著者
堤 瑛美子 郭 亦鳴 植野 真臣
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J106-D, no.2, pp.72-83, 2023-02-01

近年,教育現場ではオンラインラーニングシステムで収集された教育ビッグデータをいかに有効に活用するかが課題となっている.人工知能分野では,これらの教育ビッグデータに機械学習手法を適用し,学習者の課題への反応を予測することにより,学習者への適切な支援を行うアダプティブラーニングが注目されている.Tsutsumiら(2021)はアダプティブラーニングのために深層学習手法と項目反応理論を組み合わせ,パラメータの解釈性をもちながら高精度な反応予測を可能とするDeepIRTを開発し,高い予測精度とパラメータの解釈性を実現している.しかし,DeepIRTでは学習者の潜在的な能力値を推定する際に最新の学習データのみを用いるために,過去の学習データを十分に反映できていない可能性がある.本研究では,DeepIRTに新たなHypernetworkを組み合わせ,学習者の過去の学習データと最新の学習データの重要性を推定することで両者のバランスを最適化しながら能力値推定を行う.評価実験では,提案手法が最先端の反応予測手法を上回る反応予測精度を示した.
著者
朝日 南々香 竹内 勇剛
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J106-D, no.1, pp.2-13, 2023-01-01

対人インタラクションにおける身体接触は,被接触者に精神的安泰をもたらしたり,向社会的行動を促進する効果があることが明らかになっており,このような身体接触はソーシャルタッチと呼ばれている.本研究では,ロボットが作業課題の遂行を依頼する状況下において,ロボットの接触のタイミングの統制が2名の実験参加者の協力行動に及ぼす効果を明らかにするため,2人1組の19ペアを対象に同期条件/非同期条件/非接触条件の3条件からなるインタラクション実験を行った.実験は,ロボットが作業課題の依頼とともに身体接触を行い,その後実験参加者の2名1組のペアとなって作業課題を行うものである.実験の結果,ペアに対するロボットの同期的な接触が,非同期的な接触や接触しない場合に比べ,統計的有意に実験参加者の協力行動を促進させることが明らかになった.一方で,ロボットの身体接触は,実験参加者のペアとなった相手及びロボットに対する印象には影響しなかった.これらの結果から,ロボットによるソーシャルタッチはインタラクションにおける時間的構造が関与している可能性が示唆され,二者に対する同期的な身体接触は,人同士の協力行動を促進するために有効であることが示された.
著者
岩田 和彦 小林 哲則
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J106-D, no.1, pp.57-65, 2023-01-01

多様な音声表現が可能な対話音声合成の構築を目的として,複数の異なる音声表現を収集する手法の設計に取り組んだ.従来は,それぞれを適切な表現とすることに注意が向けられ,互いに他の表現とは無関係に表出させた音声が収集されていた.しかし,このような収集方法を採ると,それぞれの表現の隔たりが大きくなり,それらの合成音声を対話の流れの中で発話ごとに使い分けたときに違和感が生じるという問題が起こる.そこで,話し手の心的状態が次々と変化して,収集したい音声表現が満遍なく出現するように進行する対話シナリオを導入した収集手法を設計した.所望の音声表現を対話の流れの中で順に表出させることで,全体としての調和が保たれた表現となることが期待できる.実際に,対話の状況に応じて異なる複数の音声表現を収集し,これらと従来の方法で収集した音声表現とに基づく合成音声を用いたそれぞれの模擬対話の対比較による主観評価を行った.本手法で収集した音声表現の合成音声では,異なる表現を対話の流れの中で使い分けたときの自然性が改善されていることが示され,本手法の有効性が確認された.
著者
金沢 和樹 和田 直史 松﨑 博季 真田 博文
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J106-D, no.1, pp.26-33, 2023-01-01

社会の高齢化進行に伴い,身体機能の維持やリハビリを目的とした継続的運動を必要とする人の数が増加しており,デイサービス等が活用されている.デイサービスにおいては身体機能の把握や各自の状況に応じた運動メニューの作成などのため,定期的な体力測定の実施が必要とされている.しかし,体力測定やその結果の記録といった作業は,いわゆる“アナログ”な方法で行われていることも多い.多くの利用者を抱えるサービス提供者にとってその作業負荷は高く,効率化の余地がある.これらの背景のもと,本論文ではスマートフォンを測定と記録の作業を同時に行う端末として利用することにより,体力測定に関する業務の効率化を目指したシステムの試作について述べる.実際にサービスを提供しているデイサービス事業者の協力を得て,機能実装と試用によるフィードバックを繰り返し,現場での利用に適した仕組みを構築した.試作したシステムで行われる測定等の作業は高齢者向けの体力測定として汎用的な内容であり,本システムの提案するアプローチは様々な現場で活用できる.試作システムを用いて模擬的な体力測定作業を行い,測定に要する時間の短縮と付随する業務の効率化が実現できることを示した.
著者
清水 健一 藤本 茂雄 松本 暢平 檜垣 泰彦
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J105-D, no.10, pp.572-583, 2022-10-01

