著者
菅井 俊樹 篠原 久典
出版者
名古屋大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1997

犬山P/T境界試料中にわれわれは、フラーレンC_<60>を発見し、試料中の濃度は10pptであることをつきとめた。さらに、金華山P/T境界試料や犬山P/T境界近傍試料など複数箇所の試料から、1ppt程度のフラーレンを検出した。C_<60>はサッカーボール型分子でフラーレンの代表的物質であり、これまで主に実験室で合成されてきた。ところが近年、恐竜が絶滅した6500万年前のK/T境界の試料中にC_<60>が発見されるなど、天然試料中にも存在することが明らかになってきた。この地球環境におけるC_<60>をはじめとする炭素フラーレンは木材などの有機物の燃焼や、雷などにより炭素を含む物質が蒸発・反応したことにより生成すると考えられている。フラーレンは生成条件が上述したように特殊であり、また生成後は非常に安定で水にも不溶である。これらの性質から生成時の地球環境を推測する新しい指標として有望である。われわれがC_<60>を発見した2.5億年前のP/T境界では、全地球史史上最大規模の生物の大量絶滅が起こり、海洋生物種の95%が絶滅した。この原因として、超大陸パンゲアの生成による地殻・気候変化と海洋における酸素欠乏などがあげられているが、物証が少なくよく分かっていない。C_<60>は酸素や水素の少ない条件下で効率よく生成するので、P/T境界時のC_<60>の地殻存在濃度を時代を追って調べることにより、各時代にどのような自然環境であったかが明らかになり、生物の大絶滅を解明できる可能性がある。具体的には以下のような方法でC_<60>を発見した。まず愛知県犬山の2.5億年前の黒色泥岩層から約2kgの試料をとり粒径1mm以下に粉砕した。つぎに、珪素や鉄などのC_<60>以外の部分を取り除くため弗化水素酸で一月間溶解させた。C_<60>が含まれている不溶部分をろ過して取り出し、トルエンで超音波洗浄を用いてC_<60>を抽出した。抽出溶液を高速液体クロマトグラフィーとアレイ型検出器を用いて検出・同定した。複数箇所のP/T境界試料からC_<60>が発見されたことで、この時代に地球規模のフラーレン生成を引き起こす現象が起こっていたことが明らかになった。現在のところ生成原因はパンゲアの地殻活動に伴う山火事などで生成したものと考えている。P/T境界時の自然環境との関係とC_<60>濃度の時間・地域依存性を実験に基づいて考慮している。
著者
中村 るみ
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

