著者
岡部 篤行
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.67-74, 2006 (Released:2010-06-02)
参考文献数
33
被引用文献数
3 5

本稿は,地理情報科学教育の確立に向けて,現在,どのような動向があるのかを概観し,それに関連して現在における地理学の課題を論ずるものである.Iにおいて,地理学の隆盛と衰退のトピックスを紹介する.IIでは「GISは学問か」という問いを検討することから,地理情報科学とは何かを述べる.IIIでは,地理情報科学と地理学の関係について論じ,前者がいわゆる一般地理学に対応するものであることを述べる.IVでは,地理情報科学の体系化とそれに基づくカリキュラムの開発状況を紹介する.Vでは,カリキュラム開発で提案された地理情報科学カリキュラムの第1案について概説する.VIでは,カリキュラム第1案の批判的検討を示し,その批判に基づき現在は地理情報科学・工学のカリキュラムを開発する方向に向かっていることを解説する.VIIでは,地理情報科学・工学のカリキュラム開発の経験を踏まえて,地理学の底力をつける糸口について述べる.
著者
村山 朝子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.60-69, 2007 (Released:2010-06-02)
参考文献数
14
被引用文献数
1 3

社会科の一分野として行われてきた中学校の地理教育を教科の枠組みの中でみた場合,とくに歴史的分野との関係,そして世界の扱いが問題になろう.この点を踏まえ,本稿では,地理的分野と歴史的分野との関連,両分野における世界の扱いが,学習指導要領においてどのように変化してきたのかを分析し,今後の地理教育のあり方について検討した.歴史的分野は,一貫して地理的条件との関連を重視し,その傾向が強まっているのに対して,地理的分野は,現代の地理的事象に対象を限り,歴史的要素を排除する方向にある.また,歴史的分野は終始日本史中心であったのに対して,地理的分野はこれまで世界と日本とをほぼ同等に扱ってきたのが,国土認識偏重に転じた.しかし,「日本理解の背景」という世界の位置づけは改善すべきであり,地域の歴史的背景を吹く待て世界地誌を充実させるべきである.世界については,分野の枠を超えた地歴融合的な扱いも有効であると考えられる.
著者
藤目 節夫
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.132-138, 2007 (Released:2010-06-02)
参考文献数
7
被引用文献数
2 1

市町村合併の目的の一つである地方分権の受け皿整備には,合併による自治体の規模拡大のみならず「小さな自治」の確立が不可欠である.小さな自治は,地域住民が自らの地域に目を向け,地域を調べ,知り,考えることから始まるが,この点に関して地理学の総合的なものの見方・考え方,調査方法はきわめて有効である.合併に伴う小さな自治の確立はいまだ緒に就いたばかりであり,今後における地理学者の地域づくりへの積極的な関与が大いに期待される.
著者
淺野 敏久
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.1_18-24, 2008 (Released:2010-06-02)
参考文献数
26
被引用文献数
1

環境問題は客観的な環境の変化だけでは成立しない.現象が社会的に認められて,それが問題状況にあるとの言説が広まり,支持されることで成立する.ある環境変化(将来に予想される変化)を社会問題に仕立てていく原動力の一つに市民・住民運動がある.その発生の仕方や,担い手の社会経済的あるいは文化的属性が異なるので,当然のこととして環境運動の性格は地域によって異なる.結果として,環境運動の訴える環境問題も地域的な特徴を有したものになる.環境運動を研究するには,さまざまなアプローチがあるが,本稿では地域的な視点から環境運動にアプローチすることに焦点をあて,その場合の分析視点について試論を述べる.地域と環境運動の関わりについて,運動への地域性の反映という着目の仕方と,運動の地域への働きかけに着目する仕方があり,それぞれについて,筆者が行った研究をもとに,いかなる論点があるのかを例示的に示してみたい.
著者
秋本 弘章 近 正美
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.2_17-32, 2009 (Released:2010-06-02)
参考文献数
16
被引用文献数
1

本稿は,日本地理学会地理教育専門委員会において筆者らが中心となって行っているインタビューから得られた知見をまとめたものである.インタビューでは,大学等で地理学を学び,教育界以外で活躍している社会人を対象とし,地理学および地理教育の意義等を質問した.彼らによれば,地理は,大変魅力的な教科であり学問であるばかりでなく,実社会でも役に立つという.とりわけ,地図活用能力とフィールドワーク力が実社会でも極めて重要であることが指摘された.地理教育の内容に関しては,最低限の地理的知識を身につけさせることを前提としながらも,社会に対する見方・考え方を身につけさせることを期待している.今後は,こうした地理教育への社会的要請を基盤としながら,地理教育の内容や方法について検討していくことが求められる.
著者
松原 彰子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.2_33-38, 2009 (Released:2010-06-02)
参考文献数
8

