著者
川西 康友 満上 育久 美濃 導彦
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J94-D, no.8, pp.1359-1367, 2011-08-01

本論文では屋外に設置された固定カメラを対象とし,太陽の動きによる日照の変動と看板やベンチなどの置かれ方に起因する構造の変動を再現した背景画像生成手法を提案する.この手法では,長期間観測して得た大量の画像を観測日と観測時刻という二つの観点で整理し,複数日・同時刻の観測画像に注目することで画像の日照成分を推定し,同日・複数時刻の観測画像に注目することで画像の構造成分を推定する.これにより,従来うまく背景画像を生成することができなかった日照の変化と構造の変化の両方を含むシーンにおいて,この二つの変化を同時に再現した背景画像生成を実現する.実験では従来手法と提案手法によって,様々な定点カメラによって得た画像に対して生成した背景画像を比較することで,本手法による背景画像生成の有効性を示した.
著者
山添 大丈 内海 章 米澤 朋子 安部 伸治
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J94-D, no.6, pp.998-1006, 2011-06-01

従来の視線推定手法のもつ制約を緩和した単眼カメラによる視線推定手法を提案する.これまでに多くの視線推定手法が提案されているが,キャリブレーションが必要,計測範囲が狭いなどの問題があり,その応用範囲はHCIにおける視線計測や視線を用いたインタフェースなどに限られてきた.提案手法では,虹彩と白目のアピアランスをもった三次元眼球モデルを用い,バンドル調整法のように複数フレームにおける観測画像とモデル投影画像の間の投影誤差が最小とすることにより,眼球モデルパラメータを推定する.従来の視線推定手法とは異なり,ユーザが決まった参照点を注視するといった特殊なキャリブレーション動作が必要ない.そのためユーザに視線推定を意識させることなく,自動的にキャリブレーション処理が完了できる.視線推定においても同様に,投影誤差を最小化することにより,視線方向を推定する.実験により,解像度QVGA (320 × 240)の画像で,約6度の推定精度が得られることを確認した.
著者
松田 俊広 伊野 文彦 萩原 兼一
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J94-D, no.5, pp.852-861, 2011-05-01

本論文では,実時間の画像ノイズ除去を目的として,GPU(GraphicsProcessing Unit)に基づく高速な全変動最小化手法を提案する.既存手法と異なり,提案手法はカーネルを二つに分割する.この分割はGPU内の同期を増加させるが,メモリアクセスパターンを簡素化し,メモリアクセスに起因する分岐を削減できる.更に,オフチップメモリの実効バンド幅を最大化し,その読み書き量を最小化するために,スレッドブロックの大きさや形状を適切に定める.実験の結果,提案手法は単一カーネルに基づく既存手法よりも30%ほど高速であった.また,スレッドブロックの形状に応じて,性能が4%ほど向上した.1024 × 1024画素からなる時系列臨床画像に対し,秒間46フレームの実時間ノイズ除去及び可視化を実現できた.
著者
三木 光範 加來 史也 廣安 知之 吉見 真聡 田中 慎吾 谷澤 淳一 西本 龍生
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J94-D, no.4, pp.637-645, 2011-04-01

オフィスワーカが個人ごとに設定した照度をできるだけ少ない消費電力量で提供する知的照明システムを実際のオフィス環境において構築した.システムの構築場所は,東京都千代田区大手町にある大手町ビル内の三菱地所(株)都市計画事業室である.構築エリアの面積は約240平方メートルであり,26台の照明器具及び22台の照度センサを設置した.1台の照明器具は昼白色蛍光灯及び電球色蛍光灯からなり,器具ごとに色温度を変化させることが可能である.これらの機器は,制御用コンピュータと接続され,Simulated Annealingを応用した制御アルゴリズムにより動作する.システムの実働実験により,各オフィスワーカに個別の照度環境を提供できるとともに,従来の照明システムよりも消費電力量の削減効果があることを確認した.
著者
小林 暁雄 増山 繁 関根 聡
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J93-D, no.12, pp.2597-2609, 2010-12-01

