著者
増本 純也
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

細胞内病原体受容体のNOD蛋白質の変異による自己炎症性疾患の病態を解析することで、炎症を制御するインフラマソームの機能を詳細に描き出すことができ、その制御の異常によって自己炎症性疾患が発症することが裏付けられた。今回の研究でインフラマソームの果たす炎症制御への役割が類推できたことで、炎症性疾患の予防や治療への応用が可能になると考えられる。
著者
小林 聡 宮川 眞一 清水 明
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

癌細胞に特異的に結合するペプチドが同定できれば、そのペプチドで抗癌剤を修飾し、癌組織により高濃度に、また非癌部組織により低濃度に抗癌剤を分布させ、効果を高めつつ副作用の低減を図ることが可能となる。当研究では、ファージライブラリーを用いたバイオパンニング法という方法で、肝細胞癌に特異的に結合するペプチドを同定した。同ペプチドを提示したファージ、ならびにビオチン修飾した同合成ペプチドを用いて、各種悪性腫瘍由来細胞株ならびに肝細胞癌手術切除標本において、その肝細胞癌結合性を確認した。
著者
岩崎 徹也
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

平成11年度中における原油価格急騰は、OPEC(石油輸出国機構)の減産による需給の逼迫、国際石油資本を含む石油企業の在庫抑制政策、石油先物市場における投機的売買が背景となっている。OPECの減算継続は、原油価格低下で産油国経済が疲弊、青年層の失業問題が深刻化してイスラム原理主義を含む反体制勢力が台頭した。原理主義国家イランでは、保守派主導の政治に不満を持つ青年層が改革派を支持し、原理主義の台頭を危惧するサウジアラビアは、イランのハタミ政権による現実主義外交を評価してOPEC二大産油国の協調が強まり、OPECの団結強化を一層促進した。原油価格低下は石油産業の世界的再編をも促進した。メガ・マージャー進展は、コスト削減・資本効率の向上を目的としており、その背景には、世界的資本過剰による金融肥大化・カジノ経済が大きく影響していると考えられる。平成12年末の原油価格下落は、主として米国の株式市況低下・消費減退等の景気の息切れによると考えられるが、米国景気の失速はアジアや欧州にも悪影響を与えており、石油需要は減速する可能性が強まった。価格騰貴に増産で応えていたOPECも,一転減算による価格防衛の姿勢を強めた。産油国としては、長期の石油価格低迷期に経済不振を続け、人口増加による雇用問題の深刻化から、イスラム原理主義などの反体制勢力も台頭しており、大幅な価格下落は受入れがたく、OPEC加盟国の団結は、価格低下への恐怖と主産油国であるサウジアラビア、イランの協調により強まったといえる。平成13年9月の米国同時多発テロは、真相は不明ながら、イスラム原理主義過激派の世界的ネットワークが米国をテロの標的としていたことは事実であり、アラブ・イスラム世界に台頭する原理主義勢力が、穏健派を含め、反米的であることも事実である。反米意識の背景の一つには、米国及び米系多国籍企業の主導するグローバリゼーションへの反発がある。中東・イスラム諸国は、東アジア諸国のように多国籍企業に依存した輸出指向型の開発が困難であり、若年層を中心とした雇用問題が深刻化しているなか、米国が支配する(と考えられている)IMF等の主導する構造調整は、市場経済化を進展させ、社会格差を拡大しているとの反発もあり、これらが反米意識の高まり、ひいては,過激派の暴走を是認する一因となっているといえる。こうした社会経済的問題の解決なくしては、個別テロ組織を壊滅しても中東地域の安定はもたらされず、中長期的な石油供給の安定化にもつながらないといえる。
著者
鈴木 啓助
出版者
信州大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

