著者
菅原 仁 坂口 光晴
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.253-257, 2005-06-20
被引用文献数
1

疼痛に対する理学療法として, 現在, 物理療法, 徒手療法, 運動療法等が実施されるが, 脊椎に対しては, 物理療法である牽引療法を選択することが多い。2001年の日本整形外科学会理学診療委員会による「骨関節疾患に対する保存療法(理学療法, 作業療法, 物理療法)の実態調査報告」の腰痛に対する保存療法の適応, 処方方針では, 神経症状のある腰痛に対して牽引療法が第1位に挙げられており, 神経症状のない場合でも, 温熱療法に次ぎ第2位として牽引療法を挙げている。さらに, 牽引療法は運動療法よりも適応, 処方方針として優先されている。一方, 諸外国での腰痛に対する牽引療法の使用状況をみると, 国際調査では, 急性期に3%, 慢性期に4%, 坐骨神経痛を伴った急性期に12%使用されている。また, アメリカでは坐骨神経痛を伴う急性期に19%, 慢性期に10%, イギリスとアイルランドでは7.1%使用されている。さらに牽引療法に否定的な見解を示した米国連邦政府厚生省ヘルスケア政策, 研究局による急性腰痛ガイドラインが提出されてからのカナダの調査では, 急性期の腰痛に4.5%, 亜急性の腰痛に30.7%, 坐骨神経痛を伴った急性期の腰痛に30.0%, 牽引療法が実施されている。
著者
塚越 累 建内 宏重 福元 喜啓 奥村 秀雄 市橋 則明
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.36, no.7, pp.363-369, 2009-12-20
参考文献数
32

【目的】本研究の目的は末期変形性股関節症患者の最大歩行速度に影響を及ぼす因子を明らかにすることである。【方法】片側性の末期変形性股関節症を罹患している女性39名を対象とし,10m最大歩行速度(MWS),患側の股関節可動域(ROM),両側股関節・膝関節周囲筋の最大等尺性筋力および歩行時の疼痛を測定した。MWSに影響を及ぼす因子を決定するために,MWSを従属変数,年齢,ROM,筋力,疼痛および杖使用の有無を独立変数としたステップワイズ重回帰分析を行った。【結果】健側膝関節伸展筋力,患側股関節外転筋力,疼痛および杖使用の有無がMWSを予測する有意な因子として抽出され,その寄与率は62%であった。【結論】健側膝関節伸展筋力は歩行推進力として患側の機能低下を補っていると考えられ,また,患側股関節外転筋力は患側立脚期の体幹・骨盤の安定作用として機能していると考えられる。これら2つの筋力因子および疼痛は末期変形性股関節症患者の歩行において特に重要であることが示唆された。
著者
森 明子 上村 洋充 髻谷 満 曽田 幸一朗 眞渕 敏 川上 寿一 道免 和久
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, 2007-04-20

