著者
冨士井 睦
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.107-113, 2015 (Released:2015-08-13)
参考文献数
20

〔目的〕頭部外傷による錐体骨骨折後に, 遅発性顔面神経麻痺 (delayed facial palsy: DFP) を発症することがある。今回, 我々は顔面神経麻痺出現時に用いられるHouse-Brackmann grading system (HBS) に基づいた重症度とDFPの改善に要した期間との関連を後ろ向きに検討した。 〔対象と方法〕頭部外傷による錐体骨骨折282例のうちDFPを認めたのは33例であった。DFPの経過観察中に医学・美容上問題のないHBSⅡへ改善した時点を治癒とした。33例のDFPのうち最重症でもHBSⅡであった3例と顔面神経開放術を行なったHBSⅤの1例を除いた29例に対し, 麻痺の重症度とDFPの改善までの期間についてlog rank検定にて統計学的に検討した。 〔結果〕HBSⅤの重度群 (n=7) はHBSⅢ, Ⅳの中等度群 (n=22) に比べ統計学的有意に治癒期間が延長した (p=0.02)。後者は全例治癒に至り, 治癒に至るまでの中央値は50日, 前者では1年の経過観察後も2例で顔面神経麻痺は継続し, 治癒に至った5例の治癒に至るまでの日数の中央値は93日であった。 〔結語〕DFPはHBSによって予後予測が可能である事が示唆された。またDFPでもHBSⅤに至れば顔面神経麻痺を後遺する可能性がある。
著者
緒方 久美 服部 朝子 杉浦 真希 森脇 典子
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第56回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.116, 2007 (Released:2007-12-01)

〈緒言〉昨今、硝子体・黄班円孔の眼科手術において、SF6ガス及びairの浮力を利用し網膜の復位を目的に、術後3~7日間頭部安静をはかるために、腹臥位の保持が必要とされている。上記目的を受け、当病棟でも、眼科手術後はうつ伏せ枕(以下フェイスピローとする)を使用し安静保持に努めてきた。しかし、患者からは「息苦しい」「胸苦しい」「額の圧迫感がある」など苦痛の訴えが多く、安静保持の方法に問題を感じた。その為、看護師がうつ伏せ寝の実体験をすることで、患者の苦痛を実感した。そこで今回、フェイスピローの問題点を明確にし、改良型枕の作成と安楽物品の活用により、眼科手術後の安楽な体位を検討した為、ここに報告する。〈方法〉1)フェイスピロー(高さ7_cm_)使用後の意識調査 (対象:当病棟看護師11名、女性21~50歳、BMI18~23)2)フェイスピローによるうつ伏せ寝の場合の体圧測定(PREDIA 簡易体圧、ズレ測定器を使用)測定部位:額部、胸骨、右乳房、左乳房、腹臍高の5ヶ所で実施3)測定部位ごとに、夜勤の仮眠時間80分に1回ずつ体験する4)ベッドは患者と同じベッドを使用(パラマウントベッド KA―4150、マットレス KE-303厚さ80mm)5)改良型枕は従来の枕(フェイスピロー)の下に、通気目的のため網(30×40cm)をとりつけ、口元にあたる部分を一部カット、そこに籠を2つ結束帯で固定し高さ(籠の高さ6_cm_)を調整。また額部の圧迫を少なくするため、U字型(枕の厚さ6_cm_)で、スノービーズを入れた枕(以下U字型ビーズ枕とする)を使用。さらに、胸部にもU字型ビーズ枕(枕の厚さ9_cm_)を使用6)改良型枕とU字型ビーズ枕(額・胸部2ヶ所)の使用後、意識調査〈結果〉フェイスピローでは、息苦しさ、額部の圧迫感、胸部の圧迫感の順に苦痛があった。また、うつ伏せ寝ができたのは11名中10名、寝ることができたのは11名中3名であった。その理由としては「フェイスピローでは、頭の重さで枕が圧縮し、顔面がシーツについてしまい苦しかった」や、形はU字型を呈しているが「型くずれすることで口元が開き、顔が沈むために息苦しくなり眠れなかった」であった。改善点として、枕の高さ調整や、額への圧迫感の軽減が必要という意見があった。 改良型枕では11名中9名が使用感は、適当であり息苦しさなどの自覚症状はなかった。 改良型枕と安楽物品使用後に寝ることができたと自覚し、うつぶせ寝ができた時間は、15分以内2名、15~45分以内4名、45分以上5名であった。改良前後のうつぶせ寝には、苦痛の程度、体圧測定値、時間に差があった。〈考察〉フェイスピローの高さの調節による除圧と網と籠の工夫による通気性を考慮したこと、型崩れによる顔の沈みを軽減することで、息苦しさや圧迫による苦痛の軽減が図れたと考えられる。さらに、安楽物品として、額部・胸部にU字型ビーズ枕を使用することで「圧の分散」ができ自覚症状の軽減が図れたと考えられる。以上のことから、改良型枕とU字型ビーズ枕は、眼科手術後の安静保持における安楽な体位には有効であると考えられる。手術後の安静保持は、治療の効果を高め早期回復を促すためには不可欠である。今回の研究結果を日々の看護実践に活かし、今後も研鑽を積んでいきたいと思う。

