著者
廣瀬 英子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.343-355, 1998-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
98
被引用文献数
8 3

本論文はこれまでの進路に関する自己効力の研究を取り上げた展望論文である。自己効力理論を進路関連の領域に応用したキャリア・セルフエフィカシー研究はHackett & Betz (1981) が女性の進路発達を理解するために自己効力理論からアプローチしたことに始まった。その後研究の関心は進路選択に対する自己効力, 進路選択過程に対する自己効力, 進路適応に対する自己効力の三分野に向けられてきた。進路選択に対する自己効力とは, 自分の進路選択についてどのような分野に対してどの程度自信を持つかを指す。初期の頃は男性中心の職業・女性中心の職業に対する自己効力の性差を論じていたが, 最近ではHollandやKuderなどの職業興味理論に基づいた興味分類に対応した形での自己効力の測定と, 関連する要因とのつながりの研究に発展している。進路選択過程に対する自己効力とは, 進路を選択していく過程そのものについての自己効力を指し, Taylor & Betz (1983) に代表されるいくつかの尺度が開発され, また進路不決断など他の要因との関連が注目されている。進路適応に対する自己効力とは, 選択した職業に適応し満足や成功を得ることについての自己効力であり, まだあまり研究が蓄積されていないが, 進路決定後の適応状況を予測できるという意味で重要である。今後の課題としては, 新たにLent, Brown & Hackett (1994) の社会・認知的進路理論で提唱された, 職業興味・進路選択・進路に関わるパフォーマンスについての3モデルの実証的な検証を進めること, これまで用いられてきた様々な測定尺度を見直して信頼性・妥当性を検討すること, 性差の比較から個人差の比較へと重心を移すことなどがあげられる。さらに, 研究対象者の拡大や縦断的研究, 進路指導・進路カウンセリングでの自己効力理論の応用, 進路適応に対する自己効力の研究の充実が期待される。
著者
長南 浩人 井上 智義
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.413-421, 1998-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
17
被引用文献数
1 2

本研究は, ろう学校高等部の生徒の文章記憶に関して実験を行い, 特にリハーサルに利用する方略の効果について検討したものである。そして, その結果の分析を通して, 聴覚障害者の日本語指導を行う上での基礎的資料を提供することを目的とした。予備調査では, 自発的なリハーサル場面を設定して, どのような方略がリハーサルに利用されるのかを観察した。その結果,(1) 手話口形方略 (2) 口形方略 (3) 暗唱方略 (4) 音声方略の4種類の方略がリハーサルに利用されていることが分かった。このことから調査対象者は, 口話法による指導を受けてきたが, 自発的に手という方略も利用することが分かった。また, 予備調査の記憶成績に基づいて対象者を上位群と下位群に分け, 利用した方略について検討したところ, 両者が主として用いている方略に違いがある可能性を否定できなかった。つまり, 上位群は手話口形方略を利用するものが多い傾向にあった。そこで, 下位群に上位群が用いていた方略を使用させた場合, 記憶成績に向上が見られるのではないか, また, 両群とも予備調査で観察された他の方略を利用させた場合, 方略問の記憶成績に違いが見られるのかどうか検討する必要があると思われた。そこで, 予備調査で観察された4つのリハーサル方略を指示した記憶課題の実験を行った。その結果, 上位群は, どの方略を用いても再生成績に差は見られなかった。また, 下位群は, 手話口形方略を利用したリハーサルを行った場合のみ, 上位群と差がなくなることが分かった。
著者
崎原 秀樹
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.212-220, 1998-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
18
被引用文献数
5 3

The purposes of this study were three-fold: first, to examine developmental trend of letter copying by preschool children. An attempt was made to evaluate the shape of letters in terms of segmentation/ construction. Second, this study aimed to examine the effects that might be caused by a difference of sex. The third purpose of this study was to see the relationship between the ability to form letters and visualmotor skills. The subjects were ninety 3-to-6 year old preschool children. Each subject was asked to copy six “Kana” letters and, at the same time, was individually given a Draw-A-Man Test. The main results were as follows: a) The developmental changes observed among the present subjects proceeded in the following order: (1) unintelligible,(2) miscellaneous,(3) proper segmentation,(4) proper segmentation as well as construction. b) No difference was seen due to children's sex, once they were able to respond to the letter writing tasks. c) A significant positive correlation was recognized between the developmental changes in letter forming and the visual-motor abilities.
著者
湯沢 正通
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.297-306, 1988-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
25
被引用文献数
2 1

