著者
馬田 敏幸 法村 俊之
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第51回大会
巻号頁・発行日
pp.202, 2008 (Released:2008-10-15)

p53野生型マウスにトリチウム水一回投与によるβ線照射、あるいはセシウム-137γ線をシミュレーション照射法(トリチウムの実効半減期に従って線量率を連続的に減少させながら照射)により3Gyの 全身照射を行ったとき、T細胞のTCR遺伝子の突然変異誘発率は、γ線では上昇しなかったがトリチウムβ線では有意に上昇した。この差異の原因がp53の活性量の違いにあるのかを明らかにするために、次の実験を行った。8週齢のC57BL/6Nマウスの腹腔内に、270MBqのトリチウム水を注射し19日間飼育した。この間にマウスは低線量率で3Gyの被ばくを受けることになる。γ線はシミュレーション照射法で7日間照射し、その後12日間飼育した。飼育最終日にマウスに3Gy(0.86 Gy/min)照射し、4時間後に脾臓を摘出しT細胞分離用とアポトーシス解析のためのタネル法の試料とした。ウェスタンブロット法によりp53の発現量とリン酸化p53の存在量を比較した。p53の活性量とアポトーシス活性を現在解析中であり、突然変異の除去機構について考察を行う。
著者
大津山 彰 岡崎 龍史 法村 俊之
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第50回大会
巻号頁・発行日
pp.35, 2007 (Released:2007-10-20)

p53遺伝子野生マウスでは、p53依存ならびに非依存性修復能により損傷DNAの修復が行われ、修復不能損傷はp53依存アポトーシスによって細胞ごと排除され、放射線催奇形の実験では低線量放射線(LDR)域でほぼ完全に奇形発生が抑えられる。一方p53遺伝子KOマウスではp53非依存性の修復しか働かず、LDR照射であっても奇形発生は完全に押さえられない。このp53による生体防御機構の一端は放射線での奇形発生のみならず、発がんにも関与すると考えられる。もし野生マウスで、LDR照射でがんが発生せず、KOマウスで高率に生じるとすれば、放射線発がんで常に問題となるしきい値存在の有無がこの機構によって解釈できる。p53遺伝子が野生、ヘテロ、KOマウスの背部皮膚を円盤型β線線源(15Gy/min.)で週3回反復照射をマウスの生涯に渡り行った。実験群は各マウス1 回当り照射線量2.5Gy群と5.0Gy群とした。発生した腫瘍は組織学検査ならびに、DNA抽出後p53遺伝子についてSSCPによる突然変異とLOHの解析を行った。KOマウスでは生存期間内に腫瘍の発生はなかった。ヘテロマウスでは2.5Gy群で8/21、5.0Gy群で25/45の腫瘍発生がみられ、野生マウスでは2.5Gy群で8/22、5.0Gy群で6/33の腫瘍発生がみられ発がん開始時期もヘテロマウスより約150日遅れた。ヘテロマウスの腫瘍のうち14/23例でLOHがみられたが、突然変異はなかった。野生マウスでは7/9例に突然変異がみられ、LOHは3/9例にみられた。p53遺伝子の存在状態は明らかに放射線による発がん率と発生時期に影響し、放射線で生じる変異の型がp53遺伝子の存在状態によって異なることが理由であると考えられた。
著者
槌田 謙 久木原 博 柳原 啓見 小松 賢志
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第49回大会
巻号頁・発行日
pp.158, 2006 (Released:2007-03-13)

