著者
柿本 真代 Kakimoto Mayo
出版者
仁愛大学
雑誌
仁愛大学研究紀要. 人間生活学部篇 (ISSN:21853363)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.59-69, 2017-03-31

本論文の目的は,少年雑誌に残された書き入れから,明治期の雑誌と青少年の読書の実態を検討することにある.明治期の少年・少女雑誌と読者については,これまで投稿欄の分析を中心に多くの研究が蓄積されてきたが,本稿では雑誌から読み取れる読書のあり方を相対化し,個々の読書実践についてより具体的に明らかにするべく,雑誌本体に残された書き入れを用いた.国文学研究資料館・東京大学大学院法学政治学研究科附属近代日本法政史料センター明治新聞雑誌文庫・大阪府立中央図書館国際児童文学館で調査を行った結果,感想や批評など,多様な読書反応の記録が浮かび上がった.
著者
山本 雅代
出版者
仁愛大学
雑誌
仁愛大学研究紀要 (ISSN:13477765)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.81-97, 2008-12-30

SIMSOC(Simulated Society)はアメリカの社会学者W. A. Gamson によって作成された模擬社会ゲームである.ゲームシミュレーションの1つであり,このゲームの目的は実際の体験を通じて,社会の仕組みを学生に学ばせることである.参加者はゲームを通じて社会秩序の確立,その維持,対立,葛藤や支配の問題に直面するが,それを自分達の力で解決に導いていく.その過程の中で社会の仕組みを学んでいくことになる.実施されるゲームはその時々の参加者の特性やゲームの設定によってさまざまな社会が展開される.SIMSOCは現実にそくした社会を展開すべく,今までに幾度か変更されながら実施されている.2000年に出版されたマニュアル第5版ではベンチャービジネスやヒューマンサービスなどがゲームにプラスされている.ここでは,本学において実施したゲームをとりあげ,SIMSOC の特徴や,参加者がゲーム内で直面する社会的葛藤や対立,またそれに対してどのように解決していくものなのか概観し,SIMSOC の紹介とする.
著者
西村 重稀
出版者
仁愛大学
雑誌
仁愛大学研究紀要. 人間生活学部篇 (ISSN:21853363)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.71-82, 2009-12-30

本研究は2009年7月6日から2009年7月11日までノルウェーのオスロで第11回ヨーロッパ心理学会が開催された時,オスロの公立保育所〔ノルウェー語でBarnehage(バルネハーゲ)〕を訪問し,園長や文献等からの情報をもとに,○ノルウェーの少子化の動向と次世代育成支援について○ノルウェーの教育の概要○ノルウェーの保育施設の3つの視点からまとめたものである.特に保育施設については保育施設の概要.保育内容.保育施設の職員.保育施設の現状.保育施設への助成.オスロのバルネハーゲ(保育施設)を視察し,まとめたものである. ノルウェーは男女共同参画が進み,かつ女性の社会進出が進んでいる国である.しかし,合計特殊出生率は日本に比べて高く,1.9を超えている. 次世代育成支援策については児童手当や育児休業制度の促進,男性の育児参加のための制度の充実等を図っているが,バルネハーゲ(保育施設)の待機児童は多く,バルネハーゲ(保育施設)の施設整備を官民挙げて促進している.施設の定員は60名から90名程度で日本のように200名を超える大規模な施設は少ない.バルネハーゲ(保育施設)は幼稚園機能と保育所機能を併せてもつ幼保一元化であり,国の所管は子ども家庭省である.保育内容も教育とケアである.また,オンブズマン制度が良く発達した国である.
著者
大野木 裕明
出版者
仁愛大学
雑誌
仁愛大学研究紀要. 人間生活学部篇 (ISSN:21853363)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.97-107, 2010-12-30

太宰治の小説「瘤取り」(『お伽草紙』所収)に現れる登場人物2名のキャラクターを心理学的方法によって把握するために、研究1では分析ツールとして「ジョハリの窓」理論を用いて作品中のキャラクター記述の箇所を分類整理した。研究2ではSD 法(5件法12尺度)を大学生男女合計181名に対して実施し、彼らが読後にイメージとして抱いた登場人物2名のプロフィールを検討した。
著者
西村 則昭
出版者
仁愛大学
雑誌
仁愛大学研究紀要. 人間学部篇 (ISSN:21853355)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.23-32, 2009-12-30

