著者
寺井 朗子 萩野 賀世 浅倉 弘幸 大貝 真実 柳原 碧 木村 圭介 田中 智哉 觀 公子 中村 耕 荒金 眞佐子 中野 久子 門間 公夫 笹本 剛生
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.174-182, 2018-08-25 (Released:2018-08-30)
参考文献数
17
被引用文献数
1

イヌサフラン(Colchicum autumnale)は,ヨーロッパから北アフリカ原産の多年草で有毒植物である.食用であるギョウジャニンニクなどと外観が類似しているため,誤食による食中毒が発生している.形態観察や有毒成分の検出が困難な少量の試料からでも,イヌサフランであることを迅速に鑑別することを目的として,PCR法を検討した.イヌサフランのリボソームDNA中のinternal transcribed spacer (ITS) 領域をPCRにより特異的に増幅するプライマー対を新規に作製した.イヌサフラン9試料および48種類の農作物等から抽出したDNAを用いて,今回作製したプライマー対によるPCRを行った結果,イヌサフランのみを特異的に検出し,また,調理および人工胃液による消化を受けた試料についても検出可能であった.本PCR法は,イヌサフランに特異性が高く,迅速な鑑別に有用であることが確認された.
著者
大谷 陽範 田村 康宏 馬場 糸子 林 真輝 森岡 みほ子 新藤 哲也 橋本 常生
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.183-186, 2018-08-25 (Released:2018-08-30)
参考文献数
10
被引用文献数
2

魚類中PCBsの簡易かつ迅速なモニタリング分析を目的に,高速溶媒抽出装置(ASE)およびGC-MS/MSを用いた分析法を検討した.測定対象は3~7塩化PCBsとし,試料を抽出温度125°C,抽出溶媒n-ヘキサンでASEにて抽出の後,硝酸銀シリカゲル/硫酸シリカゲル積層カラムで精製し,GC-MS/MSで測定することで,簡易で迅速に分析を行うことができた.定量下限は総PCBsで0.78 μg/kgであった.スズキ,サバ,ブリ,サケ,サンマおよびイワシを対象に5並行の添加回収試験を行った結果,総PCBsの回収率は91–108%,変動係数は1∼3%であった.
著者
横関 俊昭 土屋 仁 藤田 和弘
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.187-191, 2018-08-25 (Released:2018-08-30)
参考文献数
14

穀類中に存在するアクリルアミドの前駆体である遊離アスパラギンをダンシル誘導体化後,HPLC-UVで測定する方法を評価するため,9試験室による試験室間共同試験を行った.試料には,遊離アスパラギンを含有しているうるち玄米粉,コーンフラワー,小麦強力粉,小麦全粒粉,ライ麦粉の5種類を用い,各試験室2回の併行測定とした.試験の結果,併行相対標準偏差および室間相対標準偏差はそれぞれ,0.5~2.2%および2.3~5.9%であり,HorRat値は0.4~0.6とCodex委員会が定める性能基準の2以下であったことから,本法の有効性が示唆された.
著者
梶本 五郎 笠村 貴美子 前場 佳子 真鍋 恵子
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌
巻号頁・発行日
vol.4, no.6, pp.358-361, 1963

3月, 6~7月の梅雨期と, 夏を越した9月の3時期に市販の各種油脂食品, すなわちドーナツ, クラッカー, チョコレート, ポリコン, いかり豆, グリンピース油揚げ, カリントウ, お好み, チキンラーメン, トンメン, バター, マーガリン, ラード, マヨネーズ, 豚ハム, 鯨ハム, 魚肉ソーセージ, イカのクン製物, いりこ, ミリン干し, しらす佃煮, 花かつを, うまいか等23種を, それぞれ異なった店より無作為的に購入し, エーテル抽出油の過酸化物価および酸価を求めた.<BR>その結果<BR>1. 食品別では油脂の過酸化物価および酸価の高いもの, すなわち変敗度の高いものは, ミリン干し, いりこ, イカのクン製物, しらす佃煮, ハム等で, ついで花かつを, 油揚げ豆類, お好み, ドーナツ等で, 比較的, クラッカー, チキンラーメンは低くラード, マーガリン, バター類が最も低い.<BR>2. 季節別では概して3月頃より夏を越した9月頃の食品の方が変敗度高く, とくにいりこ, 油揚げ豆, お好み等は気温に影響され, マーガリン, バターなどは年中ほとんど一定であった.
著者
山下 梓 宮本 靖久 原山 耕一 鈴木 康司
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.126-133, 2018-06-25 (Released:2018-07-21)
参考文献数
11
被引用文献数
1