1 0 0 0 OA 農夫症の研究

著者
松島 松翠 寺島 重信 磯村 孝二 市川 英彦 横山 孝子 大柴 弘子 井出 秀郷 萩原 篤 清水 博昭 白岩 智恵子
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.135-144, 1969-03-01 (Released:2011-02-17)

長野県南佐久郡八千穂村の三部落から, 40才代及び50才代の男女113名を選び, 2年間にわたって農夫症々候群を中心に追跡調査を行なった。そのうち4回全部検診及び調査のできた81例について, 次のような結果を得た。1) 労働時間は男に比べて女に多く, かつ逆に睡眠時間は女の万に短かい, とくに40才代にかいて著明である。あきらかに女の万が過労状態であるといえる。また疲労の自覚症状や一般的健康状況, 検査結果, 有病率なども一般に女の万に悪い。即ち女の万が健康障害が多い。2) 農夫症総点数は, 一般に40才代より50才代が, 又, 男より女に多く, 農繁期に増加している。最近2年間の経過では, 男女とも増加しているが, 女の万が増加率が高い。3) 農夫症総点数は, 耕地面積 (一人当り) の多いほど, また乳卵摂取量の少ないほど高い。4) 農夫症総点数は, 疲労の自覚症状 (とくに身体的症状)、有病率と著明に相関している。また諸検査結果 (血圧, 血液, 肝機能等), 心電図, 胃レ線, 腰部レ線結果による異常と若干の相関が認められる。5) 以上の点から, 農夫症は慢性疲労状態, 不健康状態, 疾病状態を表わす一つの健康示標であるといえる。これを減らしていくためには, 農家の生活及び農業全般の根本的な改善がなされなければならない。
著者
三宅 範明 宮本 忠幸
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第59回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.299, 2010 (Released:2010-12-01)

<緒言> 高度な医原的尿道下裂(iatrogenic hypospadia)を2例を経験したので報告する。 <症例提示> 症例1: 78歳、男性 既往症:脳梗塞、認知症。現病歴:某介護老人保健施設に入所中。2008年7月より排尿障害のためバルーンカテーテルが留置されていた。2009年11月30日カテーテルによる”尿道損傷”のため当院紹介となり受診。尿道腹側は陰茎根部近傍まで“切開”され尿道粘膜が露出しており医原的尿道下裂と判断。12月10日に膀胱瘻を作成し、バルーンカテーテルは抜去した。膀胱瘻の交換は紹介医に依頼。 症例2:83歳、男性 既往症:脳梗塞(1996年、2007年)、認知症、高血圧。現病歴:某介護老人保健施設に2007年4月より入所中。バルーンカテーテル挿入時期は不明。2010年1月13日、誤嚥性肺炎の疑いで当院内科に紹介となり同日入院。1月14日、“尿道口の位置異常”のため当科紹介となる。外尿道口は陰茎根部まで“後退”し、尿道粘膜が露出していた。医原的尿道下裂と診断するも全身状態を考慮し積極的処置は実施せず経過観察とした。 <考察> 定義:尿道に(長期間)留置されたカテーテルにより尿道、陰茎皮膚が裂け、尿道口が後退した状況。発生機序:カテーテルの不適切な固定、牽引による尿道腹側の持続的な圧迫。報告例:Inoueらの報告によれば、彼らの経験例を含め23例が現在までに報告されている。対応策:膀胱瘻への変更が最も高頻度になされており以下、カテーテル留置続行、尿道再建術実施の順である。予防方法:カテーテル留置が必要な場合でも可及的に短期間とし固定方法に留意する。カテーテル留置が長期となる場合には膀胱瘻への変更を考慮する。 <結論> 尿道カテーテル留置の際には本疾患の発生の危険性を念頭に置くべきである。
著者
高野 慎也 平間 紀子 長島 敏代 須藤 礼子
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第60回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.446, 2011 (Released:2012-02-13)

〈はじめに〉ナースコール(以下NCと略す)が頻回に鳴り、業務が進まないことがある。また、忙しい業務のためNCに十分対応できていない現状がある。その結果、患者が看護師に対して不信感・不満感を抱くケースは少なくないと考えられる。看護師がNCについてどのような認識をもち、使用しているかを明らかにするために研究に取り組んだので報告する。 〈研究方法〉期間:2010年7月~10月 対象:病棟看護師24名 データ収集法:選択・一部記述式のアンケート調査 内容1.NCの果たす役割 2.NCの考え方について データ分析法:アンケートは単純集計、自由記載はカテゴリー化した 倫理的側面の配慮:研究内容を説明、理解・同意を得た 〈結果〉回収率は100%であった。NCの果たす役割は、23名(96%)が患者や家族が看護師を呼ぶ手段であると回答した。「NCはコミュニケーションパターンの一つであるか」は「はい」11名(46%)、「いいえ」9名(37%)、「どちらでもない」4名(17%)。「NCは看護業務を効率良くするか」は「はい」14名(58%)、「いいえ」5名(21%)、「どちらでもない」5名(21%)。「NCは患者のニードを満たすか」は「はい」20名(83%)、「いいえ」1名(4%)、「どちらでもない」3名(13%)。「NCが無くてもニードを満たす看護はできるか」は「はい」7名(29%)、「いいえ」8名(33%)、「どちらでもない」9名(38%)。「NCを使用せずに行動できるか」は「はい」7名(29%)、「いいえ」10名(42%)、「どちらでもない」7名(29%)であった。 〈考察〉NC の役割について氏家は「コミュニケーションの一つ・患者と看護師の連絡手段・看護業務を効率良くするもの・患者のニードを満たすもの・用がある時に呼ぶもの」と述べている。 今回の調査でNCは患者が用事のある時に必要であり患者と看護師との連絡手段とは考えていないことが明らかになった。また患者が使用することでニードを満たすことができると捉えている。しかし、コミュニケーションとしては十分ではなく、直接関わることに意味があると考えられる。さらにNCが業務に与える影響は、必ずしも効率を良くするものではないと思われる。
著者
佐々木 高信 照屋 孝夫 平野 惣大 喜瀬 真雄 花城 和彦 青木 一雄
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.174-179, 2019