【はじめに】デグロービング損傷は機械を扱う労働者が機械に巻き込まれ上肢を受傷するケースが多いが、下肢の受傷ケースは少ない。歩行獲得に向けて理学療法士の役割は大きいにも関わらず症例報告はほとんどない。そこで今回、早期より下腿デグロービング損傷と足関節伸筋腱断裂を伴った症例を経験したため報告する。<BR>【症例】19歳女性。平成17年4月25日列車脱線事故により、右下腿デグロービング・足関節脱臼、左足関節内果骨折、左前腕骨折受傷。その他重篤な外傷なし。右足関節伸筋腱すべて断裂していたため同日、縫合術施行。血液検査データはCK1855U/l、白血球15500/μl、第3病日ではCK3448U/l、CRP12.1mg/dlと高値であった。表皮の欠損が広範囲のため第31病日より右下腿創部にハイドロサイト、第36病日よりフィブラストスプレーを使用開始した。第75病日、全荷重許可後より右下腿皮膚形成の急速な進行がみられた。<BR>【理学療法経過】第15病日より理学療法(以下PT)開始。右長下肢、左短下肢ギプスシーネ固定中。右膝屈曲は禁忌。左下肢は踵部での全荷重可能。寝返り、起き上がりは痛みの範囲内で自立。立ち上がりは左踵骨のみの荷重で介助下にて可能。左下肢筋力は4レベル。第24病日、右下肢は短下肢ギプスシーネに、左下肢は軟性装具へ変更。右膝ROM、右大腿四頭筋、ハムストリングスの筋力強化を等尺性運動にて開始。また左足関節装具装着にて左下肢全荷重開始。第30病日、右下腿ギプスシーネ除去し右足関節・足指自動運動開始。第36病日、PT室にて右下肢1/3荷重開始。第39病日、右足関節・足指他動運動開始。第65病日、右下肢1/2荷重で歩行練習開始。第75病日、右下肢全荷重、両松葉杖歩行、自転車エルゴメーター開始。第88病日、軟性装具装着下にて歩行自立。第99病日、装具なしにて病棟内歩行自立し、第120病日には病院内歩行許可となり、第151病日、自宅退院となる。退院時の右足関節可動域は背屈10°、底屈30°。左右片脚立位は30秒以上可能。階段昇降は自立。ジャンプ、ランニングは困難であった。<BR>【考察】デグロービング損傷の場合、皮膚の再生や創部への負荷を考え、早期からの荷重や歩行は困難とされることを臨床上経験することが多い。しかし、本症例では感染に注意しハイドロサイトやフィブラストスプレーを併用し、創部の浮腫や腱への負担を注意しながら早期から荷重・歩行練習行うことで順調な経過を得ることができた。荷重・歩行は筋ポンプ作用による筋血流量増加や、皮膚への血流量の増加につながり、皮膚組織の再生にも寄与したのではないかと考えられる。損傷部位の組織修復過程を考慮した治療が肝要である。<BR><BR>
著者
市ノ瀬 有佐 横山 茂樹 山本 乃利男 小野 恭裕 本田 透
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.12017, (Released:2021-08-24)
参考文献数
23

【目的】高齢者大腿骨近位部骨折患者において術後3 日間のCumulated Ambulation Score(以下,3-day CAS)と術後2 週時の歩行能力との関連性を明らかにすることを目的とした。【方法】大腿骨近位部骨折患者187 名を術後2 週時の歩行能力で,平行棒以下群99 名と歩行器以上群88 名に群分けした。3-day CAS と患者情報をもとに多重ロジスティック回帰分析を行い,カットオフ値を算出した。【結果】術後2 週時歩行能力の関連因子として,受傷前Barthel Index(以下,BI),骨折型,3-day CAS が抽出された。術後2 週時の歩行器歩行の可否判別におけるカットオフ値は,受傷前BI : 92.5 点,3-day CAS : 3.5 点であった。【結論】術後2 週時の歩行器歩行の可否判別には,受傷前BI,骨折型に加え,3-day CAS が有用である可能性が示唆された。
著者
田上 裕記 生駒 直人 和田 浩成 渡邉 英将 大山 三紀 中井 智博 酒向 俊治 井奈波 良一
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.413-419, 2021

<p>【目的】看護師における労働生産性の実態を調査し,心身の健康に関するワーク・エンゲイジメント,ワーカホリズムおよび腰痛との関係性を明らかにすることを目的とした。【方法】病棟看護師女性73 名を対象とし,無記名自記式のアンケート調査を実施した。調査項目は,労働生産性,ワーク・エンゲイジメント,ワーカホリズム,腰痛の有無,期間とした。【結果】労働遂行能力は,ワーク・エンゲイジメント得点の間に有意な正の相関が認められ,ワーカホリズム得点間において有意な相関は認められなかった。ワーク・エンゲイジメントにおいて,腰痛群は,非腰痛群と比較して有意に低値を示し,ワーカホリズムでは両者に有意差は認められなかった。【結論】非特異的腰痛の有無および労働遂行能力は,ワーク・エンゲイジメントを説明する独立因子であり,ポジティブメンタルヘルスの重要性が考えられた。</p>
著者
三谷 健 太田 恭平 小松 泰喜
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.261-266, 2009-08-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
18
被引用文献数
2

