著者
鈴木 良 Ryo Suzuki
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.142, pp.1-20, 2022-09-30

本稿では,障害者権利条約の第19 条,一般的意見第5 号,脱施設化ガイドラインのアウトライン及びドラフト,各国の初回審査の分析を通して,障害者権利条約における1)脱施設化概念,2)脱施設化政策の内容,3)政策運用面の課題を明らかにした。この結果,1)脱施設化は非集合的生活様式を含めて自律性や地域社会への包摂を目指す概念であり,2)脱施設化政策には障害者差別の観点・当事者団体の参画・脱施設化計画の策定・第三者機関の関与・交差的アプローチ・意思決定支援の仕組み・本人/家族支援・パーソナルアシスタンスの選択肢の確立等があり,3)集合的生活様式の定義及び施設生活の継続という選択をめぐる課題等があることが明らかになった。
著者
孫 琳 Lin Sun
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.138, pp.105-122, 2021-09-30

社会福祉という領域は,公共性と切り離せないものとして語られるが,公共性概念の内実については具体的に分析されることのないまま,今日に至っていると指摘されている。その一方で,社会福祉の歴史をみると,社会福祉における「公共性」概念は福祉サービス供給システムの変化によって変わりつつあると考えられる。本研究は福祉サービス供給システムに関わる3 つの主体(「政策主体」「実践主体」「クライエント」)に着目し,「公・公共・私の三元論」をキーワードに,公共性概念の変遷を明らかにした。すなわち,社会福祉における公共性は,戦後直後の国家に関係する公的な(official)ものという意味から,供給主体の多様化によって,共通の(common)ものという意味へ転換し,また,利用者が協働主体として重要視されるようになってから,公共性は誰に対しても開かれている(open)という意味も含まれていると考える。論文(Article)
著者
郭 芳 鄭 煕聖 高橋 順一 Hou Kaku Heeseong Jeong Junichi Takahashi
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Social science review (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.135, pp.1-14, 2020-12

本研究は,利用者本位の介護サービスのあり方に関する示唆を得るため,介護サービスの利用者の社会関係資本と生活満足度および人生満足度との関連を検討することを目的とした。A 県の30介護保険事業所における65歳以上の利用者を対象に,質問紙調査を行い,147名のデータを分析対象とした。調査内容は,基本属性,社会関係資本,生活満足度と人生満足度で構成した。全項目を投入してスピアマンの順位相関係数で検討した結果,介護サービス利用者の社会関係資本と満足度は有意な関連性が示された。家族,友人・知人,地域の人との交流などの社会関係資本が十分あると認識している利用者ほど,生活満足度および人生満足度が高いことが明らかとなった。これらから,利用者の社会関係を断ち切らない介護保険サービスの提供が求められること,地域に根差した施設づくりが重要であることを考察した。論文(Article)
著者
羽鳥 恵一 Keiichi Hatori
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.133, pp.173-195, 2020-05-31

精神科ソーシャルワーク実践の現場では,クライエントの抱えるスピリチュアリティへの配慮が求められる。本稿では,先行研究を紐解き,スピリチュアリティを取り巻く全体的状況を把握し,社会福祉学の歴史的変遷を概観することで,ソーシャルワーク実践がスピリチュアリティに基礎付けられていることを明らかにした。特に精神科ソーシャルワーク実践では,筆者が実際に関わった事例のように,特有な仕方での配慮が必要である。その際,ソーシャルワーカーには,自らの弱さや感受性の自覚が求められる。それによって,クライエントも私も同じ自他不二の存在であると気づくとともに,スピリチュアリティに配慮した実践が可能となるのである。論文(Article)
著者
木原 活信 Katsunobu Kihara
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.138, pp.1-19, 2021-09-30