2009年4月より2016年12月までの期間に,琉球大学医学部附属病院にて頭頸部癌(口腔,咽頭,喉頭,その他)からの肺転移巣を切除した21症例27切除術を後方視的に検討した。全症例の肺転移巣切除後5年全生存率(overall survival: OS)は56.7%,生存期間中央値(median survival time: MST)は21か月と報告された文献における肺転移切除群と比較し良好な成績を得た。肺転移巣の腫瘍径≥2.0cmが有意な予後不良因子であった(<i>p</i>=0.0157)。多変量解析では独立した予後不良因子は得られなかった。以上より2.0cmより小さい径の肺転移巣に対し,積極的な切除が予後改善に貢献する可能性が示唆された。今回の結果は悪性疾患の肺転移治療に関し,意義のある知見と考え,報告する。
著者
津谷 親環 吉野 珠美 山川 七美
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第59回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.414, 2010 (Released:2010-12-01)

当病棟では,経腸栄養剤注入後に胃瘻チューブ内を白湯でフラッシングして洗浄する方法を行っている。しかし、この方法だけでは栄養剤を十分に除去できない場合が多い為、より有効的な洗浄方法がないかと考えた。そこで、形態をゼリー化することにより、チューブ内の残渣物を効果的に押し出せないか、また、殺菌効果があるとされている食用酢の使用とそのゼリー化。そして、蛋白質の結合を軟化させる作用があるとされているコカコーラ、それぞれを洗浄方法として活用できるのではないかと考えた。胃瘻チューブ留置患者6名に対し、夕方の栄養剤注入終了後、それぞれをチューブ内に4日間充填し、最終日の翌朝、空気にてフラッシングし、接続部の細菌培養・チューブ外観をデジカメで撮影・内視鏡にてチューブ内腔の撮影を行った。チューブの外観と内腔の評価は5段階に分け、点数化した。チューブ外観評価では、コカコーラが2.2点と付着物が一番少なく、チューブ内腔評価でもコカコーラが2.8点と最も良い評価となった。次いで、食用酢、食用酢ゼリー、白湯ゼリー、白湯の順となった。一般細菌の結果では、白湯、白湯ゼリー、食用酢、食用酢ゼリー、コカコーラとも大きな差は見られなかった。しかし、細菌増殖抑制効果の有無については、基礎的な知識がなく再度検討が必要であると思われる。 コカコーラの充填は、食用酢に比べると高価であり、また、充填時に炭酸ガスが発生する為、うまく充填しにくいなどの問題点が残された。
著者
川田 志浦 門間 智子 梶山 由紀 長谷川 幸子 君崎 文代
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第56回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.341, 2007 (Released:2007-12-01)

【はじめに】プレパレーションは、心理的準備段階と言われ、患児に正しい知識を提供することで、自らの治療や検査に対する不安や恐怖心を緩和し、患児が納得して検査を受けようとする対処能力を引き出すのに有効とされている。 今回、採血前と採血中、採血後に紙芝居や採血人形、おもちゃ等を使って、プレパレーションを行い評価をしたので、その報告をする。 【研究目的】採血前、中、後のプレパレーションの効果を年齢別に検証する。 【対象】3歳から6歳の発達障害のない患児20名とその母親20名 【方法】採血前の紙芝居や、採血方法を体験できる人形を作成し、それらを用いてプレパレーションを実施した。また、採血中は、ボタンを押すと光と音の出るおもちゃ等で患児の気を紛らわした。そして採血後は、アンパンマンのメダルを渡した。これらの過程を観察し、終了後患児と母親にインタビューし、結果をまとめた。 【倫理的配慮】研究対象の児の母親に、研究の趣旨やプライバシ−の保護等について、文章と口答で説明し、同意を得て施行した。 【結果】採血前からの様子を年齢別にまとめてみると、3歳(2名)は、紙芝居を見て、「アンパンマンだ」と言って喜んでいたが、採血人形で注射針の説明をした時点で恐怖心を抱き、泣き出す患児がいた。4歳(8名)は、紙芝居を見て、自ら処置室に歩いて行く姿が見られ、採血も泣かずにできた。5歳(4名)は、「アンパンマンが、がんばれと言っていたからがんばる」と言って泣かずに出来た患児もいた反面、紙芝居は理解して「がんばる」と言っても、実際に針を見ると「泣いてもいい?」と大きな声で泣いた患児もいた。6歳(6名)は、人形を使って実際に採血を体験したいと言う患児が多く、シリンジを引いた時に中から赤い液体が出てくるのを見て、笑顔が見られ「ミッキーの採血をやって、自分の採血も楽しかった」という感想が得られた。また、採血中は、ストローの抱きつき人形を見て、声を出して笑っているうちに採血が終わってしまった患児もいた。母親からは、「何をするのか、きちんと説明があって良かった」「おもちゃを用意してもらって良かった」という意見が得られた。 【考察】紙芝居は、患児が好きなキャラクターを登場させたことで、親しみやすく、アンパンマンとともにがんばろうという意欲が見られた。また年齢が上がるにつれて、紙芝居の理解度は高く、採血人形を使う患児は多く見られたが、理解度と、納得したかということは、比例するものではなく、年齢別に見てもそれ程差はなかった。むしろ、それぞれ「泣く」という行為には様々な理由があり、納得できなくて泣く患児と、理解し、納得しても泣いてしまう患児がいることが明確になった。 大野ら1)が「プレパレーションとは、手術や検査を受ける子どもの心理過程をくり返し丹念に追っていく活動であり、子どもに医療知識を授けることや、検査や手術で泣かないための理解促進ではなかった」と述べているように、保育士は、プレパレ−ションやディストラクションをして行く中で、患児の奥深い気持ちを受け止めることが重要なことだと考える。それには、採血終了後の励ましや、遊びを通して患児に接することで、次の遊びを展開するきっかけとなるよう援助していくことが大切である。 【引用文献】 1)大野尚子:プレパレ−ションの理論と実際、保育士の立場から、小児看護29(5)P572、2006
著者
杉村 龍也 吉村 公博 井木 徹 松村 弥和 蟹江 史明 今川 智香子 梶原 佳代子 龍樹 利加子
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.79, 2006

