著者
荒木 俊之
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.1-11, 2017 (Released:2017-06-09)
参考文献数
20
被引用文献数
1

立地適正化計画は,コンパクトシティ・プラス・ネットワークを実現するために,2014年に創設された.本稿は,立地適正化計画の創設の背景とその概要を概説するとともに,地理的な視点からとらえた立地適正化計画の作成と運用の問題点を整理することを目的とする.本稿では三つの視点,すなわち立地適正化計画の区域の範囲,都市機能誘導区域の階層構造に関連する機能設定,土地利用規制とそれにともなう地域差から問題点を整理した.これらに共通するのは,立地適正化計画の区域の範囲に関することである.立地適正化計画は都市圏の範囲での作成が求められるが,都市計画区域が都市圏と一致しないことにより,コンパクトシティの実現に向けた取組みも,作成主体である市町村内にとどまる可能性が想定される.これは,都市計画の根本をなす都市計画区域の問題でもあり,都市計画区域の再編や変更が柔軟に行えない都市計画制度の硬直化といえよう.
著者
荒木 一視 岩間 信之 楮原 京子 熊谷 美香 田中 耕市 中村 努 松多 信尚
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.526-551, 2016 (Released:2017-03-29)
参考文献数
40
被引用文献数
2

東日本大震災を踏まえて,広域災害発生時の救援物資輸送に関わる地理学からの貢献を論じた.具体的には遠くない将来に発生が予想される南海トラフ地震を念頭に,懸念される障害と効果的な対策を検討した.南海トラフ地震で大きな被害が想定される西南日本の太平洋沿岸,特に紀伊半島や南四国,東九州は主要幹線路から外れ,交通インフラの整備が遅れた地域であると同時に過疎化・高齢化も進んでいる.また,農村が自給的性格を喪失し,食料をはじめとした多くを都市からの供給に依存する今日の状況の中で,災害による物資流通の遮断や遅延は,東日本大震災以上に大きな混乱をもたらすことが危惧される.それを軽減するためには,迅速で効果的に物資を輸送するルートや備蓄態勢の構築が必要であるが,こうした点に関わる包括的な取組みは,防災対策や復興支援などの従来的な災害対策と比べて脆弱である.
著者
石川 菜央 岡橋 秀典 陳 林
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.502-515, 2016 (Released:2017-03-29)
参考文献数
12

筆者の3人は,広島大学大学院の分野融合型のリーディングプログラムであるたおやかプログラムにおいて,現地研修の企画,実施を担当してきた.筆者らは,ともに地理学を学問的バックグラウンドとしてもっている.本稿では,地理学で培われた地域への視点や調査法が,分野融合型教育における現地研修にどのように貢献し,そして実施後にいかなる課題が残されたのかを考察した.検討の結果,事象を地域内の文脈でとらえ,さまざまな要素と関連づけて地域を総合的に把握する視点や,現地調査でオリジナルなデータを得る方法などが研修にも有効であった.また,これまでの地理学的研究では控える傾向があった,地域内の現象の比較的早期の一般化や,課題を解決するための具体的提案も研修という見地から学生たちに積極的に行わせた.今後は,長期間にわたって地域に繰り返し足を運び,さらに研究を深めることや,より長期の現地研修と効果的に結びつけることが課題である.
著者
菊地 俊夫 田林 明
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.460-475, 2016 (Released:2016-12-10)
参考文献数
27
被引用文献数
2

本研究の目的は東京都多摩地域の立川市砂川地区を事例にして,農産物直売所の存在形態と農村空間の商品化の関連性から,都市農業の維持・発展メカニズムを明らかにすることである.立川市砂川地区における都市農業の維持・発展は農産物直売所の立地に大きく依存している.それは,農産物直売所が都市住民に農産物を直接販売する施設であり,その施設を都市住民のニーズに応えるかたちで維持することで,農産物生産が行われているためである.結果として,農村景観や農業的土地利用が維持されるだけでなく,農村コミュニティも維持されることになる.また,農産物直売所を都市住民が訪れて購買することにより,それを核とする農村空間は生産空間としてだけでなく,消費空間としても意味づけられるようになる.
著者
田林 明 菊地 俊夫
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.425-447, 2016 (Released:2016-12-10)
参考文献数
32
被引用文献数
1