千葉大学では2020年度からの全員留学に備え,メディア授業によるオンライン受講を目的として,Moodle上での動画配信システムを内製により開発を進めてきた.Moodleの動画配信機能に不足している部分について,必要要件を洗い出し,システム設計を行った.その結果としてAES暗号化を施したマルチビットレートのHTTP Live Streaming方式を採用し,SCORMパッケージによるMoodle連携方式を考案した.本システムの検証を行う過程において,新型コロナのパンデミックにより,急遽,学生数約14,000人,開講科目数7,000以上にも及ぶ大学における全ての授業がオンデマンド方式のメディア授業で実施されることになり,本システムは,その中心的な役割を担うこととなった.過去に経験がない状況下において,幸いにも大きなトラブルがなく安定した稼働を実現することができたことから,稼働状況をもとに本システムの運用結果を評価した.加えて,学生への通信負担を低減するため,パケット節約モードを追加する等のきめ細かな対応を行うことができた.これらの成功要因について検証し,今後の課題について考察を行った.
著者
小林 透 深江 一輝 今井 哲郎 荒井 研一 宮崎 禎一郎 辻野 彰
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J105-D, no.10, pp.533-545, 2022-10-01

本研究では,人型コミュニケーションロボットが,一人暮らしの高齢者との自然会話を基に認知症の予兆検知を行い,認知症の疑いがあれば,ソーシャルメディアを介して離れて暮らす家族やソーシャルワーカ等に通知する認知症予兆発見システムを開発した.著者らは,これまで,スマホが使えない高齢者とLINEを介した双方向のコミュニケーションが可能なソーシャルメディア仲介ロボットを開発した.本研究では,本ロボットに,“認知症予兆発見方式”を追加することで認知症予兆発見システムを実現した.認知症予兆発見方式では,臨床的に信頼性が高い改定長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)から自然会話シナリオを生成し,シナリオに基づくロボットと高齢者との対面会話による認知度の自動スコアリングが特徴である.本システムは,高齢者に相対する人型コミュニケーションロボットと全体を制御するクラウドサービスから構成されている.開発したプロトタイプシステムを用いた高齢者に対する評価実験により,従来の医師が実施する認知症診断結果と本システムによる評価結果を比較することで,本システムの有効性を明らかにした.
著者
菅谷 史昭 竹澤 寿幸 横尾 昭男 山本 誠一
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:09151923)
巻号頁・発行日
vol.J84-D2, no.11, pp.2362-2370, 2001-11-01

音声翻訳システムの新たな評価手法として翻訳一対比較法を提案し,ATR音声翻訳通信研究所が研究開発した音声翻訳システムで評価した.言語翻訳部単体,音声認識部と言語翻訳部を結合した場合の翻訳一対比較法の評価結果を述べるとともに,音声認識誤りのシステム性能に与える影響を分析した.また,評価結果を文ごとの平均単語エントロピーを使い分析し,同システムで採用されたコーパスベース音声翻訳システム性能の特徴を明らかにした.また,翻訳一対比較法の誤差解析を行った.
著者
大土 隼平 石井 陽子 中谷 桃子 大塚 和弘
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J105-D, no.9, pp.504-517, 2022-09-01

複数人対話におけるファシリテータによる対話者の状態把握を支援するため,頭部運動の機能に関する特徴量を用いた対話者の主観的印象の予測モデルを提案する.女性4名,17グループの対話を対象とし,雰囲気の良さ,楽しさ,やる気,集中度について,2分単位に自己報告された9段階のスコアを予測の対象とする.まず,対話者の頭部姿勢角及び発話の有無の時系列を入力とする畳み込みニューラルネットワークを用いて,頭部運動機能10種を検出する.次に頭部運動機能特徴として,検出された頭部運動機能から各機能の出現率や構成比等を2分単位の区間ごとに算出する.また,頭部運動の活発さを表す特徴も併せて抽出し,ランダムフォレスト回帰モデルを用いて内観スコアの予測を行う.実験の結果,全グループに対するモデルでは,印象4項目中3項目にて弱い相関(≥ 0.3)が確認でき,また,グループごとのモデルでは,約32%のグループにて中程度以上の相関(≥ 0.5)が得られるなど印象の予測可能性が示唆された.更に予測モデルの説明可能性を示すため,SHAP分析を用いて予測に寄与した対話者の行動と印象との関連性について考察する.
著者
中園 薫 角田 麻里 長嶋 祐二 細野 直恒
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J94-D, no.1, pp.221-232, 2011-01-01

