著者
守屋 慶子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.26-32, 1970-03-31 (Released:2013-02-19)
参考文献数
8

非言語的認識から言語的認識への発達の過程で, 非言語的認識内容は言語的認識内容へ移行, すなわち言語化されてゆくが, 「言語化」ということの心理学的意味はどのようなものなのかという問題から出発して実験を行なった。作業仮説は以下のとおりである。(1) あるものに性質Qがないということの認識は「Qがない」という「言語化」によるQの「対象化」が行なわれないかぎり不可能である。(2×1) の仮説が正しいとすれば, 「対象化」としての「言語化」を外から行なつてやるとき, Qがないことの認識は可能になるはずである。(3) 認識主体とにつて「言語化」が「対象化」としての意味を獲得してゆく過程には一定の発達がみられる。実験の結果, 以上3つの仮説はいちおう検証された。さらに (3) の発達については以下のような段階がみられた。まず「言語化」が「対象化」としての意味をもちえず, 認識は外的な個々のものに直接依存している段階があり, このあと, 「言語化」が認識主体にとつて「対象化」の意味をもつ段階となるが, この段階にはその質のちがいによつて3つの段階が区別される。第I段階: 外からの言語化が対象化を可能にする段階第II段階:「対象化」そのものは外からの言語化を必要とするが, 同時に認識主体内部での「言語化」が, 外からの「言語化」によつて可能になる段階第II段階:識主体が外からの言語化を必要とせず, みずからの内で「言語化」が可能となる段階。この発達の過程は認識のさい必要とされる対象的行為の発達の過程と考えることができる。つまり対象的行為は, ものに対する直接的対象的行為から内言を介した対象的行為へと発達してゆくのである。
著者
角南 なおみ
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.323-339, 2013 (Released:2014-03-03)
参考文献数
41
被引用文献数
6 4

教師は日々, 子どもといかに関わればよいのかという点について模索しながら教育実践を行っている。だが, これまで介入が必要とされる問題場面での子どもとの関わりについて教師の視点から実践的意味を問い直し整理されることはほとんどなかった。そこで, 本研究は, 小学校教師34名に対し, 子どもに肯定的変化が見られた関わり経験について半構造化面接から得られた66データをグラウンデッド・セオリー・アプローチにより分析した。その結果, 【問題解決】【指導】【受容的関わり】【周囲への協力要請】【居場所と関係作り】の5つのカテゴリーが導出された。つぎに, 問題場面における教師の関わりの特徴を「教師主体の解決方略」「子ども主体の解決方略」「受容的関わり」の3種と関わりの場面を整理した。これらの分析結果をまとめ, 場面別の機能構造と問題の主体を仮定した仮説モデル1と, 時間の経過と問題の程度の連関を仮定して2次元配置した仮説モデル2を生成した。最後に, 教育現場での教師の指導と受容的関わりの相補的関与の可能性と, 子どもに肯定的変化を促す関わり要因について検討した。
著者
清水 健司 岡村 寿代
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.23-33, 2010 (Released:2012-03-27)
参考文献数
33
被引用文献数
5 4

本研究は, 対人恐怖心性-自己愛傾向2次元モデルにおける認知特性の検討を行うことを目的とした。認知特性指標は社会恐怖認知モデル(Clark & Wells, 1995)の偏った信念を参考に選定された。調査対象は大学生595名であり, 対人恐怖心性-自己愛傾向2次元モデル尺度短縮版(TSNS-S)に加えて, 認知特性指標である完全主義尺度・自己肯定感尺度・自己嫌悪感尺度・ネガティブな反すう尺度・不合理な信念尺度・自己関係づけ尺度についての質問紙調査が実施された。その結果, 分析1では各類型の特徴的な認知特性が明らかにされ, 適応・不適応的側面についての言及がなされた。そして, 分析2では2次元モデル全体から見た認知特性の検討を行った。特に森田(1953)が示した対人恐怖に該当すると思われる「誇大-過敏特性両向型」と, DSM診断基準に準じた社会恐怖に該当すると思われる「過敏特性優位型」に焦点を当てながら詳細な比較検討が行われた。
著者
伊藤 裕子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.247-254, 1998-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
24
被引用文献数
1

本研究は, ジェンダーに関する認知的な枠組みとしての性差観とジェンダーに関わる他の意識との関連を検討し, その関連から性差観のジェンダー・スキーマの測度としての構成概念妥当性を検証しようとするものである。747名の女子高校生と726名の男子高校生に, 性差観, 異性意識, 性役割指向性, 性差に対する自覚の経験, 性差の原因帰属を尋ねた。その結果, 性差観の弱いことは次のことと関係していた。(a) これまでの生育過程で内面的な特性について性差を意識した経験がほとんどない,(b) 異性への関心や異性からどのようにみられているかということへの関心が薄い,(c) 女性の職業や社会的地位における男性との差を社会の仕組みに帰属させる,(d) 性役割指向性はアンドロジニーないし異性に向いている。このように性差観の弱さはジェンダーに関する意識や事態の脱性別化と関係しており, 性差観の構成概念妥当性が検証された。
著者
吉崎 一人 河合 優年 内田 照久
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.95-103, 1994-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
24