DNA鎖間架橋 (Interstrand cross-links : ICLs)はDNA二本鎖がDNA架橋剤によって架橋された構造のDNA損傷であり,転写,複製,組み換えを阻害する。我々は真核生物のICL修復機構の解明を目的にICLの高感度定量法(Psoralen-PEO-biotin excision assay: PPBE法)を開発し,様々なDNA修復遺伝子欠損細胞でのICL除去速度を測定した。正常細胞は細胞当たり2500個のICLを24, 48時間後でそれぞれ77, 93%除去した。この除去反応はDNA複製の阻害によって低下することからICL修復はDNA複製時に行われることが示唆された。DNA架橋剤感受性を示すファンコニ貧血細胞であるFA-G,-A相補性群細胞では正常細胞と比べICL除去速度に有意な低下が見られた。一方,FA-D2相補性群細胞ではICL除去速度は正常細胞とほぼ同じであったことからFA-D2タンパク質はICL除去には関与しないことが示された。相同組換え(HR)関連遺伝子欠損細胞はDNA架橋剤感受性を示すがICL除去速度は正常であったことからHRはICL除去後の修復に関わることが示唆された。さらに損傷乗り越えDNA合成(TLS)に関与するREV3の欠損細胞ではICL除去速度が低下することからTLSがICL除去に関与することが示唆された。
著者
高畠 貴志 柿沼 志津子 廣内 篤久 中村 正子 藤川 勝義 西村 まゆみ 小木曽 洋一 島田 義也 田中 公夫
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第50回大会
巻号頁・発行日
pp.153, 2007 (Released:2007-10-20)

放射線誘発胸腺リンパ腫は、放射線発がんメカニズムの解析だけでなく、発がん感受性に影響する遺伝的要因についての研究にも有用なモデル実験系である。我々は、放射線誘発胸腺リンパ腫を誘発しやすいC57BL/6系統、誘発しにくいC3H系統、およびこれらを親とし比較的誘発しやすいC3B6F1系統とB6C3F1系統で放射線誘発した胸腺リンパ腫を対象として、DNAコピー数の異常をゲノム網羅的にアレイCGH法で解析した。胸腺リンパ腫発症に関与することが知られているIkarosやBcl11bなどの遺伝子座での変異や15番染色体のトリソミー以外に、5番染色体、10番染色体、16番染色体での異常が系統依存的に高頻度であること、および、14番染色体のトリソミーが系統によらず高頻度であることを見出した。さらに、T細胞受容体ベーター遺伝子領域の2つの対立遺伝子で共に遺伝子再構成が生じている頻度は、C3H系統でのリンパ腫より、C57BL/6系統でのリンパ腫で高頻度に検出された。このことから、C57BL/6系統では異常なV(D)J組換えを起こしやすいためにリンパ腫を誘発しやすい、という可能性が示唆された。また、C3B6F1系統やB6C3F1系統でのリンパ腫における、これら各種異常の頻度や染色体上での異常頻発領域の分布は、C57BL/6系統で誘発されたリンパ腫についての結果と似ていた。さらに、F1系統での腫瘍についてのヘテロ接合性消失の解析と合わせると、IkarosやBcl11b遺伝子座でのヘテロ接合性消失は主として欠失型異常により生じ、他方Cdkn2やPten遺伝子座では主として片親性ダイソミーにより生じると示唆された。これらの結果は、放射線によりリンパ腫が誘発される際に変異が蓄積される機構や、放射線により胸腺リンパ腫を誘発しやすい系統と誘発し難い系統が存在することの原因を知る上で重要な知見となる。本研究は青森県からの受託事業により得られた成果の一部である。
著者
甘崎 佳子 柿沼 志津子 古渡 礼恵 山内 一己 西村 まゆみ 今岡 達彦 有吉 健太郎 渡邊 正己 島田 義也
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第50回大会
巻号頁・発行日
pp.167, 2007 (Released:2007-10-20)

