著者
中島 崇行 大塚 健治 富澤 早苗 増渕 珠子 八巻 ゆみこ 上條 恭子 吉川 聡一 髙田 朋美 小鍛治 好恵 渡邊 趣衣 大澤 佳浩 橋本 常生
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.154-160, 2020-08-25 (Released:2020-10-02)
参考文献数
23
被引用文献数
2

食品中の残留農薬分析において,ある農薬の定量値が正しいかどうかを確認するため,異なる機器を使用して定量値の確認を行うことがしばしばあるが,それぞれの機器の値が完全に一致することは珍しい.本研究では,食品毎にどの程度違いがあるかを比較するため,当研究室の日常検査法を用い,121成分,6種類(グレープフルーツ,ばれいしょ,パプリカ,キャベツ,ほうれんそう,玄米)の食品について,GC-MS/MSおよびLC-MS/MSそれぞれの機器で妥当性評価を実施し,その結果を主に真度に着目して比較した.その結果,GC-MS/MSでは,上述の食品において97,111,110,118,111,63成分が基準に適合した.一方LC-MS/MSでは,50,114,103,112,100,103成分が基準に適合した.これら両機器の結果の差は,主にマトリクス効果によるものだと考えられ,マトリクス効果の補正によりそれぞれの真度は近似した.しかし真度の一致度については食品試料による差が大きく,特に玄米ではマトリクス効果を補正しても両機器の真度の差は20%以上であった.
著者
小野 高明 上田 三都子 辻 正康 川本 千代実 山根 伸久
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.148-153, 2020-08-25 (Released:2020-10-02)
参考文献数
13
被引用文献数
1

福山市内を流通する乳のアフラトキシンM1 (AFM1)汚染と時期および地域による関連性を知るため,2018年6月~2019年1月にかけて夏期および冬期の各1回調査を行った.また,AFM1汚染の知見が少ない乳飲料について,福山市内を流通する同時期の乳飲料のAFM1汚染度を乳と比較した.結果はすべての乳でAFM1の基準値(0.5 μg/kg)未満となった.時期別の比較では夏期の牛乳1検体がEUの基準値(加熱処理乳:0.050 μg/kg)を超える濃度(0.07 μg/kg)を示したが,AFM1汚染度に有意差はなかった(p>0.05).地域別の比較では,乳のAFM1汚染度について冬期は中国地方のほうがその他地方より有意に高く,夏期は有意に低かった.乳のAFM1汚染は,時期または地域による直接的な関連性があるわけではなく,供与する飼料の種類,量,管理方法による影響を受けると考えられた.乳および乳飲料の比較では,乳飲料のAFM1汚染度のほうが有意に低かった(p<0.01).夏期の乳飲料1検体から最も高濃度(0.08 μg/kg)のAFM1を検出した.乳飲料のAFM1汚染は,原材料の汚染の程度,それらの配合割合および加工による影響を受けると考えられ,製品の無脂乳固形分の増加がAFM1汚染の増加要因となると推定された.
著者
吉光 真人 上野 亮 松井 啓史 小阪田 正和 内田 耕太郎 福井 直樹 阿久津 和彦 角谷 直哉
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.143-147, 2020-08-25 (Released:2020-10-02)
参考文献数
11
被引用文献数
1

