著者
井上 悦子 七堂 利幸 北小路 博司 鍋田 智之 角谷 英治 楳田 高士 會澤 重勝 西田 篤 高橋 則人 越智 秀樹 丹澤 章八 川喜田 健司
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.635-645, 2003-11-01 (Released:2011-03-18)

風邪症状に対する鍼灸の予防、治療効果に関する多施設ランダム化比較試験 (RCT) の経緯ならびに現状について紹介した。パイロット試験では2週間の鍼治療が明瞭な効果を示したのに対し、多施設RCTによる同様な咽頭部への鍼刺激、さらには普遍的な間接灸刺激 (2週間) の効果は、いずれも300名を超す被験者を集めながら顕著なものとはならなかった。そこで、治療期間を最低8週間として、各施設においてパイロットRCTを実施した結果、より有効性が高まる傾向が認められた。これまでの臨床試験の経験や反省をふまえた議論のなかで、被験者の選択や対照群の設定、実験デザイン等の再検討の必要性が確認された。
著者
山口 創
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.732-741, 2008 (Released:2009-03-10)
参考文献数
2

本稿では第1に、 身体心理学の立場から、 自己と環境との境界としての皮膚感覚について論じられた。 第2に、 身体接触が心に与える影響に関する実験について紹介した。実験では、 触れる側、 触れられる側、 自己接触の3群の不安低減効果について検討した結果、触れられる側にのみ心理的変化があることを紹介した。 次いで幼少期の両親との身体接触は、 成人後にも対人関係に影響を与えている事実を紹介し、 皮膚自体が記憶をもつ可能性について示唆し最後に、 鍼灸治療における皮膚の機能や役割について論じた。鍼灸は皮膚へ介入する治療であり、 それが内臓や筋肉などに変化を及ぼし、 さらにその変化が皮膚に反映される。 つまり皮膚は入力と出力の界面である。 そのような視点から皮膚を観ることや、 皮膚に直接接触することの重要性について論じた。
著者
奥野 浩史 竹田 太郎 笹岡 知子 福田 文彦 石崎 直人 北小路 博司 矢野 忠 山村 義治
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.30-38, 2009 (Released:2009-08-11)
参考文献数
16
被引用文献数
8 3

【はじめに】自覚的な肩こりと肩上部の硬さとの関連性について検討した。 【方法】肩こり群 (n=60) および非肩こり群 (n=10) に対し、 肩こり自覚度と硬さの評価を鍼灸治療前後に行なった。 硬さは生体組織硬さ計 (PEK-1) と第3者による触診により評価した。 治療担当者に肩こり治療の有無を記入させた。 【結果・考察】硬さ計と触診による硬さの評価は有意な相関を認めた。 しかし、 肩こり群と非肩こり群との2群間の硬さには差を認めず、 肩こり群の自覚度と硬さに相関関係は認められなかった。 さらに鍼灸治療前後の自覚度と硬さの変化量にも相関を認めないことから、 肩こりと硬さとの関係性が無いことが明らかになった。 また、 鍼灸治療効果は肩こり治療をした群で高かった。 以上のことから、 臨床上感じられる触診結果と肩こりの自覚度との整合性の矛盾について、 その一部を示すことが出来たと考える。
著者
山口 創
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.132-140, 2014 (Released:2014-12-24)
参考文献数
4
被引用文献数
1 1

皮膚と心の関係について、特に癒しとの関連ついて生理学や心理学の研究をもとに紹介した。まず皮膚は脳と同じ外胚葉から発生し、皮膚も情報処理器官であることを指摘し、皮膚感覚が心に及ぼす影響について述べた。次に皮膚をなでることによって生じる振動には、1/fゆらぎの特徴をもつ振動が発生し、それが快の気分を生じさせる可能性について述べた。また触れることによってオキシトシンという生理物質が脳内で分泌され、それが相手との親密な人間関係の構築に役立つことや、 癒しをもたらす実験について紹介した。さらに触れる際に重要な点は、ゆっくりした速度で手を動かして触れることと、弱い圧で触れることである点を指摘した。前者はC触覚線維の発火によってもたらされる効果あり、後者は副交感神経が高まるためである。 これらの特徴をもつ触れ方によって、人は最大の癒しを得ることができ、快の感情が最大に高まると考えられる。最後に、皮膚を入力と出力の両面の視点で捉える必要性について述べた。皮膚に触れることは刺激の入力としての視点であるが、皮膚は内臓など身体内部や心の働きが表出される部位でもあるため、 出力としての視点もまた重要である。従って皮膚に触れることを通じて、相手の内部状態を把握する態度が重要になると考えられる。
著者
福島 正也 藤井 亮輔 近藤 宏 矢野 忠
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.176-184, 2019 (Released:2020-07-13)
参考文献数
9