【目的】身体機能,認知症の行動心理症候(以下BPSD:Behavioral and psychological Symptoms of Dementia)に注目し,入所者の転倒の特徴を明らかにすることを目的とした。【対象と方法】対象は介護老人保健施設2施設の入所者で,日常生活での移動手段が歩行であり,MMSE23点以下の入所者45名である。過去6ヶ月間の転倒歴,10m歩行速度,10m歩行歩数,Timed up and go test,Mini-mental State Examination,BPSDについて調査し,転倒群,非転倒群の比較検討を行った。【結果】転倒者18名,非転倒者27名であり,群間比較の結果,転倒群において10m歩行速度の低下,攻撃性の出現頻度が高い結果であった。【結論】入所者の転倒の特徴として,歩行速度の低下,BPSDの攻撃性の出現といった具体的な行動が問題となることが示唆された。身体機能,BPSD両側面からのアプローチを検討することが,今後の転倒予防につながる可能性がある。
著者
戸田 香 戸田 秀彦 對馬 明 矢澤 浩成 宮本 靖義 富永 敬三 細川 厚子
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.F0617, 2008

【目的】ヒトの骨格筋を持続的に振動させると、緊張性振動反射によりその筋の緊張は増大する。しかし、振動は筋出力を減少させるとの報告もあり、刺激方法により効果が異なる可能性が考えられる。本研究は、筋腹への振動刺激が筋活動に与える影響を確認することを目的とした。<BR><BR>【方法】健常者13名(年齢22±5歳)を対象とした。大腿四頭筋(以下QF)と中殿筋(以下GM)に振動刺激を与え、QFでは最大筋出力、GMでは筋仕事量への影響を確認した。対象者には研究の主旨説明を行い同意を得た。振動刺激には明光通商社製、RAYMAX VITER(VR-303)を用い、両筋とも振動周波数55Hz、刺激時間は5分間とし、着衣上から2~3cm/secで移動させて筋腹全体を刺激した。刺激側は両筋とも右側とし、対象側を左側とした。測定は対象側への振動刺激の波及効果を考慮して、左側の測定を先行した。QFとGMは別の日に順不同で測定した。<BR> QFの最大筋出力の測定には米国CSMI社製、CYBEX NORM(CN77)を用い、坐位で膝関節屈曲60°の等尺性収縮を3回反復し、最大値を記録した。左側を5分間隔で3回、その後5分間の休憩を取り、右側は振動刺激の前後及び5分後の計3回で測定した。GMの筋電図の測定には日本光電社製、基礎医学研究用システム(LEG-1000)を用い、側臥位で40°の股関節外転を1分間継続する課題を行わせ、前方の筋腹から筋電図を導出した。左側は5分の間隔で2回、その後5分間の休憩の後、右側について振動刺激の前後で2回の筋電図を導出した。左右の筋電図から15秒毎の積分値を解析した。<BR><BR>【結果】QFの体重1kgあたりの筋出力は振動側で有意に上昇し、振動側の変化率は11.7%増大、対象側は1.1%であった。刺激から5分後は、振動側で12.8%の増大が維持され、対象側は4.2%であった。刺激の5分後も効果の持続が確認された。GMの筋電積分値は、振動側で低い傾向が見られ、振動後から15秒間の積分値は反対側に比べて有意に低値を示した。また、反対側では30秒経過後の積分値が有意に高かった。<BR><BR>【考察】QFとGMはともに抗重力筋であり、QFは最も筋紡錘を多く含む筋群の一つであることから、振動刺激に対する感度が高いと考え被験筋とした。GMは自重による持続性収縮においてQFよりも筋疲労を得やすいため、筋仕事量の変化を確認するために被験筋とした。振動刺激はQFの最大筋出力を増大させた。振動によるIa群感覚信号が脊髄固有反射を促通し、脊髄内の興奮性が高まったことにより、多くの運動ニューロンを活動させられたと考える。そして、興奮性の増大は5分間は持続した。GMにおける持続性収縮では、刺激後の15秒間は積分値が低く、少ない筋活動で運動が可能であった。また、運動後半の積分値の増大が生じない点から、筋疲労の抑制効果があったと考える。<BR>
著者
緒方 隆裕 原 正文 松谷 大門 内薗 幸亮 伊藤 平和
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.C0991, 2008