われわれはLC-MS/MSを用いた迅速簡便な6種類防かび剤分析法を開発した.イマザリル,o-フェニルフェノール,チアベンダゾールに加えて,2011年以降に防かび剤としての利用が認められたフルジオキソニル,アゾキシストロビン,ピリメタニルを測定対象とした.迅速かつ簡単な分析法の確立を目指し,残留農薬分析法と抽出操作を共通化した.また,試料からの抽出液1 mLを充填剤量500 mgのOasis HLBカラムに負荷,アセトニトリル8 mLで溶出する精製法を採用した.次いで,オレンジ,グレープフルーツ,レモンに6種類の防かび剤を添加して添加回収試験を行ったところ,真度は89.7から100.0%,室内精度および併行精度はそれぞれ,1.5から5.0%,0.5から4.9%となり,食品中に残留する農薬等に関する試験法の妥当性評価ガイドラインの目標値を達成した.定量限界は,o-フェニルフェノールでは1 mg/kg,その他の防かび剤では0.2 mg/kgとなり,防かび剤の基準値よりも低い値であった.本分析法の有用性を確認するため,2017~2019年に市販柑橘類の分析を行ったところ,検出された防かび剤は表示との整合性が確認された.また,基準値を超過する濃度の防かび剤が検出された検体はなかった.
著者
佐々木 貴正 岩田 剛敏 上間 匡 朝倉 宏
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.126-131, 2020-08-25 (Released:2020-10-02)
参考文献数
24
被引用文献数
3

カンピロバクターは,食品媒介性感染症における最も重要な原因菌の1つである.カンピロバクター感染症の際に抗菌薬が使用されることは稀であるが,症状が重度である場合や長期間持続する場合には使用されることがある.カンピロバクター感染症の原因の1つは,カンピロバクターに汚染された牛肝臓の喫食である.牛肝臓は,と畜場において胆汁により表面と内部が汚染される可能性がある.以上のことから,われわれは,と畜場において,胆汁のカンピロバクター汚染状況およびその分離株の性状を調査した.カンピロバクターは35.7%(55/154)から分離され,C. jejuniとC. fetusが上位2菌種であった.C. jejuniでは,テトラサイクリン(63.0%)とシプロフロキサシン(44.4%)に高率な耐性が認められた.Multi-locus sequence typingにより,C. jejuniは12型に分類され,ST806が最も多く,37.0%を占めていた.すべてのC. fetusは全身性疾患の原因となることがあるC. fetus subsp. fetusと同定された.C. fetusでは,シプロフロキサシン(66.6%),ストレプトマイシン(58.3%)およびテトラサイクリン(33.3%)に高率な耐性が認められた.すべてのC. fetusは,ST3 (16株)およびST6 (8株)に分類された.16株のST3のうち,15株(93.8%)はストレプトマイシンとシプロフロキサシンの両方に耐性であった.本調査結果は,牛胆汁の高率なカンピロバクター汚染とその分離株の高率な薬剤耐性を示していている.と畜場における牛肝臓の胆汁汚染防止は,カンピロバクター感染のリスク低減策の1つである.
著者
志田(齊藤) 静夏 根本 了 手島 玲子 穐山 浩
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.72-75, 2016-06-25 (Released:2016-07-15)
参考文献数
8
被引用文献数
1

GC-MS/MSを用いた加工食品中の殺鼠剤テトラメチレンジスルホテトラミン分析法を開発した.テトラメチレンジスルホテトラミンを試料から無水硫酸ナトリウムで脱水しながら酢酸エチルで抽出し,アセトニトリル/ヘキサン分配およびグラファイトカーボン/PSA積層ミニカラムで精製した後,GC-MS/MSで定量した.加工食品10食品(赤ワイン,インスタントラーメン,うなぎ蒲焼き,餃子,チーズ,白菜キムチ,バター,ハンバーグ,ピザおよびレトルトカレー)を用いて,添加濃度0.1 mg/kgで5併行の添加回収試験を行ったところ,真度85~96%,併行精度(RSD) 7%以下の良好な結果が得られた.いずれの食品においても選択性に問題はなかった.これらの結果から,本法は加工食品中の高濃度のテトラメチレンジスルホテトラミン分析法として適用できるものと考えられた.
著者
山口 昭弘 清水 香織 三嶋 隆 青木 信太郎 服部 秀樹 佐藤 秀隆 上田 信男 渡邉 敬浩 日野 明寛 穐山 浩 米谷 民雄
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.146-150, 2006-08-25 (Released:2008-08-04)
参考文献数
9
被引用文献数
8 11

