著者
岡田 隆文 松原 啓太 松島 崇浩 込山 修 濱野(長谷川) 恵子 諸角 美由紀 千葉 菜穂子 生方 公子 砂川 慶介 岩田 敏
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.84, no.1, pp.42-47, 2010-01-20 (Released:2017-08-16)
参考文献数
20
被引用文献数
4 4

2004 年7 月1 日から2005 年12 月31 日の間に,独立行政法人国立病院機構東京医療センター小児科を受診し,肺炎と診断された720 症例を対象とした.それらの症例から採取された上咽頭拭い液から,real time PCR 法でrespiratory syncytial virus(RSV)は75 例(10.4%),human metapneumovirus(hMPV)は19例(2.6%)検出された.RSV は11 月から1 月にかけて,hMPV は3 月から6 月にかけて多く検出された.平均年齢および標準偏差はRSV が1.3±1.4 歳,hMPV が3.0±3.1 歳で,両ウイルスの平均罹患年齢に有意差を認めた(p<0.05).臨床所見上,RSV 陽性例では鼻汁と喘鳴を来たす症例,hMPV 陽性例では高体温と喘鳴が遷延する症例が多く,両ウイルス間で有意差を認めた.発熱,咳嗽,嘔吐と下痢,有熱期間,初診時のCRP 値では,両ウイルス間に有意差を認めなかった.合併症の発生率はRSV 陽性例で49.3%,hMPV 陽性例で42.1%であった.RSV では急性中耳炎(32.0%),hMPV では熱性痙攣(15.8%)が多い傾向であった.以上の成績は,RSV あるいはhMPV に起因する小児市中肺炎例の鑑別診断上,有益な情報となり得ると考えられる.
著者
薩田 清明 眞貝 晃 長谷部 昭久
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.96-104, 1990

9小学校を対象に1987年, 1988年の2年連続して, 学級単位でみたワクチンの2回接種率と発熱を伴い欠席した者の延べ欠席率との関係について検討し, 次のような結果が得られた.<BR>1) 平均接種率は1987年の157学級の58.6%に対し, 1988年の151学級では29.9%を示し, 1987年のほうが有意に高いことが認められた.<BR>2) 一方, 平均延べ欠席率は1987年の1.524%に対し, 1988年は2.802%を示し, 1987年のほうが有意に低いことが認められた.<BR>3) 1987年では9校中7枚で接種率と延べ欠席率との間に有意の逆相関が認められた. すなわち, 接種率が高くなるにつれて延べ欠席率の低くなることが有意に認められた.<BR>4) しかし, 1988年ではいずれの学校でもそのような傾向は全く認められなかった.<BR>両年のこの差として考えられることは, 1987年の接種率が高かった上に, 流行株の変異度 (V<SUB>0</SUB>が82%) が小さかったこと. 一方, 1988年の接種率が低かったことに加えて, 変異度 (V<SUB>3</SUB>以上が78%) の大きいB型ウイルスの流行に起因しているものと考えられる.
著者
野田 伸司 渡辺 実 山田 不二造 藤本 進
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.55, no.12, pp.891-897, 1981-12-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
11

生体試料中のNDVおよびワクチニァウイルスに対するイソプロパノール (IP) の不活化作用を検討した.IPは各種の生体試料により, 強い不活化阻害作用を受けるが, 試料の状態により不活化阻害の傾向には, 大きな違いが認められた.血清, 尿および脱線維血液等の液相において, エタノールの場合と同様に, IPの濃度の低下と共セこ, 試料による不活化の阻害が強く示された.しかし, 脱線維血液と同じ水分を含む凝固血液中のウイルスに対しては, 50~80%に不活化の至適濃度が示され, いずれの試料中のウイルスに対しても, 高濃度ほど強い不活化効力を示したエタノールとは, 不活化阻害の機序を異にすることが推測される.乾燥血清中のウイルスは, エタノールの場合と同様に, 40%前後の比較的低濃度のIPにより, 最も効果的に不活化された.エンベロープウイルスに対しては, 生体試料中においても, IPは効果的な殺ウイルス剤と考えられるが, 含水, 乾燥いずれの状態にも対応できる実用的な濃度としては, 50%が適当と思われる.
著者
徳野 治 藤原 美樹 中上 佳美 山之内 すみか 足立 昌代 池田 明子 北山 茂生 高橋 敏夫 加瀬 哲男 木下 承晧 熊谷 俊一
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.83, no.5, pp.525-533, 2009-09-20 (Released:2016-08-20)
参考文献数
15
被引用文献数
2 4

