブラウン錯体は錯体部分が逆の配位構造をとっていることが判明した。またこれに基づいて、ブレオマイシン-コバルト錯体とDNA6量体との結合モデルを構築し、AMBERによる力場計算を用いて、構造最適化を行ない、コンピューターグラフィックスにより視覚化した。
著者
只木 良也 沖野 外輝夫 青木 淳一 斎藤 隆史 萩原 秋男
出版者
名古屋大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1994

1.都市内やその周辺に残された樹林地の構造を調査し、その形成過程を推定した。とくに上層落葉樹・下層常緑広葉樹の複層林型の上層(コナラ)樹高15m、年間純生産量13t/haの林分で、土壌生成の源となる落葉量とその元素含有量の季節変化の追跡を行った。(只木)2.都市樹林地で、その活動によるCO_2の収支を通じた環境保全効果の実態を解明する目的で、土壌気相中のCO_2濃度の垂直分布を調べた。土壌気相中のCO_2濃度は、土壌表面からの深さが増すにつれて増加するが、増加率は土壌が深いほど低下した。季節によるCO_2濃度は、夏季に高く、冬季に低かった。(荻原)3.都市周辺の森林や畑地の開発と都市鳥類の関係を神奈川県下で調査した、1970-1990年の資料を解析し、周辺の森林と畑地の激減に応じて、都市緑地繁殖鳥類の種数は漸増した。都市周辺の生活場所が消滅した場合、たとえ好適ではないにしても都市緑地が二次的な生活場所を提供している。(斎藤)4.都市の公園や緑地の同じクスノキを高木層にもつ林地でも、低木層の有無、落葉層の有無が生息可能な土壌動物の種類と量に大きな影響を与えることがわかった。とくに落葉の除去は影響が大きい。また、低木層・落葉層ともに存在として、高木クスノキよりもスダジイの方が豊かな動物層を維持できることも判明した。(青木)5.ヨシ原実験圃場造成の初期には、ヨシ活着等の不揃いからパイオニア的な植物が侵入した。春の発芽時期にはまずガマが伸長した。水中では原生動物11種、ワムシ類22種、甲殻類8種が観察され、水質との関係では、実験水路でSSやT-CODが減少したが、溶存のs-CODは逆にやや増加する傾向を示した。水質浄化を目的とする水生植物群の造成、管理に際しての若干の示唆が得られている。(沖野)
著者
平尾 一之 田中 勝久
出版者
京都大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1990

セラミックスの破壊強度は雰囲気の影響を大きく受ける。特にアパタイト-ウォラストナイトガラスーセラミックス組成の人工骨では、ガラス相を粒界相に存在するので、その影響は顕著である。本研究では、この人工骨を用いて、凝似体液を始めとする種々の環境下で、破壊特性がどのように変化するかについて調べるとともに、破壊じん性が大きく、応力腐食や疲労を受けにくくするには、組成をどのように改善すれば良いかなどについて検討を行った。得られた結果は以下の通りである。(1)アパタイトーウォラストナイト人工骨セラミックス(以下AW)の安定破壊試験を行ない、破壊じん性値が1.12MPa・m^<1/2>であることがわかった。また、その有効破壊エネルギ-は、ケロシン中で3.88Jm^<ー2>となったが、水中では1.99、凝似体液中では1.84と大きく減少し、応力腐食反応を人工骨が受けやすいことがわかった。また、破断面のSEM観察の結果、破壊は粒界ガラス相で生じていることがわかった。以上より、水や凝似体液は、粒界のガラス相と腐食反応をおこし、破壊エネルギ-、つまり破壊じん性値を下げることがわかった。実際に、使用条件下では、応力を受けているので、この反応を抑えることが肝要である。そこで、ガラス組成をケイ酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩ガラスを変化させ、ガラス自体の安定破壊をおこさせ、その挙動を観察したところ、ケイ酸塩ガラスでは胞性破壊しやすいのに対し、リン酸塩やホウ酸塩ガラスでは塑性変形をおこしやすいことがわかった。そこで、出発原料として、リン酸塩組成を多く含ませることにより、人工骨セラミックスの破壊特性を改良できることがわかった。(2)分子動力学コンピュ-タシミュレ-ションにより、原子レベルでの破壊実験を行なったところ、ホウ酸塩ガラスではその構造にボロキソルリングなど中距離表面構造があるので塑性変形しやすい事がわかった。
著者
吉野 正敏 岩田 修二 藤田 佳久 吉村 稔
出版者
愛知大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1993