遺伝子組換え(GM)パパイヤの同定においてわが国の公定法のPCR法を改良し,簡便かつ迅速な検知法を開発した.凍結乾燥処理を省略し,生果肉から直接シリカゲル膜タイプの市販キットを用いてDNAを抽出した.GMパパイヤ特異的遺伝子およびパパイヤ内在性のpapain遺伝子を同時に増幅するduplex PCR法を開発するために,papain遺伝子に対する公定法のPCR増幅産物(211 bp)の内側に,新たなプライマーペア papain 2-5'/3' を設計した.GMパパイヤ検出用のプライマーペアには公定法と同一のものを用いた.これらのプライマーペアを同一チューブ内に共存させて増幅させる duplex PCR 法を行った後,増幅産物をアガロースゲル電気泳動またはマイクロチップ電気泳動により同時検出した.本法により簡便,迅速なGMパパイヤの同定が可能であった.
著者
大門 拓実 立岡 秀 髙橋 邦彦 濱田 佳子
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.95-102, 2020-06-25 (Released:2020-07-01)
参考文献数
8
被引用文献数
4

著者らは迅速性,簡便性,汎用性を勘案し,含水アセトンを用いて抽出後,n-ヘキサンによる脱脂精製,分析種のアセトニトリルへの分配,塩析効果による精製を同時に行うことが可能となる三層分離抽出を利用した食肉および水産物中の動物用医薬品迅速一斉分析法の検討を行った.酸の濃度を調整すること,EDTA–2Na・2H2Oを添加することにより,キノロン剤の回収率が良好となった.本法は,固相カラムを用いた精製や溶媒の濃縮,転溶操作をせずに試験溶液を調製可能である.妥当性確認の結果,分析種全65成分のうち,牛筋肉62成分,牛脂肪63成分,うなぎ62成分,さけ65成分が妥当性評価ガイドライン(厚生労働省通知)の目標値を満たしたことから,迅速的かつ効果的な動物用医薬品一斉分析法として適用可能であることが考えられる.
著者
戸渡 寛法 宮﨑 悦子 赤木 浩一 中牟田 啓子 片岡 洋平 渡邉 敬浩
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.86-94, 2020-06-25 (Released:2020-07-01)
参考文献数
12

多くの魚に複数の種類の有機ヒ素化合物が含まれているが,化学形態ごとに毒性が異なることから,長期摂取による健康影響のリスクを評価するためには,形態別に濃度を定量する必要がある.本研究では,魚中のモノメチルアルソン酸(MMA),ジメチルアルシン酸(DMA),トリメチルアルシンオキサイド(TMAO),テトラメチルアルソニウム(TeMA),アルセノベタイン(AB),アルセノコリン(AC)を対象としたLC-MS/MSによる分析法を開発し,妥当性を確認した.また,福岡市内に流通する魚10種(計50試料)について総ヒ素濃度および各有機ヒ素化合物濃度を調査した.その結果,総ヒ素はすべての試料から0.53~25 mg/kgの範囲で検出され,カワハギからは8.3~25 mg/kgの範囲で検出された.イワシを除く9種においては,総ヒ素濃度に占める各化合物濃度のうち,AB濃度の割合が最も高かったが,イワシにおいてはAB濃度よりDMA濃度の割合が高く,総ヒ素濃度のうち16~24%を占めていた.養殖マダイにおける総ヒ素,ABおよびACの濃度は天然マダイより低かった.
著者
坂 真智子 飯島 和昭 西田 真由美 狛 由紀子 長谷川 直美 佐藤 清 加藤 保博
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.141-149, 2008-06-30 (Released:2008-07-17)
参考文献数
20
被引用文献数
14 13

