著者
林 真輝 田村 康宏 大谷 陽範 森岡 みほ子 笹本 剛生 橋本 常生
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.223-228, 2020-12-25 (Released:2020-12-25)
参考文献数
20

魚介類中のトリブチルスズ化合物(TBT)およびトリフェニルスズ化合物(TPT)の高速溶媒抽出装置(ASE)およびLC-MS/MSを用いた分析法を開発した.LC分離は,コアシェル性オクタデシル化シリカゲルカラムを用いて0.1%ギ酸70%メタノール溶液によるアイソクラティック移動相条件で行った.試料を抽出温度125℃,抽出溶媒n-ヘキサンの条件でASE抽出し,フロリジルカートリッジカラムを用いて精製した.これらにより,脂質が多い魚介類に対しても適用可能となった.定量は重水素標識したTBTおよびTPTを用いたサロゲート法により行い,検量線は0.2~250 ng/mLの範囲で直線性が得られた.本法による定量下限値はTBT,TPTともに0.8 ng/gであった.本法を用いて,TBTおよびTPTの認証値が付与されたホタテ貝柱の環境標準物質の分析を行ったところ,分析値は認証値と有意差がない結果が得られた.スズキ,ボラ,アナゴ,カレイ,アサリを対象に2併行,5日間の添加回収試験を行った結果,真度89.3~105.3%,併行精度(RSDr) 1.0~4.5%,室内精度(RSDwr) 1.3~7.6%の良好な結果が得られた.
著者
佐々木 隆宏 田原 正一 豊原 律子 森川 麻里 坂牧 成恵 貞升 友紀 牛山 慶子 山嶋 裕季子 小林 千種
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.229-234, 2020-12-25 (Released:2020-12-25)
参考文献数
8
被引用文献数
2

第2版食品中の食品添加物分析法の方法(2版法)において,チーズでは抽出液が懸濁する場合,固形物が浮遊して定容が困難な場合,夾雑成分によりHPLC-UV分析が困難な場合がある.清酒では,共沈操作が不要と考えた.そこで,チーズについては抽出液の懸濁の原因となる水酸化ナトリウム溶液の添加量を減らし,固形物を除くため吸引ろ過後に定容する方法を確立した.清酒については,希釈後,遠心分離する方法とした.また,カーボンモレキュラーシーブが充てんされたカートリッジによる固相抽出法も開発した.添加回収試験(n=5)では,91.3~99.6%(CV 0.9~4.5%)と平均回収率および併行精度が良好であり,チーズで0.010~0.20 g/kg,乳で0.010~0.20 g/L,清酒で0.010~0.10 g/kgの範囲に適用可能であった.本法は2版法の問題を解消し,操作が効率的である点で有用な分析法と考えられた.
著者
吉田 精作 渡邊 美咲 橋本 多美子
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.218-222, 2020-12-25 (Released:2020-12-25)
参考文献数
15
被引用文献数
1

精白米の調理過程における有機リン系難燃剤(PFRs)の消長を検討した.精白米にPFRsを添加(500 ng/g)した後,水洗および炊飯を行い,PFRsの減少を観察した.3回の水洗において,観察した7種類のPFRsでは添加量の68~86%が除去された.最初の水洗において,添加量の約50~70%のPFRsが除去されていた.水洗および炊飯後の飯中PFRsの除去率は,電気炊飯器では74~94%,電子レンジ炊飯器では78~96%であった.水洗なしの無洗米(500 ng/g)での除去率は水洗および加熱をした場合より低く,電気炊飯器では10~50%,電子レンジ炊飯器では10~70%であった.精白米からのPFRs摂取量の低減には,炊飯前の水洗が効果的である.
著者
桑原 克義 福島 成彦 田中 凉一 宮田 秀明 樫本 隆
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.354-361_1, 1986
被引用文献数
2

ムラサキイガイに残留する低極性有機蛍光物質濃度の数値化の試みとして, 蛍光分析と蛍光検出器付きHPLC分析を行った. 蛍光分析では, 大阪港, 京都舞鶴, 北海道各海域でよく類似したスペクトル (Ex λmax=ca.310; Em λmax=ca.350nm) を与えた. HPLC分析では, 共通する残留性のピークとその他のピークに別れた. 試料間で, 蛍光分析で約10倍, HPLC分析で約100倍以上の差が得られ, 本方法が上記化合物による海産食品汚染監視の一指標になるものと考えられた.
著者
ガン エン 松藤 寛 千野 誠 合田 幸広 豊田 正武 武田 明治
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.298-303, 2001-10-25 (Released:2009-03-25)
参考文献数
11
被引用文献数
2 4