【目的】放射線照射によって生じる長寿命ラジカルは、培養細胞の系において遅延型の点突然変異を誘発し細胞をがん化させるが、放射線照射後にビタミンC(VC)を添加すると突然変異頻度が低下し、がん化が抑制されることが報告されている。しかし、放射線発がんにおける長寿命ラジカルの関与について、動物を用いて検証した報告は少ない。そこで本研究では、マウスの放射線誘発胸腺リンパ腫(TL)の系を用いて、放射線照射後にVCを投与した場合のTL発生率とがん関連遺伝子の変異パターンを解析し、放射線誘発TL発生における長寿命ラジカルの関与について明らかにすることを目的とした。 【材料と方法】4週齢B6C3F1マウス(雌)に、X線1.4 Gyを1週間間隔で4回照射しTLを誘発した。VCは生体内半減期の長い誘導体Sodium-L-ascorbyl-2 phosphate(共立薬科大学小林静子先生より供与)を100mg/kg腹空投与した。実験群は、1) X線単独(X線)、2) X線照射直後に毎回VC投与(X+VC)、3) X線照射直後に毎回VCを投与しさらに継続して毎週1回(3ヶ月間)VC投与(X+VC継続)の3群を設定し、各群における照射後生存日数とTLの発生率を調べた。また、放射線誘発TLにおいて変異パターンが明らかとなっているがん抑制遺伝子Ikarosの遺伝子発現、点突然変異およびタンパクの発現を解析した。 【結果】照射後の生存日数は、X線群と比較してX+ VC群ではやや短くなる傾向を示したが、X+VC継続群では長くなった。また生後400日におけるTLの発生率もX+VC継続群で若干低下した。さらに、Ikarosの変異解析の結果、X+VC継続群ではIkaros遺伝子の点突然変異が認められなかった。以上の結果から、マウスの放射線誘発TL発生に長寿命ラジカルが関与している可能性があることが示唆された。
著者
渡邉 正己
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第49回大会
巻号頁・発行日
pp.65, 2006 (Released:2007-03-13)

放射線による細胞がん化の第一標的は、DNAであると信じられてきた。しかし、そのことを直接的に証明する結果はない。我々は、これまでシリアンハムスター(SHE)細胞を用いた細胞がん化実験系を用いて放射線による細胞がん化誘導機構を追跡し、グレイあたりの細胞がん化頻度が平均的な体細胞突然変異頻度の500~1,000倍高いことを報告してきた。このことは、細胞がん化が複数の突然変異の集積で生ずるという“多段階突然変異説”と矛盾するものである。 我々は、この矛盾を解決するためにSHE細胞を用いて細胞がん化に関連する細胞内標的を探索したが、その結果、高密度培養や放射線被ばくによって細胞内酸化度が昂進し、それに伴ってセントロメアあるいはセントロゾームの構造異常を生じることがわかった。それらの細胞集団では、染色体構造異常は起こらないが染色体異数化が高頻度に見られる。 これらの結果は、放射線による細胞がん化の主たる標的はDNAではなく、セントロメアあるいはセントロゾームなどの染色体安定性維持機構を構成するタンパク質である可能性を示唆している。
著者
古澤 之裕 藤原 美定 趙 慶利 田渕 圭章 高橋 昭久 大西 武雄 近藤 隆
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第53回大会
巻号頁・発行日
pp.118, 2010 (Released:2010-12-01)

目的:超音波は現代医療において診断のみでなく,がん治療にも用いられている.一定強度以上の超音波を細胞に照射することで,キャビテーションによる細胞死を引き起こすことが観察されてきた. 細胞死誘発の作用機所の一つとしてDNA損傷が考えられており,これまでチミン塩基損傷やDNAの一本鎖切断の生成が認められ,超音波照射後に発生するフリーラジカル,残存する過酸化水素の関与が報告されている.放射線や抗がん剤は,DNAを標的として細胞死を引き起こすことが知られており,損傷の種類,損傷誘発・修復機構等多数の報告がなされているが,超音波に関する知見は非常に限定的で依然不明な点が多い.本研究では,超音波により誘発されるDNA損傷と修復について検討を行った. 方法:ヒトリンパ腫細胞株に、周波数1 MHz、PRF 100 Hz、DF 10%の条件で超音波照射した。陽性対照としてX線照射した細胞を用いた.DNA損傷を中性コメット法,gammaH2AX特異的抗体を用いて検討した.また修復タンパクの核局在を免疫染色法にて検討した.ヒドロキシラジカルの産生をスピン捕捉法にて、細胞内活性酸素をフローサイトメトリーにて検討した。DNA損傷応答経路の阻害剤としてKu55933、Nu7026を適宜用いた. 結果:超音波が放射線と同様、照射強度・時間依存的にgammaH2AXを誘導し,コメットアッセイにおいてもDNA損傷が検出された。修復タンパクの核局在が同時に観察され,照射後時間経過による損傷の修復が確認された.キャビテーションを抑制すると超音波によるgammaH2AXは観察されず、細胞死も有意に抑制された。一方で細胞内外のROSの産生を抑制しても,gammaH2AXの有意な抑制は観察されなかった。超音波によるgammaH2AXはKu55933単独処理のみならず,Nu7026の単独処理によっても抑制された. 結論:超音波がキャビテーション作用によりDNA二本鎖切断を引き起こすことが明らかとなった.また,超音波によってもDNA損傷の修復シグナルの活性化が起こり,DNA-PKが重要な役割を担っていることが予想される.
著者
井尻 憲一
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第50回大会
巻号頁・発行日
pp.20, 2007 (Released:2007-10-20)

