著者
藤原 智 飛田 幹男 佐藤 浩 小沢 慎三郎 宇根 寛
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.95-103, 2007 (Released:2010-06-02)
参考文献数
8

地震に伴う地殻変動の面的分布を求めることで地震時の地下の断層の位置とその動きを推定することができる.2005年パキスタン北部地震について,人工衛星ENVISATの干渉SARおよびSAR画像のマッチング技術を用いて,地殻変動を面的かつ詳細に求めるとともに,断層モデルを作成した.1m以上の地殻変動は全長約90kmの帯状に北西-南東方向に広がり,最大の地殻変動量は6mを超えている.地震断層推定位置は,既存の活断層に沿ってつながっており,活断層地形で示される変動の向きなどとも一致している.これらのことから,今回の地震は過去に繰り返して発生した地震と同じ場所で発生していることがわかった.地殻変動のパターンから,大まかに見て2つの断層グループが存在する.大きな地震被害が発生したムザファラバード付近は,この2 つの断層グループの境に位置するとともに,最大の地殻変動量が観測された.
著者
熊原 康博 中田 高
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.72-85, 2007 (Released:2010-06-02)
参考文献数
16
被引用文献数
1 4

本研究では,2005年10月に発生したパキスタン地震(Mw=7.6)の起震断層を明らかにするため,CORONA偵察衛星写真を用いて断層変位地形の判読をおこなった.その結果,長さ66km,北西―南東走向,右横ずれ変位成分をもつ北東側隆起の逆断層タイプの活断層が認められた.活断層の特徴が地震のメカニズム解と整合すること,断層トレースに沿って地表地震断層が生じていることから,この活断層は本地震の起震断層であると認定される.この活断層をバラコット―ガリ(Balakot-Garhi)断層と呼称する.断層破壊方向と断層トレースの分岐パターンの関係によると,震源付近から両端に向かって断層破壊が伝播したことが推定され,実際の震源過程と調和している.地震前後の衛星画像から地震に伴う斜面崩壊を抽出すると,震源周辺及び断層トレースから上盤側5km以内に斜面崩壊が多いことが明らかになった.
著者
島田 周平
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.2_1-16, 2009 (Released:2010-06-02)
参考文献数
35
被引用文献数
1 1

脆弱性理論は,脆弱性概念の多義性のために未だ有効な分析概念とは認められていない.しかし,アフリカの貧困問題や農業の持続性の理解のための学際的研究分野においては,大きな可能性を持つと考えられている.本稿では,アフリカ農村社会の分析にとって適切な脆弱性の定義を試み,次に個人,世帯,社会集団という主体の違いによって現れる脆弱性の多様性を整理した.その上で,ナイジェリア,ブルキナ・ファソ,ザンビアで行った農村調査の結果をもとに,個人,世帯,社会集団の脆弱性がどのような過程で増大してきているのか考察した.その結果,個人,世帯,社会集団の脆弱性は,相互に密接な関連を持ち影響しあっていることが明らかとなった.たとえば,ブルキナ・ファソから南部諸国への出稼ぎは,干ばつ常襲地域の世帯の脆弱性を緩和するものであったが,2000年にコート・ジボワールで起きた外国人排斥運動に遭い,突然中止せざるを得なくなった.このことで国外追放された個人,世帯はもとより,彼らが帰った先の故郷の農村社会の脆弱性にも深刻な影響を与えた.このような複雑な脆弱性を理解するためには,主体間の脆弱性増大の影響やそのプロセスを明らかにした上で,次にそれらの間の相互関係を解析する必要がある.
著者
祖田 亮次
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.1_1-17, 2008 (Released:2010-06-02)
参考文献数
73
被引用文献数
1

本稿は,マレーシア・サラワク州(ボルネオ島)での調査をもとに,イバンと呼ばれるエスニック集団の農村―都市間移動の一端を紹介した上で,彼らの移動を考察するための三つの視角を提示する.具体的には,地方都市と後背農村を含んだ調査対象地域の設定,都市と農村の区分を曖昧化する移動者そのものへの注目,そして,農村社会の安定性・定住性を前提とした考え方(セデンタリズム sedentarism)に対する批判の3点である.これらは,イバンの生活世界の総体を現代的文脈のなかでとらえることを可能にするだけではなく,東南アジアにおける諸エスニック集団の農村―都市間移動を再考するために不可欠な視点である.そして,こうした視点は,特定のエスニック集団を考察対象とする場合の,地理学的研究と人類学的研究との接合可能性をも示唆するものである.
著者
荒木 一視
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.52-68, 2010 (Released:2010-04-06)
参考文献数
10
被引用文献数
1 2

