著者
鈴木 元
出版者
名古屋大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

遺伝的揺らぎ研究:これまで、肺癌検体を用いたmRNAマイクロアレー解析、細胞レベルにおける各種実験結果より、POLD4遺伝子の重要性を多角的に解明してきた。POLD4発現低下は細胞レベルで、肺癌発生と密接な関連を有するタバコなどによるDNA損傷修復活性の低下をもたらす。外的損傷がない状態でもG1/S期およびS期における細胞周期チェックポイント活性化を誘発し、染色体断裂頻度の上昇を伴う。平成25年度はこのチェックポイント活性化につながる機序の解明を行った。すなわち、POLD4発現低下はDNA複製・修復能低下により2本鎖切断を誘発し、ATMの活性化を引き起こす。その結果p27遺伝子産物の分解抑制によりチェックポイントの活性化が導かれることが明らかとなった。細胞膜揺らぎ研究:ハイブリッドリポソーム処理により、種々のがん細胞においてアポトーシスが誘発される。我々は、その過程で本来細胞内に極めて微量にしか存在しないリン脂質が増加すること、また、そのリン脂質の下流代謝物のひとつである、スフィンゴ脂質組成が変化することを明らかにしてきた。さらに、これらスフィンゴ脂質組成変化の責任遺伝子を同定したところ、その責任遺伝子が癌で高発現していることが明らかとなった。この責任遺伝子の癌における機能を明らかにするため、ノックダウン、過剰発現を主体とした実験系を構築し、解析を行った結果、この遺伝子は癌細胞の転移に必要であることが明らかとなった。以上の結果はハイブリッドリポソームは、癌転移能亢進のため細胞が高発現している遺伝子産物の活性を利用して、抗癌剤としての作用を発揮するという機序を示している。
著者
古川 鋼一 浦野 健 古川 圭子 田島 織絵
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

1.GM2/GD2合成酵素とGD3合成酵素のダブルKOマウスの検討の結果、神経変性、皮膚損傷、抗不安と記憶・学習脳の低下、知覚機能低下、アセチルコリンのムスカリン型受容体の反応性低下と、セロトニン受容体5-HT2の反応亢進を認め、酸性糖脂質が神経組織の維持に必須であることが示唆された。2.DKOマウスでの遺伝子発現プロフィールを検討し、DKOにおいて発現低下する遺伝子5種、亢進する遺伝子15種を同定した。特に補体・補体受容体遺伝子の発現亢進が認められ、補体制御分子のラフトでの機能不全、組織障害が補体系の活性化を招き変性増強に働くことが示唆された。3.舌下神経再生実験の結果、GM2/GD2合成酵素KOマウスでは、再性能が著明に低下した。舌下神経核において発現低下する遺伝子をLCMとRT-PCRにより解析し、BDNF、GDNFなどの発現低下が示された。asialo-系糖脂質の欠損にはGD3の代償機能が不十分なことが示された。4.lac-cer合成酵素であるβ4GalT-VI遺伝子KOを樹立したが、糖脂質に明らかな変化が見られず、lac-cer合成の多くはβ4-GalT-Vが担うことが示唆された。5.GM3合成酵素の欠損マウスは問題なく出生、成長し、asialo-系列糖脂質の代償作用が示唆された。6.Gb3/CD77合成酵素(α1,4-GalT)のKOマウスを用い、ベロ毒素に対する感受性が本酵素の発現に依っていることが確認された。以上、KOマウスに残存する糖脂質の代償的機能のカバー可能な範囲と、固有の機能が見えてきた。今後のテーマとして、1、単一遺伝子KOとダブルKOマウスの異常表現型の比較による特定糖脂質構造の意義の解明、2、糖脂質糖鎖の特異的ligandの同定と意義の解明、3、糖脂質がクラスター形成する膜ミクロドメインのin vivoにおける解明が重要である。
著者
萩原 秋男 小川 一治
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