多くの遺伝子の発現が微小重力(無重力)で変化することは宇宙実験で示されている。転写の上昇が認められる遺伝子があると思えば、抑制される遺伝子もある。このような遺伝子発現の変化は、細胞骨格の状態変化と結びつけて説明される。これまでに報告されたデータの紹介とともに、宇宙放射線によるDNA損傷がどうなるかについても議論したい。
著者
加藤 真介 小林 純也
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第53回大会
巻号頁・発行日
pp.59, 2010 (Released:2010-12-01)

低線量放射線は、MAPキナーゼ系の活性化やNO合成酵素(NOS)の誘導など細胞内情報伝達系に影響を与える可能性を有するが、詳細は不明である。一方、神経成長因子(NGF)は、末梢神経系に作用し、その軸索伸長を促す生理活性物質である。この因子の細胞内情報伝達経路の詳細は完全には解明されていないものの、その作用発現にはMAPキナーゼ系の持続的活性化を要すること、およびNOを介した経路が関与する可能性があることなどが報告されている。上記を考え合わせると、低線量放射線照射がMAPキナーゼ系の活性およびNO産生に影響を及ぼすことで、NGF誘導の神経軸索伸長を促進する可能性が想起される。そこで、神経分化のモデル細胞として知られるPC12細胞を用いて、低線量放射線のNGF誘導神経軸索伸長に及ぼす影響について検討を行った。 PC12細胞を低線量率γ線の持続的照射下でNGF刺激し、神経軸索伸長の程度を解析するとともに、関連タンパク質の発現をウエスタンブロッティングにより観察した。NGFによるMAPキナーゼ系の活性化は、照射群においてさらなる亢進が一時的に認められたものの、その後は抑制され、NGFシグナルの低下が起きていると考えられた。実際、NGFによる神経軸索伸長は、照射群においてわずかではあるが低下していた。この現象におけるNOの関与を調べるために誘導型NOSの発現を観察したところ、その発現上昇が認められた。さらに、照射による軸索伸長抑制は、NOスカベンジャーおよびNOS阻害剤によって抑制された。以上のことより、低線量の放射線照射は、予想に反し、NOの産生を介してNGF誘導の神経軸索伸長を抑制するものと考えられた。放射線感受性の低い神経系細胞におけるこのような発想の研究はほとんどなく、本知見は、低線量放射線の神経系に対する影響を検討する上で有意義な情報を提供するものと考える。
著者
飯島 健太 奥平 准之 石坂 幸人
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第53回大会
巻号頁・発行日
pp.129, 2010 (Released:2010-12-01)