米の加工および調理による計11種の農薬の残留濃度変化に伴う調理加工品への移行率(玄米に残留する農薬量に対する生成試料中の残留農薬量の比率,%)について,プレハーベスト処理試料(Pre, 9薬剤)とポストハーベスト処理試料(Post, 4薬剤)を調製して調査した.また,玄米に残留する農薬の濃度に対する生成試料中の残留農薬濃度の比(以下,本報告では加工係数と称する)も求めた.Preの結果は以下のとおりであった.精米工程において,玄米に残留していた農薬のうち40~106%が糠とともに除去され,白米に残っていたのは10~65%の範囲であった.白米の加工係数は0.11~0.73を示した.これらの数値は,薬剤間の差が大きかった.加水分解性,水溶解性,蒸気圧,log Powなど各農薬の物理化学的性状の一要因と移行率との間に相関は認められなかった.調理加工における農薬の残留濃度変化を調査することは,基準値設定に役立つばかりでなく,食品における農薬の残留実態を認識する上で重要である.
著者
鈴木 穂高
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.31-33, 2020-02-25 (Released:2020-04-24)
参考文献数
10

フグ毒のマウス試験では,ddY系統のマウスを用いることが定められている.ddY系統のマウスは,国立予防衛生研究所を起源とし,3社より供給されていたが,3社のddY系統コロニーは分離してから30年以上が経過している.本研究では,3社のddY系統マウスを用いて,テトロドトキシンに対する感受性の違いについて調べた.実験は参考法に従い,テトロドトキシン試験溶液をマウスの腹腔内に投与し,致死時間を測定した.その結果,ブリーダー間でマウスのテトロドトキシン感受性に有意な差は見られなかった.しかし,平均値に対するデータのばらつきを示すCV値にはブリーダー間で差異が見られ,試験結果の安定性に対するブリーダーの影響が示唆された.
著者
山下 梓 篠原 雄治 坂井 浩晃 宮本 靖久 鈴木 康司 永富 康司
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.41-46, 2020-02-25 (Released:2020-04-24)
参考文献数
9

レトルト殺菌を受けた人毛DNAは,湯せんや電子レンジ加熱と比較して著しく断片化することから,この断片化をPCRで検出することでレトルト殺菌履歴の判別,すなわち人毛が工程内で混入したか否かを判断できると考えた.ヒトDNA特異的検出プライマーとして,レトルト殺菌判別には増幅産物長約500 bp,DNA抽出確認用に増幅産物長約200 bpとなるプライマーセットをそれぞれ設計し,微小な人毛でも評価できるようにした.増幅産物はアガロースゲル電気泳動後,蛍光染色で可視化した.混入モデル試験として,人毛をレトルト殺菌し,その抽出DNAを鋳型にレトルト殺菌判別用プライマーセットでPCRを行った結果,DNA増幅は認められず,非加熱,湯せん,電子レンジ加熱では増幅が認められた.また,DNA抽出確認用プライマーセットではいずれの加熱条件においてもDNA増幅が認められた.一方,人毛以外の混入も想定して,脊椎動物共通プライマーも同様に設計し,9種のペットや家畜由来DNAを検出できることを確認した.本手法はレトルト殺菌を受けた人毛DNAの熱分解を特異的に検出でき,レトルト食品中に発見された毛様異物の混入時期推定に有用な分析手法であると考えられた.
著者
山内 啓正 向坂 友里 原田 雅己
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.22-30, 2020-02-25 (Released:2020-04-24)
参考文献数
16

種々の野菜や果物(同じ科や属のものを含む計70品目)を用いて,飲料や乳製品への混入を想定した識別法について検討した.大きさ1~数mm程度の植物片からDNAを抽出し,色素体rpl16–rpl14リンカー配列(約550塩基対)をPCRで増幅した後DNA塩基配列を決定し,相同性解析およびSNP (一塩基多型)解析を実施したところ,供試植物は,近縁種間での識別が困難なものがあったが,属レベルあるいは種レベルで,38グループに分けることができた.本法は,一部の近縁種間での識別精度や酸性下でのDNA安定性に課題は残るものの,製品や原料などに混入した植物片異物の特定とさらにその混入原因究明への寄与が期待されるものと考える.
著者
大久保 祥嗣 八木 正博
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.47-52, 2020-02-25 (Released:2020-04-24)
参考文献数
12
被引用文献数
3

