著者
澄川 靖信 ヤトフト アダム
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J104-D, no.5, pp.486-497, 2021-05-01

歴史を理解することの重要性は広く認識されている.多くの人に知られている過去や地域史はTwitter上でも共有されているので,利用者ごとの関心に沿った歴史を提示できる対話システムが実現できると,多くの人に対して歴史への理解や関心を促進させることが期待できる.しかし,歴史学者ではない一般の人が気軽に歴史と対話できるシステムは実現されていない.本研究ではWikipediaから収集した過去の出来事をツイートするチャットボットを実現する.本チャットボットは,同じ日に起きた過去の出来事を定期的にツイートするだけでなく,利用者からのツイートに応じて適切な出来事をリプライする.また,利用者からのツイートが歴史に関するとき,そのツイートをリツイートして拡散する.本論文では,チャットボットの実現方法と,リツイートのために利用する分類器の訓練方法について述べる.訓練した分類器は再現率・適合率・F値の全てにおいて92%を超えることを確認した.
著者
旭 浩平 森 海里 中山 雅人 西浦 敬信
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J104-D, no.4, pp.186-197, 2021-04-01

パラメトリックスピーカは,音響信号の振幅によりキャリアと呼ばれる超音波を変調した振幅変調波を大音圧で放射することで超指向性を実現する.振幅変調波を放射すると,空気の非線形性により,音響信号が自己復調する.しかしながら,パラメトリックスピーカは空気の非線形性に基づいて音響信号を復調しているため,復調音の音圧が小さい.また,パラメトリックスピーカから振幅変調波を長時間放射することにより,超音波素子の疲労破壊が発生し,周波数ピーク雑音が発生する.そこで,本論文ではアドバンスドキャリアを用いてこれら問題を解決する手法を提案する.アドバンスドキャリアとはパラメトリックスピーカのもつ各問題点を解決するための最適なキャリアであり,キャリアの波形や周波数を目的に合わせて制御する特徴をもつ.具体的には,復調音の音圧を改善するために,キャリアの波形がもつエネルギーを増幅した矩形アドバンスドキャリアを最初に提案する.次に,周波数ピーク雑音を低減するために,キャリア周波数が超音波素子の共振周波数を中心に時間遷移する周波数アドバンスドキャリアを提案する.評価実験の結果,各提案手法の有効性を確認した.
著者
遠藤 駿 横川 慎二
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J104-D, no.4, pp.318-327, 2021-04-01

IoT技術の進展により,環境に関する多次元の時系列データを収集し,利活用する機会が増えている.ところが,多次元データの構造を可視化して把握することは容易ではない.従来法では,分析結果の図や表の数が増えてしまうことや,元データとの対応を考えることが困難になるという課題がある.このような多次元データの構造を可視化して比較的容易に把握することができれば,その結果を利用して様々なアクチュエータの制御に活用することや,深層学習の効率的な学習への応用が期待される.本論文では,大学附属図書館の施設内に設置された大量のセンサーから取得される多次元データに対して位相的データ解析(Topological Data Analysis; TDA)を適用し,対象エリアと近隣エリアのデータの関連性を可視化し,CO2濃度の上昇に寄与する要因を抽出した.本研究で提案する,TDAを用いたデータ構造の可視化によって元データとの対応を簡潔に表現する方法は,多次元時系列データの視覚的利用や応用に有用な結果を与えることがわかった.
著者
鈴木 拓弥 小林 真 長嶋 祐二
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J101-D, no.3, pp.560-568, 2018-03-01

聴覚障害学生を対象とした授業では,聴覚の代行として視覚情報による支援が中心となる.しかし,実技演習時の細かな操作を教示する場合やタイミングが重要とされる場面では,視覚情報を中心とした手法では不十分な教示状態があることが分かってきた.本論文では,視覚によって提示される情報保障の一部を触覚によって伝達する手法を考案し,教員の実演内容を触覚情報によって提示する教示支援システムSZCAT (SynchroniZed Click Action Transmitter)を開発した.そして,開発したシステムの効果に関する基礎的研究として,従来からの手法と,触覚情報を追加した手法とを比較し,触覚情報提示の有効性を検証した.その結果,触覚情報を追加したことによる視線移動の減少効果や,教示内容の見逃しや誤認識を軽減させる効果について確認できた.
著者
瀧田 愼 大熊 浩也 森井 昌克
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J103-D, no.4, pp.291-300, 2020-04-01