<b><緒言></b>医療法の改正や診療報酬の改定、社会福祉基礎構造改革で介護保険法を主とした社会保障領域における福祉制度の改正や新設などにより、患者を取り巻く医療供給体制がここ数年目まぐるしく変化してきている。急性期病床の加茂病院においても、退院や転院に関する援助件数が、年々飛躍的に増加している。そこで、医療供給体制の変化と当地域医療保健福祉連携室における相談実績の統計資料とを比較検討し、豊田市(人口40万)における今後の地域医療のあり方を考察する。<BR>〈<b><方法></b>〉平成7年度から平成17年度の加茂病院の地域医療保健福祉連携室の相談実績の統計や豊田市周辺の医療・介護提供施設の状況と、第2次医療法改正から現在までの医療供給体制の推移を比較検討する。<BR><b><結果></b>加茂病院の地域医療保健福祉連携室における対応件数は開設当時から現在に至るまで年々増加の一途をたどってきている。その内訳を見ると、全体的に増加傾向であるが、中でも退院・転院に関する相談は顕著である。平成7年当時と比べると、退院・転院相談の実件数は平成12年で2倍強、平成16年では4倍強となっている。<BR> 転院の例として平成9年当時の医療・介護提供施設を見てみると、転院先として挙げられるのは老人病院と長期療養型病床群、老人保健施設しかなく、特に豊田市では、平成9年当時は長期療養型病床群が無く、老人病院も市内には一ヶ所のみであり、周辺市町村への転院が殆どであった。そのため、施設待機の1ヵ月から2ヶ月を加茂病院での入院継続を余儀なくするケースも多かった。<BR> しかし、現在の医療・介護提供施設を見ると、施設がそれぞれ専門分化してきている。急性期病院では、急性期加算をとるための平均在院日数を意識しながらの退院指示や、受入れ施設に併せた形での退院指示が増えている。回復期リハビリテーション病棟では、入院日数や入院までの日数に制限が設定されるようになり、早期での転院を求められるようになった。以前のように施設待機を急性期病院で過ごすことが難しくなり、早期での退院指示に不安を抱える患者・家族が多くなったのである。つまり、単独の医療機関では、治療から療養・介護までの一連の医療の提供ができないのである。<BR> この現状は、国の医療費抑制政策が大きな要因となっている。特に平成12年の介護保険法施行や平成14年の急性期入院加算の設置などは、専門特化しないと病院が生き残っていけない現状を作り出したと言える。それ以上に影響を被ったのは患者・家族である。社会構造や家族形態の変化による家庭介護力不足が深刻な中で、医療依存度が高い患者でも退院指示が出されるようになり、高額な施設への転院や、充分な準備の無い中での退院を迫られる状況となった。以上のことが退院相談増加に繋がっていると言える。<BR> 結論として、今後の地域医療では、単独の医療機関だけで充分な医療の提供はできない。そのため、患者・家族に不安の無い充分な医療を提供するには、医療費抑制政策の中で専門分化した複数の医療機関が、相互の特性を活かした密接な連携を図り、地域の中で一つの大きな医療機関として機能する必要があると考える。
著者
臼田 誠 広澤 三和子 前島 文夫 西垣 良夫 矢島 伸樹 夏川 周介 関口 鉄夫
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.248, 2005