中部山岳地域の八方尾根、西穂高岳、乗鞍岳、木曽駒ヶ岳、御岳、八ヶ岳において積雪全層採取を行い、全層の詳細化学分析を実施中である。なお、乗鞍岳においては、同地点で複数回の採取を行い時間変化を検討する。さらに、特異な濃度変化を示す木曽駒ヶ岳については、尾根から山麓までの多点でのサンプリングを実施した。各採取地点において積雪全層の断面観測を行い、層構造が攪乱されていないことを確認し、積雪全層を3cm間隔で採取した。採取した雪試料は清浄なビニール袋に入れて実験室に持ち帰り、実験室で融解した後ろ過し、pHおよび電導度を測定した。また、イオンクロマトグラフ(DIONEX : DX-500)により主要イオン濃度を測定した。湿性沈着および乾性沈着によって大気から積雪中にもたらされた化学物質は、積雪表面からの融雪水の移動がなければ堆積した時の層に保存される。そのために、積雪全層から雪試料を採取することにより、初冬の積雪開始時から採取時までの積雪層の化学特性が時系列的に解析可能となる。現在までのところ、次のことが明らかになった。1.海塩起源物質であるNa^+やCl^-の濃度は、八方尾根、西穂高岳などの北アルプス北部では高濃度であるが、木曽駒ヶ岳や八ヶ岳などでは比較的低い濃度を示す。2.黄砂が観測された際には積雪中のCa^<2+>やSO_4^<2->の濃度が大きくなる。3.人為起源物質であるNO_3^-やnssSO_4^<2->の濃度は比較的どの地点においても高濃度の場合があり、特に、太平洋に近い地点での降雪では比較的高濃度になる。
著者
山浦 逸雄 矢島 征雄
出版者
信州大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

ヒマワリとケナフを10数本以上育成し,その中から比較的生長の早い数本を選び一週間毎に測定を行った.4月に種を播き,発芽生長後,茎の太さが測定可能になった7〜8頃より測定を開始し,ほとんど枯れた11月まで測定を行った.この間の気象は,アメダス他の観測によったが,平年に比べ特に異常ということはなく,植物の生長は順調だったといえる.根の接地抵抗は植物の生長とともに変化するが,大地の水分量によっても変化する.この影響を除去するため,昨年度には根の接地抵抗を地表に接する円板電極の半径に置きなおす等価半径の概念を導入た.今年度は,新たに測定電流と電圧の位相差に着目して,根の抵抗を複素インピーダンスに拡張して,その変化を詳細に調べることとした.測定実験から植物の根の電気的等価回路は抵抗と容量の並列回路で評価でき,それら相互の量的変化が生長過程を知る上で重要であることがわかった.この変化を表現するために昨年度導入した等価半径を複素数化して,今年度は複素等価半径を新たに定義した.この実数部は等価回路の純抵抗によって支配され,虚数部は等価回路の容量によって支配される.純抵抗の大小は根の全体的な大きさや組織の抵抗に依存する.植物組織において細胞壁や膜の機能が低下したり,壊れると抵抗は低くなる.容量は根と土の接触界面における状況や組織細胞の壁や膜の活性度によって変化する.活性が落ちると容量は低下する.以上の考えのもとに実測した複素等価半径のベクトル軌跡をX-Y平面に描き,生長とともにどのように変化するかを調べた.その結果,ヒマワリ,ケナフとも開花するまでの生長期には,実数部虚数部ともに増加がみられ,それ以後は虚数部の減少が顕著であり,枯れて行く過程で組織が不活性化する様子がよくわかった.植物の生長とともに複素等価半径のベクトル軌跡は概ね時計方向の半円を描くことがわかったことは大きな成果である.
著者
公文 富士夫 三宅 康幸 福島 和夫 石田 桂
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