Using a dichotic listening test, the effects of attention on the right-ear-advantage (REA) for word recognition in 4-6 year children was analyzed. In Experiment 1, ear differences for word recognition was measured under free recall condition. The results showed REA in all year groups and suggested that the degree of left hemisphere advantage for word recognition did not change over 4-6 year group. In Experiment 2, ear differences during attentional condition was measured with the same children as Exp. 1. Attention was manipulated by requiring children to report from left or right ear first. In 4-5 year group, REA was obtained in both left- and right-ear-first conditions, but REA was not obtained in left-ear-first condition in 5-6 year group. These suggested the difference of attentional effects on REA between two year groups. In Experiment 3, ear differences during both left- and right-ear-first conditions was re-examined, six months later, with 4-5 year group. The results showed that REA was obtained in right-ear-first condition, but ear difference was not observed in left-ear -first condition. These findings suggested the possible effects of attention on the dichotic REA for word recognition even in preschool children.
著者
高橋 あつ子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.103-112, 2002-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
18
被引用文献数
1 2

本研究の目的は, 自己肯定感を高めることをねらった実験授業プログラムを小学校の児童に実施し, その効果を自己意識と行動面から探ることであった。加えて, 自己を対象化する体験がネガティブに影響しないかどうかを吟味した。5年児童6学級206名のうち実験群4学級に4回の実験授業を行い, 前後と1ヶ月後に「Who am I?」による自己記述と各記述に対する感情評定・重要度評定をとり, その推移を統制群2学級と比較した。その結果, 実験授業を受けた児童は, 受けなかった児童より, 肯定的な記述が増え, 否定的な記述が減り, 肯定的な自己意識を高めたが, 行動面への影響は見いだせなかった。なお, 成功を内的に帰属しにくく, 失敗を内的に帰属しやすい帰属スタイルを持つ児童は, 自己意識を刺激する実験授業で, 最も慎重な配慮が必要と考えられるが, そのような帰属スタイルである自己卑下群において, 他者を拒否的にとらえる記述が有意に減少するなど, 意識面ではポジティブな変化が見られたが, 授業のみだと他者共生性が低下するなど行動面でネガティブな変化も見られた。
著者
深谷 達史 植阪 友理 太田 裕子 小泉 一弘 市川 伸一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.512-525, 2017 (Released:2018-02-21)
参考文献数
40
被引用文献数
1 5

近年の教育界では,基礎的な知識・技能の習得と活用に加え,自立的に学習を進める力として学習方略の習得が求められている。「教えて考えさせる授業」は,この両者の育成を目指したもので,(a)教師が意味理解を重視して基本事項を説明する,(b)ペア説明などで学んだことを生徒が確認する,(c)発展的事項を協同で解決する,(d)授業で学んだことをふり返るという4段階からなる。本研究では,研究授業や講演を含む,教えて考えさせる授業を中心とした算数の授業改善に取り組んだ公立小学校において,導入間もない1年目と導入から時間が経った2年目の比較を通じて,児童の学力と教師の指導がどう変わったかを検証した。全国学力・学習状況調査の結果,2年目の方が,算数A問題とB問題の成績が高く,算数Aの標準偏差が低かった。また,問題解決時の図表活用方略の使用を調べたところ,2年目の方が,図を使わずに不正解のケースが少ない一方,図を使って正解に至るケースが多かった。さらに,教師が指導案を作成する課題において,的確な働きかけを表す指導案得点が2年目の方が高い傾向が見られた。考察では,これらの成果を生んだ理由などを考察した。
著者
坂西 友秀
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.403-414, 1994-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
31

In a first study, teachers were asked to nominate the students who had either egoistic or altruistic charachteristics in their thinking and behavior in their everyday lives. The students chosen by the teachers completed the questionnaires concerning egoistic or altruistic thinking and behavior. The major findings were as follows; 1. Considerable discrepancies were found among the chosen students. 2. As for self-evaluation, the “egoistic students” considered themselves to be less egoistic than did the “altruistic” and “other students”. These results could be seen as reflecting the immaturity of the psycho-social skills of the egoistic students as compared to the altruistic students. The second study was carried out to prove the above assumption. Questionnaires about the social and psychological skill of the students were distributed to the teachers. After analysing the results, the assumption proved to he accurate. The results also indicated that it was more difficult for the teachers to discover the underlying causes behind the behaviors of “egoistic” students than those behind the “altruistic” students.
著者
小林 寛子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.149-166, 2019-03-30 (Released:2019-09-09)
参考文献数
107

科学技術の発展は目覚ましく,それに対応できる資質・能力を育むことは,自然科学を対象とする理科教育において喫緊の課題と言えよう。本稿は,理科教育が果たすべき役割について心理学の観点から検討しようとするものである。折しも,2017年3月に公示された学習指導要領,及び,それに先立って発表された中央教育審議会の答申には,心理学的観点が数多く含まれた。本稿では,そうした観点の1つである,学習者の立場で「何ができるようになるか」を考えるという点を取りあげ,心理学研究を概観する枠組みとして用いた。具体的には,学習者が学習の過程で抱える困難を明らかにする研究,及び,困難の克服を目指す指導法を提案し,その効果を検証しようとする研究に特に焦点をあてた。さらに,それらを,理科教育を通して「できるようになること」,すなわち,育成が目指される資質・能力の3つの柱(知識及び技能,科学的に探究する力,科学的に探究しようとする態度)ごとに整理して示した。そうしてまとめた研究の知見を受け,最後に,これからの理科教育と心理学研究における課題について論じた。