1.実験林及び実験方法 19年生(1993年現在)ヒノキ林からサイズを異にする5個体を選び、2台の立木同化測定装置を順次、各個体に移し替えながら個体レベルのCO_2ガス交換速度を昼夜連続して測定した。また、測定個体の毎木調査(樹高、生枝下高、生枝下高幹直径、樹高の1割高での幹直径、地際から50cm間隔での幹直径)を毎月、実施した。2.結果 個体レベルで測定された年総光合成生産量p[kg(CO_2)tree^<-1> yr^<-1>]は個体の幹材積v[dm^3]が大きいほど大きく、両者の関係は以下に示す拡張されたべき乗式で表された。p=g(v-v_<min>)^h (g,v_<min>,h;係数) (1)上式は、個体幹材積がv_<min>に近づくにつれて、個体の年総光合成生産量が急激に減少してゼロとなることを示しており、v_<min>は林分で生存可能な最小個体の幹材積と見なすことが出来る。また、べき指数hの値はほぼ2/3となり、サイズの大きな個体の年総光合成生産量は個体の表面積にほぼ比例していると言えた。また、年呼吸消費量r[kg(CO_2)tree^<-1> yr^<-1>]は年総光合成生産量pに比例していた。r=kp (k;定数) (2)比例定数kの値は0.38となり、年呼吸消費量は年総光合成生産量のほぼ4割に相当していた。式(1)と式(2)を仮定することにより、年呼吸消費量rの個体幹材積vへの依存性は次式で与えられる。r=g'(v-v_<min>)^h (g'=kg) (3)実測結果は、式(3)に良く適合していた。以上の結果は、時間経過に伴う林分の物質生産機構の推移を、個体レベルでの物質経済の面から説明可能であることを示唆している。
著者
中嶋 哲彦
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

2006年の教育基本法改正及び2007年地方教育行政の組織及び運営に関する法律・学校教育法の改正は、地方教育行政及び学校管理への目標管理システムの導入を促進する意味をもっていた。全国学力テストの実施や学校評価・教員評価はその一環を成すものであることが確認された。他方、教育振興基本計画による目標管理は当初予想されたほど強い統制力は発揮していないことが確認された。
著者
山本 直人 小田 寛貴
出版者
名古屋大学
雑誌
名古屋大学加速器質量分析計業績報告書
巻号頁・発行日
vol.13, pp.167-169, 2002-03
被引用文献数
1

これまで5年間にわたって,土器型式が明確な縄文土器に付着した炭化物を試料に,タンデトロン加速器質量分析計による炭素14年代測定をおこなってきている(山本1997;1998;1999,山本・小田2000;2001)。これまでの研究を継続して今年度(2001年度)も測定を実施してきており,その結果を報告するものである。今年度に測定したのは2遺跡9点で,採取した試料の詳細は表1に,測定の結果は表2にしめすとおりである。今年度の測定にあたりましては,野々市町教育委員会の吉田淳氏,國學院大學栃木短期大学の小林青樹氏にお世話になりました。明記して謝意を表する次第です。
著者
山本 直人 小田 寛貴
出版者
名古屋大学
雑誌
名古屋大学加速器質量分析計業績報告書
巻号頁・発行日
vol.12, pp.215-219, 2001-03
被引用文献数
2

これまで4年間にわたって,石川県内の縄文時代の遺跡を対象にして,土器型式が明確な縄文土器に付着した炭化物を試料に,タンデトロン加速器質量分析計で放射性炭素年代測定をおこなってきている(山本1997;1998;1999,山本・小田2000)。今年度(2000年度)もこれまでの研究を継続して測定を実施してきており,その結果を報告するものである。今年度に測定したのは2遺跡11点で,珠洲市野々江(NNE)遺跡については遺漏があったので,ここで報告するものである。採取した試料の詳細は表1に,測定の結果は表2にしめすとおりである。今年度の測定にあたりましては,珠洲市教育委員会の平田天秋氏,野々市町教育委員会の吉田淳氏と布尾和史氏にお世話になりました。明記して謝意を表する次第です。また,これまでに測定をおこなってきたなかで,信頼性の高い測定値をぬきだして作製したのが,表3と表4である。なお,表4も表2同様,括弧内の数値はAMS^<14>C年代の平均値を較正した値であり,括弧外の数値は較正後の誤差範囲をしめている。井口II式の後半と八日市新保式の古いところは時間的にかさなって,並存するのではないかと一部では考えられてきたが,測定値はその可能性を示唆しており,今後類例を増加させて考察していきたい。
著者
佐藤 修二 川端 弘治 野上 大作 川端 弘治 野上 大作
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