長野市南部の高野層の補足的なボーリング(約3万~10万年前), 熊本市北部に分布する芳野層のボーリング(37m, 24~36万年前), 長野県川上村の川上湖成層のボーリング(38m, 15~25万年前?)を行った. 高野層については,新規に購入した密度計を利用して粒子密度の解明を行うとともに, 2本目のコア試料の解析によって, 有機炭素含有量等の変動の確認をおこなった. また, 芳野層については有機炭素量測定のほかに, 珪藻や花粉分析によるチェックを行い, 分析はほぼ終了している. 川上湖成層のコア試料については現在解析中である. また, 本研究において気候復元の中心となる有機炭素・窒素量の解析にあたって, 異なる堆積盆間の比較や統合を図るために標準化する手法を導入し, 過去16万年間の連続的な気候変動を明らかにすることができた. この結果に芳野層や川上湖成層の資料を繋ぎ合わせることによって, 過去40万年間の日本列島陸域の気候変動を解明する見通しをえた. また, 海洋および汎世界的な気候変動との正確な対応づけを図るために, JAMSTECによる下北沖コア試料の研究にも参画して, 気候資料を統合して古気候を復元するための準備を進めた.
著者
樋口 京一 細川 昌則
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

アミロイドーシスは微細なアミロイド線維が細胞外に沈着する病態であり、本来生理的機能を持つ蛋白質が線維状に重合、沈着し生体に傷害を与える。プリオンやマウス老化アミロイドーシスですでに存在するアミロイド線維がアミロイド蛋白と接触し、構造変換を誘導し雪だるま式に重合・線維沈着を引き起こすという「蛋白構造伝播仮説」が唱えられ、その検証がアミロイドーシスの発症機序解明のための重要課題となっている。マウス老化アミロイドーシスをモデルとして蛋白構造伝播仮説の検証を目指し以下のような研究を行った。 1.マウス老化アミロイド線維(AApoAII)投与によるアミロイド誘発 AApoAIIをマウスに投与(静脈内、腹腔内)しアミロイドーシスの発症を解析した。投与後1ヶ月で全マウスにAApoAII沈着が、3ヶ月で全身に重篤な沈着が確認され、アミロイドーシスが著しく促進された。 2.ProapoA-II蛋白質とアミロイド線維核岐成反応 アミロイド線維蛋白画分からAApoAII以外の小量沈着蛋白を精製した。小量蛋白質はapoA-IIのN末端にAla-Leu-Val-Lys-Argのプロペプチドが切断されずに残存しているproapoA-II蛋白であり、アミロイド線維中のproapoA-II濃度は血漿中の10倍に濃縮されていた。 3.AApoAIIアミロイド線維による感染の可能性 AApoAIIをマウスの消化管内に投与しアミロイド線維による感染の可能性を解析した。投与後2ヶ月で全てのマウスにアミロイド沈着が観察され、その後沈着が増大した。高齢マウスを若齢マウスと同一ケージ内で3ヶ月間飼育した結果、若齢マウスでアミロイド沈着が誘発された。 以上の結果からアミロイドーシスの蛋白構造伝播仮説はほぼ実証されたと考えている。今後は最初の線維核形成や線維伸長反応を抑制・促進する因子の解析が重要と思われる。
著者
羽二生 久夫 小山 省三
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

未熟児網膜症(ROP)モデルマウスにおける血管新生とその後の退縮・毛細血管再形成までのメカニズムの解明するために、我々はまず、出生後(P)7〜12日目に高酸素暴露を行ってROPモデルマウスを作製した。血管新生とその後の退縮・毛細血管再形成をフルオロセイン潅流後に、蛍光顕微鏡下で確認し、P14(相対的低酸素時)、P17(血管新生最大時)、P21(新生血管退縮時)、P28(毛細血管形成時)の4時系列とさらにP35の1時系列を加えてマウス網膜サンプルの採取と同時系列のコントロール網膜の採取も行った。時系列毎に4個の網膜を1回の2次元電気泳動のサンプルとして網膜を採取、さらに1群につき6回の2次元電気泳動を行う分として合計で240網膜を採取して、2次元電気泳動を行った。泳動ゲルはクーマシーブリリアントブルーで染色し、各群6枚の電気泳動ゲル、合計60枚のゲルの画像解析を行い、各ゲルで600個以上のタンパク質スポットを検出した。その後、各時系列のコントロールと比較し、ROP群で2倍以上、かつ有意差のあるゲル上のスポットを抽出したところ、それぞれの時系列で複数のスポットが見つかり、現在、質量分析計でそのタンパク質の同定を行っている。これとは別に、発達途中で一時的に発現上昇するNDRG1のROPモデルマウスでの発現変化も調べたところ、発現上昇がみられ、血管新生への関与が示唆された。一方で、血管新生機序の別の観点から、糖尿病網膜症モデルラットを作製し、こちらも2,12週での比較を行い、タンパク質の同定を完了した。これらのタンパク質の中には、直接血管新生に関わるという報告のあるタンパク質は見つからなかったが、いくつかのストレス反応性タンパク質の発現変化があり、血管新生前にストレス反応性タンパク質の関与が示唆された。
著者
乙部 厳己
出版者
信州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

