著者
桑原 尚子
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

1.学会発表(Asian Law Institute, Inaugural Conference,2004年5月27、28日於シンガポール国立大学)報告タイトル:Is Legal Tradition Sacred to Be Immutable? : Conversion to Islam under Malaysian Family Law from the Viewpoint of Civil Courtマレーシアでは、コモン・ロー、イスラーム法、マレー・アダット及び先住民の慣習法が裁判規範として認められ、このような法制度は「多元的法体制」(M.B.フーカー)と称されている。主として、家族法の領域において、宗教及び民族ごとに異なる法が適用される結果、人際法の問題が生じることとなる。本報告では、非ムスリム婚の当事者の一方のイスラームへの改宗を原因とする離婚に焦点をあてて、マレーシアの法だけでなく政治においても、特別な意義をもつイスラーム法伝統の不変性/可変性について、通常裁判所の判例分析に基づいて、しばしば真正性が法、政治において強調されるイスラーム法が、多民族の共存の文脈では、不変性を必ずしも維持しえないことを明らかにした。2.「マレーシア法」、北村一郎編『アクセスガイド外国法』(東京大学出版会、2004年)所収マレーシアでの留学経験及び調査に基づいて、マレーシア法の基本的な調べ方についての解説を行った。3.「マレーシア・イスラーム離婚法の改革の法理とジェンダー」(博士論文、名古屋大学大学院国際開発研究科提出)これまでの研究及び調査に基づいて執筆した。イスラームでは「男女は神の前では平等であるが、男女間の役割は異なる」と言われ、イスラーム家族法では、ジェンダーの役割分担に基づく権利義務が付与されている。本論文では、マレーシアで適用されているイスラーム離婚法が、このようなジェンダー役割に基づいていることを前提として、過去40年間の法変動について分析し、そこにみられる改革の法理を明らかにすることを試みた。
著者
吉田 健一 橋本 光靖 伊山 修 藤野 修 寺井 直樹 寺井 直樹
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

研究代表者は、以前の研究で原伸生氏と共に、一般化された密着閉包の概念を導入し、乗数イデアルを可換環論の言葉で定義することに成功した。具体的には、乗数イデアルは、密着閉包のテストイデアルの標数に関する極限として得られる。本研究では、小さな標数のテストイデアルの振る舞いと乗数イデアルの振る舞いとの違いを明らかにした。さらに、可換環論におけるさまざまな不変量の研究を行うために、密着閉包の理論を整備した。
著者
山田 肖子 森下 稔 服部 美奈 黒田 一雄 日下部 達哉 大塚 豊 北村 友人 西村 幹子 小松 太郎 乾 美紀 鴨川 明子 澤村 信英
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009-04-01

本研究では、実践や学問観が多様化する比較教育学に関し、学問観を整理、マッピングするとともに、異なる研究アプローチを持つ者がチームでフィールドワークを行った。成果として、「比較教育学の地平を拓く:多様な学問観と知の共働」という本(分担者の森下稔氏と共編)を刊行した(平成25年3月、東信堂)。また、共同フィールドワークは、モルディブ国で4回にわたって行われ、その成果は平成25年2月に、モルディブ国における成果報告会で発表された。この報告会は、教育省主催で行われ、強い関心を集めた。モルディブ調査に関係した研究者が個別に論文を投稿したほか、25年度に繰り越した予算で和文での報告書も作成した。
著者
町田 健
出版者
名古屋大学
雑誌
名古屋大学言語学論集
巻号頁・発行日
vol.17, pp.157-170, 2001
著者
野口 裕之 堀川 有美 李 在鎬 庄司 惠雄 熊谷 龍一 野原 ゆかり
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

日本語口頭能力試験のための評価システムを開発する研究を進めた。このシステムでは Web ベースで配信した受験者の発話標本を聞きながら、評価者が PC 画面上に逐次提示される評価票の各項目に評定結果を入力する。評価者毎には課題を通して比較的一貫した評定であった。評価者間では「量的評価」の方が「質的評価」よりも相対的に一致した結果が得られたが、「量的評価」でも一部の評価者で他と異なる評定結果を示した。多相ラッシュ分析を適用した結果は、評価者の厳しさの違いは無視できないが、推定された能力尺度値は予め 12 名の発話者に想定した能力水準と大きくは異ならないことを示した。
著者
大野 誠寛 村田 匡輝
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、講演や解説などに対して読みやすい字幕をリアルタイムに生成するため、その要素技術として、次の3つの話し言葉処理手法、(1)節の始境界検出に基づいて高精度化した、話し言葉の漸進的係り受け解析手法、(2)話し言葉を読みやすいテキストにするための構文構造に基づく話し言葉の整形手法(主に、読点挿入手法)、(3)字幕テキストを読みやすく表示するための構文構造に基づく改行挿入手法、をそれぞれ開発した。
著者
嶋田 義仁 DUCROS Garance GARANCE Ducros
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