キャッシュレス決済の手段としてQRコードの利用が進められている.QRコードは高い認識率を誇るものの,人は保存された情報をデコーダなしで知ることができない.悪意のあるものが偽装したQRコードを作成し,利用者の不用意な操作により悪性サイトに誘導することや不正送金させることが問題となっている.QRコードを利用した決済が広まりつつある中で,その安全性を十分に検証する必要がある.本研究では誤り訂正符号の性質を用いて,二つの情報を出力するQRコードを開発している.提案QRコードを悪用すると,通常は正常なサイトに誘導するが,稀に悪意のあるサイトに誘導する偽装QRコードを作成することができる.悪意のあるイベントの再現性が低いため,偽装QRコードの存在を検知することは困難である.本論文では,消失訂正を用いて二つの情報を出力するQRコードの構成方法を与える.提案手法により,正規のQRコードとの差異が小さい偽装QRコードを構成可能である.更に,偽装QRコードの具体的な対策について述べる.
著者
後安 謙吾 谷口 義明 井口 信和
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J104-D, no.2, pp.159-163, 2021-02-01

本論文では,MR技術を用い実空間上に仮想ネットワーク環境を構築するシステムを開発する.本システムにより,実ネットワーク機器を用いることなく,ネットワーク機器の配置や配線などの物理的な構成を確認しながら,ネットワークの検証や構築学習を実施できる.
著者
中島 淑貴 柏岡 秀紀 キャンベル ニック 鹿野 清宏
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:09151923)
巻号頁・発行日
vol.J87-D2, no.9, pp.1757-1764, 2004-09-01

「非可聴つぶやき認識」という,新しいスタイルの実用的な入力インタフェースを提案する.これは音声認識の雑音に対する脆弱性,情報の周囲への漏えい性を克服するため,声帯の振動を伴う通常音声の空気伝搬ではなく,「非可聴つぶやき(Non-Audible Murmur: NAM)」,つまり第三者に聴取不能な声帯の振動を伴わない調音呼気音の体内伝導を,体表からサンプリングし,HMMを用いて認識するものである.これを実現するための基礎として,第一に医療用膜型聴診器の原理を応用した体表接着型マイクロホンを開発した.第二として体内を伝導するNAMを採取して認識するために最適な接着位置を発見した.第三としてNAMの音響学的性質を検討した.第四として,この部位から採取されたサンプルを用い,HMM音響モデルに追加学習してNAM音響モデルを作成した.これらをもとに,日本語ディクテーション基本ソフトウェアを評価に用い,認識エンジンJuliusを使用して大語い連続認識実験を行い,NAM認識の実用可能性を検討した.
著者
龍 梓 木村 龍一郎 飯田 頌平 宇津呂 武仁 三橋 朋晴 山本 幹雄
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J102-D, no.3, pp.104-117, 2019-03-01

ニューラル機械翻訳(NMT)の弱点の一つとして,扱える語彙に限りがある点が知られている.NMTにおいては,語彙辞書に含まれていない単語は未知語トークンとして出力されるため,これが誤訳となる.従来法では,出力文に含まれた未知語トークンが対応する原言語の単語を推定しその訳語に置き換えることによって,NMTにおいて出力可能となる語彙の規模を拡大した.しかし,この方式は,単語単位での語彙規模の拡大にとどまる点が弱点であった.本論文においては,ニューラル翻訳において,大規模フレーズ語彙に対応する方式を提案する.具体的には,訓練用対訳文においてフレーズ間の二言語対応の情報を収集し,二言語間で対応済みのフレーズ対訳対を同一のトークンに置き換えた後,NMTモデルの訓練を行う.翻訳時には,NMTモデルの語彙集合中の語彙部分に対しては,NMTモデルによる訳文生成がなされ,一方,その他のフレーズまたは単語語彙部分に対しては,SMTモデルによる翻訳がなされる.日中,中日,日英,英日の各方向の翻訳において評価を行い,提案手法の有効性を検証した.
著者
末永 貴俊 飯野 恵秋 黒田 知宏 大城 理 千原 國宏
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:09151923)
巻号頁・発行日
vol.J83-D2, no.1, pp.324-332, 2000-01-25