通常のWiener空間を含む一般のガウス測度の導入された連続関数の空間における、指定された値以上の関数からなる自然な凸集合に対して発散定理を定式化した。それによって発散定理の性質が速度のマルコフ性よりもむしろ、ガウス測度とその最大値のもつある種の正則性によって制御されていることを示した。またフラクタル集合上のパーコレーションの臨界確率を数値解析によって得たほか、特異な外力項を持つ相互作用粒子の運動を可視化、レヴィ型の雑音項を持つ偏微分方程式の解の挙動の可視化などに成功した。これによって新しい知見のもとで正則性に関する予想とそれに対する数学的に厳密な証明を与えることにも成功した。
著者
川島 一夫
出版者
信州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

児童の愛他心の形成における欲求ー価値理論の検討著者は、川島(1989)において、愛他行動の発達における、情況的抑制要因と促進性個人内要因について検討を行い、発達的に2つの異なる要因が影響することを明らかにしてきた。前年度では、その検討結果と、高野(1989)の欲求ー価値理論との関係において、児童の情動反応としての愛他心の形成において、影響する欲求ー価値の関係を調査しクラスタ-分析による検討を行なった。本年度はその結果ににもとづき、2つの実験を行なった。第1実験では、愛他行動の発達の過程において、その動機づけの理由としてどのようなものが影響しているのかについて検討した。そこで検討されたことは、1愛他心についての基準の形成の過程で、社会的あるいは物的な報酬のどちらが各年齢段階で影響しているか。2Mussen(1977)らのいう内面化された動機や自己報酬(内在的報酬)は、どの段階から効果を持つようになるのか。3愛他行動の内在化の過程において緊急度とコストによって分けられた3種の愛他行動は異なった動機の発達をする、ということであった。その結果、寄付行動で、社会的強化を愛他行動の基礎とする児童が増加し、自己強化をその動機であるとする児童は、四年生で最大となり、六年生で減少していることが明らかとなった。第2実験において、欲求ー価値理論に基づいた、児童の愛他行動における要求の認知について検討を行なった。第1実験と同様の絵画を用いて愛他行動場面での要求の認知の検討が行なわれた。その結果、年齢の主効果が有意であった。すなわち、愛他行動の場面での要求の認知は、年齢とともに上昇した。また、愛他行動の種類によって異なる傾向が見られた。すなわち、救助行動は、どの学年においても、要求の認知が高い傾向が見られた。
著者
角尾 篤子
出版者
信州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