In order to solve a problem in science or mathematics, it is generally thought necessary to remember the relevant rules and apply them to the problem correctly. Also, understanding the meaning of the problem situation is indispensable, and to do so a reasoning schema is used. Junior high school students solved problems of photosynthesis with different kinds of explanations. The explanations of the meaning of the problem situation were believed to improve students' problem-solving, and the result was interpreted as an evidence of the existence of the reasoning schema. Moreover it was shown that the reasoning shema was independent of the specific domains, and called up by recognizing what scene the problem was concerned with: for example, a making something from something scene. The implications of the above findings were discussed.
著者
豊田 秀樹
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.119-127, 1997-03-30 (Released:2012-12-11)
参考文献数
42
被引用文献数
4 2
著者
やまだ ようこ
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.146-161, 2000-03-30 (Released:2012-12-11)
参考文献数
90
被引用文献数
9 8

この論文では, 最近のライフストーリー研究を展望し, 特に生涯発達心理学の観点から, 理論的・方法的問題を論じる。第1に, 「物語」は「2つ以上の出来事をむすびつけて筋立てる行為」と定義される。人生の物語とは, 意味づける行為であり, 人生経験の組織化である。第2に, 人生の物語は, 静態的構造ではなく, 物語の語り手と聴き手によって共同生成されるダイナミックなプロセスとしてとらえられる。特に, 物語の「語り直し」は, 人生に新しい意味を生成する行為として重要だと考えられる。私たちは, 過去の出来事を変えることはできないが, 物語を語り直すことによって, 過去の出来事を再構成することが可能になるからである。第3に, 「物語としての自己」の概念は, アイデンティティやジェネラティヴィティ (生成世代性) の概念と関連づけられる。人生の物語を語ることは, 現世代から, 次の世代や未来世代へのコミュニケーションの重要な道具となる。
著者
速水 敏彦
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
no.50, pp.176-186, 2011
被引用文献数
1

ここでは現代の若者の心性を表現する概念として我々が創出した「仮想的有能感」に関する約 10 年間の研究を概観した。まず, この概念に関わる重要な3つの問題について触れた。第1に仮想的有能感に自尊感情を組みあわせ, 4つの有能感タイプをつくることで, 本来の概念規定により近似した個人の選択を可能にした。第2に本来無意識的な仮想的有能感は他者軽視の傾向を測るACS-2 によっているが, その尺度に潜在的自尊感情が反映されていることを潜在連合テストを使った研究で実証した。第3に仮想的有能感が若者だけのものなのかについても横断的研究により明らかにしようとした。<br> 他に様々な領域で展開した研究をまとめた。仮想的有能感の高い人の特徴として, (1)日常的に負の感情を持ちやすいこと, (2)負の対人感情を形成しやすいこと, (3)受容的な養育を受けず, 勤勉性も発達していないこと, (4)競争的ではあるが, 努力志向でなく, 学習を嫌うこと, (5)問題行動を生じやすいこと, (6)就労への意欲が希薄なこと, (7)外国と比較すればアメリカや韓国では仮想的有能感も自尊感情も我が国より高いこと, などが示された。最後に問題点や今後の研究の必要性について討論された。
著者
喜岡 恵子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.204-213, 1991-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

The purpose of this research was to estimate the difficulty levels of tasks in arithmetic calculations in order to investigate the optimum arrangement of the tasks for teaching. The six forms of tests were constructed so that each form should include items of the calculation tasks for each grade at the elementary school level, and they were administered to 2822 pupils. By means of the two-parameter logistic model, the item parameters were estimated for the 221 items contained in the six forms of tests. The rusults showed that the model was satisfactorily fitted to the data. Furthermore, inappropriateness of conventional order of calculation tasks in teaching was also discussed.
著者
内田 照久
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.63-72, 2012 (Released:2013-01-16)
参考文献数
47
被引用文献数
4 4