【目的】当院では野球選手に対して障害の予防と障害の状況を把握するため、肩関節機能・下肢機能・関節弛緩性など全身に関するメディカルチェックを実施している。メディカルチェックによるスポーツ選手の身体的特徴の把握は、スポーツによって骨・関節・筋・腱などの運動器にどのような負担がかかり、どのような障害が発生するかの予想を可能にする。今回、シーズン終了後のプロ野球投手に肩関節メディカルチェックを実施したので結果を報告する。<BR>【方法】対象はシーズンを通して一軍で登板したプロ野球投手24名である。先発投手9名、中継ぎ・抑え投手15名である。肩関節メディカルチェックはシーズン終了後に実施した。肩関節メディカルチェックは当院で実施している肩関節理学所見11項目テストを実施した。11項目のテスト内容は、1)肩甲骨脊椎間距離(SSD)、2)複合外転テスト(CAT)、3)水平屈曲テスト(HFT)、4)関節不安定性テスト(Looseness)、5)インピンジメントテスト(Impingement)、6)過外旋テスト(HERT)、7)肘関節伸展テスト(ET)、8)肘関節プッシュテスト(EPT)、9)外旋筋力テスト、10)内旋筋力テスト、11)初期外転テストとした。<BR>【結果】1)肩甲骨脊椎間距離における陽性は41.5%、偽陽性36.6%、2)複合外転テストにおける陽性は75.6%、偽陽性14.6%、3)水平屈曲テストにおける陽性は82.9%、偽陽性12.1%、4)関節不安定性テストにおける陽性は63.4%、偽陽性14.6%、5)インピンジメントテストにおける陽性は7.3%、偽陽性34.1%、6)過外旋テストにおける陽性0%、偽陽性0%、7)肘関節伸展テストにおける陽性は21.9%、偽陽性2.4%、8)肘関節プッシュテストにおける陽性は19.5%、偽陽性4.8%、9)外旋筋力テストにおける陽性は9.7%、偽陽性21.9%、10)内旋筋力テストにおける陽性は12.2%、偽陽性17.0%、11)初期外転テストにおける陽性は19.5%、偽陽性21.9%であった。<BR>【考察】水平屈曲テスト・複合外転テストはともに陽性率が高く82.9%・75.6%を示しており、これは肩甲上腕関節の可動域低下が示唆された。関節不安定性テストにおいても陽性63.4%を示しており、肩甲上腕関節における安定性の低下が示唆された。偽陽性を含む78.1%に肩甲骨の偏位がみられ、肩甲上腕関節の可動域低下による肩甲胸郭関節の代償運動の影響が示唆された。偽陽性を含む41.4%にインピンジがみられ、腱板筋力低下による影響が示唆された。
著者
太田 幸志 原田 和弘
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.48, no.6, pp.563-571, 2021 (Released:2021-12-20)
参考文献数
34

