著者
柳原 茉美佳 嶋 大樹 齋藤 順一 川井 智理 熊野 宏昭
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.225-238, 2015-09-30 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
1

本研究の目的は、ACTが注目する三つの自己の体験を測定する尺度を作成し、探索的因子分析と共分散構造分析を行うことで、その尺度の信頼性と妥当性を検討すること、そして、三つの自己に含まれるさまざまな行動の機能の重なりや相違点に基づいてより妥当性の高い行動クラスを見いだすことであった。33項目からなる尺度の原案を作成し、首都圏の大学生を対象に調査を行った。探索的因子分析の結果、本尺度は【アクティブ】・【概念化】・【視点取り】・【今この瞬間】の4因子20項目から構成されることが示され、さらに共分散構造分析の結果も踏まえて、三つの自己の体験は二つの行動クラスを含むことが明らかになった。また、それぞれを下位尺度とした場合、十分な内的整合性と収束的妥当性が確認された。今後は、本尺度を用いてACTが介入対象とするほかの行動的プロセスや臨床症状との関連性を検討し、精神的苦痛を促進・緩和する自己の体験についての理解をより深めていく必要がある。
著者
志和 資朗 松田 俊 佐々木 実
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.75-86, 2004-09-30 (Released:2019-04-06)

本研究では、EMDRによって不快な記憶が脱感作されるかを、精神生理学的な指標であるP3を用いて検討した。本研究の被験者は41名(女性26名、男性15名)である。まず、重度に不快な記憶をもつ31名の大学生の被験者を3つの群に割り当てた;EMDR群(n=10)では不快な記憶を想起しながら眼球運動を行い、Image群(n=10)では視覚刺激を凝視しながら不快な記憶の想起を行い、 EM群(n=11)では眼球運動のみ行った。軽度に不快な記憶をもつ10名の大学生の被験者を低SUDS(主観的障害尺度)群に割り当て、軽度に不快な記憶を想起しながら眼球運動を行わせた。本実験では、不快な記憶に関連する人物の姓(関連刺激)を刺激に用いて脳波の測定を行った。脳波の測定回数は2回で、眼球運動あるいは視覚刺激を凝視した前後に行った。関連刺激に対して生起したP3の振幅を、眼球運動あるいは視覚刺激を凝視した前後で比較した。実験の結果、EMDR群のP3振幅が有意に低下していた。また、SUDSの値は、 EMDR群と低SUDS群で低下した。この結果は、 EMDRの有効性を示すものといえる。
著者
有園 正俊
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
pp.20-022, (Released:2021-11-22)
参考文献数
8

先行研究によると、児童期のマルトリートメント(childhood maltreatment; CM)を体験したことで、情動の調節が困難な特性をもつことや強迫症/強迫性障害(obsessive–compulsive disorder; OCD)の症状に潜在的に影響する可能性が示されている。本症例の患者は、CMを体験し、対人関係でストレスを感じても自分の意見を表現抑制する傾向があった。そして、成人になって職場でのストレスが強い出来事をきっかけに、他者への加害の強迫観念を抱くOCDを発症した。重症度が増し、自宅で一人のときは、ほとんど身動きしないでいた。自宅にいる患者に音声通話を主とした遠隔診療で認知行動療法を行った。この方法は、患者が強迫症状の現れる場所にいながら、治療者と課題をできるなどのメリットがあり、症状は改善した。本研究では、その患者のCM体験とパーソナリティ、OCDへの影響を検討した。
著者
小野 昌彦
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.61-71, 2003-03-31 (Released:2019-04-06)

水泳授業参加困難を契機とした小学6年生女子不登校Y(11歳)へ、再登校行動の形成および維持を目的として、専門機関の立場からおもに家庭、学校へ行動論的支援を実施した。その有効性と問題点を検討した。本事例は、不登校発現前の要因として、水泳のスキル不足が考えられた。そして、Yが水泳不参加の訴えをした時点で、親が学校を休ませる対応をしたことにより、不登校が誘発されたと考えられた。Yが家庭に滞留する行動は、祖母による世話やきといった強化刺激で維持されていると分析された。再登校行動形成のための行動論的支援は、Yへの水泳スキルの形成を目的として行われた。専門家からは、家族による話し合いの実施、家族によるYへの水泳指導、Yの訴えに対する親の対応の指導、担任のYの水泳授業参加援助への助言を実施した。援助期間は2か月間であった。面接4回、学校訪問1回、家族による水泳指導2回、担任による家庭訪問2回が実施された。結果、Yは再登校を開始し1年間登校行動が維持した。特定学校場面の回避による不登校事例の場合、その特定学校場面に関する綿密な行動アセスメントの必要性が示唆された。
著者
石原 辰男 佐田久 真貴 佐久間 徹
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.25-32, 2000-03-31 (Released:2019-04-06)