市販食用緑色3号(主色素:HSBA-(m-EBASA) (m-EBASA), m,m-G-3)に含まれる付随色素について,高速液体クロマトグラフを用いて分析したところ,8つの付随色素の存在が確認された.それらの中で,4つの付随色素(付随色素 C, F, G, H)を精製単離し,質量分析計並びに核磁気共鳴分光計を用いて構造決定した.付随色素Cはm,p-G-3, 付随色素FはHSBA-(ethylaniline: EA)(m-EBASA), 付随色素Gは HSBA-(di-EA) (m-EBASA), 付随色素Hは HSBA-(ethylbenzylaniline: EBA)(m-EBASA)であった.付随色素Gは,これまでに報告例のない新規な付随色素であった.
著者
大西 貴弘 古屋 晶美 新井 沙倉 吉成 知也 後藤 慶一 工藤 由起子
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.61, no.5, pp.183-185, 2020-10-25 (Released:2020-10-30)
参考文献数
7

360の化学薬品をスクリーニングし,71の薬品が抗クドアセプテンプクタタ効果を有していることを明らかにした.71薬品のうち,19薬品が抗生物質,7薬品が抗菌剤・消毒剤であった.他の45薬品は農薬,自然毒,産業薬品および感染症以外に対する薬剤であった.抗クドア効果を有していた19の抗生物質はテトラサイクリン系,ステロイド系,マクロライド系,アミノグリコシド系,β-ラクタム系,キノロン系,リファマイシン系,ポリエン系,ノボビオシン系,スルファ剤,ニトロイミダゾール系に分類された.これらの薬品をクドア感染の予防に使用するためには,効果的な濃度を決定するための研究がさらに必要である.
著者
下島 優香子 神門 幸大 添田 加奈 小池 裕 神田 真軌 林 洋 西野 由香里 福井 理恵 黒田 寿美代 平井 昭彦 鈴木 淳 貞升 健志
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.61, no.5, pp.178-182, 2020-10-25 (Released:2020-10-30)
参考文献数
14
被引用文献数
6

パスチャライズド牛乳によるBacillus cereus食中毒のリスクを把握する目的で,汚染実態および分離菌株のセレウリド産生性を調査した.国産パスチャライズド牛乳14製品101検体中66検体(65.3%)からB. cereusが分離された.分離されたB. cereus90株についてces遺伝子を調査した結果,3検体(1製品)由来3株が陽性であった.分離されたces遺伝子陽性株,標準菌株および食中毒事例由来株の計3株を牛乳に接種して32℃で培養後,近年開発されたLC-MS/MS法を用いて測定を行った結果,いずれもセレウリドの産生を確認した.LC-MS/MS測定は,牛乳中でB. cereusが産生したセレウリドの検出にも有用であった.今回,国産パスチャライズド牛乳におけるB. cereus汚染実態およびセレウリド産生性B. cereus株の存在を明らかにし,牛乳中のLC-MS/MS法によるセレウリド検出法の妥当性を確認した.
著者
後藤 慶一 廣瀬 昭博 折笠 旦継 佐藤 瑛吏 尾入 且基 久保田 かおり 井上 瑠奈 中山 素一
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.61, no.5, pp.200-205, 2020-10-25 (Released:2020-10-30)
参考文献数
13