本稿では,筆者が慶應義塾大学の日吉キャンパスで行っている「地理学」の講義を例にして,大学の教養課程における自然地理学の授業の意義を論じた.地球環境や自然災害の多様な問題を正確に認識するためには,自然現象を空間的かつ時間的にとらえる自然地理学からのアプローチが有効である.したがって,このような立場から,教養課程において自然地理学の授業を展開することには意義があると考える.
著者
鈴木 康弘 杉戸 信彦 坂上 寛之 内田 主税 渡辺 満久 澤 祥 松多 信尚 田力 正好 廣内 大助 谷口 薫
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.37-46, 2009 (Released:2010-02-24)
参考文献数
16

活断層の詳細位置・変位地形の形状・平均変位速度といった地理情報は,地震発生予測のみならず,土地利用上の配慮により被害軽減を計るためにも有効な情報である.筆者らは糸魚川-静岡構造線活断層帯に関する基礎データと,活断層と変位地形の関係をビジュアルに表現したグラフィクスとをwebGIS上に取りまとめ,「糸魚川-静岡構造線活断層情報ステーション」としてインターネット公開した.本論文は,被害軽減に資する活断層情報提供システムの構築方法を提示する.これまでに糸魚川-静岡構造線北部および中部について,平均変位速度の詳細な分布を明らかにした.この情報は,断層の地震時挙動の推定や強震動予測を可能にする可能性がある.さらに縮尺1.5万分の1の航空写真を用いた写真測量により,高密度・高解像度DEMを作成した.人工改変により消失している変位地形については,1940年代や1960年代に撮影された航空写真の写真測量により再現し,その形状を計測した.写真測量システムを用いた地形解析によって,断層変位地形に関する高密度な解析が可能となり,数値情報として整備された.
著者
村田 陽平 埴淵 知哉
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.154-170, 2011 (Released:2011-02-12)
参考文献数
50
被引用文献数
2 1

本稿は,保健師による地域診断活動の実態を明らかにしながら,健康の地理学の可能性を検討するものである.具体的には,中部地方A地域管内の保健所(2カ所)・市町保健センター(10カ所)の保健師を対象に,2006年10月から2007年2月にかけて地域診断実施に関する半構造化インタビュー調査を実施した.その結果,現状では,多くの保健師が地域診断活動に対して苦手意識を持っており,体系的・理論的レベルにおいて地域診断を十分に実施していないことが明らかになった.一方,暗黙的・経験的なレベルでは,保健師は,地域における人間関係や情報をつなぐ能力を持っていることも導出された.その上で,今後の保健師の地域診断への提言を示し,人間の主観性を射程に入れる健康の地理学の視点が,地域の多様な関係性を結ぶ役割を果たす保健師という専門職の再構築につながることを指摘する.
著者
淺野 敏久 李 光美 平井 幸弘 金 科哲 伊藤 達也
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.138-153, 2011 (Released:2011-02-12)
参考文献数
14
被引用文献数
2 6

江蘇省,浙江省,上海市の境にある中国で3番目に大きな淡水湖である太湖は,流域内の開発が著しく,深刻な富栄養化問題に直面している.2007年にはアオコ(藍藻類)が大発生し,無錫市において数日間にわたって給水が停止し,200万人以上に影響が出るという事件が生じた.この事態に中国では国をあげて,長江からの導水や下水処理場・下水道の重点的整備,排水対策のできない中小工場や畜産施設の閉鎖,養殖場の閉鎖などの浄化対策が短期間に多額の投資のもとに講じられた.本稿では,現地調査と文献等により,その状況を報告し,あわせて中国の環境対策と都市整備の関係について述べる.
著者
室岡 瑞恵 桑原 康裕 春山 成子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.138-148, 2012 (Released:2012-03-26)
参考文献数
5

アムール川は主に中国とロシアの国境を流れる国際河川である.中流域では高い頻度で洪水が起こっているが,定期観測データがほとんど無く,洪水の実態は明らかにされてこなかった.本研究ではアムール川中流域のハバロフスクにおける降水量データと流量データを基に洪水の数値解析を行い,現地での聞き取り調査と照合した.さらに,地形分類図を作製した上でJERS-1/SARデータにより湿地図を作製し,遊水地としての機能を多く果たす地形を明らかにした.その結果,月降水量の頻度は指数分布に従っており,5・10・20・50・100年確率降水量を算出することができた.また,降水量と流量の関係はロジスティック曲線に従っており,理論上,降水量96.5mm/月を超えると河川氾濫が始まることがわかった.当該地域の地形は丘陵地,氾濫原,自然堤防,低位及び高位段丘に分類できた.この中で湿地が多く分布するのは氾濫原で,湿地面積と降水量に相関がみられ,遊水地としての機能を大きく果たしていることがわかった.
著者
泉 貴久 岩本 廣美
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.74-81, 2012 (Released:2012-04-09)
参考文献数
9
被引用文献数
1