高速液体クロマトグラフ-四重極飛行時間型質量分析計(LC-QTOF-MS)を用いた乳および卵主要アレルゲンの一斉分析法を開発した.乳,卵の主要アレルゲンタンパクであるα-カゼイン,β-ラクトグロブリン,オボアルブミンを分析対象とした.これらタンパクのそれぞれをトリプシン消化しLC-QTOF-MS分析を行った結果,消化物のアミノ酸配列の精密質量に整合した16種のピークが検出された.消化物の定量には,これら各ピークのプロダクトイオンスペクトルを用いた高分解能MRM法を適用した.次に,さまざまな濃度の牛乳および卵標準液を同時添加した各種飲料について定量性能を評価したところ,飲料中濃度10 μg/g付近で良好な直線性,再現性,真度が得られた.さらに,両標準液添加飲料のELISA法による定量値とLC-QTOF-MS法の定量値で良い一致が認められた.これらの結果から今回開発したLC-QTOF-MSを用いたアレルゲン消化ペプチド分析法は,飲料中の乳および卵タンパクの一斉定量法として有用であると考えられた.
著者
檜垣 俊介 松尾 達博
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.114-120, 2018-06-25 (Released:2018-07-21)
参考文献数
10

希少糖の1つであるd-アラビノースの機能性食材としての利用の可能性を検討するために,ラットに50%(w/v)のd-アラビノース溶液を10~14 g/kgの範囲で段階投与し,急性毒性試験を行った.その結果,半数致死量(LD50)は,雄で12.1 g/kg,雌で11.6 g/kgと算出され,普通物であることが示唆された.一方,短期毒性試験では,今回の実験における食餌中への最小添加量である5%添加でもd-アラビノースの影響と思われるいくつかの症状が認められたことから,無毒性量は5%添加未満と推定された.すでに食品素材として利用されている希少糖d-プシコースは,10%の食餌への添加で毒性が見られないと報告されていることから,d-アラビノースはd-プシコースに比べて毒性が強いと推察された.以上の結果から,d-アラビノースを機能性食材として利用できるか否かについては,さらに詳細な検討を要すると考えられた.
著者
岸根 雅宏 野口 秋雄 真野 潤一 高畠 令王奈 中村 公亮 近藤 一成 橘田 和美
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.151-156, 2018-06-25 (Released:2018-07-21)
参考文献数
15
被引用文献数
2

過去の検討によってDNA検出が不可能であった高度加工食品(しょうゆ,コーンフレーク,でんぷん糖,甜菜糖,植物油など)については,現在遺伝子組換え表示対象外となっている.われわれは,それら高度加工食品のうち,水飴,甜菜糖および植物油を対象として,最新のDNA抽出キットを用いることでDNAが検出可能であるか検討を行った.食品原材料植物の種特異的内在性遺伝子DNAの検出を指標とした結果,いずれの試料においてもDNA検出可能と判定された試料はなかった.DNAが検出されなかった試料の大部分は,抽出DNAへのPCR阻害物質の混入は認められず,抽出DNA量がPCRによる検出限界以下であることが原因であると考えられた.
著者
武森 真由美 坂牧 成恵 貞升 友紀 植松 洋子 門間 公夫 新藤 哲也 小林 千種
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.99-105, 2018-06-25 (Released:2018-07-21)
参考文献数
7
被引用文献数
1