【緒言】平成28年までの10年間で、 はり及びきゅうを行う施術所が59%増加している。 これまでに全国規模のあん摩マッサージ指圧・はり・きゅう業に関する業態調査が実施されているが、 はり・きゅう業を中心に業態を分析した報告はみられない。 今後のはり・きゅう業の在り方を検討するためには、 はり・きゅう業の経営実態に関する調査が必要である。 そこで、 今回我々が実施した全国規模のあん摩マッサージ指圧・はり・きゅう業の業態調査から、 はり・きゅう業者の患者数、 施術料金、 年収に焦点を当てて報告する。 【方法】全国のあん摩マッサージ指圧・はり・きゅう業者を対象に、 層化系統抽出法による、 個人施術所15,000件、 法人施術所2,000件、 出張専門業者3,000件の計20,000件を抽出標本とする調査を実施した。 調査は郵送法で、 平成28年10月末に発送し同年11月18日までの投函を依頼した。 回収した調査票から、 営業中かつはり師・きゅう師免許を所持する業者を集計対象とし、 月間患者数、 施術料金、 年収について、 全体の集計と営業形態、 所持免許 (はり師・きゅう師免許、 あん摩マッサージ指圧師免許、 柔道整復師免許)、 性別、 年代の別による集計を行った。 集計値は、 実数値とパーセンタイル、 または、 中央値と四分位範囲で表記した。 【主な結果と考察】回収した調査票4,605票の内、 3,117票が集計対象であった。 はり・きゅう業者の標準的な経営実態として、 月間患者数98人、 施術料金3,000円、 年収324万円という数値が示された。 月間患者数、 施術料金、 年収の分布には大きなばらつきがみられ、 年収では低額層と高額層の極端な二極分化が認められた。 主な背景として、 はり・きゅう業の受療率の低さ及び柔道整復療養費の支給対象外疾患への支出が影響していると推測された。 はり・きゅう業の経営実態を明らかにするためには、 さらなるデータの解析が必要である。
著者
形井 秀一 篠原 昭二 坂口 俊二 浦山 久嗣 河原 保裕 香取 俊光 小林 健二
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.576-586, 2007-11-01 (Released:2008-05-23)
参考文献数
21

1. はじめに2006年10月31日~11月2日の3日間、9カ国2組織が参加してWHO/WPRO (西太平洋地域事務局) 主催による経穴部位国際標準化公式会議がつくば市の国際会議場で開催された。会議のアドバイザー (発言権のある参加者) は、9カ国 (日本、中国、韓国、モンゴル、シンガポール、ベトナム、オーストラリア、アメリカ合衆国、英国) と2組織 (WFAS=World Federation of Acupuncture Societies, AAOM=American Association of Oriental Medicine) から計20名であった。この会議で、過去3年間日中韓で検討してきた経穴部位案が正式に決定された。2. 経穴部位の合意本会議で決定された経穴部位は361穴であり、これまで日本で教育されてきた354穴より7穴多い。これまでの教科書と変更になるのは、 (1) 奇穴から正穴となったもの (2) 前腕長などの骨度の分寸の変更によるもの (3) 個別の理由で変更になったもの、などであった。また、最後まで一部位に決定出来ずに2部位併記経穴が6穴 (迎香、禾〓、水溝、中衝、労宮、環跳) あった。3. 今後の動きつくば会議で最終的な経穴部位標準化が達成されたが、WPROは、経穴部位のみでなく、 (1) 東洋医学用語の標準化、 (2) 東洋医学の医療情報の標準化、 (3) 鍼灸研究法のガイドライン作りなど、多岐にわたる標準化を進め、東洋医学全体の用語や考え方、枠組みの標準化を行い、それらを東洋医学の世界的な研究、臨床へ活用しようとしている。4. 経穴部位決定後の課題今後の課題としては、 (1) 経穴部位のより厳密な再検討。 (2) 標準化部位の国内普及。 (3) 「日本鍼灸」の明確化と世界への普及。などが上げられる。
著者
山田 鑑照 尾崎 朋文 坂口 俊二 森川 和宥
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.529-552, 2002-11-01 (Released:2011-03-18)
参考文献数
41