平成5年度の研究では,次のような結果をえた。(1)東アジア・東南アジア・南アジア・北オーストラリアを含む地域における夏と冬の季節風循環は,最終氷期(18,000年〜20,000年B.P.)について復元すると,低緯度では不活発で,現在に比較して乾燥していた。一方,後氷期の8,500年〜7,000年B.P.の温暖化してきた時代は,特に南半球の冬すなわち北半球の夏のSW季節風は強く,北半球の低緯度では活発で対流活動が強く,現在に比較して湿じゅんであった。(2)このような状態は歴史時代の寒冷と温暖な時代にもあてはまるのではないかと考えられる。寒冷な時代,35Nより北側では湿じゅんだが35Nより南側の低緯度側では乾燥で,地中海東部・中近東・東アフリカなどでこのコントラストが明らかであるが,東アジアではやや不明瞭であったと推定される。(3)中国の人口増減・戸数の増減を歴史時代の2,000年間についてみると,2世紀,6〜8世紀,11〜12世紀に拡大がある。これらはいずれも気候が温暖な時代に相当する。また,温暖な時代には黄河下流域や揚子江最下流域の人口密度も増大する。逆にやや寒冷な時代には華南の諸省で人口や戸数が増加する傾向が認められた。(4)清朝の中・後期の水害頻度は1855年までは黄河が准河の下流に流入していたため、発生した場合が多い。その後,黄河は北流し,准河流域の水害頻度はこの流域内だけに起因する水害となった。すなわち,十年〜数十年の時間スケールでみる古環境変遷には人間活動の影響が大きい。(5)日本の歴史天候データベースを構築しつつ,江戸時代の降水量分布について考察した。その結果,十数年スケールでみた同じような寒冷な時代でも,日本の中間降水量分布にはいろいろな型があることがわかった。(6)最後に以上の結果をまとめて,気候条件と人間活動の関連図を作った。
著者
内藤 喜之 関 一 小林 暁 伊藤 公一 亀井 宏行
出版者
東京工業大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

FM-CW(周波数変調-連続波)レーダーは、周波数検出方式なので、微弱な反射もとらえ易いと考えられるので、土層の判別能力もパルスレーダより優れていると考えられる。また、アンテナの周波数帯域内に、発信周波数を収めることもできるので、リンギングも抑えられ明瞭な画像が得られると期待される。本研究では、まずFM-CWレーダの試作からはじめた。スロットアンテナを用いた500MHz〜1GHz帯域のレーダ,300MHz〜500MHz帯域のレーダなどを試作し実験を重ね、最終的には中心周波数300MHzのボウタイアンテナを用いたFM-CWレーダシステムを完成させた。このFM-CWレーダは、送受別体の2台のアンテナを持ち、発信周波数は、100MHzから500MHzの400MHzの帯域で、三角波状に周波数変調をかける。この三角波の周期は、5msec,10msec,50msec,100msecの4種類を選択できる。走査する時は、車輪のついた台車の上に乗せて引くか、そりに固定して牽引する。変調三角波の周期は50msecを用いた場合、周波数変調速度は16Hz/nsec(=400MHz/25msec)となり、パルスレーダで30nsecの深さ(土の比誘電率25とした時90cmの深さに対応)はFM-CWレーダでは、480Hzに対応する。このレーダを用い、長崎県壱岐郡原の辻遺跡、茨城県ひたちなか市殿塚1号墳、宮崎県西都市都原古墳群横穴墓、岐阜県大垣市昼飯大塚古墳、大阪府岸和田市久米田貝吹山古墳、岐阜県養老町象鼻山1号墳などで探査実験を行った。とくに原の辻遺跡では、従来のパルスレーダでは捕らえられなかった水田下の環濠がFM-CWレーダでは捕らえることができ、このレーダの土層判別能力の優位性が証明された。また、土の誘電率を現場で直接測定する方法として、同軸ダイポールアンテナやモノポールアンテナを直接大地に刺入して反射係数から推定する方法を開発した。
著者
橋本 周司 松島 俊明
出版者
早稲田大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1994