農産物中に含まれる農薬の試験法として,STQ法(Solid Phase Extraction Technique with QuEChERS method)により試料の前処理を行い,胃袋型インサート・大量注入口装置搭載GC-MS/MSにより大量注入して測定する方法についての検証を行った.6種類の農産物を用いて添加回収試験を実施したところ,238~282成分が,真度70~120%,併行精度25%未満の目標基準に適合した.
著者
渡邉 敬浩 片岡 洋平 荒川 史博 松田 りえ子 畝山 智香子
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.7-16, 2020-02-25 (Released:2020-04-24)
参考文献数
15
被引用文献数
1

トータルダイエットスタディ(TDS)は,食事を介した化学物質の摂取量推定に有効な方法論であり,有害物質の摂取量推定にも用いられる.TDSにおける試料の分析には,摂取量推定の目的に合致した方法を選択すると同時に,その妥当性を確認することが勧告されている.しかし,妥当性確認に必要な具体的な考え方や方法論は示されていない.そこで本研究では,まず摂取量推定の目的で使用される分析法の性能を評価可能な試料(Samples to estimate methods performance; SEMPs)を開発した.次いでヒ素やカドミウム,鉛を含む元素類の摂取量推定の目的で使用する一斉分析法の妥当性を確認するために,SEMPsにおける各元素濃度を明らかにした.さらに,明らかにした各元素濃度を考慮した添加量を決定し,添加試料と未添加試料のそれぞれを5併行分析した結果から真度と併行精度を推定する,分析法の性能評価方法を確立した.性能評価によって推定した真度と併行精度をCodex委員会のProcedural Manualに収載されているガイドラインに基づき設定した性能規準と比較した結果,検討した一斉分析法が対象とする14元素と14食品群の組合せの多くで性能規準の値を満たしたことから妥当性を確認した.
著者
清田 恭平 吉光 真人 梶村 計志 山野 哲夫
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.17-21, 2020-02-25 (Released:2020-04-24)
参考文献数
16

オレンジは,健康に有益な栄養成分を含む一方で,アレルギーの発症原因となるアレルゲンも含んでいる.オレンジアレルギーの発症を予防するためには,アレルゲンの摂取リスクを抑えることが重要である.そこで本研究では,果物ミックスジュースにおいて,オレンジとの組合せで嗜好性のよいパイナップルに含まれるタンパク質分解酵素ブロメラインの利用に着目した.パイナップル由来酵素を利用して,オレンジの主要アレルゲンであるCit s 2の濃度減少が可能かどうか,Cit s 2定量ELISAにより評価を行った.生鮮オレンジ果汁に対して生鮮パイナップル果汁を添加したところ,Cit s 2濃度は反応の時間や温度に依存して減少する傾向が見られた.特に,オレンジ果汁に対し1/40量のパイナップル果汁を添加して37℃30分間処理した場合,Cit s 2濃度が15%未満(定量下限値未満)に減少した.今後,慎重な臨床的検証が必要であるものの,オレンジアレルゲン低含有量の果物ミックスジュースの調理・製造方法として,本研究の応用が期待される.
著者
胡 建恩 久留主 泰朗 宮口 右二 堤 将和
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.41, no.5, pp.297-302, 2000-10-25 (Released:2008-01-11)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

大腸菌の菌体膜に対するグリシンとエタノールの併用作用について検討した. 大腸菌はグリシンやエタノール及びこれらの試薬の併用処理によって紫外吸収物質の漏洩が抑えられた. また, 薬剤処理ではナトリウムの漏洩は認められなかったものの, カリウムの漏洩は認められた. 薬剤処理によってタンパク質の漏洩が認められたが, 漏洩したタンパク質は表在性タンパク質であろうと推定した. 更に, 表在性タンパク質が除去された大腸菌の呼吸能回復はクロラムフェニコールによって抑制された. コハク酸脱水素酵素に対する薬剤の影響を測定したところ, 菌体では活性が増大し, 膜画分では阻害された. 以上の結果からの薬剤は主に大腸菌の外膜層に作用し, 膜の透過性の増大や物質の漏洩, 代謝機能など膜の重要な機能を阻害したものと思われる.
著者
大島 千尋 佐藤 史奈 高橋 肇 久田 孝 木村 凡
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.168-175, 2019-12-25 (Released:2020-01-23)
参考文献数
15