本論文では,ジョージ・ミュラーの孤児院開設の草創期(1835-1842)に焦点をあて,特に開設直後のミュラーの精神的不調と孤児院の財政的危機について論じた。これまでのミュラーの伝記では,2000人規模の孤児院経営という「奇跡」的事業や諸困難を「祈りによって解決」したといったエピソードを軸に紹介されてきた。しかし本論では,それにはハイライトをかけず,これまでの伝記では触れられてこなかったミュラーの内面的葛藤と経営的問題に焦点をあてた。特に半年間にわたって精神的不調により休業せざるを得なかった経緯,そして逼迫した財政状況を分析した。神のみに頼る「実験」のため,その趣旨を理解した者以外からの献金を受けない,借金をしない,集金目当ての広告をしないといった方針により結果的に過酷なまでの財政危機となった。しかし逆説的にその危機的財政基盤ゆえに,世界のキリスト者たちが多額の献金で支えた。そしてまたミュラーは,「頭の病気」という精神・神経症状と格闘したが,逆にその「脆さ」と「弱さ」ゆえに,愚直なまでに神に頼り続けた点にこそ,「奇跡の人」「偉人」ではないミュラーを理解する本質と鍵がある。This paper focuses on George Müller's early days with the Bristol orphanage (1835-1842) and discusses Müller's mental crisis shortly after its opening and subsequent financial crisis. Biographies written about Müller thus far have centred on the episode showing his 'miracle' works and indicating that the difficulties of managing the orphanage with 2,000 orphans were 'solved by prayer'. However, in this paper, I focused on Müller's internal conflicts and management issues, which have not been touched upon in previous biographies. I analysed the circumstances in which he had to take a leave of absence due to mental problems for six months as well as the tight financial situation. Müller's policy was to 'experiment' with the faith that relies solely on God, so he would not receive donations from anyone other than those who understood his purpose, would not borrow any money from anyone, and would not advertise for collection. A severe financial crisis occurred due to his adherence to this policy. However, paradoxically, because of the orphanage's poor financial base, it was possible to collect large contributions from many Christian volunteers around the world. He also continued to rely on God while struggling with the 'weakness' of mental and neurological symptoms of a 'head illness'. His way of life, as somebody who was 'not a miracle person', is probably the most important point in understanding him.論文(Article)
著者
田島 悠来 Yuki Tajima
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.116, pp.15-40, 2016-03-20

本稿は、NHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』(2013)が、ロケ地である岩手県久慈市においてどのように受容されていたのかを現地調査に基づいて探り、ドラマ放送やそれを機に起こったツーリズムにより地域側にどのような効果がもたらされたのか、それがどのような意味を持っていったと言えるのかを考察した。その結果、『あまちゃん』の受容によって、地域側に観光客増加等の経済的な効果がもたらされたことに加え、自らの地域に関心や愛着を持ち、文化意識を高める機会を得たと考えられる。そして、放送終了後も『あまちゃん』を生かした発展的なまちづくりを継続して行うことで、「久慈市=『あまちゃん』」というイメージを一層強化させていっている。
著者
齊木 千尋
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Social science review (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.107, pp.21-54, 2014-01

本研究は,量的研究と質的研究を手がかりとして,子どもの学習をノートや感想文などの記録から分析し,それを量的に転換する授業分析の枠組みを提示した。事例分析によって授業分析の枠組みの検証を行なった結果,本研究の授業分析の枠組みは,授業構成等の有効性を実証するだけではなく,授業の成果から授業理論仮説の生成に利用可能であることが明らかになった。本研究の授業分析の枠組みは,質的研究要素と量的研究要素を併せ持つと言える。論文(Article)
著者
伊藤 高史 Takashi Ito
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Social science review (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.136, pp.141-159, 2021-03