1.磁気嵐/サブストームに伴う磁気圏尾部内でのプラズマ流の変動GEOTAIL衛星データを用いた磁気圏尾部内部でのプラズマ流の解析結果を基に,サブストーム、磁気嵐等の擾尾現象に伴う粒子加速の開始領域について議論した。GEOTAILによる、従来より広範囲での観測結果から、加速された粒子が再分配される際に起こる、尾部に向かってのエネルギー解放がどのように進行し、磁気圏構造が変動するかを示唆した論文を発表した。2.磁気嵐時の磁気圏構造と磁気圏尾部に蓄られるエネルギー量の導出GEOTAIL衛星が磁気圏遠尾部境界付近に位置していた期間のデータを用いて、磁気圏尾部のサイズ、磁気フラックス量を求め、磁気嵐/太陽風変動に伴う磁気圏形状と磁気圏遠尾部内に蓄積されるエネルギーの変動を調べた。その結果、磁気圏遠尾部断面の形状が磁気嵐各相での太陽風/惑星空間磁場の圧力の非等方性により変形することや、100Re以遠の磁気圏尾部領域でも、磁気嵐に伴い、磁場のエネルギーの蓄積が、見られることが明らかとなった。本研究テーマについての結果をまとめた論文は現在、印刷中である。3.磁気嵐に伴う高エネルギー粒子フラックスから求めた内部磁気圏構造の変動極軌道衛星SAMPEXの1MeVの電子データを用いて、磁気嵐に伴う内部磁気圏の粒子分布の変動を統計的に調べた。特に、L=2〜8の領域での電子データに見られる急激な減少/増加が、環境流発達に伴う磁場変動が引き起こす捕捉粒子軌道の変化が原因とした場合に、どの程度解釈できるかを、環電流のモデルを使って比較することで考察した。結果については、現在投稿準備中である。
著者
渡辺 宙志
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本年度の研究成果は大きく2つに分けられる。第一はロドプシンの波長制御である。視覚を司るロドプシンの吸収波長は、生物種によって異なり、生物の生息環境に応じて最適化されている。その吸収波長の制御機構の解析が、本研究の目的である。具体的にはアナゴロドプシンを対象に用いた。当該タンパク質は、従来のものとは異なる、長距離型の波長制御機構を持つことが近年報告された。本研究では、ホモロジーモデリングと分子動力学計算の手法を用いて、分子構造を構築および精製した後、量子力学計算手法を用いて吸収波長を算出した。結果これら結果に対して、主成分解析を応用し、制御機構を説明することに成功した。第二はチャネルロドプシンの構造モデルを構築したことである。当該タンパク質は、神経の情報伝達機構を解析する手段や、盲目マウスの視覚の復元などに用いられている重要なタンパク質にも関わらず、その分子構造が未知であったために、分子レベルでの解析や応用が十分に行われていなかった。本研究において私は、当該タンパク質にアミノ酸配列レベルで特徴的なパターンがあり、それを構造モデルの構築に応用できることを発見した。モデルされた構造に前項で述べた手法を応用したところ、実験的な光学的的特性が再現されたため、同モデルの精度が非常に信頼できることが示された。またこの後、同モデルをもとに行われた実験においても、モデルを支持する結果が得られている。
著者
加藤 太一
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

難治性疾患である肺高血圧発症に対する分子状水素の抑制効果を評価するために、ラットモノクロタリン肺高血圧モデルを作成した。飽和水素水投与により、右室圧の低下、肺血管の筋性化の軽快を認めた。肺高血圧に対し脱水素水投与した群で増加していた肺血管周囲マクロファージ、線維芽細胞、酸化ストレスマーカー陽性細胞、細胞増殖マーカー陽性細胞は飽和水素水により減少した。これらの結果より分子状水素は肺高血圧症の改善に炎症の抑制、酸化ストレスの抑制、細胞増殖抑制を介して寄与する可能性が示された。
著者
北根 安雄
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

本研究は,鋼板添接補修およびCFRP接着補修による腐食した鋼管杭の性能回復に与える腐食粗さの影響を明らかにするため,腐食粗さを有する減肉鋼管杭と補修後の鋼管杭について有限要素法により検討した.減肉鋼管の静的曲げ耐荷力は,平均板厚が同じでも腐食粗さによりばらつきが生じるが,補修後耐荷力のばらつきは,補修前に比較して小さくなる.また,CFRP接着補修において,断面欠損部に表面粗さが存在する場合,粗さの振幅が大きくなるにつれ鋼板最小板厚部分の応力が大きくなり,欠損部の最小板厚を基準として補修に必要なCFRP板の板厚を設計しても,粗さのない場合の応力まで回復できないことが明らかとなった.
著者
森 仁志
出版者
名古屋大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2009

頂芽優勢は頂芽が腋芽の成長を抑制して優先的に成長する現象である。本研究では、オーキシンによるPsIPT転写抑制の分子機構と、サイトカイニンによる腋芽休眠解除の分子機構を明らかにすることを目的として研究を行った。PsIPT2プロモーター::GUSを導入したシロイヌナズナは、オーキシンに応答してプロモーターの活性が抑制された。このPsIPT2プロモーター::GUS入シロイヌナズナを変異処理し、オーキシンによる転写抑制が起こらなくなるmutantのスクリーニングを開始した。元の形質転換体は根端を除く根がGUS染色される。従って植物体を発根3日目に0.1μM NAAを含む寒天培地に移し1週間NAA処理をした後に、根がGUS染色されなくなる個体を選抜する、あるいは根全体と根端もGUS染色される個体を選抜する。これまでに候補となるようなmutantは選抜できていない。また、細胞周期制御から腋芽の休眠を解析した。休眠腋芽の細胞周期はG1期で抑制されている。これまでの知見から、cyclin/CDK/KRP/PCNAがタンパク質複合体を形成していると推測されている。この点を明らかにするために、CDKにaffinityのあるp13^<sucl>カラムを用いて、休眠腋芽抽出液から複合体の単離を試みた。得られた画分をトリプシン消化後、質量分析計で解析した。リガンドにしたp13^<sucl>と、CDKと思われるタンパク質は検出されたが、KRPと推定できるタンパク質は検出されなかった。
著者
葛谷 孝文 小林 孝彰 羽根田 正隆 岩崎 研太 田中 友加
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