過去2年間の研究により、右手による指揮棒の動きおよびデータグローブにより入力される右手の動きによって、音楽演奏を制御するシステムはほぼ完成している。また、発生する音響の音色をジェスチャーのよって実時間で制御する基礎実験を終了している。本年度の主な成果は以下のとおりである。1.これまでに開発した音響制御システムを改良し、基本周波数、振幅、倍音の振幅、スペクトル分布などを任意に実時間で指定できる音響発生システムを作成し、ジェスチャーによりこれを制御するシステムを感性させた。2.FM音源のパラメーターを遺伝的アルゴリズムで最適化する対話型の音色生成システムを作製し、喜び、悲しみ、怒り、嫌悪などを表す音色の音源パラメータの主成分分析を行い、2次元感性空間での関係を調べた。3.画像処理でのジェスチャー解析を行うと共に、新たに加速度センサーを用いた手振りの自動解析を試み、指揮の動作および音楽演奏における感情表現の自動認識についての知見を得た。4.ニューラルネットを用いて、ジェスチャーと音響の対応付けを行い、接続係数によってジェスチャーと音響の感性的な意味での変換関係の定式化を試みた。5.作製したシステムの演奏家および作曲家による評価については、現在予備的な実験を終了し、本格的な実験を計画中である。
著者
岩宮 眞一郎
出版者
九州芸術工科大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

本研究では,江戸時代から現代に至る,音に関する記述のある俳句3,810句を素材として,音と音が聞かれた状況の関係を探ってきた。俳句の表現された音環境は,日常生活の中で,耳を傾け,愛着を憶えた音のコレクションにほかならない。そこには,日本人の音感性が反映されている。本研究では,まず,素材とした俳句に詠まれた音,その音が詠まれた季節,地域を,いくつかのカテゴリーに分類し,音と季節,地域の関わりを示すクロス表を作成した。そして,このように分類したデータに,情報理論のエントロピーの概念を適用して,音と季節、音と地域との依存性を定量的に把握することを試みた。さらに,林の数量化理論第3類の適用により,音,季節,地域の各カテゴリーを空間上に布置し,各カテゴリー間の関係を包括的に理解することができた。以上の分析を通して,「秋の虫の鳴き声」,「町に季節の訪れを知らせるもの売りの声」,「社寺仏閣のサウンドスケープ」,「水辺のサウンドスケープ」といった,特徴的なサウンドスケープを捕らえることができた。それぞれのサウンドスケープを詠んだ代表的な句は,「鈴虫の声ふりこぼせ草の闇-亜柳」,「夜のかなた甘酒売の声あわれ-原石鼎」,「除夜の鐘幾谷こゆる雪の闇-飯田蛇忽」,「六月の風にのりくる瀬音あり-久保田万太郎」などである。俳句の中に詠み込まれている音は,ごくありきたりの,どこにでもあるような音ばかりである。その平凡な音が,我々の生活や自然環境といったコンテクストに意味づけられ,価値づけられたとき,我々の心の琴線に触れる。しかし,これらのサウンドスケープは,様々な環境騒音があふれる今日,意識されないことも多い。快適な音環境を創造するためには,こういった日本の音の原風景ともいえる音環境を意識し,保全することが求められる。
著者
平野 恒夫 生田 茂 山下 晃一 長村 吉洋 田中 皓 長嶋 雲兵 岩田 末廣 村上 明徳
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1994