インフルエンザ迅速診断キットは,その初期診断と治療に有用であり多種市販されている.しかし検査結果の精度に関しては,各キット間の検出感度差も示唆される.今回8 社から販売されているキットの特性を明らかにすることを目的として,ワクチン株及び臨床分離株を用いて検出感度や性能等を比較検討した.供試したウイルス株は分離培養したA 型H1N1,A 型H3N2,B 型のワクチン株5 株,臨床株6 株を用いた.各ウイルス株原液を生理食塩水で10 倍段階希釈し,キット添付文書記載の用法に基づき測定を行い,陽性検出限界を求めた.これをさらに2 倍希釈系に調製して測定し,最小検出感度を比較した.各試料中のウイルスRNA コピー数をリアルタイムreverse transcriptase-polymerase chain reaction(RT-PCR)法にて測定した.同時に各キット添付の専用綿球と専用容器でのウイルス抽出効率の評価も実施した.各分離株に対する最小検出感度のウイルス抗原量平均値〔log10 コピー数/mL〕は,A 型H1N1 が5.68~7.02,A 型H3N2 が6.37~7.17,B 型が6.5~8.13 であり,一部のキット間で感度に有意差が認められ,ウイルス抽出効率についてもキット間に差が認められた.ウイルス検出感度はA 型に対して比較的高く,B 型には低い傾向が認められた.各キット間の検出感度差については,用いられている検出原理の違いや,あるいはそれぞれのウイルス抽出方法の違いによるものと推察される.
著者
藤原 弘之 中西 正教 山木 健市
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.92, no.1, pp.76-79, 2018-01-20 (Released:2019-10-26)
参考文献数
14

A 79-year-old female with a history of liver cirrhosis was admitted to our hospital with dyspnea on exertion and right hip pain. Her chest CT showed a combination of pulmonary infiltration and multiple nodules and her head MRI showed 3 nodules in the cerebrum. We obtained bacteriological specimens from the hip abscess and lung abscess. Gram staining showed the presence of branching gram positive rods, which suggested Nocardia. We administered sulfamethoxazole - trimethoprim and imipenem/cilastatin, and her condition and radiology findings promptly improved. Nocardiosis is commonly seen in immunosuppressed patients but is also seen in the immunocompetent. Malignancy, HIV infection, diabetes mellitus and chronic pulmonary disease are common underlying diseases and some report the presence of nocardiosis together with liver cirrhosis. Disseminated nocardiosis has high mortality and it is important to make an initial assessment appropriately and to administrate proper antibiotic agents as early as possible. The gram-stain is an effective way to evaluate nocardia infection because a long time is usually needed to obtain the result of bacterial cultures.
著者
丹生 徹 沖永 功太 丹生 茂 安部 茂 山口 英世
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.70, no.5, pp.463-469, 1996-05-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
16