臓器移植後に使用される各種免疫抑制剤の薬剤暴露時間によるリンパ球の増殖抑制効果について健常人の末梢血リンパ球を用いたin vitroの系で検討した。始めに、添加した免疫抑制剤の洗浄方法について検討を行い、分析機器(シクロスポリン:CLIA法、ミコフェノール酸HPLC)の検出限界以下まで洗浄できていることを確認後以下の実験を行った。CFSE染色した末梢血リンパ球に免疫抑制剤(シクロスポリン、ミコフェノール酸)添加後、anti-CD3/28 microbeadsで刺激し3日間培養した。培養期間中、刺激1日または2日後に薬剤洗浄を行った。3日間培養後各々の群におけるTリンパ球をCD3で染色し、細胞増殖抑制効果をフローサイトメトリーにより観察し、薬剤間における特徴を比較検討した。その結果シクロスポリンは3日の薬剤暴露に比し1日の暴露後の薬剤除去で同程度のリンパ球増殖抑制効果が観察された(3日の暴露で47±15%の抑制、1日の曝露で37±13%の抑制)。一方、ミコフェノール酸では1日の暴露後の洗浄ではリンパ球増殖は十分抑制されず、暴露時間によるリンパ球の増殖抑制効果に関してシクロスポリンとは異なる傾向を示した(3日の暴露で83±10%の抑制、2日の暴露で73±6%の抑制、1日の暴露で29±11%の抑制)。これらの結果からミコフェニール酸モフェチルは時間に依存した免疫抑制効果を発揮し、シクロスポリンに関しては一度リンパ球の増殖を抑制することにより継続的な効果が期待できることが示唆された。このことはT細胞受容体の刺激後速やかなカルシニューリンの活性を阻害することが重要であり、初期段階の阻害によりその後の細胞増殖はある程度の期間抑制できることが示唆された。
著者
前島 正義
出版者
名古屋大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010

気孔開閉調節に関わるタンパク質PCaP1およびCO_2透過性アクアポリンPIP1に焦点を当て、生理機能の作動機構を明らかにし、高濃度CO_2下での両分子のCO_2供給システムにおける役割とそれに関わる量的・機能的調節を解明する。新規のCa結合タンパク質であるPCaP1は細胞膜に局在し、情報伝達にかかわるカルモジュリンとホスファチジルイノシトールリン酸(PtdInsPs)と結合する。PCaP1は孔辺細胞にも発現し、その遺伝子欠失株の葉では気孔の閉口ができないという表現型を観察してきた。本年度、PCaP1が孔辺細胞に発現していることを確認し、PCaP1のタンパク質化学的な特性として、CDスペクトル解析により、Ca結合による構造変化、ITC法によるCa結合のキネティクスを明らかにすることができた。なお、気孔以外での役割の一つとして、PCaP1は病理応答にも関わっていることを明らかにすることができた。さらに、PCaP1のT-DNA挿入遺伝子破壊株では、暗所での気孔閉口が不完全となること、野生株と比べて、暗所下および高濃度CO_2条件での生育が良いことを見出した。これらの結果は、生育環境が悪いときPCaP1は生育を抑制するブレーキ役を果たしている可能性を示唆している。多様なアクアポリン分子種の中でも細胞膜局在性のPIP1は複数の植物でCO_2透過性が認められており、申請者らはPIP1の量の減少がCO_2固定能の低下をもたらすことを見出した。高濃度CO_2に対するPIP1の応答を解析し、組織内CO_2供給システムの解明とモデルの提案を目指し、CO_2濃度の影響が高温環境で変化するか否かも解析の準備を進めた
著者
家田 章正
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