筆者らは,外国人や聴覚障害者など,音声でのコミュニケーションが不自由な人を対象とした,コミュニケーション支援システム,VUTEを開発している.VUTEでは,携帯電子端末等で動画絵記号を表示させることにより,理解度の向上を図る.更に手話的表現を参考とすることにより,特定の国や文化に依存しない動画絵記号をデザインできることを目指している.また,マンガ的表現を取り入れることにより,より豊かな表現力をもつ.本研究の第一段階として,消防や怪我,急病などの救急時におけるコミュニケーションに限定した支援システム,VUTE 2009を試作し,公開した.本論文では,VUTE 2009がユニバーサルにコミュニケーションを支援できるよう工夫した設計方法について述べる.続いて本システムによって救急時の最低限のコミュニケーションが可能であることを評価実験によって確認し,今後のより詳細な評価実験へ向けて問題点を整理する.
著者
植野 晶 渕本 壱真 植野 真臣
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J105-D, no.8, pp.485-498, 2022-08-01

本論文では,項目露出を考慮した整数計画法による等質テストの自動構成手法を提案する.等質テストとはテストに含まれる項目は異なるが,受験者得点の予測誤差が等質なテスト群である.等質テストでは同一能力の受験者ならば,どのテストを受験しても同一得点となる保証があり,出題可能な項目のデータベース(アイテムバンク)から自動構成される.項目の露出数(出題回数)が大きい項目は受験者間で共有されやすく,経年劣化につながりその項目の信頼性が失われやすいため,露出数の偏りの軽減が重要な課題の一つである.Ishii and Ueno (2015) は構成した等質テストを全て保存し,その中から最も露出率(=露出数の最大値/テスト構成数)が小さい等質テストを出力して,露出率を軽減する手法を提案した.本論文では乱数を用いた整数計画法でテスト構成することで,露出数の偏りが改善されることを示し,整数計画法のみでは解決されなかった項目露出のバイアス問題を露出数上位の項目をアイテムバンクから除外しながらテスト構成することで解決する手法を提案する.評価実験では従来手法とテスト構成数及び露出率を比較し,提案手法の有効性を示す.
著者
山内 智貴 井手 理菜 菅原 俊治
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J103-D, no.11, pp.776-787, 2020-11-01

本研究では,不公平を強いられる可能性のある特別乗客(ベビーカーや車椅子,大きな荷物などをもつ乗客)や一般乗客を含む全タイプの乗客にカメラからの情報を利用し,公平な待ち時間と効率的な輸送を実現するためのエレベータ群の配車制御法を提案する.高層ビルではエレベータは垂直輸送の手段として必要不可欠である.建物のエレベータ台数は限られており,効率的な配車制御が必要である.また,エレベータ容量の限度から,多くの占有量が必要な特別乗客は十分な空きのあるエレベータが到着するまで,一般乗客より長時間待たされやすい.一方,近年では環境を観測するカメラや各種センサの普及と画像認識技術の向上により,エレベータホールでの待機人数や荷物の大きさを精度よく推定できる.提案手法は,特定のカゴやホールを監視する複数のエージェントがこれらの情報を収集し,待ち時間の短縮化と公平化を実現する効果的な配車を実現する.シミュレーションを用いて評価実験を行い,提案手法が待ち時間の短縮と公平化を実現し,全乗客の輸送効率を改善できること,更に推定人数の誤差が与える影響を調査する.最後に改善に対する考察と提案手法の限界を議論する.
著者
斉藤 賢爾 高野 祐輝
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J96-D, no.6, pp.1433-1446, 2013-06-01