ヒト好中球のCandida albicans発育阻止能が, 中心静脈栄養 (IVH) に用いられる高カロリー輸液によりどのように影響を受けるか検討した.ヒト好中球が, C.albicansの発育を阻止するin vitro実験系において, グルコース濃度を1~2%に高めることによって, ヒト好中球の抗Candida活性は強く抑制された.これに対して, 市販高カロリー輸液の添加により, グルコース濃度を上昇させても, ヒト好中球の抗Candida活性の低下は, ほとんど認められなかった.この中に含まれるグルコース拮抗物質について検討を行った結果, アミノ酸分画に有効成分が存在することが明らかになった.このアミノ酸分画には, dexamethasoneの好中球機能抑制をも緩和する効果が認められた.さらに再機構アミノ酸混液でも同様の結果が得られた.したがって, 高カロリー輸液にアミノ酸液が混入されているのは, 通常の栄養補充の目的以外にも, 好中球機能の保持という面でも有用であり, 適切な濃度のアミノ酸液を投与することが重要と考えられた.
著者
島田 馨 岡 慎一 鈴木 宏男 稲松 孝思 浦山 京子
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.459-463, 1985-05-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
11
被引用文献数
5 3

東京都養育院付属病院の黄色ブ菌敗血症は1973~79年までは年間2~9例であったが, 1980~83年は年間11~20例と増加した. この血液から分離された黄色ブ菌に対するDMPPCとCEZのMICを測定すると, 1977年以前の分離株はすべてDMPPCとCEZに感性であったが, 1980年以降分離した63株中39株が両者に耐性をしめした. メチシリン・セフェム感性の黄色ブ菌敗血症は1973~83年の間, とくに増加していないが, これにメチシリン・セフェム耐性黄色ブ菌敗血症の加わって, 1980年以降の黄色ブ菌敗血症が増加したと解された. メチシリン・セフェム耐性黄色ブ菌敗血症例は, メチシリン・セフェム感性黄色ブ菌敗血症例に比して低蛋白血症が多く, また発症前2週以内にβ-lactam剤を使用された例が有意に多かった (p<0.01).
著者
野口 昌幸 木脇 圭一
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.82, no.3, pp.161-167, 2008-05-20 (Released:2011-02-07)
参考文献数
18
被引用文献数
2 5

PI3K-AKTシグナル伝達系は細胞外からの様々な刺激により膜リン脂質を介して活性化される細胞内シグナル伝達系で, PTEN, LKB1, TSC1/2などのがん抑制遺伝子ならびにPI3K, AKT, FOXA, TCL1eIF4Eなどの原がん遺伝子の制御をし, これらの遺伝子群の変異や活性化はヒトの様々な悪性腫瘍の原因となることが知られている. 最近ウイルス感染をはじめとする感染症において細胞内にあるこのPI3K-AKT活性シグナル伝達系をウイルスあるいは感染病原体がたくみに利用し, 細胞死 (Apoptosis), 感染の遷延化 (latent infection), 腫瘍化 (malignant transformation) さらには結核菌における多剤耐性の成立などに関与していることが注目されている.我々はヒトT細胞リンパ芽球性白血病の原因遺伝子であるTCL1が細胞内のアポトーシス制御の要のセリンスレオニンキナーゼAKTの活性化補助因子であることを示した.このTCL1遺伝子は, HIVウイルス感染症, EBウイルス感染症などのウイルス感染症において其の活性が上昇し, AKTの活性化を介してこれらウイルス感染症の病態の発現や修飾に関与している.感染症におけるPI3K-AKTシグナル伝達系の働きを明らかにすることにより新たな薬剤耐性菌問題などの難治性感染症に対する新しい治療への道標を与える可能性がある.
著者
池松 秀之 鍋島 篤子 鄭 湧 林 純 後藤 修郎 岡 徹也 原 寛 柏木 征三郎
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.74, no.1, pp.17-23, 2000-01-20 (Released:2011-02-07)
参考文献数
20
被引用文献数
4 5