本稿(1)(2)では,かつてユング心理学の観点から解釈が行なわれた,ドイツ・ロマン派の作家ホフマンの『ブランビラ王女』(西村,1997)と統合失調症の臨床事例(西村,1998)が,今回はラカンの精神分析の観点から再解釈が試みられた.『ブランビラ王女』の主人公ジーリオも事例も,若い男性で,誇大妄想をもっていたが,その背後にはユングのいうアニマ(心の深層の女性的存在)の問題と絡んでラカンのいう「父の名」の問題が横たわっていたと考えられた.幼少期,父の名が体得されることによって,主体は象徴界(言語活動の次元)に組み込まれ,欲動を制御しつつ,このわれわれの共同の現実世界を生きていくことが可能となる.本稿(1)では,『ブランビラ王女』の再解釈までを載せる.主体(ジーリオ)は去勢を是認して父の名の体得をやり直すという課題に直面した.その際,父の名は,主体の側と,<他者>における言語の側に分裂した.主体は,主体の側にある父の名の片割れの援助を受けつつ,アニマ像に導かれ現実界へと接近し,鏡像段階以前の,現実界の中の主体,物自体としての主体,根源的主体に立ち返った.そして根源的主体は,それに相応しい大いなる<私>のイメージに包まれ匿われ守られ,いわば誇大妄想の状態で,父の名の体得のやり直しを果たした,と考えられた.
著者
池田 涼子
出版者
仁愛大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

過去の研究で鉄欠乏ラットの血糖値が、同系統のII型糖尿病モデルラット(GKラット)と同程度まで上昇することを観察した。これより本研究では、II型糖尿病の特徴であるインスリン抵抗性の惹起に関連するアディポサイトカインの変動を介して、鉄欠乏が生活習慣病の危険因子となる可能性について検討した。2009年度の研究では、GKラットにおける食餌誘導性鉄欠乏による耐糖能異常の促進が示された。鉄欠乏では、肝臓のビタミンA放出障害により代謝性のビタミンA欠乏状態を呈することが知られている。ビタミンAとその輸送担体は、ともにエネルギー代謝に影響を及ぼすことから、2010年度は鉄欠乏ラットと食餌性ビタミンA欠乏ラットの血中アディポサイトカインの変動を比較し、鉄欠乏により誘導される耐糖能異常の機構について検討を行った。鉄欠乏ラットでは、インスリン抵抗性を促進する炎症性サイトカインの増加と、インスリン感受性促進因子であるレプチンとアディポネクチンの低下を観察した。これらは、鉄欠乏による脂質代謝の変動および生体内脂質過酸化の亢進を反映したものと考えられた。ビタミンA欠乏ラットでは、TNFαの増加傾向およびレプチンの低下が観察されたが、鉄欠乏群ほどの顕著な差ではなかった。インスリン抵抗性促進因子であるRBP4は、ビタミンAの利用低下を反映して、両群とも低値を示した。以上より、鉄欠乏およびビタミンA欠乏で、ともにインスリン抵抗性に関連するアディポサイトカインの変動がみられたが、その項目は完全には一致せず、それぞれが独自の要因により耐糖能異常を呈するものと考えられた。本研究から、糖尿病の栄養管理において、ビタミンAおよび鉄栄養の充足が重要であることが示された。
著者
坂井 祐円
出版者
仁愛大学
雑誌
仁愛大学研究紀要. 人間学部篇 = Research journal of Jin-Ai University, Faculty of Human Studies (ISSN:21853355)
巻号頁・発行日
no.21, pp.35-46, 2023-02-20

われわれはどこから来たのか? この問いかけは「魂」のあり方について示唆している.誕生の記憶についての物語は,この問いへの一つの指標になり得るのではないか.そして,ここには魂の癒しとしてのスピリチュアルケアを見出すことができるのではないか.こうした観点から,本稿では,誕生の記憶として分類される, 出生時記憶, 胎内記憶, 中間生記憶の語りについて,それぞれ事例を挙げながら考察していく. まず一般的な自分の由来を探るという意味で,身体の起源について遡って考えてみる.その上で,果たして身体が〈私〉なのか,〈私〉の本質はいわゆる「魂」なのではないのかという観点に立って,その起源を追求する.手がかりになるのが,幼児期健忘によって覚えているはずがない誕生の記憶である.とりわけ身体を持たない純粋な「魂」のみの記憶である中間生記憶の語りからは,現代の神話とも言える魂の起源を考えることができ,私たちの生きる意味を見出すことにも通じることを明らかにする.
著者
赤澤 淳子
出版者
仁愛大学
雑誌
仁愛大学研究紀要 (ISSN:13477765)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.17-31, 2006-12-30