われわれは、自閉的行動をもつ幼児に対してフリーオペラント事態における指導を実施し、それに続いて机上の課題学習指導を導入した。絵カードの命名課題において呈示された絵カードの名前を言うことができないときに、その指導から逸脱する行動が認められた。そこで、Koege1(1995)に示唆を得て、わからないときに「これなに?」と質問するように指導した。今回われわれのとった手続きは、Kogel(1995)とは異なるものであったが、本児は質問行動を獲得し、指導から逸脱する行動は低減し、自発的な命名反応も増加した。さらに、フリーオペラント事態や日常の場面へも般化した。Koegelの手続きとわれわれのそれとを比較検討したところ、いずれの場合においても「これなに?」の質問が獲得されるためには、社会性強化子や他の自然強化子が有効に機能し、同時に物の名前を教えてもらって聞くことも強化機能を有する必要のあることが示唆された。
著者
竹林 由武 高垣 耕企 広瀬 慎一 大野 哲哉 小幡 昌志 川崎 友也 シールズ 久美 杉浦 義典 坂野 雄二
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.145-154, 2013-09-30 (Released:2019-04-06)

本研究の目的は、不安障害・大うつ病性障害の脆弱性と指摘されている「嫌悪的な事象に対するコントロールの知覚」を測定するAnxiety Control Questionnaire(ACQ)の日本語版を作成し、その妥当性を検討することであった。385名の大学生がACQ日本語版とそのほかの指標に回答した。探索的因子分析の結果、ACQ日本語版は「嫌悪的な刺激や状況に対するコントロールの知覚」と「不快な感情/身体感覚に対するコントロールの知覚」からなる2因子パタンであることが示された。ACQ日本語版は、高い内的整合性と再検査信頼性を示し、抑うつ・不安症状と負の相関、内的統制と正の相関があった。また、過剰な心配を統制した場合に、ACQ日本語版は不安症状との有意な負の相関を維持したが、抑うつ症状との相関は弱くなった。以上から、ACQ日本語版は、十分な信頼性と妥当性の一部をもつ尺度であることが明らかになった。
著者
竹田 伸也 井上 雅彦 金子 周平 南前 恵子
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.63-72, 2016-01-31 (Released:2019-04-27)

本研究の目的は、子どもに応じたアセスメントから対応まで実施できる認知行動療法プログラムを作成し、養護教諭のストレス反応や自己効力感に与える影響について検討することであった。19名の介入群と27名の統制群からなる46名の養護教諭を対象とした。介入群の養護教諭に対して、認知行動療法を応用した子どもの抱える問題のアセスメントと対応についての2時間からなるワークショップと90分からなるフォローアップ研修を実施した。その結果、本プログラムは子どもへの対応についての自己効力感を改善させることが示唆された。一方、無気力と一般性自己効力感は介入群と統制群双方で向上し、無気力以外のストレス反応は介入群と統制群双方で変化を認めなかった。
著者
佐藤 寛 嶋田 洋徳
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.31-44, 2006-03-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
1

本稿では、児童の抑うつに対する認知行動療法(CBT)に関する研究の動向を整理し、考察することを目的とした。本稿において、一定の割合の児童が抑うつの問題を示しており対応策の整備が急務であることと、抑うつを示す児童に対してはCBTの効果が実証されており、有効な治療法として期待できることが述べられた。また、解決されるべき課題として、(1)わが国の児童の抑うつに関する疫学的データが十分ではないこと、(2)臨床対象者に対するCBTの有効性を検討した研究は2編しか公刊されておらず、臨床対象者への効果についてはまだ明確ではないこと、(3)良好なデザインを用いた事例報告例がきわめて少ないこと、(4)プログラムの内容は成人向けのものをそのまま援用しており、理論的背景や介入としての効果を発達的観点から検証していく必要があること、(5)治療効果に作用する要因を特定し、その機能を明らかにする必要があること、といった点が議論された。
著者
国里 愛彦 高垣 耕企 岡島 義 中島 俊 石川 信一 金井 嘉宏 岡本 泰昌 坂野 雄二 山脇 成人
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.21-31, 2011

本研究は、環境中の報酬知覚について測定する自己記入式尺度の EnvironmentalReward Observation Scale (EROS) 日本語版を作成し、信頼性と妥当性の検討を行うことを目的とした。大学生と専門 学校生を対象に調査を行い、414名(男性269名、女性145名;平均年齢18.89±0.93歳)を解析対象 とした。探索的・確認的因子分析の結果、日本語版EROSは1因子構造を示した。信頼性において、 日本語版EROSは十分な内的整合性と再検査信頼性を示した。項目反応理論による検討を行った結果、 広範囲な特性値において測定精度の高いことが示された。日本語版EROSは、抑うつ・不安症状や行 動抑制傾向との負の相関、行動賦活傾向と正の相関を示した。不安症状を統制した場合、日本語版 EROSはアンヘドニア症状との相関が最も強い値を示した。以上より、日本版EROSの構成概念妥当 性が確認された。
著者
武井 優子 尾形 明子 小澤 美和 盛武 浩 平井 啓 真部 淳 鈴木 伸一
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.23-33, 2013-01-31 (Released:2019-04-06)
参考文献数
19