日本地理学会が主催・後援する活動には,会員対象のもののほかに非会員を対象としたものがある.本稿では非会員対象の活動を社会貢献活動と呼ぶ.社会貢献活動は,一般市民向けのもの,学校教員や児童・生徒向けの地理教育に関わるものの二つに分類できる.前者は,地理学の有用性を一般市民に理解してもらうために行っており,その代表的なものが大会時に行われる公開講演会である.後者は日本の地理教育の活性化のために行われ,大会時に行われる学校教員向けの公開講座のほかに,大会とは別に不定期に行われる教員向けの研修会,高校生対象の「科学地理オリンピック日本選手権」,小中高校生対象の「私たちの身のまわりの環境地図作品展」などがある.これらの地理教育に関わる社会貢献活動の多くを,1998年に設置された地理教育専門委員会が中心となって他学会や研究会と共同で企画し,実行している.
著者
竹内 裕一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.65-73, 2012 (Released:2012-04-09)
参考文献数
32
被引用文献数
4

本稿は,地域における社会参加を視野に入れた地理教育実践及び地理カリキュラムのあり方を検討することを目的としている.具体的には,地理教育における社会参加学習の意義を明らかにした上で,身近な地域での直接経験を基盤とした異なる空間規模における「重層的地域形成主体」の育成をめざした地理カリキュラムの視点を提起した.

2 0 0 0 OA GISと地理教育

著者
伊藤 智章
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.49-56, 2012 (Released:2012-04-09)
参考文献数
35
被引用文献数
3 3

GIS(地理情報システム)は,高等学校の次期学習指導要領 2009(平成21)年版において初めて本文中に明記された.新学習指導要領は,地理教育の目標を達成するために,GISをどう活用することを求めているのか,それを受けて教員は,GISをどのように活用していくべきかを論じた.新学習指導要領は,地理的技能の獲得のためにGISを教育の内容全体において活用することを求めており,連携を求めた関連他教科(情報科や中学社会科)よりも,地理は踏み込んだ表現を行っている.現在,高等学校の地理教育におけるGISの活用は不十分であり,克服するべき課題が多く残されている.問題の解決のためには,教員が,地理的技能の獲得手段としてのGISの効果を認識し,現場の実情に合った方法論と教材を共有することと,GISを使って地理教育を充実させるために必要な環境を整えることが重要である.
著者
後藤 秀昭 杉戸 信彦
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.197-213, 2012-12-31 (Released:2013-01-31)
参考文献数
32
被引用文献数
1 8

国土地理院の基盤地図情報として公開されている数値標高モデル(5 mメッシュおよび10 mメッシュ)すべてを用いて実体視可能な地形ステレオ画像を作成した.地理情報システムにステレオ画像と既存の活断層分布図を読み込み,変動地形学的な地形判読を行ったところ,これまで認められていない新期変動地形を新たに多数見いだした.これらの地形の一部を速報し,数値標高モデルのステレオ画像を系統的に判読する重要性を例証すると同時に,空中写真とは異なる特性をもつ数値標高モデルのステレオ画像の長所についてまとめて紹介する.
著者
田和 正孝
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.59-65, 2013 (Released:2013-04-19)
参考文献数
17

沿岸部に岩塊を馬蹄形や半円形に積んで構築された大型の定置漁具がある.これは一般に石干見(イシヒビ)と呼ばれる.石積みの高さは,満潮時には海面下に没し,干潮時には干あがるように工夫されている.上げ潮流とともに接岸した魚群の一部は,退潮時,沖へ逃げ遅れて石積み内に封じこめられ,それらが漁獲される.小論は,筆者が近年調査対象としている九州・沖縄の石干見を事例に,各地で進む復元および保存と活用をめぐる動きの中で,地域が地理学者に対してどのような知識を求めたのか,このような活動に関わるにあたって地理学者はいかなる立場に定位できるのかについて,若干の考察をおこなうものである.
著者
阪上 弘彬
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.242-254, 2013 (Released:2013-11-01)
参考文献数
35
被引用文献数
2 1

ESDは地理教育における重要なテーマとなっている.国際地理学連合・地理教育委員会(IGU-CGE), ドイツ地理学会(DGfG)では,ESDの観点が盛り込まれた諸宣言や教育スタンダードを作成し,地理教育におけるESD推進を進めている.国際地理学連合・地理教育委員会は,社会,環境の変革に対するアプローチは諸宣言の重要な要素であると述べている.社会変革という点でESDとIGU-CGEの地理教育は共通点を有しており,諸宣言の地理的能力においても社会の変革の要素をみることができる.また各国に対し諸宣言を取り組むことを求めており,ドイツ地理教育では諸宣言の内容を反映したレールプラン(カリキュラム)が提案されてきた.ESDはドイツ地理教育においても重要なテーマの一つであり,「ドイツ地理教育スタンダード」では,ESDの要素とともにドイツ独自の観点をみることができた.