〈はじめに〉ミカンや落花生の栽培が盛んな神奈川県N町の一般廃棄物焼却施設(し尿焼却と最終処分場も併設)周辺住民は、長年にわたる本施設からの悪臭、騒音や煙ならびに粉塵などによる生活環境や健康への不安を募らせていた。さらに、近隣自治体からの生ごみを受け入れたバイオガス発生施設を本施設に増設するという企画が浮上し、本施設直下にあるM自治会では現在の本施設による周辺環境ならびに住民健康への影響を調査したいとの依頼が当研究所にあり、調査を実施した。その結果の内で環境影響については前演者が述べたので、ここでは周辺住民への健康影響について報告する。<BR>〈調査対象および方法〉2004年9月、上記の一般廃棄物焼却施設直下にあるM自治会全住民(622戸、2200人)を対象に、生活環境の変化や現在の自覚症状などを問う調査票による健康アンケート調査を実施した。対象住民の居住地が本施設から900m以内という近距離にあるため、対象住民全体を一つの集団としてデータ処理を行なった。そして、得られたデータを当研究所が実施した以下の2つの焼却施設周辺住民健康影響調査データと比較し、本対象住民の状況を判断することとした。比較データ1:埼玉県T市の県下最大産廃焼却施設周辺住民調査(対象994人)、比較データ2:長野県K町の民間産廃焼却施設周辺住民調査(対象4,443人)<BR>〈結果〉アンケートの回収率は92%と高率であった。本対象住民では都市圏への通勤のために、居住地での滞在時間が8時間以内の割合が多かった。生活環境の変化では、「臭いがする」との回答が64%と最も高く、これは比較データよりも有意に高い値であり、これが本施設による影響の特徴と考えられた。「窓ガラスや庭木が汚れる」などの粉塵による影響はT市の焼却施設から1000ー1500m地域住民と同程度の訴えがあった。<BR> 本対象住民の平均年齢は2比較住民よりも若く、現在治療中の病気では最も多い高血圧症が4%以下と比較2住民よりも有意に低かった。具体的な24項目の自覚症状では、「喉がいがらっぽい」「風邪でもないのに咳が出る」「目がしょぼしょぼする」「皮膚のかゆみ」など多くの項目で、本対象住民の訴え率は、比較したT市の焼却施設から1000mー1500m地域住民や長野県K町の焼却施設から400mー800m地域住民の訴え率と同程度あるいはそれ以上であった。また、24症状を喉・呼吸器・眼・皮膚・頭の6症状群にまとめて比較すると、その傾向がより明らかとなった。<BR>〈考察〉N町の一般廃棄物焼却施設によるM自治会住民への健康影響がダイオキシン騒動の中心地であるT市の焼却施設周辺住民と同程度であり、しかもM自治会住民の多くの居住時間が少ない状況を考えると、本施設による影響は深刻であると考えられる。
著者
嘉屋 祥昭
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.199, 2009

〈はじめに〉病院を取り巻く情勢は,マイナス要因につながる多くの状況下にある。コンプライアンスに抵触する事案,セクハラ,パワハラ等不祥事はメディアを通じて広がり,また病院・医師のランク等も一方的に報じられている。このように周辺環境がめまぐるしく変化する中,組合員・地域住民の要望に応えるためにも厚生連4病院(尾道・吉田・広島・府中)に働く全職員が仕事の基本やマナーを身に付けて,一層の信頼を高めなければならない。患者や家族が何に不満を抱くのかを検証するのではなく,私たちは何を期待されているのかという観点からもう一度自院・所属職場の接遇を見直す必要がある。広島県厚生連人事部教育課を中心に,4病院教育担当看護副部長と共に作成したマナーガイドブックを活用しながら接遇指導者を育成し,委託職員を含め多職種を対象とする接遇教育に取り組み成果が得られたので報告する。<br>〈マナーガイドブックのねらい〉<br>・4病院の対応の違いや手法の違いをなくし,マナーのレベルアップに努める。<br>・職場の実情に精通した職員が職場の仲間としてマナーを直接指導することでよりきめ細かなマナーが定着する。そのためにも組織内に「質の高い指導・論評」ができる人材を広く育てていくことが必要である。<br>〈接遇指導者養成〉まず各病院より各々の職種から指導者として活動できる人材を選出し,現状と課題を持ち寄った。次にどのように自院で接遇研修に取り組むかをビジョンとゴールを設定し,講義やグループワーク・ロールプレイ等をしながら指導者養成に取り組んだ。終了後は認定証を発行し,接遇指導者としての意識付けとした。現在接遇指導者を28名養成した段階である。<br>〈厚生連4病院での成果〉接遇指導者はこの研修の必要性を説き,ガイドブックを使用し,ロールプレイを取り入れ各病院で研修を実施した。参加者は多職種(医師・研修医・薬剤師・放射線技師・理学療法士・事務・委託業者等)であり,職種間の理解も深まり,協力しながら自部署で自ら実践者として活動できると評価している。<br>〈これからの取り組み〉・ロールプレイ事例集の作成・広島県厚生連として接遇指導者100名を養成する・マナーブック活用の拡大(抄読会など)・患者満足度調査と患者さまの声を用いた評価
著者
新井 修 芝田 房枝 沢 仁子 池添 正哉 山口 博
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集
巻号頁・発行日
vol.54, pp.149, 2005