超音波診断装置を用いて実時間で遠隔医療を行うためには,超音波診断動画像の伝送及び,計測用の超音波プローブを患者にあてる位置・角度などが リアルタイムで指示できる環境が必要である.特にプローブ操作については空間情報を直感的に伝える必要があり,既存の音声・画像通信技術だけでは伝達が困難である.そこで本論文では計測側の計測風景の上に超音波診断に用いられるプローブと同じ形のCG(CGプローブ)を重ね合わせ,診断側の専門医が遠隔地から計測者にプローブをあてる位置・角度などを教示するシステムを提案する.
著者
山口 高弘 坂野 寿和 藤井 竜也 安藤 裕 北村 正幸
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:09151923)
巻号頁・発行日
vol.J84-D2, no.6, pp.1203-1212, 2001-06-01

遠隔医療コンサルテーションは,地方の診療所と中央の病院を結び,遠隔の医師に対して中央の専門医が診断支援を行うサービスである.本研究は,そうしたサービスを実現するために必要な機能を明らかにし,そうしたシステムを具現化することを目標としている.我々は,高速ネットワーク,医用画像データベース,超高精細画像読影ステーション,IPテレビ会議システムをベースとした遠隔医療システムを構築し,それをベースとして遠隔医療コンサルテーションシステムを開発した.開発したシステムを用いて,遠隔の2人の医師が同じ画像を参照しながら放射線治療に関して相談する遠隔医療コンサルテーション実験を行った.ネットワーク速度に依存しない高速な画像表示切換を実現する画像プリロード機能や,画像表示連携機能,共有ポインタ表示機能などシステム上に実装した連携機能の有効性を実験的に明らかにした.
著者
林 拓世@水野
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J91-D, no.7, pp.1874-1885, 2008-07-01

日常生活からのストレスは慢性化しやすく,時に重大な疾病を引き起こすが,評価方法については未発達段階である.本研究では,情動ストレス負荷時における生理学的信号解析として,脳機能と自律神経機能の客観的評価を行った.被験者は健常成人22名とし,大学生用ストレス自己評価尺度によりストレス群と非ストレス群に分類した.測定には脳波と心電図を用い,情動ストレス負荷として安静刺激,快刺激,不快刺激の視聴覚動画像刺激を用いた.脳波周波数解析の結果,両群ともに不快刺激は安静刺激及び快刺激と比較して,相対パワースペクトル値が高値を示した.更に不快刺激は,ストレス群では相対パワースペクトル値が有意に経時的減少を示し,非ストレス群では有意な一時的,または継続的な増加を示した.自律神経機能では,非ストレス群はストレス群と比較して反応性がより高く,特に非ストレス群では安静刺激は他の刺激と比較して副交感神経機能が有意に高かった.これらのことから,ストレスと脳機能の間に関連性が示され,更にストレス時における脳機能活動は生体抵抗性と類似した傾向を示すことが分かった.
著者
丸山 隼矢 水田 孝信 八木 勲
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J103-D, no.11, pp.755-763, 2020-11-01

レバレッジドETFとは,日々のリターンが原資産や原指数(例えば,日経平均やTOPIXなど)の価格の変動率に一定の倍数を乗じた値動きをするETFのことを指す.レバレッジドETFは,レバレッジ率を維持する(保有する原資産の純資産総額を,レバレッジドETFの純資産総額の決められた倍数に維持する)よう,原資産の価格が上昇すれば原資産を買い,反対に下落した際は原資産を売るというリバランス取引を日々行わなければならない.そのため,これらの売買が原因で原資産の価格を不安定にさせているのではないかと言われている.これまでに,人工市場を用いた研究によってレバレッジドETFが板寄せ方式の原資産市場の価格形成に影響を与えることが知られているが,ザラ場方式の市場は未調査のままである.そこで本研究では,ザラ場方式の原資産市場においてレバレッジドETFが価格形成に与える影響を調査した.その結果,レバレッジドETFのリバランス取引の最低注文数が小さいほど市場の価格形成に与える影響が大きいことを確認した.
著者
星 郁雄 天野 洋 橋本 大志 田中 大智 下馬場 朋禄 角江 崇 伊藤 智義
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J103-D, no.11, pp.808-816, 2020-11-01