経穴委員会 (委員長山田鑑照) は米山博久が1952年に発表した「経絡否定論」の意義の大きさに注目した。賛成・反対のいわゆる「経絡論争」が約2年にわたり繰り広げられた。この論争関連と同時期の経絡・経穴についての基礎研究に関する文献を収集して整理・検討し、平成14年6月に開催された第51回全日本鍼灸学会学術大会 (つくば) のワークショップIIIにおいて発表した。これを集約して報告する。
著者
松岡 憲二 北村 清一郎 金田 正徳 堺 章 中村 辰三
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.195-202, 1989-06-01 (Released:2011-05-30)
参考文献数
15

解剖実習用遺体において, 〓門, 天柱, 風池, 完骨, 翳風の5経穴に針を深刺し, 以後, 針を抜くことなく表層より解剖をすすめ, 刺入針と後頸部の構造との関連を調べた。〓門, 天柱, 風池の各穴への刺入針は, いずれも後環椎後頭膜や脳硬膜などを貫通し, 最終は延髄に達していた。刺入点より脳硬膜までの深さは頸周囲39.1cmの遺体でそれぞれ50mm, 51mm, 49mmであった。また, 風池穴の深部約40mm付近には椎骨動脈, 完骨穴の部では後頭動脈, 翳風穴の部では外頸動脈や顎動脈が浅層の部を近接走行しており, 刺針の際, 手技や深さに充分な注意を払うことが望まれる。
著者
真柳 誠
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.605-615, 2006-08-01 (Released:2011-03-18)

日本は中国で失われた多くの佚存古医籍や善本を保存し、現代に伝えている。それらに基づき江戸末期まで高度な古典研究がなされ、明治以降は近代医学を導入して鍼灸の研究と教育方法が体系化されてきた。一方、鍼灸療法は清朝後期に廃絶政策が実施され、中国の鍼灸は中華民国初期にほとんど壊滅状態にいたっていた。さらに民国政府は中国医学を廃止しようとした。しかし中国伝統医師達は日本の研究成果も援用した反対運動を行い、中国医学は存続された。また承淡安が日本から導入した鍼灸医学と教育方法は、新中国以降に中国鍼灸学が復興する礎となった。このような背景により形成された新たな中国医学が、いま日本に再び渡来している。過去の歴史は今後の歴史に連なるのである。
著者
菅田 良仁 東家 一雄 大西 基代 戸田 静男 黒岩 共一 木村 通郎
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.241-245, 1989-06-01 (Released:2011-05-30)
参考文献数
10

われわれは, 前報で透熱灸が生体内にあたえる温度変化について報告した。その際, 皮下では50℃以上に上昇することを示したが, 今回の隔物灸 (生姜および大蒜灸) でも同様に, 皮下で50℃をこえる温度変化が認められた。しかも, 透熱灸にくらべ50℃以上の状態を維持する時間が長く, 温熱刺激を緩和すると考えられている隔物灸が, むしろ透熱灸より強い刺激をあたえている可能性があることがわかった。また, その隔物灸の生体内におよぼす温度変化は, 隔物の含水量と皮膚組織の含水量の影響を強く受けることが予想された。
著者
織田 隆三
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.427-430, 1984-03-01 (Released:2011-05-30)
参考文献数
5
被引用文献数
1

目的: モグサはその歴史, 製法, 原料などに関して不明な点が残されているので, これを明らかにしたいと考えた。方法: 今回はモグサの主産地を訪ずれ, 実際行われている製造工程および原料用ヨモギについて調査した。結果: 現在の製法は石臼による粉砕, 篩過, 唐箕による精製の工程からなっている。原料は新潟, 富山, 石川県産のものは大部分がヨモギ (Artemisia princeps Pamp.), 一部がオオヨモギ (ヤマヨモギ) (A. montana Pamp.) であることを確めた。なお滋賀県のものはすべてヨモギと推定した。
著者
松田 博公
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.156-165, 2008 (Released:2008-09-02)