我々は、南北両半球に配置された二つの小口径望遠鏡に搭載した観測器(IRSF/SIRIUS+かなた望遠鏡/TRISPEC)を用いて、激変星、原始星、ブレーザー(活動銀河核)、γ線バースト等の現象について同時測光偏光観測した。その膨大なデータはかなたObsLog に保存されている。解析はこれからであるが、強度と偏光とも、数日間のタイムスケールで大きな変動を示す。また、南半球では、銀河磁場を研究している。星形成領域や銀河大域の磁場構造を明快に示した。
著者
松原 豊
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、太陽表面で加速された陽子により生成された高エネルギー(>100MeV)中性子を地上で観測することにより、太陽表面における高エネルギー粒子加速機構を解明することを目的とする。中性子は磁場の影響を受けず、加速時の情報を保持しているので粒子加速の研究には最適である。しかし、大気中では減衰してしまうので、名古屋大学太陽地球環境研究所を中心とするグループは、世界7箇所の赤道付近の高山に太陽中性子検出器を設置し、太陽中性子の24時間観測網を実現している。本科研費の申請は、その中で最も太陽中性子観測に最適な場所に設置されながら、最も旧式のデータ収集を行っていたボリビア・チャカルタヤ(高度5,250m,南緯16度)の太陽中性子観測システムを最新のものにおきかえ、2007年から始まる第24太陽活動期での太陽中性子観測に備えることを目的としていた。2年間の科研費使用の結果、チャカルタヤのデータ収集系は最新のものに置き換わり、無人の状態で停電してもその復帰時には自動的にデータ収集が再開できるシステムとなった。その間、観測網で2番目に好条件に位置するメキシコ・シェラネグラ(高度4,600m,北緯19度)側の研究者から同様システムを渇望され、本科研費の余力でシェラネグラのシステムも最新のものになった。従って、次期太陽活動期に備えて非常に強力な観測体制ができあがったと言えよう。科研費によるこの整備が進行中の2005年9月7日に大規模太陽フレアが発生した際、これまで我々が観測した中で最もきれいな太陽中性子イベントがチャカルタヤとシェラネグラの両検出器で検出された。これは、まさに本科研費で狙った通りのことである。このイベントは、チャカルタヤとメキシコ市にある我々の検出器ではない、中性子モニターでも検出されており、現在詳細な解析を行っている。
著者
後藤 元信 佐々木 満 桑原 穣 キタイン アルマンド 神田 英輝
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009-04-01

超臨界流体中あるいは常圧から超臨界領域の圧力でのガス・超臨界流体と液体界面での放電プラズマを利用した物質変換プロセスとして各種色素の反応、アラニン等のアミノ酸などの反応を検討したところ、プラズマにより重合反応を中心に化学反応が誘起されることを見出した。プラズマの発光強度の測定から、発光強度と反応の関係および反応機構を明らかにした。金属への超臨界流体中でのレーザーアブレーションにより生成するナノ粒子やクレーターの圧力依存性が極めて大きく、臨界圧力近傍で粒子生成が促進されることが分かり、プラズマの発光強度との関係を明らかにした。また、水熱電解による物質変換プロセスが構築できた。
著者
沢田 昭二 小林 昭三 斎藤 栄 安野 愈
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

量子色力学(QCD)の低エネルギー有効理論である非線形シグマ模型のソリトン解であるスキルミオンに関する研究を行うとともに、QCDの成立にいたる過程において重要な役割を果たし現象論的にも実験事実をよく再現する非相対論的クォーク模型との関連についても研究した。成果を項目的にまとめると次のようになる。1.量子化したカイラル・ソリトンのトポロジカルな性質に付いての研究については、特に3次元球面上のカイラル・ソリトンのスピン-アイソスピン空間における回転およびソリトンの中心を中心とする伸縮運動(ブリージング・モード)を集団座標の方法によって量子化し、この系の相転移構造を調べた。2.スキルミオン描像に基づき、高次補正を含めて一貫した矛盾の無い方法によって湯川相互作用やパイ中間子-核子散乱現象を記述することができるかどうかは、この描像の長い間の懸案であったが、この問題について基本的な解決を得ることが出来た。3.カイラル・ソリトン描像と非相対論的クォーク模型の描像の両者をQCDのカラー自由度N_Cを変化させてバリオンのスピン・フリップ・頂点について研究した。4.カイラル・ソリトンに採り入れられていないクォークの自由度を考慮した研究の新しい芽も生まれている。
著者
沢田 昭二 大槻 昭一郎 玉垣 良三 吉川 圭二 福田 礼次郎 高木 富士夫 松田 哲 秋葉 巴也
出版者
名古屋大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1988