【目的】運動への手段的態度と感情的態度が,セルフ・エフィカシーと自己調整を媒介して,運動行動に影響しているかを検証した。【方法】事前調査において50 ~74 歳の500 名へ質問紙によるインターネット調査を実施し,うち394 名が半年後追跡調査に回答した。基本属性を考慮したうえで,手段的態度,感情的態度,セルフ・エフィカシー,自己調整,運動行動の関連性をパス解析にて検証した。【結果】横断および縦断解析ともに,感情的態度は自己調整およびセルフ・エフィカシーを介して間接的に運動行動に回帰していた。一方で,手段的態度は自己調整を媒介して間接的に運動行動に回帰していたが,セルフ・エフィカシーへの関連性は認められなかった。【結論】感情的態度はセルフ・エフィカシーと自己調整の両者に媒介して運動行動に影響することが明らかになった一方で,手段的態度が両者を媒介して運動行動に影響を与えるかは明確にならなかった。
著者
藤高 紘平 大槻 伸吾 大久保 衞 橋本 雅至 山野 仁志 藤竹 俊輔
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.C0959, 2008

【目的】自然立位とサッカーボールキック動作(以下キック動作)における足アーチ高率の変化量、足趾屈曲筋力とスポーツ障害との関係を調べることである。<BR><BR>【方法】対象は大学生男子サッカー選手51名(平均年齢20.5±1.1歳、平均身長173.4±6.2cm、平均体重66.8±5.7kg)とした。自然立位における足アーチ高率は足長、地面から舟状骨結節までの高さを測定し算出した。キック動作は3m先に設置したマーカーをボールと仮定し、ボールをより遠くへ飛ばすようにイメージして蹴ることを指示し3回行わせた。キック動作はデジタルビデオカメラ(Canon社製)を、レンズの高さ3cm、被写体までの距離2mに設置し、サンプリング周波数を60Hzにて記録した。キック動作における足アーチ高率は動画を静止画像に分割し算出した。足趾屈曲筋力測定はデジタル握力計(竹井機器工業社製)を改良した測定器を用いた。データ分析は測定時より1年間以前の整形外科受診結果(障害例は練習を2日以上休む場合に全例整形外科を受診したものとした)を、障害を有した支持脚と障害がない支持脚で足アーチ高率の変化量と足趾屈曲筋力を比較した。統計学的処理は対応のないt検定を用い、有意水準は5%未満とした。<BR><BR>【結果】整形外科受診59件中、足関節捻挫9件の足アーチ高率の変化量(1.53±0.4%)、足関節障害4件(0.95±0.3%)、足部障害4件(1.55±0.5%)、膝関節捻挫2件(0.89±0.1%)、膝関節障害2件(0.42±0.6%)、障害なし21件(0.94±0.64%)であった。足関節捻挫を有した支持脚の足アーチ高率の変化量は有意に増大した(P<0.05)。足部障害を有した支持脚の足アーチ高率の変化量は大きい傾向にあった(P<0.1)。足関節捻挫、足部障害を有しているものともに足趾屈曲筋力は小さい傾向が認められた(P<0.1)。<BR><BR>【考察】足アーチ高率の変化量の増大は、足部の衝撃吸収機能および、足圧中心位置の変位によるバランス能力の低下を引き起こし、足部・足関節の不安定性を増大させると考えられた。このことから足アーチ高率の変化量の増大は足関節捻挫、足部障害の誘因の一つになることが示唆された。また足趾屈曲筋力の低下により足アーチの保持や足趾把持力が低下し、さらにバランス能力の低下や足部への衝撃ストレスが増大すると考えられる。これらのことが足関節捻挫や足部障害の発生要因になると考えられた。今後、足関節捻挫や足部障害の発症に影響を及す因子や、足アーチ高率の変化量と足部の衝撃吸収機能との関連性についてさらに検討していく必要があると考えられた。<BR><BR>【まとめ】足アーチ高率の変化量と足趾屈曲筋力は足関節障害や足部障害の発生要因となり、足趾屈曲筋力の測定と足部のアライメント評価の重要性が示唆された。
著者
小塚 直樹 橋本 伸也 宮本 重範 小神 博 横井 裕一郎 仙石 泰仁 三島 与志正
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.371-375, 1992-07-10
被引用文献数
2

