著者
小久保 燎太 福永 修一
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J106-D, no.12, pp.492-500, 2023-12-01

ポートハミルトン系の強化学習は方策の探索空間を限定することにより学習の高速化を目指した手法である.しかしながらこの方法は,学習が局所解に捕まりにくくなることを期待して制御入力に人為的なノイズを加えた確率的方策を用いている.このノイズがシステムの意図しない動作を引き起こす可能性がある.本研究では,強化学習の手法の一つであるPolicy Gradient with Parameter-based Exploration (PGPE)をポートハミルトン系の強化学習に適用することで,決定論的な方策を用いて制御則を学習できる手法を提案する.PGPEでは決定論的方策におけるパラメータに対して推定分布を仮定し,期待割引報酬和を最大化する推定分布のパラメータを勾配法により学習する.ポートハミルトン系の強化学習は2種類の方策パラメータをもつ.提案手法では,ポートハミルトン系の強化学習における2種類のパラメータに対して推定分布を仮定し,期待割引報酬和を最大化するように推定分布のパラメータを学習する.強化学習のベンチマークである倒立振子の制御問題に対して提案手法を適用し,倒立振子を振り上げ頂点で安定化させる制御則を獲得できることを示した.
著者
香川 璃奈 原 悠輔 姜 志勲 山肩 洋子
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J105-D, no.12, pp.736-746, 2022-12-01

料理レシピのような創作や操作手順の説明文書では,なぜそれをするのかといった,手順にとどまらない付加的な情報が文書の有用性を向上させる.しかし,そのような文書を書く経験に乏しい著者にとっては何を書くべきか考えることすら難しい.そこで本論文では自然言語処理技術により,調理手順そのものではない付加的説明文を自動生成する手法を検討する.我々は先行研究で,料理レシピの読者に役に立つ付加的情報が「代替品・アレンジ・調理工程の理由・適した材料・注意点・盛り付け」に類別されることを実験的に明らかにした.本研究ではユーザが入力した文に対し,クックパッドデータセットで学習したGPT-2モデルにより文を生成し,それらにBERTに基づく分類モデルを適用して上記の6種類に属する文を選出し,提案する仕組みを構築した.更にユーザビリティ評価として,100名の実験参加者に実際のレシピにおける冒頭の2文を提示し,それらに続く実際の文と,それらから提案手法により生成された後続文のどちらを採用するか選ばせる実験を行った.その結果48.2%で生成文が選択され,提案手法の生成文が実際の文と同等程度に利用されることが示された.
著者
加茂 文吉 松下 宗一郎
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J106-D, no.2, pp.123-131, 2023-02-01

一般的に10人程度といったグループでのレッスンが行われているエレクトリックギターの授業クラスでは,個々の学習者の状況を正確に把握し,的確なアドバイスを与えることは容易ではない.授業内における録画あるいは録音では事後の評価に時間を要することに加え,機材の管理コストが授業運営における大きな負担となってしまう.そこで本研究では個々の学習者に腕時計型運動センサデバイスを装着させることで,レッスン内の演奏運動を全て記録し,演奏技量獲得の様子を可視化するシステムの開発実験を行った.ギター演奏技巧としては,音楽表現における重要な基礎技巧の一つであるアクセント付きコードストローク奏法を取り上げ,学習者の利き腕側での運動信号から演奏リズムの正確さ,アクセントの鋭さ,及び演奏運動の形態をPC画面におけるシンプルな操作にて評価することができる.音楽系専門学校における各1時間計5回にわたるギターレッスンクラスへの適用実験を行った結果,17名の学習者における技量獲得の状況を客観的に可視化することができた.また,数値データによる振り返りにより教育者と学習者が演奏技量に関する情報を共有することにつながった.
著者
鵜飼 祐生 藤吉 弘亘
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J106-D, no.3, pp.195-206, 2023-03-01

