著者
安藤 寿男 田口 翔太 森野 善広
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.128, no.1, pp.475-499, 2022-12-29 (Released:2022-12-29)
参考文献数
55

相馬中村層群中ノ沢層(上部ジュラ系)の館ノ沢砂岩部層は,砂質河川成の栃窪層に波浪ラビンメント面を介して重なる海進残留相から始まり,外洋浅海から内湾-ラグーンに至る上方浅海化を示す,海退性の砂質堆積物であり,数回の小規模な振動を伴う相対海水準の緩やかな上昇期に,珪質砕屑性堆積システムが前進することによってできた.小池石灰岩部層は,珪質砕屑物供給が停止することで成立した炭酸塩バリア-ラグーンシステムとして,東西数 km南北10 km超の炭酸塩プラットフォームを構成していた.分布全域に追跡される5層の上方細粒化堆積相累重(層厚数-10数m)は,バリア浅瀬→浅瀬後背→ラグーンへの変化をもたらした,5回の小規模な相対海水準変動による海退-海進の繰り返しで形成された.中ノ沢層はキンメリッジアンからチトニアン前期の第2オーダー高海水準期に,第3オーダー海水準変動周期に対応して形成された可能性が指摘される.
著者
高島 千鶴 狩野 彰宏
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.111, no.12, pp.751-764, 2005 (Released:2006-04-05)
参考文献数
31
被引用文献数
13 13

奈良県川上村にある入之波温泉山鳩湯の温泉水は,CO2とCaを多量に溶存する.その化学成分と安定同位体比は,天水起源の水が地下深部からの二酸化炭素を含み,岩石と反応したことを示す.温泉水は長さ70 mの谷を流れ,鉄質沈殿物を含む方解石沈殿物(トラバーチン)を堆積する.また,谷沿いでの温泉水中のFeとCaイオン濃度の減少傾向は,鉄質沈殿物とトラバーチンの分布と調和的である.湯元付近に発達する鉄質沈殿物は,フィラメント状の形態を示し,非晶質な鉄水酸化物を主体とする.鉄水酸化物の沈殿には,大気からの酸素吸収に加え,鉄酸化細菌と思われる微生物の代謝活動が重要に働いていたと考えられる.より下流で発達するトラバーチンは,二酸化炭素の脱ガスにより沈殿し,100μm~数mmオーダーの縞状組織を示すものもある.縞状組織は日輪であり,このトラバーチンの堆積速度は20 cm/年に達することが判明した.
著者
貴治 康夫 沓掛 俊夫 中野 聰志 西村 貞浩 澤田 一彦 杉井 完治 多賀 優 竹本 健一 天白 俊馬
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.114, no.2, pp.53-69, 2008-02-15 (Released:2009-02-21)
参考文献数
67
被引用文献数
13 7

東西6 km・南北7 km規模の比叡花崗岩体は,琵琶湖周辺の白亜紀末山陽帯花崗岩体のうちで,最も西寄りに位置する.これまで琵琶湖コールドロン形成に関係した琵琶湖南部環状花崗岩体の西端部の岩体と考えられてきた.比叡花崗岩体は,中心相と考えられる中粒斑状黒雲母花崗岩とそれを取り囲むように分布している中粒等粒状黒雲母花崗岩からなる.両者は漸移関係にあり,活動時期は100 Ma頃と推定される.比叡花崗岩は,年代値,岩相,化学的性質において琵琶湖南部の他の花崗岩類とは異なるので,およそ70 Maの琵琶湖コールドロン形成に直接関与した環状岩体を構成するものとしては考えられない.本岩体中には,岩体西縁部で南北方向に貫入している花崗斑岩脈と花崗閃緑斑岩脈のほかに,優白質微花崗岩,流紋岩,玄武岩,ランプロファイアの小岩脈が岩体全体に点在している.そのうちの花崗斑岩と花崗閃緑斑岩の岩脈は,琵琶湖コールドロンの外縁を画する環状岩脈の一部であると考えられる.
著者
工藤 崇 宝田 晋治 佐々木 実
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.110, no.5, pp.271-289, 2004 (Released:2005-01-07)
参考文献数
56
被引用文献数
14 12

北八甲田火山群は11の小規模成層火山体から構成される. 本火山群は約40万年前から活動を開始した. 噴出中心の位置は時間とともに中央部に収束する傾向がある. 活動様式は溶岩流の流出に卓越し, 水蒸気噴火, ブルカノ式噴火およびストロンボリ式噴火による小規模な降下火砕物および火砕流を伴う. 27~17万年前の間には噴出量が0.1 km3以上の比較的規模の大きい火砕噴火を数回起こした可能性がある. 本火山群の総噴出量は15 km3, 長期的噴出率は0.04 km3/kyである. 噴出率は40~10万年前で比較的高く, 10万年前以降では低くなる. 噴出率および活動様式の時間変化から, 本火山群の火山活動のピークは40~10万年前の間にあったと考えられる. これらの時間変化はマントルダイアピルの冷却過程と調和的であり, ダイアピルモデルを仮定すれば, 本火山群の現在の活動は終息へと向かいつつある状態と解釈可能である.
著者
原 英俊 冨永 紘平
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.128, no.1, pp.149-168, 2022-09-22 (Released:2022-09-22)
参考文献数
55