平成5年度に引き続き、星間分子の構造と化学反応に関して以下の研究を行った。1.我々が見い出したMgを含む星間分子としては最初の例であるMgNCに対して、さらに精度をあげたACPF/TZ2P+f法による電子状態の計算を行い、回転定数B_0の実測値5966.90MHzに対して、計算値5969.3MHzを得た。異性体のMgNCに対しても同様な計算を行い、実験値5094.80MHzに対して5089.3MHzの値を得た。また、星間分子候補として有力なFeCOの基底状態の分子構造をMRSDCI法で計算し、分光学定数を予測した。(平野)2.新たに見い出されたCOの赤外領域での発光スペクトルをリドベルグ状態間の遷移として同定した。(平野、長嶋)3.FeH,FeCOに関してf関数をも含む基底関数を用い、大規模なMRCIの計算を行った。また、MgC_2の構造と分光学定数をSDCIレベルで計算した。(田中)4.解離性再結合反応HCNH^++e^-→の反応機構を検討し、炭素星周辺でHNC/HCN比が1に近いことを量子化学的に説明した。(平野、長嶋)5.アセチレンシアニドHC_3Nの生成機構に関して、種々の中間体のエネルギーを計算して、C_2H_2またはC_2HとCNからの生成が可能であることを示した。(長村)6.星間反応C(^3P)+C_2H_2→C_3H_2のポテンシャル面をCASSCF/DZPとMP4/6-31G^<**>法で求めた。また、cyclic-C_3H_2からlinear-C_3H_2への異性化反応過程と、cyclic-C_3H+Hへの解離過程がほぼ障壁なしに起こることを明らかにした。(山下)
著者
長嶋 雲兵
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1993

本研究では、非経験的分子軌道法を用いて量子力学の第一原理から、2体の相互作用ポテンシャルを求め、それを簡単な関数系でフィットし、マクロな効果を含まない2体ポテンシャルを求めることを目的とした。具体的な系は、超臨界抽出溶媒として実用にも用いられ、また、様々な実験的研究が行われている二酸化炭素の2体相互作用ポテンシャルを求めることを試みた。さらに、本重点領域研究の溶液構造班からの実験的研究により、超臨界流体中では溶質分子の振動スペクトルが真空中のものに比べ赤方にシフトすることが報告されており〔2〕、超臨界流体中での溶質と溶媒分子の間に分子クラスターが形成されることが示唆されているので、その構造を調べるために、非経験的分子軌道法を用いて、二酸化炭素-ホルムアルデヒドクラスターの構造と振動スペクトルの計算を行った。二酸化炭素の2体相互作用ポテンシャルに関して、平成5年度はポテンシャル面を計算しいくつかの関数系でのフィッテイングを行ったが、実験結果と計算機シミュレーションの結果を合わせようとすると、そのためのパラメータを導入しなければならないことが分かった。振動スペクトルの計算に関しては、ホルムアルデヒドの水素と酸素に二酸化炭素が1つ配位しても大きな振動スペクトルの変化は見られないが、それぞれに二酸化炭素がつき第一配位圏を形成した後、炭素上に二酸化炭素が配位すると大きな変位が見られることが分かった。
著者
小野 哲也 池畑 広伸
出版者
東北大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