本稿は,ドイツの哲学者ノルベルト・ボルツの「メディア論」の特徴を明らかにするものである。ボルツはニクラス・ルーマンの社会システム論から強く影響を受け,社会を個人間の「理性的な合意」に基礎づけようとするユルゲン・ハーバーマスの思想を徹底的に批判する。その一方で,メディアと社会との関係についての考察を展開する。我々が現実を観察するインタフェースとしてのメディアはデジタル化の時代を迎えて根本的に変化し,現実とメディア表象の二分法を根本的に解体し,人間の「感覚変容」をもたらし,「弱いつながり」が重視される時代を導いた。これらの考察は,メディア文化と身体性などの関係を社会学的に考える上で大きな示唆を与えてくれるものだ。This research note is to clarify the major characteristics of Norbert Bolz'theory. Having been significantly influenced by the social system theory of Niklas Luhmann, Bolz developed his own social theory and harshly criticized Jürgen Habermas's social theory based on the idea of communicative rationality. Bolz also developed his own media theory and argued that the digital media revolution transformed our senses of reality. The dichotomy between reality and media representation has radically fallen apart as we cannot determine the differences between the real and virtual. The latest media technology allows an immersion into virtual reality without making us aware of its existence. The computer science algorithm has established foundation in our society as a tool to control human beings. Digital media technology has also changed our image of social capital. Weaker ties in cyberspace have become more effective than the stronger ties in physical space among intimate persons like friends or family as the former is more informative than the latter. These arguments of Norbert Bolz can be effectively applied to the sociological analysis of contemporary media culture.研究ノート(Note)
著者
木村 晶彦 Akihiko Kimura
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.96, pp.17-43, 2011-05-31

戦前期の日本のアニメーションには、キャラクターの複雑な心理描写が見られない。背景として、アメリカ製アニメーションのキャラクター表現の影響、及び戦時下におけるキャラクターへの多面的な感情付与、更には機械描写の写実的傾向が指摘されてきた。本稿では、1924(大正13)年から1944(昭和19)年にかけて製作された日本のアニメーションの製作手法に関する言説と、キャラクターの動きを主とした表象の量的分析を通して、キャラクターの感情表現の変遷過程を追った。
著者
伊藤 高史 イトウ タカシ Ito Takashi Itoh Takashi
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Social science review (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.128, pp.21-38, 2019-03

論文(Article)「ジャーナリズムは今(現在)を伝える」という言葉で,ジャーナリズムの機能が語られることがある。本稿の目的は,このように表現されるジャーナリズムの機能を,ニクラス・ルーマンの社会システム理論の観点から明らかにすることである。ルーマンはマスメディアを「情報/非情報」の二値コードによる選択を行うシステムとして定式化した。この場合の「情報」とは,システムの作動を継続させていくものことを意味する。ジャーナリズムが「情報/非情報」の二値コードによる選択を行うとは,情報を通じて構造的カップリングの状態にある他の社会システムを作動させることである。ジャーナリズムが別の社会システムを作動させるその瞬間,過去と未来を切り離す「今(現在)」が生み出されるのである。
著者
塩田 祥子 シオタ ショウコ Shiota Shoko
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Social science review (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.116, pp.105-122, 2016-03

研究ノート(Note)新カリキュラムが導入され,実習内容は,実習生に社会福祉士の業務や役割をみせることに重点が置かれた。そして,実習内容にケアワーク実践を組み込むことに否定的となった。そのことは,ケアワーク実践なしに,実習生が利用者と関わり,関係を築くことを求めている。しかし,実習生がどのように利用者と関わり,利用者の理解を深めていくのか,その方法は明確ではない。そのため,実習においては,ケアワークとの差別化に固執するのではなく,社会福祉士としての利用者理解の方法,視点について具体的に考える議論が必要である。そして,実習生が利用者との関わりを大切にする環境を整えていくことが求められる。それは,実習内容からケアワークを取り除くといった安易なことではなく,ソーシャルワーク,ケアワーク,それぞれの独自性を尊重することにつながる。The content and practices of training in the new curriculum for social workers emphasizes teaching the trainees the duties and roles of certified social workers. It has turned away from the inclusion of hands-on practicum care work with the clients. Although the goal is to encourage trainees to interact and build relationships with their clients without having practiced care work. There are no clear standards or guidelines for approved methods for how to appropriately and effectively interact with clients or gain a better understanding of the clients. Hence, the training needs a discussion about the methods and perspectives by which certified social workers gain an understanding of the population that they serve rather than obstinately trying to differentiate it from care work. Moreover, the training environment should place great value on trainees' interactions with clients to create respect for the unique features of both social work and care work, which does not simply mean the removal of care work from the training content.
著者
松川 晴美 浦坂 純子 Harumi Matsukawa Junko Urasaka
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.143, pp.45-65, 2022-12-31

