著者
浅沼 信治 臼田 誠 安藤 満 松島 松翠 渡辺 俊一 近藤 武 田村 憲治 櫻井 四郎 陳 雪青
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.124-131, 1999-07-20 (Released:2011-08-11)
被引用文献数
1 1

石炭燃焼に由来するフッ素症を調査するため, 日中共同研究を行った。研究は1994年から5年計画で, 日本農村医学会のメンバーと中国衛生部予防医学科学院との問で, 屋内フッ素汚染の調査と健康影響に関する共同研究として実施した。大規模な中国現地調査期間は1995年から1997年の3年間である。調査地域は, 汚染のない対照地域1か所と汚染地域2か所の3地域である。いずれも飲料水にはフッ素汚染のない地域である。調査は, フッ素暴露集団における健康状態を把握し, フッ素症発生と健康状態を検討することを目的に, 屋内外大気汚染濃度の測定と, 小学生高学年50人, 中学生50人, その親100人, 患者50人をそれぞれの地域で選び, 尿中フッ素濃度の測定, 尿中成分分析, 歯牙フッ素症と骨フッ素症の確定診断を実施した。その結果, 水のフッ素汚染がない地域で, 石炭燃焼に由来するフッ素症発症の確認がされた。しかも, その発症は, 石炭燃焼によって汚染された屋内大気中フッ素を直接吸入することによるものではなく, 屋内大気で汚染された穀物の摂取によるものであった。フッ素は石炭だけでなく, 火力調整用に混ぜられる土壌にも多く含まれ, 汚染に大きく寄与していた。汚染の代表的な作物は唐辛子, トウモロコシ, ジャガイモであった。また, 汚染地区住民の尿中にフッ素が大量に検出された。
著者
吉村 隆 北山 秋雄
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.548-561, 2018-01-31 (Released:2018-03-13)
参考文献数
48
被引用文献数
1

近年,様々な分野で注目されているソーシャル・キャピタルの概念に注目し,地域特性に配慮した質問紙を用いて量的な調査を行なうことで,中山間地域のソーシャル・キャピタルを探究した。質問紙の項目は,個人の属性10項目,ソーシャル・キャピタルに関連する36項目から構成されている。この質問紙を中山間地域と都市部に居住する40歳以上の男女682名(中山間地域342名,都市部340名)に配布し,記入漏れや記入ミスがない427名が分析の対象となった。分析の結果,ソーシャル・キャピタルに関連する36項目のうち,29項目で中山間地域が有意に高い値を示した。また,因子分析の結果,先行研究で示された因子構造は再現されず,都市部では「近所関係の質」「地域への愛着」「信頼感」「自然との共生」の4因子が抽出された。中山間地域においては,顔の見える親密な人間関係があることが地縁活動への参加を促していると推測され,その背景には自然との相互作用によって形成された中山間地域特有の生活様式があると考えられた。また,中山間地域のソーシャル・キャピタルが,親密性が高い性質を持っているという本研究結果は先行研究を支持するものであった。中山間地域においては,自然環境要因がソーシャル・キャピタルに関連している可能性があると推測された。
著者
鈴木 和広 加藤 活大 西村 大作 鈴木 夏生 矢口 豊久 池内 政弘 神谷 泰隆 平松 武幸 水野 志朗 三宅 隆
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集
巻号頁・発行日
vol.55, pp.275, 2006