嶋田はDr.Ducrosとともに、変革期にある日仏家族内における非物質的相続関係の研究をおこなった。Dr.Ducrosは、フランスにおける「家族の記憶」をめぐる研究史(M.Halbwachs、A.Gotman、B.Le Wita,J.Coenen-Huther,I.Bertaux-Wiane,A.Muxel)を通じて析出した「家族の記憶」分析の諸カテゴリーをふまえて、日本における「家族の記憶」のあり方を探った。本年その事例としたのは、70歳後半の新宗教教団幹部で支部大教会の会長である。海外布教に専心し、ヨーロッパ、東南アジア、アルゼンチンなど海外数カ国での布教活動をおこなった。家族の財はその祖父の代に教団に寄贈したという家族であった。ライフ・ヒストリーを通じて衝撃であったのは、家族と言うよりも教団の一員としての意識が強烈であったことである。とりわけ教団の組織確立者であり、教団の海外布教の推進者であった教祖を深く尊敬していた。ただし、これは教団への盲目的な服従心とことなり、その後の教祖たちについては批判的であった。特集技能者の成長過程は、家族という親族的論理と、特殊技能であるがゆえに家族の親族的論理の枠を超えた社会集団の論理(宗教団体、茶道や華道団体、学問や大学組織、企業、スポーツ界)がかかわる。職業的社会集団は、フランスではデュルケーム社会学が個人を越えた独自の存在として重視した社会集団である。家族/職業的社会集団という異なる2種の社会原理の相克と補完関係についてのよい事例が得られた。他方嶋田は、この2組織原理にくわえて、地縁原理の重要さを指摘し、家族、職業的社会集団、地縁社会という、3つの原理がどのようにかみあっているのかを考察した。この3原理は、世界の諸社会・諸文化の比較研究のうえにも役立つことが、嶋田の研究しているアフリカ社会の考察でも明らかになった。部族主義の伝統のあるアフリカでは、家族親族集団が部族あるいはその下位単位のリニージにまで広がる。他方、イスラムなどの世界宗教が広がる地域では、宗教的アイデンテティが第4の要素として巨大化する。
著者
間瀬 剛
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

申請者はLHC加速器を用いた超前方中性粒子測定実験LHCfに参加している。LHC加速器は平成21年3月に世界最大のエネルギーである3.5TeV+3.5TeV陽子同士の衝突を成功させた。また6月には100μradの角度をつけて衝突させることにも成功している。また低エネルギーである450GeVの衝突を2009年に引き続き行った。LHCf実験は上記のすべての条件でデータ取得を行い、450GeV衝突では約5万のイベントの検出、3.5TeV衝突では約5000万イベントの検出に成功している。申請者は平成21年1月31日から平成21年7月3日まで平成21年度優秀若手研究者海外派遣事業(特別研究員)に採用され、当該期間にLHC加速器のあるCERNで研究に従事した。申請者はLHCfメンバーの一員として24時間シフトを組んで共同研究者とともにデータ取得にあたった。さらに得られたデータのキャリブレーションとして使用している2007年度に行われたSPSビーム実験の再解析を行ない、LHCf実験で得られたエネルギー決定のパラメータを新しいものに更新した。過去に行われたシミュレーションに用いられているCosmos/Epicsというコードのバージョンが古いものであったため、新しいものとはエネルギー損失等に若干の差異がでることが予想された。そこでバージョンを最新のものにして新たにシミュレーションを行い、先人とは独立した解析によって新しくパラメータを決定し、以前のものと1%程度の相違があることを確認した。また新しいバージョンでのシミュレーション結果を使用して検出器のエネルギー分解能やエネルギースケールの評価を行った。
著者
吉田 久美 前島 正義 近藤 忠雄
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