日本語語彙大系や日本語WordNetといったシソーラスは,自然言語処理の分野における様々な研究に利用可能なように構築されている.これらのシソーラスはその精度を保持するために,人手により,よく吟味されて構築されている.このため,新たな語を追加する際にも,よく検討する必要があり,容易に更新することはできない.一方,Wikipediaはだれでも参加・閲覧できるオンラインの百科事典構築プロジェクトであり,日々更新が行われている.日本語版のWikipediaでは,現在100万本以上の項目が収録されており,非常に大規模な百科事典となっている.このWikipediaのもつ膨大な語彙を,既存のシソーラスの名詞意味体系に分類することができれば,非常に大規模な言語オントロジーを構築することができると期待できる.そこで,本研究では,Wikipediaを構成する構造の一つであるカテゴリーを,Wikipediaの記事の冒頭文を使用し,既存の言語オントロジーの意味クラスの分類階層と連結することで,大規模な言語オントロジーを構築する手法を提案する.

2 0 0 0 階層隠れCRF

著者
玉田 寛尚 林 朗 末松 伸朗 岩田 一貴
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J93-D, no.12, pp.2610-2619, 2010-12-01

HMM(Hidden Markov Model)は時系列データの生成モデルとしてよく知られている.しかし,近年,HMMに対応する識別モデルであるCRF(Conditional Random Field)が提案され,多くの応用問題で有効性が示されている.HHMM(Hierarchical HMM)はHMMを一般化した生成モデルであり,時系列データの状態を階層的に表現する.我々はHHMMに対応する識別モデルとして,HHCRF(Hierarchical Hidden CRF,階層隠れCRF)を提案する.HHMMとHHCRFの性能比較のために,生成モデルと識別モデルの性質を考慮しつつ人工データ実験を行い,パラメータ学習時の訓練集合サイズが大きくなり,かつデータ生成源が非一次マルコフモデルに近づくにつれて,状態系列推定におけるHHCRFの性能がHHMMのそれよりも,より高くなることを示す.
著者
浅水 仁 長谷山 美紀
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J93-D, no.5, pp.642-646, 2010-05-01

本論文では,施設や店舗などに出入りする人物の足跡を用いて男女識別する手法について検証する.取得した足跡から算出が可能な特徴量を用いてSVMにより男女を識別する.本手法を用いて被験者実験を行い,90%の識別率を実現した.
著者
太田 直哉 藤井 雄作 伊藤 直史
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J92-D, no.6, pp.888-896, 2009-06-01

犯罪捜査において,容疑者が着ている衣服の色は重要な情報である.もし容疑者がカラーの監視カメラによって撮影されていた場合には衣服の色が同定できるが,白黒の監視カメラの場合には色の情報は通常得られない.しかし色の異なったいくつかの照明下で容疑者が撮影されていて,その撮影環境が再現できる場合には何らかの色の情報が得られると考えられる.本論文ではこの問題を数学的に解析し,どのような条件のときにどのような色情報が得られるかを明らかにする.それに基づいて色情報推定の具体的な手順を構築し,実験で効果を確認する.更に照明の色を積極的に制御すれば,提案する方法は簡便な分光反射率の測定法としても利用できるので,これについても言及する.
著者
川前 徳章 高橋 克巳 山田 武士
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J90-D, no.10, pp.2746-2754, 2007-10-01