開栓したペットボトル入り清涼飲料水中における微生物の増殖挙動を評価するため,各種微生物の標準菌株を用いて接種試験を行った.約1.0×104cfuの微生物を250mLの各種清涼飲料を入れた500mLのペットボトルに接種し,4 °C・静置,25 °C・静置,35 °C・静置および35 °C・振とうの条件で1週間培養した.経時的に菌数測定を行い,先行研究「清涼飲料水中の汚染原因物質に関する研究」2)~4)の結果と比較した.その結果,トマトジュースとLactobacillus fermentum,スポーツドリンクとCandida albicans,およびミネラルウォーターとKlebsiella pneumoniaeの組み合わせは,分離株を用いて評価した先行研究と類似した増殖性が観察された.しかしながら,緑茶,混合茶,オレンジジュースおよびミルク入りコーヒーでは,標準菌株の増殖性は弱い傾向で,これは,清涼飲料水中に含まれている成分によって微生物の増殖が阻害されたと推察された.以上の結果から,標準菌株と腐敗物からの分離株では増殖性が異なることがあり,安全性評価をするうえでは注意を要することが明らかとなった.
著者
坂井 隆敏 菊地 博之 縄田 裕美 根本 了 穐山 浩
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.61, no.5, pp.171-177, 2020-10-25 (Released:2020-10-30)
参考文献数
6
被引用文献数
1

畜産物中のフィプロニルおよびその主要代謝物であるフィプロニルスルホンについて,LC-MS/MSを用いた迅速かつ高感度な分析法を開発した.試料からn-ヘキサンおよび無水硫酸ナトリウム存在下,酢酸酸性下アセトニトリルで抽出し,中性アルミナカートリッジカラムを用いて精製した.測定はLC-MS/MSを用い,ESIによるネガティブイオンモードで行った.開発した分析法を用い,畜産物6食品について添加回収試験(各食品n=5)を実施したところ,基準値相当濃度を添加した場合の真度および併行精度はフィプロニルでそれぞれ95~115および0.8~4.1%,フィプロニルスルホンでそれぞれ94~101および0.9~5.1%であった.また,添加濃度0.001mg/kgの場合の真度および併行精度も良好であった.確立した分析法の定量下限値はフィプロニルおよびフィプロニルスルホンともに0.001mg/kgと推定された.本分析法は畜産物中の基準値の適合性の判定に有用な方法と示唆された.
著者
髙本 亜希子 石橋 弘志 福島 聡 友寄 博子 有薗 幸司
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.61, no.5, pp.192-199, 2020-10-25 (Released:2020-10-30)
参考文献数
49
被引用文献数
1

本研究では,日本,ベトナムおよびインドネシアで栽培され,各国で販売されている精米(Oryza sativa L.)63試料を対象として,カドミウム(Cd)およびヒ素(As)濃度の測定を行い,米摂取による成人および小児のCdとAsの推定一日摂取量を算出した.精米中のCdおよびAs濃度は,誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)を用いて測定した.日本,ベトナムおよびインドネシア産米中のCd濃度の50%タイル値は0.036,0.035および0.022mg/kg,As濃度の50%タイル値は0.101,0,142および0.038mg/kgであった.また,3か国の米のCdおよびAs濃度を比較したところ,Cd濃度では有意差は認められなかったが,ベトナム産米のAs濃度は日本およびインドネシア産米よりも有意に高かった.3か国の米からのCdあるいはAs摂取による成人と小児への非発がん性へのリスクを評価するため,Target hazard quotient (THQ)を算出した.3か国の米において,CdあるいはAs摂取による小児のTHQの50%タイル値は成人のTHQの50%タイル値よりも高かったが,これらのTHQの50%タイル値は1未満であり,非発がん性への健康リスクが低い可能性が示唆された.
著者
櫻木 大志 鈴木 昌子 大野 浩之
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.61, no.5, pp.206-209, 2020-10-25 (Released:2020-10-30)
参考文献数
1
被引用文献数
1

各種ミネラルウォーター類における全有機炭素(TOC)の測定法を確立し,妥当性が確認できた.ミネラルウォーター類には,炭酸含有の有無,硬度の高低などさまざまな製品がある.炭酸を含有しないミネラルウォーターは硬度の高低にかかわらず,水道水と同様の測定条件で妥当性が確認された.しかし,炭酸を含有し硬度が中硬度,高硬度の2種類のミネラルウォーターは正確な測定ができなかった.そこで,試料から炭酸を効率的に除去する条件を検討した.測定条件の通気時間を長くし,塩酸の添加率を上昇させることで,無機炭素の影響を抑えることによりこの2種類のミネラルウォーターでも測定結果が安定して,妥当性が確認できた.これらの結果により,本法はさまざまな種類の市販ミネラルウォーター中のTOCを正確に測定できる有用な方法であると考える.
著者
大谷 陽範 田村 康宏 佐藤 菜緒 林 真輝 森岡 みほ子 橋本 常生
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.61, no.5, pp.186-191, 2020-10-25 (Released:2020-10-30)
参考文献数
9