ヒスタミンが多量に蓄積した食物を喫食すると,潮紅,頭痛,蕁麻疹などの症状を示すヒスタミン食中毒を発症する.本食中毒の防止および原因究明には,原因菌の特定が必須であるが,塩基配列決定による同定は操作が煩雑で解析に時間がかかるため,より簡便な手法が求められている.本研究では,ヒスタミン脱炭酸酵素をコードするhdcA遺伝子を対象として,高度融解曲線解析(High-Resolution Melting Analysis; HRMA)を用いた主要ヒスタミン生成菌の迅速同定法を開発した.はじめに,グラム陰性ヒスタミン生成菌のhdc遺伝子の配列から,種ごとに多様性が確認された配列部分にHRMA用のプライマーを設計し,HRMAを行った.まずTm Callingと呼ばれるPCR産物のTm値を測定するモードにより,Tm値の差からヒスタミン生成菌はA,B,Cの3グループに分類された.Aには陸生細菌であるMorganellaやEnterobacter, Raoutellaが属し,BおよびCには海洋性細菌であるVibrio属細菌やPhotobacterium属の細菌が属した.次に,グループAに分類された菌株についてのHRMAにより得られた融解プロファイルから,グループAに属するRaoultella属,M. morganiiおよびE. aerogenesは識別された.このことから,HRMAにより主要なグラム陰性のヒスタミン生成菌を簡易に同定することが可能であると示された.本法は,従来の塩基配列決定法と比べ,迅速かつ簡易にヒスタミン生成菌の種判別が可能である.
著者
佐々木 隆宏 田原 正一 坂牧 成恵 貞升 友紀 牛山 慶子 門間 公夫 小林 千種
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.176-182, 2019-12-25 (Released:2020-01-23)
参考文献数
9
被引用文献数
1

既存の透析法および直接抽出法を用いてチューインガム中の3種甘味料の定量値を比較したところ,透析法では直接抽出法に比べ,一部の製品でアスパルテームの定量値が顕著に低値であった.一方,直接抽出法はガムベースが器具に付着する点で操作が煩雑であった.そこで,ガムベースを透析チューブ内にとどめたまま抽出が完了可能な透析法の条件を変更し,定量値が改善可能か試みた.その結果,透析液に60%メタノールを用いて室温で24時間,または恒温振とう水槽中(50℃)で2時間透析する方法を開発した.本法は,3種甘味料のいずれも直接抽出法と同程度の良好な値を得ることが可能であった.
著者
森 哲也 佐藤(長尾) 清香 岸野 かなえ 難波 豊彦 工藤 由起子
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.183-186, 2019-12-25 (Released:2020-01-23)
参考文献数
10
被引用文献数
1

迅速かつ安価なDNA抽出法であるアルカリ熱DNA抽出法を食品中の腸管出血性大腸菌の検出のためのリアルタイムPCRにおいて評価した.牛レバー,牛ひき肉,豚スライス肉,チーズ,レタス,カイワレ大根,トマトおよびホウレンソウでのstx遺伝子とO抗原遺伝子検出において,アルカリ熱DNA抽出物は高感度の検出(102~104 CFU/mL)を示し,これはプロティナーゼK溶菌とシリカメンブレンによる精製工程を含む市販DNA抽出キットと同等の検出感度であった.アルカリ熱抽出とキットでのDNA濃度と純度には違いがあったが,リアルタイムPCRの感度は同様であった.これらの結果から,アルカリ熱DNA抽出法は,リアルタイムPCRでの食品分析にとって有用な方法であることが示された.