現代の日本では,農村本来の機能である食料生産を存続させ,持続的に発展させることが重要な課題となっている.この報告は,稲作が卓越する北陸地方において存続・成長の可能性の高い農業経営事例を検討し,その特徴と役割を明らかにする.ここで取り上げた三つの大規模借地経営は,利潤を追求するとともに,農地活用・管理のみならず,地域社会の維持,雇用創出といった役割を果たしている.それぞれは,大規模化と多角経営化と企業的性格を強めるという方向に進んできている.今後,ますます生産物を多様化し,加工・流通部門も加えて,規模拡大を進めるものと考えられる.しかし,すべての地域の農業がこれらの企業的経営によって維持されるのは困難であり,利潤追求というよりも一定水準の農業を継続し,農地を管理し,地域社会を持続させていこうとする集落営農が,大規模借地経営の隙間を埋めるように機能していくと考えられる.
著者
阪上 弘彬
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.401-414, 2016 (Released:2016-11-16)
参考文献数
20

本研究ではドイツ・ニーダーザクセン州ギムナジウムを事例に,ESD(持続可能な開発のための教育)の視点を入れた地理カリキュラムおよび学習の構造ならびに特質を明らかにするために,同州中等地理カリキュラム『コアカリキュラム』ならびに教科書TERRA Erdkundeを分析した.分析結果から,カリキュラムならびに教科書の特質として,学習プロセスに対応して持続可能性および持続可能な開発を反復して学ぶ構造となっていることと,持続可能性および持続可能な開発のもつ価値観を,所与のものとして学習を展開しない構造が明らかとなった.この分析により,日本の地理教育におけるESDの学習にとって,多様な学習プロセスを通じて,ESDの学習を繰り返し学ぶ地理カリキュラム作成,および持続可能な開発の起源あるいは概念を学ぶ機会を設定する必要があることを指摘した.
著者
下池 克哉
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.390-400, 2016 (Released:2016-11-16)
参考文献数
45

動態的地誌学習の授業設計において,多くの社会科教員が単元を貫く問いの設定に困難を感じている.先行研究では,地域における中核事象を取り上げ,「なぜ,このような特徴がこの地域にみられるのか」という「なぜ疑問」のもと,中核事象を成り立たせている原因を追究させるというのが一般的な見解となっている.そこでは,中核事象を結果として位置づけて,単元を設計するという方法が取られることになる.しかし,平成20年版の中学校学習指導要領[社会]の中核とする内容に基づく中核事象には,自然環境や歴史的背景のように,結果として位置づけられないものがある.したがって,中核事象を結果として位置づけ,中核事象を成り立たせる原因を探究させるケースと,中核事象を原因として位置づけ,中核事象がもたらす結果を探究させるケースの2パターンに分けて,単元を貫く問いを設定する必要がある.
著者
卯田 卓矢 矢ケ﨑 太洋 石坂 愛 上野 李佳子 松井 圭介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.282-298, 2016-09-30 (Released:2016-10-11)
参考文献数
40

本稿は茨城県常総市のきぬの里を事例に,郊外ニュータウン居住者における初詣行動について検討した.その結果,きぬの里の居住者の多くは地元外の有名な社寺を初詣対象としているものの,具体的な行動をみると,以前の初詣対象を踏襲する者が一定数存在し,そこでは前住地との近接性や明確な祈願内容,また実家とのつながりから初詣対象を選択しているなど,居住者個々において多様な行動がみられた.とくに,ニュータウンでは様々な地域からの転入者が多く居住しているという性格上,行動の多様性は顕著であると考えられる.したがって,人口移動が進行した戦後の初詣行動を解明するためには,先行研究で論点とされた氏神との関係の変化や有名社寺への初詣の集中化だけでなく,本稿で明らかにしたような多様な行動パターンについても関心を向ける必要がある.
著者
島田 周平
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.2_1-16, 2009
被引用文献数
2 1

脆弱性理論は,脆弱性概念の多義性のために未だ有効な分析概念とは認められていない.しかし,アフリカの貧困問題や農業の持続性の理解のための学際的研究分野においては,大きな可能性を持つと考えられている.本稿では,アフリカ農村社会の分析にとって適切な脆弱性の定義を試み,次に個人,世帯,社会集団という主体の違いによって現れる脆弱性の多様性を整理した.その上で,ナイジェリア,ブルキナ・ファソ,ザンビアで行った農村調査の結果をもとに,個人,世帯,社会集団の脆弱性がどのような過程で増大してきているのか考察した.その結果,個人,世帯,社会集団の脆弱性は,相互に密接な関連を持ち影響しあっていることが明らかとなった.たとえば,ブルキナ・ファソから南部諸国への出稼ぎは,干ばつ常襲地域の世帯の脆弱性を緩和するものであったが,2000年にコート・ジボワールで起きた外国人排斥運動に遭い,突然中止せざるを得なくなった.このことで国外追放された個人,世帯はもとより,彼らが帰った先の故郷の農村社会の脆弱性にも深刻な影響を与えた.このような複雑な脆弱性を理解するためには,主体間の脆弱性増大の影響やそのプロセスを明らかにした上で,次にそれらの間の相互関係を解析する必要がある.
著者
熊木 雅代 山田 誠 浜崎 健児 高村 仁知 高田 将志 和田 恵次
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.1-17, 2015 (Released:2015-04-08)
参考文献数
30