今世紀最初の年に分散システムの理論的世界に登場した分散ハッシュテーブル(DHT: Distributed Hash Table)は,Key-Value型検索(キーに対応する値をルックアップするサービス)を規模拡大性かつ可塑性(特に,壊れても,残った部分の変化により機能を維持できる性質)をもちつつ提供することを可能とし,その後の分散データ構造及びアルゴリズムの研究の基盤として用いられてきた.しかし,その圧倒的な関連論文の数と比較して,実用された例は極端に少ない.DHTが現実の問題に対応するためには,実社会での応用が要求する性能(検索や経路表の維持の効率性)と機能(範囲検索等)の条件を満たすとともに,現実に運用されているネットワークにおける様々な制約(NAT: Network Address Translation等)を乗り越える必要がある.本論文では,DHTがこれらの困難を克服し現実の問題の解決に寄与できるための要素技術を調査・解説する.
著者
中辻 真
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J105-D, no.6, pp.436-446, 2022-06-01

Web上に整備されている大規模な知識ベースに存在するセマンティクスは,個別のサービスに蓄積されているユーザの行動ログの統合分析に活用できる.ユーザ行動は,三つ以上のオブジェクトを含む関係で表現でき(例:“ユーザ”が“ウェブページ”に“タグ付け”するなど)るため,テンソルはユーザ行動を表現するための合理的な方法論を提供する.近年提案されたSemantic Sensitive Tensor Factorization (SSTF) は,オブジェクトの背後にあるセマンティクス(例:アイテムのカテゴリ)を用い,テンソル分解を行い,ユーザー行動を高精度に予測できる.しかし,SSTFは一つのサービスに対するテンソル分解のみを取り扱うため,(1) 異質なサービスのデータセットを同時に扱う場合に起こるバランス問題,及び (2) 観測データが不十分な場合に発生する希薄問題を解決できない.本論文で提案するSemantic Sensitive Simultaneous Tensor Factorization (S3TF) は,(1) 個々のサービスのテンソルを作成し,個別にテンソル分解を実行するのではなく,同時に実行する.これにより,バランス問題に起因する予測精度の低下を回避できる.また,(2) 分散した行動ログの背後にあるセマンティクスを用い,テンソル分解時に意味的なバイアスをサービス間で共有する.これにより希薄問題を回避する.実世界のデータセットを用いた実験により,S3TFは,既存のテンソル分解手法よりも高い予測精度を達成し,また,サービスを跨る暗黙の関係を抽出できることを示した.
著者
加賀谷 光祐 冨澤 眞樹 遠山 宏明
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J105-D, no.3, pp.144-153, 2022-03-01

Lunar Lockoutは解の存在を判定する問題がNP困難であることが知られているスライディングブロックパズルである.また,Generalized Lunar Lockout Variantは動かない駒の使用を認めたLunar Lockoutであり,解の存在を判定する問題はPSPACE完全であることが示されている.本研究では,Generalized Lunar Lockout Variantに対して,各駒の移動回数を高々k回に制限した解が存在するか否かを判定する問題を導入し,k≧ 3のときNP完全であることを証明した.
著者
長尾 尚 田辺 雅則 横山 和俊 谷口 秀夫
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J105-D, no.4, pp.259-270, 2022-04-01

サービスを提供するプログラムは,プロセッサ処理と入出力処理を繰り返す.利用者がこれらの処理速度を制御できれば,計算機の利便性を向上できる.そこで,著者らは,プロセッサ性能や入出力性能の調整法を提案した.ここで,入出力性能調整法は,入出力デバイスの処理時間と利用者が指定する性能から一定に保つべき目標の入出力時間を算出し,入出力要求の処理完了後に,理想の入出力時間になるまでOSのスリープ機能を用いて入出力システムコールの終了を遅延させる.近年,入出力デバイスとして普及しているSSDは,短い時間で入出力要求を処理するため,目標の入出力時間と必要な遅延時間も短くなる.これにより,必要な遅延時間がスリープ機能の動作可能な最短時間よりも短くなり,遅延させた入出力時間が目標の入出力時間を超過し,調整精度が低下する.そこで,必要に応じてビジーループによって遅延することで調整精度を向上させる選択的ビジーループ方式を提案する.評価により,提案方式は,入出力要求を短時間に処理する入出力デバイスにおいても入出力時間を精度良く調整できることを示す.
著者
藤村 浩司
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J105-D, no.3, pp.154-166, 2022-03-01