HPLCおよびLC-MS/MSを用いた食品中のエリスリトール,マルチトール,ラクチトールおよびトレハロースの分析法を開発した.HPLC分析では,アミノ基結合型ポリマーカラムを用い,カラム温度を室温とすることで定量することが可能になった.LC-MS/MSでは,SRMモードにより定量・確認を行うことができた.また,試験溶液を1,000倍以上に希釈することで,試料由来のマトリックスによる影響を抑えられた.紅茶飲料,ゼリー,ラムネ菓子およびチョコレートを用いた添加回収試験の結果,回収率はいずれもHPLCで90%以上(CV≦6.1%),LC-MS/MSで94%以上(CV≦4.8%)であった.クッキーについては,まず水で抽出してからエタノールを加えることで,HPLCで回収率83%以上(CV≦4.1%),LC-MS/MSで回収率90%以上(CV≦3.0%)と良好な結果が得られた.
著者
西島 千陽 千葉 剛 佐藤 陽子 山田 浩 梅垣 敬三
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.106-113, 2018-06-25 (Released:2018-07-21)
参考文献数
17
被引用文献数
11

サプリメントによる健康被害の未然・拡大防止には,現時点で発生している有害事象を短期間に全国レベルでできるだけ多く収集し,行政的対応を検討する取り組みが求められる.そこで全国的なオンライン調査により,消費者から直接情報を収集して有害事象の把握を試みた.有害事象としては下痢に着目し,4つの調査会社で実施した.その結果,軽微な症状が多いが痛みや吐き気を伴う事例もあること,下痢経験者の8割以上はどこにも報告していないこと,関与する原材料として植物エキスが疑われることが明らかとなった.有害事象の経験頻度に調査会社間で誤差はあるが,オンライン調査はサプリメントによる有害事象の発生を全国レベルで短期間に把握できる有用な方法と考えられた.
著者
村上 友規 仲井 菜都希 安藤 尚子 岡山 明子
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.121-125, 2018-06-25 (Released:2018-07-21)
参考文献数
6
被引用文献数
4

測定時間短縮を目的として,フルオレスカミン蛍光誘導体化UPLC法を用いたヒスタミンの迅速分析法を検討した.トリクロロ酢酸を用いて抽出し,遠心分離後の上清をろ過後,固相抽出をせずに蛍光誘導体化し試験溶液とした.移動相にはイオンペアを使用せずに10 mMリン酸塩–アセトニトリル(75 : 25)を用いた.鮮魚,調味料およびそれらの加工品などを対象に妥当性試験を実施し,食品ごとの平均回収率は95.8~117.7%であった.本法は前処理から測定まで迅速に行うことができることから,緊急性を要する食中毒発生時の測定に有用である.
著者
服部 賢志 塚田 政範 森田 美文 末永 和也
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.157-160, 2018-06-25 (Released:2018-07-21)
参考文献数
13

長野県で開発された果汁中のカビ毒であるパツリンの分析法をCodex Procedural Manualの性能規準ガイドラインおよびGuidelines on Analytical Terminologyの目標値を満たしているか単一試験室により妥当性評価を実施した.結果として,りんごおよびなし果汁において,真度は98.8~103.4%,併行精度は6.4%以下,室内精度は8.1%以下およびHorRat値は0.4以下であり目標値を満たしていることが確認できた.
著者
篠崎 淳一 数馬 恒平 佐竹 元吉 近藤 一成 紺野 勝弘
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.134-140, 2018-06-25 (Released:2018-07-21)
参考文献数
15
被引用文献数
1

自然毒,特に有毒植物の誤食による食中毒は症状が重篤なことが多く致死率が高いことが特徴である.そのため,原因植物の迅速かつ正確な同定が求められている.本研究では1989~2015年に厚生労働省に報告された植物による食中毒事例を調査した.植物由来食中毒の傾向を鑑みて,発生件数の多い4種(バイケイソウ類,チョウセンアサガオ類,トリカブトおよびスイセン)および死亡事例があるイヌサフランの迅速・簡便な同定法を構築した.PCR-RFLP法を利用した本法は電気泳動像において,有毒植物では2本,食用植物では1本のバンドを検出することで判定できる.また,本法は簡便な操作で,高価な機器を必要とせず,短時間に一義的な結果が得られる.また,調理した試料に対しても適用可能である.
著者
鈴木 一平 竹林 純 梅垣 敬三
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.141-145, 2018-06-25 (Released:2018-07-21)
参考文献数
13
被引用文献数
2