本論文はユーザの情報検索を効率化するために,ユーザの興味とオブジェクトのトピックに着目した新しい情報検索モデルを提案する.我々は情報検索におけるユーザとその検索対象であるオブジェクトの関係はユーザの興味とオブジェクトのトピックの関係に射影することで説明できると仮定し,この射影を行うための手法としてLatent Interest Semantic Map(LISM)を提案する.LISMの特徴はLatent Semantic Analysisとユーザモデルの構築を同時に行い,射影した空間を用いることでユーザとオブジェクトの関係をユーザの興味やトピックの内容といった意味的な観点から説明できる点にある.この手法を協調フィルタリングに適用することで,ユーザのオブジェクトに対する評価予測やリコメンデーションを興味やトピックといった意味的な観点から実現できる.これらの手法を著名なベンチマークデータに適用した実験の結果,協調フィルタリングにおいて提案手法が情報検索においてユーザの情報検索を効率化することを確認した.
著者
森 敏生 甲斐 昌一
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:09151923)
巻号頁・発行日
vol.J85-D2, no.6, pp.1093-1100, 2002-06-01

本論文では人の脳の確率共鳴現象の存在を,脳波の雑音効果から研究した.ここでは α 波周波数(fα)に見られる引込み現象を利用し,α 波に近い周期刺激では引込み現象が被験者の感情や体調などの影響を受けやすいので,その影響の少ない倍周期引込みを対象とした.実験は,中枢神経系・脳内部で確率共鳴現象が起こることを明確に示すために,周期光刺激を右眼に雑音光を左眼に印加した.この際,右眼の弱い光刺激のみでは α 波の引込みを起こさない.この状態で左眼の雑音光強度を可変にすると,ある適度な強度で脳波は引込みを起こし,スペクトル中に刺激周波数(fs)の倍周波に鋭いピークが観測される.更に強い雑音を加えるとこの鋭いピークは消え,引込みからはずれることが観測された.各雑音光強度に対してこのスペクトル振幅をプロットすると確率共鳴現象で見られるベル型の変化を示した.この研究では周期及び雑音刺激が各々独立した入力点(左右眼)に印加されていることから,確率共鳴現象が視交差以降の視覚経路すなわち中枢神経系で起こっていると結論される.
著者
實廣 貴敏 鳥山 朋二 小暮 潔
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J91-D, no.10, pp.2519-2528, 2008-10-01

実環境下での音声認識では,認識対象音声だけでなく,複数種類の周囲雑音,及び,それらが重なり合ったものが入力に含まれる.雑音抑圧の従来法では一般に一つの雑音源と仮定することが多く,複数種類の雑音が存在する場合には対応が困難であった.このような雑音に対応するため,我々は以前に複数種類の雑音モデル及びその合成モデルを用いた雑音抑圧手法を提案した.しかし,学習データから推定された雑音モデルをベースにしているため,雑音の変動や学習データに含まれない未知の雑音分布への対応が不十分であった.そこで,パーティクルフィルタを取り入れた手法を提案する.具体的には,複数雑音合成モデルにより,ある雑音が検出されると,その雑音モデルを事前分布としてパーティクルをサンプリングする.その雑音が継続して検出されるフレームでは,前フレームのパーティクルから推定されたパーティクルを用いる.これにより,突発的な雑音,変動する雑音や未知の雑音も近似的に推定することができる.病院内での看護師による実作業中の音声メモであるE-Nightingaleタスクにおいて,従来法に対し,確実な精度向上を確認できた.
著者
小八重 智史 吉原 和明 谷本 優太 藤木 卓 渡辺 健次
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J106-D, no.11, pp.481-491, 2023-11-01

AI技術が急速に進歩する中にあって,我が国では将来的なAI人材の不足が指摘されている.本研究ではまず,中学生段階におけるAIに関する学習内容や学習方法が確立されていなかったことから,中学生を対象にAIに関する知識のつながりや概念の構造を明らかにして学習内容を整理するために,「中学生向けAI概念図」を開発し,それを基に題材指導計画を開発した.次に,中学生を対象にディープラーニングの仕組みを学習する授業の実現を意図し,顔認証セキュリティシステム教材を開発した.教材は,生徒が一人一台学習者用端末を用いて機械学習に用いる学習用データとなる顔写真を自分で用意し,各パラメータを設定することで機械学習モデルの性能に関与できること,自分の設定したパラメータによる成果を視覚的に確認し,それを基に試行錯誤することを可能としている.開発した題材指導計画に基づいた授業実践を行い,有用性を確認した.
著者
真次 彰平 塩川 浩昭
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J106-D, no.10, pp.459-469, 2023-10-01