高齢者において, 1996/97年インフルエンザ流行期における不活化インフルエンザワクチンの予防効果及び接種回数とワクチン効果との関連について検討した. 対象は60歳以上のワクチン未接種者104名, 接種者166名の計270名で, ワクチン接種者中, 前年度接種を受けた患者104名中56名は今回1回, 58名は今回2回接種を受けた. 前年度接種を受けていない52名は, 今回2回接種を受けた.流行後のHI抗体価の4倍以上の上昇よりインフルエンザ感染と診断された患者の率は, 未接種者ではA/H3N2が16.3%, Bが8.7%であった. ワクチン接種者のインフルエンザ感染率は, A/H3N2が3.0%, Bが0.6%であり, 未接種者に比し有意に低かった (p<0.001, p<0.01). ワクチン接種者中, 前年度ワクチン未接種者にはインフルエンザ感染者は見られなかった.前年度ワクチン接種をうけ, 今回1回接種者および今回2回接種者のインフルエンザ感染率は, A/H3N2がそれぞれ5.2%および3.0%で, Bが0%および1.8%であり, 前年度ワクチン接種者においても, インフルエンザ感染率は, 未接種者に比し低く, 1回接種と2回接種に, 有意の差は認められなかった.以上の成績より, 不活化インフルエンザワクチンは, 高齢者のインフルエンザ予防に有効と考えられた. 高齢者において, インフルエンザワクチンの毎年の接種が勧められ, 1回接種も, 感染予防に有効であると考えられた.
著者
保阪 由美子 木村 琢磨 鈴木 亮 鄭 東孝 荘司 路 青木 泰子
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.84, no.5, pp.592-596, 2010-09-20 (Released:2017-08-18)
参考文献数
15

A 64-year-old man with prostate cancer and bone metastasis admitted for nausea, left abdominal pain showed no abnormal, and fever, abdominal ultrasound or chest X-ray findings. Despite antibiotics, left abdominal pain persisted for several days. Abdominal computed tomography (CT), showed splenic infarction. Transesophageal echocardiography suggested infectious endocarditis (IE) as a possible infarction cause, and roth spots were found on the retina. Gemella morbillorum was detected from blood culture. IE commonly causes Fever of Unknown Origin found by infarction. G. morbillorum, an anaerobic grampositive, viridans group streptococci, is indigenous to the oropharynx, upper respiratory, urogenital, and gastrointestinal tracts, and is thought to have weak toxity and pathogenicity in the body.
著者
飯島 義雄 秋吉 京子 田中 忍 貫名 正文 伊藤 正寛 春田 恒和 井上 明 安藤 秀二 岸本 寿男
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.83, no.5, pp.500-505, 2009-09-20 (Released:2016-08-20)
参考文献数
10
被引用文献数
1 2

2005 年12 月,神戸市内において鳥類展示施設の従業員の間でオウム病が発生した.従業員は,オウム病等の人獣共通感染症に関する研修等を受けておらず,鳥の糞の始末等を行う場合にも,マスク,手袋,作業着等の使用は限られていた.67 名の従業員のうち,4 名が肺炎を呈しており,2 名がオウム病肺炎と確定診断された.それ以外に19 名が発熱や咳などの症状を訴えたが,オウム病とは診断されなかった. オウム病発生時,約970 羽が検疫もされず,個体識別もされず飼育されていた.餌や水に混ぜてのドキシサイクリン投与に効果がなかったため,全鳥の個体識別とPCR にてクラミジアの検査を実施した.比較的大量のクラミジアを排出していたトリに,ヒムネオオハシ1 羽,オシドリ1 羽,マガモ3 羽がいた.また,死亡したオキナインコ1 羽の臓器からも大量のクラミジアが検出された. 肺炎患者1 名の気管支肺胞洗浄液がPCR でクラミジア陽性であったことより,主要外膜タンパク質(major outer membrane protein : MOMP)の塩基配列を決定した.上記のトリ由来のMOMP の配列と比較したところ,ヒムネオオハシから検出したMOMP の塩基配列が,患者のそれと完全に一致した.それ以外のトリ由来のものは,1~5 塩基異なっていた.ヒムネオオハシは,閉鎖的な部屋に放たれており,作業中にその排泄物を吸い込んで感染したものと推察された. 今回のオウム病集団発生を通じて,①オウム病など人獣共通感染症に対する知識と感染対策の必要性,②迅速診断の難しさ,③血清診断の難しさ(PCR でオウム病が確認できても,抗体価の上昇が起こらない症例の存在),④糞からのクラミジア検出の難しさ(PCR 阻害物質の残存)を経験した.また,パルスフィールド電気泳動等が確立されていないクラミジアにおいては,MOMP の塩基配列の解析が菌株を比較する方法として有用と考えられた.
著者
砂川 慶介 生方 公子 千葉 菜穂子 長谷川 恵子 野々山 勝人 岩田 敏 秋田 博伸 佐藤 吉壮
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.82, no.3, pp.187-197, 2008-05-20 (Released:2011-02-07)
参考文献数
19
被引用文献数
11 10