<b><緒言></b> 愛知県厚生連では、傘下9病院の医局長が幹事となって、愛知県厚生連医師会が運営されている。毎年、幹事会で決定された活動テーマに沿って各病院から現状報告と問題提起がなされ、幹事会での議論を経て、医師会総会で幹事会活動報告としてその総括がされている。2003年度の活動テーマは「救急医療」と決定されたが、これは、今後ますます救急医療に対する地域からの要請が高まり、その重要性が増すであろうことから、各病院の現状を把握の上、病院間で情報を交換し、それぞれの救急体制の整備に役立てることが目的であった。<BR><b><方法></b> 各病院の幹事を通じて、2002年度の救急来院患者数、救急車搬入数、救急入院患者数などの統計および人員配置と教育体制に関してアンケート調査を行った。さらに、各病院が抱える問題点を列挙し、幹事会で報告の後、対策について議論を交わした。<BR> 救急来院患者数などの各統計量については、Mann-WhitneyのU検定を用いて解析を行った。<BR><b><結果></b> 9病院全体で、年間約16万名の救急患者を診療し、2万3千台以上の救急車を受け入れていた。施設数では県全体の3.6%に当たる病院群が、出動救急車の10%強に応需している計算となった。救急来院患者の7.4%が入院を必要としており、全入院患者の1.05%を占めていた。立地別に見ると、都市型に分類される病院群のほうが郡部型に分類されたそれらよりも、救急来院患者数、救急車搬入数および救急入院患者数が有意に多かった。配置人員については、診療時間内は多くの病院が各科での対応となっており、研修医を含めた医師および看護師が、救急外来に常駐している施設は少数であった。休日の日直体制での平均配置人数は医師が3.1名、看護師が3.2名であり、当直では、それぞれ3.1名と2.9名であった。教育については、定期的な講習会、講演会あるいは症例検討会が行われている施設は少数であった。問題点として、もっとも重視されたのは人員不足であり、医師、看護師のみならず、診療協助部門、事務部門の各部門でも、多数の救急患者への対応には職員数が十分でないとの指摘がされた。<BR><b><考察></b> 立地条件による差異はあるが、各病院ともその規模に応じた救急患者の受け入れを行っており、愛知県下の病院群のなかでも救急医療への寄与は大きいと考えられた。しかし、人的資源の不足および救急医療の質の確保が問題点としてあげられており、救急医療向上のためには、職員の啓蒙のみならず、厚生連の病院間あるいは地域の医療機関の間での取り組みが必要になると思われた。
著者
坂本 由美子 坂田 由美 坂本 一俊 川崎 いち恵 栗又 真奈美 宮本 和典
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集
巻号頁・発行日
vol.59, pp.179, 2010

<はじめに>当院は病床数900床の三次救急を行なう地域の中核病院である。救命救急センター、NICU等を有し24時間365日救急患者を受け入れている。1ヶ月間の救急車搬入人数は約650人。臨床検査部は総勢55名。緊急検査室は日勤5名(輸血部兼任)、日直帯3名、宿直帯2名(24時間勤務)で対応している。<BR><現状>三次救急病院のため即診断に結び付けられるように当検査室では多数の項目を実施し、日直時には機器の精度管理やメンテナンスも行なっている。当直は技師全員のローテーションで行なうが専門分野化された日常業務とは異なり全ての分野を1人で行わなければならず、さらに夜間の救急車搬入数や検体数も年々増加しているため負担はかなり大きい。そのため新採用者、特に新卒者は不慣れな面が多いためスムース゛に当直業務が行なえるよう半年間緊急検査室で研修する。夜間医師からの問い合わせが多い質問等はイントラネットの検査部ホームヘ゜ーシ゛に掲載しいつでも閲覧できるようにしている。また故障時対処マニュアルの変更点やインシテ゛ント対処法等をその都度伝達している。新人に限らず申し出があれば随時緊急検査や輸血検査のトレーニンク゛を行い、当直の不安を取り除くよう努めている。その他困った時には日勤担当者に電話をして指示を仰いだり、対処不能と判断すれば日勤担当者が病院に駆けつけるようにしている。<BR><まとめ>転勤者や新採用者にとって短期間の研修で当直に入るという事はかなり負担が大きい。新人が1日も早く業務に慣れるよう集中的に緊急・輸血検査を研修することで負担を軽減したい。自然災害などの非常事態の状態でもミスを未然に防げるような工夫をし、誰が実施しても早くて正確な結果を臨床に報告できる緊急検査室を構築していきたい。
著者
深見 沙織 中村 崇仁 柳田 勝康 山田 慎悟 重村 隼人 伊藤 美香利 岩田 弘幸 朱宮 哲明 西村 直子 尾崎 隆男
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.96-103, 2011-07-30
参考文献数
12