【目的】<BR> 阪神淡路大震災から10年、地震列島であり台風の通過点と言われる日本において、どんな災害がいつあるかわからない。本年10月23日には透析中に新潟中越地震があり、当院においても震度2を経験した。緊急離脱及び避難について患者、スタッフ共に意識も高まってきている。しかし透析患者の高齢化も進み、自分で緊急離脱できる患者の減少が見られるため、5年前との離脱、避難について比較し、今回患者のレベルにあった対処方法をまとめたので報告する。<BR>【方法】<BR>1.全患者へアンケート調査、分析、検討<BR>2.緊急離脱・避難訓練<BR>3.環境整備<BR>4.患者会を含め学習会<BR>5.上記による患者個人に合わせた対応の検討と実施<BR>【結果および考察】<BR> 危機管理、災害対策についてスタッフ、患者とともに毎年「離脱訓練」「避難訓練」を行なってきた。5年前との比較を見ると高齢化が進んでおり、今回患者アンケートで介助者の増加がわかった。訓練後患者から「パニックになりそう」「自分の命は自分で守らないと」といった意見が見られた。患者個別の離脱方法、避難方法の用紙を渡すことで、患者個々の避難方法が認識でき安心感へとつながった。透析自体も自己血管型から人工血管、テシオカテーテル等多種多様化されてきているため、離脱方法、避難方法を患者の選定をすることでスタッフも動きやすくなり、無駄が少なくなった。患者会と協力し学習会を行なうことで災害に対して意識を高めることができた。スタッフも病院防災訓練時同時に訓練することで災害に対する意識も高まり、環境も整えることができた。当施設においても長野県内の透析施設災害ネットワーク加入により災害面への対処も一歩前進しつつある。<BR>【まとめ】<BR> 災害時には、まず患者の安全を第一に優先する。それとともに、スタッフ自らも一次、二次災害などに巻き込まれないことも重要である。それには患者層に沿った訓練、離脱方法を確立することは大切であり、スタッフの日々の意識と、訓練が大切である。<BR>※倫理的配慮として研究に当たって患者へ趣旨を充分説明、理解していただいた上でアンケート調査等を行なっている。
著者
宮地 恵美 中内 涼子 鈴木 弘美 高橋 佐智子 宮島 雄二
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.39, 2006

<B><緒言></B>病院における小児の事故としてはベッドからの転落が圧倒的に多く、転落防止指導は非常に重要である。当病棟では、小児病棟の安全管理として、成人用ベッドとは異なる、四方に柵のついたサークルベッド(以下、高サークルベッドとする)を使用し転落防止に努めている。入院時のオリエンテーションでは、付き添い者に口頭で指導を行い、転落注意の警告文を表示したり呼びかけているが、転落は絶えず発生している状況である。今まで以上に具体的な対策を立案し、実施する必要性を感じた。<BR><B><目的></B>転落防止対策としての写真付きシートを作成し、それを用いて付き添い者への指導を行うことで、付き添い者の意識向上を図り、転落件数を減らす。<BR><B><方法></B>高サークルベッドの使用が必要な、付き添い者のいる0-4歳の入院患児を対象に、従来の指導方法:A群と、写真付きシートを使用した指導方法:B群での転落件数の比較検討と、アンケートによる付き添い者の意識調査を行った。写真付きシートは、乳児の人形を用いて、ベッド柵を正しく使用しないことで今にも転落しそうになっている状況や実際に転落してしまった場面の写真を載せた。入院時に持参して説明後、ベッド柵にかけ、退院時に回収した。付き添い者へのアンケートは、自由意志でありプライバシーは守られる事、同意を頂けなかった場合でも治療に影響しない事を記載し、倫理的配慮に努めた。各120例ずつ回収した。<BR><B><結果></B>転落件数は、A群延入院患者数3003人中9件(1件/334人)から、B群延入院患者数2968人中2件(1件/1484人)と有意に減少した。意識調査に関する質問内容については、「入院中注意してベッド柵を一番上まで上げていましたか」に対して、A群:できた39例(33%)・中段までしか上げていなかった21例(18%)・できなかった60例(49%)、B群:できた41例(34%)・中段までしか上げていなかった27例(23%)・できなかった52例(43%)で、有意差は認めなかった。「入院中、何を見て(聞いて)ベッド柵を一番上まで上げておこうと思いましたか(複数回答可)」については、A群:看護師の説明41%・柵についている警告文33%・掲示板に貼ってある警告文11%・看護師の声かけ8%、B群:看護師の説明31%・写真付きシート24%・柵についている警告文23%・掲示板に貼ってある警告文7%・看護師の声かけ9%であった。<BR><B><考察></B>写真付きシートを用いた転落防止指導で、小児の転落事故が有意に減少した。付き添い者が、実際に転落する場面の写真を見ることで、視覚的に危険性をイメージすることができたと考える。また、入院中常にベッド柵に写真付きシートを掲げ、付き添い者の目に留まるようにしたことで、転落防止について常に意識を持つことができ、付き添い者が代わった場合も転落防止の意識付けになったと考える。意識調査から「柵についている警告文」「看護師の説明」も有効であることが伺え、視覚的な指導方法と組み合わせ、看護師が声かけを繰り返すことも事故防止に有効であった。今後の課題として、今回の取り組みのような視覚的に効果のある説明や指導を十分に行っていくと同時に、小児病棟の入院患児の幅広い年齢層に対応できるような具体的な指導を考えていきたい。
著者
田實 直也 山田 浩昭 石川 一博 伊藤 祐 鈴木 和広 近藤 国和
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.199, 2008