2005年1月から2006年12月迄の2年間に96施設から小児細菌性髄膜炎246症例 (男児138, 女児108) が報告された.年齢別では28日以下が25例, 1カ月~12カ月が114例, 1歳以上は107例であった.原因菌はH.influenzaeが136例と最も多く, 次いでS.pneumoniae 48例, streptococcus agalactiae (GBS) 19例, Escherichia coli6例の順で, GBS, E.coliは低年齢での発症が多く, H.influenzaeは多くは4カ月~5歳に分布していた.S.pneumoniaeは3カ月~12歳に分布していた.H.influenzae, S.pneumoniaeともに耐性化が進み, H.influenzaeは2003年に70.4%, S.pneumoniaeは2004年に83.0%と耐性株が高い割合を占めていたが, 今回の調査では, H.influenzaeは2005年65.2%, 2006年59.3%, S.pneumoniaeは2005年71%, 2006年69.3%と若干減少の方向を示した.細菌性髄膜炎の初期治療に使用した抗菌薬の種類は, 4カ月未満では, 従来の標準的治療法とされているAmpicillin+セフェムならびにカルバペネム+β-lactamの2剤を併用した症例が多く, H.influenzaeやS.pneumoniaeが原因細菌として多くなる4カ月以降に関しては, 耐性菌を考慮したカルバペネム+セフェムの併用が増加し, ampicillin+セフェムをはるかに上回る使用頻度であった.
著者
倉田 賢生 井上 昇 近藤 聡子 斧沢 京子 谷 直樹 南 順也 大石 涼 長野 祐久 荒木 弘 桑野 博行 福岡市民病院COVID-19ワクチンワーキンググループ
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.96, no.3, pp.65-73, 2022-05-20 (Released:2022-05-20)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

本研究は,トジナメラン被接種者に出現した副反応の経日的な調査,および副反応の出現率に影響する共変量の探索を目的とした.2021年3月から4月において,福岡市民病院にて本ワクチンが接種された職員を対象に,注射部位および全身の副反応(13項目)を接種当日(day 1),day 2,day 3,day 4,およびday 5以降ごとに調査した.副反応の出現率は,ほとんどがday2において最高値を認めた.1回目接種後(および2回目接種後)のday2での出現率は,注射部位の疼痛が86.0%(86.9%),倦怠感が33.2%(76.9%),頭痛が14.3%(56.9%),筋肉痛が37.0%(57.2%),発熱が5.2%(51.1%),および関節痛が9.3%(43.9%)であった.2回目接種後は1回目と比較して副反応が遷延する頻度,および中等度以上の副反応(疼痛,腫脹,皮疹を除く)が出現した被接種者の割合がそれぞれ有意に高かった.各副反応の出現率に性差,年齢差,および接種回数による差のいずれかが存在することが認められた.特に全身倦怠感および頭痛の出現率は,女性,55歳以下の年齢および2回目接種のすべてにおいて有意に増加した.女性および2回目接種は,影響する副反応の出現率の上昇のみをもたらす共変量であった.本ワクチンの副反応の出現率は,2回目接種翌日における女性および55歳以下の被接種者において高いことが示された.本研究結果は,本ワクチン被接種者の副反応の予測,および接種日の設定の際に有用であると考えられる.
著者
田村 大輔 三浦 琢磨 上原 里程 菅谷 憲夫
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.79, no.7, pp.427-432, 2005-07-20 (Released:2011-05-20)
参考文献数
17
被引用文献数
2 2