大学生の約3割が将来についての見通しを持てずにいるという事実から,特に大学入学までの実家の暮らしぶりが,その後のキャリア構想,キャリア実現にもたらす格差について検証することを目的としている。分析のため独自にWEB調査を実施し,4年制大学卒業または博士前期課程を修了後3年以内の男女3,090人から回答を得た。 分析の結果,暮らしぶりは,大学入学時のキャリア構想,キャリア実現の双方に大きく影響を与えていた。また初職就職時では,キャリア構想に対する暮らしぶりの影響は消えるが,キャリア実現には強くその影響が残った。 大学生は,やりたいことを探す力さえも生育環境に左右されている。この点を,現行のキャリア教育は見落としている可能性がある。
著者
板垣 竜太 Ryuta Itagaki
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.142, pp.159-180, 2022-09-30

本資料は,2021年8月30日に起きたウトロ放火事件の公判(京都地方裁判所)に際して担当検事に提出した意見書である。本件は国内外で一般にヘイトクライムと総称されるものに他ならず,したがってそうした一貫した視点から裁かれるべきものである。人種差別撤廃条約の締約国である日本の国家機関は,ヘイトクライムを人種差別的な暴力行為について加重処罰する義務がある。それは人種差別的動機にもとづくヘイトクライムの被害が通常の犯罪に比べて深刻なものだからである。意見書ではこの観点から本件の被害の深刻性,広範性,長期持続性を論証するとともに,被告人の人種差別的動機を錯誤相関や脅迫的効果の意図といった側面から実証した。
著者
徐 園 En Jyo
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.89, pp.111-137, 2009-10-10

本稿では、戦前・戦中における東京の主要新聞に連載された子ども漫画を対象に、その表現形式の変遷について考察した。新聞子ども漫画は、明治末期に、伝統的な絵物語の形式で週に一回連載されていた。児童文化の発展と西洋文化の輸入のなかで、大正後期から吹き出しを用いて、毎日連載する4コマ漫画が急増し、昭和十年代にはこの形式が定着した。その変遷過程は、日本と西洋の漫画の形式が衝突し、また融合する過程である。
著者
河崎 吉紀 Yoshinori Kawasaki
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.142, pp.39-67, 2022-09-30

本稿は20世紀初頭,アメリカで学位を取り,1910年代,20年代に衆議院で活躍したジャーナリストである関和知を例に,排日問題に取り組む政治家の活動,思想を明らかにするものである。学資の不足から留学先で働くことを余儀なくされ,彼はアメリカ社会のさまざまな階層を間近に見た。帰国後は『万朝報』『東京毎日新聞』で記者を勤め,1909年に衆議院議員となった。排日土地法案に対抗して中野武営らと相談会を催し,第18 回列国議会同盟会議では,アメリカの代議士たちと日米部会を結成するなど,具体的な政治活動を展開した。日米両国民の感情の行き違いに焦点を合わせ,互いの理解を深めることが最善であると訴えた。
著者
伊藤 高史 Takashi Ito
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.142, pp.69-89, 2022-09-30

本稿では,メタルダンスユニットBABYMETALが,欧米で最も成功した日本発の大衆音楽アーティストとしての地位を確立していく過程を,社会システム論およびメディア論の観点から分析する。誰もがインターネットやスマートフォンを利用して不特定多数の人々に情報発信をできる今日の社会は,マス・コミュニケーションが全面化した時代である。BABYMETALが欧米で成功し,大衆的認知を得るにあたっては,テレビや新聞,雑誌などの「旧マスメディア組織」だけでなく,ファンが独自に撮影して動画サイトに投稿したライブ映像が大きな役割を果たした。ルーマンが社会システム論において使用した,社会システムの作動を制御する「プログラム」という概念を使って説明するならば,マス・コミュニケーションが旧マスメディア組織の独占ではなくなった今日においては,他者との感動の共有や承認に対する欲求に基づいたプログラムによって制御される消費システムの作動が,BABYMETALの成功の一因となったのである。BABYMETALの成功過程の分析から,「マス・コミュニケーションの全面化」によって特徴づけられる現代社会における,文化産業の創造性の条件の一端が明らかになる。
著者
河崎 吉紀 Yoshinori Kawasaki
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.139, pp.1-21, 2021-12-31