大規模な設備が不要で, 被検者に対しても様々な負担がかからない歩行分析を検討する目的で, 痙直型脳性麻痺児20名, 正常児10名を対象に側方からの映像歩行解析を行いスティックピクチュアにより定量化した。その結果, crouching gait を呈する脳性麻痺群と正常群との間に歩行速度, 股関節・膝関節の運動性, 歩幅, 立脚期/遊脚期の比率との間に有意差が認められたが, 上下の重心動揺は有意差が認められなかった。また脳性麻痺群において, 歩幅と歩行速度の間の相関傾向が, 正常児群において, 年齢と歩行速度の間の相関関係がそれぞれ認められ, その他のパラメーターも含め crouching gait の特徴を定量化により示すことができた。
著者
廣幡 健二 相澤 純也 古谷 英孝 見供 翔 大見 武弘 大路 駿介 柳下 和慶 Kate E. Webster
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.11358, (Released:2017-10-27)
参考文献数
25

【目的】日本語版ACL-Return to Sport after Injury(以下,ACL-RSI)scale を作成し,表面的妥当性と内的整合性を検討すること。【方法】国際的なガイドラインに準拠して,日本語版ACL-RSI scale の翻訳を行った。翻訳した日本語版ACL-RSI scale を使用して,術後4 ヵ月以上経過したACL 再建術後患者40名を対象に予備テストを実施した。得られたデータを記述的に要約し,天井および床効果の有無とクロンバックのα 係数を確認した。【結果】日本語版ACL-RSI scale の平均回答時間は1分49秒で,無回答率は0.01%未満であった。平均点数は59.3 点で,天井・床効果は認められなかった。クロンバックのα 係数は0.94 であった。【結論】日本語版ACL-RSI scale は表面的妥当性および内的整合性ともに良好であり,実用性の高い質問紙票であると考えられる。
著者
平野 明日香 加藤 正樹 藤村 健太 早川 美和子 加賀谷 斉 向野 雅彦 才藤 栄一
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.255-262, 2016 (Released:2016-06-20)
参考文献数
18
被引用文献数
2

【目的】急性期病院では高齢障害者が増加し,リハビリテーションの重要性が高まっている。当院急性期病棟に理学療法士を病棟配置した効果を検討した。【方法】疾患別リハビリテーション実施者を対象とし,病棟配置前の44例を対照群,病棟に専任配置後の79例を専任群,専従配置(ADL維持向上等体制加算算定)後の83 例を専従群とし,当院患者データベースより後方視的に調査した。【結果】専従群は他2 群よりリハビリテーション実施割合が有意に増加,リハビリテーション開始までの日数,在院日数は有意に短縮した。アンケート調査より,病棟医師・看護師は情報共有がしやすい,リハビリテーション専門職は病棟とのパイプ役として期待との回答が多かった。【結論】理学療法士の専従配置は病棟医師・看護師と情報共有を密に行え,治療の効率化が図れると示唆された。
著者
山田 実 平田 総一郎 小野 玲 安藤 啓司
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.14-21, 2006-02-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
23
被引用文献数
10