〈緒言〉当院の電子カルテシステムは、効率的で安全な医療提供を追求するために2002年に紙カルテから全面移行した。稼動後6年が経過したが、不慮のトラブルは極めて稀で、半年に1回の保守停止以外はほぼ不眠不休で機能してきた。しかし、今回は更新に伴う停止時間が約27時間と算出された。このような長期停止は当院にとって前代未聞の出来事であり、様々な対策が必要となった。ここでは、今回のような病院機能の停止状態に対し、どのような対策を行ったかを報告する。<BR>〈方法〉院内では長時間停止が判明して、即管理職を中心に対応策を検討した。当初は三次救急医療を担う病院としての対応を模索したが、システム停止により情報網が寸断された状態では、求められる医療の提供が出来ないのは確実であることや、1日の救急外来患者が350名を越すため、処理が追いつかず飽和状態になることが予想されるなどから、対策として、最低限の患者数へ絞り込みを行い、この急場を乗り切るという苦渋の決断を強いられた。このため受け入れ先の確保や住民周知という難題に直面した。特に、地域住民の周知については短期的ながら患者の受療行動を抑制することになり、市民と近隣病院へ強く協力を働きかける方法を検討した。以下が行った対策である。<BR>1_県に救急の受診制限が問題ないか確認<BR>2_他病院への協力を要請<BR>3_救急隊へ搬送停止協力の依頼<BR>4_市広報へ掲載依頼<BR>5_周辺医師会へ連絡<BR>6_自院のホームページへ掲載<BR>7_地域の回覧板に依頼<BR>8_院内掲示・配布<BR>院内の対応は、停止中の職員を通常より増員し、今回の停止にあわせて臨時運用マニュアルを作成し、職員周知会を開催した。また、不測の事態に備えて定期的に行われているダウン時シミュレーションも運用参考とした。<BR>〈結果〉当日に電話や窓口でお断りする患者もいたが、対策が功を奏し、停止中の救急外来受診者数は期間中143人(前々週同期間374人、システム停止時間中実患者24人)となり、一定の効果を得ることが出来た。期間中救急の現場に大きな混乱もなく、停止時間も予定より6時間短く終了し、無事乗り切ることが出来た。今回行った対策の結果については、概ね以下の通りである(番号は前述〈方法〉欄記載に対応する)。<BR>1_医療圏内で十分な協力体制を敷くことができれば問題ないとの回答であった。<BR>2_近隣病院長会議や救急医療ネットワーク会議にて全面的な協力が得られ、他院の一部では期間中に増員体制で臨む協力が得られた。<BR>3_他院が救急搬送を受け入れてくれたため、特に問題はなかった。<BR>4_医療圏内12市町の広報へ掲載を依頼したが、断られる市もあった。<BR>7_安城市内の回覧板にて回覧協力を得た。<BR>8_院内数箇所に看板、ポスターを設置し、救急外来では、全患者に1ヶ月間リーフレット配布を行った。<BR>〈まとめ〉今回の試みは、早期に電子カルテを導入した当院が、更新作業をどのように行い、どのような対応策を検討したかという点以外にも、近年救急外来のコンビニ化が叫ばれる中、短期的ながら受け入れ先を明確化して明示すれば、患者の受療行動はかなりの確立でコントロールできるという二つの結果を導き出すことになった。通常業務における電子カルテの有用性を改めて実感するとともに、病院も行政との連携体制を強化し、地域を巻き込んだ広報周知活動を行うことによって、在るべき医療提供体制の機能分担体制構築に望みを見出す結果となった。
著者
平間 好弘 沼崎 誠 吉田 公代 鶴岡 信 新谷 周三 椎貝 達夫
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.233, 2007

目的 取手市など、5市1村で構成する「取手・龍ヶ崎医療圏」の基幹病院となっている当院では、災害現場での救急隊・現場救護所および病院での多数傷病者対応の想定訓練を通じて、地域の災害医療にかかわる各部門の問題点を抽出し、実際の発災時の初期対応の改善を目的に3病院合同災害医療訓練を実施したので報告する。<BR>方法 災害医療の原点は、12年前の阪神淡路大震災である。以後、厚生労働省の指導で全国に災害拠点病院が設置され、当院も平成14年4月に茨城県災害拠点病院に指定された。<BR> 平成17年4月、当地区を管轄する龍ヶ崎保健所は、医療圏内の災害発生時における広域医療の中心病院として、取手地区は取手協同病院、龍ヶ崎地区は龍ヶ崎済生会病院、阿見地区は東京医大霞ヶ浦病院の3病院を指定した。<BR> この3病院を中心に、医療圏内にある医療・消防・保健機関が合同し、取手龍ヶ崎医療圏災害医療協議会を結成し、3回の準備会と災害医療講演、机上訓練などを含め7回の会合を開催し、昨年(平成18年)の9月23日に災害医療訓練を実施した。<BR> 訓練には、3病院の他に医師会や保健所、保健センター、取手市消防本部、稲敷地方広域消防本部、阿見町消防本部などから150名が参加した。<BR> 訓練内容は、取手市を横断するJR常盤線下り線踏み切り内で、立ち往生したダンプカーに列車が追突、先頭車両が脱線転覆し、30人の重軽傷者が出たと想定し訓練を行った。<BR>結果 救助活動は、事故現場近くのガス会社敷地内に現地本部と救護所を設置。救護所では、消防本部から要請を受けたDMAT(Disaster Medical Assistant Team)がトリアージを行い、4台の救急車などで対策本部のある当院へ負傷者を搬送した。<BR>3病院を想定したブース内では、長いすを利用した仮ベッドで苦しがる重軽傷者を医師や看護師が対応すると同時に、重症患者に対しては県の防災ヘリによる他病院への搬送訓練も実施した。<BR>結語 同じ医療圏内にある複数の病院が合同して訓練を行なうことは、全国的にも珍しく高い評価を得た。今後も、実際の災害場面での協力体制・合同対応を円滑に進めるため、定期的に訓練を実施したい。
著者
羽田 明
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.67, no.6, pp.631-635, 2019 (Released:2019-05-12)
参考文献数
4