環境中の変異原物質が少量づつ長期間にわたって働いた時のリスクが大量で1回作用した時に比べどのように変わるかを理解するために、マウスの肝臓と皮膚、睾丸のDNAへの突然変異誘発効果を指標として調べた。使用したマウスは大腸菌のlacZを含んだラムダゲノムDNAを導入されたMutaマウスを用い、変異原としてはX線と紫外線(UVB)を用いた。4GyのX線を1回照射してから16週後の突然変異頻度は肝で(12.76±2.12)×10^<-5>、睾丸で(13.26±3.22)×10^<-5>であった。同じエイジの非照射マウスの自然突然変異はそれぞれ(7.63±1.41)×10^<-5>、(7.14±1.07)×10^<-5>であったので誘発された分は5.13×10^<-5>、6.12×10^<-5>と計算された。一方、1回0.15GyのX線を週3回づつ、6ヵ月間(総計11.7Gy)照射後16週目でみた突然変異頻度は肝と睾丸でそれぞれ(17.36±5.01)×10^<-5>、(17.18±3.66)×10^<-5>であり、同じエイジでの自然突然変異頻度は(10.73±1.39)×10^<-5>、(9.06±1.04)×10^<-5>、で、誘発された量は6.63×10^<-5>、8.12×10^<-5>であった。これらの値から1Gy当たりに誘発された量を比較してみると少線量多数回照射では1回照射の時に比べ肝でも睾丸でも約45%に減少している。これは変異原に曝される時に少量づつを繰り返して行われた時のリスクは1回で曝露された時のリスクに比べ半減することを示唆している。しかもその量は肝でも生殖細胞でも変わらない。生殖細胞での値は以前にRusselらが数百万匹のマウスを使って得られた値である1/3にほぼ類似した値である。次に皮膚組織での影響を知るべく紫外線による突然変異誘発効果を調べた。0.5kj/m^2までのUVBは皮膚の紅斑を起こさず、しかも突然変異を誘発することを確認した。この線量を1日1回づつ4日連続して照射した所約250×10^<-5>の突然変異頻度が得られた。これは0.5kJ/m^2を1回照射した時の1J/m^2当たりの変異誘発率に比べると約70%であり、紫外線による突然変異誘発についても、分割された曝露は1回曝露でのリスクより少なくなることが示唆された。ただし、ここで行った実験は予備的なものであり、線量や曝露間隔などについてさらに検討する必要がある。
著者
横山 伊徳 小野 将 松本 良太
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

史料編纂所が所蔵する島津家本『琉球外国関係文書』をハイパーテキスト化する作業を、巻之十まで行なった。現在巻之二十四迄のハイパーテキスト化を進行中である。(1)『琉球外国関係文書』(全51冊)のうち、巻之三十三まで全文入力した。このうち、巻之三十二まで校正完了。(2)『琉球外国関係文書』の内、巻之二十四まで、ftp://shipsnw.hi.u-tokyo.ac.jp/ryukyu/でその校正済みプレーンテキストを公開した。(3)史料編纂所wwwサーバhttp://www.hi.u-tokyo.ac.jp/personal/yokoyama/index.htmによって、巻之十迄の冊別目録・編年目録による閲覧が実現している。この結果、琉球の領有に関して、江戸幕府が対外的に「琉球は外国」という態度から、対外的にも「琉球は属領」という態度へと変化するその変化が、幕府内部や幕府と薩摩藩の間のどのような認識・論議の変化に基づいたものかを研究するための、基礎的データをWWWによって提供できるようになった。すなわち、琉球に来航した外国船や、琉球をめぐる諸外国との交渉、あるいは幕府や薩摩藩の論議に関する史料を、ネットワーク上で分析できるようになったのである。これらは、漢文史料まで含めた、www上の本格的資料集として、注目を集めている。
著者
菅原 聰 白幡 洋三郎 赤坂 信 中堀 謙二
出版者
信州大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1993