和歌山県における面源汚染の実態を広域的に把握するため,土地利用と河川水質の関連性について,県内の18河川を対象に定量評価した.具体的には,河川水中の主要な溶存成分を測定し,GIS (Geographical information system)データを用いて算出した流域の土地利用面積割合との相関を調べた.その結果,北部・中央部(以降,北中部と記す)の河川で面源汚染が進んでいることが明らかとなった.これは,下水道普及率の低い和歌山県においては,住宅地が多い北中部で,面源負荷が多いためと考えられる.また,特に中部河川では,果樹園に由来する面源負荷も大きく,栽培する果樹の種類による施肥量の違いや,元々の土壌生産性,降水量などの自然条件の違いが影響しているとみられる.一方,南部の河川では,流域の大部分が樹林地に覆われ,人為的な環境負荷が少ないため,面源汚染の影響はほとんど見られなかった.
著者
岡部 遊志
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.135-158, 2014 (Released:2014-11-29)
参考文献数
21

本稿の目的は,フランスのクラスター政策である「競争力の極」政策について,成立の経緯,地域指定の仕方,産業分野・地理的分布等の特徴を明らかにするとともに,「国際的な極」7地域を取り上げ,いかなる企業間関係と政府間関係の下で,国際競争力の強化が目指されているのかを検討することにある.フランスでは,国際競争力の低下を克服することが重要な課題とされ,これまでの地方分散政策や中小企業支援策に代わり,大企業や大学の役割を重視した「競争力の極」政策が打ち出されてきた.この政策では71の極が,3つのカテゴリーに分けられて指定された.産業分野では,輸送機械製造業が多く,地理的分布においてもパリやリヨンなど,既存の産業集積地域が指定されるといった特徴が見られた.「国際的な極」には7地域が指定されたが,パリに多くが集中するとともに,バイオやICTなどの先端産業の強化が意図されていた.地域圏の役割は重要であるが,地域圏間の連携やパリの多国籍企業との連携など域外との関係も重視され,また中央政府からの支援も重点的に行うことによって,国際競争力の強化が目指されている.
著者
森嶋 俊行
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.102-117, 2014 (Released:2014-11-29)
参考文献数
14
被引用文献数
5

本稿では,文化庁による「近代化遺産総合調査」と経済産業省による「近代化産業遺産群」認定事業を取り上げ,独自のデータベースを構築し,産業の地域構造史との関連を踏まえつつ,近代化産業遺産の地域的特性を明らかにした,その上で,両者の政策を比較するとともに,近代化産業遺産をめぐる政策的課題を検討した.文化庁の調査の対象は全国を網羅する形で,産業遺産のみならず,交通,建築,土木,軍事施設など,幅広い分野にわたり,文化財として価値のある遺産を数多くリストアップしている.これに対し,経済産業省による「近代化産業遺産群」では,近代工業化に関わるストーリーをもとに,遺産群を線で結ぶように認定しており,産業観光を含め,遺産の経済的価値を重視する傾向が認められる.産業遺産の意味のある保存と活用には,文化的価値と経済的価値の両者を考慮することが重要であり,省庁間の連携を進めるような政策展開が求められる.
著者
岩本 晃一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.89-101, 2014 (Released:2014-11-29)
参考文献数
1

経済産業省は,2009~2011年度の3ヶ年にわたって,総予算額1,461億円(当初予算)の「低炭素型雇用創出産業立地推進事業補補助金」を交付した.本補助金は,経産省で約20年ぶりに復活した民間企業の生産設備に対する大型補助金である.本補助金による産業競争力や地域経済に及ぼす影響は大きいものがあった.本稿は本補助金が及ぼした効果について検討し,今後の課題を考察するものである.
著者
佐藤 正志
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.65-88, 2014 (Released:2014-11-29)
参考文献数
48
被引用文献数
2