本研究では,恋愛過程において遂行される恋愛行動の規定因を明らかにすることを目的とした.研究1では,恋愛過程で生じると思われる恋愛行動項目を検討し,恋愛行動を捉えることのできる尺度を作成した.分析の結果,男女ともに「親密交際行動」・「相互理解行動」・「否定的行動」・「男性役割行動」・「女性役割行動」・「デート行動」という6つの下位尺度からなる恋愛行動尺度が構成された。研究IIでは,関係進展度,性別役割の自己認知,恋愛意識,交際相手の行動が,恋愛行動の遂行に及ぼす影響について検討した.その結果,男性においては結婚の可能性が直接男性役割行動を高め,女性では結婚の可能性がErosを介して間接的に女性役割行動を高めていた.また,女性の女性役割行動が交際相手の男性の男性役割行動の遂行度を高めていた.これらの結果は,恋愛過程において男女が遂行するとされる相補的役割の中に,性別役割行動が含まれており,関係進展度がそれらの遂行に影響を及ぼしていることを示唆しており,青年期の恋愛関係においても,固定的な性別役割分業観が影響を及ぼしている可能性が示された.さらに,女性においては,Ludusが行動の規程因として強く影響していることから,女性の場合その恋愛が遊び感覚であるか否かによって大きく行動が変わることが明らかになった.
著者
坂井 祐円 Sakai Yuen
出版者
仁愛大学
雑誌
仁愛大学研究紀要. 人間学部篇 (ISSN:21853355)
巻号頁・発行日
no.19, pp.1-14, 2021-02-20

20 世紀後半の死生学研究の展開の中で,生まれ変わり現象についての科学的アプローチによる研究が進んだ.この研究には大きく二つの方向がある.一つは世界各地の前世記憶をもつ子どもの事例についての調査研究であり,もう一つは退行催眠を用いたトラウマ治療の中で,生まれる以前の過去生の記憶を語り出すという事例についての心理研究である.とりわけ後者の研究では,被験者が一つの人生から別の人生に移行する間にあるとする中間生(あの世)についての記憶や,魂の成長のために生まれ変わるという目的を語ったことを報告している.本稿では,まず前半でこうした生まれ変わり現象の科学的な研究の成果を紹介する.そして,これを踏まえた後半では,生まれ変わり現象についての授業を受けた大学生のレポートを取り上げ,そこに見られる意見や感想をもとに,生まれ変わりをどのように考えたらよいのかについて,死生観や伝統宗教との関連から考察する.
著者
赤澤 淳子 井ノ崎 敦子 上野 淳子 松並 知子 青野 篤子
出版者
仁愛大学
雑誌
仁愛大学研究紀要. 人間学部篇 (ISSN:21853355)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.11-23, 2011-12-30

本研究では,デートDVを当事者間の親密性や関係性などの関係的変数から検討することを目的とした.具体的には,衡平性の認知による,恋愛スタイルやデートDV被害・加害経験の差異,また,衡平性に関する各変数および恋愛スタイルが,デートDVの被害加害経験に及ぼす影響について分析した.調査への参加者は,大学および短期大学の学生329名であった.分析の結果,過小利得者は,衡平利得者や過大利得者より関係満足度が低かった.また,過小利得者では,パートナーとの関係性に没頭する狂気的な愛のスタイルや,パートナーとの間に距離を保とうとする遊び半分のゲーム感覚的な愛のスタイルという対称的な感情が高いという特徴が示され,アンビバレントな感情をパートナーに対して抱きやすいことが示唆された.さらに,自己投入がManiaを経由して,DV被害加害経験を生起させることが明らかとなった.つまり,関係のアンバランスさが,嫉妬,不安,抑うつのような強い感情を高め,デートDVの加害・被害を引き起こしている可能性が示唆された.
著者
西村 則昭 Nishimura Noriaki
出版者
仁愛大学
雑誌
仁愛大学研究紀要. 人間学部篇 (ISSN:21853355)
巻号頁・発行日
no.18, pp.21-36, 2019