平成5年度には、国内調査として、地域住民の森林観の調査・大学生の森林認識の調査・山村においての森林の利用状況の調査・日本人の自然観に関する予備調査・森林休養についての調査・森林風景についての調査・里山についての調査をおこない、海外調査として、ドイツ・フランス・オーストリー・北欧・イギリスならびにカナダで森林観と森林施業の調査をおこなった。そして、平成3年度と平成4年度の調査結果とを合わせて、「森林観の比較研究」として、次のようにまとめることにした。(1) 東西の森林観:東洋と西洋について、とくに宗教との関係をめぐって、森林観を比較した。(2) 呼吸する里山:信州においての農民と里山との変遷を、資料(古文書・古絵図など)を用いて探るとともに、山村においての農民と森林との交流についての調査に基づいて、里山をめぐる森林観の推移を明らかにした。(3) 森林風景の行方:森林は人間によって創られたものであるから、森林風景は森林観と密接に関係している。技術的視点で森林風景の創造について接近し、現代人の森林観と現代社会においての技術展開の方向から森林風景の行方を探った。(4) 大英帝国の森林の盛衰:イギリスで大英帝国時代に森林がどのように取り扱われたかについての考察を通じて、森林観と森林の盛衰との関係を明確にした。(5) 変貌する森林観:森林観は社会構造と密接な関係にある。古代社会では神秘のなかに森林をみていたが、農耕社会で有用な存在となり、工業社会では無用となり、情報社会では貴重なものとなってきた森林に対しての森林観の推移を明らかにした。
著者
吉野 正敏 岩田 修二 藤田 佳久 吉村 稔
出版者
愛知大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

今年度は東アジアにおける歴史時代の中で特に温暖であった8〜9世紀と寒冷であった18〜19世紀の気候特性を明らかにし、その機構を明らかにした。そしてそれぞれの時代における気候が人間活動に及ぼすインパクトについて考察した。(1)中国東北部に8〜10世紀前半に栄えた渤海国をとりあげ、日本との間の渤海使・遺渤海史について考察した。その結果、季節性が極めて明瞭で、冬の季節風の利用、最も強い危険性をもつ期間をさけたことなどが考えられた。また、多少高湿であったため、牧草の生育には好条件で牧蓄業を背景とする国家経済の安定が国家成立を支えたと思われる。(2)華南の人口は上述の寒冷な小氷期には急激な上昇を示めす。また、反対に古代の暖った期間には華北や、現在のモンゴル地域には人口増加が明らかであった。(3)中国の清代の長江流域の洪水記録によると1736年〜1911年に多く、例えば長江の洪水流域には、1700年代中期、1820〜1850年、1880〜1990年の3つのピークがある。多雨であったばかりでなく、地方経済の弱体化にともなう堤防管理の悪化も原因の一つであったと考えられる。(4)古日記を利用して江戸時代の日本の天候を復元してその経年変化をみると、天保期の変動は近畿地方が東日本より顕著である。そしてその変動傾向は逆である。また、飢饉年でも日本全体がひと夏中同じ傾向を示す場合は少なく、季節の前半と後半で差がある年が多かった。(5)東ヒマラヤ・東南チベット・雲南省などでも5,000〜4,000年前は高温多湿であった。その後、1200〜700年前にも温暖な時代があったがチベット文化圏の拡大によって人間活動が活発化し、森林が破壊された。
著者
西村 康 和田 晴吾 斎藤 正徳 中条 利一郎 鈴木 努 道家 達將 稲田 孝司
出版者
奈良国立文化財研究所
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

重点領域研究『遺跡探査』では、地下に埋没している遺跡・遺構のみならず、地上に遺存する文化財も含めて、それらが包含する歴史情報をもれなく収集するための、格段に進歩した遺跡探査専用の装置と方法を開発することを目的とした。目的を達成するためには、理工学の研究者と考古学を中心とする人文学研究者とが緊密な連携のもとに、共同研究をすることが必須である。そこで、総括班では装置の設計段階、遺跡の実際での実験的測定、応用測定において、両分野の研究者が検討あるいは共同作業をするための環境設定を優先事項として考え、研究会議などの機会を数多く設定してきた。研究では、1)地中レーダー探査、2)電気探査、3)磁気探査、4)超音波探査においてぞぞれ装置と方法を開発、5)化学・光学探査では熱履歴を特定する手法を考案した。一方、遺跡の実際における探査では、1)被熱の遺構を特定する手法として、磁気探査、帯磁率測定、磁化率測定を組み合わせる方法を開発、2)石造構造物を対象とする場合には、地中レーダー探査、電気探査、VLF探査の方法を用いれば、遺構が推定可能なことを実証、3)土層判別探査(含:金属有機物探査)では、パルス(チャープ)レーダー探査、FM-CWレーダー探査、電気探査と電磁誘導探査の方法を応用すれば、有効な成果が得られることを実証した。なお、総括班では研究の進行に伴う成果の公表を逐次発表するために、公開シンポジウムを開催、ニュースレターを刊行してきた。また、研究成果を世界にアピールすること、正当な評価を得ることを目的に、平成9年9月には伊勢市において『第2回国際遺跡探査学会』を開催したところである。
著者
広瀬 進 上田 均
出版者
国立遺伝学研究所
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1988

