著者
大坪 誠 山路 敦
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.116, no.11, pp.615-623, 2010 (Released:2011-03-02)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

2007年新潟県中越沖地震に関する被害調査を実施した.SAR干渉結果で隆起が明らかになった小木ノ城背斜において地表変形の有無および道路の亀裂に注目し,亀裂調査結果,地震時の地殻変動,地質構造の比較を行った.本背斜では道路の舗装を明瞭に破る地表面の断層変位にともなう変形が認められない.本背斜翼部で認められる層面すべり断層はflexural-slipに調和的な活動を示すが,中越沖地震による本背斜の成長に伴う層面すべり断層の活動は認められない.道路亀裂被害は,8 cm以上の隆起域では地盤の流動や変形を伴わない地点で開口亀裂が卓越し,背斜軸部および東翼部などの地域では,盛土の側方流動,人工埋設部での陥没,道路法面の崩落および斜面滑動が発生している地点で開口亀裂が認められる.8 cm以上の隆起域で認められる開口亀裂は地盤の隆起によるのに対して,それ以外のものは地震動の揺れによると考えられる.
著者
関 陽太郎
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.67, no.785, pp.101-104, 1961-02-25 (Released:2008-04-11)
参考文献数
5
被引用文献数
5 5
著者
西本 昌司 吉田 英一 隈 隆成 渡部 晟 澤木 博之
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
日本地質学会学術大会講演要旨 第128学術大会(2021名古屋オンライン) (ISSN:13483935)
巻号頁・発行日
pp.001, 2021 (Released:2022-05-31)

秋田県男鹿半島鵜ノ崎海岸は,中新統の西黒沢層直上にあたる女川層及び西黒沢層が露出する波食台で,女川層にはその上に侵食を免れた球〜繭形のコンクリーションが100個以上散在しており(渡部ほか, 2017),「小豆岩」と呼ばれている.コンクリーションのサイズは,径1〜3m程度のものが多いが,中には9mに達するものがある.これまで確認されただけでも,コンクリーションの3分の1程度が鯨骨化石を伴っている.これほど巨大かつ鯨骨のみを有するなコンクリーション群は,世界的にも珍しい.コンクリーション中に確認されているからは鯨骨は化石が見つかっており,主にヒゲクジラ類であることは報告されている(長澤ほか, 2018)が,これらコンクリーションの成因との関連について調査・議論した研究は未だなされていない. この鯨骨コンクリーション群の成因を解明するため,男鹿市ジオパーク推進協議会の協力のもと,調査とともにサンプリングを行い,粉末X線回折(XRD),炭素同位体比(δ13C),蛍光X線分析等の分析を行った.その結果,ところ、次のようなことがわかった.(1)コンクリーションを含む母岩は,珪質頁岩で炭酸塩をほとんど含まない. (2) コンクリーション自体は主にドロマイトであり,一部にカルサイトを含むものも認められる. (3)コンクリーションのδ13C は-15‰前後と低く,生物起源と考えられる. (4)コンクリーション中に見られる層理や鯨骨の配置は,周囲の層理と調和的である. (5)割れて内部が見えるコンクリーションの中心部に椎骨や下顎骨が認められるが,それ以外の生物化石は確認できない. これほど巨大なコンクリーションが形成されるためには,炭素を供給するソースとなる生物体(鯨骨)が運搬され,速やかに海底堆積物中に埋もれる必要がある.女川層は海盆に堆積したタービサイトと考えられている(例えば, Tada, 1994)ので,コンクリーションの炭素源である多孔質で油脂等の有機物を豊富に含む鯨骨(椎骨部分が多い)が,混濁流によって埋没したと考えるのが妥当である.その後,有機物の分解によって鯨骨からCO32-が放出され,海水中のMg2+やCa2+と反応しドロマイトが沈澱したと考えられる.ドロマイトの沈殿には低SO42-濃度が必要(松田, 2006)で,コンクリーション形成場としてSO42-が消費されるような環境が想定される.女川層中の珪質頁岩はもともと珪藻の遺骸が主体(鹿野, 1979)で有機物が多く,嫌気的環境で硫酸還元バクテリアにより硫酸イオンが消費されていた可能性が高い. 以上のことから,この巨大鯨骨コンクリーション群は,深海に沈んだ複数の鯨骨が混濁流によって埋没した後,鯨骨を中心に主にドロマイトが沈澱して形成されたものと考えられる.謝辞現地調査にあたり,男鹿市ジオパーク推進班並びに男鹿半島・大潟ジオパークガイドの会ご協力いただいた.ここに記して謝意を表する.文献渡部 晟・澤木博之・渡部 均 (2017) 秋田県男鹿半島鵜ノ崎の中・上部中新統(西黒沢層・女川層)に 含まれる炭酸塩コンクリーション中の脊椎動物化石の産状. 秋田県立博物館研究報告 42, 6〜17.長澤一雄・渡部晟・澤木博之・渡部均 (2018) 秋田県男鹿半島鵜ノ崎海岸の中新統コンクリーションより多数の鯨類化石を発見. 日本古生物学会2018年年会. 鹿野和彦 (1979) 女川層珪質岩の堆積作用と続成作用. 東北大学博士論文 291p.松田博貴 (2006) ドロマイトの形成過程とドロマイト化作用. Jour. Soc. Inorg. Mater. Japan. 13, 245-252.Tada, R. (1994) Paleoceanographic evolution of the Japan Sea. Palaeogeogr. Palaeoclimatol. Palaeoecol., 108, 487–508.
著者
藤田 勝代 横山 俊治
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.115, no.Supplement, pp.S89-S107, 2009 (Released:2012-01-26)
参考文献数
46
被引用文献数
1 2