ヒトゲノム中には動き回りえる遺伝子(トランスポゾン)が約45%存在している。中でもLINE-1(Long interspersed nucleotide element-1)は全ゲノムの17%ほどを占めており、現在でも100コピー程度のLINE-1はレトロトランスポジション能を有している。LINE-1のゲノムへのランダムな挿入は直接的に遺伝子の変異をもたらすことに加えて、細胞内の遺伝子発現プロファイルを変化させることが報告されていることから、LINE-1と発がんとの関連が強く示唆されている。 近年の研究で、LINE-1のレトロトランスポジションが放射線などのDNA損傷により誘導されることが明らかにされており、この現象はDNA損傷応答において中心的な役割を果たすATMの活性に依存していることが示されている。 本研究ではLINE-1のレトロトランスポジションを測定できるレポーターの系とエンドヌクレアーゼによるDNA二重鎖切断(DSB)誘導系を組み合わせることにより、DSBが直接的にLINE-1レトロトランスポジションを誘導することを明らかにした。また、DSBにより誘導されるLINE-1の挿入個所の指向性に関して考察したい。 また現在ATMによるレトロトランスポジション制御機構についての解析を進めており、LINE-1タンパクがATMリン酸化タンパクと相互作用することが示唆された。放射線照射後に誘導される細胞形質変化・染色体不安定性とLINE-1のレトロトランスポジションとの関連性について議論したい。
著者
古谷 真衣子 小野 哲也 小村 潤一郎 上原 芳彦 地元 佑輔 仲田 栄子 高井 良尋 大澤 郁朗
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第53回大会
巻号頁・発行日
pp.310, 2010 (Released:2010-12-01)

放射線はさまざまなラジカルを生成させるが、その中でも細胞障害の主な原因となるのは水の分解に伴うOHラジカルであることが知られ、しかもそれはSH剤によって捕獲されることが分かっている。他方、最近細胞内で生じるさまざまな活性酸素のうちOHラジカルだけが水素分子によって特異的に除去されることが示されている(Nature Med 13 (6) 688-694 (2007))。そこで我々はこの水素分子が放射線障害を軽減化する活性がないかどうかについて検討してみた。 [材料と方法] 8週齢のC57BL/6J、雌マウスを用いて2%の水素ガスを1時間吸わせた後同じ水素ガス存在下で8Gy及び12GyのX線全身照射を行い生存日数を調べた。X線は0.72Gy/minの線量率。また水素ガスに1時間曝露後普通の空気吸引にもどし、1時間あるいは6時間経た後で放射線を照射し、生存率を調べた。 [結果と考察] 水素ガス投与によって8Gy照射後の平均生存日数は10日から17日へと有意に増加し(p=0.0010)、12Gy照射でも増加傾向がみられた。これらは骨髄幹細胞や腸のクリプト幹細胞に対し水素ガスが防護効果を持つことを示している。さらに水素ガス吸引の効果は吸引を止めた後1時間及び6時間後では明白に減弱していることも分かった。 これらの結果は水素ガスが新しい放射線防護剤として有用であることを示唆すると同時に、水素分子がOHラジカルと反応し得ることも示唆するものである。 現在、水素ガスの効果が細胞レベル、DNAレベルでも観察されるものかどうかについて検討している。
著者
笹野 仲史 榎本 敦 細井 義夫 白石 憲史郎 宮川 清 勝村 庸介 中川 恵一
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第50回大会
巻号頁・発行日
pp.233, 2007 (Released:2007-10-20)

エダラボン(商品名:ラジカット)はフリーラジカルスカベンジャーとして知られており、脳梗塞の治療薬として臨床的に広く使われている薬剤である。今回の我々の実験では、エダラボンの放射線照射後のMOLT-4細胞のアポトーシスに与える影響をin vitroで研究した。アポトーシスについては、色素排除試験、Annexin_V_-PI染色、caspaseの分割により解析した。エダラボンにより、X線照射によるアポトーシスが有意に抑制されることが分かった。細胞内フリーラジカルをCM-H2-DCFDAにより、解析した。細胞内フリーラジカルの産生量は、照射によりほぼ完全に抑制されていることが分かった。p53の蓄積、リン酸化およびp21WAF1の発現は、エダラボンにより抑制されていることが分かった。以上より、フリーラジカルスカベンジャーのエダラボンは、p53経路の抑制を介して、MOLT-4の照射によるアポトーシスを抑制していることが分かった。
著者
西村 義一 武田 志乃 金 煕善
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第49回大会
巻号頁・発行日
pp.301, 2006 (Released:2007-03-13)