ショウジョウバエのfushi-tarazu遺伝子の調節領域内にある特定の部位に塩基特異的に結合する因子NFftz1について以下の研究を行った。1.ショウジョウバエ初期胚においてNFftz1がはたす機能を明らかにするため、fushi-tarazu遺伝子の上流にあるNFftz1結合部位のうち中央の2もしくは4塩基を置換した変異型遺伝子を作製し、lacZ遺伝子と結合した。Pエレメントを用いてこの変異型遺伝子または野生型遺伝子をショウジョウバエに導入し、初期胚での発現パターンをβガラクトシダーゼの活性染色により調べた。その結果、野生型では7つのストライプ状に発現するのに対し、変異型遺伝子では3つのストライプはほぼ正常だが、残りの4つのストライプはほとんど発現されなかった。この結果は、NFftz1がfushi-tarazu遺伝子の空間的発現を制御していることを示唆する。2.NFftz1に相当する因子がカイコにも存在するか否かについて、結合部位を含む合成オリゴヌクレオチドをプローブにしてゲルシフト法で解析した。その結果、カイコ受精卵核抽出液および、後部絹糸腺抽出液中に結合活性を見出した。競合DNAによるゲルシフトの阻害、DNAメチル化の干渉、プロテアーゼによる部分分解、各種クロマトグラフィーでの挙動などから、ショウジョウバエとカイコの因子は極めて相同性が高いと推定された。そこで、後部絹糸腺抽出液から結合部位DNAアフィニティーカラムなどを用いてこの因子を精製し、50%以上の純度をもつ標品を得た。今後、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動によりこの標品をさらに精製し、N末のアミノ酸列を決定してこの因子のcDNAをクローニングする予定である。
著者
赤間 美文 菅野 等
出版者
明星大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1994

研究実績の概要は下に示した3つの内容に分けられる。1)希土類元素を含む硝酸塩、リン酸塩ガラスを調製し熱分析し系列内での変化を調べたところ硝酸塩ガラスの場合、結晶化温度と液化温度の間には興味ある関係が存在することが明らかとなった。また、リン酸塩ガラスの場合には、ガラス転移温度(Tg)の値はLaからLuにかけて次第に高くなり水溶液系ガラスで見られるような変化が認められ、水溶液系と同様に系列内で配位数の変化が起こることが明らかになった。2)EuCl_3とGdCl_3の水溶液(R=25)にHCl,LiClおよびCsClを別々に加えた溶液のラマンスペクトルを測定し、内部水和数の変化の異常濃度依存性について検討した。その結果、溶液中の水の量が少なくなるにつれて水和希土イオンの内、8配位より9配位の方が数が多くなるという一見異常な現象が認められた。これは、外圏錯体の生成によって異常濃度依存性が生じるという考え方で説明できるものと思われる。3)Lu-PMBP錯体を合成しIRスオエクトルを測定した。120-630cm^<-1>の領域では、配位子と金属の結合によるピークが410および340cm^<-1>付近に認められた。そこでピーク位置の系列内での変化についてプロットしたところLaからLuにかけて次第に高波数側にシフトしているが、Tbのところで大きく変化することが分かった。この変化は、希土類元素のf軌道の電子配置に対応しているように思えるがこれに関しては検討中である。なお、テトラド効果などといわれている不規則な変化は認められなかった。今後は、希土類元素を含むゲルマニウム酸塩ガラスの系列内でのTg変化をみる。更に、異常濃度依存性が非水溶媒系においても観測されるかどうかについて検討する。
著者
富田 眞治 平木 敬 田中 英彦 末吉 敏則 金田 悠紀夫 天野 英晴
出版者
京都大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1994