本論文では音声の感情識別に対して,短時間フレーム特徴量であるLow-level descriptors (LLDs)の統計量を一定の時間窓ごとに求めたHigh-level statistical functions (HSFs)に基づく感情識別器を,異なる複数の時間窓長ごとに用意し,それらの識別結果をBoosting手法により統合する手法を提案する.異なる窓長に基づく複数時間解像度特徴量を用いることで,感情の種類に応じて適切な時間解像度が異なる場合でも,高精度な識別が可能となる.Mel-Frequency Cepstrum Coefficients (MFCC)とMel-Filterbank (MF)をLLDとし,異なる窓長で求められる平均値及び分散値をHSFとして,Long short-term memory (LSTM)による感情識別器を窓ごとに構築する.それぞれのLSTM出力はGradient Boosting Decision Trees (GBDT)を用いて統合される.統合において,新たに提案する中央値特徴量を用いてTree上部に対して極端な割合の分割をしないように制約を加えることで,GBDTの性能向上を図る.EmoDBとRAVDESSの二つの音声感情識別のためのデータベースに対して10-foldのランダムサンプリングバリデーションを適用して識別精度を評価し,LSTMを用いた既存手法と比較した結果,EmoDBに対しては82.4%から84.8%に,RAVDESSに対して76.4%から83.3%に性能が向上し,本手法の有効性を確認した.RAVDESSに対しては我々の知る限り最高の性能を達成した.
著者
耿 毓庭 王 浩南 中山 雅人 西浦 敬信
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J105-D, no.3, pp.196-207, 2022-03-01

パラメトリックスピーカ(PAL)は超音波を利用することで,鋭い放射特性を有するが,低周波数帯域での音の再生が困難であるという問題がある.この問題は,一般的な動電型スピーカで低周波数帯域を補償することで解決できるが,低周波数帯域において鋭い放射特性を失う問題がある.そこで,本論文ではマルチウェイ構造に着目し,広帯域で平坦な周波数特性を実現できるマルチウェイPALを提案する.提案手法では,低周波数帯域と高周波数帯域をそれぞれ専用のWoofer PALとTweeter PALで再生する.従来の変調方式ではPALの低周波数帯域で音を再生することは難しかったが,提案手法ではWoofer PALを大型化,Woofer PALとTweeter PALの適切な配置,Woofer PALとTweeter PALに適した変調方式を用いることで,広帯域で平坦な周波数特性を実現する.評価実験の結果,提案したマルチウェイPALの有効性を確認した.
著者
稲村 勝樹 長嶋 希美 岩村 惠市
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J105-D, no.1, pp.26-40, 2022-01-01

消費者自身がコンテンツを生成・発信するCGMにおいて,コンテンツの二次利用に関する規定は重要である.クリエイティブ・コモンズでは,コンテンツの二次利用に関する規定をCCライセンスとして定めており,それによって編集者は著作者とコンタクトすることなしに著作者の二次利用に関する意思を理解することができる.その中にはコンテンツの編集は許可するが,1次著作者が定めた著作権設定の変更は認めない「継承」というCCライセンスが存在する.一方,コンテンツの二次利用に関して,電子署名を用いて著作者の意図に反しない編集のみを可能にする仕組みが提案されているが,著作者が編集を許可したコンテンツに関する著作権設定はその編集者に依存するため,「継承」に関する機能を実現できなかった.また,その手法はBLS署名に基づいて構築されているため,多くの著作者・編集者によって構成されたコンテンツはその検証のために多くの公開鍵証明書を必要とした.本論文では,1次著作者が設定した作品クレジットの表示・営利利用・コンテンツの改変・ライセンスの継承といったCCライセンスを技術的に保障し,かつIDベース署名に基づいて公開鍵証明書を不要にする方式を提案する.また,提案方式では編集者による合成制御も実現する.更に,この編集方式のアプリケーション及び使用する拡張したIDベース署名のモジュールを実装し,評価を行う.
著者
西田 京介 島田 章平 石川 悟 山内 康一郎
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J91-D, no.1, pp.51-64, 2008-01-01

オンライン学習を行うパターン分類システムにとって,学習対象の様々な変化に対応する能力は実世界問題を扱う上で必要不可欠である.特に,学習システムにとって重大な変化が突然発生した場合,すなわち,変化前の学習結果が新たな学習対象への適応を大きく阻害する場合には,変化をできる限り高速に検出して対応する必要がある.突然かつ重大な変化のみを正確かつ高速に検出可能な手法を実現するために,本研究では柔軟に様々な変化に対応できる人間に着目した.「最近の分類精度が高い状況で確信度の高い回答が短期間に連続して否定されるほど,人間は変化を高速に検出できる」という作業仮説を立てて行動実験を行い,得られた知見からLeaky Integrate-and-Fireモデルをもとにした手法を提案した.その有効性を検証するため計算機実験を行ったところ,ノイズがない場合とノイズや緩やかな変化が存在する場合の両方で,提案手法は従来手法よりも高い検出性能を実現できた.今後の課題は,問題に大きく依存するパラメータ値を学習中に自動で調整することである.