人物再同定は,異なるカメラで撮影された同一人物の画像を検索するタスクである.人物再同定はその応用上の重要性から注目を集めており,ラベル付けされた大規模データセットを用いて深層学習モデルにより学習することで大きな進展を遂げてきた.また,あるラベル付けされたソースドメインで学習したモデルを他のドメインに適用した場合,推論精度が大きく低下する実用上の課題に対しても,数多くの教師なしドメイン適応手法が提案され,大きく改善されてきた.これらの手法の多くは,Global Average Poolingによる出力のみをもつモデルを用いており,画像特徴の平均的な特性のみを考慮している.そのため,例えばFine-Grainedな問題設定で重要とされる局所的な情報は十分考慮されていない,という課題がある.そこで本論文では,上記の課題を解決するため,Global Average Pooling(GAP)及びGlobal Max Pooling(GMP)により出力される,異なる特性をもつ二つの出力間の違いを考慮しながら,その両方を利用する新たな教師なしドメイン適応手法を提案する.公開された複数の人物再同定を対象とするデータセットにおける実験により,提案手法の人物再同定における教師なしドメイン適応における有効性を確認した.
著者
柴田 拓海 宇都 雅輝
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J106-D, no.1, pp.47-56, 2023-01-01

近年,受検者の多面的な能力を測定する手段の一つとして小論文試験が注目されている.一方で,小論文試験では,採点にかかる人的・時間的なコストが大きいことが問題となる.この問題を解決する手段の一つとして,自動採点のニーズが高まっている.近年では,深層学習を用いた自動採点手法が多数提案され,高い精度を達成している.そのような深層学習自動採点手法の多くは,各小論文に対して単一の全体得点のみを予測するように設計されている.しかし,主に学習評価場面などで自動採点を活用する場合には,受検者に詳細なフィードバックを与えるために,全体得点だけでなく,複数の評価観点別得点も予測したい場合がある.このようなニーズに対応するため,全体得点に加えて複数評価観点に対応する細目得点も同時に予測できるモデルが近年提案されている.しかし,従来モデルは評価観点固有の複雑なニューラルネットワーク層を有しており,得点予測の根拠について解釈性が低いという問題がある.この問題を解決するために,本研究では,多次元項目反応理論を用いて予測根拠の解釈性を高めた複数観点同時自動採点モデルを提案する.
著者
池川 航史 西島 直
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J105-D, no.11, pp.653-656, 2022-11-01

本論文における提案手法は,機密データを外部に出すことなく他の組織に利活用させることを可能とする.また,提案手法は秘匿機能をもつスマートコントラクトを活用し,機密データ利活用時の手続き情報に関しても秘匿化を実現する.
著者
三宅 悠介 峯 恒憲
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J105-D, no.11, pp.641-652, 2022-11-01

ECサイトで扱う商品種類増大に伴う情報過多問題を解決するため,効果的な推薦手法を選択することが重要である.推薦手法の有効性は様々な要因や時間の経過によって左右されるため,最適な推薦手法の選択には実環境での継続的な評価が不可欠である.しかしながら,実環境での評価では機会損失が課題となる.本研究では,この実環境での評価を,文脈と時間の経過を考慮した多腕バンディット問題とみなして解くことで,機会損失を抑えながら最適な推薦手法を自動かつ継続的に選択するメタ推薦システムを提案する.評価では,実際のECサイトから取得したデータを用いて最適な推薦手法を選択するシミュレーションを実施した.実験の結果,提案システムが,評価時に生じる機会損失を抑え,文脈と時間の経過を考慮しない場合と比較して累積クリック数を約9.7%増加させる効果があることを確認した.
著者
熊木 武志 下村 優太郎
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J105-D, no.8, pp.499-503, 2022-08-01

本研究は,近年大きな社会問題となっている,スマートフォンを用いた盗撮行為に対して,新しい抑止技術を提案するものである.具体的には,LED照明を利用して,CMOSイメージセンサで撮影された動画に対し,ムービースタンプと呼ぶフリッカを埋め込み,画質を劣化させる.それとともに,このスタンプから動画が撮影された日時や場所等の情報を抽出することで,盗撮行為の抑止につなげる.更には,盗撮動画がインターネットにアップロードされる2次被害も抑えることが可能となる.一般にフリッカは,ノイズとみなされ,いかに低減するかが重要であったが,本研究はこれを積極的に活用することで,社会問題の解決へとつなげる,他に類を見ない技術である.
著者
土井 猛 辻 裕之 木村 誠聡
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J105-D, no.7, pp.480-484, 2022-07-01