日本では, 不活化インフルエンザワクチンの接種量は, 1歳以下の乳児では0.1mL/回を2回接種することと規定されている.乳児の接種量は欧米の0.25mL/回と比較して少量であり, それが乳児のワクチン効果が低い原因ではないかと推測してこの研究を行った.本研究では, 8~11カ月の1歳未満の乳児26例 (94±0.9カ月) に0.1mL/回, 12~17カ月の1歳児の22例 (13.4±1.3カ月) に0.2mL/回をそれぞれ2回接種し, 総計48症例で抗体価上昇について比較検討をした.その結果, 赤血球凝集抑制 (Hemagglutination Inhibition: HI) 試験で, 発病予防に有効と考えられる40倍以上の抗体価を獲得した割合は, 乳児では1歳児と比べて有意に低値であった (Aソ連型;23%vs77% (p<0.001), A香港型;39%vs73% (p=0.03), B型;0%vs32% (p=0.002)).4倍 (2管) 以上の抗体価上昇の割合では, A香港型では有意差を認めなかったが, Aソ連型とB型においては乳児では有意に低値であった (Aソ連型;74%vs91% (p=0.04), A香港型;54%vs78% (p=0.09), B型;0%vs39% (p<0.001)).獲得された抗体価の平均値はA香港型では有意差を認めなかったが, Aソ連型とB型においては乳児では有意に低値であった (Aソ連型;19倍vs56倍 (p<0.001), A香港型;21倍vs43倍 (p=0.09), B型;8倍vs14倍 (p<0.001)).本研究での乳児と1歳児での抗体反応の差は, 年齢差ではなくワクチン接種量の差 (0.1mL vs 0.2mL) を反映したものと考えられる.乳児に対する現行の接種量ではワクチンの有効性は期待できず, 乳児も0.2mL/回に増量することが必要と考えられた.
著者
杉下 由行 林 邦彦 森 亨 堀口 逸子 丸井 英二
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.86, no.2, pp.127-133, 2012-03-20 (Released:2013-04-12)
参考文献数
16

【目的】我が国では,結核予防対策の一環として BCG 接種が実施されている.これは他の予防接種と同様に市町村単位で実施され,その接種体制は各自治体で異なっている.本研究の目的は,BCG 接種体制の違いによるBCG 接種率への影響を明らかにすることである.【対象と方法】対象地域は東京都多摩地区の30 市町村とした.市町村の BCG 接種体制を5 つのグループに分類し,生後6 カ月に達するまでの BCG 累積接種率をグループ間で比較した.解析は,従属変数を生後6 カ月に達するまでの BCG 接種の有無,独立変数をBCG 接種体制とし,BCG 接種体制以外の BCG 接種に関係すると考えられる市町村特性を共変量として独立変数に加え,多変量ロジスティック回帰分析を行った.因子評価はオッズ比を用い 95% 信頼区間で検定した.【結果】調整オッズ比から,5 つのグループにおいて,乳児健診併用で毎月実施の集団接種を基準とした場合,BCG 未接種者の人数は,単独(乳児健診非併用)で毎月実施の集団接種 (adj. OR : 4.01 CI : 2.24~7.11),単独で隔月実施の集団接種 (adj. OR : 15.59 CI : 10.10~24.49),個別接種 (adj. OR : 15.61 CI : 9.05~27.26),単独で隔月未満実施の集団接種 (adj. OR : 48.17 CI : 29.62~79.75) の順に多くなる傾向にあった.【結論】BCG 接種体制が BCG 累積接種率に影響していた.集団接種での乳児健診併用や高い実施頻度の確保が BCG 接種率向上に役立つと考えられた.