近年わが国では,食生活の変化に伴い子どもにおける肥満や生活習慣病の増加が起こっている。その解決策として,食育が必要と考えられている。この度われわれは,入院中の子どもとその保護者を対象に,食事を提供する医療従事者の立場で次のような食育の取り組みを開始した。栄養バランスが良く,子どもたちが好き嫌いなく食べられるように工夫した「お子様ランチ」という新メニューを創った。古来の季節行事の日の「お子様ランチ」には,わが国の季節に応じた食文化の紹介文を添えた。保護者に対して,食育の意義,献立に使用した食品の栄養素の解説,レシピ等を記載したパンフレットを週1回定期的に配布した。<br> また,この取り組みを評価するため,保護者に対し毎週1回アンケート調査を行なった。開始後3か月間のアンケート結果 (n=215,回収率87%) では,「お子様ランチ」の献立内容,盛付け,子どもの反応,パンフレットの内容の4項目全てで,「よい」という回答が過半数を占めた。食育に興味があるとの回答は93%であり,保護者の食育に対する関心は高かった。一方,子どもが好む食材のみを使用する傾向,外食が多い傾向等,食育上の問題点が見出された。<br> 入院期間中という短期間の取り組みであるが,保護者に子どもの食育を考える機会を提供できたと考える。今後もこの取り組みを継続し,子どもたちの食育に生かしていきたい。
著者
藤原 秀臣 田中 千博 後藤 昌計 合屋 雅彦 雨宮 浩 家坂 義人
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.857-863, 1999-03-30 (Released:2011-08-11)
参考文献数
11

冠危険因子には食事などの生活習慣因子や環境因子などに起因する後天的可変因子と年齢や性, 遺伝的素因などの先天的固定因子がある。一般に急性心筋梗塞の発症にはこれら冠危険因子や社会環境因子が複雑に関与していることから, その臨床的背景, 臨床像は男女間で異なるとされている。そこで, 急性心筋梗塞を発症して当院に収容され, 緊急冠動脈造影を施行し得た連続500例 (男性390例, 女性110例) の患者背景, 冠動脈造影所見, 臨床像, 臨床経過等について男女間で比較検討した。心筋梗塞の発症は男性が60歳代にピークがあるのに比し, 女性では70歳代がピークであった。冠危険因子では, 喫煙は男性に多かったが高血圧, 高脂血症, 糖尿病ともに女性に多かった。冠動脈造影所見は病変枝数, 病変部位に差はなく, 緊急PTCA頻度にも差はなかった。臨床経過では, 心破裂が女性に多く, 特に高齢女性の予後は男性に比し不良であった。女性の心筋梗塞は閉経期以後に急増するが, これは脂質代謝と関連するエストロゲンが関与していると考えられている。高齢女性の予後が悪いのは, 高齢のために冠危険因子を複数有し, 臓器合併症が多いこと, 病院到着時間が長いことなどと関連していることが示唆された。高齢女性の急性心筋梗塞の診療にあたっては, これら臨床的背景に充分留意すべきであると考えられた。
著者
青木 一雄
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌
巻号頁・発行日
vol.66, no.6, 2018

I would like to begin our discussion of rural medicine by considering rural medicine from the perspective of public health and hygiene and discuss the role of rural medicine as social medicine in relation to public health, referring to the views and efforts of doctors who worked to support the Japanese Association of Rural Medicine from its early days. The Japanese Association of Rural Medicine was founded in 1952 and the first president, Dr. Toshikazu Wakatsuki, consistently argued the need to unify treatment and prevention if we truly want to improve health and medical care for farmers in rural areas, but that conventional medicine has become highly specialized and lacks a comprehensive perspective. Dr. Wakatsuki stressed that addressing these problems requires actions from a social point of view to achieve integration of medical practice and recognition that rural medicine should be social medicine by definition. Even in those days, his argument underscored the fact that rural medicine was essentially public health. Also, his thinking clearly complied with the World Health Organization's definition of public health with minor modifications by, for example, replacing the original terms with more field-specific terms such as "communities" with "farming villages and rural areas", "residents" with occupational fields, and "workers" with "farmers". It has also been suggested that the essence of public health medicine is public health-minded professionals, as opposed to clinically-minded clinicians. Clinicians are primarily clinically and patient-oriented, while public health professionals are public health and population-oriented, focusing on communities and societies rather than on individual patients. These features of public health are also consistent with Dr. Wakatsuki's view of rural medicine. I firmly believe that Dr. Wakatsuki rightly acknowledged public health and hygiene as the origin of rural medicine. <br> As a second major topic, next we discuss how, in the midst of rapidly changing infrastructure and socioeconomic environments, the research findings, knowledge, and skills developed and accumulated by the pioneers in rural medicine can be effectively applied to advance rural medicine further. For this, we need to take a broader perspective and discard today's inter- and intra-regional disparities in health and medical care. We need to confirm the true purpose and fundamental role of rural medicine and apply information and communication technology (ICT) in the field of social welfare, including health, medical, and nursing care. It is expected that ICT will enable us take new quantum leaps forward, and it is not an overstatement that the use of ICT holds the key to addressing various problems simultaneously, such as the quantity of health, medical, and nursing care (e.g., regional disparities in medical resources including manpower and medical devices) and its quality (e.g., regional and inter-institutional disparities in medical technology). To address disparities in the quantity and quality of medical care, we need to overcome these various inter- and intra-organizational challenges through close co ordination between the government, companies, and medical institutions. As stated earlier, ICT is a major tool to more easily overcome these challenges, enabling data sharing between the government, hospitals and clinics, insurance providers, and individual healthcare professionals. The efficient and effective use of ICT in healthcare, medicine, and social welfare in farming villages and rural areas is expected to provide solutions to various problems associated with rural medicine in different fields, guiding us to the next chapter of rural medicine.
著者
岩船 貴子
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第59回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.210, 2010 (Released:2010-12-01)

