著者
南雲 直子 大原 美保 バドリ バクタ シュレスタ 澤野 久弥
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.361-374, 2016 (Released:2016-11-16)
参考文献数
22
被引用文献数
2

洪水常襲地帯であるフィリピン共和国パンパンガ川下流域のブラカン州カルンピット市をモデル地域に,降雨流出氾濫モデルによる洪水氾濫解析とGISマッピングを実施し,地域の住民避難や時系列の洪水災害対応計画に役立つリソースマップ,浸水想定マップ,浸水確率マップ,浸水チャートを作成した.こうした資料の作成には,高解像度数値標高モデルをはじめとする地理空間情報と洪水記録の蓄積が必須である.また,地域の浸水危険性の把握には洪水氾濫解析結果だけでなく,地理学的視点からの土地の成り立ちへの理解も重要で,同時に住民が自ら考え行動できるよう継続的な支援を行っていくことが洪水被害の軽減に役立つ.
著者
筒井 一伸 小関 久恵
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.1-21, 2023 (Released:2023-01-07)
参考文献数
25

政策的議論が本格化して15年近く経過した地域運営組織(RMO)は2020年度には5,783まで増加した.RMOは平成の市町村合併で広域化したことによる地域課題への対応を目指した,2000年代の第二次コミュニティブームの時期に設立されたものが多いが,1970年代前半からの第一次コミュニティブームの中で設立されたものもある.本稿では,前者の例として山形県酒田市日向(にっこう)地区,後者の例として鶴岡市三瀬地区のRMOを事例にその再編過程の実態を明らかにした.その結果,RMO設立という組織再編だけではなく,社会的背景に応じた機能再編が図られているものの,RMOがもつ機能には時代性があり,それにより分離型と一体型の志向性の違いが読み取れた.また三瀬地区ではRMO設立に伴い,基盤となる地区の空間再編が行われたことも明らかになった.

1 0 0 0 OA 訂正

出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.E01, 2022 (Released:2022-11-25)
著者
福田 崚
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.338-349, 2022 (Released:2022-10-07)
参考文献数
26

都市における経済的中枢管理機能の重要な一部を担ってきた支所の集積は,情報通信技術の発達で縮小が想定される一方で,必ずしも減少していないという指摘も存在する.本稿では,既往研究の観測上の問題点を指摘したうえで,全国展開していないことも多い非上場企業も含めた分析により2009年から2019年の支所立地の動向の把握を試みた.結果,全体の支所数が減る中での広域中心都市の優位性と新たな領域に進出する企業による支所数の下支えが確認され,支所の増加に寄与する動きもあることが示された.また,大阪については支店経済化が進行し支所立地数の安定と支所従業者数の増加が生じていることが明らかにされ,大都市であることに対応した専門的サービスや需要の大きさに依拠した新規の進出があることが示唆された.
著者
根田 克彦
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.319-337, 2022 (Released:2022-09-17)
参考文献数
75
被引用文献数
3

本稿は,新型コロナウイルス感染初期の2020年初頭から新型コロナウイルス対策がほぼ終了した2022年初頭までの,イギリス政府による飲食店に対する感染対策と支援措置を時系列的に整理し,最後に,新型コロナウイルス対策が,イギリスのタウンセンター政策に及ぼした影響を論じる.感染症の拡大初期に,イギリスはロックダウンのような規制に消極的で,飲食店に対する経済的支援対策を充実した.しかし,まもなく政府は,ロックダウンを実施し,感染を抑制する多くの規制を設定した.また,都市計画の一時的な規制緩和による飲食店の支援措置を実施したが,そのなかには公式な都市計画としたものがある.それにより,タウンセンターにおける事業所の交代を容易にして,ポストコロナにおけるタウンセンターの再生を意図した.すなわち,イギリスは新型コロナウイルスを,タウンセンター政策を根本的に変更するきっかけとして利用したといえる.
著者
佐藤 洋
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.303-318, 2022 (Released:2022-08-06)
参考文献数
27
被引用文献数
2

本稿では2020年6月に第32次地方制度調査会が公表した「2040年頃から逆算し顕在化する諸課題に対応するために必要な地方行政体制のあり方等に関する答申」で提案された「地域の未来予測」を手がかりに,東京大都市圏の市町村へ財政運営に関するアンケート調査を実施し,数量化III類を用いた分析により,財政状況への認識と将来予測,広域連携の関係を検討した.本稿の主な知見は次の3点である.①財政状況を健全であると認識し,長期の将来予測を実施している市町村は広域連携に消極的な傾向がある.②2040年頃の将来予測の必要性を感じながらも将来予測をしていない,または短期の将来予測に留まる市町村が多い傾向がある.③財政関係の広域連携では構成市町村間で温度差がある.以上の知見により,財政の将来予測では国や都道府県が市町村へ支援を行う必要があること,地域の未来予測においても市町村同士の水平的連携による情報交換が重要になることが示唆される.
著者
和田 崇
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.286-302, 2022 (Released:2022-08-06)
参考文献数
51
被引用文献数
1