書籍をデータ化する際に様々なスキャナやスマートフォンのカメラを用いて撮影した画像には湾曲するひずみが確認されている.これは綴じている文書に対し上部から撮影を行った場合に確認される現象で,綴じた辺に向け湾曲したひずみが生じる.このひずみを補正する方法は種々存在するが,一つのアルゴリズムでさまざまなひずみを補正する方法は存在しない.本論文では最小2乗法とAICによる次数選択を行い,文書画像のひずみ形状を限定しない補正手法を提案する.結果としてOCR機能による認識実験において,提案手法は93%の認識成功率を示すことを確認した.
著者
近藤 恵 兒嶋 朋貴 大川 智章 入部 百合絵
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J105-D, no.3, pp.208-216, 2022-03-01

近年,農業従事者数の減少により少人数で多頭数の家畜を管理するためのモニタリング技術が求められている.本研究では非接触に収集可能な牛の鳴き声を用いたモニタリング技術の構築を目的に,本論文ではモニタリング技術に必要な鳴き声からの個体識別手法について提案する.鳴き声を用いた個体識別の先行研究では,識別率が十分でないことや月齢による鳴き声の音響特性の違いを考慮していない点が課題として挙げられる.本研究では,月齢の異なる雌のホルスタイン種成牛5頭,育成牛9頭と子牛4頭の計18頭から鳴き声を採取し,声帯波長や声道長に関連のある基本周波数やパワー,線形予測残差波形のMFCC(Mel-Frequency Cepstrum Coefficients)などの音響的特徴量を抽出した.これらの特徴量を利用して,SVM(Support Vector Machine)による個体識別を行った結果,先行研究よりも識別率が35%以上向上した.これにより,牛も人と同様に声帯波長や声道長に個体性が含まれていることが明らかとなった.加えて,話者認識に用いられる相対位相を上記の音響的特徴量に加えることで個体識別の向上が確認された.
著者
青見 樹 堤 瑛美子 宇都 雅輝 植野 真臣
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J104-D, no.11, pp.784-795, 2021-11-01

小論文自動採点は,人間評価者に代わって自動採点モデルが小論文の採点を行う自然言語処理におけるタスクの一つである.近年では多くの自動採点モデルが提案されており,それぞれに異なった特徴を有している.本研究では,評価者特性を考慮した項目反応理論を用いて自動採点モデルのモデル平均を行う新たな手法を提案する.具体的には自動採点モデルを一人の評価者とみなして評価者特性を考慮した項目反応モデルを適用することで,それぞれの自動採点モデルの特徴を考慮した統合を行う.実験を通して,提案手法が単体の自動採点モデルや,単純な予測スコアの平均化手法と比べて予測精度を向上させることを示す.更に,提案手法が統合した自動採点モデルの特徴を捉え,安定したスコアの予測を行うことができることを示す.
著者
匂坂 芳典 佐藤 大和
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:09135713)
巻号頁・発行日
vol.J66-D, no.7, pp.849-856, 1983-07-25

日本語テキストからの音声合成で必要な韻律情報(アクセント,イントネーション)の生成規則を確立するため,アクセント句を構成する単語の性質からアクセント核の位置を決定する規則を検討した.本規則化では従来の個別的な記述の整理,分析を行い,単語間アクセント結合において,後続単語のアクセント属性として結合アクセント価とアクセント結合様式を提案する.これにより付属語アクセント結合の統一的な規則化を行うと共に,複合単語についても同様の規則化を図った.また,これらの規則の妥当性を示すため,自立語に付属語が複数個連なる文節3445文節,複合単語4877語を用いた推定実験を行った.この結果,各々98.3%,95.4%の正解率が得られ,本規則の有効性が確認された.さらに,これら推定実験結果の分析から,アクセント決定には句を構成する語の性質,句の構造,語の用法と意味等が種々に反映されることが示された.
著者
岡野 将士 宇都 雅輝
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J104-D, no.8, pp.650-662, 2021-08-01