本稿では,「企業立地促進法」の基本計画策定過程の検討を通じて,地方分権下の地域産業政策形成において,政府間関係が果たす役割と課題を考察した.全国的な企業立地促進法の計画策定状況と四日市市,北上市の計画形成過程を検討した結果,都道府県が依然として主導的な役割を果たしていたことが明らかになった.一方で市町村は,過去に地域産業政策の策定に携わった経験を持つ自治体は独自に計画を策定していた反面,水平的関係を通じた政策情報の交換はみられず,他の市町村は補完的な役割にとどまり計画内容には大きな影響を及ぼしていなかった.
著者
松原 宏
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.33-36, 2014 (Released:2014-11-29)
参考文献数
18
被引用文献数
1
著者
村中 亮夫 埴淵 知哉 竹森 雅泰
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.1-11, 2014 (Released:2014-09-17)
参考文献数
32
被引用文献数
2 1

近年,社会調査における個人情報の保護に対する関心が高まっている.本稿では,日本における近年の社会調査環境の変化によってもたらされた個人情報保護の課題と新たなデータ収集法について解説することを目的とする.具体的には,①社会調査データを収集・管理するにあたって考慮すべき住民基本台帳法や公職選挙法のような法制度の変化や調査倫理,①個人情報そのものを取り扱うことなく調査データを収集できるインターネット調査データや公開データの仕組みのようなデータ収集法の活用可能性に着目した.
著者
海津 正倫 TANAVUD Charlchai PATANAKANOG Boonrak
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.2-11, 2006 (Released:2010-06-02)
参考文献数
12
被引用文献数
1 2

タイ国アンダマン海沿岸において多大な津波被害をこうむったNam Khem平野において,上陸した津波の挙動を明らかにし,津波の流動と地形および地形変化との関係について検討した.低地部における津波の挙動は基本的には流れの方向の異なる押し波と引き波の組み合わせで説明されるが,個々の地点では低地の微地形の存在が大きく影響している.とくに,一部では上陸した押し波と廃土の盛土斜面に乗り上げた後の引き波が同方向に流れており,逆の方向性を持つ押し波と引き波の見られる多くの地域とは異なった特徴が見られた.また,津波堆積物の分布は,津波の流動が集中する部分で厚くなる傾向が見られたほか,堤間低地の部分で厚く,浜堤列の発達と密接に関係している.
著者
佐藤 浩
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.104-120, 2007 (Released:2010-06-02)
参考文献数
15
被引用文献数
1

パキスタンが実効支配しているカシミール地方で2005年10月8日,パキスタン北部地震(Mw7.6)が発生した.震源近くで撮影された1 m解像度のIKONOSカラー単画像を用いて斜面崩壊を判読したところ,11 km×11 kmの広さで約100箇所の斜面崩壊を認定した.単画像のため,崩壊が斜面横方向に連なる場合,個々の斜面崩壊を認定することは難しかった.さらに,2.5 m解像度の白黒SPOT5ステレオ画像を用いて55 km×51 kmを対象に斜面崩壊を判読したところ,2,424箇所の斜面崩壊を認定した.現地調査によると,ほとんどが岩石の浅層崩壊である.しかし,SPOT5の解像度と白っぽい画質のため,地すべりのタイプの分類や地形学的特徴を詳しく判読できなかった.IKONOS,SPOT5いずれの画像判読の場合も,斜面崩壊は起震断層であるバラコット-ガリ断層の上盤側で多発していた.2,424箇所の斜面崩壊は,断層から1 kmの範囲内にその1/3超が集中していた.1/100万地質図と重ね合わせたところ,最多(1,147個),最高密度(3.2個/km2),最大崩壊面積比(2.3 ha/km2)の斜面崩壊がそれぞれ,中新統の砂岩及びシルト岩,先カンブリア系の片岩と珪岩,暁新統と始新統の石灰岩と頁岩に見出された.2,424箇所のうち,約79 %の1,926箇所は小規模な崩壊(崩壊面積0.5 ha未満),大規模な崩壊(崩壊面積1 ha以上)は約9 %の207箇所だった.大規模斜面崩壊の分布を米航空宇宙局のスペースシャトル搭載レーダー観測(SRTM: Shuttle Radar Topography Mission)による90 m 解像度の数値地形モデル(DEM: Digital Terrain Model)と傾斜データ(SRTM-DEMから計算)に重ね合わせたところ,斜面崩壊は断面的に凸な斜面のほうが凹な斜面よりも,また,35°以上のほうがそれ未満よりも,わずかに多い傾向が見られた.