中国からの輸入農産物や食品は食の安全性や品質に関わって近年大きな関心を集めている.その反面,中国の農業生産や流通の実態に関する情報や知識は決して十分とはいえない.とくに巨大な国土を持つ中国の農業生産や食品流通は決して一様ではなく,それらの地域的なパターンを認識することが,中国からの輸入農産物・食品に対する理解の上で求められているのではないかと考えた.こうした観点から筆者のこれまでの中国調査で得られた情報の一端を報告する.1960年代以降中国の農業生産は拡大を続けてきたが,とくに果実や野菜,畜産物などで1990年代以降に飛躍的な伸びが認められ,その過程で短期間での新興産地の台頭,首位産地の入れ替わりなど産地の地域的なパターンにも変化が起こっている.これは主食食材や工芸作物での変化が比較的緩慢なこととは対照的である.さらに,農産物・食品の各部門,品目別の国内市場の取引額および輸出額の省別の集計からは,双方の地域的パターンと生産の地域的パターンがそれぞれ異なるものであることが明らかになった.
著者
春山 成子 辻村 晶子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.1-20, 2009 (Released:2010-02-24)
参考文献数
11
被引用文献数
3

河川洪水による被害を軽減するためには,堤防・ダムなどの防災施設の構造物建設を先行させる工学的手法とともに,地形条件を勘案した最適な土地利用計画を編み出すための手法を開発すること,災害時に速やかに活動しうる社会構造・社会組織母体を形成させること,これらの活動を通して災害時の避難活動を円滑にさせることも重要な課題である.減災にむけた社会組織の活動を円滑に進めるためには,ハザードマップ,リスクマップを作成し,地域住民に災害ポテンシャルを周知させるような住民参加型の防災計画の樹立が求められている.本研究では2004年豊岡洪水の現地調査から社会組織の最小レベルである地区内に設けられた「隣保」と自主防災組織に着目して,速やかな防災活動を進める地域の工夫を確認した.
著者
金 玄辰
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.82-89, 2012 (Released:2012-04-09)
参考文献数
29
被引用文献数
1 1

本稿では,日本との比較の観点からイギリス,オーストラリア,韓国,香港における地理カリキュラムを分析した.その結果,1)概念・主題中心の地理カリキュラムの構成が主流であること,2)学習方法においては地理的探究に基づく学習,ならびに地理的技能としてのICT活用を強調していること,3)価値・態度においては,持続可能な社会を形成するために市民的資質の育成を目指していること,という3点を地理教育の世界的動向として挙げることができた.
著者
志村 喬
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.1-2, 2012 (Released:2012-04-09)
参考文献数
1
著者
野中 健一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.34-47, 2013 (Released:2013-04-19)
参考文献数
23
被引用文献数
1

本研究は,長期・多人数の滞在型現地調査に対する地理学的な学術成果を,いかにして村・村民に還元するのか,ラオスでの村落調査で実践した写真集制作と展示施設の制作事例について報告する.そして,それらの提示する村の暮らしを研究者や外来者との対話のプラットフォームとして活用することにより,住民の知識の価値を共感でもって見出し,村人自身の再認識に役立てることに地理学知を活用することを提案する.
著者
松本 博之 森本 泉
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.3-14, 2013 (Released:2013-04-19)
参考文献数
30
被引用文献数
1

今日われわれのフィールドワークという営みには調査による地域貢献の課題がつきまとっている.フィールドが海外になると,地域貢献は容易に達成できるものではない.われわれ地理学者が地域的差異の究明を研究目的に掲げているように,海外でのフィールドワークの成果を還元しようとすれば,地域社会の特性に応じて社会文化的な差異を越えなければならないからである.そこには,科学者の形づくる知の性質,還元を計る空間的な内実とスケール,還元を意識する研究者の立ち位置など,克服しなければならない数多の問題点がある.本稿は,それらの問題点の基本的な側面に検討をくわえ,望ましい知の還元への方途を模索する試みである.
著者
池 俊介 杜 国慶 白坂 蕃 張 貴民
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.208-222, 2013 (Released:2013-11-01)
参考文献数
15

中国の雲南省では,1990年代後半から農村地域における観光地化が著しく進んだ.しかし,外部資本により観光施設が建設され,観光地化が地域住民の所得向上や地域社会の発展に寄与していない事例も存在するため,地域住民による内発的で自律的な観光施設の運営を実現し,観光収入が農民の所得水準の向上に着実に結びつくような経営を行ってゆくことが大きな課題となっている.本稿では,納西族の農民により観光乗馬施設の自律的な共同経営が行われている雲南省北西部の拉市海周辺地域を対象として,その形成プロセスと共同経営の実態について調査した.その結果,平等な収益分配,投票によるリーダーの選出など,きわめて民主的な観光乗馬施設の運営が行われ,地元住民の所得向上にも貢献していることが明らかとなった.