1.戦後の教育改革の中で、CIE内部にも高等教育についていわゆるヨーロッパ型教育を提唱する者と、より幅広い大衆に対する高等教育を考えるアメリカ型の考え方を推進する二つの考え方が存在した。2.1の問題については、当時の文部省内における考え方とも連携しており、旧制の専門学校についての短大構想とも結びついていた。3.Holmesと教育課で一緒に教育改革の仕事をしていたWiggleswirthの帰国後、米国で短期大学連盟の理事をしていたEellsがその後任として着任し、今までの、教育課の政策からはずれた様々な見解を展開し、Holmesの4年制新制大学推進案と鋭く対立し、高等教育プロジェクトが停滞させられた。4.戦前日本の教育事情を実際に体験していたHolmesは、大学が自ら大学設置基準を策定し、日本の高等教育を推進していく為の大学基準協会を創立させた。5.Holmesは、加えて日本の女子高等教育の必要性から、二つの国立女子大学の創設、私立の女子大学の設立、家政学部の創設に重要な役割を果たした。6.民主主義を推進するためには、草の根からの日本社会の変革が必要と考えたHolmesは、大学婦人協会、全国女子学生連盟などの組織化に尽力した。7.女子に対する差別教育を撤廃するために、小学校から男女共修の家庭科を履修させるカリキュラムを、Holmes,Donovan,山本松代等が中心になって作り上げた。
著者
片長 敦子
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

非退化な斉次多項式で定義された超曲面単純K3特異点のリンクとして現れない実5次元多様体が,非退化な斉次多項式でない多項式で定義された超曲面単純K3特異点のリンクとして無限個実現できた.さらに,非退化な斉次多項式で定義された超曲面単純K3特異点のリンクの微分同相型は,例外集合として現れる正規K3曲面の特異点の構造と関連していることを明らかにした.また,ある複素3次元超曲面孤立特異点の実5次元リンクの実7次元球面へのはめ込みを,ある条件のもとで正則ホモトピーに関する分類を行った.
著者
平尾 章
出版者
信州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

エコタイプとは同じ種に属しながら、異なる環境に適応して遺伝的分化を遂げたもののことであり、生物多様性を生み出す供給源となる。高山植物ミヤマキンバイでは、風衝地と雪田という対照的な立地環境に適応したエコタイプの分化が、複数の山岳地域で多発的に生じていることが明らかになった。「天空の島々」のように互いに隔離されながらも平行進化的にエコタイプ分化が生じているミヤマキンバイは、生物多様性の創出メカニズムを研究する上で有用なモデル系となる可能性がある。
著者
小松 孝太郎
出版者
信州大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

本研究は,証明の学習状況を改善するために,数学的探究において「操作的証明」(action proof)を活用する活動に着目し,その児童・生徒の活動を促進する方法を明らかにしようとするものである。本研究では,数学教育学の文献解釈,題材の数学的な分析,そして小学五年生及び中学三年生を対象とした教授実験の実施とその分析から,児童・生徒の活動を促進する教材を開発するための指針を得た。
著者
野村 彰夫 斉藤 保典
出版者
信州大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

最終目標を"生活空間圏におけるバイオおよび有機微粒子動態の解明と制御"に置き、(1)太陽背景光の地上到達成分の精密計測(平成16年度に終了)と、(2)バイオ微粒子のレーザー発光スペクトル情報の取得(平成17年度課題)、について検討してきた。主な成果は次の通りである。1)花粉蛍光スペクトルのデータベース作成:バイオ微粒子代表として花粉を選び、蛍光スペクトルのデータベースを作成した。花粉症の主物質であるスギ、ヒノキ、ブタクサの他に、果樹や鑑賞植物等の花粉を含め20品目のデータが入力された。2)発光スペクトル計測システムの製作:励起には波長355nmのパルスYAGレーザを使用した。微弱な蛍光発光を効率良く集光するために、直径25cmの天体望遠鏡を利用した。蛍光発光は分光器でスペクトルに分解された後に、イメージインテンシファイアー付きのCCD検出器で検出された。3)発光スペクトル観測実験:3-1スギ花粉:システムから25m離れた位置にスギ花粉塊を置き、その発光スペクトルを観測した。480nmにピークを持つなだらかなスペクトルが得られた。3-2ヒノキ花粉:440nmにピークを持ち420nmに肩を有するスペクトルが得られた。スペクトル形状の比較により、スギとヒノキの花粉を区別できることが示された。3-3植物葉:40m離れた自生ポプラの葉の蛍光スペクトルを観測した。クロロフィル有機分子に由来する685nmと740nm、光合成の代謝二次産物に由来する460nmと530nmの特徴的なスペクトルが観測された。3-4ごみ焼却排煙:約3km離れた大型ゴミ焼却炉からの排煙の散乱検出実験を行った。廃出源から少なくとも1.6km以上に渡る拡散状況の三次元分布を得た。
著者
岩崎 徹也
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