御荷鉾緑色岩類は,後期ジュラ紀に形成され,前期白亜紀にアジア大陸東縁へ付加された地質体だと考えられている.一方,御荷鉾緑色岩類と北部秩父帯の柏木ユニットは,岩相,変形構造,地質構造,変成作用において,密接な関係があることが指摘されている.両地質体の初生的な関係の理解は,後期ジュラ紀〜前期白亜紀のパンサラッサ海(古太平洋)やアジア大陸東縁の沈み込み帯のテクトニクスの解明につながるため重要である.本巡検では,御荷鉾緑色岩類と柏木ユニットの海洋性岩石である玄武岩類およびチャートに着目し,両地質体の類似点と相違点について観察を行う.また本巡検地では,御荷鉾緑色岩類の上位に柏木ユニットが衝上する大高取山クリッペや堂山クリッペが提唱されている.これらクリッペについて,両地質体の岩相上の特徴から再検討を行う.さらに小規模に点在して分布する帰属不明な蛇紋岩についても観察を行う.
著者
吉田 勝
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.126, no.3, pp.149-156, 2020-03-15 (Released:2020-07-31)
参考文献数
50

Glaciological studies have been conducted on snow patches in Japan since 1910th, including the recent identification of active glaciers in the Hida Mountains. This identification was presented at an open symposium organized by the Data Center for Glacier Research of the Glaciological Society of Japan, which recognized that the snow patches have a considerable mass of ice that shows evidence of downward flow along a valley. International cryosphere-related organizations, however, have defined the glacier as a “stagnant or flowing ice mass”, and the international classification of glaciers as published by The International Commission of Snow and Ice (ICSI) requires the criterion of flow for only certain classes of glaciers, such as the valley glacier etc. The presence of ice flow is not considered necessary to define mountain glaciers and glacierets. On the basis of a pilot study in the Himalayan region as used by the ICSI, several snow patches with ice masses in Japan can be considered as a type of glacier. However, the classification is unclear in terms of criteria based on flow, size, and thickness of an ice mass, as well as in terms of distinctions between valley glaciers, mountain glaciers, glacierets, and snow patches, which should be re-examined and clarified to create a better definition and classification of snow and ice masses on Earth.
著者
松本 良 青木 豊 渡部 芳夫
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.102, no.11, pp.931, 1996-11-15 (Released:2008-04-11)
被引用文献数
1 1
著者
高野 修 辻 隆司
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.119, no.8, pp.567-579, 2013-08-15 (Released:2013-11-22)
参考文献数
44
被引用文献数
7 5

石油探鉱開発業務における三次元地質モデリングは,地質構造,堆積盆石油システム,層序,貯留層などを対象として,多分野技術統合手法によって行われている.このうち三次元貯留層モデリングでは,堆積学・シーケンス層序学やサイスミック地形学に基づく確定論的地質概念モデリングにより地質学的枠組みや拘束条件を決定し,それと坑井岩石物理学,地震探査反射波属性データを用いることによって地球統計学的確率論的モデリングを行い,三次元数値モデルを構築する.データ条件や目的に応じて,多種多様なモデリング手法の中から最も適切な手法と手順を選択することが,より現実に即した効率的なモデリングを行う鍵となる.
著者
大島 和雄
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.72, no.9, pp.439-449, 1966-09-25 (Released:2008-04-11)
参考文献数
16
被引用文献数
3 1
著者
森下 知晃
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.106, no.11, pp.800-811, 2000-11-15 (Released:2008-04-11)
参考文献数
44
被引用文献数
3 4

北海道, 幌満かんらん岩体に産する輝石・スピネル-シンプレクタイトの組織を定量的に記載する基礎データとして, シンプレクタイトの3次元構造を連続2次元BSE像から推定した.シンプレクタイトは斜方輝石マトリクス中に粗粒な枝分かれ状単斜輝石と棒状, 板状, 枝分かれ状スピネルが分布している構造を呈している.シンプレクタイト中の単斜輝石はシンプレクタイトの周りの単斜輝石とひとつながりであると推定され, 組織の形成は, 形成時に接していた輝石の結晶軸に支配されて, 外側から内側に向かって進行したと考えられる.予察的に得られた単斜輝石のモードはほぼ一定であった.スピネルと単斜輝石の分布はお互いに密接に関係しており, スピネルが両輝石の境界に産するときは板状を呈する.スピネル粒子の多くは両輝石の境界と接している.これらの観察事実はスピネルが両輝石の境界に選択的に形成されたことを示唆する(小畑ほか, 1997).