グラフ要約はグラフ中の幾つかのノード,及びエッジを一つにまとめることにより,グラフサイズを削減する技術である.グラフ要約では(1) 情報の欠損がない,(2) 圧縮率が高い,(3) 実装が容易であるという三つの要件が求められるが,従来の手法ではそれらを同時に満たすことができない.そこで本論文では,情報の欠損がなく高圧縮率なグラフ要約手法を提案する.提案手法は連結した3ノードに着目し要約を行い,それらの接続関係をビット列に変換することで.元のグラフに存在する全ての情報を高い圧縮率で要約する.本論文では実データを用いた実験を行い,従来手法と比較して高圧縮率な要約が行えることを確認した.
著者
安川 洵 槇原 靖 八児 正次 村形 駿樹 亀田 佳一 細井 利憲 久保 雅洋 八木 康史
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J106-D, no.9, pp.445-456, 2023-09-01

近年,我が国では脳卒中患者が増加しており,その後遺症の一つに片麻痺症状による歩行障害が挙げられる.日常生活に支障のない歩行レベルであるかの判断指標の一つにバランス能力指標Berg Balance Scale (BBS)がある.ただし約20分の評価を専門家が行い,評価者の主観が影響する点が課題であった.本研究では,属人性を排した効率的なバランス能力評価実現のために,対象者の歩行計測のみで簡便かつ自動的にBBSを推定するシステムを開発した.まず1台のRGBDセンサを用いて対象者の歩行を撮影し,見守り者がいる場合は,対象者と介助者の領域を分離する.次に歩幅,つま先向き,立脚時間,歩行速度など計23種類の特徴量を抽出する.最後にLasso回帰モデルを用いてBBSを推定する.実験では94件の脳卒中患者の歩行動画と専門家が付与したBBSのデータセットを用いた.BBSの推定は,平均絶対誤差4.97 ± 4.31点で,従来手法より誤差が小さく,臨床的に許容可能な誤差範囲内であることを確認した.処理時間は見守り無しパタン(シーケンス長515 ± 504 frame)で47 ± 52 s,見守り有りパタン(764 ± 465 frame)で62 ± 32 sであった.従来の評価時間を短縮し,提案手法の有用性を示した.
著者
中井 大貴 河南 壮太 田原 映理 山本 有貴 福山 尚 五味 文 角所 考 岡留 剛
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J106-D, no.8, pp.419-430, 2023-08-01

非侵襲な検査を可能にする光干渉断層計(OCT: Optical Coherence Tomography)によるスキャン画像において,網膜の層の厚みと,視力や病状との関係性を捉えるためには,画像における網膜の層を抽出する必要がある.本研究では,網膜剥離を伴う眼科疾患におけるOCTスキャン画像で網膜の層を抽出する手法を提案する.その手法では,各層に対し,それぞれの特徴を反映したコスト関数の最小化により層の境界を決定し,とりわけ,治療後視力と相関があると考えられる厚みを求めるために必要な網膜剥離領域の輪郭線と内境界膜・外境界膜が抽出できる.その応用として,得られた境界から層の厚みに関する特徴量を算出し,中心性漿液性脈絡網膜症の治療後視力を予測するARDガウス過程回帰を構築し,予測に有意な特徴量が,中心窩における内境界膜から外境界膜までの長さと,外境界膜から網膜色素上皮までの長さの剥離前後での変化度であることを明らかにした.
著者
吉川 諒 落合 秀也 矢谷 浩司
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J106-D, no.7, pp.409-418, 2023-07-01