近年,大規模な記述・論述式試験のニーズの高まりに伴い自動採点に注目が集まっている.自動採点手法として深層学習に基づくモデルが近年多数提案され,高精度を達成している.深層学習自動採点モデルを利用するためには,大量の採点済み答案データを用いてモデルの学習を行う必要がある.大量の答案の採点作業は一般に多数の評価者で分担して行われるが,そのような場合,個々の答案に与えられる得点が評価者の特性に強く依存してしまう問題が知られている.このような評価者バイアスの影響を受けたデータから自動採点モデルを学習すると,評価者バイアスの影響がモデルにも反映されてしまい,予測性能が著しく低下する.他方で,教育・心理測定の分野において,評価者バイアスの影響を考慮して得点を推定できる項目反応モデルが近年多数提案されている.そこで本研究では,この項目反応モデルを組み込んだ,評価者バイアスに頑健な深層学習自動採点手法を提案する.提案手法は,これまで等閑視されてきた学習データ中の評価者バイアスの問題に着目した初めての手法である.また,特定の自動採点モデルに依存する手法ではなく,様々な自動採点モデルにおいて評価者バイアスに頑健なモデル学習と得点予測が期待できる.
著者
三宅 悠介 峯 恒憲
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J103-D, no.11, pp.764-775, 2020-11-01

ECサイトには商品種類増大に伴う情報過多問題を解決するため,商品の自動提案機能が導入されている.この機能に用いられる推薦手法は数多く提案されていることから,ECサイトの運営者にとっては効果的な推薦手法を選択することが重要となる.推薦手法の有効性は様々な文脈に左右されるため,実環境での継続的な評価なしに最適な推薦手法を選択することは困難である.本研究では,推薦手法の選択を自動的かつ継続的に最適化する推薦システムを提案する.提案システムでは,最善な推薦手法の選択を多腕バンディット問題とみなして解く.また,時間の経過並びに商品特性の差異を文脈として考慮することで推薦手法の選択を最適化する.提案システムの有効性を評価するために,ECサイトから収集した実際のデータを使用して実験を行った.評価実験の結果,ECサイトにおいて時間の経過並びに商品特性の差異により有効な推薦手法が異なること,そのため時間による推薦手法の有効性の変化並びに閲覧中の商品カテゴリーを文脈とみなした最適化手法が,文脈を考慮しない場合と比較して累積クリック数を約2%増加させる効果があることを確認した.
著者
趙 南元 飯島 泰蔵
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:09135713)
巻号頁・発行日
vol.J68-D, no.5, pp.1125-1132, 1985-05-25

一枚の複雑な画像が与えられたとき,あるいはある風景を眺めたとき,それを認識し,理解しようとすれば,人間はまずそれらを幾つかの簡単な画像に分けることから始めるであろう.人間の目は,無意識の中に,良い視点と視野を決め,自分にとって最も意味のある視覚情報を積極的に取り入れる.本論文ではこのようなプロセスを近似する一つの試みとして安定視点木法を提案する.本方法は,図形の基礎方程式にもとづく最適抑制法を土台にし,視点の安定性を視野を決める基準とすることによって,与えられた複雑な画像から特徴パターンを抽出する方法である.抽出された特徴は,扱い易い木構造となり,安定視点木と呼ばれる.本文では,ボケ変換を解析することにより,安定視点木の定義の正当性を論じ,その性質を明らかにした.本方法による画像の特徴抽出法は,画像の特質に依存しないため,汎用性のある特徴抽出法として,広く応用することが可能である,と考えられる.
著者
住谷 正夫 安久 正紘
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:09151923)
巻号頁・発行日
vol.J73-D2, no.3, pp.478-485, 1990-03-25