近年,深層学習についての研究が盛んに行われている.その中でも,再帰型ニューラルネットワークはネットワーク内に再帰構造をもつ深層学習の一種で,時系列データの扱いに優れていることから音声認識や自然言語処理の分野で高い成績を残している.再帰型ニューラルネットワークに限らず深層学習では,高い性能の反面,計算コストが多い.そのため,クラウドコンピューティングやGraphics Processing Unitを用いて計算する研究が進められている.しかし近年では,応答性の観点から,この計算をクラウドコンピューティングのように別の場所に送信し計算するのではなく,エッジ側での処理が求められるようになってきている.そこで本論文では,回路を自由に書き換えることができるField Programmable Gate ArrayにRNNの推論器と学習器を実装し,回路の評価と,実際に音声識別を行った結果を評価した.
著者
相川 野々香 古池 謙人 東本 崇仁
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J103-D, no.9, pp.644-647, 2020-09-01

EBSは学習者の試行錯誤に有効なシステムである.しかし,正解を提示しないために一度行詰まってしまうと学習者の自力での解決が難しい.そこで本論文では,学習者の誤り傾向を分析し,学習者の理解できていない概念を学ぶ問題に移行する手法を提案する.
著者
湯川 誠人 谷口 義明 井口 信和
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J103-D, no.8, pp.591-602, 2020-08-01

ネットワークセキュリティ教育においては,防御側の視点のみでなく攻撃側の視点を加えた学習を行うことで,防御手法の理解をより深めることができる.そのため,攻防戦型演習のように両側の視点を学べる演習が有効とされている.そこで本論文では,無償で提供されているソフトウェアを組みあわせることにより,低コストに攻防戦型ネットワークセキュリティ演習を実施できるシステムを開発した.本論文で対象とする攻防戦型演習は,初学者を対象としており,2人の学習者が攻撃側と防御側に分かれて演習を行う.開発システムは仮想化ソフトウェアを利用しているため,既存のネットワークに対して攻撃を行わない安全な演習が実施可能である.また,開発システムではブラウザを通して機器を操作するため,学習者は自身の保有するPC等を使って手軽に演習を実施可能である.性能評価の結果,想定する演習のネットワークの規模に開発システムが対応可能であること,また,学習者が仮想ネットワークの構築を円滑に実施できることを確認した.更に,利用評価を行い,開発システムの有用性を確認した.
著者
伊東 保志 赤滝 久美 三田 勝己 渡壁 誠 伊藤 晋彦
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:09151923)
巻号頁・発行日
vol.J86-D2, no.1, pp.130-139, 2003-01-01

筋音図(Mechanomyogram; MMG)とは収縮筋上の体表面上に現れる微細な振動を記録した信号であり,筋線維の収縮に伴って発生する側方向への圧力波に起因し,筋の機械的な活動を反映する.本研究では,筋力低下に至るまでの持続性収縮時の非定常なMMGを時間-周波数解析し,筋疲労に伴う運動単位の活動様式の変化をMMGから推察することを目的とした.実験では,上腕二頭筋を最大随意筋力の20%と80%(20%と80% MVC)で等尺性に持続収縮させ,このとき記録されたMMGを短時間フーリエ変換法を用いて解析し,RMS 振幅と平均周波数を求めた.20% MVCでのMMGのRMS振幅は収縮開始時に若干減少した後に漸増した.平均周波数は当初増大したが,その後はほぼ一定値を保った.一方80% MVC の場合,RMS 振幅は連続的に減少し,平均周波数はいったん増大した後に減少した.このようなMMGのRMS振幅と平均周波数の経時的変化は筋疲労の発生に伴うMU 活動様式の変化を反映しており、MMGによる筋疲労のモニタリングの有用性が示唆された.
著者
宇都 雅輝 植野 真臣
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J103-D, no.5, pp.459-470, 2020-05-01