本稿では,広島アジア競技大会の開催を契機として,広島市にいかにしてボランティア文化が定着し,その担い手や地域社会にいかなる便益をもたらしたかを解明した.広島市では,広島アジア競技大会を通じたボランティアへの関心の高まり,全国的な「ささえるスポーツ」政策の推進,大規模スポーツイベントやクラブチームなどボランティア活動機会の確保を背景に,2001年に広島市スポーツイベントボランティアが創設された.この事業は担い手にも地域社会にもさまざまな効果をもたらし,有意義な取組みであったと評価できる.ただし,それは長い時間をかけて同事業を行政主導・非日常のものから市民主体・日常のものへと変化させ,スポーツ経験者以外の多様な市民が自発的に参加できるようになったからこその評価といえる.
著者
谷本 涼 埴淵 知哉
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.249-264, 2022 (Released:2022-08-06)
参考文献数
34

個人の全体的な生活の質を考察するには,生活におけるさまざまな目的地の利便性を総体的にとらえられる認知的アクセシビリティの指標を用いた議論が必要である.都市政策における自動車依存からの脱却の方向性も踏まえ,本稿の目的は,もし自動車が使えなくても,日常生活で必要あるいは望む活動が十分にできるか否かというアクセシビリティの総体的感覚(Sense of Accessibility: SA)の指標と,客観的なウォーカビリティ指標(WI),および近隣環境・個人の属性との関係を考察することとした.順序ロジスティック回帰分析の結果,WIはほぼ一貫してSAと有意な正の相関を示した.WIの構成要素の中では,人口密度がSAと強い相関を示した.回答者の性別,年齢,世帯類型は,自動車利用頻度の高低でSAとの相関の正負や強さが大きく異なっていた.この結果は,昨今の都市政策の方向性をある程度支持する一方,自動車に依存しない生活への支援を要する個人の存在も示唆している.
著者
山本 涼子 埴淵 知哉 山内 昌和
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.197-209, 2022 (Released:2022-07-09)
参考文献数
27
被引用文献数
2

本研究では,近年の国勢調査の回答状況における地域差とその推移を俯瞰する.具体的には,各種の回答率と都市化度との関連を都道府県単位で分析した.その結果,(1)聞き取り率は2005年以降上昇しつつ地域差も拡大してきた一方,2020年調査(推計値)では都市–農村間の地域差は維持ないしは縮小する可能性があること,(2)コロナ禍によって減少した調査員回収はインターネット回答よりも郵送回答によって代替されており,農村部でその影響が相対的に大きかったこと,(3)外国人の不詳率は概して日本人よりも高い水準にあり,地域差も大きく拡大傾向にあることが示された.ここから,回答状況とその地域差の水準は指標や調査年,国籍(日本人/外国人)によって異なる一方,都市–農村間の地域差そのものは一貫してみられることも示された.これらがもたらす疑似的な地域差の影響に留意しつつ,国勢調査のデータを実証研究に活用していくことが期待される.

1 0 0 0 OA AIと地理学

出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.64-67, 2022 (Released:2022-04-21)
著者
成瀬 厚
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.280-293, 2017
被引用文献数
1

<p>大学非常勤講師の処遇に関する議論は1990年代以降なされており,2007年前後に盛り上がりをみせていたが,大きな改善がみられないまま現在に至っている.2013年には労働契約法が改正され,非正規の有期労働契約を無期契約へと転換する道が開かれたが,逆にそのことが「雇い止め」という事態を拡大させる契機となっている.本稿で筆者は,そうした議論を整理し,大学で地理学関連科目を担当する本学会員の大学非常勤講師にアンケート調査を行った.回答者15人の属性として,講師歴15年以上および年齢46歳以上が回答者の半数以上を占めた.かれらの収入は週1コマ当たり月額で30,000円以下がほとんどで,かれらは4校程度を掛け持ちしている.大学の非常勤講師で生計を立てている専業非常勤講師は,平均週8コマを担当しているという状況が確認された.</p>
著者
荒木 一視
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.23-45, 2022 (Released:2022-03-24)
参考文献数
53
被引用文献数
8