中東・イスラム地域におけるイスラム原理主義台頭の経済的根拠としては、石油の高価格を前提に、石油化学、石油精製などエネルギー集約型重化学工業を基軸に国内開発を促進しようとした産油国型開発戦略が、需給緩和・OPECカルテル機能低下により破綻したところへ、人口爆発が重なったことによる過剰人口問題、とりわけ若年層の雇用問題が重要な要素として挙げられる。経済開発の低迷と石油ブーム期以降の医療機関の整備による人口増加により、結果として若年層の雇用問題が顕在化し、アラブ民族主義や社会主義の破綻によって青年層の不満はイスラム原理主義へ向かうこととなった。産油国型開発が破綻した現在、発展途上国開発の成功モデルは、外国資本の直接投資に依存した輸出指向型開発戦略しかないが、中東地域の政治は安定せず、石油の輸出・収入の影響によりコスト・為替レートは、他の途上国と比べて一般的に高く、同地域への直接投資は、アジア、中南米などと比べ、著しく少ない。産油国をはじめとする中東諸国でも、近年、構造改革を実施する一方、直接投資受入れのための投資保障措置の拡大などの施策を行っているが、必ずしも十分なものではない。中東地域の諸国の多くは、君主制や共和制の形式をとった軍事独裁政権で、福祉による国民融和は不可欠だが、財政均衡化のためには、増税や福祉関連支出の削減が必要である。しかし、福祉の削減は国民の不満を拡大し、同地域の一層の不安定化につながる可能性もある。膨大な低コストの労働力を有する中国の輸出指向型工業化が進展する現在、中東地域で構造改革が進展し、労働コストが多少低下したにしても、同地域に外国資本が重点的に投資をするという可能性も低い。当面、産油国としては、他ならぬ中国の世界市場参入・高成長を一因とする資源需給の逼迫を利用しつつ、石油収入を増加させ、国内開発を促進するという戦術をとることになろうが、70年代型の開発戦略は破綻しており、新戦略の模索を続けざるを得ないだろう。
著者
辻井 弘忠 赤羽 明子
出版者
信州大学
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.125-138, 1994-12

本実験では,日本在来馬のうち木曽馬を中心に電気泳動法を用いて血液蛋白質型を分析し,遺伝形質としての特徴を解析することを試みた。供試馬は,木曽馬24頭の他に,北海道和種,対州馬,トカラ馬,サラブレッド,ブルトンおよびペルシュロンを用いた。血液蛋白質型の分析に用いた電気泳動法は,水平式ポリアクリルアミドグラジェンゲル電気泳動法(HPAGE法),ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(PAGIEF法),澱粉ゲル電気泳動法の3種を用いた。各血液蛋白質型の対立遺伝子頻度を算出した結果,遺伝子構成には馬種間の差異があることが判った。特に,Tf(トランスフェリン)型,Es(エステラーゼ)型およびHb(ヘモグロビン)型においては,馬種間の差異のみならず,日本在来馬とサラブレッドおよび重種馬の遺伝子構成の違いを認識することができた。つまり,Tf型に関しては,TfF は木曽馬のみに,TfH1は北海道和種のみに,TfF1 はサラブレッドのみにみられた。Es型に関しては,EsH は木曽馬および北海道和種に,EsO は木曽馬のみにみられた。また,Hb型に関しては,HbAはトカラ馬を除く日本在来馬のみに見られた。また,木曽馬において従来報告されたものと比較して,頭数の急激な減数が始まる前と後では遺伝子構成に変動がみられた。特にTf型では,消失したと思われる対立遺伝子を2種類確認できた。これは集団サイズの急激な縮小による機会的遺伝浮動の影響であると考えられた。
著者
駒村 哲
出版者
信州大学
雑誌
信州大学教養部紀要 (ISSN:13409972)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.119-132, 1995-02
著者
熊代 克巳 建石 繁明
出版者
信州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