白隠の布袋画の中にメビウスの帯の描かれたものが二種類ある.本論文では,それらを白隠の禅の境地を表現するものと捉え,ラカンの考え方を用いて分析検討した.ラカンは精神分析の経験を提示するためにトポロジーを用いたが,それは精神分析が禅と同様,現実界を志向する営為だからである.「無限」という観念が象徴界の限界を示すものであるならば,メビウスの帯が作り出す「無限の深みの更なる深み」は現実界を示す.問題の画の一つには,メビウスの帯を作り出す布袋の姿が描かれており,そこには現実界の中で言語活動の根源相を自覚的に生きる白隠の境地が表現されていると考えられる.もう一つには,メビウスの帯の面をくぼませ,無限大以上の容量の袋にして,その縁を口にくわえている布袋の姿が描かれており,そこには見性という仕方で『法華経』の深理に契当した白隠の,現実界から汲めども尽きない利他の活力を得ている境地が表現されていると考えられる.
著者
大森 慈子 廣川 空美 千秋 紀子 立平 起子
出版者
仁愛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、泣くことや涙に対する一般的な認識を捉えた上で、泣きと涙の定量化を試み、涙を流すことによる心身状態の変動を明らかにするものである。研究の結果、感動映画に対する泣きの程度に、内容の知識や以前に視聴した経験は大きく影響しなかった。また、他者の涙を見た際、笑顔や他の表情とは異なる感情反応が示された。綿糸、濾紙、綿球を使うことによって涙液量測定の可能性が得られた。さらに、泣くことに伴う唾液中コルチゾール値や心拍、瞬目といった生理的反応の変化が明らかになった。
著者
大森 慈子
出版者
仁愛大学
雑誌
仁愛大学研究紀要 (ISSN:13477765)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.59-69, 2002-11-01

本研究の目的は, 瞬目と印象の関係について, テレビニュース番組中のアナウンサーに対して形成される印象が, 瞬目が多い場合と少ない場合とではどのように異なるのかを調べることであった。被験者は, 大学生99名 (男子43名, 女子56名) で, 平均年齢は20.7歳 (年齢範囲17-27歳) であった。刺激としてテレビニュース番組を15sに編集したビデオを用い, そこに登場するアナウンサーの瞬目率によって低瞬目率条件 (24-40blinks/min) と高瞬目率条件 (60-88blinks/min) の2条件を設定した。アナウンサーは, 男性5名, 女性5名, 計10名であった。ビデオを見た後, ビデオ中のアナウンサーに対する印象がSD法 (7点尺度) で評定された。それに加え, ビデオを見ているときの感情状態に対する "快-不快" 評定が行われた。印象評定結果について主因子法で因子分析を行い, "親近性""社会的望ましさ" "力動性"の3因子を抽出した。各瞬目率条件における印象をアナウンサーと被験者の男女別に比較したところ, 男性アナウンサーは, 瞬目が多いほうがより社会的に望ましいという印象であった。また, 特に女性被験者は, 男性アナウンサーに対して瞬目が多いほうが親近性があると評定し, 女性アナウンサーに対しては瞬目が少ないほうが親近性があるとした。力動性に関する印象については, 瞬目と印象の関係は見られなかった。一方, 男性被験者も女性被験者も, 瞬目の多い女性アナウンサーを見ている時がより不快であると評定した。本研究では, 瞬目の多発が否定的に評価されるという先行研究を部分的にのみ支持する結果となったが, 瞬目の多少が, 形成される印象だけでなく, 相手の感情状態にも変化を与えることが示唆された。また, 刺激人物がアナウンサーであったという特異性が, 瞬目と印象の関係に影響を与えた可能性について議論された。
著者
谷出 千代子
出版者
仁愛大学
雑誌
仁愛大学研究紀要. 人間生活学部篇 (ISSN:21853363)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.78-86, 2013-03-31