花色発現には種々さまざまな液胞膜輸送が重要な役割を果たしている。そこで、この観点から、花色の解明を目指した。1)アサガオの開花に伴う花色変化の機構と液胞膜輸送開花時に液胞pHが上昇するのは、表層の着色細胞だけであることから、花弁の短時間の酵素処理により着色プロトプラストだけを調製し、これから、着色細胞だけの液胞膜を単離した。これを用いて、pH制御に関わると推測される輸送タンパク質の解析を行った。開花に向けてV-ATPse、V-PPaseの活性が協奏的に上昇した。ナトリウムープロトン交換輸送体(NHX1)は、開花最終ステージで劇的に発現量が上昇し、活性が上がった。同時に、PM-ATPaseの発現量と活性も上昇することがわかった。以上より、これらプロトンポンプ類およびNHX1の働きが、花色の青色化(即ち液胞pH上昇)をもたらすことを明らかにした。さらに、開花にともないアサガオの花弁の表層細胞の体積は数倍に増加し、この現象と花色の青色化、およびK^+量の増加同調していることがわかった。即ち、アサガオ開花時の液胞膜上のプロトンポンプ、NHX1および細胞膜上のプロトンポンプの発現量の増加と活性上昇は、液胞内へK^+を輸送して細胞を伸長生長させるために必須の装置ではないかと考えられる。2)その他の花の花色発現機構アジサイ、ファセリア、チューリップなどの液胞内成分を明らかにし、青色発色機構の化学的な解明を行った。
著者
夏目 敦至 千賀 威 宇理須 恒雄
出版者
名古屋大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

ストレス顆粒はRNAと多くのタンパク質からなる凝集体であり、熱や活性酸素などのストレスにより形成される。その形成メカニズムは不明であり、RNAの翻訳停止やタンパク質の修飾が関与していると考えられている。また、ストレス顆粒の構成タンパク質の異常は神経疾患の発症と関連している。我々は分子生物学的手法とイメージングの手法を用いてストレス顆粒形成のメカニズムを解析した。ストレス顆粒の新たな構成因子を同定し、そのダイナミックな細胞内局在と複合体形成を解析し、関連する病態の解明をした。
著者
草野 完也 浅井 歩 今田 晋亮 塩田 大幸 三好 隆博 簑島 敬
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

太陽フレアの発生機構について3次元電磁流体シミュレーションと太陽観測衛星「ひので」およびSDOによる観測データの解析を通して研究し、磁気中性線近傍に現れる2つの特徴的な構造を持つ比較的小型の磁場構造が太陽フレア発生のトリガとしての役割を果たすことを見出した。この小型の磁場は次期中性線上における平均場のポテンシャル成分と非ポテンシャル磁場成分に逆行する磁場成分を持つ。これらの結果は精密な磁場観測に基づいて太陽フレアの発生を決定論的に予測することが可能であることを示唆している。しかし、その予測時間は小スケールの磁場構造の変動によって数時間程度に制限されるであろう。
著者
野田 利弘 浅岡 顕 中野 正樹 中井 健太郎 澤田 義博 大塚 悟 小高 猛司 高稲 敏浩 山田 正太郎 白石 岳 竹内 秀克 河井 正 田代 むつみ 酒井 崇之 河村 精一 福武 毅芳 濁川 直寛 野中 俊宏
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2009-05-11

日本の重要な社会資本は,沖積平野や海上埋立人工地盤といった地震被害が懸念される軟弱地盤上に多く蓄積されている.本研究では,特に沿岸域に立地する社会基盤施設を対象に,長周期成分を含み継続時間が数分にも及ぶ海溝型巨大地震が発生した際の耐震性再評価と耐震強化技術の再検討を実施した.既往の被害予測手法は地震時安定性評価に主眼が置かれ,地震後の長期継続する地盤変状を予測することはできない.「地盤に何が起こるかを教えてくれる」本解析技術による評価を既往手法と並行して実施することで,予測精度の向上とともに,被害の見落としを防ぐ役割を果たすことを示した.
著者
森際 康友 松本 恒雄 長谷部 恭男
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