1.QCDジェットや重いクォ-コニウムなど摂動論的方法が有効な領域において実験との一致をみているQCQ(量子クロモ力学)が、非摂動的効果が重要となる領域において、どのようにカイラル対称性が自発的に破れる相に移行し、カラ-自由度が閉じ込められてハドロンを構成するか、その機構を理論的に明らかにすることを本研究の中心課題とした。2.この方向に沿って、非摂動効果を含む問題を取扱う新たな手法として、格子ゲ-ジ理論、ア-ベリアン射影、逆転法などを用いた方法が開発され、相移転機構や閉じ込めなどの具体的問題に適用された。3.QCDの低エネルギ-有効理論と考えられる非線型シグマ模型とQCDとの関連を明らかにするとりくみもおこなわれ、またこの模型におけるソリトン解すなわちスカ-ミオンによって核子をはじめとするバリオンとその相互作用の研究が引きつづいておこなわれ、またカイラル・バッグ模型にもとづいて核子の諸特性および核力の導出がおこなわれた。4.格子ゲ-ジ理論にもとづいてQCDから電子計算機を用いて直接QCD系の相構造、ハドロンの質量スペクトル、レッジュ軌跡の勾配などを求めるとりくみは、新しい計算方法の開発と電子計算機の大型化、高速化によって、一層信頼性の高い結果が得られ、当初の結果の抜本的な見直しがおこなわれた。この方向の研究は計算機の進歩とあいまって今後引きつがれる。5.QCDを含めた相互作用の統一を求める研究、標準模型を超える試みも活発におこなわれ、100GeVおよびこれを越える実験結果がえられつつある状況の中でCD不変性の破れ、トップ・クォ-ク質量予測などの研究成果も挙げられた。また宇宙初期の創成過程とかかわって有限温度QCDにもとづくクォ-ク・グル-オンプラズマ,高密度核物質の研究にも新たな知見が加わった。
著者
荒牧 正也 小川 修三 小川 修三 廣川 俊吉 沢田 昭二 早川 幸男 小沼 通二 荒牧 正也
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

坂田昌一氏は、氏の複合模型の提案にかぎらず夙に研究における方法論の重要性を強調していた。氏はまた湯川秀樹、朝永振一郎両氏の4年後輩として京都大学を卒業し、以来研究上でも両氏と緊密な関係をもっていた。そこで複合模型展開の研究に先立ち、坂田昌一氏の研究開始の時期に遡ってその足跡を辿り、氏の遺作や遺稿の収集・整理から手を付け、それを目録として纏めることとした。この仕事は未だ不十分なところが残っているが一段落し、「坂田記念史料室 資料目録第一集」として出版できた。これによって、坂田昌一氏の研究活動についてその背景を含めて検討する手立てが得られた。この目録作成と平行して、坂田昌一氏の社会的・文化的背景の検討を行ない、京都大学卒業論文から第二次大戦終結までに至る氏の方法論的考察の伸展と具体的研究との関連、とくに湯川博士との研究の進め方に関する考え方の違いが極く初期に遡ること及び武谷三男博士との緊密な関係と微妙な違いなどを追求し、その結果を「坂田昌一氏における『物理学と方法』」なる表題のもとにいくつか発表した。加えて坂田昌一氏とは研究の進め方及びその内容において相補的な朝永振一郎氏を提唱者とする、くりこみ理論、展開の歴史研究「Development of the renormalization Theory in Quantum Electrodynamics」が行なわれたが、これは複合模型の展開に至る坂田昌一氏の方法論に別の面から光を与えるだけでなく、日本の素粒子論発展の解明に大きく寄与すると考えられる。
著者
中嶋 哲彦
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究の当初の研究計画は、(1)市町村教育委員会及び公立学校における公文書の管理及び公開・開示にかかわる問題点と課題を明らかにすること、(2)児童生徒の学習権保障にふさわしい教育情報の取扱い原則と情報管理体制のモデルを開発することにあった。この研究は児童生徒の学習権を保障する教育行政・学校運営に保護者または児童生徒自身が参加するルートを開拓するという実践的課題に応えようとするもので、本申請における地方分権的教育行政と自律的学校運営に対する民主主義的規制または合意形成という研究課題と密接に関連している。海外調査を含む調査研究により、次の研究成果が得られた。(1)学校教育情報の公開・開示は教育委員会が定めるガイドラインにもとづき学校の判断により行うことが、教育の地方自治及び学校自治の観点から望ましい。(2)学校教育情報の公開・開示や訂正の請求があった場合、当該学校に第一次的判断が委ねられるべきであるが、その決定に不服が申し立てられた場合は他の学校の校長・教員・保護者代表により組織される審査会において処理することが望ましい。(3)保護者の主体的な教育参加を促しかつその機会を保障するためには、学校教育情報の公開・開示ルールを保護者に周知することが必要であり、学校または教育行政区で保護者マニュアルを作成することが望ましい。(4)児童生徒と保護者の利益相反の可能性を否定できないことから、一定年齢以上の児童生徒には保護者から独立して学校教育情報の公開・開示を請求する権利が保障されるべきである。
著者
藤波 初木
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