第一次世界大戦後の対応を迫られるなか,野党として,憲政会の幹事長はいかなる政治活動を展開したのか。本稿は1919年から1920年にかけて,その任に就いた関和知の政治演説を分析する。パリ講和会議での交渉失敗を批判し,呂運亨と政府の関係を問題視するなど,その内容はもっぱら外交面に偏りをもつ。また,議会における首相・原敬との対決はマスメディアに大きく報道され,世間へのアピールという点で野党幹事長としての役割を果たした。他方,普通選挙を前面に押し出すのが遅れ,また,「独立の生計」を営む者という条件をつけたことにより憲政会の足並みは乱れていた。このため,彼の政治演説は内政批判において精彩を欠き,ことさら外交における失政を追及するといういびつなものとなった。
著者
河崎 吉紀 Yoshinori Kawasaki
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.141, pp.1-30, 2022-05-31

本稿は,1921年から1923年における憲政会の政治活動を,総務である関和知を例に,メディア・パフォーマンスの観点から捉えることを目的とする。与党である政友会を不名誉な多数と批判して衆議院を騒然とさせた関和知は,加藤友三郎内閣に対し,日支郵便約定で政府の過失を疑い,軍艦天城建造の不正を追及,内閣不信任案を提出して「弾劾演説家」と報じられるようになった。メディアを通して政党のプレゼンスを大衆に確保することは,普通選挙を目前に控えたパフォーマンスとして冷静な戦術であるように見える。なぜなら,臨時法制審議会では派手な演説ではなく,理性的な討論が行われ,普通選挙法案の実質が検討されるからである。
著者
竹内 幸絵 Yukie Takeuchi
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.140, pp.55-78, 2022-03-31

本稿の目的は,黎明期の「フィルムによる広告」の実態を明らかにし,それへの当時の社会認識とその後の広告への接合について考証することにある。最初の広告の「上映」は明治24(1891)年の「廣告幻燈会」だった。その後明治42(1909)年に特設会場での無料イベントにおいて初めて「動く広告」が上映された。この際の広告は戦後のPR広告と近い性質を持っていた。観客に広告を広告として視聴する態度がまだ十分に育っていなかったため,上質な演目に広告を埋め込む「広告映画番組」であることが求められたからである。一方映画館においては昭和初期に,番組内で商品を扱う「タイアップ広告」映画が上映されたが長くは続かなかった。業界関係者の「動く広告」への期待は大きく活発に議論がされ,昭和初期には実験的な短編広告動画も制作された。特設会場での「広告映画番組」の上映は昭和初期まで長期間継続した。これは昭和14(1939)年に施行された映画法が定めた「文化映画」という新たな属性に「広告映画番組」がニュース映画などと一体的に包摂されていく土壌となった。
著者
伊藤 高史 Takashi Ito
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.140, pp.1-21, 2022-03-31

本稿では,メディア論としての社会システム論という観点から,スター歌手として大衆的認知を獲得した森高千里が,「人形」や「アンドロイド」などといった非人間的な存在感を示す言葉で表現されたことの社会的意味を考察する。このことを通じて,大衆文化が持つ創造性とそれを生み出すメカニズムを明らかにすることが本稿の目的である。森高はメディアを通じて表象された「複製」こそが消費システムにとっては「オリジナル」として体験され,実際の森高は「複製の再認」であるという倒錯した状況を観察し,そのことを表現するパフォーマンスを行った。「人形」や「アンドロイド」といった表現が示唆するのはメディア的表象の中にあっても森高は独特の質感を持った存在として,「メディア的身体性」と呼び得るものを獲得していたことである。消費システムは文化産業システムと創作システムの作動の中に,消費システムがいかにして観察されているのかを観察し,そのことによって森高のパフォーマンスに「リアルなもの」としての意味を見出した。森高がメディア的身体性を獲得したことの分析を通じて,大衆文化における創造性は,様々な社会システムが複合的,重層的に連鎖し,相互に観察し合うことを通じて生み出されていることが明らかになる。