イソップ寓話「蟻と蟬の事」,または「蟻と螽蟖の事」など底本とする原話によって表記やプロットの展開が異なるこれらの話は,日本に最も早く入ってきた外国の物語である. そこで,天草本,古活字本,影印本などと称される底本としてのイソップ寓話の特色がどのように時代と共に流布し人々に扱われてきたか,さらには読者層の相違によって翻訳者はいかに翻刻を重ねたか,翻訳のもつ役割を吟味してきたかなど,文章表現と絵画描写(挿絵)を通して,入手,管見の可能となった明治期,大正期発刊本に限って分析検証してきた. 結果として,翻刻や翻訳にこだわりを持ち,用語使用に対しても厳しい態度で臨んでいると思われる物語に向き合うことができた.文化的には日本という国柄の精神性を重視し,大和魂に固守する余り,今日的時代性から判断すると,諧謔的な想像性と創造性に拘りと時代性を受容できた検証であった.
著者
小林 逸雄
出版者
仁愛大学
雑誌
仁愛大学研究紀要 (ISSN:13477765)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.99-118, 2007

戦後のメディアは新聞と放送が牽引してきたと言って良い.中でも放送メディアの進展には目を見張るものがある.そこには日本における経済社会の発展が背景としてあり,国民の暮らしに直結する放送との相互関係があったのである.スイッチをオンするだけでニュースや話題など生活情報がふんだんに送られてくる.早くて手軽,しかも便利で有益であった.そして60年.放送局と視聴者は信頼関係を築いてきた.しかし近年,受け手であった視聴者は同時に送り手でもある双方向の情報化社会となり,番組は放送局が勝手に作るものではなく,視聴者も見る側の意見や考え方を番組に反映し,局と視聴者が一緒に制作する時代の到来と考えることが出来る.従って,番組や情報にウソがあれば視聴者はそれを簡単に見破り,相互信頼関係の瓦解がはじまるのである.放送局にとって視聴者は,民間放送におけるスポンサー以上の大切な存在となったのである.そのことが去る1月のデータ捏造に端を発した社会問題の側面である.つまり,視聴者の感覚は敏感さを増してきたと考えなければならない.放送ジャーナリズムの自立は視聴者に真摯に耳を傾ける姿勢の向こうにある.システムの標準化によって情報はデジタルに,リアルタイムで世界を駆け巡る.主役は今やインターネットである.それによって既存のメディアのありようが問われる時代となったのである.それはメディアの危機というより放送ジャーナリズムの危機である.データ捏造に伴って,放送に対する視聴者の危惧はかつてない高まりを見せていると言えないだろうか.小論では,今年(平成19年)1月に発生した関西テレビの「発掘!あるある大辞典II」におけるデータ捏造を通して,一連の報道と社会の反応や筆者が担当する「マスコミ論(放送)」講座における学生たちとのやりとりなどを踏まえながら,テレビと視聴者の信頼関係の崩壊と課題,放送ジャーナリズムの自立について,その一端を考察するものである.
著者
堀江 和代 菅瀬 君子 堀江 祥允
出版者
仁愛大学
雑誌
仁愛大学研究紀要. 人間生活学部篇 (ISSN:21853363)
巻号頁・発行日
no.2, pp.35-41, 2010

Five female volunteers aged at 15-18 years who belonged to a professional ballet studio in a fairly high level in the world were intervened for six months using the education program aiming at training their bodies by diet and exercise to attain16-17of BMI index and 16-18 percentages of body fat content. All the volunteers showed slight decreases in body fat, but failed to reach the starting goal. The failure seems to be attributedmainly to that the volunteers are not able to carry out ballet training as they consume lots of time at high school or college.
著者
谷出 千代子 池田 涼子 伊東 知之 篭谷 隆弘 森 俊之
出版者
仁愛大学
雑誌
仁愛大学研究紀要. 人間生活学部篇 (ISSN:21853363)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.63-69, 2009-12-30