地球の昼間電離圏における、高度積分した電気伝導度の、太陽天頂角(SZA)依存性を調べた。電気伝導度は電子密度に依存している。しかし、過去の研究においては、伝導度のSZA依存性が、Chapman理論による電離層最大電子密度で表現できるか否か不明であった。本研究では、観測された電気伝導度を理解するためには、Chapman電離層を修正すれば良いことを見出した。さらに、SZAが大きくなるほど、つまり夜に近づくほど、ホール層が薄くなる効果を指摘し、この効果を、Chapman理論における最大電子生成高度により表現し、電気伝導度比の近似式を作成した。
著者
高須 明 松井 一幸 高橋 守
出版者
名古屋大学
雑誌
名古屋大学教育学部附属中高等学校紀要 (ISSN:03874761)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.67-82, 1981-09-17

本校中学高校一貫在学生徒の数年にわたる成績が分析され、5教科(国社数理英)に対する男女の学力差の傾向が定量的に調べられている。この結果、男女間には著しい傾向のあることがいくつか見い出された。この現象の背後を探るべく、実施したアンケート調査の結果が分析され、理科学習において男女間に学力差の現われる原因の追求がなされている。
著者
熊谷 純
出版者
名古屋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

細胞の存在する状態で放射線照射された培養液を回収し、その被ばく培養液を被曝していない細胞のフラスコへ移し処理すると、被ばくしていない細胞中に放射線影響を受けたかのような挙動を示すものが現れる。これは、培養液を介したバイスタンダー効果と呼ばれ、照射された細胞(ドナー細胞)から分泌されたバイスタンダー因子が、別のフラスコの未照射細胞(レシピエント細胞)に作用して起こる現象と理解されている。我々はバイスタンダー培養液をレシピエント細胞に24時間作用させると、遅発性長寿命ラジカルが生成して突然変異頻度が上がることを見出した。バイスタンダー培養液に24時間晒されたレシピエントCHO細胞では、ドナー細胞の吸収線量が1Gyの場合、ラジカル濃度がそれぞれ27%有意に増加することを見出した。この増分が遅発性長寿命ラジカルにあたり、その濃度はおよそ130pMと見積もられた。ドナー細胞がない場合は培養液を照射してもラジカル濃度は増加しなかった。ドナー細胞の入った系にミトコンドリアの電子伝達阻害剤Myxothiazolで照射前に2時間処理すると(0.5μM)、レシピエント細胞中のラジカル濃度は増加しなかった。従つて、照射されたドナー細胞中のミトコンドリアの機能不全が培養液へのバイスタンダー因子の放出に関与していると考えられる。バイスタンダー培養液にアスコルビン酸(AsA:1mM)を加えると、ラジカル濃度の増加は抑制され為が、NAC(5mM)の場合は抑制されなかった。突然変異頻度試験においても、AsA添加によって突然変異頻度は有意に下がったが、NACを添加しても下がらなかった。本結果はバイスタンダー効果によって誘発された遅発性長寿命ラジカルがAsAによって消去されて突然変異が抑制されたと考えられ、遅発性長寿命ラジカルが直接あるいは間接的に突然変異誘発に関与していると示唆される。
著者
金井 篤子 松本 真理子
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、より有効な介入システムを構築するため、実際に中学校で起こってしまった事件後に行った緊急介入の際に、心理的支援を目的に実施したIES-Rデータおよび介入経過を分析した。IES-RはPTSDのハイリスク者をスクリーニングする目的で広く使用されている。その結果、事件直後は事件に暴露した生徒の60%、暴露していない生徒の9%にハイリスク群がみいだされたが、1ヶ月後にはそれぞれ4%、3%となった。暴露生徒の支援は当然ながら、暴露していない生徒の支援も重要であることなどが明らかとなった。
著者
小澤 正直 神保 雅一 松原 洋 西村 治道 浜田 充 ブシェーミ フランチェスコ
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009-04-01