The incredible speed at which research into the human genome has recently progressed has led to the widespread use of genomic data in clinical settings. The day will soon come when clinical practice that fails to utilize patients' genomic data will be considered outdated and will pose a high risk of legal action. In this lecture, I discuss several topics: 1.the progress of human genomic research, 2. Homo sapiens as just one of the many species on Earth; 3. the clinical applications of genomic research findings, with Kawasaki disease as an example;and 4.the current state of genomic research and its future prospects. Medical researchers and doctors have long dreamed of a day when health care services based on each individual's genomic data will be a reality;this is usually referred to as “madeto-order medicine,” “tailor-made medicine,” “personalized medicine,” and most recently, “precision medicine.” Thanks to the recent rapid development of genomic analysis,such as next-generation sequencing,as well as that of statistical analysis methods, it has been said that individual genomic data were available at a cost as low as$1,000 in 2014. Our planet is 4.6 billion years old, and life began 3.8 billion years ago. Since then,the Earth has witnessed the evolution of prokaryotic and eukaryotic unicellular organisms, followed by multicellular organisms, photosynthetic plants, the Cambrian explosion of marine life, and the emergence of land-dwelling creatures. Our mammalian ancestors appeared during the age of the dinosaurs, which suffered a mass extinction due to a dramatic change in climate caused by an asteroid impact. The small dinosaurs that survived evolved into today's birds while the mammals of that era evolved to successfully occupy a diverse array of ecological niches. The human family appeared about 2.5 million years ago in Africa. Archaic humans, such as Homo neanderthalensis, lived among our Homo sapiens ancestors, who appeared about 200,000 years ago. Now we know that 21%of the human genome has genes in common with prokaryotes and other eukaryotes. The difference between our genome and that of the gorilla and the chimpanzee is only 2% and 1%, respectively. Among Homo sapiens, the difference between any two individuals is only 0.2%, which manifests as differences in skin color, disease susceptibility, and other traits. Kawasaki disease was identified by Dr.Tomisaku Kawasaki, who reported his findings in 1967. Since then, vigorous efforts have been made to identify the cause of the disease, but so far, nothing specific has been found. We therefore took a genome-based approach and identified several genes responsible for the development of Kawasaki disease. Because some of the identified genes are thought to participate in the Ca2+-NFAT signal transduction pathway, we hypothesized that cyclosporine A, which is known as a suppressor of this pathway, might be useful in the treatment of the disease. We performed an investigator-initiated clinical trial and confirmed our hypothesis. This was one of the first clinical applications based on human genome research. Now, there are several large-scale genome-based projects, such as the UK Biobank, that are open to any researcher who would like to make use of their resources. They also contain clinical information and patient data, such as socioeconomic status, and educational background. With these kinds of resources at our disposal, we can expect great accomplishments in the not-too-distant future.
著者
永見 佳子 松浦 美由紀 宮田 恵子
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.65, 2011

当院ではこの度、子どもに分かりやすいパンフレットを作成し、キワニスドール(以下人形)を使用した周手術期プレパレーションを試みた結果,有効性が得られた。BR 扁桃摘出術を受けた3歳~7歳の子どもとその家族、手術室看護師を対象に独自に作成した選択・記述式のアンケート調査を行った。倫理的配慮は、文書で説明し同意を得た。プレパレーションの方法は、まず外来看護師は親と子どもに作成したパンフレットと人形を渡す。その時に、パンフレットは親子で読み、人形は子ども自身にみたて、顔を書いてもらうよう説明する。そして入院後、病棟看護師は、手術前後に行う処置についてパンフレットと人形を用いて説明する。また,手術室看護師も術前訪問で同様に説明する。BR アンケートの結果より、パンフレットは大半の子供が見ていることが分かり、「これからどのようなことをしていくのかよく分かった」という意見がきかれた。パンフレットは、手術を受ける子どもと親にとって、これから行う入院から手術、退院までの流れを知るよい情報源となった。そして、これから自分の身に起こる出来事を正面から受け入れるものであった。また子どもは、人形に医療行為を真似るというよりも、自分の身に起こる出来事を一緒に立ち向かう仲間とし不安の軽減をはかったと考える。そして、周手術期プレパレーションは、各部署が一人の子どもの入院から退院までの流れや内容を具体的に把握し表現することで一貫した看護を提供できた。そして,手術室看護師は小児看護に関して経験が乏しいため、作成したパンフレットは術前訪問で十分に活用でき、一貫した手術室看護を提供できるようになった。BR 今後は、どの小児の周手術期プレパレーションにも対応できるパンフレットを作成し、外来と病棟、手術室で連携した看護を展開していきたい。