大規模災害が発生してからの救援活動と避難生活を向上させる必要があるという問題意識のもと,避難生活を支える効果的な救援活動拠点の配置に関する研究を提起する.救援活動拠点とは届いた物資や人員を被災世帯や避難所へと中継する拠点である.まず,災害研究のステージと地理学,特に救援活動期における被災地と発出拠点の関係を整理した.次に,南海トラフ地震が発生した際には大きな被害が想定され,過疎化や高齢化の進行している和歌山県日高郡を事例として,現状の救援システムを地図上に描き出すとともに課題の把握を行った.さらに,その課題を埋める救援活動拠点の候補として,旧役場所在地や学校,寺院に着目し,効果的な救援システムのあり方を検討した.また,こうした大規模災害時の救援システムを論じる上で従来の地理学の研究蓄積が貢献できる余地があることを指摘した.
著者
海津 正倫 JANJIRAWUTTIKUL Naruekamon 小野 映介 川瀬 久美子 大平 明夫 PRAMOJANEE Paiboon
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.1-11, 2022 (Released:2022-03-03)
参考文献数
12
被引用文献数
1

タイ国南部ナコンシタマラート海岸平野の砂州の形成と発達を,衛星画像,DEM,掘削調査,堆積物の年代測定結果などに基づいて明らかにした.砂州Iは長さ80 kmに及ぶ連続性の高い砂州で,砂州Iの背後にあたる砂州の西側には低湿地が広がり,泥炭層が形成されている.泥炭層基底付近の年代から砂州Iは7500年前頃形成されはじめたと考えられる.砂州Iの東側には砂州IIが発達し,最も新しい砂州IIIは現在の海岸線を縁取るように発達している.埋没砂州Yは海岸平野南部のフラバット山付近から南に向けて延びており,海岸平野の西縁付近には更新世に形成された砂州Xが顕著に発達している.これらのうち,砂州X,砂州I,砂州IIが北から南に向けて発達したと判断されるのに対し,砂州IIIは北のパクファナン入り江に向けて延びている.このような違いは1500年前頃以降の海況の変化を反映していると考えられる.
著者
杉江 あい
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.102-123, 2021
被引用文献数
2

<p>本稿では,バングラデシュを主なフィールドとするムスリマとしての立場から,イスラームとムスリムに関する学習のために次の3点を提案する.第1に,イスラームとムスリムに接する上で必要なリテラシーを高めること.ここでいうリテラシーとは,クルアーンなどの章句の理解にはアラビア語やイスラーム学の深い知識が必要であり,西洋のバイアスがかかった生半可な知識では誤解しやすく,一部の研究者やムスリムの間でも誤った解釈や恣意的な章句の引用などがなされていることに注意することである.第2に,イスラームとムスリムを切り離してとらえること.イスラームをムスリムの言動のみから解釈し,またムスリムの生活文化をイスラームに還元するアプローチは誤りである.第3に,イスラームにおいて重視される信仰や人格,現世での利点について説明すること.義務や禁忌を表面的に教えるだけでは,イスラームを特異視するステレオタイプから脱却できない.</p>
著者
和田 崇
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.310-326, 2021 (Released:2021-09-15)
参考文献数
46
被引用文献数
4

本稿では,平和都市広島でスポーツイベントを開催することが,平和メッセージの発信と積極的平和に向けた取組み,平和学習の効果,市民啓発の4点からみて,どのような意義があるのかを検討した.その結果,平和都市としての国際的知名度があり,また原爆遺産など負の遺産が立地し,そこからさまざまな学びを得ることができる広島市のような都市においては,世界平和の実現を目的に掲げてスポーツイベントを開催する意義が大いにあり,それを政策として展開することもスポーツ振興と平和推進に有効であることが確認できた.それは,スポーツイベントの開催を通じて参加者や観客を迎え入れるスポーツツーリズムと,人類の負の遺産からの学びを得ることを目的に旅行するダークツーリズムを組み合わせたものといえる.そして,これを実効化させるには,スポーツと平和学習による教育プログラムの充実が必要である.
著者
木戸 泉
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.74-100, 2020
被引用文献数
3

<p>バルカン半島西部に位置するクロアチアは,1990年代のクロアチア紛争を経て,多民族国家ユーゴスラヴィアから独立を果たした.紛争終結から20年以上が経過した現在,クロアチア国内では紛争の記憶を強固にし,さらに次世代へ継承しようとする動きが見られる.特に激戦地となった都市ヴコヴァルでは,クロアチア系住民の紛争の記憶を強化し継承する行事の開催やモニュメントの設立が積極的に行われている.本研究では,それらの表象内容や設置主体を分析し,地域レベルと国家レベル,またナショナル・マジョリティとナショナル・マイノリティの間で,紛争に対する受け止め方に差異が生じていることを明らかにした.そしてこれを踏まえて,EU加盟を果たしたクロアチアという国家のナショナル・アイデンティティをめぐるダブルスタンダードについて検討を加えることができた.</p>