研究代表者の森際康友が研究統括の他に、法曹倫理基礎理論と教育方法の開発に取り組み、研究分担者の松本恒雄が私法および司法の観点から、同長谷部恭男が公法および人権教育の観点から法曹倫理の研究・教育に関わった。その研究成果および教育実践・方法開発の報告を内外の国際会議で行った。たとえば、最終の2010年度には、森際が蘇州及び北京で編著の教科書の中国語訳出版を記念した招待講演を行い、6月末にはアンカラでトルコ弁護士会連合主催による弁護士倫理の国際シンポジウムを企画・報告し、7月には第4回国際法曹倫理会議(スタンフォード大学)にて比較裁判官倫理のパネルを企画し、報告した。8月には長谷部がオスロで、9月には森際がハイデルベルグで、10月にはパリで研究発表を行った。12月には森際がドイツ裁判官アカデミーで裁判官倫理の哲学的基礎について講演した。2011年2月には、東京で、「職域拡大時代の弁護士倫理」と題して次期研究計画を視野に入れつつ3年間の研究を総括する国際会議を企画・開催した。この間、森際は法科大学院における法曹倫理コアカリキュラム策定に携わるとともに、それに対応した教科書の改訂作業を行った。また、長谷部・森際はCCBEにおける欧州弁護士倫理統合作業について調査し、その成果をジュリスト誌上で発表した。これを含めて研究成果の出版数は雑誌論文21編、図書3冊である。教育研修実践については、森際が毎年ドイツ裁判官アカデミーで裁判官の倫理研修を行ったほか、本務校以外に学習院大学、ルンド大学(スウェーデン)で法曹倫理の講義を行った。こうして「法曹養成における職業倫理教育の理論と方法」を開発する研究と教育研修を履践した。
著者
小嶋 哲人 松下 正 高木 明 山本 晃士
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

先天性プロテインS(PS)欠損症・異常症の遺伝子解析において、未解析の新たな症例検体については従来のPCRダイレクトシーケンス法を用いた遺伝子変異の同定を行った結果、新規変異を含めてその原因と思われるPROS1遺伝子変異を同定した。その中でPROS1遺伝子の蛋白翻訳領域には変異は見つからなかったものの、翻訳開始点より168bp上流のプロモーター領域に同定したC→T (c.-168C>T)の点突然変異のルシフェラーゼ・レポーター解析の結果、変異型では転写活性が20%まで低下し、先天性PS欠損症の原因と思われた。先天性PS欠損症症例で従来の各エクソンのPCRダイレクトシーケンス法にてPROS1遺伝子に変異の見つからなかった症例において、PROS1遺伝子の15個の各エクソン部に偽遺伝子と区別するPCRプライマーを設定し、Multiplex Ligation-dependent Probe Amplification (MLPA) 法によってPROS1遺伝子欠失の同定解析を行ったところ、PROS1遺伝子の全欠失を示す症例を1例同定した。しかし、他の多くの症例では欠失を同定できず、遺伝子欠失の頻度はまれであると思われた。ヒトPSを産生するHepG2 細胞を用い、エストラディオール(E2)の添加による培養上清中のPS分泌量の変動についてELISA 解析を行ったところ、30%の発現低下を認めた。また、細胞内PS mRNAの変動についてReal Time PCRを用いて定量した結果、同様にE2 の添加によるmRNA発現低下を認めた。現在、PS遺伝子プロモータ領域をクローニングし、ルシフェラーゼ・レポーター解析による、HepG2細胞でのE2 によるPS遺伝子発現の制御動態解析を施行中である。
著者
加藤 國安
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

子規文庫の漢籍や自編漢詩集の調査から、子規が生涯を通して深く漢文と関わり、その豊富な漢詩理解から自作の漢詩が創作され、また近代俳句が醸成されたことが明確となった。また『中等教科漢文読本』を中心に調査した結果、明清の散文を入り口とするという基本的な方針のもとに編集されていることが分かった。それは齋藤拙堂-三島中洲-簡野道明という、江戸後期から明治期へという一連の人脈を通して踏襲されていること。また時代が明治に変わっても、高い学識でもって古今の漢文を厳選し、これにより近代的な国民教育を実践し、すぐれた人材の育成に資せんとする顕著な意図があったこと等を論証した。以上を総合して、明治の社会が観念的な近代西洋文学の直輸入に覆い尽くされたわけではなく、長年にわたり培ってきた豊富な漢文力の土壌の上に、東洋の豊かな人間観や調和的な自然観と親密な関係性を保ちながら、三千年の言語的文化遺産に深く.がっていたこと。そしてそこから生まれてきた東西文化の高度な融合文芸や、国際的な運用にかなう道義・見識の形成に大きく寄与したこと、またそれゆえに文化的様性のもつ資源力のきわめて重要なことについて述べた。
著者
酒井 正彦 坂部 俊樹
出版者
名古屋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は、プログラムの解読・改ざんが大変困難なプログラム言語であるMalbolgeを、ソフトウェア保護の目的に利用できるようにすることである。最も大きな問題点である、該当の言語でのプログラム作成の困難性を克服するため、Malbolgeのチューリング完全性を示し、Malbolgeプログラム作成手法の大枠を確立した。
著者
阿波賀 邦夫 松下 未知雄 吉川 浩史
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