異学科学生に専門性を共有させながら,キーワード「絵本」に基づいてそれぞれの専門分野を展開し,実践可能なエリアで子育て支援のあり方を各教員と学生が模索しながら3年間の実践を重ねた.その中で次世代子育て予備軍としての学生たちは,どのように「絵本」を受容して子育て実践教育に資することが出来たか事後調査を中心に,実践学生群と非実践学生群の比較から検証した.結果,両群共に子育て支援の媒材としての絵本と,彼らが解釈する絵本の意味・位置付けが異なることが検証された.さらに,体験してきた過去の絵本観と子育て支援に資するための絵本観も体験の有無に関係なく異質であることも判明した.しかし,子どもとの接点,子どもに対する姿勢の在り方は体験の有無で差異が見られた.拠って,世相の流れのなかでブックスタート活動などの活発化から鑑みても,子育て支援の媒材としての絵本観,すなわち意味と位置付けを,学生を含めた子育て中の母親に対しても,その役割を解く必要性を明らかにした.
著者
赤澤 淳子 水上 喜美子 小林 大祐
出版者
仁愛大学
雑誌
仁愛大学研究紀要. 人間学部篇 (ISSN:21853355)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.1-12, 2009-12-30

本研究では,家族成員間の相互作用として家族との直接的かつ質的コミュニケーションを取り上げ,その実態について家族システム論に依拠して検討することを第一の目的とした.また,第二の目的として,個人が認知する家族とのコミュニケーションと,個人の主観的幸福感との関係について検討した.その分析に際しては,家族形態及び地域という視点を導入した.調査対象者は,子世代については,15歳から30歳までの666名であった.母親世代は,35歳から60歳までの645名を,また,祖母世代は,55歳から85歳までの306名を対象とした.分析の結果,子世代および母親世代が認知する家族のコミュニケーション態度については,特に父方祖母や母方祖母のコミュニケーションについて家族形態による差が顕著に見られることが明らかとなった.また,孫世代と祖母世代とのコミュニケーションに関しては地域差が見られ,家族成員間のコミュニケーションにおいて,家族形態や地域差が影響している可能性が示唆された.さらに,個人が認知する家族とのコミュニケーションと,個人の主観的幸福感との関係について検討した結果,親子関係のみならず,祖母-孫,姑-嫁という世代間の,相互作用のあり方が,個人の主観的幸福感に影響している可能性が示唆された.すなわち,日常のコミュニケーションは相互の関係性に影響するだけでなく,個々の精神的な健康度にも影響するものと推測された.
著者
塹江 清志 早川 清一
出版者
仁愛大学
雑誌
仁愛大学研究紀要 (ISSN:13477765)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.57-64, 2004-03-31

本論文においては, コロンブスに始まる大航海時代以降の西欧人の世界侵略・植民地化の背景についての考察がなされた. 西欧の風土において歴史的に培われてきた西欧人の民族的精神構造としての「断絶感」に由来する心理特性と, 西欧近代化時代の挫折状況とがその背景であると述べられた.
著者
大野木 裕明
出版者
仁愛大学
雑誌
仁愛大学研究紀要. 人間生活学部篇 (ISSN:21853363)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.53-61, 2009-12-30
被引用文献数
1

親子間の心理的離乳に関して2つの研究を行った.研究1では親子間の心理的離乳と心理的距離の定義・測定方法を文献的に検討し次の結果を得た.1)心理的離乳と心理的距離は非常に似た概念として扱われ概念上の区別を明確にした研究は見出されなかった.2)心理的離乳の過程のうち自立や尊敬・軽蔑といった心理面を心理的距離の語によって表現する研究がいくつか見出された.研究2では女子青年301名に対して質問紙調査を実施し次のような結果を得た.3)親子間の呼称変化の時期は中学生かあるいは変化しないという2極化傾向にあった.4)呼称変化に関する自由記述から反抗期,お互いの照れ,対等の大人,他者の目・暗黙の圧力・世間体,気分・対人的スキル,間合い・距離感の6つの呼称変化の理由が得られた.5)心理的離乳に関する自由記述には,好意,嫌悪,親密,疎遠,尊敬,軽蔑,既知,未知,関心,無関心,依存,独立,信頼,不信などの語が多く書かれていた.これにより,西平(1990),落合(1995)らの心理学的離乳の仮説が,本調査の回答者の素朴な記述と概ね矛盾しないことが確認された.6)時間的距離(時間間隔),空間的距離,心理的距離の3側面について親子の距離感を5件法で尋ねたところ,3つの距離間には有意な正の相関が得られた.また,3つの距離得点ともに,父親よりも母親に対する距離の方が有意に近かった.