高速溶媒抽出装置(ASE)およびGC-MS/MSを用いた魚類中PCBs分析法の対象食品拡大を検討したところ,特定の食品において低塩素化PCBs(一部の3~4塩素化PCBs)の回収率が低値を示すことが判明したため,分析法の改良を試みた.スズキ・牛乳において,ASE抽出前の凍結乾燥を実施しても十分な改善は認められなかったが,固相抽出カラムをシリカゲル/硫酸シリカゲル積層カラムに変更することにより低塩素化PCBsの回収率が著しく向上した.本法を他の食品においても評価するため,魚類,肉類,卵類,乳および乳製品中のPCBs分析を行った.測定対象は3~7塩素化PCBsとし,試料を抽出温度125 ℃,抽出溶媒n-ヘキサンでASEにて抽出の後,シリカゲル/硫酸シリカゲル積層カラムで精製し,GC-MS/MSで測定した.3~7塩素化PCBsの定量下限は0.03~0.16μg/kgであった.各食品で5併行の添加回収試験を行った結果,3~7塩素化PCBsの回収率は84~112%,変動係数は1~9%であった.
著者
中川 一夫 池内 真理 次田 陽子
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.425-427, 1986
被引用文献数
2 6

植物性食品材料54種中のグルタチオン含有量を酵素サイクリング法を用いて定量したところ, 0.07~28.7mg/100gの範囲にあった. これらの食品材料のなかでは, ホウレンソウ, キャベツ, シロナ, パセリ, キュウリ, カボチャ, トマト, サヤエンドウ, ソラマメ, エノキタケには相対的に高いグルタチオン含有量が認められたが, 動物肝グルタチオン量に比べると低く, およそ10分の1以下にすぎない.
著者
早川 亮太 小林 直樹 加藤 登 工藤 由起子 荒木 惠美子
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.402-409, 2013-12-25 (Released:2013-12-28)
参考文献数
20
被引用文献数
2

日本で流通する日本産海産魚におけるヒスタミン生成を明らかにするために,市販の73魚種について筋肉および腸管を混合したヒスタミン生成モデル試料を作製した.25℃で12時間保存した結果,35魚種において50 mg/kg以上のヒスタミン生成が認められ,これらの魚種がヒスタミン食中毒の原因となる可能性が示唆された.また,1か月の-45℃凍結によるヒスタミン生成の低減の検討では,一部魚種についてヒスタミンが生成され,ヒスタミン生成菌としてPhotobacterium damselaeおよびPhotobacterium iliopiscariumが分離されたが,全魚種について,ヒスタミン生成が低減したことから,この方法が有効なヒスタミン生成の制御方法であることが明らかになった.
著者
シャヒーム エラヒ 藤川 浩
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.138-142, 2020-08-25 (Released:2020-10-02)
参考文献数
20

黄色ブドウ球菌食中毒は食品中で産生されたブドウ球菌エンテロトキシン(SE)によって起こる.本食中毒はSE型の中で多くの場合,エンテロトキシンA (SEA)が原因物質である.各種食品中での本菌の増殖とSEA産生に関する研究は多いが,パンに関する研究はほとんどない.そこで本研究では通常のパン製造工程において,パン生地発酵中のブドウ球菌増殖とSEA産生性,さらに焼成中のSEA失活について検討した.25または35℃で4時間の発酵中,パン生地(全重量約470 g)中での本菌増殖およびSEA産生は認められず,このような条件の発酵中,生地におけるSEA産生リスクは無視できるほど小さいと推察された.一方,生地に接種したSEA (6.0および0.56 ng/g)は200℃の焼成中それぞれ20および10分後には検出できなかった.この結果は生地の焼成時間(25分)でこれらの濃度のSEAを十分に失活させることを示した.本研究で得られた製造過程における生地中のSEA産生および失活の結果はパン製造における微生物学的な食品安全のための有用な情報となるであろう.
著者
石﨑 直人 鎌田 洋一 古畑 勝則 小西 良子
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.132-137, 2020-08-25 (Released:2020-10-02)
参考文献数
34