1.リンゴ、ナシ、モモ及びブドウに対して通常の防除暦に従って薬剤散布を行い、葉の純光合成速度(Pn)、蒸散速度(Tr)及び気孔拡散伝導度(Gs)の消長を調べた。その結果、Pn、Tr及びGs共に、薬剤散布直後には低下し、1日後にはかなり回復するという経過を繰返した。2.供試薬剤のうち最も顕著な抑制作用を示したのはビ-ナイン(主成分SADH)で、正常に回復するには約10日を要した。そして、その抑制は高濃度液ほど、また若齢葉ほど顕著であった。3.リンゴの収穫前落果防止の目的で散布するオ-キシン剤は、Pn、Tr及びGsに対する抑制は軽微で、散布後1日目にほとんど正常に回復した。4.殺虫剤スミチオンの粉剤、水和剤及ぴ乳剤をナシに散布して、Pn、Tr及びGsに及ぼす影響を比較したところ、乳剤の抑制作用が最も著しく、粉剤の影響が最も小かった。5.浸透性の強い展着剤に温州ミカンの葉を浸漬した後、徒手切片を作成して、落射蛍光顕微鏡で観察したところ、浸漬直後には気孔周辺に浸漬1日後には海綿状組織及び柵状組織に、自己蛍光を発生する細胞が認められた。このことから、たとえ肉眼的な薬害症状が認められない場合でも、細胞が何らかの生理的障害を受ていることが推察された。6.各種薬液に葉を浸漬した後に、走査型電子顕微鏡を用いて、気孔の開度を調べたところ、各薬液共に、浸漬直後には気孔の開度を低下させ、高濃度液ほど閉鎖作用が著しかった。ただし、ボルド-液に浸漬した場合には、開閉機能が失なわれて開いたままの気孔が散見された。
著者
西井 良典
出版者
信州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

1.ジクロロシクロプロパンの2つのC-Cl結合の連続的高立体選択的変換反応の開発a)ジクロロシクロプロパンの高立体選択的ラジカル的アシル化反応b)1-クロロシクロプロパンカルボン酸エステルのReformatsky型C-C結合形成反応ジブロモシクロプロパンのC-Br結合のC-C結合への変換は数多く報告されているが,C-Brよりも強固なジクロロシクロプロパンの2つのC-CI結合のC-C結合への変換は報告されていない。昨年度,a)ジクロロシクロプロパンの高立体選択的ラジカル的アシル化反応を見出した(Org.Lett.2007,9,563.)。1段階目のC-Cl結合のアシル化反応である。さらなる展開として,この反応の生成物を用いて,2段階目のC-Cl結合の変換反応としてSml_2を用いる高立体選択的なReformatsky型C-C結合形成反応を見出した(投稿準備中)。これらの反応により,初めてジクロロシクロプロパンの2つのC-Cl結合のC-C結合への変換することができるようになった。2.光学活性ジクロロシクロプロパンカルボン酸の不斉アミンを用いる光学分割法および光学活性アルコールとのエステルとしジアステオマ-をカラムで単離し,光学活性ジクロロシクロプロパンカルボン酸に変換する分割法を見出した(Org.Biomol.Chem.2008,6,540-547.)。3.ジクロロシクロプロピルケトンの環拡大反応を用いる非対称多置換チオフエン類の合成と応用:昨年度,見出したシクロプロパン環開裂および脱HClを伴う非対称多置換チオフェン環形成反応を応用し,β-アミロイド捕捉類縁体とされる非対称多置換2,5-ジアリールチオフエン類の合成を達成した。特に3,4位に置換基を有する10種類の2,5-ジアリールチオフェン誘導体を合成した(投稿準備中)。