【目的】ラクトフェリン(LF)は「牛乳の赤いタンパク質」として、スウェーデンで発見され、ヒトを含む哺乳類の乳、分泌液、成熟好中球の顆粒などに含まれる分子量約8万のタンパク質で、2~3個のシアル酸からなる糖鎖を持っている。LFは血液中の鉄蛋白であるトランスフェリンと同様、Fe3+を二個分子内にキレートする性質がある。先の学会で LF添加飼料で飼育したマウスにX線を全身すると照射後30日目の生存率はLF給餌群で85%、対象群で62%とLF給餌群で放射線抵抗性が観察された。またLFはヒドキシラジカルに対するラジカルスカベンジャーであり、放射線防護剤としての利用が期待できることを示した。一方、放射線照射後、腹腔内投与することで放射線防護効果のある物質が報告されているが、そのメカニズム等、詳細については明らかにされていない。今回はマウスX線全身照射後のLFの放射線防護効果に関する実験を行い、興味深い知見が得られたので報告する。【方法】8週齢のC3H/Heマウス、52匹に6.8Gy のX線を全身照射した後、半数のマウスにはLF4mg/匹を腹腔内投与した。投与後、マウスには完全精製飼料を与え、30日間の生存率を観察した。また、脾臓細胞のアポトーシスなどについても観察を行った。【結果】C3H/Heマウスに6.8Gy全身照射後、LFを腹腔内投与すると、LF投与群ではほとんど死亡せず、照射後30日目の生存率は92%であったのに対し、対照群では50%であった。また、マウスにX線を全身照射後、1, 2 ,4 hr後にLF腹腔内投与すると、脾臓細胞のアポトーシスと骨髄細胞の損傷を抑制した。一方、腹腔内マクロファージュについては有意な変化は認められなかった。
著者
藤波 直人 古賀 妙子 森嶋 彌重 早田 勇 中村 清一 菅原 努 ZAKERI Farideh
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第49回大会
巻号頁・発行日
pp.115, 2006 (Released:2007-03-13)

低線量放射線の健康影響調査の一環として、ラムサール高自然放射線地域住民の外部被ばく線量調査を行った。2005年に2回、高自然放射線地域(Talesh Mahalleh)の住民15名と対照地域(Katalom)の住民10名に電子式個人線量計を1日間携帯してもらい、その間の積算線量を調べた。また、NaI(Tl)サーベイメータを用いて屋内外の線量率を測定し、居住係数を用いて積算線量を推定し、実測値との比較・検討を行った。さらに、同じ住民にOSLバッジを約1箇月間携帯してもらい、その間の積算線量を調べた。 2回行った電子式個人線量計から得られた線量には良好な相関が認められ、これらの実測値と屋内外の線量率からの推定値の間にも良い相関が認められた。したがって、電子式線量計によって得られた1日間の積算線量は妥当であると考えられる。 しかし、OSL線量計バッジによる1箇月間の測定から得られた線量には、電子式個人線量計から得られた線量や、屋内外の線量率から推定した線量とは大きく異なる値が認められた。これは、線量計を長期間常に身に付けるのは非常に煩わしく、着替え・脱衣等の際に外され、部屋の片隅に置かれたままになったことが原因と考えられる。Ramsarの高自然放射線地域では、自然放射性核種濃度の高い建材が住居のどの部分に使用されているかで、屋内の線量率は不規則に大きく変化するため、線量計が置かれてしまった場所によって、結果が大きく変動することになる。 したがって、屋内外の線量率の測定と行動パターンの聴き取り調査による推定値で確認を行えば、感度の良い電子式線量計による1日間程度の測定を季節毎に複数回実施する方が、長期間の測定を行うよりも信頼できる個人線量が得られる可能性がある。
著者
田内 広 和久 弘幸 屋良 早香 松本 英悟 岩田 佳之 笠井(江口) 清美 古澤 佳也 小松 賢志 立花 章
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第53回大会
巻号頁・発行日
pp.79, 2010 (Released:2010-12-01)