昨年度A病院において、出産数396件のうち96件の里帰り分娩があった。お母さん方からは1ヶ月健診後、実家から自宅に戻り身近な相談相手がいなくなることで育児に対する不安が増大するという声が多く聞かれた。そこで、1ヶ月間で自信を持って楽しく育児を行えるように個々の抱えている問題に適切な支援をしていく必要性があると考える。 平成17年度、A病院において褥婦に行った退院後の母乳育児に関する調査で「退院してから一番母乳のことが心配だが、気軽に相談できる場所がない」という意見が多くあり、平成18年8月から退院後の電話訪問を開始した。しかし、電話だけでは状況が分かりにくく適切な指導が出来ないと感じる事が多く、直接褥婦に接し会話を通じて適切な援助を行えるように、平成21年6月に産褥助産外来(以下産褥外来とする)を開設した。 開設から翌年の3月までの出産件数326件のうち産褥外来、受診件数は88名であった。助産師の指導方法は、時間を掛け実際の授乳場面や乳房を観察し母乳不足に対する不安の対処や家庭での生活についてのアドバイスを行った。その後の、産褥外来を受診した褥婦の聞き取り調査で、「母乳や育児に対する不安があり助産師さんからアドバイスして貰う事で不安を解消でき、育児のストレスが発散出来た。」など気分転換の場になっていることがわかった。産褥外来での関わりが精神的な安定に繋がりその後の母子関係の確立に有効に働いていると思われる。
著者
大塚 隆信
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第60回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.5, 2011 (Released:2012-02-13)

日本においては平均寿命が延び,急速に高齢化社会が到来している。男性のほぼ5人に1人,女性の4人に1人が高齢者である。それにともなって介護を必要とする要支援・要介護者は約450万人と増えている。その原因として「関節疾患」「転倒・骨折」などの「運動器」の障害が20%を超えている。ロコモティブシンドロームという言葉は日本語で「運動器症候群」と訳され『ロコモ』という通称が使用されている。運動器の障害により日常生活での自立度が低下し,要介護の状態や要介護の危険のある状態をいう。これは運動器のことをロコモティブオルガン(locomotive organ)ということから派生している。またロコ モティブには「機関車」という意味もあり人生を機関車のようにアクティブに生きようという意味が込められている。 ロコモティブシンドロームの徴候・症状 関節や背部の痛み,関節や脊柱の変形,関節や脊椎の可動域制限,下肢・体幹の筋力低下,バランス能力の低下がポイントとしてあげられる。 日常生活でチェックすべき項目 1.家のやや重い仕事が困難である。 2.家の中でつまずいたり滑ったりする。 3.15分くらい続けて歩けない。 4.横断歩道を青信号で渡りきれない。 5.階段を上がるのに手すりが必要である。 6.片脚立ちで靴下がはけない。 7.2kg程度の買い物をして持ち帰るのが困難である。 ロコモティブシンドロームの判定基準 1)開眼片脚起立時間:15秒未満 2)3m Timed up and go test:11秒以上 運動機能低下をきたす疾患 脊椎圧迫骨折及び各種脊柱変形(亀背,高度脊柱後弯・側弯),下肢の骨折(大腿骨頚部骨折など),骨粗鬆症,下肢の変形性関節症(股関節,膝関節など),脊柱管狭窄症,脊髄障害,神経・筋疾患,関節リウマチおよび各種関節炎,下肢切断,長期臥床後の運動器廃用,高頻度転倒者 予防と治療・ロコモーショントレイニング ロコモ対策の基本は運動器局所の治療と歩行機能の維持改善の2本立てである。 これらの項目の解説と運動機能低下をきたす主なる疾患(骨粗鬆症,下肢の変形性関節症,脊柱管狭窄症)の診断・治療などについて述べる。 参考文献: 日本整形外科学会編;ロコモティブシンドローム診療ガイド2010,文光堂
著者
國井 享奈 野村 智美 高山 裕子 世良 喜子
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.27-37, 2017
被引用文献数
1