有機伝導体・磁性体研究の成果が応用展開される有機エレクトロニクスを目指す一方、有機エレクトロニクスの駆動技術を利用して有機伝導体・磁性体研究の発展を目指した。その結果、(1)チアジルラジカル薄膜に見出された巨大過渡光電流のメカニズムを解明し、この機構を利用して近赤外光の光電変換を達成した。(2)イオン液体と有機強構造薄膜を用いて電気二重層トランジスタを作製し、キャリア注入機構を分子論的に明らかにした。(3)強い配位能を有機アニオンラジカルを合成し、その金属錯体において高温弱強磁性などの特異な分子磁性を見出した。
著者
木俣 元一
出版者
名古屋大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

リスボンのグルベンキアン美術館所蔵の『ヨハネ黙示録』写本の、子羊が第6の封印を開く場面でキリストが掲げ持つ印章がそなえる意味について考察を進めた。現代においてと同様に中世においても、視覚のあり方は一様でなく、地域や文化、対象や状況などの条件により多様な視覚のあり方が共存し、競合していた。西洋中世において機能していた多様な「視」のあり方をとらえるため、西欧の伝統において印章と刻印の比喩がどのように用いられたかを複製と権力という観点から追跡した。この比喩は、古代ギリシア、おそらくはそれ以前から、記憶、認識、表象、イメージ、存在をめぐるさまざまな問題系列と連なる伝統的トポスであった。古代、ビザンティン、初期中世においては、刻印は機械的複製を生産するための特権的手段であった。そこにあっては、人間の手が画材や道具を媒介として描写や似姿を形成するのでなく、イメージは一気に機械的に成立する。母型を素材に押しつけたり、打刻するとある程度の順応性や可塑性を備えた素材は、母型とは凹凸と左右の反転した形象を痕跡として留める。母型自体では陰刻であるゆえにいささか不明瞭であったイメージは浮き出すように可視化され、より判読しやすく触知的感覚をいきいきと呼び起こす様態へと変換される。こうしたイメージ産出手段では、個人による技術的差異が関与する余地はほとんどなく、同一のイメージを限りなく作り出すことが可能となる。西洋中世においては複製を作り出すこと、その技術、個々の複製がイメージの生産や受容に関わる多様な局面で重要な役割を果たした。
著者
大月 淳
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

イタリアを対象とし、そこでの(1)民営化の変化に対応する劇場のあり方、(2)個別の劇場と地域の関わり方、(3)劇場間の関係性のあり方、をエミリア・ロマーニャ州を中心に明らかにし、今後の地域における劇場のあり方に関する知見を得た。国を中心とする公共セクターの影響力を強く残す形での民営化(=財団化)の経緯と現状、劇場と地域及び劇場間の関係性を規定するジャンルを軸とした「劇場活動カテゴリー」のあり方は、現在、公共劇場の再構築が課題となりつつあるわが国において参照に値する。
著者
高橋 亮介
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本年度は以下の研究を行った。ローマ期テプテュニスの家族史研究については、先々年度に作成した論文「ある家族の衰退」を大幅に書き改め、現在印刷中である。また同論文の英語版を外国の学術雑誌に投稿し、審査中である。また博士論文の他の部分についても改訂を進めた。また2006年に発表した邦語論文「ローマ期エジプトにおける兄弟姉妹婚」の改訂英語版Brother-Sister Marriage and Inheritance Strategies in Greco-Roman Egyptをロンドン大学のRowlandson博士と共に作成し、英国の学術雑誌Journal of Roman Studiesに掲載した。ここでは邦語論文以後に発表された研究を批判的に検討し、新たな論点を盛り込みつつ自説を再論した。ザウィエト・スルタン採石場のグラフィティ研究に関しては、前年度の調査概報を公刊し夏期に現地調査を行った。さらにグラフィティの二言語併用状況の歴史的性格を明らかにすべく、プトレマイオス朝行政における二言語併用文書の使用実践について考察し、アコリス遺跡調査の公開研究会で報告「プトレマイオス朝の行政と文字:二言語併用文書をめぐって」を行った『史学雑誌』第118編第5号「2008年の歴史学界」で「古代ローマ」の項目を執筆し、2008年に出版された古代ローマ史に関する邦語文献の紹介・批評を行った。鷲田睦朗氏と共訳したムーリツェン「民衆/民会の権力:ローマ政体への新しいアプローチ」は共和政期ローマの政治体制を論じたもので、ヘレニズム諸王国を下し地中海世界全域にわ社たる帝国を成立させたローマ理解を深めるものである。これらはエジプトを地中海世界の文脈でとらえる作業の一環社として位置付けることができる。