多くの風化花崗岩には,ミリメートルオーダー間隔のクラック群であるラミネーションシーティングが発達し,ラミネーションシーティングに取り囲まれた未風化核岩がしばしば分布している.ラミネーションシーティングは地形・構造(節理)・岩石(岩相)・鉱物と,スケールの異なる因子に規制されて形成されている.本見学会では,ラミネーションシーティングと未風化核岩を観察し,これらの規制因子について議論する.小豆島には大坂城改築城時の丁場跡が多数点在し,矢孔で穿かれた種石や切石(残石)が散在する.風化花崗岩の地質・岩石構造と地形の観点から,当時の採石の立地条件と方法について観察し,当時の石工道具や運搬用具をみなとオアシス大坂城残石記念公園で見学する.また,現在稼業している小豆島石の採石丁場で石工職人から石目と石割りの方法について伺う.
著者
藤岡 導明 亀尾 浩司 小竹 信宏
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.109, no.3, pp.166-178, 2003-03-15 (Released:2008-04-11)
参考文献数
24
被引用文献数
19 19

横浜地域の大船層中部~小柴層下部に挟在するテフラ鍵層と,房総半島の黄和田層下部~中部に挟在するテフラ鍵層を重鉱物組成,火山ガラスの形態及び化学組成に基づいて対比した.その結果,大船層中部のテフラSg3,小柴層下部のテフラSg2及びSg1はそれぞれ,黄和田層下部~中部のテフラ鍵層Kd38,Kd25及びKd24こ対比された.あわせて行った石灰質ナンノ化石と浮遊性有孔虫化石の検討によってもこの結果は支持される.したがって,大船層中部~小柴層下部は,従来言われていたように黄和田層中部~梅ヶ瀬層に対比されるのではなく,テフラ鍵層Kd19より下位の黄和田層に相当することになる.このことは,横浜地域の第四系の年代論に大幅な見直しが必要であることを意味している.
著者
田村 糸子 水野 清秀 宇都宮 正志 中嶋 輝允 山崎 晴雄
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.125, no.1, pp.23-39, 2019-01-15 (Released:2019-04-15)
参考文献数
116
被引用文献数
9 12