東アジアモンスーン域の陸上(主に中国の長江・黄河流域)における降水・対流活動の季節内変動とその要因を解析した。長江、黄河流域ともに、年々変動はあるが、夏季の降水・対流活動に顕著な季節内(7~25日周期)変動が確認された。これまで熱帯・亜熱帯の対流活動や大気循環場の変動の影響といった観点からのみ解析をされてきた対象領域の季節内変動は、中緯度亜熱帯ジェット気流上のロスビー波の影響を非常に強く受けていることが明らかになった。
著者
江田 匡仁
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、大動脈瘤に対する低侵襲手術のための治療デバイス開発を行った。動脈瘤の進展を防ぐDoxycycline(DOXY)に着目し、生体吸収性材料(ポリ乳酸)とDOXYを混和してelectrospinning法で紡糸し担体を作製した。DOXYの徐放化が可能で、平滑筋細胞やマクロファージと共培養するとMMPs、カテプシン、炎症性サイトカイン、ケモカインを抑制し、エラスチン発現が亢進した。大動脈組織との共培養ではエラスチン分解が抑制され、MMP-2の発現も抑制した。さらに、アポE欠損マウスによる大動脈瘤モデルでは、エラスチン分解抑制、MMP2,9、IL-6、TNF-αの発現抑制、TIMP-1、IGF-1の発現促進を認め、新たな動脈瘤治療の可能性が示唆された。
著者
中江 康之
出版者
名古屋大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

【目的】前年度の研究において、急性膵炎や膵石症における血中α2-macroglobulin-trypsin複合体様物質(MTLS)測定の病態解析に対する有用性を示した。本年度は引き続きMTLS高値例におけるトリプシン残存活性と血中MTLS濃度の関係について検討した。【方法】(1)血中MTLS濃度およびトリプシン活性の測定:血中MTLS濃度力塙値を示した急性膵炎18例および膵石症26例の血中残存トリプシン活性を、Boc-Gln-Ala-Arg-MCAを基質として測定した。(2)膵石症における血中MTLS存在様式の検討:血中MTLS高値膵石症患者血漿をSDS-PAGEで泳動し、膵分泌型トリプシンインヒビター(PSTI)に対するWestern blot法による解析を行った。(3)PSTIによるMm.Sトリプシン活性阻害の検討:ヒト純粋膵液より精製したトリプシンとα2-macroglobulinを混和しα2-macroglobulin-trypsin複合体(α2M-T)を作成後、PSTIによるMTLS活性阻害を検討した。【結果】(1)血中MTLSの酵素活性は、急性膵炎17.0±30.lng/ml、膵石症2.5±3.8ng/ml、健常人1.2±1.3ng/mlであり、急性膵炎では活性の上昇を認めたが、膵石症では認められなかった。(2)膵石症血漿のWcstcmbIot法による解析ではpsn単体あるいはPSTI-トリプシン複合体よりも高分子側に抗PSTI抗体陽性のバンドを認めた。(3)PSTIによりα2M-TのMTLS活性は約50%阻害された。【結論】残存トリプシン活性は血中MTLS濃度と同様に急性膵炎では重症度を反映していたが、膵石症ではMTLS濃度が高値にも関わらずトリプシン活性を認めなかった。この活性阻害は膵液中のPSTIによると考えられたが、他の阻害物質の関与も示唆された。
著者
板倉 敦夫 水谷 栄彦
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