変形性股関節症(hip OA)は歩容異常を呈する代表的な整形外科的疾患である。今回,自由歩行中の体幹加速度信号に波形解析(パワースペクトラム解析,root mean square,自己相関分析,相互相関分析)を加え歩容指標(歩容の滑らかさ,動揺性,対称性や規則性,正常波形との類似性)を作成し,hip OA患者における歩容異常の客観的評価の可能性を検討した。対象は女性片側Hip OA患者55名とコントロール群の女性健常者31名とした。歩容指標の値をhip OA群とコントロール群の間で比較した。さらに,これらの歩容指標と臨床指標(hip score,walking score,limp score,X線重症度,最大歩行速度)との関係をSpearmanの相関係数により求め,歩容指標の基準関連妥当性を検討した。Hip OA群では歩容の滑らかさ,対称性,平均化正常波形との類似性は健常群より有意に低下しており,逆に動揺性は有意に大きかった。また4つの歩容指標は多くの臨床指標と中等度の相関関係があった。歩行時の体幹加速度信号にパワースペクトラム解析,root mean square,自己相関分析,相互相関分析を加えることで作成した歩容指標は,基準関連妥当性を有し,変形性股関節症患者における歩容異常の客観的評価に有用であることが示唆された。
著者
佐藤 誠亮 久保 高行 四海 公貴 船引 達朗 大内田 友規 小田川 絢子 梶村 政司
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, 2008-04-20
被引用文献数
2

【はじめに】平和カップイン広島・国際交流車いすテニス大会(以下ピースカップ)は「広島から世界にpeace」をスローガンに、広島県車いすテニス協会(以下HWTA)の主催で開催されている。当初この大会のフィジオサービス(以下PS)は理学療法士(以下PT)の有志のみ(組織対個人)で運営されていたが広島県理学療法士会(以下当会)が会員活動を支援するためにHWTAと協議し当会の事業として位置づけた(組織対組織)ことでピースカップPSでの会員活動の負担が軽減した。現在では連携がさらに強まりHWTAが当会会員に対しての車いすテニス講習会を開催し当会会員PTの質の向上に役立っている。<BR>【変遷】1996年第51回ひろしま国体が開催され、続けて第32回全国身体障害者スポーツ大会・おりづる大会でスポーツ理学療法室が設置され当時のメンバー4名がピースカップでのPSを運営した。1997年HWTAより当会に正式要請があった。<BR>【現在の活動状況】当会からピースカップへ:大会期間中のPS運営を行う。2007度実績は1日利用者平均33名5日間延べ件数207件1日平均スタッフ数11名治療対象部位別件数は頭頚部87腰背部110肩上腕152肘前腕146手手指41治療方法は徒手療法63マッサージ149ストレッチ131テーピング42アイシング39物理療法39PS運営総経費は\77,328であった。ピースカップから当会へ:車いすテニス体験会の講師派遣してもらい障害者スポーツ研修の一助となっている。組織対組織として当会がピースカップPS運営に関わるようになり当会で運営のための予算を設け1.スタッフの交通費支給2.スタッフ確保が容易に3.物理療法機器レンタルが可能に4.事故発生時の責任問題の明確化5.PSでの使用物品の購入が可能になる事で参加会員の負担の軽減になった。<BR>【大会当日までの流れ】1.車いすテニス体験会の開催2.車いすテニス選手ケアのための研修会開催3.PSスタッフ参加募集4.PS運営のための大会直前研修会開催<BR>【考察および今後の展望】この取り組みのように他団体と本会が組織対組織で活動することで1.会員誰もが活動する機会が平等に与えられる。2.PTは障害を有するものを主な対象者として接するが実際には障害を有し社会復帰した後のものを対象として接する機会は少ない。障害を克服した方と接することで我々が臨床の場でよく接する障害を克服する前の対象者に還元できる事は十分にある。3.優秀な人材を発掘しその人材が本大会での活動のリーダーシップをとり質の高い選手ケアが提供できるようになる。これらは公益職能団体として不特定多数へ貢献できる活動といえる。全国的にみてもPT会が他団体の活動をサポートしている報告は散見される程度であるため、当会としてはこのような活動を組織として行うことのメリットを全国に発信していきたい。<BR>
著者
西守 隆 伊藤 章
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.33, no.6, pp.318-323, 2006-10-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
19
被引用文献数
1