房総半島に分布する上総層群は,層厚3000mに達する下部~中部更新統の前弧海盆堆積物である.古くから多くの層序学的研究が行われ,日本の海成更新統の模式層序である.また500層を超える多くのテフラが挟在され,上部の笠森層から下部の黄和田層まで詳細なテフラ層序が確立されている.多数の広域テフラ対比も報告され,日本列島の更新世テフラ編年上,重要である.本論では,現在までに明らかにされた上総層群の広域テフラをまとめ,約0.4Ma~2Ma間の20層を超える広域テフラを示した.そして黄和田層中のテフラ層序に関して,ダブルカウントや上下逆転などの問題点を指摘した.また報告の少なかった上総層群下部の大原層,浪花層,勝浦層において,新たに多数の細粒ガラス質テフラを記載し広域対比を検討した.その結果,Bnd2-O1(2.1Ma),Fup-KW2(2.2Ma)の2層の広域テフラを新たに見出した.これらのテフラ対比から,上総層群基底の堆積年代が2.3Maを遡る可能性を示した.
著者
川村 教一 篠原 俊憲
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.114, no.8, pp.415-425, 2008-08-15 (Released:2009-03-25)
参考文献数
36
被引用文献数
3 3

ボーリングコアを用いて愛媛県西予市宇和盆地に分布する宇和層,中位段丘構成層の層序の確立および対比を行った.宇和層は最下部,下部,中部,上部に区分できる.挟在する火山灰層のうち25層について,その記載岩石学的特徴に基づいて対比と年代を検討した.その結果,下位より,宇和1火山灰は敷戸テフラおよびイエローI火山灰に,宇和20火山灰は誓願寺栂テフラに,宇和23火山灰は樋脇テフラに,宇和24火山灰は小林笠森テフラに,宇和26火山灰は加久藤テフラにそれぞれ対比される.また,盆地南端の中位段丘構成層中の稲生火山灰は,阿蘇2テフラに対比される.火山灰の対比から,宇和層のうち,最下部が少なくとも1.3 Ma以前に形成が始まり約1.0 Maまで,下部は約1.0 Maから0.33 Maまで,中部は約0.33 Ma以降,上部は後期更新世で約0.026 Ma以前に形成された.また,中位段丘構成層は,中期更新世末の0.2~0.1 Ma前後に形成された.
著者
市原 実 藤田 和夫 森下 晶 中世古 幸次郎
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.61, no.720, pp.433-441, 1955-09-25 (Released:2008-04-11)
参考文献数
14
被引用文献数
3 2

The stratigraphy of the Osaka Group in the Senriyama Hills, is summarized in the following table., Groups Formations Members Western Part Eastern Part Characteristics Osaka Basin Terraces Toyonaka Terrace Onohara Terrace Sinodayama Group Sakurai Gravels 10m± Hozumi Gravels 10m± Butunenziyama Fault Onohara Faults J2 Osaka Group 300m+ Ibaraki Formation 100m+ Mituike Alternations of sands and clays 90m+ Hattyoike Alternations of sands and clays 95m+ Marine clay rich Hattyoike Tuff Azuki Tuff Yamada Tuff The upper part of the Osaka Group I2∼J1 Senriyama Formation 200m+ Simakumayama Gravels 70m+ Sinden Sands 147m+ Metasequoia Jugrans megacinerea The lower part of the Osaka Group I1 Basement Kobe Group
著者
巽 好幸 谷 健一郎 川畑 博
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.115, no.Supplement, pp.S15-S20, 2009 (Released:2012-01-26)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

小豆島には,瀬戸内火山帯の一部をなす中新世の火山岩類(瀬戸内火山岩類)が分布する.これらは,他地域の瀬戸内火山岩類と比べて以下の特徴を有する:(1)比較的規模の大きい複成火山体をなす.(2)水中火山活動の証拠が顕著に認められる.(3)玄武岩から流紋岩までの広い化学組成を有する.(4)斑状火山岩と比較的無斑晶質な火山岩(サヌキトイド)まで,岩相変化に富む.(5)サヌキトイドの複合溶岩流が存在する.(6)初生的な安山岩(高Mg安山岩),玄武岩が産する.ここでは,主にこれらの特徴を簡略に説明する.
著者
山路 敦
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.107, no.7, pp.461-479, 2001-07-15 (Released:2008-04-11)
参考文献数
107
被引用文献数
10 8