死産児、新生児死亡の病理解剖組織標本を神経病理学的、あるいは組織免疫学的に調べ、その児の臨床経過と対比させて、虚血-再還流による脳細胞障害の部位と程度について検討した。フリーラジカルによって産生される代表的な脂質過酸化物である4-hydroxy-2-noneal-protein(HNE)は、細胞内蛋白と結合し蛋白機能を障害することが明らかにされている。そこで死産児、新生児死亡の抗HNE-proteinおよびによる免疫組織染色を行い、発現を検討したところ、小脳、橋、海馬の神経細胞に発現が認められ、さらに脳虚血時に認められるpontosubicular neuron necrosisに陥っている細胞にその発現が強く認められた。またこの作用を生化学的に検討するために、胎児の血管内皮細胞を低酸素培養し、低酸素性脳障害の原因となりうる物質の変化を検討したところ、Angiotensin conuerting enzymeが、低酸素培養によって、血管内皮での産生が亢進していることが判明した。今後低酸素状態における血流調節におけるレニン-アンギオテンシン系の関与を検討する予定である。
著者
川平 友規
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

1.1990年代,リュービッチとミンスキーはクライン群に付随する3次元双曲多様体のアナロジーとして,複素力学系に付随する3次元双曲ラミネーションを定義した.特に,クライン群におけるモストウ剛性のアナロジーにより,ある種の複素力学系の剛性定理を証明している.一方で,3次元双曲多様体に比べ,3次元双曲ラミネーションの構造の詳細は未だ限られた例を除きほとんど知られていない.今年度は昨年度から引き続き,無限回くりこみ可能な2次多項式に付随するリーマン面ラミネーションの構造について研究(カブレラとの共同研究)し,以下の結果について論文を発表した:(1) 無限回くりこみ可能な2次多項式は,チューニング不変量と呼ばれる組み合わせ的な不変量(超吸引的な周期点をもつ2次多項式の列によって記述される)をもつ.一般に,無限回くりこみ可能な2次多項式が特異軌道が持続的回帰性をもつとき,その2次多項式に付随するリーマン面ラミネーションほチューニング不変量に2次多項式に付随するリーマン面ラミネーションと同相な「ブロック」を可算無限個つなぎ合わせることで「ほぼ」得られる.(2) 上記の性質を満たし,かつアプリオリ・バヴンドと呼ばれる幾何的な条件を満たす無限回くりこみ可能な2次多項式について,そのリーマン面ラミネーションと別の2次多項式のリーマン面ラミネーションが向きをこめて同相でれば,ふたつの2次多項式はおなじチューニング不変量をもつ.特に,マンデルブロー集合(2次多項式のパラメーター空間)が前者に対応する点において局所連結であれば,前者と後者は同じ2次多項式である.特に(2)は,力学系から得られる幾何学的な対象が逆に力学系を決定する,という意味で,モストウ剛性に近い剛性定理といえる.2. その他,放物的分岐におけるハウスドルフ次元の微分の評価,ゴールドバーグ・ミルナー予想の研究などを行った.
著者
西田 佐知子 西田 隆義 内貴 章世 市岡 孝朗 西田 隆義 内貴 章世 市岡 孝朗
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

他生物との共進化を類推させながらも、その多様化の原因や経緯が明らかではない器官に「ダニ室」がある。本研究ではガマズミ属植物を用い、ダニ室の形態・生態的多様性の実態を明らかにするため、形態学、分子系統樹との比較、生態学の調査を行った。その結果、45の調査種で、ダニ室の有無は地域・系統などでは分かれなかった。ダニ室の多くは毛束型だった。同地域の形態が異なるダニ室、同じ形態でも違う地域のダニ室、同地域で同形態だが違う季節のダニ室では、それぞれダニの種類や数が、一部重複はするものの異なった。これらの結果から、ガマズミ属のダニ室は環境に応じて並行的に進化し、特定のダニとの強い共生関係より、緩やかで多様な関係を保つ共生器官として機能している可能性が示唆された。
著者
石崎 俊子 佐藤 弘毅
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

携帯電話日本語学習サイトの構築と実践を通して利用実態と利用動向を明らかにした。学習環境の常設性、学習ニーズに関する即時性、学習の接続性という役割を十分果たしていると言える反面、文字の入力と問題形式に問題があったことから、日本語初級学習者にはページ移動及び日本語入力のない問題形式、つまり穴埋め問題を活用すると効果的に学習できると分析する。