ブドウ球菌食中毒(SFP)は黄色ブドウ球菌(SA)が産生する嘔吐毒であるブドウ球菌エンテロトキシン(SEs)により引き起こされる.SEsには古典型と新型が存在するが,近年食品から両方の型を有するSAが多く検出されている.なかでもブドウ球菌エンテロトキシンQ (SEQ)はSFPにつながる潜在的なリスクが高いと考えられている新型SEsである.そこで,食品中におけるSAの菌数と古典型SEAおよびSEQの産生量との相関性を,スクランブルエッグをモデルとして条件をpH 6.0,7.0および8.0,塩分濃度0.5および1.0%,静置温度25℃に設定し検討した.SAの菌数はすべての条件で24時間後では107/10 g以上,48時間後では109/10 gとなった.SEAの産生はすべての条件で24時間後に確認された.SEQは,NaCl 1.0%加スクランブルエッグではいずれのpHにおいても24時間後に検出されたが,NaCl 0.5%下でのpH7.0と8.0では24時間では検出されなかった.SEQの産生量はSEA量より少なかったが,SEQは比較的低いpHおよび水分活性のスクランブルエッグにおいては産生されやすく,SFPの発症に関与する可能性があることが示唆された.
著者
吉成 知也 渡辺 麻衣子 大西 貴弘 工藤 由起子
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.119-125, 2020-08-25 (Released:2020-10-02)
参考文献数
27

フモニシンはフザリウム属菌が生産するカビ毒で,主にトウモロコシやその加工品に検出される.近年,遊離型のフモニシンに加え,そのモディファイド化合物もトウモロコシ加工品に存在することが報告されてきた.モディファイドフモニシンの毒性や汚染実態については明らかになっていないことが多い.本研究では,日本人の健康に対するモディファイドフモニシンのリスクを評価するために,日本に流通するトウモロコシ加工品に含まれるモディファイドフモニシンを解析した.食品検体中の遊離型とモディファイドフモニシンをまとめてアルカリ処理し,加水分解フモニシンへと変換し,LC-MS/MSで定量した値を全フモニシン量とした.コーンフレーク,コーンスナック,コーンフラワーおよびコーンスープにおける全フモニシン量は,遊離型フモニシンに対してそれぞれ4.7,2.8,2.1および1.2倍であった.全フモニシン量を用いて日本人におけるコーンスナックとコーンフレークからのフモニシンの一日平均摂取量を算出した結果,遊離型フモニシンを用いて算出した場合の3倍となった.これらの結果より,フモニシンの真のリスクを評価するためには,モディファイドフモニシンも含める必要があると考えられた.
著者
杉山 広 森嶋 康之 賀川 千里 荒木 潤 巖城 隆 小松 謙之 味口 裕仁 生野 博 川上 泰 朝倉 宏
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.103-108, 2020-08-25 (Released:2020-10-02)
参考文献数
20
被引用文献数
2

回虫は土壌伝播蠕虫の代表となる寄生虫で,ヒトは虫卵に汚染された植物性食品を摂食して感染する.日本では少数の国内感染症例が継続的に報告されているが,症例数の推移や感染源となる植物性食品の汚染状況は不明な点が多い.そこで,近年の回虫症例発生状況および感染源を明らかにするため,日本臨床寄生虫学会誌,PubMedおよび医中誌Webを用いた文献検索,および臨床検査機関・食品検査機関を対象としたアンケートによる聞き取り調査を行った.文献検索の結果では,1990より2018年の29年間に計193例の回虫症例が確認された(年平均6.7例).しかし2002年以降の報告数は激減し,年平均1.3例にとどまった.臨床検体における回虫症例数も,2000から2008年の年平均19.7例が,2009年以降2.8例と激減した.回虫の感染源となる植物性食品は12,304検体が検査されたが,アニサキス類の幼虫が検出された(11例)ものの,回虫は検出されなかった.ただしキムチは,173検体中の1検体から虫卵が検出され,回虫の感染源であることが疑われた.回虫症例は減少傾向が明らかだが,いまだに発生は確認され,このために感染源を特定して予防対策を確立するために,食品の調査を今後も継続する必要があると考えられた.