地殻応力の評価は, テクトニクスを理解するうえで鍵になる.また, 応用地質的な価値も高い.ところが, その手法として普及している共役断層による小断層解析は, 間違った答えをだすことが多い.それにかわって, 3次元的応力歪みを許容する小断層解析法がここ30年間に幾つも開発されてきた.新手法の開発とともに適用可能な野外の対象も拡大するので, フィールド調査と方法論的な研究が両輪をなして進んできたわけである.代表的な方法がインバージョンによる応力推定である.しかし, それは複数の応力を記録しているデータセットからそれらの応力を分離する能力にとぼしいが, その能力のある方法の開発も試みられている.未解決の方法論的問題が少なからずあるので, 今後も手法の開発とフィールドへの適用という2面で研究が進展していくだろう.
著者
加瀬 善洋 川上 源太郎 小安 浩理 高橋 良 嵯峨山 積 仁科 健二
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.128, no.1, pp.7-26, 2022-01-15 (Released:2022-02-15)
参考文献数
58
被引用文献数
3

北海道の津軽海峡沿岸域において津波堆積物調査を実施した結果,4地点で泥炭層中に挟在する6枚のイベント堆積物を見出した.イベント堆積物の形成年代は589~516 cal yBP,734~670 cal yBP,1656~1538 cal yBP,1745~1639 cal yBP,2401~2265 cal yBP,2771~2618 cal yBPである.イベント堆積物の供給源,確認地点の現海岸線からの距離,発生頻度から総合的に判断すると,イベント堆積物は津波起源の可能性がある.イベント堆積物はいずれも隣接地域の既知の津波イベントと年代的に近接する.一方,年代の新しいイベントは13~15世紀頃と推定され,北海道から東北地方の太平洋沿岸域で広く知られる17世紀の津波イベントは北海道津軽海峡沿岸に堆積物を残していないことが示された.このことは,17世紀に発生した津波の波源域を考える上で,拘束条件の1つとなる可能性がある.
著者
佐藤 時幸 加藤 凌 千代延 俊
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.127, no.10, pp.621-633, 2021-10-15 (Released:2022-01-01)
参考文献数
43

新潟地域の石油坑井および地表から採取した七谷期試料の石灰質ナンノ化石調査結果は,中期中新世初期のNN5帯とNN6帯で新潟平野中央部が広大な非海域であったことを示唆する.NN5帯の石灰質ナンノ化石の産出量は,調査地域南東部から北東部の北蒲原に抜ける狭い海域の存在を示唆する.NN6帯では新潟平野中央部から東山一帯で海域が急激に縮小するが,東部の北蒲原へ抜ける海域は依然残る.しかし,寺泊期になるとこの海域も消滅し,新潟地域の古海洋環境がMid-Miocene Climatic Optimum後でNN5帯末の急激な寒冷化とそれによるユースタシー変動の影響を強く受けたことを示す.一方,中新世火山岩類を貯留岩とする油・ガス田の多くは石灰質ナンノ化石が産出せず,日本海形成時のリフティングと火山活動で形成された構造的高まりがそのまま油ガス田構造となったことを示す.
著者
佐川 拓也
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.116, no.2, pp.63-84, 2010 (Released:2010-10-13)
参考文献数
135
被引用文献数
8 3

近年,過去の海洋表層水温を復元する指標として,浮遊性有孔虫のMg/Ca古水温計が広く用いられている.この手法の利点は,約1℃の誤差で古水温を復元できるだけでなく,酸素同位体比と組み合わせることで,塩分の指標である海水の酸素同位体比の復元も行える点である.このように復元された水温と塩分の時系列変動から,様々な時間スケールの海洋変動が,気候システムの中で重要な役割を果たしてきたことが明らかになってきた.しかし一方で,Mg/Ca古水温計の問題点も指摘されており,特に炭酸塩の溶解が大きな影響を与えることが知られている.浮遊性有孔虫のMg/Ca古水温計の原理や問題点を理解し,その上で古海洋解析に適用することは,過去の水温や塩分を復元する手法として有用であり,気候変動に関するさらなる知見を与えるであろう.本論文では,Mg/Ca古水温計の原理を解説した上で,古海洋学研究への応用例,Mg/Ca古水温計の問題点と今後の展望についてまとめた.