本年度は,平成5年度までの研究成果を基に,超並列プロトタイプ・システムを実機として実装可能とするため,LSI,プリント基板,システム筐体の設計を行った.さらに,これと平行してシステムの妥当性を評価するための種々のシミュレーション実験や,入出力機構の開発を行った.以下に代表的な研究成果を示す.1.超並列システムのキャッシュ一貫性制御方式の評価ディレクトリ・ベースのキャッシュ一貫性制御法として提案した疑似フルマップ方式を,本重点領域研究の成果として提案した.Recursive Diagonal Torus(RDT)ネットワーク上に実装した場合の性能をシミュレーションにより評価した.その結果,ネットワークの階層構造を活用したマルチキャストや,ACK回収の効果により,フルマップ方式に比べ,約4倍の処理速度が得られた.また,マルチキャスト法として,LPRA(Local Precise Remote Approximate)法,SM(Single Map)法,ならびにLARP(Local Approximate Remote Precise)法を提案しその評価を行った.その結果,無駄なトラフィック軽減の観点から,宛先ノードが少ない場合にはSM法が有利で,宛先ノードが一定数を越すとLPRA法またはLARP法が有利になることが判明した.さらに,LPRA法とLARP法の優劣は,データのマッピングに強く依存することも判明した.2.超並列システムの高速入出力システムの研究入出力専用の高速ネットワークをRDTと独立に設け,仮想FIFOならびにLANを介して接続されたワークステーション群全体の広大なディスク領域を超並列計算機のファイルシステムとして提供する入出力サブシステムを提案した.さらに,仮想FIFOでHDTVを接続することでビジュアルな計算機環境を構築可能とした。また,画像表示機構の実装に際しては,1画面のフレーム・メモリを16分割し並列計算機からの表示データ転送を分散並列的に行うことで,最大250MB/秒の転送速度を実現し,ハイビジョン画質の動画表示を可能とした.
著者
平岡 真寛 宮越 順二
出版者
京都大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1990

各種磁場(0.2T均一定常磁場、0.45Tの不均一定常磁場、0.2Tの変動磁場)の細胞への影響を細胞増殖、細胞致死、熱ショック蛋白質および癌遺伝子発現を指標に明らかにした。0.2Tの均一定常磁場を培養器内で1ー8日間HeLaS3細胞(ヒト子宮癌)に負荷しても細胞増殖に影響を与えなかった。放射線(6Gy)あるいは温熱(45C,15min)の併用処置についても変化を認めなかった。0.2Tの変動磁場、0.45Tの不均一定常磁場を室内で1、2時間SCCVII細胞(マウス扁平上皮癌)、HeLaS3細胞に負荷しても細胞増殖、細胞致死いずれも影響を認めなかった。放射線あるいは温熱の併用についても変化を認めなかった。0.2Tの均一定常磁場のHeLaS3細胞での癌遺伝子(Nーras,mycおよびfosを検討)への影響をNorthern blotting法で評価した。無処置対照においては、fosmRNAの産生はほとんど認められなかった。2、8時間の磁場負荷では認められなかった。fosmRNAの産性が、4時間の磁場負荷で軽度認められた。既に報告されているようにfosはTPA、温熱処置にて発現したが、それらの発現に磁場は影響を与えなかった。NーrasおよびmycのmRNA発現に磁場は関与しなかった。ヒト大腸癌由来COLO細胞を対象に0.2T均一定常磁場の熱ショック蛋白質発現への影響をSDSーPAGEで検討したが、6、24時間磁場を負荷しても熱ショック蛋白質の発現を認めなかった。以上、0.2Tの均一定常磁場にてfosmRNAの産性が軽度認められることが本研究で明らかにされた。磁場と癌遺伝子発現の関係についての報告は皆無に等しく今後の研究が望まれる。