複数の化合物から構成される微量のビタミンを,一括して定量する際に微生物学的定量法(microbiological assay, MBA)が広く用いられている.MBAは試料溶液中ビタミン濃度と菌体の生育量の関係が通常シグモイドを描くため,一般的な直線回帰で求めた検量線では定量性に問題が生じる場合がある.そこで,本研究では乳児用調製粉乳中のビタミンB6定量をモデルケースとして,回帰モデルの選択(直線,2次,3次回帰モデルおよび4パラメーターロジスティックモデル(4PLM))が定量結果に及ぼす影響について検討した.その結果,4PLMに基づく検量線を用いることにより,試料溶液中のビタミン濃度が標準溶液の範囲を逸脱した際にある程度妥当な定量値を得ることができることから,信頼性の高いビタミンB6定量が可能となった.同様の結果はナイアシンの定量でも確認できた.以上の結果から,MBAにおいて4PLMに基づく検量線を用いることで,ビタミン定量値の信頼性向上が期待される.
著者
千葉 剛 小林 悦子 佐藤 陽子 井出 和希 池谷 怜 山田 浩 梅垣 敬三
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.234-240, 2017-10-25 (Released:2017-10-27)
参考文献数
8
被引用文献数
2

健康食品の利用が原因と思われる健康被害の事例において,保健所を介して厚生労働省へ報告が上がってくるのは年間20件程度しかない.その原因を明らかにするために,消費者(調査1:44,649名,調査2:3,000名),医師・薬剤師(各500名)を対象にアンケート調査を実施した.2016年の一年間に健康食品の利用が原因と思われる体調不良を経験した消費者は17%いたが,保健所に連絡した人はそのうちの11%のみであった.保健所に連絡しなかった理由は「報告するほどの被害ではなかったから」が最も多かった.2016年の一年間に患者から健康食品の利用が原因と思われる健康被害の相談を受けたことがある医師は7%,薬剤師は4%であった.保健所に報告したのは医師,薬剤師ともに6%のみであった.保健所に報告しなかった理由は「健康食品が原因と断定できなかったから」が最も多かった.
著者
大須賀 愛幸 植松 洋子 山嶋 裕季子 田原 正一 宮川 弘之 高梨 麻由 門間 公夫
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.73-79, 2018-04-25 (Released:2018-04-25)
参考文献数
12

高タンパク食品中の酸性タール色素分析法について,回収率に優れ,かつ簡便で迅速な試験法を作成した.試薬量等のスケールダウンを行い,さらにポリアミド (PA) カラムに負荷する液の調製法として,溶媒留去の替わりに抽出液を水で希釈し有機溶媒濃度を下げ,色素をPAカラムに保持させることにより,操作の簡便化および迅速化を達成した.またPAカラムで色素を精製する際,負荷する液のpHを汎用されるpH 3~4からpH 8.5にすることで,高タンパク食品における,キサンテン系色素の回収率が大きく向上した.高タンパク食品の中でも特に酸性タール色素の分析が困難とされてきた辛子明太子での11種類の色素の回収率はpH 8.5で精製することで63~101%となり,pH 3.5での精製(回収率18~95%)に比べ大幅な改善が認められた(5 μg/g添加).
著者
高橋 迪子 安田 祐加 高橋 肇 武内 章 久田 孝 木村 凡
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.89-92, 2018-04-25 (Released:2018-04-25)
参考文献数
24
被引用文献数
4

本研究では,菓子パン等の材料であるフィリング中におけるノロウイルスの生残性と,近年抗ウイルス効果が見いだされた加熱変性リゾチームの有効性を検証した.小売店で購入したチョコレートクリームおよびマーマレードジャムにMurine norovirus-1 (MNV-1) を4.5 log PFU/g接種し,4℃で5日間保存したところ,MNV-1の感染価は5日間ほとんど減少しなかった.一方,加熱変性リゾチームをこれらフィリング中に1%添加することで,フィリングに接種したMNV-1は0.9~1.2 log PFU/g減少した.
著者
辻村 和也 吉村 裕紀 田栗 利紹 本村 秀章
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.253-259, 2017-12-25 (Released:2017-12-28)
参考文献数
31
被引用文献数
7