心地よい自然の風を作るために,モータの回転数をパワースペクトルが1/fになる揺らぎを用いて制御する方法が提案されているが,本論文では,この1/f揺らぎ制御が人間の快適感におよぼす効果を,白色,1/f2などの各種揺らぎ制御との比較によって明らかにした.快適性の評価方法として,言語対による主観申告データを用いて主因子分析を行い,快適性を示す因子を抽出し,その因子に含まれる項目の評価を数値化し比較評価する方法を用いた.扇風機制御におけるデータ収集は,揺らぎ制御を行わない場合と,各種揺らぎデータを用いて回転数を制御する場合について行い,30名の申告データにおいて,各制御時の評価値を平均した結果により比較検討を行った.また,風と同様に人間の皮膚感覚に直接刺激を与えるものにマッサージがあり,マッサージにおいても,強さや速さの変化がある.そこで,マッサージ機についても揺らぎ制御を行い,同様の主観申告データを得た.得られたデータを解析すると,扇風機,マッサージ機のいずれにおいても,1/f揺らぎ制御時に人間が最も快く感じられるという結果を得た.今後,いろいろな場面で,1/f揺らぎ制御が機械と人間の潤滑油として,有効となりうる可能性を示唆した.
著者
山田 憲嗣 高橋 秀也 志水 英二
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:09151923)
巻号頁・発行日
vol.J80-D2, no.11, pp.2986-2994, 1997-11-25

本論文では,短波長域における結像法として利用されている符号化開口法を可視光域に適用し,物体の位置と物体表面の3次元形状を検出する手法について述べる.本手法は物体から開口面までの距離により,投影面上に映る開口面の大きさが変化する特性を用い,開口面から物体までの距離を検出する.この距離検出を対象物体の表面の各画素に拡張することで物体表面の3次元形状を検出する.実際に,短波長域で用いる符号化開口法を可視光域で用いることができる条件を考察し,試作システムを構築して3次元物体の形状を検出した.提案する検出法は,両眼視法とは異なり,物体の反射光だけを利用した単眼視法であるので,簡単な測定システムで3次元形状検出を実現することができる.また,光だけでなく波動の性質をもつものであれば可視でも不可視でも本手法を利用し,3次元形状検出を行うことが可能である.
著者
上瀧 剛 井尻 善久
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J98-D, no.8, pp.1126-1141, 2015-08-01

物体検出は,画像処理の基礎技術の一つである.物体検出の性能は処理時間と検出率・位置精度で記述することができる.処理時間と検出率を追求した物体検出に関する文献は非常に多い.一方,位置精度を追求した文献も増えつつあるが,実応用上の重要性に比べ,学術界における注目度は低いように思われる.本解説論文においては,実応用上の重要性を述べるとともに,既存研究を総括し,幾つかの手法に対するベンチマーク評価を行った後に,今後の展望についても触れる.
著者
小川 樹 森勢 将雅
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J103-D, no.4, pp.205-214, 2020-04-01

音声合成や声質変換に関する技術は幅広く提案され,既にいくつもの製品が多岐にわたって利用されるようになった.声質変換技術の普及により,音声の加工も誰でも手軽に行えるようになった.音声の加工には,音の3要素と呼ばれる「大きさ」,「高さ」,「音色」をそれぞれ加工する方法が広く用いられている.大きさや高さは,音圧レベルや基本周波数を加工するため,加工の結果の予測が容易である.しかし,音色の加工は,加工に伴う劣化の予測が困難という問題点がある.本研究では,音声の音色加工に伴う劣化を計測する知覚モデルによりこの問題の解決を図る.様々なスペクトル尺度と距離関数の組み合わせと音質の関係を調査し,その結果を用いて知覚モデルを開発した.主観評価実験を実施し,従来法と開発した知覚モデルの間に,主観評価結果との相関係数の有意差があるかの検定を行った.検定の結果,p<0.001で有意な差があり,従来法より開発した知覚モデルが優れていることを示した.