情報セキュリティ・倫理に関する知識を学ぶ必要性がますます高まる中,全てのユーザが最新の知識を定期的に手に入れられているとは言い難い.そこで我々は先行研究において,一般人に対して定期的に学習機会を提供するためのシステムの設計を目指した.そして,情報倫理・セキュリティに関するマイクロラーニングをボット判定に統合するシステム,DualCheckを提案した.DualCheckはreCAPTCHA-v2等と同様にチェックボックスをクリックする挙動でボット判定を実施するが,同時にインターネットの適切な利用を促すクイズを出題する.先行研究ではDualCheckを利用することが知識の定着に役立ち,またユーザビリティが高いことが示されたが,定着した知識がどの程度持続するかは不明であった.そこで本研究では,DualCheck利用後4ヶ月程度が経過した参加者を対象に,知識の定着を測定するテストを行った.結果として,DualCheckの利用前に比べて,テストの正答率が有意に高いことが明らかとなった.更に,DualCheck利用直後の知識の多くが持続していることも判明した.
著者
中島 淳
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J106-D, no.5, pp.308-316, 2023-05-01

ブロックチェーン(BC)の一形態として,特定組織間でBCネットワークを形成するパーミッション型BCが有望技術として注目されている.パーミッション型BCでデータを共有する際,組織の一部に対してデータを見せたくないケースが存在する.パーミッション型BCでは,BCサーバを保有してBCサービスを構築・運用する組織(Own型組織)と,BCサーバを保有せず,API経由等で情報格納サービスとしてBCを利用する組織(Join型組織)が存在する.パーミッション型BCはJoin型組織向けにはデータ秘匿機能を提供しておらず,Join型組織は秘匿したいデータをOwn型組織に預けることになり,安心・安全にBCサービスを利用できない課題が生じる.本研究では,BCサーバ単位のデータ共有範囲制御によって各BCサーバにプライベート領域を用意し,秘密分散を用いて分解したBCへの格納データの断片をプライベート領域にそれぞれ格納することで,データを秘匿可能にする手法を提案・検証する.検証ではBCへの物流取引データ格納に本手法を適用した結果,Join型組織向けのデータ秘匿機能を,性能低下率1%未満で提供可能であることを示した.
著者
池崎 良哉 竹本 修 野崎 佑典 吉川 雅弥
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J106-D, no.4, pp.209-217, 2023-04-01

Society5.0の実現には,つながるデバイスの認証だけでなく,企業の知財保護の観点からAIエッジデバイスで利用するモデル情報を保護する必要がある.本論文では,新たに知財保護を指向したAIエッジ・認証併用システムを提案する.提案手法では,Physically Unclonable Function(PUF)を用いることで,デバイスの認証に加えてAIモデルの不正利用を防止する.評価実験では提案手法を用いることで,不正に複製されたAIエッジデバイスでは,回路構成がオリジナルと同一でも推論精度を10%以上低下させることに成功し,提案手法が有効であることを明らかにした.
著者
川崎 直紀 町田 優希 奥村 万規子
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J106-D, no.4, pp.290-297, 2023-04-01

本論文では,1次元に並べたLEDを高速に点滅させ,サッカードと呼ばれる眼球運動中に網膜上に画像を知覚させるサッカード型ラインディスプレイに表示させる画像について,知覚感度を考慮した階調の補正手法を提案した.ウェーバー・フェヒナーの法則に基づき指数的な階調補正を行った画像と,従来の線形な階調の画像を比較し,視認性の主観評価を行った.その結果,効果が高いと予想される中階調や高諧調を多く含む画像については,視認性の向上が見られた.また,サッカード中に視認性の良い空間周波数領域を明確にするために,0.09~2.9 [c/deg]の範囲の6種類の垂直方向の格子模様の画像を表示し,主観評価実験により原画像通りに知覚できる空間周波数の範囲を特定した.これらの評価結果により,サッカード型ラインディスプレイの階調特性や空間周波数特性を明確に示すことができた.