高LET放射線に特異な生物現象として、体細胞突然変異や細胞癌化において線量率が非常に低くなると逆に生物影響が大きくなるという逆線量率効果が知られている。この現象は1978年にHillらによって初めて報告されたものであるが、その原因はいまだに明らかになっていない。我々は、マウスL5178Y細胞のHPRT欠損突然変異における核分裂中性子の逆線量率効果が、低線量率照射による細胞周期構成の変化と、G2/M期細胞が中性子誘発突然変異に高感受性であることに起因することを報告し、さらに放医研HIMACの炭素イオンビーム(290 MeV/u)を用いて同様の実験をおこなって、放射線の粒子種ではなくLETそのものがG2/M期細胞の突然変異感受性に大きな影響を与えていることを明らかにした。また、各細胞周期において異なるLETによって誘発された突然変異体のHprt遺伝子座を解析した結果、G2/M期細胞が高LETで照射された時に大きな欠失が増加することがわかり、G2/M期被ばくではDNA損傷修復機構がLETによって変化していることが示唆された。さらに、正常ヒトX染色体を移入したHPRT欠損ハムスター細胞を用いた突然変異の高感度検出系を開発し、総線量を減らすことによってHIMACのような限られたマシンタイムでの低線量率照射実験を可能にした。実際、この系を用いてLET 13.3 KeV/μmと66 KeV/μmの炭素イオンビーム(290 MeV/u)で突然変異の線量率依存性を比較した結果、66 KeV/μmで明らかな逆線量率効果が認められたのに対して13.3 KeV/μmでは逆線量率効果は認められなかった。これらのことから、高LET放射線による逆線量率効果は低線量照射による細胞周期の部分同調とG2/M期における高LET放射線損傷に対する修復機構の変化に起因していると考えられる。
著者
冨田 雅典 小林 純也 野村 崇治 松本 義久 内海 博司
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第54回大会
巻号頁・発行日
pp.43, 2011 (Released:2011-12-20)

線量率効果は、線量率が低くなると、総線量は同じでも、生物効果が低くなる現象であり、長い照射時間の間に亜致死損傷の回復が起こるためであると古くから考えられている。しかしながら、低線量率放射線照射下におけるDNA2重鎖切断(DSB)修復の分子機構は、いまだに十分解明されていない。高等真核生物では、DSBは非相同末端結合(NHEJ)と相同組換え(HR)により修復される。我々は、さまざまなDSB修復遺伝子欠損細胞を用いて、線量率効果におけるDSB修復機構の役割について検討を進めている。NHEJに関与するKU70、HRに関与するRAD54、およびKU70とRAD54をともに欠損したニワトリDT40細胞を用い、γ線連続照射に対する影響を解析した結果、低線量率域でもっとも高い感受性を示した細胞はKU70-/-細胞であった。この要因を広い線量率範囲で解析するために、京都大学放射線生物研究センターの低線量長期放射線照射装置を用いて重点領域研究を開始した。これまでの研究から、0.1 Gy/hのγ線照射下において、RAD54-/-、RAD54-/-KU70-/-細胞と比較して、KU70-/-細胞ではより顕著なG2 arrestが起こり、その後アポトーシスが生じることを明らかにした。今後、線量率を下げて変化を解析する予定である。 また、NHEJに関与するDNA-PKcsを欠損したヒト脳腫瘍細胞を用い、低線量率照射後の細胞生存率を解析した結果、照射開始後ある一定レベルまで低下した後は、照射を継続してもそれ以上変化しないことが明らかになった。この結果は、低線量率放射線の生体影響を考える場合、細胞のターンオーバーが重要な要因となることを示している。 低線量率放射線の組織への影響を考える場合、幹細胞への傷害の蓄積性が問題となる。特にdormantな幹細胞では、NHEJが重要な役割を担うと考えられ、NHEJを欠損したマウスの造血系幹細胞が加齢に伴い枯渇することも報告されている (Nijnik et al. 2007、他)。細胞での結果をもとに、低線量率放射線の生体組織影響におけるDNA修復機構の重要性について議論したい。