量子測定理論と量子集合論を軸に量子計算量理論と量子符号理論に新しい数学的方法を開発した.本研究代表者が確立した小澤の不等式と呼ばれる普遍的な不確定性原理の研究を発展させ,世界で初めて測定誤差と擾乱に関するハイゼンベルクの不等式の不成立を実験的に観測し,小澤の不等式の成立を確認した.また,量子計算の実現に伴う様々なモデルに対して,計算量,デコーヒーレンス,必要な物理的リソースなどを明らかにした.更に,誤差を回避するための新しい符号化法を開発した.これらの成果により,量子情報技術の開発,関連産業,文化などにも幅広いインパクトを与えた.
著者
丹羽 公雄 中野 敏行 森島 邦博 朴 ビョン渡
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

1. OPERA実験の解析に向けた、原子核乾板超高速自動飛跡読取装置の開発・実用化を行ない、OPERA実験解析の準備を行なった。2. ニュートリノ実験以外の用途(ダークマターの直接検出、ミュー粒子を用いた火山、溶鉱炉の透視、ガンマー線望遠鏡など)への応用研究などを行い、原子核乾板を用いた手法の有効性を示した。これらの開発により、現在主力のOPERA のみならず原子核乾板を用いた将来の基礎研究、応用研究へ広げてゆくための基礎を構築できた。
著者
松本 琢磨
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

まず、ひので衛星の高解像度かつ安定な対流画像を用いて、対流運動のパターンを追跡することで、水平速度場を求め、世界で初めて、対流運動の水平速度場スペクトルの統計解析を行った。その結果、水平速度場の全パワーを定量的に評価でき、さらにどの振動数・波数帯にパワーが集中しているか、までもが判明した。これにより、対流で発生するアルフベン波のエネルギーを計算することが可能である。今後この結果をもとにして、コロナ加熱・太陽風加速問題が大きく進展していくことが期待される。次にアルフベン波散逸の多次元効果を調べるため、光球表面から、太陽風加速領域までを同時に計算可能であるようなロバストな数値計算コードの開発を行った。数値計算スキームにはHLLD法と呼ばれる、分解能が高い割に計算コストが少なく数値的に安定な解法と、磁場のソレノイダル条件を保証してくれるflux-CT法を組み合わせたものを用いた。衝撃波管などの典型的な問題や線形波動伝播による精度評価などを実施し、現在では実際に光球から太陽風加速領域までの領域を含めた大規模な計算が行えるようになった。その結果、2次元計算において初めて、コロナ加熱と太陽風加速の両者を同時に説明可能なモデルを構築できた。現在はその計算結果を解析し、論文化の作業を行っている。以上の研究によるコロナ加熱・太陽風機構の知識から、宇宙天気モデリングに必要な基礎物理に対する理解が深まった。
著者
濱口 佳之
出版者
名古屋大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

〇 研究の目的京都大学生存圏研究所のMUレーダーを利用し、外部観測装置を多地点設置することで、流星の速度ベクトルを求め、併せて電離圏の風速ベクトルを求めることを目指す。また、この研究の最終目標として、流星の速度ベクトルについては、太陽系外から来る高速流星の検出、昼間流星群の検出、小流星群の検出を目指す。電離圏の風速ベクトルについては、風速ベクトルの空間分布ら超高層大気風の立体構造の解明を目指す。〇 本科研費申請の目的多地点(2点)観測にみる流星速度ベクトルの測定についでは自作プロトタイプ観測装置(旧システムと呼ぶ)により既に実績がある。本科研費申請の目的は旧システムに新たな機能を追加し、信号処理手法を導入することにより、流星観測数の大幅アップを図り、新たに電離圏の風速ベクトルを求めることにあり、上記最終目標の確実な達成を実現することである。〇 研究成果上記、本科研費申請の目的で示した新たな機能を追加した外部観測装置(2台)の開発に成功した。ここでこの装置を「新システム」と呼ぶ。2008年8月この新システムと旧システムを並べ、流星観測を実施したところ、旧システムより薪システムの方が4倍め流星数を獲得できた。また、2008年11月、新システムをMUレーグー施設内に持ち込み、MUレーダーとレンジ、流星の検出時刻、風速データを比較したところ全てにおいて良好な一致が見られた。これらの基礎実験により、装置の確実性が確認されたので、2008年12月ふたご座流星群において、新ジステム2台をMUレーダー周辺(10km程度)の外部点に設置し、流星観測を行った。この結果、ふたご座流星群の輻射点が求まり、装置の正常性と有効性が実証された。また、風速についても各ポイントで求まっているが、外部観測点がMUレーダーに近かったことにより風速ベクトルの正確な算出には至らなかった。しかし、個々の風速測定は正しいものであり、外部観測点をMUレーダーから離すことや観測ポイントを増やすことにより、風速ベクトルの測定は実現性が高いものとなった。これらは今後の展開を目指す。
著者
内山 靖
出版者
名古屋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