教育心理学領域の測定・評価に係わる研究について, 2010~2011年の動向を概括した。従前から続く傾向として, 心理尺度の作成に係わる研究が数多く進められた。しかし本年は, 心理学的な構成概念や測定尺度の過度の氾濫や過剰供給に対する危機感から, 尺度の妥当性の検証の必要性を訴えると共に, 具体的な検証方法を提案するセミナーや発表が多くなされたのが特徴的であった。また近年, 心理測定や教育評価, テスト理論の研究領域は, その発展に伴って細分化が進んでいる。試験やテストに関連した教育評価の研究は, 教育心理学会からテスト学会などに発表の場が移動しつつあるように見受けられた。そこではテスト理論や統計手法の開発, IT技術の活用などのテスト技術に関する研究が精力的に進められる一方, 社会で実際に運用され, 受験者の処遇を左右するテストや試験の場面で発生している具体的な問題に向き合い, その解決を目的とした研究も行なわれている。これらの研究は, 教育心理学の従来からの課題でもある研究と教育実践の社会的な繋がりを考える上で, 大切な方向性の1つを示すものと考えられる。
著者
角田 豊
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.193-200, 1994-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
16
被引用文献数
13 2

It is necessary for empathy not only to share feelings with another, but also to appreciate the individuality between oneself and an other person. The purpose of this study was to construct a questionnaire, Empathic Experience Scale Revised (EESR). Insufficient sharing experience (ISE) items in addition to sharing experience (SE) items were prepared, and 157 male and 145 female students were asked to answer those items together with LSO and Self-consciousness Scale. After factor analysis, the Scale of SE (10 items) and the Scale of ISE (10 items) were selected. Then the typology of empathy (Type double-dominant, Type dominant of SE, Type double-recessive, and Type dominant of ISE) was attempted. ANOVA by typology and sex on LSO-E (subscale of LSO) measuring the belief in individuality of human beings indicated that Type double-dominant differentiated oneself better from the other than Type dominant of SE. Consequently, the typology of empathy by EESR had a criterion-related validity while other results showed the characteristics of each type.
著者
太幡 直也
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.305-314, 2017 (Released:2017-09-29)
参考文献数
12
被引用文献数
7 10

太幡(2016)は, 大学生のチームワークを向上させるトレーニングを開発し, トレーニング終了直後にはトレーニングが有効であったことを示している。本研究では, 太幡(2016)のトレーニングの有効性が時間経過後に確認されるか否かを検証した。大学生に太幡(2016)のトレーニングを実施した。そして, トレーニング実施条件, 非実施条件の学生に, トレーニング終了から約9か月後に, 自己報告式の尺度に回答するように求めた。自己報告式の尺度で, 社会的スキルや, チームワーク能力の5つの構成要素(“コミュニケーション能力”, “チーム志向能力”, “バックアップ能力”, “モニタリング能力”, “リーダーシップ能力”)を測定した。その結果, トレーニング実施条件の方が非実施条件に比べ, 上記の多くの尺度について, 約9か月後の得点の上昇が大きかった。したがって, 太幡(2016)のトレーニングの有効性はある程度は時間経過後に確認されたと考えられる。
著者
山岸 明子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.163-172, 1998-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
29
被引用文献数
1

本研究の目的はセルマン理論に基づいて対人交渉方略 (INS) の質問紙を作成し, その発達的変化, 及びINSと学校での適応感との関連を, 性差からの観点を中心に検討することである。172名の小学4年生, 273名の6年生, 117名の中学3年生, 67名の大学生に対し質問紙調査が行われ, 対人的葛藤を解決するのに9種類のINSをどの位使うか, また学校での生活についてどう感じているかについて回答を求めた。主な結果は次の通り。1) INSのレベルに関しては, 女子の方が男子より進んでいた。2) 低レベルにおいては, 男子は他者変化志向, 女子は自己変化志向の得点が高かった。3) 男子ではINSレベルと学校での適応感との間に正の相関が見られ, セルマン理論に合致していた。その傾向は特に6年生で顕著だった。4) 女子では小6から中3にかけて, 他者変化志向の減少と自己変化志向の上昇が見られた。またINSレベルと適応感との関連は, 小6では男子と同様な関連が見られたのに対し, 中3では全く異なっていた。