本研究の目的は,歩行・走行時の骨盤と体幹の回旋角度を測定し,移動速度との関係や位相性変化を検討することである。大学陸上競技部の男子短距離選手6名を対象とした。移動速度条件として,歩行は1.3,1.9m/sの2条件,走行は2.5,4.5,6.5m/s及び最高速度の4条件とした。全試技を3台のハイスピードカメラを用いて撮影した。得られた座標値から骨盤回旋角度と体幹回旋角度を求めた。得られた骨盤回旋角度と体幹回旋角度について,時系列データとして相互相関分析を行ったあと,位相性の違いを算出した。その結果,歩行では移動速度の増加と共に骨盤回旋運動の振幅は直線的に増大した。走行では2次曲線の傾向を示し,2.5m/sから6.5m/s付近まで増加したが,それ以上の速度では逆に減少した。骨盤回旋と体幹回旋との関係は,歩行では互いに逆方向に回旋していたのに対し,走行では移動速度の増加とともに同方向への回旋運動に変化した。これは移動速度が向上するに従い,歩行周期における骨盤回旋運動の位相が変化し,体幹回旋運動の動きの方向に近づいていくことを示している。
著者
橋立 博幸 島田 裕之 潮見 泰藏 笹本 憲男
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.159-166, 2012-06-20 (Released:2018-08-25)
被引用文献数
5

【目的】本研究は生活機能低下の危険のある高齢者において筋力増強運動を含む機能的トレーニングが生活機能に及ぼす影響を検証することを目的とした。【方法】二次予防対象者に選定された地域在住高齢者68人(平均年齢77.4歳)を,下肢粗大筋群の重錘負荷運動およびマシンを用いたトレーニングを行う筋力増強運動群(n = 40)と,下肢粗大筋群の重錘負荷運動とともに姿勢バランス練習,歩行練習を行う機能的トレーニング群(n = 28)に群別し,運動介入を3ヵ月間行った。介入前後には,下肢筋力,姿勢バランス能力,歩行機能(timed up & go test(TUG),最大歩行速度(MWS)),活動能力,主観的健康観を評価した。【結果】介入前後において機能的トレーニング群は筋力増強運動群に比べてTUG,MWS,主観的健康観の成績の有意な改善を示した。【結論】二次予防対象者における3ヵ月間の筋力増強運動を含む機能的トレーニングは,筋力増強運動のみの実施に比べて,歩行機能,主観的健康観の向上が得られる有用な介入である可能性が示唆された。
著者
遠藤 尚志
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.258-260, 1991-05-10

1. 訪問活動の中から 私は日頃, 「体は病院にあっても心は地域にある」と宣言している。と言うのは, 病院に来られる方は, まがりなりにも必要なケアが受けられるからである。それならば, 在宅患者はどんどん病院に連れてくればよいかというと, そうもいかない。何故なら, 私の中心的な対象者である高齢で重症で痴呆も伴っていて, 発病から5年・10年あるいはそれ以上経過している, という人たちは, ただ病院に連れていったのでは, 「この人は言語訓練の対象にはなりませんね」と宣告されるだけに決まっているからである。病院で行われる言語訓練は, 障害の過程を分析した上で障害の構造を明らかにし, その中で外からの働きかけによって変化しうる部分に治療的介入を行なう, という原理に立脚している。この方法を, 一応「因果論的発想にもとづく治療原理」と呼ぶこととするが, これは言語療法に限らず, 理学療法においても作業療法においても, あるいは他の医学的な治療法においても共通した考え方となっている。そしてその淵源は, 近代科学の思考法にあるといってよいであろう。この因果論的な治療原理においては, 働きかけに対する患者の直接的な応答性を高めるということだけが, 専門職の関心事である。したがって, 治療の結果回復した能力をどのように使うか, ということについては専門職はタッチせず, 本人や家族たちに任されることになる。このような方法論が老人のリハビリテーションの分野でどのような結果を生んでいるか, ということを一人のケースを通じて示したい。