本研究の目的は、小児がん患者の病気に対するとらえ方の特徴と、それらが患者の心理社会的問題や適応とどのような関連があるのかを検討することであった。小児科外来通院中の21名の小児がん患者を対象に半構造化面接を実施し、病気に対するとらえ方と退院後の生活における困難について聴取した。また、健康関連QOL尺度(Peds-QL)を測定した。Fisherの直接確率検定の結果、退院後の生活で経験する困難が病気のとらえ方に影響を及ぼしている可能性が示唆された。また、重回帰分析の結果、前向きなとらえ方がQOLに正の影響を、後ろ向きなとらえ方やあきらめの姿勢が負の影響を及ぼす様相が示唆されたが、統計的には有意ではなかった。今後は、対象者数を増やし、量的検討を実施していく必要がある。
著者
石川 信一 坂野 雄二
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.71-84, 2005-03-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
1

本研究の目的は、不安症状を示す児童に対する認知行動療法(CBT)プログラムの開発と、不安症状を示す児童への介入報告である。CBTプログラムは全8セッションで、(1)心理的問題の教育、(2)感情の整理、(3)認知の導入、(4)(5)認知的再体制化、(6)不安階層表の作成、(7)(8)エクスポージャー、からなる。CBTプログラムの特徴として、認知の誤りを測定、改善するといった点において、アセスメントと介入方法が連動していることが挙げられる。対象者は、14歳の不安症状を抱える男児であった。CBTプログラム適応の結果、介入終結時だけでなく、1か月後、2か月後フォローアップ時においても不安症状、認知の誤りの改善がみられた。注目すべき点として、認知の誤りの改善が不安症状の改善に先行したことが挙げられる。つまり、本研究の結果から、不安症状には不安を示す児童の認知が影響していること、不安症状の改善には認知の変容が必要不可欠であることが示唆された。
著者
陳 峻雲 坂野 雄二 貝谷 久宣 野村 忍
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.1-13, 2002-03-31 (Released:2019-04-06)

本研究は、地域の心理相談室において、広場恐怖を伴うパニック障害(PDA)に対する集団認知行動療法(CBGT)プログラムの効果を検討することを目的とした。プログラムは基礎編、準備編、実践編IとII、および2か月後のフォローアップから成り立っており、セミナー形式で行われた。対象者は東京近郊にあるW大学の心理相談室が主催したセミナーに参加した女性10名であった。プログラムの効果を検討したところ、CBGTは参加者の回避行動と主観的不安の改善、および生理的覚醒といったパニック障害の一次的症状の改善に有効であることが明らかにされた。また、それらの改善はセミナー終了後にも引き続いていたことから、本プログラムは参加者のセルフ・コントロール能力の向上にも効果的'であった。本研究の結果から、CBGTプログラムは患者の生活環境に密着した地域の心理相談室といった場におけるパニック障害の治療にも効果的であることが示唆された。
著者
若澤 友行 田村 典久 永谷 貴子 牧野 恵里 面本 麻里 寺井 アレックス大道 大月 友
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.91-103, 2011-05-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
3

本研究の目的は、2名の自閉症スペクトラム障害をもつ児童・生徒を対象に、社会的スキル訓練を行い、その効果に対する社会的妥当性を検討することであった。当該児童・生徒の行動アセスメントは、訓練機関において彼らの学校における問題行動の文脈と関連した場面を設けて行った。行動アセスメントの結果に基づいて標的行動を選定した後、訓練機関にて社会的スキル訓練を実施した。社会的妥当性の評価は母親と教師が行った。社会的スキル訓練の結果、訓練機関および学校における当該児童・生徒の行動の改善が示唆された。社会的妥当性の評価では、標的行動の選定と訓練手続きに関して母親と教師は肯定的な評価を示したが、訓練効果に対しては両者で異なる結果が示された。訓練機関における訓練効果の社会的妥当性を高めるためには、評価者が当該児童・生徒の主訴に関して、どのような場面でどのような行動を問題にしているのかを詳細にアセスメントすることの重要性が示唆された。
著者
野田 航 石塚 祐香 石川 菜津美 宮崎 優 山本 淳一
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
pp.20-019, (Released:2021-06-21)
参考文献数
17

本研究の目的は、発達障害のある児童2名の漢字の読みに対して刺激ペアリング手続きによる遠隔地学習支援を実施し、その効果と社会的妥当性について検討することであった。事例Iにおいてはタブレット端末による刺激ペアリング手続きの教材を用いた自律的な学習をビデオ通話およびメールで遠隔地学習支援を行い、事例IIにおいてはビデオ通話を用いて教材提示から評価までをすべて遠隔で実施した。両事例とも、課題間多層プローブデザインを用いて介入効果を検証した結果、漢字単語の読みの正答率が向上した。また、対象児と保護者を対象に実施した社会的妥当性のインタビューから、本研究の遠隔地学習支援は高く評価されていた。一方で、事例Iにおいては介入効果の維持に一部課題が残った。介入効果を維持させるための介入手続きの改善、介入効果の般化の検討、介入実行度の検討など、今後の課題について考察した。