薄暗い視覚環境下では、 明所と比較して姿勢調節機構が低下しており、むしろ閉眼時よりも姿勢調節の緻密さが低下していた。また、視認性が低下しているにもかかわらず、明所と類似した歩行戦略を選択していることが明らかとなった。本研究から、薄暗い環境では姿勢調節にかかわる情報処理過程が複雑であるために機能不全が顕在化しやすく、これらの点から臨床評価指標を開発することの妥当性が示唆された。
著者
水野 猛
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

情報伝達基本機構である二成分情報伝達系(以下 TCS と略)は微生物に最も普遍的な環境シグナル検知・応答機構である。しかし、永い進化を経て植物においても環境シグナル検知・応答機構として重要な生理機能の制御に関わっていることが知られている。特に、サイトカイニンやエチレンなどの植物ホルモンに応答した情報伝達系や概日時計機構に必須の役割を担っている。本研究計画ではモデル植物シロイヌナズナだけでなく、モデルマメ科植物ミヤコグサや最初の陸上植物の子孫であるヒメツリガネゴケを対象として TCS による植物の高次機能統御における役割とその分子機構を包括的に理解することを目的とした。その結果、サイトカイニンの応答機構や概日時計機構に関して多くの新しい知見を得ることができた。これらの成果は30報近く学術論文として公表した。
著者
阿草 清滋 落水 浩一郎 片山 卓也 中田 育男 佐伯 元司 鯵坂 恒夫
出版者
名古屋大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1997

阿草は、既存ソースプログラムを解析しその結果を蓄積するために、細粒度のリポジトリを開発した。CASEツール作成者は、このリポジトリを使うことにより、構文解析や依存解析などのモジュールを作成する手間を省くことができる。ソースプログラムの解析によりライブラリの典型的な利用パターンを発見した。片山は、要求仕様変更とプログラム変更の関係を代数束により形式化し、ソフトウェア発展関係の理論的基礎を与えた。ソフトウェアの段階的詳細化において各段階でプログラムテストを可能とする方式として、抽象実行に基づくソフトウェア構成法を開発した。また、オブジェクト指向開発法の形式化を試み、分析モデルの統合と分析モデルの検証法を与えた。落水は、近年のソフトウェア開発は、分散環境における共同作業であることに注目し、このような環境下でのソフトウェア開発支援のために、開発状況を保持する情報リポジトリを用いて漸進的に情報の矛盾や不確実さの解消を行うモデルを提案し、それに基づく支援環境を構築した。中田は、スライディングウィンドウを持つ計算機の命令レベルの並列化のために、ループのソフトウェアパイプライニングのレジスタ割付方式としてスパイラルグラフを提案した。また、コメントの処理などに必要とされる字句解析器の最短一致法を開発した。佐伯は、再利用プロセスの形式化をユースケースのパターン化とその構造変換規則として行った。分析パターンや設計パターンの構造をパターン化し、必要に応じてホットスポットを埋める手法を提案した。また、ソフトウェアアーキテクチャをカラーペトリネットで形式化し、非機能要求の検証を可能とした。