2015年11月長崎県において,腐肉食性巻貝であるキンシバイ(Nassarius(Alectrion)glans)喫食による食中毒事例が発生した.本食中毒事例は,国内でも3例目の珍しい事例であり,知見が乏しい.そこで行政および医療機関の協力のもと,経日的に採取された患者血清および尿中のテトロドトキシン(TTX)濃度推移と巻貝中の毒成分解析を行った.LC-QqQ-MS/MSによるTTX分析の結果,調理済巻貝の食品残品,患者血清および尿のすべてからTTXが検出された.食品残品試料では,1個体でヒトの致死量に達する量のTTXを含有するものもあった(食品残品試料2:2.5mg/individual).また,患者血清においては,発症日翌日に最高濃度42.8ng/mLを示し,2日分の尿中排泄量は2.4mgと試算された.以上の結果から,本事例では患者は少なくとも致死量相当のTTXを摂取したと推察された.また,キンシバイの毒性成分解析のため,TTX定量分析に加え,LC-QTOFMS/MSによるTTX類縁体探索およびマウスバイオアッセイによる総毒量算出を行った.その結果,キンシバイの総毒量はTTX単体でないことが明らかになり,残余毒力の一部分はTTX類縁体である11-oxoTTXが占めることが推察された.以上の結果,本事例を含めキンシバイは過去の事例と同様に,食品衛生上極めて危険な種であると考えられた.
著者
横関 俊昭 西川 佳子 小木曽 基樹 藤田 和弘
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.247-252, 2017-12-25 (Released:2017-12-28)
参考文献数
14
被引用文献数
3

アクリルアミドの前駆体である遊離アスパラギン(Asn)の穀類中の分析法を開発した.試料中から5%(w/v)トリクロロ酢酸溶液でAsnを抽出し,ポリマー系逆相固相カートリッジを用いて精製した後,ダンシル誘導体化を行い,HPLC-UVで測定した.分析カラムはODSを用い,0.01mol/L酢酸アンモニウム溶液とアセトニトリルのグラジエント溶出により行った.検量線は,0.5~100μg/mLの範囲で良好な直線性を示した.片栗粉,うるち米粉,小麦全粒粉の3試料を用いて添加回収実験を行った結果,平均回収率は97.7~102.6%,併行精度(RSDr)は0.8~2.0%,室内再現精度(RSDwr)は1.4~6.2%の良好な結果が得られた.本法による定量限界は,片栗粉で13mg/kg,うるち米粉で4mg/kgであった.片栗粉,うるち米粉,小麦全粒粉を含む15試料について,本法とアミノ酸自動分析計による定量値の比較を行ったところ,いずれの試料においても定量値は同等であった.
著者
山本 明美 工藤 志保 中谷 実 花石 竜治 増田 幸保 木村 淳子 櫻庭 麻恵 柴田 めぐみ 工藤 翔 五日市 健夫 佐藤 裕久 村上 淳子 古川 章子
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.281-287, 2017-12-25 (Released:2017-12-28)
参考文献数
8

記憶喪失性貝毒は,日本では規制対象となっていないがEUなどでは重要視されている貝毒の1つである.筆者らはHatfieldらの方法等を参考にHPLC-UVによる記憶喪失性貝毒の分析法を構築し,組成型認証標準物質を用いて性能を評価した.17個の分析結果から推定された真度は97.5%,室内精度はRSDとして1.5%でHorRat(r)値は0.16であった.これらの推定値はCodex Procedural Manualに収載されたガイドラインに示されている分析法の性能規準値を満たしていた.また,組成型認証標準物質を用いて内部品質管理を実施した.処置限界は分析法の性能評価結果から設定した.大部分の結果が処置限界内となり,妥当性確認された分析法の性能から予測される分析値の品質が維持されていることを確認した.本分析法を実際に使用する目的は,ホタテガイ中の記憶喪失性貝毒が4.6mg/kg未満の確認であることから,この条件での適用性を,ホタテガイへの添加試料を用いて確認した.