看護師としてメンタルヘルスに不調を感じたときの心身の状況とその時の具体的な出来事を明らかにすることである。A 病院に勤務する全看護師204人に対し質問紙調査を行なった。調査内容は, 1 )個人属性, 2 )看護師がメンタルヘルスに不調を感じたときの心身の状況, 3 )看護師の仕事上のメンタルヘルスに不調を感じた具体的な出来事の自由記載である。Krippendorff の内容分析を参考にして163名の有効回答を分析対象とした。看護師がメンタルヘルスに不調を感じたときの心身の状況は,ひどく疲れた77.3%,だるい62%,不眠,憂うつだ,何をするのも面倒だ,が半数以上の回答であった。メンタルヘルスに不調を感じた出来事の具体的な状況, 1 .労働環境に関わる状況81件は, 1 )時間外勤務, 2 )業務内容がストレス, 3 )夜勤回数, 4 )新しい環境にストレス, 5 )仕事上のミス, 6 )配置への不安, 7 )業務への不安, 8 )とれない公休・有給休暇, 9 )育児との両立,10)役割過重,11)自信喪失,12)ストレスの場面のフラッシュバック,13)トラウマ,14)看護質が低いに分類された。2 .人間関係に関わる状況35件は,15)上司がストレス,16)同僚がストレス,17)先輩の態度,18)先輩がストレス,19)上司の暴言,20)医師の言動,21)患者に陰性感情,22)産休後の部署の変化,23)同僚の暴言,24)先輩の暴言,25)同僚師長の職務放棄,26)後輩の態度,27)他職種との連携,28)スタッフへの指導であった。対人関係より労働環境の記述が多かった。
著者
藤原 秀臣 田谷 利光 徳永 毅 雨宮 浩 家坂 義人 川田 健一
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.958-963, 1994-11-30 (Released:2011-08-11)
参考文献数
10

農業は, 近年各分野での機械化が進んできたとはいえ, 依然筋肉労働を主体とした産業のひとつである。土浦市は全国有数のれんこん生産地であるが, れんこん収穫労働は冬期には泥水田に腰まで浸かって掘り取り作業が行われ, 寒冷という外的因子に加えて強い筋肉労働を伴うため労働負担とくに循環器負担が大きいと考えられている。そこで, れんこん収穫作業中の循環諸指標を労働現場で測定し, 循環器負担の様相について検討した。対象は, れんこん生産農業者18例で, 男性11例, 女性7例, 年齢は41~66歳 (平均56.7歳) である。測定実施日前1週間以内に健康チェックと嫌気性代謝閾値 (AT) 測定を行い, 測定当日には, Holter心電図を装着し, 作業現場において, 血圧, 心拍数, 血液酸素飽和度, 12誘導心電図の測定を施行した。その結果, 心拍数は作業中, 有意に上昇したが全例で予測最大心拍数以下であり, 作業直後には前値に復していた。血圧, 二重積, 血液酸素飽和度とも作業前後で有意な変動は認めなかった。また, 労働において心電図上の虚血性変化はみられなかった。男女の比較では, 女性に作業直後に血圧はむしろ低下し, 二重積の上昇の程度も低い傾向がみられた。しかし60歳以上の2例では, 作業直後の血圧上昇, 不整脈がみられた。以上のことより, れんこん収穫労働は, 循環諸指標に著明な変動を惹起せず, 循環器負担は軽度であったが, 60歳以上の高齢者については充分な健康管理が必要であると考えられた。