近年,学習者の実践的かつ高次な能力を測定する手法の一つとしてルーブリック評価が注目されている.ルーブリックは評価者の主観による評価基準をより客観的にするためのツールであるが,それでも評価がパフォーマンス課題や評価者,ルーブリックの評価観点の特性に依存してしまうことが指摘されてきた.この問題を解決する手法の一つとして,これらの特性を考慮して学習者の能力を測定できる項目反応モデルが近年多数提案されている.しかし,既存モデルは学習者・課題・評価者・評価観点で構成される4相の評価データに直接には適用できず,課題・評価者・評価観点の特性を同時に考慮した能力測定は実現できない.また,ルーブリック評価の評点は一般に段階カテゴリーとして与えられ,各カテゴリーに対する評価基準は評価者と評価観点の特性に依存する.しかし,既存モデルでは評価基準は評価者と評価観点のいずれか一方にのみ依存すると仮定している.以上の問題を解決するために,本論文では,評価観点と評価者の評価基準を考慮して,ルーブリック評価の4相データから学習者の能力を測定できる新たな項目反応モデルを提案する.また,シミュレーション実験と実データ実験を通して提案モデルの有効性を示す.
著者
古屋 貴彦 栗山 繁 大渕 竜太郎
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J99-D, no.8, pp.709-717, 2016-08-01

近年,画像検索に対する新たな要求として,描画スタイルに基づく画像検索に注目が集まっている.従来手法は,描画スタイルに関してラベル付けされた画像から大域視覚特徴量を抽出し,この特徴空間に対して教師あり距離計量学習を適用することによって,画像間の描画スタイルの比較尺度を得る.しかし,投稿型のウェブサイトに蓄積されたクリップアート等,描画スタイルのラベルをもたない画像に対して従来手法を適用することは困難である.更に,これまでの研究では大域視覚特徴量が描画スタイルの記述に最適であることは示されておらず,画像検索に広く用いられる局所視覚特徴量との比較が行われていない.描画スタイルに基づく画像検索の実用性を高めるには,描画スタイルを精度良く記述可能な視覚特徴量と,ラベルに頼らない距離計量学習の手法が望まれる.本論文では,描画スタイルを高精度に比較するため,局所視覚特徴量と教師なし距離計量学習を組み合わせた手法を提案する.評価実験の結果,数千枚のイラスト画像を含むベンチマークにおいて,大域視覚特徴量と教師あり学習を用いる従来手法よりも,検索精度が大幅に向上した.
著者
古賀 義亮 児嶋 典博 堀合 啓一
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:09135713)
巻号頁・発行日
vol.J60-D, no.10, pp.897-898, 1977-10-25

3ポート論理回路を従来のTTLやCMOSを用いて実現する方法について述べる.
著者
磯田 定宏
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:09151915)
巻号頁・発行日
vol.J83-D1, no.9, pp.946-959, 2000-09-25

オブジェクト指向により実世界を直感的かつ自然にモデル化できるとの理解に基づき,実世界モデル化,すなわち実世界を「あるがままにモデル化」しクラス図として表す方法が広く行われている.このあるがままにモデル化する実世界モデル化方式,すなわち「真性」実世界モデル化方式は,ソフトウェアの開発は特に想定せず単に実世界をクラス図として表現する場合,あるいはシミュレーションソフトウェアを開発する場合には問題なく適用できる.しかし,実世界の業務を自動化するソフトウェア(業務支援ソフトウェア)を開発する場合には,自動化する前の実世界(もとの実世界)をモデル化して「自動化しようとする業務が処理対象とする事物に関する情報」のモデルを作るという「擬似」実世界モデル化方式を適用しなければならない.以上述べたように実世界モデル化には真性及び擬似実世界モデル化という二つの形態があり,これらは対象とする問題の性質に応じて使い分けなければならない.ところがこれまでこの点は明確に意識されることはなかった.実際,多くのオブジェクト指向方法論及び技法に関する文献では,対象とする問題の種別を特に考慮することなく実世界をあるがままにモデル化するよう説いている.これらの文献では本来擬似実世界モデル化を用いるべきときに,真性モデル化と擬似モデル化の混合といえる「ナイーブな実世界モデル化」を用いている.このため,これらの文献を信じるナイーブな設計者たちは業務支援ソフトウェアを開発するクラス図を作成する場合に,システムのアクタとシステム内のクラスとを混同して不可思議なモデルを作る,余計なクラスをクラス図に取り込む,あるいは余計な操作をクラスに与えるなどの深刻なモデル化誤りを引き起こしている.