内外の情勢は、 日本の鍼灸界に日本鍼灸学の構築を要求しています。 日本鍼灸の特色の一つを、 自然治癒力思想を根幹とすることだと考え、 そのルーツを探るのが本発表の課題です。 現在われわれが口にする自然治癒力思想を顧みると、 それは、 中国伝統医学を継承したものではなく、 江戸中期に輸入された蘭学由来のものであるという仮説が浮かび上がります。 幕末に刊行された江戸期最大の養生書 『病家須知』 に記された<自然作用力>というキーワードに着目し、 和田啓十郎の漢方復興運動の論拠となった<自然良能>の思想などを振り返りながら、 日本の鍼灸家が親しんできた自然治癒力思想が、 西洋のヒポクラテス医学のものであることに迫ります。 そして、 江戸期の日本人がヒポクラテス医学の自然治癒力思想を受け入れた背景には、 <邪正一如>という日本独自の治癒力思想があったという仮説も提出して、 検討に供したいと思います。
著者
坂本 裕和 藤井 亮輔 光岡 裕一 坂井 友実 秋田 恵一
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.218-225, 2011 (Released:2011-12-09)
参考文献数
20

【目的】経絡経穴とその周囲構造物との位置関係を形態学的に明らかにする一環として、 下肢後面における経穴について検討した。 【方法】東京医科歯科大学解剖学実習体3体6側を使用した。 下肢後面における足の太陽膀胱経に刺鍼を施し、 その部位を中心とした局所解剖を行った。 【結果】1. 承扶・殷門は、 大腿二頭筋の表層を走行する後大腿皮神経および深層を走る坐骨神経より内側に位置した。 2.浮ゲキ・委陽は、 大腿二頭筋停止腱の内側縁に沿って総腓骨神経の走路に位置した。 3.委中・合陽・承筋・承山・飛揚・フ陽・崑崙・申脈は、 内側腓腹皮神経、 腓腹神経およびは小伏在静脈に沿って位置した。 4. 委中・合陽・承筋・承山は、 深層では脛骨神経および膝窩動脈、 後脛骨動脈に沿って位置した。 【結論】1.後大腿皮神経および坐骨神経は承扶・殷門より外側を走行する傾向が強く、 これら神経への刺鍼は承扶・殷門より外側に施す必要性が示唆された。 2. 下腿後面の腓腹神経および小伏在静脈は、 末梢に向かうにつれて経穴に沿う傾向が強くなる。 3.下腿後面の深層を走る脛骨神経への刺鍼は、 委中・合陽・承筋・承山が効果的であることが示唆された。
著者
形井 秀一 篠原 昭二 坂口 俊二 浦山 久嗣 河原 保裕 香取 俊光 小林 健二
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.755-766, 2006-11-01 (Released:2011-03-18)
参考文献数
4

経穴部位の標準化は、1989年にジュネーブ会議で経絡経穴名 (奇穴八脈、奇穴も含む) が国際標準化されて以来、永年の懸案であり困難な課題とされてきた。それ以来、14年の時を経て2003年、WHO西太平洋地域事務局 (WPRO) 主導の下、日本、中国、韓国による経穴部位の国際標準化に関する非公式諮問会議が始まった。この会議は特別会議を含めると3年で9回を数え、標準化達成に向けて大きく前進した。そしてその目標は、2006年秋、日本 (つくば市) で開催される経穴部位標準化公式会議で結実する。これまでの経緯と今後の課題をまとめたので報告する。
著者
内田 さえ 志村 まゆら 佐藤 優子
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.555-566, 1999-12-01 (Released:2011-03-18)
参考文献数
48

人が生を受けて約10ケ月を過ごす子宮とはどの様な調節を受けているのだろうか。視床下部から分泌されるオキシトシンが子宮を収縮させ、分娩が起こる事実を始め、ホルモンによる子宮調節については良く知られている。一方子宮の神経性調節についての教科書への記載はほとんどなされて来ていない。近年ラットを用いた子宮の神経性調節に関する研究が大きく進んできた。これらの研究により、子宮の平滑筋や子宮の血流が自律神経の働きによって大きく変化することや子宮に関する情報が常時求心性神経を通って脳に伝えられる事実、さらに皮膚に加えた体性感覚刺激は自律神経を介して子宮の動きや血流を調節することができることなどが明らかになってきた。これらの研究成果は、鍼による産婦人科疾患への治療効果をある程度まで説明しうるものと思われる。